【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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 最終話 Time To Say Good Bye

深海棲艦の群れが目前に迫る。もはや駆逐艦も重巡も姫級も関係なく入り乱れ、

ただ真司達を抹殺することだけを考え、ひたすら前進を続ける。

“UNITE VENT”による13体の契約モンスター全ての合成処理は間に合うだろうか。

水平線の向こうで何かが光る。遅れて雷のような砲声が轟いてきた。

砲弾がここまで届くことはなかったが、確実に敵艦隊は近づいている。

 

「おおおおお!!」

 

王蛇が吠える。本来3体分の合体しか想定していない“UNITE VENT”が、

ベノバイザーに処理能力を大幅に超える命令を流し込む。

限界以上の性能を強引に行使するベノバイザーが大きく振動し、燃えるような熱を持つ。

 

「まだだ……!まだ耐えられる筈だ!」

 

王蛇は、手が焼けるのも構わずベノバイザーを握りしめ、

契約モンスターの合体完了を待つ。

 

“UNITE VENT”に導かれ、広場にドラグランザーがその身を真っ直ぐに横たえた。

そこにメタルゲラスが飛び込み、融合。ドラグランザーの胴がより太く、頑丈になる。

そして、ダークレイダーが背中に取り付き、一対の翼となる。

それをきっかけに次々と契約モンスター達がドラグランザーに飛び込み、融合する。

 

ボルキャンサーが頭部、胸部の装甲を担い、

マグナギガは分解し、ドラグランザー腹部にレーザー砲、速射砲台となって装備された。

同じくベノスネーカーの首も毒液を撒き散らす下方攻撃、及び

煙幕を撒き散らす全方位攻撃を行う特殊装備に変化。

 

エビルダイバーは重い重量を首の下で支える下部の翼、

ブランウィングは巨体を飛行させるために、背中のもう一対の翼となった。

どんどん新たな命が形作られていく。

 

デストワイルダーは胴の両脇から飛び出す巨大な鉤爪となり、

外部からは見えないが、体内にバイオグリーザ、ギガゼールが待機し、

サイコローグが自身を分解し、ドラグランザーの首の根本に、

生物らしくない二人がけのコクピットとなって現れた。

 

最後。ゴルトフェニックスが空を舞い、その体を輝くエネルギー体に変え、

12のモンスターの融合体の上から降り注ぎ、新たな命を与えた。

ゴテゴテとモンスター達を押し固めたような姿は、仕上げの塗装を施されたような

滑らかな外観となり、今、新たな1体の契約モンスターとなった。

龍の首を持ち、背中に漆黒と純白の翼、首の下部に、

バランスを取り更に揚力を得るためのワインレッドの補助翼、

その他の肉体各所はドラグランザーと同じ真紅に染まった。

その名こそ──人造神「ディバインキマイラ」。

 

「ぐあっ!」

 

熱に耐えきれなくなった王蛇が焼け焦げたベノバイザーを投げ捨てる。

しかし、全てが間に合った。その禍々しくも神々しい姿に皆が言葉を失う。

二対の翼で烈風を巻き起こしながら飛び立ち、輝く姿を見せつけるディバインキマイラ。

我に返った龍騎サバイブはナイトサバイブに促す。

 

「蓮……行こう!」

 

「ああ!」

 

龍騎と蓮は、まだ痛みが残る体の力の全てを振り絞り、

ディバインキマイラのコクピットに飛び乗った。

 

「あいた!」「くっ……!」

 

シートに着地した衝撃が傷に響いた。しかし、そんな痛みは次の瞬間、驚きに消し飛ぶ。

なんだこれは。本当に生物の一部なのか?

旅客機の操縦席の様に機械的なコクピットには様々な計器が並んでいた。

多数の計器や操縦桿に戸惑う龍騎。それはナイトも同じようだった。

しかし、着席した瞬間、この半生物半機械の最終契約モンスターと

龍騎達の意識がリンクし、動かし方が本能に刷り込まれた。龍騎は力強く操縦桿を握る。

 

「行ける……こっちは操縦席みたいだ!蓮は?」

 

「ここはガンナー席だ。射撃管制装置の類が多い」

 

うっかり龍騎達が感心していると、下から差し迫った声が聞こえてきた。

 

“真司さーん!間もなく深海棲艦の射程圏内に入ります!早く反撃を!”

 

「ごめん、今なんとかする!蓮、攻撃はどうすればいいの?」

 

「俺に任せろ」

 

蓮はデッキからカードをドロー、

2つの席の間にあるカードリーダーに置き、スキャンした。

スキャンされたカードはホログラフとなり空中に分解されていく。

 

『SHOOT VENT』

 

そして、カードが発動すると、ディバインキマイラは巨大な二対の翼で羽ばたき、

深海棲艦で埋め尽くされた海を睨んだ。

そしてゴルトフェニックスの力が体内に行き渡り、ドラグランザーの口に凝縮される。

圧縮に圧縮を重ねた輝く炎のエネルギーは、一瞬カッと閃光を放ち、

水平線の向こうまで続く巨大なレーザー光となり、海を貫いた。

そして、そのまま海面を薙ぎ払う。

 

鎮守府近海を埋め尽くしていた深海棲艦は、ディバインキマイラのレーザーで両断され、

焼き尽くされ、瞬く間に全滅。爆発した無数の深海棲艦から漏れ出る炎や煙で、

空が見えなくなった。地上にいた者は皆、その圧倒的な力に声も出なかった。

 

「すげえ……」

 

操縦席に座りながらあっけにとられる龍騎。

 

「これが、モンスター13体の力ということか……」

 

ナイトも同じくその力に驚愕しているようだ。しかし、驚いてばかりもいられない。

龍騎は下にいる三日月に声をかけた。

 

「三日月ちゃーん!これからどうすればいいの!?俺達MI海域に行かなきゃ!」

 

“任せてくださーい!私達が皆さんを転送します!”

