【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第5話 Now Loading

「やったー!俺は自由だー!」

 

作戦司令室から出た真司の叫びが、再び鎮守府にこだまする。

そんな彼を大勢の艦娘達が見守る。今度は安堵、期待、そして歓迎の表情で。

 

「本当に、本当に申し訳ありませんでした!!

よりによって、深海棲艦を撃退してくれた善良なユーザーをこんな目に……」

 

そして長門はまだ頭を下げ続けていた。

 

「いや、だからもういいって、誤解は解けたんだから。

それにさ、三日月ちゃんから聞いたよ。

みんなが心無い提督に酷い目に遭わされたって……

だから、警戒するのはしょうがないよ。

ほら、もう頭上げてくんないかなぁ?

なんだか俺のほうがいたたまれないっていうか……」

 

「ありがとう……。提督は、懐の広い人物なんだな。

怒って殴るなり腹いせに私を解体するなりしてもおかしくはないのに」

 

「そんなことしないって!……あー、それだよ!帰る方法!

ここほっぽり出すわけじゃないけどさ、一旦戻らなきゃ!

うわぁ、もう絶対編集長カンカンだよ~」

 

釈放されていきなり現実的な問題に直面し、頭を抱える真司。

 

「帰る……。真司さん、もう会えないんですか……?」

 

気づくと三日月が後ろに立っていた。悲しげな目で真司を見つめている。

真司は三日月に近づき、膝をついて目を合わせた。

 

「心配しないで、一旦戻るだけよ。俺のこと待っててくれてる人達に謝んなきゃ。

大丈夫、すぐに戻る。また会えるよ」

 

「本当ですよね!?せっかく分かり合えたのに、ここでお別れなんて

私、嫌です!」

 

三日月は真司に思い切り抱きついた。真司はそんな彼女の頭を優しくなでる。

 

「約束する、必ずまたここに帰ってくる。それより三日月ちゃんも、約束」

 

「え……?」

 

「ほら、深海棲艦を倒したら、また笑顔になってって言ったじゃん。

さあ、笑って。ニッ!」

 

真司は笑顔を浮かべ、両手の人差し指で口角を上げて見せた。

 

「……ふふふっ、もう、真司さんたら。あ、もう今から提督なんですよね!

改めまして、お手柔らかにお願いします、提督!」

 

「真司でいいよ。ゲームならともかく、俺、提督なんてガラじゃないし。

こっちこそよろしく、三日月ちゃん」

 

「はい!」

 

そして固く握手を交わす二人。その時、長門が真司に話しかけてきた。

 

「提督!お急ぎのところ誠に申し訳ないのだが、もう少しだけ時間をもらえないだろうか」

 

「え、どうしたの。なんかあったの」

 

「実は先程の無線で通信した提督が、城戸提督に面会を求めている。

会ってもらいたいのだが……」

 

「蓮が!?会う会う!いつ来るの?」

 

「鎮守府間の移動は、言ってしまえばサーバー間のデータのやり取りに過ぎない。

同じサーバーならほんの数分程度だ。……そちらの“私”、聞いたとおりだ。

そちらの提督をお連れしてくれ」

 

長門が携帯式電波通信機で秋山の鎮守府の長門に呼びかける。

 

“わかった、クルーザーの準備は整っている。まもなくそちらに到着する”

 

「蓮さん?」

 

「ああ、俺の知り合い!無線で聞いたと思うけど、そいつもライダー」

 

「すごいです。その方も真司さんみたいにドラゴンを手懐けてるんですか?」

 

「う~ん、手懐けてるっていうか、契約してるんだ。あと、蓮の場合は巨大な蝙蝠」

 

「“契約”?それって一体……」

 

三日月が更に質問を続けようとした時、海側の道から声をかけられた。

 

 

──何こんな所で馬鹿やってる、城戸

 

 

「蓮!」

 

軍帽を被った秋山蓮が吹雪と長門を連れて歩いてきた。

異次元で再会した知り合いに思わず駆け寄る真司。

 

「お前も来てたのかよー!なんだよさっさと連絡くれりゃよかったのに!」

 

「鎮守府は星の数ほどある。

どれかにたまたまお前が来たところでわかるわけがないだろう」

 

「まぁ、そうなんだけど……」

 

その時、秋山の後ろで、別データの鎮守府の長門と、吹雪が真司に敬礼した。

 

「はじめまして。わたくしは、y089501鎮守府の長門です。以後お見知りおきを」

 

「同じく、秋山提督の秘書艦、吹雪です。よろしくお願いします!」

 

「うおっ、すげえ……こっちの長門と瓜二つだよ!

