【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第7話 ID: Reincarnate Pass:**********

深夜。昼間は人の波が耐えることのなかった渋谷のオフィス街にも静けさが降り、

林立するビルも闇に包まれ、チラホラと明かりが見えるだけとなる。

老いたそのホームレスは渋谷の道端にダンボールを敷き、

ボロボロの毛布に身を包んで、吹き付ける風の寒さに耐えていた。

すると、静寂を破るようなやかましい若者達の声が近づいてきた。

 

「つーかさあ!今日の朝会マジ眠かったんだけど!」

 

「話つまんねえんだよ、あいつ!」

 

「あたしあの部長生理的に無理だわ!マジキモイ」

 

飲み会か何かで酔っているのだろう。

大声で談笑しながらスーツ姿の3人の男女が男に近づいてきた。

そして一人が男の前で立ち止まった。

 

「おっとホームレスはっけーん!……ってマジ臭え!公園で体拭けよ汚えな」

 

「本当、こうなったら人生終わりだな。なんていうか、ゴミ?

こうなっても生きてるんだからホームレスって不思議だわマジ。俺なら自殺モンだわ」

 

ホームレスの男は何も言わずにただうつむいている。

 

「ほら、おっさん。なんか言えよ。なんでお前生きてんの?

俺達の税金で整備した道で寝泊まりさせてやってんだ。

ほら、感謝の言葉は。ん?」

 

「ハハ、ビビってんだよ。負け組乞食と俺達勝ち組エリートの差ってやつ?

見てろ、絶対何もしてこねえから。ほらよ!」

 

スーツの男がホームレスの前に置かれていた缶を蹴飛ばした。

僅かに投げ入れられた小銭が道路に散らばる。

 

「……」

 

「ほら、なんもしてこねえだろ。身の程ってもんはわかってるらしいぜ」

 

「アハハ、やめたげなよ、おっさんが稼いだお恵みなんだからさあ」

 

「……」

 

「おい、てめえいい加減なんか言えよ。シカトこいてんじゃねえぞ!」

 

男は身勝手な苛立ちを覚え、ホームレスの胸ぐらを掴んだ。

 

「乞食の分際で一般人への礼儀がなってねえんだよ!!」

 

そして男はホームレスを殴り飛ばした。

歩道に叩きつけられたホームレスはしばらく動けなかった。

 

「ちょっと、よせよ……。パクられたら出世に響くぜ」

 

「あ、あたし知らないからね。あんたが勝手にやったんだから。」

 

「警察もこんなゴミ相手にしねえよ!ああ、もう行こうぜ!

酔い覚ましにラーメン食いてえ」

 

「あ、俺も」

 

「あたしパス。太るのやだし」

 

3人組は去っていった。

ホームレスはゆっくりと体を起こすと、散らばった硬貨を拾い出した。

 

──確かにお前の人生は、間もなく結末を迎えることになるだろう

 

「!?」

 

振り向くと、コート姿の長身の男が気配もなくホームレスの後ろに立っていた。

 

「だが、最期にもう一度だけ輝くチャンスを与えられる。お前にその気があるのなら」

 

男はコートから不死鳥のエンブレムが施されたケースを取り出した。

 

「さあ、このまま行き倒れ朽ち果てるか、戦いの果てに散りゆくか。

お前の望む最期を選べ」

 

「……!!」

 

ホームレスは縋るように震える指でカードデッキを受け取った。

 

 

 

 

 

「さっきのジジイ傑作だったな!」

 

「あれはもうやめとけよ。誰かがサツにチクったらやばかったぞ」

 

「最初にジジイ挑発したのは誰だっけ?」

 

「なんでもいいわよ、あたしは巻き込まないでよね」

 

「うるせえな。文句あるなら一人で……ん?」

 

スーツの3人組は路地裏の屋台に向かいながら話していたが、

前方に妙な人影を見て思わず立ち止まった。何かの着ぐるみだろうか。

全体的に金色の翼をモチーフにした衣装を纏い、奇妙な装備を身に着けた人物が

両腕を上下に置きながら行く手を塞いでいる。

 

「おい、どけ。邪魔だよ」

 

「……」

 

「どけっつってんだよ!ふざけた格好しやがってぶっ殺……」

 

グォン!