 

 

 

ここからは三日月達の出番ね!三日月は艦娘の仲間達に呼びかける。

 

「みなさん、やりましょう!」

 

「ええ、城戸提督と秋山提督を無事に送り届けるの!」

 

三日月と足柄が手をつなぐ。

 

「みんなで、有終の美を飾りましょう!」

 

今度は足柄と飛鷹が手をつないだ。

 

「あいつの頑張りを私が無駄にしちゃ可哀想だからね」

 

飛鷹と叢雲がその手を握り合う。

 

「ご主人様……漣、がんばります。だから……」

 

叢雲と漣がお互いの存在を確かめるように小さな手を握った。

 

「電だって、ここ一番では踏ん張れるんです……!」

「いくら私でも、手を握るくらいのことは失敗しません、多分!」

 

漣、そして電、五月雨が手を握る。

そして最後に五月雨が三日月としっかり手を握り合い、大きな艦娘の輪ができた。

彼女たちが祈りを込め、大空に向かって聖歌のような音声コマンドを唱え始めた。

巨大なディバインキマイラを、艦これの中枢に直接アクセスさせる膨大な処理。

全員で力を合わせて龍騎達を転送すべく、分担してコマンドを入力する。

 

「目的地、0番サーバー。アルゴリズムナンバー、x000000、新規独立プログラムを転送」

 

「アクセス権限承認済み、プロテクトを一時的に解除」

 

「mapフォルダよりMI.mapをダウンロード」

 

「ダウンロード完了。MI.mapを解凍、展開。基幹システムに及ぼす変更、承認」

 

「独立プログラムの安定性を確認。転送開始の準備を完了」

 

「転送開始。現在進捗率15%……38%……75%……100%!!」

 

「アクセス!!」

 

彼女たちが音声コマンドを宣言し終えると、

ディバインキマイラの身体が龍騎達もろともグリーンの0と1に置き換わる。

そして、その莫大な数の数字は海の向こうへ消えていった。

 

 

 

その頃、龍騎は突然01ゲートのような闇に0と1が浮かぶ空間に放り出されて慌てていた。

通常の艦娘の出撃パターンでは転送できるデータ量に限界があるため、

艦娘達が直接目的地に龍騎達を送り出したのだ。

 

「お、お、おい!何だよこれ!どうなってんだ!?」

 

「黙れ、落ち着け、モニターから目を離すな。ここを抜ければ敵陣は目の前だ」

 

「オッケ!じゃあ、スピード上げるぞ!」

 

龍騎が操縦桿を引くと、ディバインキマイラが4つの翼で大きく羽ばたき急加速。

そして、猛烈な勢いで通り過ぎていくグリーンの数字を突き進んでいくと、

突然視界が白くなる。生身の状態なら目を潰すような眩しい光に包まれ、

龍騎とナイトは目的地へと転送されていった。

 

 

 

 

 

──ミッドウェー海域

 

 

飛行場や軍施設を一つ建設するのがやっと、といった小さな島、

サンド島とイースタン島。

そして北部のサンド小島に囲まれた海の中心に“それ”はあった。

海にぽっかりと空いた穴。その上に浮かぶ球型の鏡面体が、

遥か彼方からでも太陽のように輝く光をギラギラと突き刺してくる。

その光に照らし出されたのは、足柄の写真で見た景色。数百に及ぶ黒い影。

深海棲艦達が艦種を問わず救いを求めるようにコアミラーを取り巻いている。

そう、とうとうディバインキマイラはMI海域にたどり着いたのだ。

 

「あれが、コアミラーか……!」

 

「城戸、迎撃は俺がやる。お前はまっすぐコアミラーに突っ込め!」

 

「わかった!」

 

操縦桿を握る龍騎。そしてナイトはあらかじめカードを1枚ドロー。

大空を羽ばたくディバインキマイラの姿を認めた戦艦レ級、ヲ級空母の群れが

雄叫びを上げて対空砲火、艦載機展開を開始した。

四方八方から真っ赤に焼けた砲弾、戦闘機が群れを成して襲い来る。

ナイトはコクピット中央のカードリーダーにカードを置き、スキャンさせた。

 

『SHOOT VENT』

 

ディバインキマイラ腹部に装備されている、分解したマグナギガが変形した

レーザー砲、速射砲台が本体からエネルギーを供給され、火を噴いた。

超大型爆撃機と化したディバインキマイラ腹部から、

パッと扇を広げるように、幾条ものレーザーがオート照準・射撃で放たれ、

ナイトがモニターで敵艦の位置を確認、座席に据え付けられた銃型の照準装置で

画面中心の十字で狙いを定める。

そして、“ROCK ON”のシグナルが出るとすぐさまトリガーを引いた。

 

ドガガガガ!カアアアアァッ!ドガアアアッ!

 

着弾寸前だった16inch三連装砲弾、接近中だった戦闘機は、

レーザーに焼かれ、全てが消滅。

そして、ナイトも反撃を開始、レーザー射撃は火器管制システムに任せ、

ひたすら敵艦に速射砲を浴びせ続けた。

 

ドガガ!ドガガガ!

 

大口径の速射砲を連続して確実に叩き込み、

攻撃態勢に入っている深海棲艦を優先的に撃破していくナイト。

しかし、レーザーの自動射撃システムがあるとは言え、

視界全てを埋め尽くす敵を、一人が手に負える数だけ撃破したところで焼け石に水。

遠距離から放たれた砲弾が、ディバインキマイラの横腹を直撃。

その体を激しく揺さぶる。

 

「ぐあっ!!」「うわあ!」

 

大きな損傷には至らなかったが、ナイトは必死にトリガーを引きながら龍騎に叫ぶ。

 

「おい、コアミラーはまだなのか!?」

 

「まだ……3分の1ってとこ!」

 

「急げ、撃っても撃ってもキリがない!どうあっても俺達を殺す気だ!」

 

「わかってる!頼む、急いでくれ!」

 

龍騎が操縦桿を倒すと、またディバインキマイラが巨大な翼をはためかせ、一気に加速。

しかし、どこに逃げようがどこであろうが敵が存在しているため、

攻撃から逃れることはできない。

 

そして、速射砲とレーザー砲による猛反撃に、深海棲艦は戦い方を変えた。

付近の敵艦が龍騎達の前方へ集結すると、周りにいた者達が、

我先にと仲間の上によじ登り始めた。無限に近い深海棲艦達は下の仲間が潰れようと、

他の個体を足場にし、どんどん深海棲艦の塔を形作っていく。

まるで極楽へ向かうカンダタを追いかける亡者のように、潰し、潰されながら

彼女たちはひたすら上を目指す。

 

「おい……なんだよあれ」

 

「そうまでしても、“かえりたい”、という事なのか……」

 

深海棲艦達の恐るべき執念に戦慄する龍騎とナイト。

天高くそびえるガンタワーと化した深海棲艦は、

正面から16inch砲、爆撃機、戦闘機をぶつける戦術に切り替えたのだ。

まさに数に任せた決死の作戦。

無数の大口径砲がこちらに照準を合わせ、風を切り裂く艦載機の爆音が向かってくる。

 

「おい城戸、なんとかしろ!こっちは真正面には攻撃できない!!」

 

「ああくそっ!……これならどうだ!」

 