ま、まぁ、とにかくこちらこそよろしく」

 

 

「ああ、瓜二つというより、全く同じ存在だからな」

 

 

驚く真司の後ろから、真司が知る長門と三日月が近づいてきた。

 

「久しいな。そちらは変わりないか?」

 

「ああ。お前も壮健だったか?」

 

「おかげさまで何事も……いや、あったな。城戸提督が来てくださった」

 

完全に同じ姿の二人が言葉を交わす姿にやはり面食らう真司。

 

「三日月ちゃん元気だった!?

最後に会った時は凄く落ち込んでたから心配で心配で……」

 

「はい、もう大丈夫です!真司さんが来てくれましたから!」

 

「よかった。本当によかった……」

 

友達だった吹雪と三日月も再会を喜ぶ。そんな皆に声をかける蓮。

 

「せっかくの再会のところ悪いが、そろそろ本題に入ってもいいか。

俺達には情報が足りない。お互いにな」

 

「ああ、待たせて済まない。では、城戸提督、

貴方のお部屋で会談をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

「部屋?ああ、執務室ね。オッケー、みんな行こうよ!」

 

こうして全員本館の執務室に移動した。

拘束されていた時は、宿舎の空き部屋に押し込められていたため、

ここに戻ってくるのは久しぶりだった。真司がドアを開ける。

 

「いやあ、この景色も久々……ってうおっ!なんだこりゃ!?」

 

真司は部屋の隅に浮かぶ、暗闇にグリーンの0と1が舞うゲートらしきものを見て

思わず大声を上げた。

 

「それは、現実世界へと続くゲートです。

チュートリアルを達成しないと出現しない仕組みになってるので、

初めて真司さんが来た時にはなかったんです。

真司さんはもうチュートリアルどころか、

敵艦隊を撃破しちゃったんで文句なし、ってところですね!」

 

三日月が嬉しそうに説明する。だが、すぐその表情が複雑なものになる。

 

「戻ってきて……くれるんですよね?」

 

「ほーら。約束したじゃん!向こうの用事を片付けたら、また戻ってくるって。

今度もちゃんと約束は守るからさ」

 

「はい!」

 

「立ち話はその辺にして早く座れ、後ろがつかえてる」

 

「ああ、悪い悪い。……って俺の部屋だよ、ここ!」

 

真司達は小さな対面式ソファに座った。

同じ姿が2人いるので、わかりやすく鎮守府ごとのメンバーに分かれて座った。

さっそく、真司が口火を切る……が。

 

「それじゃあ、会議始めようよ……。えーと何についてだろう」

 

知りたいことが多すぎて何から話せばいいのかわからない。

 

「馬鹿。まずは俺達がここに来た経緯を確認する」

 

「馬鹿言うな!……まぁ、助かるけど。

俺は、会社のパソコンで艦これやってたら、いきなり画面が変になって、

この世界に引きずり込まれた。そこで三日月ちゃんたちに会ったってわけ」

 

「職場でゲームしてたら異世界に来てました、か。お前らしいな」

 

「い、いや、ちゃんと休憩時間だけにしてたよ……」

 

「どうでもいい。……ということは、お前は神崎とは会ってないんだな?」

 

「ああ。蓮はひょっとして神崎に連れてこられたのか?」

 

「神崎に変なメモを渡されて、指定のネット喫茶で艦これを起動したら、

お前と同じく画面に吸い込まれた」

 

「ちょっといいか?“神崎”というのは何者だ?」

「私も気になる」

 

両方の長門が問う。蓮がカードデッキを出して答えた。

 

「2人とも作戦司令室で聞いただろうが、このカードデッキを作った奴だ。

複数のデッキを作って色んな欲望を抱えた連中に配り、

最後の一人になるまで戦うライダーバトルを仕組んだ張本人だ」

 