 

「がぺっ!!」

 

男は最後まで話すことができなかった。突然金色の人影から

人間離れした威力の裏拳を喰らい、顎と全ての歯を粉砕されたからだ。

 

「あああがあっ!あが!おえのはがぁ!」

 

砕けた歯や血を吐き出しながら、激痛に転げ回り、のたうち回る男。

それを見たもう一人の男の頭に血が上る。

 

「……おい明美、これ正当防衛だよな、殺しても文句ねえよなぁ?」

 

「え、あ、うん。多分……」

 

「おいコラ、舐めた真似してくれたじゃねえか!ああん!?」

 

「……」

 

「何とか言えや!……あぁ、さてはてめえ、さっきのジジイだな?

手足ぶち折ってふざけたマスクに指突っ込んで目ン玉潰してやるよ!」

 

どう痛めつけてやろう、まずは顎を砕いてあいつと同じになってもらおうか!

男はボクシング部で鍛えた拳を謎の人物に放った。

全国大会出場経験のある男のパンチが相手の顔面に飛ぶ。

重く、早い拳が相手の顔面を捉えた。

 

そう思った。しかし、命中する寸前に男の拳は、

乾いた音と共に謎の人物の手のひらに受け止められた。なんだと!?

こいつ、あのジジイじゃないのか?男はもう一撃繰り出そうと右手を戻そうとするが、

万力に挟まれたかのような力で掴まれ、全く動かすことができない。そして次の瞬間、

 

ぐしゃり……

 

掴まれた拳は完全に握りつぶされた。五本の指はめちゃくちゃな方向に折れ曲がり、

手の甲も完全に砕かれ、骨折した部分から骨が飛び出し血があふれる。

傷が癒えてもまともに物を握れなくなった手をかばいながら男が泣き喚く。

 

「いぎゃあああ!だえが!だれがきゅうきゅうしゃ呼んで!けいさつの人呼んで!

いだいい!!ますい打ってえぇ!!いでえよおぉ!」

 

「……い、いや!」

 

血みどろの惨劇に恐れをなした女が後ろに逃げ出す。

が、反対方向にいたはずの謎の男が目の前に立ちふさがった。

男が瞬間移動した跡に金色の羽根が舞う。男は左手で女の顔を掴んだ。

女は恐怖に震えながら涙を流す。

 

「や、やめてください……」

 

そして、男は右腕を上げ、人差指と中指を立てた。

 

「お願いします……」

 

それが、彼女が最後に見た光景だった。

気づいた時には二本の指が女の目に突き刺さっていた。

 

「……あ、あ……いったああああい!!だれかぁ!だれか来てぇ!!」

 

激痛と光を奪われた恐怖に女は逃げるように這い回る。

そして金色の人物は、勝ち組から転落した3人を眼下に、翼のように両腕を広げた。

その堂々たる姿はまさに不死鳥の名に相応しかった。

 

「既にライダーシステムを使いこなしているな。

お前を選んだのは間違いではなかったようだ」

 

「……」

 

ホームレスから黄金の戦士に生まれ変わった男の姿を神崎が見つめていた。

 

「今までのお前は死に、オーディンとして蘇った。

これからは、ライダーバトルを司る存在、仮面ライダーオーディンとして生きろ」

 

「……心得た」

 

虐げられし者が天高く羽ばたき、最強のライダーが誕生した瞬間だった。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府 執務室

 

 

城戸鎮守府を北岡が訪ねてきた。

お互いの情報交換も兼ねて真司が蓮にも声をかけ、こうして提督3人の会合となった。

さすがに3人も長門がいてはややこしいので、同席しているのは、

城戸鎮守府の長門と真司の秘書艦三日月だけだ。

 

「……ともあれ、結局イカロスは落っこちる運命だったってわけよ。

で、こっからが肝心。そんな激闘の後でくたびれてる俺を、

飛鷹が執務室に軟禁して説教だよ。2時間も。信じられる?