龍騎はカードをドロー。カードリーダーでスキャン。

 

『CLEAR VENT』

 

すると、ディバインキマイラの臓器の一つとなっていたバイオグリーザがその力を開放。

その姿を完全に透明化し、敵を撹乱した。すぐ脇を通り過ぎていく敵艦載機。

正面のおぞましい生物の塔から呻き声の合唱が聞こえてくる。

 

オオオオ……ウアアアア……アァアア……

 

それは、どんな手を使ってでも助かりたい、艦娘に戻りたい、そして帰りたい。

彼女たちの怨嗟の声だった。龍騎は黙って操縦桿のボタンを押す。

コクピットが半透明のバリアで覆われ、

ディバインキマイラが再びゴルトフェニックスの炎で包まれる。

そして、フルスピードで、目標を見失い攻撃できずにいる、

死体と兵器の山に体当たりした。

 

メタルゲラス、ボルキャンサーが融合し巨体化、鉄壁の装甲が施され、

数千度の炎に包まれた最終契約モンスターが直撃し、

深海棲艦の塔は燃え尽き、瓦解した。その哀しい最後を見て、龍騎がつぶやいた。

 

「いつか、帰れるといいな……」

 

「……敵に同情している余裕があるのか。コアミラーまでの距離は?」

 

「3分の2。あとちょっと」

 

「急ぐぞ、こいつだって不死身じゃない」

 

再び大きな翼で空を泳ぎ、コアミラーへ突撃するディバインキマイラ。

ナイトが眼下の敵を迎撃しながら限界速度で飛行を続けていると、

もうコアミラーの全貌が目視できる距離までたどり着いた。

 

「蓮、あれだよ!コアミラー!」

 

「ああ、一気にとどめを刺す!」

 

ドゴオオ!!

 

だが、その時、真下から突き上げられるような振動を受け、

龍騎もナイトもコクピットから放り出されるかと思った。

 

“イカセ……ナイワ……”

 

“アナタモ……シズミナサイ……”

 

“ワタシタチ……オナジニ……”

 

姫級深海棲艦の群れだった。

大声を張り上げているわけでもないのに、彼女たちの囁きは

上空の龍騎達の耳にまとわりつく。

今の振動は彼女たちの苛烈な対空砲火が命中したことによるものだった。

 

「おい、面倒なことになった。レーザーと速射砲が今の攻撃で潰れた」

 

「えっ、どうすんだよ!まだファイナルベントの射程外だよ!」

 

「これで時間を稼ぐ」

 

ナイトはカードをドロー、カードリーダーでスキャン。

 

『STRIKE VENT』

 

ディバインキマイラ腹部の破壊されたレーザー砲と速射砲が収納され、

新たにベノスネーカーの顎が現れた。

その口から重厚な鉄筋すら溶かす毒霧が撒き散らされる。

 

“キャアアアア……!!”

 

強酸性の毒でその身を焼かれ、悲鳴を上げる深海棲姫たち。

だが、有効と思われた攻撃が逆効果となる。

 

ズドオオオ!! ダァン!ダダァン! ドガアアアン!!

 

目を潰され、体中を走る激痛に耐えかねた彼女たちが、

もがき苦しみながらそれぞれ滅茶苦茶な方向に撃ち始めたのだ。

考えなしに放たれ、軌道の読めない砲弾がディバインキマイラの周りを飛び交う。

やがて、一発の16inch砲弾が腹に突き刺さり、爆発。苦しみに咆哮を上げる。

コクピットの龍騎達も激しく揺さぶられる。

 

「何やってる、回避しろ!」

 

「無理だよ!こんなにたくさん!」

 

このやり取りの間にも、身体中がケロイド状になった姫級たちが、

勘だけで対空砲火を繰り返している。

無数の焼ける鉄塊が打ち上げられ、進むことも戻ることもできない。

 

「もうカードないの!?」

 

「ファイナルベント以外はこれで最後だ!お前はコアミラーを目指してろ!」

 

ナイトはカードをドローし、

祈る気持ちでコクピット中央のカードリーダーにセット。スキャンした。

 

『STRIKE VENT』

 

最後のノーマルカードが発動すると、ディバインキマイラの尾が開き、

体内で待機していたガゼル型モンスターの大群が、500kg爆弾を抱えて次々と降下。

空中で深海棲姫達に向かって爆弾を投げつけた。

正確なコントロールで投げられた爆弾は、吸い寄せられるように

彼女たちに飛んでいき、命中。

直撃し爆発した大型爆弾は、彼女たちの艤装を大破させ、攻撃を封じた。

 

“ガ……ガガ……”

 

そして、爆弾が落ちなかった敵艦に直接落下すると、今度は白兵戦を挑む。

強靭な脚で砲身を蹴飛ばして折り曲げ、副砲を踏み潰し、

飛行甲板を蹴り上げ“く”の字に折り曲げた。

一時的に攻撃の手が弱まり、時間を得た龍騎達。

 

「今だ、スピードを上げろ!」

 

「これで!限界……頼む、保ってくれ!!」

 

大口径砲の直撃を受けたディバインキマイラは、傷が痛むのか、

機体の高度が少しずつ落ち、時折バランスを崩す。コアミラーはもう目の前。

ファイナルベントの射程圏まであと10秒。

彼らの周りを、砲弾、爆撃機、戦闘機が飛び交う。

 

「城戸、もう守りは捨てろ!突っ込め!」

 

「あとちょっとだ!」

 

龍騎は既に限界まで操縦桿を倒している。操縦席のモニターに彼我の距離が表示される。

有効射程まで残り500…400…300…200…100!

 

「蓮、射程距離に入ったよ!」

 

「行くぞ!!」

 

ナイトは最後のカードをドロー。カードリーダーにスキャンした。

 

『FINAL VENT』

 

砂嵐だったガンナー席のモニターが復活し、遮光フィルターを通して

眼前のコアミラーを映し出した。そして円形の照準が自動的に目標をロックオン。

ディバインキマイラの火器管制システムが最終攻撃のカウントダウンを始めた。

 

5、全身を再びゴルトフェニックスの炎が覆う。

4、ダークレイダーが翼を高速回転するホイールに変え、

突風を起こして炎を更に大きくする。

3、エビルダイバーが身体を持ち上げ、

ダークレイダー、ブランウィングが全力で羽ばたき、真上に上昇。

2、雲を抜け、嵐を抜け、ディバインキマイラは大気圏外へ突入。

1、宇宙空間でUターンし、ロックオンした標的目がけて落下。

大気との摩擦熱で全てを焼き尽くす神の炎と化し──

 