「「なんだって!?」」

「最後の一人って、つまり……」

「そんな、秋山提督まで」

 

瓢箪から駒が出るがごとく発覚した衝撃的事実に、皆、驚きを隠せない。

 

「ライダーバトルとはなんなのだ!答えてくれ!」

 

秋山世界の長門が蓮の肩を掴み、

 

「何のためにライダーが殺し合わなければならない!?」

 

城戸世界の長門が真司に叫ぶように問いかける。

吹雪と三日月はショックで声が出ないようだ。

 

「ライダーバトルに勝ち残ったものにはあらゆる願いを叶える“力”が与えられる、そうだ」

 

蓮はどこか他人事のように答える。

 

「提督は、提督は一体何を求めてそんなことを!」

 

「そうです、信じちゃだめです、そんな馬鹿げた話!」

 

蓮側の長門と吹雪が訴える。しかし、

 

「……その馬鹿なことにしか賭けられないやつがライダーになる。

俺の願いについては、話すと長い。今は差し当たりの課題に話を戻すぞ」

 

「真司さん!真司さんまでどうして危険なことを!?」

 

三日月も真司に問う。

 

「俺は、この悲惨なライダーバトルを止めるために戦ってる。

なんとかミラーワールドを閉じて、この戦いを終わらせたい……」

 

「ミラーワールド……?」

 

「ライダー達がいつも戦ってる、鏡の中の世界。三日月ちゃんには前に言ったよね、

現実世界にはミラーモンスターって怪物がいるって。

そいつらが棲んでいるのもミラーワールドで、奴らを倒すのも、俺が戦う理由」

 

「それで真司さんはドラゴンと一緒に戦ってるんですね……

話は変わりますけど、真司さん言ってましたね。あのドラゴンと“契約”してるって。

なんなんですか、契約って」

 

「あいつはドラグレッダーっていうんだけど、

あのドラゴンも実はミラーモンスターなんだ」

 

「ええっ!?」

 

「……そう、カードデッキは

1体以上のミラーモンスターと契約することで効果を発揮する。

ただし、定期的にミラーモンスターを倒したり、その他の生物を食わせて

生命エネルギーを供給しないと、契約破棄とみなされ、デッキの持ち主が食い殺される」

 

真司に続いて蓮が説明した。ライダー達の宿命を。ライダー以外の皆が言葉を失う。

 

「それは……やめられないんですか、司令官……」

 

震える声で問う吹雪。

 

「止められないし止める気もない。戦いの放棄はつまり契約破棄、末路は同じだ」

 

「くそっ!もし私がずっと提督を監禁していたら、どうなっていたか……!!」

 

「気にしないで。深海棲艦を倒してあいつもたらふく食ったから当分は大丈夫」

 

「本当に、本当に済まなかった……」

 

「……とりあえず検索しよう。“ミラーモンスター”、検索結果:0件。

公には知られていないようだな」

 

蓮側の長門がキーワードを検索するが、当然出てくるはずもない。

 

「ああ、知っているのは、神崎とライダーだけだ。

とにかく、今戦うべきなのは、ライダーだけじゃない。

ミラーモンスターは現れ次第、俺達が対処する。問題なのは……」

 

「イレギュラー、か」

 

「イ、イレギュラー?」

 

真司は初めて聞く言葉なので意味がわからない。隣の三日月が説明する。

 

「初めてお会いした時、真司さんにもお話した、悪質ユーザーのことです……」

 

「……ああ、“x029785の悲劇”は広く知られている」

 

蓮側の長門がつぶやく。そして蓮も続けた。

 

「今のところ重要なのはそいつらにどう対処するかだ。

なぜ神崎が無関係な連中までこの世界に送り込んでくるのかはわからん。

考えても分からん問題に時間を割いても仕方がない。

だが、気休め程度の自衛策ならある」

 

「本当ですか!?司令官!」

 

吹雪を含め、全員が蓮に注目する。

 

