【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第39話 Thirteen Riders

激戦の後。皆、疲労困憊しているはずなのに、待ち続けた。彼らの帰りを待ち続けた。

桟橋の近くで全てのライダーと秘書艦達が、

転送クルーザーが真司達を連れ帰るのをひたすら待っていた。そして時が来た。

 

クルーザーが光を放ち、廃墟と化した鎮守府から真司と蓮を運んできたのだ。

真司と蓮が桟橋に足を乗せると、歓声が上がった。そして、見知らぬ女性。

だが、彼らが命をかけて救い出したショートカットの女性が降り立つと、

更にその声が大きくなる。しかし、その喜びは次の瞬間消え失せた。

なぜなら、全ての元凶たる神崎士郎とその右腕、オーディンが後から姿を現したからだ。

 

「総員、戦闘態勢!!」

 

誰が叫んだか、全員再び武器を取り、艦娘は砲を向け、ライダーは武器を召喚した。

真司は慌てて皆をなだめる。

 

「みんな待って!待ってよ!もう神崎もオーディンも敵じゃない!

武器を下ろしてよ、頼むから!」

 

集まった仲間の中から、長門が厳しい目をして真司に顔を近づける。

 

「提督、これは一体どういうことだ!説明してもらおう!」

 

「いや、だからさ、事情が込み入ってて、

俺もまだ上手く説明できないんだよ……痛っ!」

 

今にも掴みかからんほどの勢いで真司を問い詰める長門。

思わず自分の傷を忘れて弁解する。見かねた蓮が助け舟を出した。

 

「長門、他のやつも言いたいことがあるのはわかる。

だが、こいつはオーディンとの戦いで重傷を負った。

今は落ち着いてるが検査と治療が必要だ。

とりあえず神崎とオーディンは敵でなくなった。

それだけは信じて今は休ませてやってほしい。頼む」

 

蓮の冷静な口調で徐々に長門の頭が冷える。

 

「ああ、すまなかった!

無傷でこんな状況は生まれないことくらい、わかりそうなものなのに……」

 

長門は、こめかみに指先を当てて緊急シグナルを発した。

神崎とオーディン、そして、傷だらけの二人を見る。

 

「救護班、すぐに担架を!負傷者2名を直ちに収容せよ!」

 

そして、後ろを振り返り、仲間達に告げた。

 

「みんな、聞いての通りだ!いつコアミラーの襲撃があるかわからない。

油断はできないが、とにかく休めるうちに休んで欲しい!

……神崎とオーディンは話がある。作戦司令室まで来てもらおうか」

 

「ああ……」

 

ライダーや艦娘達は、神崎達を不審な目で見ながら、

それぞれにあてがわれた本館の客室に向かった。

 

「さあ、お前達はこっちだ。ダミー鎮守府での出来事を詳細に説明しろ。

司令代理として全てを知っておく必要がある」

 

「そう警戒せずとも消えはしない。いや、消えることができなくなったと言うべきだが」

 

「無駄口を叩くな!オーディンも不審な動きを見せれば命はないと思え」

 

艤装を操作し、背中の41cm連装砲を向ける。

 

「私はこの有様。カードデッキが破損した今、姿を保つのがせいぜいだ」

 

「お前にも聞きたいことが山ほどある。こっちだ!」

 

そして真司達も駆けつけた医務室に運ばれ、応急処置が施された。

 

 

 

 

 

──本館 北岡用客室

 

 

北岡は客室に備え付けられたシャワーで汗を流し、

ガウンを着てソファで体を休めていた。

軽微な傷を負っていた飛鷹は宿舎の風呂に入っている。

吾郎が北岡の着替えを持ってきた。糊のきいたワイシャツと、

あいにく代えがなくブラシで汚れだけを落とした高級スーツ。

 

カシャン!