 

 

その時、空からひとつの星が流れてきた。

13体のミラーモンスターの命。そして、皆の祈りを乗せて。

コアミラーを取り巻いていた深海棲艦は、誰も撃とうとはしなかった。

理由は誰にもわからない。そのあまりにも大きな力を前に諦めたのか、

かつて仲間だった者の祈りを聞き届けたのか。

 

とにかく、彼女たちが見たのは、真っ白に輝く美しい存在が、

コアミラーに激突し、完全に打ち砕いた瞬間だった。

ディバインキマイラのファイナルベント「マーシーオブエデン」で、

ミラーワールドを支えていた存在は完全に粉砕された。

 

粉々になったコアミラーが、月夜の雪のような煌めきを放ちながら、

MI海域にゆっくりと降り注ぐ。その美しい光景に龍騎は思わず言葉を失う。

鏡の破片の一つ一つをじっと見る。それは、願いだった。

蓮、北岡、浅倉、東條、そして、神崎。

皆の願いがそれぞれの姿となってコアミラーの破片に映し出されていた。

龍騎はそのひとつに手を伸ばす。

だが、その瞬間、作戦目標を達成した龍騎達の身体は実体を失い、

間もなくMI海域から仲間の待つ鎮守府へと転送されていった。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

ヴォン!

 

「いでっ!」

 

「ふんっ!」

 

派手に地面に放り出された真司と、巧みにバランスを取って着地した蓮。

二人が戻されたのは、鎮守府の海岸だった。周りを見回すが、深海棲艦の姿はない。

 

「……どうやら、命は助かったようだ」

 

「いてて、みんなは?みんなはどこ行ったんだろう」

 

“真司さーん!!”

 

その時、真司を呼ぶ声が聞こえてきた。

黒のセーラー服に黄色い瞳の少女が、手を振りながら駆け寄ってきた。

そして、思い切り真司の胸に飛び込む。

 

「よかった、よかった……帰ってきてくれて。本当によかった!」

 

真司もまた三日月を抱きしめる。

 

「ただいま……俺達、みんなのおかげでコアミラー壊せたよ」

 

「いいんです、そんなことは、三日月は、真司さんが無事だっただけで……」

 

「邪魔してすまんが、他の連中も無事だったようだぞ」

 

本館の方を見ると、他のライダー達や秘書艦達が笑顔で真司と蓮を迎えに来ていた。

皆の無事な姿に真司は胸にこみ上げる気持ちを言葉にできない。

当然北岡や浅倉は笑顔など浮かべるはずもなく、よそ見をしたり

面倒くさそうにぶらぶら歩いていたが、そのいつも通りにほっとした気持ちになる。

真司と蓮も彼らに合流した。

足柄が前に進み出て、喜びを顔いっぱいに浮かべ、二人に言葉を贈る。

 

「城戸提督、秋山提督。コアミラー破壊の任務達成、誠におめでとうございます!

お二人のおかげで艦隊これくしょんの世界も正常な運行を取り戻し、

現実世界からミラーモンスターの脅威も消え去りました。

本当に、ありがとうございます……」

 

そして丁寧にお辞儀をした。

 

「ああ、やめてよ足柄さん。この作戦が成功したのはみんなが協力したおかげじゃん!

なあ、蓮!」

 

「まぁそうだな。MIでのコアミラーの抵抗は凄まじいものがあった。

ただライダーが全員突入しても近づくことすらできなかっただろう」

 

その時、長門が皆に声をかけた。

 

「みんな、聞いて欲しい。今、作戦司令室に偵察機から入電があった。

コアミラーを失ったMI海域の深海棲艦の配置は本来のものに戻り、

情報入手も容易になった。そこでわかったのだが、

砕かれたコアミラーの膨大な量の破片が完全に消え去るにはまだ時間がかかるらしい。

……だから、今のうちにゆっくりと別れを惜しむといい」

 

皆を包む空気がざわつく。

そう、ミラーワールドを支えるコアミラーが破壊された今、

現実世界の存在が艦隊これくしょんの世界に存在することもできなくなったのだ。

ライダー達は、秘書艦達とそれぞれの形で別れを告げようとしていた。

 

 

 

北岡と飛鷹はしばらく無言で見つめ合っていた。そして北岡が口を開く。

 

「まさか俺がゲームの女の子を愛するなんて、世の中どうなるか分からないもんだね」

 

「提督……じゃない。秀一、さん……!そう、呼んでも、いいかしら」

 

涙をこらえながら飛鷹が答える。

 

「もっと早くそう呼んで欲しかったんだけど?」

 

「やっぱり、行かなきゃ、ダメ?」

 

「いつまでもいられるならそうしたい。でも、無理なんだ。優秀な君ならわかるでしょ」

 

「それじゃあ、せめて……」

 

飛鷹は北岡を抱きしめ肩に両手を乗せ、背伸びして彼に口づけをした。

北岡も彼女を抱きしめる。

 

「他の人と一緒になっても、私の事、忘れないでね……」

 

「忘れるわけがないさ。それに、俺はこう見えて一途なタイプなんだよね。

これから贅沢に忙しくなるから女にかまけてる暇なんてないっていうか」

 

「さようなら……」

 

飛鷹は両の頬を涙で濡らしながら、北岡から身体を離した。

 

 

 

漣は大泣きして手塚を少し困らせていた。

 

「うああ~ん!!ご主人様―!これでお別れなんてメシマズです~!!」

 

苦笑した手塚はしゃがみこんで、そんな彼女の手を取り、1枚のメダルを握らせた。

 

「ぐすっ、これ、なんですか……?」

 

「漣、今まで本当にありがとう。

これは、初めてこの世界に来た時、君を選んだメダルなんだ。

これのおかげで、俺は君と出会えた。

確かにこうして触れ合うことはもうできないのかもしれない。

けど、運命が運んできた絆はこうしてつながっている。

住む世界が違っても、それを断ち切ることは誰にもできない」

 

「でも……やっぱり寂しいです」

 

「俺も寂しい。でも、別れは新たな旅立ちでもある。

もし、君が道に迷うことがあるなら、このメダルを見て勇気を出して欲しい。

人であろうとゲームの住人だろうと、必ず運命を切り拓く力はある。頑張るんだ、漣」

 

「ご主人様……わかりました。漣、もう弱音は吐きません!だから……」

 

漣は手塚を抱きしめた。手塚も彼女を抱きしめ、しばらく互いの温もりを感じていた。

 

 

 

「うおあああ!!」

 

「なんでアンタは最後くらい静かにできないの!?他の皆さんに迷惑でしょうが!」

 

例によって浅倉と足柄はいがみ合っていた。

 

「俺の部屋に置いといたやつ持ってくるの忘れたんだよ、クルーザー動かせ!」

 

「そんなの現実世界に帰って食べればいいでしょ!