「まず、来訪者を手放しで歓迎することはやめろ。初めはあくまで事務的に接する。

神様扱いしたければ、そいつの本性を見極めてからでも遅くはない。

次に、提督権限についてもそれまでは伏せておけ。

特に、艦娘が提督に危害を加えることが出来ない点についてはな。

さり気なく武装をちらつかせて、“いざとなったらお前を殺せる”と思わせておく」

 

「ふむ、なるほど。

そう言われると、確かに我々にも無防備なところがあったかもしれん」

 

今度は真司側の長門が納得する。

 

「確かに、一人目のイレギュラーは砲を向けたら逃げ帰って行きました。

提督権限のシステムを説明する前で助かりました。

本当はただ撃てないようになってただけですけど」

 

三日月がここに訪れたイレギュラーについて語りだす。

 

「まぁ、赤城さん達を殺した奴を撃てなかったのは、

私に勇気がなかったのか、システム上の制御なのかはわかりませんけどね……」

 

真司は、さっと悲しげな笑みを浮かべる三日月の手を握った。

 

「人を殺すことなんて勇気じゃない!殺さなかったことが勇気なんだ!

あの日も言ったよね。プログラムのシステムなんかじゃない、

君の優しさが思いとどまらせたんだって」

 

「真司さん……」

 

三日月はうっすらと涙を浮かべ、何度もうなずく。皆、黙って様子を見守っている。

 

「ありがとう。ありがとう真司さん。

……ごめんなさい、みなさん。話の腰を折っちゃって」

 

「いいんだ。君は、あの事件の生き残りなんだから」

 

蓮側の長門が答える。

その時、真司はまた意味の分からない言葉が出てきたので手を上げる。

 

「はい、はい!提督権限ってなんですか!」

 

「何だお前、そんなことも知らなかったのか?」

 

「しょーがないだろ!ここ来てほとんど閉じ込められっぱなしだったんだから!」

 

「申し訳ない……。せめて私から説明しよう。

提督権限とは、その名の通り、本来はこのゲーム世界を円滑に運行させるため、

提督に与えられる特権のことだ。例えば、今、秋山提督がおっしゃったような、

艦娘は提督を攻撃できない、提督は艦娘に拒否できない命令を下せる、

担当鎮守府のシステムをある程度変更できる、などだ」

 

「なるほどー。あれ?でも、じゃあ、俺ってそもそもなんで捕まってたの?

多分“やめろー”とか“はなせー”とか言ってたと思うんだけど」

 

「それは、真司さんがまだ正式に提督に就任していなかったからだと思います。

ほら、あの時“チュートリアル”の途中だったじゃないですか。

そこに深海棲艦が迫ってきて、戻ってきたときに捕まっちゃったから……

多分、真司さんの命令はただのチャットテキストとして処理されたんだと思います」

 

「あー、なるほど。そういえばそうだったね~。あ、あともう一個だけ!」

 

「なんだ今度は!」

 

「さっき、そっちの長門さんが自己紹介で“なんとか鎮守府”とか、

番号っぽいもの言ってたけど、あれは?」

 

「城戸提督、あれは各鎮守府に割り当てられるアルゴリズムナンバーです。

サーバー内にはユーザーの数だけ、無数の鎮守府が存在します。

それらを管理するための通し番号です」

 

蓮側の長門が答えてくれた。

 

「そっか。ありがとー。……でもさあ、yなんとかなんとかっていうの、

覚えにくいっていうかややこしくない?

俺達の間だけでもさ、なんかわかりやすい名前つけようよ。

これからしょっちゅう行き来することになりそうだしさ」

 

「あ、それいいですね。私可愛い名前がいいです!