本当、普段から口うるさいのに、怒ったら尚更”コレ”なんだから、

やんなっちゃうよ」

 

北岡は頭の上で両手の人差し指を立ててみせると、

話が一段落したところでテーブルの器に盛られた柿ピーを口に放り込んだ。

長門と三日月は腑に落ちない様子で皆を眺めている。

 

「悪徳弁護士は物事の優先順位も付けられんのか。

裏組織の軍隊がここを嗅ぎつけた話はともかく、

お前が秘書の尻に敷かれてることのどこが“肝心”だ」

 

そして蓮がチーズ鱈を1本かじる。

 

何故だろうな。

何故でしょう……

 

「とにかく、そいつの話が本当なら、俺達、今2013年にいるってことですよね。

せめてここから現実世界を覗き見する方法とかないかなぁ……」

 

真司は酸っぱい匂いが食欲をそそる酢漬けイカを裂く。

 

会話の内容は真面目なのに、どうして3人は、おつまみばかり食べているんだ?

ビールもありませんのにね。昼間から飲まれても困りますけど。

 

そんな彼らが酒なし宴会を開いていると、外から声が聞こえてきた。

 

 

“提督、待ってください!アポなしでの訪問は失礼に……”

 

“うるせえ……!!”

 

 

北岡はひとつため息を付くと、手に残った柿ピーを吸い込み、

ボリボリ噛みながら窓辺に立った、蓮と真司も外を見る。

浅倉が、止めようとする足柄を無視して洋館に近づいてくる。

 

「神崎士郎も人が悪いよ。大和から聞いた”もう一人”があいつだったなんてね」

 

「鎮守府の頭に提督名が付くようになった時点で気づけ」

 

「あいにく俺はお前と違って忙しいんだよ。細々としたことは秘書に任せてる」

 

「言ってる場合かよ!どうすんだよ。……戦うんですか?」

 

「駄目でふ、ライダーバトルなんて!どっちが勝っても提督が!」

 

チーズ鱈をつまみ食いしていた三日月が北岡を止める。

 

「ここにいたってそのうち来るさ。俺も負けるつもりはないし。

向こうがその気ならやるだけだよ」

 

そして北岡は二本指でサインを送り、執務室から出ていった。

 

「一人でどうするつもりだあいつ!」

「待てよ蓮!俺も行く!」

「私も行きます!威嚇射撃程度なら!」

 

「うむ、私も行こう!」

 

他のメンバーも次々出ていき、

最後に残った長門も、裂きイカをひょいと一口つまんで階段へ向かった。

 

“北岡ァ!”

 

“頭突きをしないでください!ドアノブを回せば開きますから!”

 

1階に降りた一同が見たのは、今にも破られそうなほど

激しく揺さぶられている玄関扉だった。そして浅倉が足柄の静止を受けた一瞬後、

ドアノブが回ると、一人の艦娘と満面の笑みを浮かべた浅倉が姿を表した。

彼がずかずかと中に入ってくる。

 

「ハッ……!会いたかったぜ北岡ァ!!」

 

「お前も懲りないやつだね。まぁいいさ。ミラーワールドに法律はないし?

俺が死刑を執行してやるよ」

 

「面白え……。表に出ろよ」

 

「いけません、北岡提督!お下がりください!

浅倉提督もこれ以上の暴挙はご遠慮頂きたい!」

 

「いいよ、長門さん。こいつとはちょっとした因縁があってね。

俺が始末しなきゃ後味悪いっていうか」

 

「因縁……?なぜ浅倉提督が北岡提督の命を狙うのです!?」

 

「俺が外の世界じゃ弁護士だってこと、話したかな?

奴が逮捕された時、俺が弁護を担当したんだよね」

 

 

 

“懲役10年。まあまあ納得できる判決だと思うよ。

俺としてもギャラの範囲内で全力は尽くしたし”

 

“無罪にできる弁護士じゃなかったのか”

 

“程度ってもんがあるわけよ。

ここまで減刑させるだけでも、強引な手使わなきゃいけなかったし?