それにコアミラーがなくなった影響で、提督の行動範囲は

この鎮守府内に縮小されたわよ!大体アンタ何持ってるのよ、そのデカいトランク!」

 

「どうでもいい!お前帰って持って来い……!」

 

「い・や・よ!あらやだ~ライダー提督の提督権限もなくなっちゃったみたい!ウフフ」

 

「ふざけんなコラァ!!」

 

「呵々大笑ですわ!散々手を煩わせてくれた狂犬提督が何もできなくなるなんて!」

 

「やってらんねえ!酒でも飲む……」

 

高笑いをする足柄とウィスキーをラッパ飲みして怒りを沈める浅倉。

あら?なにかしら。あのボトル見覚えがあるような……

 

「アンタ……!それ私のボトルキープじゃない!“Loving Sisters”の!」

 

「くああっ!……これか?バーテンの女に“お願い”したら快く持ってきてくれたぜ」

 

「ふざけんじゃないわよ!返しなさい!

……っていうかアンタが口つけたやつなんていらないわよ、もう!」

 

「カカカカ……」

 

頭にきた足柄は浅倉に掴みかかろうとしたが、そこではたと気がついた。

那智に持ってこさせたなら、ちゃんとその時に指定したはず。ということは……

 

「ちょっと!アンタ私の名前覚えてたわね!?

最後くらいちゃんと私を呼びなさい!ほら、大きな声で!」

 

「……狼ババア」

 

プチィィーーン!

 

とうとうキレた足柄。何も言わず浅倉に殴り掛かる。

そして浅倉も待ってましたとばかりに足柄の顔を掴む。

二人の最後の肉体的会話が始まった。

要するに、結局この二人はいつもどおりだったということだ。

 

 

 

足柄と浅倉がよろしくしているそばで、叢雲と佐野が別れの言葉を交わしていた。

 

「人の上に立つ人間になったんだから、もうちょっとシャキッとしなきゃ駄目よ」

 

「わかってるって。本当に、短い間だっただけど楽しかったよ。ありがとうね」

 

「別に……秘書艦としての仕事をしてただけよ」

 

「おかげで俺は貴重な経験ができた。ずっと忘れないから」

 

「別にいいわよ、忘れたって……」

 

叢雲が顔をそらすと、佐野が手を見た。徐々に透明になり始めていた。

 

「もうお別れみたいだ。俺、頑張るから。叢雲も元気でね」

 

「あんたも、元気でね……あと、お弁当ありがとう」

 

「……うん、さようなら!」

 

短いながらも共に時を過ごした二人は、友情が芽生えたばかりの時期に

ほろ苦い別れを迎えることとなった。

 

 

 

香川、東條の二人を電と五月雨が見送っていた。

 

「二人共、結局私達のわがままに付き合わせるだけになってしまいましたね。

心からお詫びします」

 

「いいえ、提督のサポートをするのが五月雨達の仕事ですから。

もっとお話したかったのは本当ですけど」

 

「僕はこの世界でいろんな間違いをしてみんなに迷惑をかけた。

でも、その中でひとつの答えを得られたのも事実なんだ。

それを支えてくれたのは君だよ、本当にありがとう」

 

「いいんです!電は、ちょこっとしかお手伝いできませんでしたし」

 

ヌフフフ……

 

そんな彼らを影から見つめる存在が。

いいですねぇ、ライダー提督と秘書艦達の涙の別れ!

艦隊新聞の次号はこれで行きましょう。

 

「青葉さんも出てきてくれないかな?」

 

「ギクッ!あはは、バレちゃってましたか~。

こっそり城戸鎮守府に潜入して待つこと数時間……」

 

「君には一番迷惑……いや、それどころじゃない苦しみを与えた。ごめんなさい。

それと、赦してくれて、ありがとう。やっぱり君は僕の英雄だよ」

 

「や、やめてくださいよう。青葉そういうの苦手で……」

 

「そうだ、最後に記念撮影しようよ。僕、デジカメ持ってるからさ」

 

東條は上着から薄型のデジカメを取り出した。途端に慌てふためく青葉。

 

「ええっ!いや、青葉はいいんですよ!撮られるんじゃなくて撮る方なんですから!」

 

「お願い、最後に1枚だけ」

 

「ええと……じゃあ、1枚だけ。1枚だけですよ?」

 

照れくさそうに答える青葉。そして東條は青葉とのツーショットを撮り、

その後、電や五月雨も呼んで結局皆で記念撮影をした。

 

 

 

蓮と吹雪、そして加賀は本館前広場でベンチに座り、静かに語り合っていた。

 

「私達が出会ったのは、ここでしたよね」

 

「ああ。軍服を持ったお前に追い回されていたときだった」

 

「そうですよ。どうしても着てくださらなかったから、ずーっと追いかけてたんです」

 

「お前は妙なところで頑固だからな。

それで疲れて座っていたら、そこの面倒くさそうなやつが絡んできたわけだ」

 

蓮が端に座る加賀を見た。

 

「私は事実を言っただけ。面倒くさそうなのはお互い様でしょ。

貴方、女の子から近寄りがたいって言われてるわよ」

 

「そんなことは知らん。それで、どういうわけか決闘になったわけだ。

結局、殴り合いのほうが意思が通じやすかったってことだな」

 

「馬鹿なことをしたわね。わざわざ意地のために命を賭けるなんて」

 

「それに乗ったお前も大概馬鹿だ」

 

「なんですって」

 

「ま、まあまあ!お別れのときくらい口喧嘩はほどほどにしませんか」

 

慌てて二人をなだめる。もっとも、二人共本気で怒ってなどいないのだが。

 

「別れといえば吹雪、お前のことだ」

 

「え?私、ですか」

 

蓮は被っていた軍帽を脱ぎ、吹雪に被せた。

 

「返すぞ。俺にはもう必要ない。改二にしてやれなくてすまなかったな」

 

「……っ!いいんです。言ったじゃないですか、努力じゃ誰にも負けないって。

道のりは長いけど、必ず演習を積んで駆逐艦のエースになってみせます!」

 

涙ぐむ吹雪に蓮は何も言わず、微笑みで答えた。そして、加賀に話しかける。

 

「加賀、後のことは頼む」

 

「言われなくても」

 

「お前も約束を守れなくてすまなかったな」

 

「約束?」

 

「お前の腹にでかい穴を開けてやれなくてすまなかったな」

 

「……ふん、相変わらず口の減らない男」

 

だが、加賀は口だけで少し微笑んでいた。

 

 

 

そして。

三日月と真司は海岸に二人きりで立っていた。穏やかな波の音。

飛び立つかもめの鳴き声。吹き付ける優しい潮風。全てが二人を見守るように。

真司が語りだした。

 

「たった2ヶ月ちょっとだけど、俺、三日月ちゃんと出会えてよかった」

 

「三日月もです……」

 

真司も三日月も、言いたいことが多すぎて、なかなか言葉にならない。

無理矢理口調を明るくして、また真司が話し始める。

 

「いや~初めて出会った時は、てんやわんやだったよね!