キャラメルパフェ鎮守府とか~間宮餅鎮守府とか~ミルクプリン鎮守府とか~」

 

「却下だ。仮にも軍事基地に食い物の名前つけるとかどういうセンスしてる。

というかお前の頭には食い物しかないのか」

 

「すみませ~ん……」

 

蓮に手厳しく却下され、落ち込む吹雪。

 

「オホン。では、私から提案だが、提督方の名字を頭に付けてはどうだろうか。

例えばここは城戸鎮守府」

 

「名案だ。それで行こう」

 

「異議なーし!なんかいいな、俺の名前の基地とかカッコイイし!」

 

「うむ、では、大淀に連絡を取ってオープンチャンネルで全鎮守府に、

そのように提案してもらおう。アルゴリズムナンバーは私達が知っていればいいから、

反対意見は出ないだろう」

 

蓮側の長門の提案を、真司の承認を経て、真司側の長門が大淀に発信した。

そして、5分程度で返信が帰ってきた。

 

「……わかった、ありがとう。決まったぞ。

これから鎮守府には来訪者の名字を付けることになった」

 

「今後は鎮守府間の連絡は緊密にしたほうがよさそうだな。

重要な決定事項や連絡は全鎮守府に開示するべきだ」

 

「ああ、そうだな」

 

「いよっしゃ、やったぜー!」

 

「はしゃぎすぎだ、馬鹿」

 

「とにかく、ご苦労だったな、“私”」

 

「なに、これくらい。それはそうと、鎮守府名を変更したら、

さっそく名字付きの鎮守府が見つかった。

ひょっとしたら知り合いかもしれないぞ、フフ」

 

「誰、誰、なんて人?」

 

「その名も、“浅倉鎮守府”だ」

 

……!!

 

蓮と真司は戦慄した。ここがミラーワールドであることを考えると、

当てはまる浅倉は一人しかいない。様子がおかしい二人に真司側の長門が声をかける。

 

「どうしたんだ。やっぱり知り合いか?」

 

「長門、二人共“浅倉威”を検索しろ。それがそいつの正体だ」

 

二人の長門が検索エンジンにアクセスし、その名を検索する。

徐々に二人の目が驚きで見開かれる。

 

「まさか……。まさか、逃走中の殺人犯が提督に!?」

 

「人殺しの、提督!?」

「嘘、ですよね……?」

 

吹雪も三日月もショックを受ける。

 

「残念だが事実だ。しかも厄介なことに浅倉もライダーだ」

 

「そんな、なんということだ!……そうだ、“私”!

ここの大淀に浅倉鎮守府の様子を調べてもらってくれないか?

浅倉という男がイレギュラーである可能性が高い!

必要なら提督方に救援を要請しなければ!」

 

「ああ、今すぐ!……大淀?急いで浅倉鎮守府の情報を!」

 

皆、固唾を呑んで真司側長門を見守る。再び待つこと5分。

彼女がこめかみにあてた指を話すと告げた。

 

「とりあえずは、安心していい。……浅倉鎮守府は今のところ平穏だ。

提督も艦娘達を傷つけるようなことはしていないらしい」

 

「妙に歯に物が挟まったような言い方だな。何か気になることでもあるのか?」

 

「それが……浅倉提督は、イレギュラーを1人殺害したそうだ」

 

蓮と真司はやはりか、という表情で。駆逐艦達は小さく悲鳴を上げる。

 

「なんだと!?提督が提督を殺害など、そんなことありえん!」

 

「いや、浅倉なら十分ありえる。奴はモンスターだ。

イレギュラーを殺したのも、鎮守府を助けるためなんかじゃない。

ただ殺し合いを楽しみたかっただけだろう」

 

「知っているのか、提督……?」

 

「奴とは何度か戦った。暴力がなければ生きていけないような男だ」

 

「司令官、浅倉鎮守府に行かれるんですか?その、ライダーバトルをするために……」

 

「……いつか決着はつけなければならないが、今じゃない。今は目の前の問題。

深海棲艦、イレギュラー、ミラーモンスターだ」

 

「よかった……って喜んでもいられないんですよね。時が来たら……」

 

「まぁ、そういうことだ。吹雪、長門。俺達はもう帰るぞ」

 

秋山鎮守府の3人が席を立つ。真司側長門がドアを開ける。

 

「お見送りしましょう。皆さん、お気をつけて」

 

 

 

そして、桟橋に停泊したクルーザーの前で

秋山鎮守府と城戸鎮守府の面々は別れを告げた。

 

「じゃあ、またな、蓮」

「お気をつけて、秋山提督」

 

真司と城戸側の長門が蓮達を見送り、

 

「ああ、そっちもな」

「そっちの“私”も警戒は怠るなよ」

 

蓮と秋山側の長門もそれに応える。

 