 

彼が腕に下げたそれらを北岡に渡そうとした時、

スーツからゾルダのデッキが落ちてしまった。慌てて拾おうとする。

 

「すいません!」

 

「ああ、いいよいいよ。……俺さ、本気で止めようと思ってるんだよね、ライダー」

 

「先生……」

 

「ああ、別に病気のせいじゃないよ。なんか、疲れたっていうか、虚しいっていうか。

それにほら、永遠の命がなくても、結構面白おかしく暮らしてるじゃない、俺。

だからさ……どう思う、吾郎ちゃん?」

 

「俺は……先生が満足して、毎日を送れるなら、それが一番いいと思ってますから」

 

「ふっ、満足してるよ!吾郎ちゃんのおかげで」

 

「ありがとうございます」

 

「よし決めた。ライダー引退記念に、

また吾郎ちゃんのフルコースでパーっとやりますか。

また飛鷹がびっくりするようなやつ頼むよ」

 

そして紅茶のカップを手に取るが、手が震え、落としてしまった。

派手な音を立てて割れるティーカップ。

 

「ちょっと……手に力が入らなくて」

 

「このところ、戦いが続いてましたから。紅茶、入れ直してきます」

 

吾郎は無理に笑い、給湯室のある執務室に去っていった。

 

「……結構保ったよな」

 

北岡は震える手を見て一人つぶやいた。

 

 

 

 

 

──食堂

 

 

一夜明け。

真司と蓮の治療が済み、まだ戦闘が出来るほどではないものの、

座りながら皆に状況説明が出来るまでには回復した。

ライダーも艦娘も思い思いの席に着き、彼らが来るのを待っていた。

そして、優衣が押す車椅子に乗った真司と、松葉杖を断り片足で跳ねる蓮が

食堂に来ると、場の空気が静まり返る。

 

一体何がどうなって神崎とオーディンがライダーバトルを止めるに至ったのか。

皆、気になって昨夜はよく眠れなかった。当の神崎とオーディンは既に食堂に来ており、

二人共窓辺で微動だにせず立っていた。誰も、話しかけようとはしなかった。

 

「ありがと優衣ちゃん!ここでいいよ」

 

優衣が車椅子を出入り口近くに止め、彼女と蓮が適当な椅子に座ると、

真司が口を開いた。

 

「みんな、本当にありがとう!俺達がいない間、鎮守府を守ってくれて。

凄く大変だったって聞いてる。誰も犠牲者が出なかったのは、やっぱりみんなが……」

 

「前置きが長いんだよ城戸君。そんなのはいいから早いとこ本題に入ってよ。

あの存在感出しまくりの二人がどうしてライダーバトルを止めることにしたのか、

そもそもなんでここに来たのか、そこら辺が聞きたいわけよ」

 

真司の前口上を遮って、北岡が本題を求めた。

 

「ああ、ごめん……じゃあ、ダミー鎮守府に入ったところから話すね。

まず俺達が優衣ちゃんを探していると、本館から優衣ちゃんが出てきたんだ。

連れて帰ろうとしたら、そこのオーディンと戦闘になったわけ。

俺は見ての通りの重傷を負ったんだけど、蓮が倒してくれた。

 

その後俺達は本館に乗り込んで、優衣ちゃんを見つけたんだけど、神崎も一緒だった。

でも、優衣ちゃんに聞いたら、神崎も

もう存在を保っていられる時間は殆ど残されていなかったんだ。

だけど、その部屋に追いてあった鏡に、少年時代の神崎の姿が浮かび上がって、

話しかけてきたんだ」

 

「話ってなんですか?」

 

いろいろ聞きたくて我慢していた足柄がとうとう発言した。

 

「それは……“自分も優衣を救いたい”。昔、優衣ちゃんが病気で倒れた時、

ミラーワールドの優衣ちゃんが命をくれて助かった時と同じ。

……あ、これって話したかな?」

 

反応はまちまちだった。知っている者、知らない者、ほぼ同数。

 

「ごめん。大事なことなのに、全然情報共有できてなかった。

ライダーバトルのこととかで頭が一杯で、ちゃんと話したことなかった……」

 

「つくづくお前らしい。とにかく、優衣はかつて幼いころに命を落としかけた。

だが、ミラーワールドの自分から期限付きの命を貰った。その期限は来月。

現実世界に居続ければ消滅する運命にあった。

それを避けるために神崎が現実世界とミラーワールド、2つの性質を持つ艦これ世界に

連れてきた。そう、優衣はミラーワールドの人間だ……」

 