いきなりゲームの世界に来たと思ったら、深海棲艦が攻めて来て、

帰ってきたら牢屋行きだし」

 

「あの時は、ごめんなさい……」

 

「あぁ、違うんだよ!そういうハプニングとか何かそんなのも含めて、

三日月ちゃんと過ごせてよかったな~って思ってるんだよ、俺!」

 

「真司さん。三日月も、真司さんが提督になってくれて嬉しかったです。

人間を諦めていた三日月に希望を与えてくれて、

それからいっぱい、いっぱい、楽しい思い出をくれて」

 

そっと三日月の手を握る真司。

 

「思い出をくれたのは、三日月ちゃんも同じだよ。

三日月ちゃんと一緒にいたから、数え切れないくらいの思い出ができた」

 

「真司さん……」

 

そして三日月は真司に身を預けた。彼の耳にすすり泣く声が聞こえる。

 

「真司さんを困らせるだけだってわかってるんですけど、

やっぱり三日月お別れしたくないです。

あの執務室から真司さんがいなくなるなんて、思いたくないです!」

 

「お別れじゃないよ」

 

「えっ……」

 

三日月の肩に両手を当て、まっすぐ向かい合う。

 

「少し長いログアウトをするだけだよ。

今は2013年。俺は2002年に戻るけど、絶対君の事を忘れない。

10年後、艦隊これくしょんが生まれたら、必ず君を迎えに行く。

だから、信じて待ってて」

 

「ううっ……はいっ!三日月、待ちます。

真司さんは、必ず約束を守ってくれますから!」

 

三日月は涙を拭いながら何度も頷いた。

 

「ありがとう……それじゃあ、行くところがあるから、一緒に来てくれるかな。

提督としての、最後のお願い」

 

「もちろんです!秘書艦としての最後の仕事、全うさせてください!」

 

彼女は涙と共に精一杯の笑顔を浮かべて答えた。

 

 

 

「……お前に与えられる、最後の選択肢だ」

 

工廠の前で、神崎と優衣にオーディン、そして長門と明石が集まっていた。

真司は三日月を連れて神崎に歩み寄る。

 

「……龍騎か」

 

「神崎……今からお前がこの鎮守府の提督だ。優衣ちゃんのこと、絶対守れよな!」

 

その言葉と同時に、鎮守府に展開されていた見えない力が神崎に集まった。

城戸鎮守府の主が交代した瞬間だった。

 

「命に変えても。龍騎、お前がライダーバトルという因果を打ち崩す

ワイルドカードになるとは、正直思っていなかった。

優衣に生きるチャンスを与えてくれたことに感謝する。……ありがとう」

 

神崎は相変わらずの無表情で頭を下げた。

 

「礼なんかいいよ!ええと、あの、優衣ちゃん泣かせたら、絶対許さないかんな!」

 

「真司さん、娘をお嫁に出す父親じゃないんですから……」

 

三日月が苦笑いでツッコむ。そして優衣が語りかけてきた。

 

「真司君、私は本当にお別れだね。

このミラーワールドで、みんなが無事に10年後を迎えられる様に祈ってるから」

 

「優衣ちゃん……蓮には会ったの?」

 

「うん。もうお別れは済ませてきた。これ以上一緒にいると、余計辛くなるから……」

 

会話が途切れた頃合いを見て、長門が話しかけてきた。

 

「提督。名残惜しいが、貴方ともこれでお別れだな。

貴方が艦娘達にしてくれたこと、艦これの世界に残した足跡は決して忘れない」

 

「やめてよ、長門。いろいろ助けてくれたのは長門も一緒じゃん。

それに、三日月ちゃんには話したけど、俺達はお別れになるわけじゃない。

現実世界が2013年になれば、また逢えるんだよ。だから、俺はさよならは言わない。

次のログインまで、元気でね!」

 

「提督……そうだな、そうだったな。また貴方の元で戦える日を楽しみにしている」

 

「明石のことも忘れないでくださいね!

次に会う時は、ネジをたくさん回していただけると嬉しいかな?

って思ったりなんかして~」

 

明石は彼女らしい明るい笑顔で、一旦の別れを告げた。

 

「いっぱい難関クエストこなさなきゃね!

……それじゃあ、行こうか。みんな、元気でね!」

 

真司は皆に手を振る。その手は間もなく消え行こうとしている。

 

 

 

 

 

──海岸

 

 

最後の時。ライダー達は海岸に勢揃いしていた。向かい合って秘書艦達も集まり、

二者の別れに立ち会うように、契約モンスター達がその間に一歩引いて集まっていた。

 

「家に帰ったら柔らかいベッドで眠るんだ……」

 

芝浦は地べたに座り込んで独り言を繰り返していた。

 

「畜生っ、向こうに戻ったらこんな連中……!」

 

高見沢が砂を蹴って恨み言をつぶやくが、耳を貸すものはいなかった。

 

「最後に鳳翔さんに会いたかったけど、もう移動できないんじゃしょうがないわね……

お母さんみたいな人だった」

 

美浦が鳳翔に別れを告げられなかった事を惜しむ。

 

 

 

<以上が、原因不明の失踪事件の真相であり、

仮面ライダーと名乗る人間達の、戦いの真実である>

 

 

 

艦娘代表として、長門が前に出てきた。ライダー組からは真司が。

 

「提督、他の提督方も、重ね重ね礼を言う。

艦これ世界の危機を救い、艦娘達に与えたその影響は計り知れない」

 

「この世界が危ない目に遭ったのも、元はと言えば、現実世界の都合が原因だし、

俺達だって、みんなから素敵な思い出いっぱいもらった。本当にありがとう」

 

両者は固い握手を交わした。

 

 

 

<この戦いに正義は、ない>

 

 

 