「また会おうね、三日月ちゃん」

「うん、吹雪さんも元気でね!」

 

長門がクルーザーの舵を握ると、船体が光り、データの粒子となって消えていった。

 

「さってと!それじゃあ、今度こそ俺は一度戻らなきゃ。

長門、それまで鎮守府のこと、よろしくな!」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「あ、私、ゲートまで付いていきます」

 

 

 

執務室。真司は例の01ゲート(真司が名付けた)の前に立っていた。

 

「おーし、大丈夫大丈夫、信じろ俺、絶対戻れる!」

 

真司は祈るように手をすり合わせ、自分に言い聞かせる。

 

「真司さん、待ってますから。ずっとここで」

 

「うん、すぐに戻るから!」

 

真司は三日月に親指を立てると、意を決して、ゲートに飛び込んだ。あの時と同じ感覚。

数え切れないほどの数字が並んでいるのに、何も手に触れられない。

空間の流れに身を任せるだけだった。しばらく宙を泳いでいると、突然光に包まれる。

これもあの時と同じ。今度は現実世界の方に出たんだ!

真司は眩しさに目を閉じ、じっとしていた。

 

 

 

 

 

「うおっ!」

 

パソコンモニタから放り出され、ドシン!と大きな音を立てて、

身体が壁に叩きつけられた真司。痛ってえ……もうちょっとマシな出方させろよ神崎ぃ!

心のなかで文句を言いながら立ち上がる。

そこは誰もいない、薄暗いOREジャーナルのオフィスだった。時計を見る。

時刻は5時過ぎ。よかった、とりあえず誰もいないし家に帰ろう。

言い訳は今夜中に考え、て……ドアを開けようとしたら、向こう側に開いた。

そこにはニッコリ笑った大久保が。

 

「上着忘れたから取りに戻ったら。大きな音がしたもんで。泥棒かと思ったんだが。

久しぶりだなぁ……コラ真司いぃ!!」

 

 

 

 

 

「皆さん、ご迷惑をお掛けして、どうも、すいませんでしたぁ!!」

 

翌日。

真司はオフィスの真ん中で盛大に土下座をしていた。

デスクの大久保は無表情で彼を眺め、令子は冷たい目で見下ろしている。

島田は何かを期待するようにニヤニヤしている。

 

「あのねえ、あんた、自分が何やらかしたかわかってんの!?

就業中に失踪して何日もいなくなるから、社員全員があんたのこと探し回ってたのよ!

編集長はあらゆるコネを使って情報収集、

島田さんは一日中パソコンであんたの足取りの追跡!

私はここ数日オタク街の聞き込み調査でもうクタクタよ!」

 

「ああ、令子さん、ごめんなさい!申し訳ありません!本当に反省してます!

ああ、編集長も島田さんもすみません!本当にすみませんでした!」

 

激怒する令子を始め、OREジャーナルメンバーに、

床に張り付くほど平身低頭で謝る真司。

そんな様子を見つめていた大久保がつぶやくように尋ねた。

 

「……それで。お前さ、結局なにやってたんだ」

 

「え……?」

 

「お前は馬鹿だけどただサボるやつじゃないことはわかってるわけよ俺だって」

 

大久保は真司をじっと見る。

残念ながらとっさに上手い嘘が出てくるほど真司は賢くなかった。

ありのままの事実を告げるしかなかった。

 

「言えよほら、なにやってたんだ」

 

「それは、その……」

 

本気で悩む真司の姿を見て、大久保は決めた。

 

「言えねえってか。……しょうがねえなぁ、ま、もう少し我慢してやっから

できることはなるべくやっとけよ。ただし給料は大幅ダウンだ。

令子や島田に示しが付かねえからな」

 

「編集長……ありがとうございます!この恩は一生忘れませんから、

一生ついていかせてください!ああ肩お揉みしますよ凝ってますね~」

 

大久保の心遣いに思わず感激し、じゃれる真司

 

「編集長!城戸君を甘やかしすぎです!

せめて何があったかくらいは社員全員に聞く権利があります!