蓮が簡潔に説明してくれた。やっぱりこういう時に頼りになる、と言おうとしてやめた。

また悪し様に言われるだろう。その時、優衣が真司に視線を送る。真司は黙って頷いた。

そして彼女が立ち上がり、不安げに皆を見渡してから、語り始めた。

 

「みなさん、自己紹介が遅れてすみません。私が神崎士郎の妹の優衣です。

今、蓮が話してくれたように、兄が皆さんに大変な苦しみを与えてしまったことは、

全部私のせいなんです。兄と私は幼いころ、両親に見捨てられ、

小さな部屋でずっと絵を書いていました。

ドラグレッダー、マグナギガ、デストワイルダー、その他全てのミラーモンスターの絵。

そして、ミラーモンスターを従えて私達を守ってくれる仮面ライダーの絵を。

 

きっと兄は、その時の願いを抱き続けたまま、ミラーワールドを開いて、

かつて願った存在を造り出したんだと思います。

つまり、もとを正せば、ライダーバトルが始まるきっかけを作ったのは、

私だったんです。本当に、すみませんでした!」

 

そして、優衣が深く頭を下げた。

 

「そう……そんな、信じられないことがあったの。

子供たちの願いが、こんな残酷な形で現実になるなんて」

 

飛鷹は神崎兄妹の出自とミラーワールドの起源について驚きを隠せない様子だ。

その表情に怒りはなく、むしろ悲しみが浮かんでいた。

 

「で、兄貴の方からは一言もないんだけど?」

 

北岡が窓際の神崎を見て、優衣の言葉に反応を求める。

 

「俺がミラーワールドを開いた経緯については、大方優衣が話した通りだ。

このサイバーミラーワールドで傷ついた住人には、心から詫びる。

だが、自らの意志で戦いに身を投じたライダーについては、特に言うことはない」

 

「お前なぁ!ライダーがどんな気持ちで……あたた!」

 

真司は無表情でライダーを突き放す神崎に食ってかかろうとしたが、

車椅子に乗っていたことを忘れて治りきってない傷を痛めた。

 

「落ち着きなって。

この鉄面皮から艦これのみんなへ謝罪を引き出せただけでも良しとしようよ。

それに……俺達がバトルに参加しなきゃ、

そもそも何も起こらなかったのも事実なんだし?」

 

そして北岡はコーヒーを一口飲む。ライダー達が少し黙った後、蓮が話を再開した。

 

「……神崎少年に話を戻そう。そいつが言うには、

“自分も神崎が優衣を救おうとし、何度も失敗するところを見てきた”、

“自分が間もなく消滅する運命にある”、

“命を2つに分けてくれてやろう”。

要約するとこんなところだが、最も重要なのは、

そこで命が3つ手に入ったということだ」

 

「何度も失敗?2つもらったのに手に入ったのは3つ?漣の脳があぼーんしそうです……」

 

混乱する漣。まだ重要なキーワードが出ていないのだから無理もないだろう。

 

「すまない。何しろ事情が込み入っている。

まず、このライダーバトルで命を必要としていたのは、まずは神崎。

妹の優衣を救うためだった。二人目は北岡。

事情はよく知らんが少年の神崎が言っていた。

最後に……俺だ。恋人が意識不明の重体だ」

 

食堂のメンバーがどよめく。一番自分のことを語りたがらない蓮の事情を聞いて驚いた。

 

「だが、この候補から優衣は除外される。

消滅の心配がないこのミラーワールドで生きることを選択したからだ。

次に、少年の神崎は2つの命のうち、1つをそこにいる神崎に与えた。

自分に代わって優衣を守らせるために。

そうなると、残る命は1つだが、ここでもう一つの“命”が現れる。

優衣に完全な新しい命を与えることを諦めた神崎が、

オーディンから1枚のカードを回収した。

“TIME VENT”という、時間を巻き戻すことのできるカードだ」

 

「にわかには信じがたいですね。

既存の物理学では到底実現不可能な現象をカード1枚で発動できるとは」

 

香川が教授らしく反論する。

 

