目が覚めたら見知らぬ天井…なんてことはなくよく知る我が家の天井が見えた。身体を起こし記憶を整理する。俺は霧雨魔理沙と弾幕ごっこをし、そして負けた…。そこは覚えている、しかしわからないことがある。何故あの時よけずに攻撃をくらってしまったのだろう。さすがに完全には避けることはできなくとも被害を少なくすることはできたはずなのに…。
全くわからない、でも微かに自身の中に残る妖怪としての幸福、それは確かに刻みこまれていた。畏れられる喜びこれがわかるときは来るのだろうか、それは俺には分からないままだ。
『蒼矢様、目が覚めたのですね』
その声のする方を見ると千秋が部屋の入口に立っていた。今が何時なのかはわからないがきっとまた心配をかけて島たのだろう、その程度はいやでもわかる。何年も過ごしていれば自然とわかってくるものだ。
「ああ、心配をかけてしまってすまないな、今は何時なんだ?」
『もう夜です、あれから三時間ほど眠っておられましたよ。颯華様は博麗神社に行ってしまいましたよ、蒼矢を任せたわよ、と一言残し霧雨様たちと共に』
そうか、と答えておく。千秋は蒼矢様も行ってきてはどうですか?というなら千秋もというと屋敷を守るものがいなくなってしまいます、なので私は留守番をしていますよ。というがなら留守番は冬摩にでもやらせればいいという。少し困ったような顔をしたが俺が続けてこれは俺を貶めた冬摩への罰だというと千秋は苦笑を浮かべ、でしたら仕方ありませんねという。
沈黙が月明りのさす部屋に漂う。外はやけに静かだ、元々現代とは違い静かなところであるから静かなのは間違いないがそれでもいつもより静かであるのは間違いないだろう。千秋は…千秋ならわかるだろうか俺が感じた妖怪としての感情を、わかるのだろうか。
「なあ、千秋…千秋は妖怪としての喜びがなんだかわかるか?」
千秋は少し困った様になったがそうですね、と考えるそぶりを見せて、言葉をつづけた。
『私にはそんなものを味わう時間はあまりありませんでしたから、蒼矢様の望むような答えは得られないかもしれませんが、人から…恐れられたときはとても生きているなと感じられたものです。妖怪は恐れられることが存在意義ともいえます、人からの感情を感じることで何よりも幸福に感じることが出来ます。向けられた感情は何であれとにかく認識してもらえたと感じられたんですよね』
千秋の言っていることは妖怪を表しているなと感じた。人からの感情…あの時確かに魔理沙からの向けられた感情それを感じて確かにうれしいと感じた、生きていると感じられた。そういっても差支えはないだろう。だからそのあと気になっているもう一つの疑問も聞いてみる。
「もし、もし仮にそんな感情を向けられた人間と戦って満足のいく相手に倒されるとして、妖怪はそれをおとなしく受け入れるものなのか?」
『すべてがそうとは言えません。ですがそういった者がいるのもまた事実ですよ、鬼などが特に顕著でしょう?』
確かに鬼と言われたら人間との
私は出かける準備がありますので。といい千秋は部屋から出て行った。残されたのは俺一人。
そろそろ出かける準備を俺もするか、若干身体のあちこちが痛むがその程度は抑え込んで布団から出る。服は寝間着になっていたのでいつも来ている外に出る様の服に着替える。
玄関に行くと頬を赤く染めた姉のふらつく姿が見えた。何故ここにいるのか?どうしてふらついているのかは近づいてすぐに気づく。もしや、心配してくれたのか…なんてそんな淡いを通り越してもはや絶望とも言えるであろう期待は予想を裏切らず。きっかりと現実を突きつけた。
頬を染めて、ふらついているのは酔っているからで既にだいぶ出来上がっていた。姉さんは先に宴会場である博麗神社に向かったはずなのに何故ここにいるのか…それは視界の先にある空間の裂け目のようなものが答えてくれた。姉さんはふらふらとしているが自身が今どこにいるのか気づいているのだろうか。明らかに気づいてはいないだろう、なにせ杯を片手に────魔理沙〜何処に逃げた〜わたしの飯をもってこーい!などと言っているのだから。まあまだ呂律が回っているだけましなのだろう。
倒れそうになる姉さんを支え、どうも、と礼を言われる。そして数秒後俺に気がついたのか────あれれ〜?なんでそうやがここにいるの〜?と小首をかしげている。多分年頃の男であれば少なからず意識するであろうその仕草は弟である俺からしたら少し不安に思う。普段は…いや、普段もだらしがなくぐーたら姫の姉さんであるがやる時はしっかりしてくれるし心配はしていない…しかし、こういった時などふとした時に限って本当に姉なのだろうかと疑いかける時もある。
酒の所為にしてしまえばそれっきりだから気にはしないだが日常からたまに不安になる時がある。本人は気がついていないものののそのギャップは激しい。二重人格ではないか?と疑う事もある。とりあえず姉さんが家に帰ってきた理由を聞く。多分何か忘れ物だろうと推測するも酔っている姉さんの考えていることは聞かない限りわからない。
「姉さんはどうしてここへ?何か忘れ物でもあったの?」
────忘れ物〜?とまたしても小首をかしげる姉。しばらくウンウンと唸る様にしてから思い出したのかいきなり顔を上げ言葉を続けた。
『そうそう、そうやをね迎えに来たの〜』
────全くお姉ちゃんを心配させるなんてダメな弟ね〜。早く宴会場に戻って春夏冬の一族に相応しい風格を持ってして幻想郷を制服するのよーー。とちょっと訳の分からない理由だが俺を心配していてくれたのは本当の様で穏やかな眼差しを俺に向けてくる。
「わかったよ姉さん。今千秋も来るからそうしたら宴会場に戻ろう」
これで一章幻想の始まりが終わり、二章へと移ります。二章は