幻想神刀想〜その刀、神に至りし者〜   作:梛木ユー

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第一章 幻想の始まり
【始符】プロローグ


    幻想郷…そこは、幻想が生きる世界。存在を否定され忘れ去られた者達の理想郷…。

  神や妖や妖精に人間が共存する世界。そんな幻想郷にまたひとつ新たな幻想が幻想入りを果たす。

 

 

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  朝早くに人里から少し離れた位置に一つの屋敷が出現した。奥ゆかしい雰囲気の和風の屋敷だ。広さは、そこまでないだろうあるのは道場らしきものと蔵と家主が生活するであろう母屋だけだ。庭には見事な枯山水があり手入れが行き届いているようだ。

 

 

  その屋敷には人間はいない、正しくは半妖が二人と妖怪が複数だ。

 半妖のふたりは、姉弟のようで歳は二十代前半と十代後半のようだ。

 

 

 

 

  姉は、背中の腰に届くか届かないか位の長い白髪のストレートヘアで身長は百五十センチ程度、スタイルはよくまだ少女と言っても通じる程幼さがのこる。一言でいうなら、出るとこは出ていて平均的と言った所だろう。若干出ている部分は平均を越しているようだがきっと気の所為だろう。

  姉の雰囲気は、優しく人に慕われるような雰囲気を纏っている。

  弟は、姉と同じく白髪の長髪を後ろで結っている。姉と同じく幼さが見られる、優男というやつだ。身長は姉よりも高くその年齢の平均程度の身長である。

 

 

 

 

 

 

  幻想郷の管理者、八雲紫は二人の姉弟をそう評価した。

  他にも付近にいくつかの気配を感じているが敵意はないようなので無視をする。突然結界に亀裂が入ったかと思えばいきなり入って来るのだから、全くとんだ化け物が来たこと…でも…

 ……これは面白くなりそうね…

  八雲紫は、新しく幻想郷の住人となる者達が起こすであろう異変(へんか)に期待していた。

 

 

 

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  四季亭の主であり春夏冬流の十九代目の当主、春夏冬(あきなし)颯華(そうか)は、()を読む程度の能力という春夏冬流の当主のみが扱える能力を持つ。

 

  銘を読む程度の能力とは、春夏冬家に伝わる妖刀アキナシを始めとして、春夏冬を名乗り始めた初代当主にして刀鍛冶師春夏冬(あきなし)村正(むらまさ)が造り出した刀や西洋の刀に秘められた力を扱う程度の能力、最も刀に限らず村正が()を与えたものなら何でもいい。例えばそこらへんの妖怪に村正が銘を与えれば銘を読む程度の能力が使える者ならその妖怪の能力を使うことが出来る。

 

 

 俺の姉、春夏冬颯華(あきなしそうか)は幼い時から天才の()を欲しいままにしてきた。剣の腕前はさることながら能力の扱いも完璧だった。七歳になり能力を扱う訓練を始めて八歳になるころにはほぼマスターしていた。弟である俺はせめて剣の腕前だけは負けるまいと思い必死に剣の鍛錬を繰り返した。だが、姉に勝つことはできなかった。俺が十歳になったその年から毎月一回決闘を挑み続けても十六歳になるまでの、あの日までの六年間一度も勝つことはなかった。

 

 

 

 俺たちの家、四季亭は当主である姉の提案の下、幻想郷という場所に行くことになった。移り住む一族以外は一応現代とのパイプ役としても必要な為残してきている。何故、現代からわざわざ移り住むのかというと段々と生きづらくなってきているから、今時、剣道ではなく実戦用の剣術があること自体珍しいだろう。もちろん剣道も表向きの為指南することはできるし春夏冬家では男女問わず必ず習う。

 

 

 そういった理由の為幻想郷に移り住むのだと、姉は言っていた。移り住むのは本家の者である姉と俺そして家の管理の為の従者として幾人かのみ。残りは現代でパイプ役として残る。幻想郷に行くといった姉はそこへの行き方をその時こう説明した。

 「いい?蒼矢、作戦はこうよ。まず幻想郷へは陸路でも空路でも海路でも行くことはできない。なんでも妖怪の賢者が幻と実体の境界を張って幻想郷を幻の世界にしてしっまったから人間が簡単にはいけなくなってしまったらしいのさらに百数十年ほど前に常識と非常識を分ける結界(博麗大結界)というものを張ってしまったの。その結界はこちらの世界の常識を幻想郷では非常識に、こちらの世界の非常識を幻想郷の常識にする結界を張ったのよ、最もこの世界での本物(・・)の剣術なんてのは実質非常識もいいところだから向こうに行くのは簡単よ。

  ここからが本題なのだけど、屋敷ごと移住するつもりなのだけれど結界と境界を越えるときは私がこの刀の力で二つとも切れ込みを入れて侵入するのだけど、そのあとがどうなるかわからないのよね。だからもしもの時は頼んだわよ」

 

 

 

 で、うまく侵入したはいいけどどうするつもりなのだろう我が姉は。目の前にはうちの料理長より明らかに上な妖力を持った大妖怪、多分こいつが妖怪の賢者なのだろう、と言ってもただの勘でしかないが。

 いきなり現れたかと思ったら人を観察してだんまりだ。せめて挨拶の一つくらいしてもらえないものだろうか。

 なんてことを思っていたら、我が姉は微かに笑い、そして倒れた。

 

 

 「あー、疲れた。蒼矢疲れたから、後の事宜しく私は寝るから」

 そう一言残すと、スー、スーと寝息をたて始めた。

 すると、大妖怪は一瞬呆けた顔をして扇子で口元を隠し笑い始めた。正直にいって恥ずかしい、先程まで一触即発な空気さえしていたのに今の姉の行動により先程よりだいぶましな空気になった。

 これが計算した行動だとしたら、とてもじゃないが博打もいいとこである。

 

 

 仕方ないので今も機嫌がいいのかわからないがにこやかな表情だと思われる妖怪の賢者の相手をする。

 「姉が目覚めるまでこのままというわけにもいかないでしょうし、お茶でもいかがですか?」

 正直、妖怪の賢者の相手はしたくないがそういうわけにもいかないのでお茶でも出して待たないか?と誘ってみる。

 しかし、妖怪の賢者は扇子で口元を隠したまま、こちらをみて。

 『いえ、お誘いはありがたいのだけど急用ができたからお暇させてもらうわ。後で私の式にこの世界のルールの説明に来させるからそこで寝ているお姉さんの面倒見てあげて、それでは』

 そういうと、空間に謎の割れ目を作りその中に入って行ってしまった。

 

 

 

 

 「あーあ、帰っちゃった。せっかく妖怪の賢者用の部屋用意したのに、蒼矢がうまく引き止めないから無駄になっちゃったじゃない」

 「姉さん起きてたんだ…。てっきり寝たのかと」

 「なに言っているのよ、あの程度で疲れるわけないじゃない。全部芝居よ、芝居。最もあいつは気づいていたようだけど」

 し、芝居?じゃあもしかして妖怪の賢者もそれがわかっていて帰ったというのか、というかなんだよ妖怪の賢者用の部屋って、いくつかの疑問が残るが姉さんは話はそこまでという風に部屋から出て行った。

 俺は今後起こるであろう幻想郷での生活に不安を抱きつつ自身の部屋に向かった。

 

 

 


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