こんなことを認めていたら城戸君自身が駄目になるんですよ!?」

 

「そうです~城戸君が、どこからどうやって

艦これにアクセスしたのか聞き出さないとです~」

 

「わかったわかった!そう怒るなよ……

真司、やっぱり何してたかくらいは説明してくれ」

 

猛烈な勢いで噛み付く令子に押し負け、結局大久保は真司に証言を求めた。

 

「……わかりました。何が起きても驚かないでくださいね」

 

真司は自分のデスクのパソコンを起動し、DMM.comにアクセスし、

艦隊これくしょんにログインした。大久保と令子も後ろで見守る。

島田は自分のデスクで真司のパソコンのネットワーク接続状況を監視していた。

 

 

《提督が、鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を取ります!》

 

 

「これが“艦隊これくしょん”?はぁ、城戸君もこういう絵が好きなの?」

 

「いや、絵だけじゃなくて、ちゃんとゲームとしても面白いんですよ!

キャラの育成はもちろん、資材の運用や、修理や建造に実時間が掛かるから

戦略的な……」

 

「はいはい、これのなにが関係あるのかさっさと答える!!」

 

「すみません!ええと、俺がいなくなった時、昼休みのことでした。

艦これにアクセスすると……」

 

「あのね?昼休みとはいえ、これは会社の資産なの。それをゲームに……」

 

「まぁまぁ、とにかく今は続きを聞こうぜ?」

 

「こっちもIPアドレスの確認バッチリです!」

 

「そう、このロード画面がぐにゃぐにゃってなって……」

 

 

《あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします》

 

 

「……あれ?」

 

なんの変化も起きることなくロードが終わってしまった。

画面右側で昨日別れたばかりの三日月がこちらを見ている。

 

「これが、なんだってんだ?」

 

「あれ、おっかしいな……あの、さっきの黒い画面が出てきた時に、

画面がぐにゃぐにゃして、俺、ゲームの中に閉じ込められたんですよ!信じてください!

俺、この女の子とも友達に……!」

 

大久保にすがりつくように訴える真司。しかし。

 

「いい加減にして!!」

 

令子のカミナリが落ちる。

 

「嘘ならもうちょっとマシな嘘をつきなさい!

さっき編集長は、あんたを信じてチャンスをくれたのよ?

それをこんなくだらないゲームで裏切って!申し訳ないと思わないの!?

あんたは記者としては半人前だけど、物事に対する真っ直ぐな姿勢だけは評価してた。

でももう終わり!あんたは人の真心を……」

 

「本当なんです!信じてください!!」

 

「……!?」

 

突然大声を上げ、懇願する真司。驚き、つい攻撃の手を止める令子。

やはり彼をじっと見る大久保。

 

「みんなは……生きてるんです。どうして今は駄目なのかわからないけど、

皆だってこの中で喜んだり悲しんだり、泣いたり笑ったり、確かにこの手で……」

 

「あ、あんたねえ、本当に冗談は……」

 

「まままま、令子。これは今流行りのいわゆるゲーム脳ってやつだ。

こいつは俺が知り合いの医者にカウンセリング受けさせるから、な?

それなりの責任も取らせるから」

 

「……編集長がそうおっしゃるなら」

 

「あの~例の二重IPまだですか~?フツーのアクセスしか表示されないんですけど」

 

「それも、あれだ、中止だ中止!真司には……そうだな、

失踪中に溜まった仕事の片付けと反省文を徹夜で書かせる!そんなとこでいいだろ?」

 

「はい……」

 

「残念~タイムマシンが遠のいていく……」

 

 

 

午後5時。終業時刻のアラームがオフィスに響く。

 

「では編集長、お先に失礼します」

「私もマリリンちゃんと晩酌します。さよなら~」

 

「おう、気をつけてな」

 

帰宅する令子と島田を見送る大久保。当然真司は居残り。

大久保も少々事務処理が残ったため、残業である。

 

「この度は、皆様に、多大な、ご迷惑を、おかけし、誠に申し訳なく……」

 

真司はまず、学生時代に書かされて以来苦手な反省文から手を付けていた。

そんな彼に大久保が話しかける。

 

「……なあ真司。本当にゲームの中の世界に入ったのか」

 

「え、信じてくれるんですか!?」

 

「小さいけどよぉ、俺も伊達に会社の社長はやってねえし、お前とも長い付き合いだ。

適当な嘘で人をあしらうような野郎じゃないことは知ってる」

 

「編集長……はい、俺、確かにこの中に入ったんです。中で知り合いとも会いました!