大体さ……動機がイライラしたから?通用しないよそんなの”

 

浅倉は二本の指で北岡を手招く。北岡が顔を近づけると浅倉が呟いた。

 

“今もイラついてる、無罪にできない役立たずに”

 

二人の間に緊張した空気が走る。呆れた北岡が鞄を閉じて立ち上がる。

 

“弁護するにもさ、相性ってもんがあるんだよね。

浅倉さん、悪いけどあんたとは合わないわ。

控訴するんなら、他の弁護士雇ってよ。じゃあね”

 

 

 

「まぁ、その後荒れに荒れてたらしいよ。

ともかく、浅倉は自分を無罪にしなかった俺を恨んでるわけ。

色んな所に手ぇ回して頑張ったっていうのに……。っていうかあいつ、

俺のギャラどうやって工面したんだろう」

 

「そんな……。それでは完全に逆恨みではないですか!」

 

「それが犯罪者の思考ってやつよ。じゃあ、ちょっと行ってくるから」

 

「ああ、待ってよ北岡さん!」

 

「真司さん、二人を止めてください!」

 

「わかってる!」

 

真司と三日月が北岡と浅倉を追いかける。

 

「あの馬鹿、放っておけばいいものを。……いや」

 

そして蓮も彼らに続いた。

 

 

 

 

 

場所を洋館前の広場に移し、4人のライダーが集まった。

皆、洋館の窓ガラスの前に立ち、カードデッキを取り出す。

いけない!もう力づくで止めなきゃ!

足柄が後ろからこっそり浅倉に近づき、一瞬で彼に飛び掛かり、羽交い締めにした。

浅倉は激しくもがくが、やはり重巡洋艦の力で押さえつけられ、逃げられない。

 

「お前……。何の真似だ!」

 

「もうおやめください!提督の暴走を止めるのが私の役目、

このまま鎮守府にお戻り頂きます!

それとも力で敵わないときだけ便利に提督権限を使われるのですか!?」

 

「フッ、面白いやつだな、お前。お前もライダーだったらよかったのに……なっ!」

 

浅倉はすっと腰を深く落とし、彼女の服を掴み、

上半身を目一杯使って足柄を背負い投げした。

 

「きゃああ!!」

 

突然視界が一回転した足柄は、驚いて思わず腕を離してしまう。

彼女は前方に放り出され、倒れ込む。

その隙に浅倉は、蛇のエンブレムが施されたカードデッキを

彼の姿が映り込む窓ガラスにかざす。すると、鏡像と現実の浅倉の腰にベルトが現れた。

そして、右腕をゆっくりと、そして素早く、コブラの捕食行動のように動かすと、

 

「変身!」

 

ベルトにデッキを装填。浅倉の身体に光るライダーの輪郭が重なり、

パープルで統一されたアーマーを装備した仮面ライダー王蛇が現れた。

 

「ふぅ……」

 

そして首を回してコキコキと鳴らす。他の3人も次々と変身する。

 

「変身っ」「変身!」「変、身!」

 

そして、各々SHOOT VENT、SWORD VENTで武器を召喚。

 

「っしゃあ!……って装備したのはいいけど、どうすりゃいいんだよ、これ!」

 

龍騎が迷っている間にも、ゾルダと王蛇が戦闘を始めてしまった。

ゾルダはマグナバイザーを連射するが、王蛇は螺旋状の筋が入った剣、

ベノサーベルで弾き返し、巧みに身体を反らして回避する。

そしてあっという間に接近し、ゾルダに一太刀浴びせた。

 

「があっ!」

 

後ろに倒れるゾルダ。すかさず王蛇が追撃、

今度は尖った剣先を突き刺そうとベノサーベルを下に向ける。

だが、ゾルダも倒れたまま、またマグナバイザーを撃つ。

思わず王蛇が後退した隙にカードを1枚ドロー。マグナバイザーにリロード。

 

『SHOOT VENT』

 

2種類あるSHOOT VENTの2つ目が発動。

ゾルダの両肩に連装ビーム砲が出現。

やっぱり手が塞がらない分、こっちが便利だよね。さぁ、銃殺刑と行きますか。

ゾルダがビーム砲を連発。強力なエネルギーが着弾した地点で爆発が起こる。

その後も次々と連射するが王蛇もダッシュで回避する。

王蛇は走りながらカードをドロー。コブラを模した杖、ベノバイザーに装填した。

 

「……便利なカードは、最後に取っとけ」

 

『STEAL VENT』

 

カードが発動すると、ゾルダのビーム砲が身体を離れ、王蛇の方へ飛んでいった。

 

「お、おいちょっと、どこ行くの!?」

 

そしてビーム砲は王蛇の肩に。

相手の装備を盗むSTEAL VENTで強力な武器を奪われ、いきなり劣勢に立たされたゾルダ。

 

「でかいピストルは……、嫌いじゃねえ」

 

今度は王蛇がゾルダを狙い撃つ。

ゾルダもジグザクに走って回避するが打開策が見つからない。

もうひとつのSHOOT VENTは、でかくて両手が塞がるから持ちながら避けるのは無理。

FINAL VENT?発動を待ってる間に木っ端微塵だ!