「可能か不可能かはこの際置いておく。

“TIME VENT”を使えば、死に至る原因が発生する前に時間を遡り、危機を回避できる。

そういう意味での“命”だ。だが、ここで問題がある。

神崎少年から受け取った命と“TIME VENT”には決定的な差がある」

 

「差……?」

 

蓮のそばに立っていた加賀が小さな声で尋ねる。

 

「“TIME VENT”が完全に死を避けられるのに対し、

神崎少年から受け取った命は10年という期限付きだ。

優衣が現実世界で生きられなくなったのと原因は同じだ。

もう、命が必要なのは俺か、北岡しかいない。

どちらがどちらを手に入れるかだが、俺は最後のライダーバトル……」

 

 

「お前持ってきなよ、“TIME VENT”」

 

 

北岡が蓮に背を向けて言い放った。吾郎にも飛鷹にも、そして蓮にも衝撃が走る。

常に自分の幸せを最優先にしてきた北岡が、

完璧な形で助かる方法を手放すと言っているのだ。しばらく皆、言葉が出なかった。

大きく一つ息をついた蓮が、ようやく言葉を口にした。

 

「……何を考えている」

 

「別に?ただ、もうお前と顔つき合わせてドンパチやるのにうんざりしたっていうか、

無駄に長生きしてヨボヨボになりたいとも思わないんだよね。発送の転換っていうの?

今までは永遠の命を得るために戦ってたけど、これからは太く短く。

仕事なんかやめにして贅沢三昧の10年を生きるのも、悪くないかなって。

これ、裁判でも重要な思考だから」

 

「先生!どうして諦めるんですか!?まだ可能性はあるじゃないですか!」

 

吾郎が北岡に駆け寄り、考え直すよう迫る。

 

「そうよ!どうして生きるチャンスを捨てるような事するのよ!

最後まで一緒だっていったじゃない!こんな形で終わりになるなんて、嫌……」

 

飛鷹が目に涙を浮かべて訴える。だが、本人は明るい調子で答える。

 

「二人共、俺が自殺するみたいな言い方やめてくれないかなぁ。

俺は、自分の人生を一番素敵な形で送りたいだけだよ。

それに……“TIME VENT”だかなんだか知らないけど、

怪しいカードに命預けるつもりもないし」

 

「ぐすっ……どういう、こと……?」

 

「ねえ神崎。そのカードってさ、過去に遡るんだよね」

 

「……ああ、そうだ」

 

「もし俺が病気の発症前にタイムトラベルして治療に専念してたら、

吾郎ちゃんからも飛鷹からも俺のこと忘れられそうじゃん。

そもそも出会うことがないんだから。

勘弁して欲しいよね、俺、こう見えても結構寂しがりなんだからさ」

 

「先生……」

 

「提督!……お願い、ずっとここにいて!私も貴方の素敵な人生に加えてよ!

お願いだから……!」

 

泣きながら北岡に抱きつき、訴える飛鷹。北岡も彼女を抱き返す。

 

「……ありがとう。もう君と出会えただけで十分素敵な人生だよ。

それに、コアミラーを破壊したらミラーワールドは閉じられる。

俺達現実世界の存在は、はじき出されるんだ。頼むよ、最後の時は笑顔で見送ってよ」

 

「でも、でも……」

 

「はい、“命”の配分はこれで終わり!……で?他に話はないの、秋山」

 

パン、と手を叩いて北岡は話を打ち切った。

 

「他に城戸からコアミラー破壊について重要な話があるそうだ。

具体的な内容は俺も聞かされてない。城戸、説明しろ」

 

「わかった。俺、思いついたんだけど……」

 

 

…………

 

 

そして、真司は思い至った可能性について、集まった皆に説明した。

その突拍子もない案に、皆は微妙な表情をする。

 

「城戸君、その方法の成功率について、何らかの検証はしてみたのですか?」

 

「いえ、正直言って、してないです。なにしろ、全部集めないと成立しませんから」

 

「なるほど……」

 

香川は肯定も否定もせずに腕を組んで考え込む。

 

「でも、現時点で可能性があるとするなら、城戸提督の案しかないと思われます」

 

足柄が立ち上がって、食堂の隅に寄せておいたプロジェクターを起動した。

真っ白な壁に一枚の写真が映し出される。

 