艦これの中で何かが起こってるんです!」

 

思わず立ち上がって訴える真司。大久保は黙って頷いた。

 

「よし……わかった!昼間も言ったが、出来ることは今のうちにやっとけ。

まぁ、お前も有給やら病欠やらうまく使ってなんとかしろ」

 

そしてパソコンをシャットダウンして立ち上がる。

 

「じゃあ、俺は帰るが、反省文だけは書いとけよ。令子に見せなきゃまた怒鳴られるぞ」

 

「……はい、ありがとうございます!!」

 

真司は去っていく大久保に深くお辞儀した。……ありがとう、編集長。

 

 

 

 

 

午後10時。

 

「ふぁ~あ、やっと書けた」

 

反省文を書き上げた真司は時計を見る。もうこんな時間か。

もうすぐビルも閉まっちゃうし、仕事は明日にしよう。もうすっかり暗く……!!

真司が外の景色を見ようと窓を見ると、窓ガラスに神崎士郎の横顔が映っていた。

 

「神崎!!」

 

「用事が済んだのなら早く艦これの世界に戻れ」

 

「どういうつもりだよ!入れたり入れなかったり……いや、そんなことは今はいい。

どうして無関係な人間をあの世界に入れたんだよ!

悪い奴らのせいで、みんなが傷ついたり、悲しい思いをしたんだぞ!」

 

「偶然の産物だ。俺としてもライダー以外の侵入は防ぎたいところだが、

艦これ世界に続く鏡は、数万、いや数百万、もしくは

それを上回る数のデータが行き交い、映り込む。

その全てを排除するのは俺にも不可能だ。そういう場所に存在する。

たまたま艦これにアクセスした者のデータがその鏡に入り込み、

モニターが入り口となった。……まさに、イレギュラーな事態だ」

 

「鏡……?なんだよそれ、どこにあるんだよ!」

 

「知る必要はない。

どこであろうと、ライダーバトルが行われることに変わりはないのだから」

 

「ふざけんな!艦娘のみんなを巻き込むな、神崎!」

 

真司は窓ガラスに向かって走るが、辿り着いた瞬間、神崎は消えてしまった。

 

「くそぉ!」

 

暗いオフィスで、真司は一人叫んだ。

 

 

 

 

 

次の日。

大久保はデスクの上に置かれた反省文と、メモ書きを見つけた。

 

 

>すみません。やることをやってきます。 城戸真司

 

 

「おはようございま~す。……城戸君は、まだと」

 

令子が出社してきた。大久保は真司を探す彼女に反省文を渡す。

 

「真司ならしばらく病欠だ。ほら、昨日言ったろ。

知り合いに心理カウンセラーがいるんだ。そいつに診てもらうことにするわ」

 

「それがいいですね。あの様子だと重傷みたいでしたし」

 

プリントアウトされた反省文を速読しながら、令子が答えた。

……戻ってこいよ、真司。

 

 

 

 

 

ブォン!

 

「だぁぁ!!」

 

またしても01ゲートから乱暴に放り出された真司。

床をゴロゴロ転がった後、身体の痛みをこらえて立ち上がった。

 

「痛ってえよ……」

 

部屋は月明かり以外照らすものがない暗闇だ。

現実世界と艦これ世界の時間はリンクしている。真司は反省文とメモ書きを置いた後、

もう一度パソコンで艦これにアクセスした。

すると、今度はあの画面のゆらぎが再び発生し、モニタに引き込まれた。

とりあえず今日はソファで寝よう。

そう思った時、タタタタ……と階段を駆け上る足音が聞こえてきた。

そして、パタン!といきなりドアが開かれた。そこにいたのは、三日月。

彼女は、息を切らせてこう言った。

 

「おかえりなさい、真司さん」

 

「ただいま、三日月ちゃん!」

 

真司も、笑顔でそう答えた。

 

 


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