そして、真司は後ろに下がり、皆と合流する。

その姿はゆっくりと、だが確実に空間に溶け込み、薄れていく。

艦娘達は皆、万感の思いで彼らを見守っていた。

契約モンスター達も、本来自分たちがいるべき次元へ次々と帰っていき、

1体がその列を離れる。そして、昇る陽が一瞬眩しく皆を照らすと、

もうライダー達は消えていた。

誰もいなくなった砂浜で、艦娘達はいつまでも彼らがいた場所を見つめていた。

 

 

 

<そこにあるのは、純粋な願いだけである>

 

 

 

気がつくと、真司達はDMM.com本社ビルの前にいた。

突然現れた集団を通行人がチラチラ見ながら歩いて行く。

真司は別れの余韻に浸っている暇もなく、

後ろから来た車のクラクションで現実の世界に引き戻された。

 

「あっとと、ごめんなさい!」

 

とりあえず全員歩道に移動したが、

ほとんどの者がどこか時差ボケのようにぼんやりしている。

今まで生活と一体化していた、艦これの世界がなくなった事実を受け入れるのに

時間が掛かっているようだ。そして、しばらく都会の喧騒に触れていると、

皆、やるべきことを思い出したのか、一人、また一人と立ち上がった。

やがて、真司も頭を振り、パンと両足を叩くと、

とりあえずその場に立ってズボンのホコリを払い、

 

「っしゃあ!」

 

OREジャーナルを目指して歩き始めた。

それを見た他の元ライダー達も、それぞれの目的地へと歩きだした。

彼らの進むべき場所が別々であるかのように、皆の歩む道もまた別々だった。

 

 

 

<その是非を問えるのは_>

 

 

俺はそこでWordを閉じた。この記事を公表するつもりはない。

しかし、誰かが記録に留めておかなければならない。そんな気がして文書を作成した。

そして、“艦これ”のブックマークをクリックする。

表示されるのは、『404 not found』。

 

ある日を境に艦隊これくしょんはネット上から姿を消した。

オタク達は嘆き、世界は日本の隠蔽工作だと騒ぎ立て、

日本はその火消しに追われていた。だが、今となってはどうでもいい。

 

重要なのは、未来(これから)なのだから。連続失踪事件という

大ネタを無くしたのは痛いが、ないなら他を探すのが俺たちの仕事、問題はない。

優秀な記者に頼れるエンジニア。

そして、時々後先考えず突っ走る、しょっちゅう心配かけてくれる後輩。

このメンバーならやっていける。噂をすれば──

 

バタン!

 

「すみません!城戸真司、ただいま出社いたしました!」

 

「コラ!遅えぞ馬鹿真司!今何時だと思ってんだ!」

 

今日も、俺のOREジャーナルはいつも通りだ。

 

 

 

 

 

──北岡法律事務所

 

 

朝食を終えた北岡は、食器を下げようとする吾郎にふと呟いた。

 

「飛鷹には言ってなかったけどさ……」

 

「なんでしょう」

 

「俺、やっぱり浅倉とはちゃんと決着つけてやんなきゃいけないと思うのよ」

 

「先生……」

 

北岡はデスクに着いたまま手を組み、何かを待っている様子だ。

 

ルルルルル……

 

デスクの電話が呼び出し音を鳴らす。すかさず北岡が取った。

こんな朝早くから誰だろう。特急の依頼だろうか。炊事場へ戻りながら吾郎は考える。

 

「もしもし?……ああ俺だよ」

 

「……覚えてるっての。お前と違って頭はいいんだよ」

 

「で、どこにする?……わかった。え、今から?ああ、そうだな、お前時間ないもんな」

 

「わかった、今行く」

 

そして北岡は電話を切った。そしてスーツの上着を羽織ると、

 

「吾郎ちゃん、ちょっと出かけてくるわ。後お願い」

 

「どうしたんですか、こんな朝から」

 

「急用ができちゃってさ。すぐ戻るよ、それじゃあ」

 

北岡は笑って二本指でサインを送った。しかし、その姿に吾郎は一抹の不安を覚えた。

 

 

 

 

 

──廃工場

 

 

北岡はベンツを停めると、都心の外れにある、

操業を停止してから何年も放置されている何かの生産工場らしき場所に着いた。

各所にパレットに乗せられた古い資材が積まれており、錆びついた機械が設置され、

細い階段が吹き抜けの二階へつながっている。

 

二階には、梯子状に薄い鉄板の通路が敷かれ、移動がしやすくなっている。

なるほど、遮蔽物が多くて移動も自由自在。決闘の場としてはなかなかいいんじゃない?

 

その時、固いものをゴロゴロと引きずりながら、工場の真向かいの端に浅倉威が現れた。

鉄パイプを肩にかけ、ニヤリと笑う。

 

「ハッ……!よく来たな。逃げ出すんじゃないかと思ってたぜ」

 

「俺はこれから愉快で楽しい贅沢ライフを楽しまなきゃいけないんだよ。

お前にまとわりつかれてちゃ迷惑っていうか」

 

「今からもっと愉快になるぜ。逃げなかったご褒美だ。そいつを開けろ……」

 

浅倉は北岡の足元にある緑色のコンテナを顎で示した。

開けてみると、中にはオートマチック拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、

手榴弾、そして大量の弾薬。

どれも見たことのないメーカーのもの。恐らく工廠の小人に作らせたのだろう。

北岡は、使い慣れたマグナバイザーに形状が近いオートマチック拳銃を手に取り、

スライドを引いた。そしてポケットにマガジンを詰め込めるだけ詰め込む。

 

「……それでいいのか。もっとデカい銃もあるぜ」

 

「あんまりごちゃごちゃした戦いは好きじゃない。当てれば問題ないだろ」

 

「そうだ!殺りゃあいいんだよ……最後のライダーバトル、スタートだ!!」

 

その言葉を合図に、浅倉が鉄パイプを持って前傾姿勢で走ってきた。

北岡は銃を持つ右手の手首を持ち、狙いを定め、トリガーを引く。

派手な銃声と共に銃口から炎と弾丸が発射される。

これまではライダースーツの補助もあり、ほとんど感じなかった反動が

直接右手に響いてくる。浅倉は瞬時に廃棄資材に隠れ、弾丸を防いだ。

 

「やっぱりというかなんというか、“本物”は違うね」

 

北岡は銃を構えながら、慎重に浅倉が隠れた資材に近づく。

さっと遮蔽物に後ろに周り、バン!バン!と2発撃つが、誰もいない。

どこに行った?素早く視線を走らせ浅倉を探す。

 

「オラァ!」

 

すると、突然背後から鉄パイプが振り下ろされた。

一瞬の差で身をかわすことができたが、一体どこにいた!?