「MIに何百機と偵察機を送り込んで戻ってきた、たった1機が持ち帰った画像です」

 

上空から写された写真には、輝く巨大な球体、

そして深海棲艦、数百体が放射状に列を成してそれに群がる様子が収められていた。

その異様な光景に皆が息を呑む。

 

「例え、全鎮守府の艦娘を総動員し、全ライダーが出動しても、

この数の前に、コアミラーに接近する前に全滅すると考えます」

 

皆も突きつけられた現実に、手段を選んでいる余裕がないことを知る。

 

「ふむ、賭けになりますが、やはり城戸君の作戦を実行に移すしか……」

 

 

「おい、ふざけんじゃねえぞ」

 

 

その時、これまでの会議を殆ど聞いていなかった浅倉が異を唱えた。

真司を始め、全員が彼を見る。

 

「浅倉……」

 

「そのコアミラーとやらをぶっ壊したら、ライダーバトルが終わるんだろう。

冗談じゃねえ、誰が好き好んでこんな楽しい殺し合いを終わらせるかってんだ……!」

 

「いい加減にしなさい!もう誰もライダーバトルなんてしないわよ!

あんた一人で深海棲艦とでも戦ってればいいじゃない!」

 

思わず大声が出る足柄。だが、浅倉はヘラヘラ笑いながらカードデッキを出す。

 

「構わねえぜ。ただ、こいつを使うこともしねえがな」

 

「ねえ、本当に世界が滅ぶかどうかの瀬戸際なの!お願い!」

 

浅倉の肩を掴みながら懇願する足柄。その時、北岡が立ち上がり、浅倉に歩み寄った。

 

「なあ、浅倉。取引しないか」

 

「……言ってみろ。ここより派手な戦場があるなら聞いてやる」

 

北岡は浅倉の耳元で何事かをささやいた。

小さな声だったので誰にも聞こえなかったが、浅倉がみるみる笑顔になる。

 

「逃げんじゃねえぞ……」

 

「逃げた所で勝手にお前の方から来るじゃん。いつかは家を汚してくれてありがとう!」

 

「決まりだ」

 

「えっ、それじゃあ!?」

 

「乗った」

 

「あ、ありがとう?」

 

浅倉が突然態度を変えたので困惑する足柄。

何を条件にしたのか聞こうとしたが、北岡はさっさと自分の席に戻ってしまったし、

浅倉に聞いても多分答えないだろう。

 

「意見はまとまったようですね。では城戸君、この作戦の具体的な手順を。

我々はどうすればいいのか教えてください」

 

香川が発案者の真司に指示を求める。真司は皆に呼びかけた。

 

「とにかく、コアミラーにこっちの動きを悟られちゃだめだ。

みんな疲れてるのに、また乱戦になったらいつまでも決行が遅れて、

また現実世界にミラーモンスターがあふれ出すことになる」

 

「そういえば……僕らの世界はどうなったのかな。

ここじゃ東京の様子を知ることもできない」

 

東條が2002年時点の東京について案じる。

彼は、激しい運動をしなければ自分で歩けるまでに回復していた。

 

「それは大丈夫。今、うちの会社のエンジニアの人が作ったウィルスで

コアミラーの動きが制限されてる。ミラーモンスターも現実世界に漏れ出してたけど、

自衛隊や他の軍隊の兵器でも倒せるまで弱まってるから!」

 

「ほう、なかなか優秀な方ですね。

我々以外にこのミラーワールドへのアクセスポイントに気づき、

干渉できる者がいるとは」

 

「はい!ちょっと変わってますけど、OREジャーナルのネットワークや

プログラム関係のことは全部島田さんがやってるんです……って、ああそうじゃなくて!