 

ゾルダが考える間にも、王蛇は回避パターンを読み、

ビーム砲で着実にゾルダを追い詰めていく。

そして、左肩の砲で牽制し、ゾルダが横に回転ジャンプして地面で転がったところを、

右肩で狙撃。ゾルダの胴に着弾した。

 

「ぐあああっ!ああ……」

 

「フン……」

 

致命傷には至らなかったものの、衝撃で動けないゾルダに王蛇が忍び寄る。

そう、獲物を狙う蛇のように。

 

「北岡さぁん!!」

 

龍騎もドラグセイバーを片手に呼びかけるが、返事がない。

やっぱり……、やるしかないのか、浅倉を!!

その時、龍騎は不意に殺気を感じて思わず剣を横に構えて身をかばった。

刀身が鋭い音を立て、一瞬の差で反射的に受け止めた。ナイトのウイングランサーだった。

 

「なんだよ……。どういうつもりだよ蓮!」

 

「……いい機会だ、俺と戦え。俺達がここに来た理由を忘れたのか」

 

「ふざけんなよ!俺はライダーバトルを止めるために来たんだ!」

 

「まだそんなことを言っているのか。戦わなければ遠からずお前が死ぬ」

 

ナイトはカードを1枚ドロー。ダークバイザーに装填した。

 

『TRICK VENT』

 

カード発動と同時に、4体の分身が現れ、攻撃を開始した。

 

「くそっ、たあっ!」

 

龍騎は分身に向け斬撃を繰り出すが、四方八方からの攻撃に追いつかず、

圧倒的不利な状況に追い込まれる。

 

「真司さん!!」

 

叫ぶ三日月。だが、提督同士の戦いに左手の砲も横槍を入れることができない。

 

「くそおおお!なんでこうなるんだよ、せっかくのチャンスなのに!

新しい世界に来たのに!」

 

幾度も刺突を受ける真司の叫びが三日月の胸を打つ。

 

私は……、私は真司さんのために何もできないの?

ただのちっぽけな駆逐艦でしかないの……?

 

しかし、戦いを見ていることしかできなかった三日月があることに気がついた。

せめて、せめて、あの分身なら!よく見ると、5体のナイトのうち、

どこか動きが単調な個体が見られる。そいつが分身と考えて間違いないだろう。

提督は無理でも、分身体なら……!三日月は12cm単装砲を構える。

 

龍騎を取り囲み、ジリジリと距離を詰める5体のナイト。

直撃はさせずに、あの不自然な2体付近で!彼女は艤装に砲弾を装填。

そして照準を合わせる。

 

「当たって!!」

 

燃える砲弾が、分身と思しきナイトの足元に着弾。爆発し、強い衝撃を叩きつけた。

吹き飛ばされた2体のナイトは立ち上がることなく、空間に溶け込み、消えていった。

やっぱり!よく考えたら、提督が相手ならそもそも撃てないもん!

 

「サンキュー、三日月ちゃん!」

 

ナイト達に警戒しつつ、親指を立てる龍騎。

 

「……まあいい。ライダーバトルにルールはない」

 

だが本体のナイトは平静さを欠くことなく、攻撃を続ける。

龍騎もそれをドラグセイバーで受け流し、カードをドロー。ドラグバイザーに装填。

 

『GUARD VENT』

 

龍騎の左手に、ドラグレッダーの爪と腹を象った盾が現れた。

おし、これで防御もバッチリ!あとはこいつで……

 

「うおおおお!」

 

龍騎は、盾を手に、渾身の力でナイト本体に体当りした。

 

「くっ!」

 

思わぬ突進に、バランスを崩し、動きが止まるナイト。

 