浅倉は資材に隣接するベルトコンベアに隠れて、かがみながら資材の前に周り、

探しに来た北岡を不意打ちしたのだ。

 

反射的に撃ち返すが、また浅倉は身体を横に回転させ、資材を盾に弾丸から身を守った。

そして、遠ざかっていく足跡。また奇襲攻撃を仕掛けるつもりだ。

入り組んだ工場内で長期戦を挑むのは不利だ。

 

北岡は警戒しつつコンテナのところに戻る。そして手榴弾を3個ポケットにしまい、

また戦場に戻る。改めて工場内を見回す。

2階に上がったならあの鉄製の階段が音を立てるはず。

北岡は数ある資材の山のうち、怪しいものに目星をつける。

手榴弾のピンを抜き、資材に向けて放り投げた。一拍置いて、爆発。

直撃はしなかったが、向かいにある資材から浅倉が飛び出した。

 

奥に逃げる浅倉にすかさず銃撃。4発撃ったが命中せず。

しかし、奴の居場所はある程度特定できた。北岡はポケットからマガジンを取り出し、

リロードしながらゆっくりと奥に進む。浅倉は自分から見て右側を走っていった。

だから警戒すべきは右側の遮蔽物。と、思った瞬間、

 

「ハハハハァ!!」

 

吹き抜けの2階から浅倉が飛び降りてきた。鉄パイプの一撃が放たれる。

今度は避けきれなかった。左手に振り抜かれた鉄パイプが当たった。

 

「ぐっ!」

 

多分指を骨折した。だが、気にする間もなく片手の拳銃を何発も撃つ。

浅倉には当たらなかったが、一発が鉄パイプを弾き飛ばした。

鉄パイプを握っていた右手が痺れ、一瞬よろける。

銃口を浅倉に向けるが、奴は逃げようとせず、身を低くして突進してきた。

二人共床に転がりながら、お互いの手を抑えあう。

浅倉の意外な行動に北岡も銃を落としてしまう。

戦いに興奮した様子の浅倉に話しかけた。

 

「へえ……どんな手品使ったの」

 

「靴脱げば楽勝だ……!」

 

よく見ると浅倉は靴下しか履いていない。

つまり靴を脱いで足音を消して2階に上り、1階の北岡を奇襲したのだ。

ともかく、二人共互いに両手を塞いでいるため、

このままでは先に体力を消耗したほうが負けだ。

組み敷かれた北岡は何度も膝蹴りを放つが、この体勢では上手く力が入らない。

銃に手を伸ばそうとすれば首を締められる。

 

北岡は激しく身体を揺さぶって、とにかく現状から脱出することに全力を注ぐ。

いきなりもがき出した北岡にバランスを崩され、片手を投げ出してしまった浅倉。

今しかない!北岡は足で床を蹴り、拳銃の元へ滑り、手を伸ばした。

そして、当てるというより追い払うため、狙いもそこそこに何度もトリガーを引いた。

カチ、カチ、と弾切れの音。すぐに立ち上がって走り出し、浅倉と距離を取る。

リロードしながら浅倉を見ると、腕を抑えてうずくまっている。

 

「ぐうっ……!」

 

左腕から出血。一発が左腕に命中したのだ。

ひとつ息をついて浅倉の頭部に狙いを定める。この距離なら片手撃ちでも当たるだろう。

 

「もう終わりだ。大人しく拘置所に戻りなよ。

いくらお前が殺人犯でも、殺せばこの状況じゃ殺人罪は避けられないからさ」

 

「……」

 

浅倉はうずくまったまま何も言わない。

不気味な何かを感じたが、これ以上近づくのも危険だ。

 

「ひょっとして死んでる?勘弁して……」

 

ヒュパッ!!

 

その時、腹に何かの感触を覚えた。思わず下を見る。

ワイシャツがどんどん赤く染まっていく。足から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

 

「ハ……さっさと撃たねえからこうなるんだ!」

 

浅倉が隠し持っていたスイッチブレードを思い切り投げたのだ。

 

「ふん、やっぱり、お前、最悪だよ……」

 

刃は抜かずに両手で傷口を抑えながら軽口を叩く北岡。浅倉が落とした銃を拾い上げた。

そして北岡の眉間に銃口を向ける。

 

「……あばよ」

 

逆恨みとは言え、因縁の相手との決着を迎え、歓喜の絶頂に達する浅倉。

トリガーに掛かった指が徐々に引かれる。だが、

 

 

 

「総員、突入!浅倉を確保せよ!」

 

 

 

号令とともに、強化プラスチックの盾を構えた機動隊員がなだれ込んできた。

即座に屈強な隊員達に周りから盾を押し付けられ、身動きが取れなくなる浅倉。

北岡はすぐさま応急処置を受ける。

 

「北岡ァ!てめえ!!」

 

「違う、俺じゃ、ない……」

 

決闘の最後に邪魔が入り、浅倉は激怒する。

北岡は弱々しい声で否定するが、周囲の雑音にかき消される。

 

“突入に成功。浅倉威確保、浅倉威確保!負傷者を発見、救急車の手配を乞う!以上”

 

機動隊員の向こうに吾郎が立っていた。担架で運ばれる北岡に付き添う彼に話しかけた。

 

「なんで、こんなこと、したの……?」

 

「それは俺の台詞です!なんでこんな馬鹿なことしたんですか!

せっかく拾った命を無駄にするところだったんですよ!

こんなこと……飛鷹先輩が喜ぶわけないじゃないですか!」

 

「取引、したんだよ。あの時、モンスターの合体に、協力すれば、

真剣勝負の、殺し合いをしてやるって……」

 

「先生……絶対生きてください!」

 

「当たり前、じゃん……」

 

そして北岡は救急搬送されていった。去っていく救急車を見送る吾郎は、

浅倉が叫び声を上げながら護送車に乗せられていくのを見た。

こうして、最後のライダーバトルは幕を閉じた。

 

それは東京の片隅で起きた些細な出来事。

不思議なカードもなければ仲間のモンスターもいない。

世の中から見れば本当に小さな事件に過ぎなかった。

だが、ライダー二人にとってはそれが全てだったのだ。

 

さて、これで、全ての戦いが終わりを告げた。

もうミラーモンスターに人間が捕食されることも、未来のゲームで

世界が混乱することも、もうないのだ。東京の街は生きていく。

そこに生きる全ての人間の欲望を乗せて。

生き方が千差万別であろうと、欲望だけは変わらない。それだけは事実なのだから。

 

 




*エピローグがございます。製作中なのでしばらくお待ち下さい。

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