とにかく俺が一旦現実世界に戻って棄権したライダー連れ戻してきます。

決行直前まで不要な変身は控えてください!」

 

「一度コアミラーが物凄い悲鳴を上げたけど、ウィルスに侵食されていたのね……」

 

足柄も以前の不可解な現象について納得が行ったようだ。

 

「よくわかった。とにかくコアミラーに目をつけられないように、

不穏な行動は慎むことにしよう」

 

「ご主人様、あの……」

 

漣が手塚にためらいながら話しかける。

 

「どうしたんだい」

 

「さっき、飛鷹先輩が言ってたことです。

やっぱり、漣もご主人様とお別れしたくないです。

やらなきゃいけないことはわかってます。でも、それでも、

いつもそばにいてくれたご主人様がいなくなるのは辛いんです。

それだけは知っておいてください。漣からの、お願い……」

 

今にも泣き出しそうな顔で言葉を綴る漣。手塚は彼女の頭に手を置いて優しくなでた。

 

「俺も寂しい。でも、悲しまないで欲しい。この世は悲しい別ればかりじゃない」

 

彼はポケットからマッチを取り出し、一本点けた。

その火は温かくゆっくりと燃え、長く手元を照らして消えていった。

 

「例え生きる場所が変わっても、俺達の絆がなくなることはない。

ここで過ごした2ヶ月の事は生涯忘れない。もちろん、君のことも」

 

「ご主人様!……ご主人様っ!」

 

漣が、わっと手塚に抱きついた。彼もまた漣の頭をなで続けた。

皆がその様子を見守っていると、神崎が口を開いた。

 

「……話は付いたようだな。最後に確認だ。

北岡、お前はかりそめの命を得る。それでいいんだな?」

 

「そうだよ、何度も言わせないでよ」

 

「そして秋山、お前は“TIME VENT”で過去に遡り、

恋人を重傷を負う危険から遠ざけることで命を救う。それで構わないな?」

 

「……ああ」

 

「それは、401号室での実験が行われた日時以後の人間関係は、

全て破棄することを意味している。それは理解しているか」

 

思わず真司が蓮を見る。蓮は壁に寄りかかってただ床を見つめていた。

 

「わかっている」

 

「では、これを渡そう」

 

神崎はコートからカードを取り出し、蓮に渡した。

大きな時計が描かれたアドベントカード、“TIME VENT”。

 

「バイザーは必要ない。適当な鏡にかざして戻りたい日時を思い描けばそれでいい」

 

「わかった……」

 

恵理を救う手立てを手に入れた蓮だが、その表情に喜びはなかった。

次に神崎は北岡に歩み寄る。彼はコーヒーカップを置いて神崎と向き合った。

 

「北岡秀一、最後のチャンスだ。本当に自分の選択に後悔はないな?」

 

「しつこいよ!いいからさっさと済ませてよ」

 

鬱陶しそうに手を払う北岡。

 

「……では、お前に“命”を渡そう」

 

「ああ。お前の分身ってのがなんだか美しくないけど、贅沢は言ってられないしね」

 

神崎が両手のひらを差し出すと、小さく光る珠が浮かび上がった。

それは宙を漂いながら、北岡の胸に飛び込んだ。吾郎と飛鷹が駆け寄る。

 

「先生、どうですか具合は!?」

 

「少しは楽になった?もう大丈夫そう?」

 

「二人共落ち着きなよ。

おかげさまで、肺の異物感は取れたし、手足の痺れもなくなった。

さて、事が済んだら贅沢の限りを尽くしますかね」

 

北岡は両腕をさすったり、手を握ったり開いたりして、

体調が完全に回復したことを確認した。

 

「先生……よかった!」

 

「提督が無事なら、もう何も言わない。これで、安心してさよならできそう……」

 

「ははっ、飛鷹はせっかちだな。まだ何も終わってないのに。

最後まで秘書艦として頑張ってもらわなきゃ」

 

「ふふ。そうね、子供っぽくてワガママな提督の秘書が務まるのは、私だけだもんね!」

 

飛鷹は涙を拭いながら答えた。

そして、最後に神崎は、終始事の成り行きを見守っていた長門に近づき、

 

「長門型1番艦・長門。頼みがある」

 

「断る」

 

にべもなく突き放す。だが、

 

「……用件にもよるが」

 

話を聞く体制に入る。もう内容はわかっているのだろう。

 

「優衣を、この鎮守府で受け入れてほしい」

 

そばで聞いていた真司は、あえて黙っていた。

数え切れない時間逆行を繰り返し、ライダーバトルの果てに絶望し、

虚ろの世界を彷徨うだけの存在になった神崎。

せめて彼には兄らしく妹の先行きだけは決めさせようと思った。

 