「三日月ちゃん、こいつ以外をお願い!」

 

「わかりました!……ええいっ!!」

 

今度は迷いなく、直撃させた。三日月の放った砲弾を食らった分身が消滅する。

分身を全て失ったナイトだが、それでも果敢に攻め続ける。

龍騎はそれを盾で受け止めながら説得を続ける。

 

「よせ、蓮!何のためにこんな戦い始めちまったんだよ!」

 

「話した所で何になる!」

 

ナイトは龍騎を蹴飛ばし距離を取る、そして改めてウィングランサーを構えた。

だが、その時。

 

 

「そこまでだ」

 

 

どこからかコート姿の男が港の方角から歩いてきた。

 

「神崎……!!」

 

龍騎の言葉に艦娘達は驚きを隠せない。

この戦いを仕組んだ張本人が突然現れたのだから。

 

「貴様が……、神崎士郎か!」

「あ、あなたが、真司さん達にライダーバトルを……」

「提督方を送り込んでいるのは、貴方!?」

 

「ならば……。イレギュラーが現れだした原因も、貴様かぁ!!」

 

神崎は黙って広場へと歩き続ける。

長門は艤装を身に着け、機銃を放つが、弾丸は神崎の身体をすり抜ける。

 

「何っ!」

 

「俺に実体はない。このライダーバトルは一旦中止だ。紹介すべき人物がいる。

部外者の介入もあった」

 

「なんだよ……もう少しで北岡殺せんだよ。邪魔すんじゃねえ!」

 

王蛇も無駄だろうが何だろうが神崎に両肩のビーム砲を放つ。

やはりエネルギーは神崎をすり抜け、明後日の方向で爆発する。

 

「浅倉、お前はこの戦いを楽しんでいるか」

 

「当たり前だ……。どこでこんな派手な殺し合いができる」

 

「ならば、なおさら“彼”は知っておくべきだ」

 

「ほう、もっとライダーが増えるってのか?」

 

激情にかられていた浅倉が話を聞く体制に入った。皆も話に聞き入っている。

 

「そうだ。ライダーバトルの審判者が誕生した。

お前達が最後に勝ち残った時、勝者たる資格を戦いで問う者だ」

 

「審判者だと?」

 

 

 

Login No.013 ?

 

 

 

蓮が問うと、上空に眩いばかりの光を放つ人影が現れ、ゆっくりと降りてきた。

その光に思わず目をかばう一同。そして光が止むと、

そこには黄金のライダーらしき人物が、両腕を上下に乗せて立っていた。

 

「だ、誰だよお前!」

 

「彼は仮面ライダーオーディン。当然その戦闘能力は、お前達の想像を遥かに凌駕する。

ライダーバトルでぶつかり合い、技を磨き、力を蓄え、彼との戦いに備えろ」

 

 

「ふざけないでください!」

 

 

その時、三日月が力の限り叫んだ。

 

「提督方に殺し合いをさせて、何が楽しいんですか!もうやめてください、こんなこと!

真司さんも、他の提督方も、傷つくところなんてもう見たくないんです!」

 

「三日月ちゃん……」

 

「俺はライダーの宿命に従っているだけだ。

それに、ライダーバトルに参加したのは、他ならぬライダー自身の意思だ」

 

「……その通り」

 

神崎に続いて、初めてオーディンが口を開いた。厳かな口調で語り始める。

 

「戦いを続けろ。生き残った者は、私と戦い、力を得られるだろう。

13人目である、この私と」

 

「ふん、何人目だろうと知った事か。もったいぶらずに今戦えよ」

 

王蛇がオーディンに斬りかかる。だが、剣を振り下ろした瞬間、その姿が消えた。

驚いて視線を走らせる王蛇。

そして、振り返ると同時に、瞬間移動したオーディンに拳を食らった。

これまでのライダーを遥かに上回る威力に吹っ飛ばされる王蛇。

 

「ぐふっ!……面白えじゃねえか。今までの戦いで一番満たされそうだ……」

 

王蛇はビーム砲を放ち、またも斬りかかるが、瞬間移動でことごとく避けられる。

そして、オーディンが移動したあとには黄金の羽根が舞い散る。

その羽根の向こう側にいるオーディンに駆け出す王蛇だが、その羽根に触れたとき、

全ての羽根が小爆発を起こし、再び王蛇を地面に叩きつけた。

 

「がっ……あ……!」

 

圧倒的戦力差。他のライダーも艦娘も黙って見守るしかなかった。

 

「私と戦いたくば、勝利しろ。ライダーバトルの、頂点に立て」

 

「用は済んだ。行くぞオーディン」

 

神崎はオーディンを従えて海へ向かって歩き出した。だが。

 

「待て!!」

 

長門がオーディンを呼び止める。

 

「お前がライダーバトルの審判者なら、お前さえいなければ、提督達は!!」

 

彼女はオーディンに41cm連装砲を向ける。

 

オーディンは黙って左手を前に突き出す。

すると、宙から一本の鳳凰を象った錫杖が回転しながら現れた。

オーディンはカードを1枚ドロー。錫杖のスロットに装填し、カバーを押し上げた。

 

『GUARD VENT』

 

「全員、耳を閉じて地面に伏せろぉ!!」

 

大砲としては最強クラスの41cm砲が吠えた。

凄まじい轟音と熱風が辺りに吹き付け、真っ赤に焼けた鋼鉄の牙が

オーディンに襲いかかり、着弾。そして爆発。やったか!?

しかし……無傷。オーディンはGUARD VENTで呼び出したゴルトシールドで身を守り、

ただそこに立っていた。

 

「41cmの直撃で……無傷だと?」

 

打ちのめされる長門。

 

「……ライダーでないお前にバトルに参加する資格はない」

 

オーディンは踵を返すと、神崎の後を追っていった。二人は、海岸に立つと、

水面に吸い込まれていった。誰もが、その場から動くことができなかった。

 

 

 

 

 

城戸鎮守府 医務室

 

 

その後、重傷だった北岡と浅倉を手当てしたが、二人を同室に寝かせるのは危険なので、

浅倉は3階の客室に運び込んだ。だが、結局浅倉は一眠りすると、傷も治らないまま、

足柄とともに自分の鎮守府に戻っていった。残ったのは北岡と蓮だけということになる。

 

「あたたた……。浅倉の奴、汚い手使って。あれ窃盗罪だよ、窃盗罪!」

 

「北岡さん!目、覚めたんですか」

 

北岡は軽く周りを見回し、ここが医務室だと推測する。

 

「おかげさんでね。まぁ、これは借りにしとくよ。食い逃げで捕まったら俺に言いなよ。

罰金で済むようにしたげるからさ」

 

「しませんよ、そんなこと!……まぁ、無事だったのはいいけど」

 

「だからお前は甘いんだ。いずれ倒す奴を気遣ってどうする」

 

ベッドに座った蓮が話しかけてきた。

 

「蓮……、お前もどういうつもりだよ!一緒になってメチャクチャして!」

 

真司は蓮に食って掛かる。

 

「あれが、ライダーバトルなんですね……」

 

三日月がぽつりとつぶやいた。

 

「あのオーディンという者……、尋常な強さではなかった。

私の41cm砲を食らって無傷だと!?

……提督、本当にあんな化け物と戦うつもりなのか?」

 

「誰もそうならなくて済むように戦ってる。俺は」

 

「そ、そうです。皆さんやめましょうよ、こんなこと!

みんなで傷つけ合うことになんの意味があるっていうんですか!

ミラーモンスターの契約はなんとか方法を考えて……。あ、私達も戦います!

ねぇ、そうしましょうよ!」

 

三日月が訴える中、蓮が退室しようとする。彼は去り際に彼女に言った。

 

「三日月、だったな。もしライダーバトルを止めたら死ぬものがいる、としたらどうするべきなのか。

考えておいたほうがいい」

 

「え……?」

 

「邪魔したな」

 

そして蓮は去っていった。仮定の意味を考える三日月は複雑な表情を浮かべる。

北岡は無表情で窓の外を眺めていた。

 

「きっと蓮の戦う理由に繋がってるんじゃないかな……。そんな気がする」

 

「戦う理由、ですか……」

 

答えの出ない問いに直面し、言葉を失う二人。ライダーバトルに身を投じる理由。

それは戦う本人にしかわからないのかもしれない。

 

 


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