「いいだろう。今日からここは優衣の家となり、私達は彼女と生きていく」

 

「……ありがとう」

 

神崎はその長身を折り、長門に深々と頭を下げた。そして長門が付け加える。

 

「ついでに、ライダーバトル・ミラーワールドに関する諸々の罪で、

今日からここはお前の流刑地となる。

城戸提督が去った後は、我々の監視下で提督として休みなく働いてもらう」

 

思わず顔を上げる神崎。真司も思わず声を漏らす。

 

「長門……!」

 

「以上だ。提督、全てが終わった時、この男に提督の任を負わせたい。

了承してもらえるか?」

 

「ああ、もちろんだよ!」

 

そして、鎮守府に見えない力が働いた。これが効力を発揮するのは、皆が勝利した時。

必ず成功させてみせる!真司は決意を新たにした。

 

「じゃあみんな、今できることは全部片付いた。

決行は明後日がいいとおもうんだけど、どうかな?」

 

「発案者が決めなよ、そんなの」

 

「僕はそれでいいよ」

 

「長すぎず短すぎず。皆さんの休息に必要な時間を考えるとそれがいいと思います」

 

北岡が爪を磨きながら答え、東條も賛成する。そして足柄が真司の案を支持してくれた。

 

「わかった!じゃあ、現実世界の二人は明後日の10時に連れてくる。

決行は正午。それで行こう!」

 

「最初からさっさと決めていればいいものを」

 

蓮がそっぽを向きながら文句を言った。その場はそれで解散となった。

なるべくコアミラーにライダーの力を見せないように。

そして決戦に備えて十分に力を蓄えておくこと。

皆がやるべきことを思い描きながら、食堂から去っていった。

 

 

 

 

 

──2日後 城戸鎮守府 本館前広場 時刻1000

 

 

広場の前には、棄権、脱落した者も含め、オルタナティブ・ゼロを含む

13人のライダーと秘書艦達が集まっていた。

 

「12、13……うん、みんないる!」

 

真司はライダーの数を数え終えると、集めた二人に声をかけた。

 

「美浦ちゃん、佐野!来てくれてありがとう!」

 

「当然でしょう。鳳翔さんの世界、絶対壊させはしないわ!」

 

「うちの社屋もミラーモンスターに被害受けて正直ムカついてるんですよね。

コアミラーになんか仕返ししないと気が済まないっていうか」

 

 

 

そして、工廠前には神崎とオーディンがいた。

 

「……これで、一度きりのカード使用には耐えられるようになった」

 

「私の役目もこれで終わりということか」

 

「世話になったな。主人、設備を貸してくれたことに礼を言う」

 

「あ、ははぁ……それほどでも」

 

不気味なオーラ丸出しの男に礼を言われ、明石は若干後ろに下がりながら返事をした。

 

 

 

また、別の場所では、浅倉が手持ちのものと、手塚から預かった、

かつて暴虐を働いたライダー達のデッキを持ち主に返していた。

 

「おらっ!」

 

「痛てっ!」「投げるな!」「おっとと!乱暴ですね」

 

浅倉が“ADVENT”を入れ直したデッキを、芝浦、高見沢、

ようやく重度の骨折から回復した須藤に投げつけていた。

既に真司が提督権限で、“デッキの所有権は手にした者にある”、と宣言していたので

彼らは再びライダーの力を取り戻したことになる。しかし、

 

「俺の命令以外のことはするな。叩っ殺されたくなかったらな」

 

「もう、穴は掘らなくていいんですか!?」

 

「てめえ、チンピラの分際で俺に……ごほっ!」

 

浅倉は黙って高見沢の腹を殴る。たまらず座り込む。

 

「まさか、こんな形でまた共同作業することになるとは思いませんでしたよ。

まぁ、何が何なのかさっぱりですが」

 

「とにかく言われた通りにしてりゃいい。あと、俺をイラつかせるな」

 

一人で複数体のモンスターと契約しているなら、

自分だけで全ての“ADVENT”を発動させることも可能だが、

真司の案で念のため本来の持ち主に発動させることにした。

一番多くデッキを持っていたので、いつの間にか返却係にされていた浅倉は

既に少しイラついていたが。そして、時が満ちる。時刻、1200。

 

「みんな、今だ!」

 

ライダー達は皆、デッキを手に噴水、ガラス、小川等を利用して変身した。

そして総勢13名の仮面ライダー達が広場に集結。その時、

 

 

《…………!!?!》

 

 

また、コアミラーからの波動が押し寄せる。

しかし、艦娘達も両足と腹に力を入れて耐え忍ぶ。

 

「大丈夫、絶対負けない!ご主人様がそばにいるんだから!」

 

「真司さん……三日月は大丈夫です!」

 

「これくらいでへばってちゃ!提督を支えることなんてできないのよ!」

 

「こんなところですっ転んだら、あの馬鹿に笑われるわね……!」

 

「司令官にも加賀さんにも、みっともない所は見せられません!」

 

「大丈夫、二人なら!」「耐えきれる!」

 

電と五月雨は両手を取り合い、互いを支え合っていた。

彼女たちの様子を見た真司は、決行の合図を出す!

 

「全員、契約モンスターを召喚して!これが最後の戦いになる!

俺達全員の力でコアミラーを破壊するんだ!」

 

龍騎サバイブは“ADVENT”をドロー、装填。烈火龍ドラグランザーが

異次元とサイバー空間の壁を突き破り、鎮守府上空に姿を現した。

 

「気張りすぎだ、突撃前にへばるなよ」

 

ナイトサバイブも“ADVENT”をドロー、装填。疾風の翼・ダークレイダーを召喚。

ブルーの翼を持つ巨大な蝙蝠が大空を飛び回る。

 

「まったくだよ。頭脳にしろ戦いにしろ、遊びってもんが重要なのよ」

 

ゾルダも“ADVENT”をドロー、リロード。鋼の巨人・マグナギガを召喚した。

強力な代わりに殆ど自力で移動できない欠点を持つが、もう気にする必要はない。

 

「誰も状況を説明してくれません。とりあえずやることはやりますがね」

 

シザースは“ADVENT”をドロー、装填。甲殻類らしい装甲を誇るボルキャンサーを召喚。

 

「運命は変えるもの。見ていてくれ、雄一!」

 

ライアは“ADVENT”をドロー、装填。

海から大きな水しぶきを上げて、エビルダイバーが姿を現した。

 

「うちに帰りたいよ……」

 

ガイは“ADVENT”をドロー、装填。

木陰から巨大な岩石を寄せ集めたかのような巨体を誇るメタルゲラスを召喚。

 

「ふん、俺のモンスターが一番優れてんだよ!」

 

ベルデは“ADVENT”をドロー、クリップに挟み、手を離した。

周囲に完全に擬態していたバイオグリーザがその姿を表す。

 

「来い!お前の力を見せろ!俺を楽しませろ!」

 

王蛇は“ADVENT”をドロー、装填。

ベノスネーカーが高速で地を這いながら、彼のそばに寄り添うように現れた。

 

「お願い、ブランウィング!」

 

ファムは“ADVENT”をドロー、装填。

美しく勇ましい鳴き声を上げて、大きな本館の裏からその巨大な翼で飛来した。

 

「僕は、今度こそ間違えない!」

 

タイガは“ADVENT”をドロー、装填。

物陰からデストワイルダーが飛び出し、空中で一回転してタイガのそばに降り立った。

 

「私に出来ることがあるとすれば!」

 

オルタナティブ・ゼロは“ADVENT”をドロー、スキャン。

どこからともなく、顔面に多数の穴が空いたサイボーグのような

契約モンスター・サイコローグが現れ、彼の傍らに立つ。

 

「う~ん、ミラーワールド閉じたら、ちょっとは有名になれるのかな?」

 

インペラーは“ADVENT”をドロー、装填。

ギガゼールを筆頭に、彼の背後に無数のガゼル型モンスターが現れる。

 

「不死鳥よ、私を導いてくれ……!」

 

オーディンは“ADVENT”をドロー、装填。天空から光り輝く存在が舞い降りる。

生と死を司る不死鳥、ゴルトフェニックスが皆の頭上で滞空する。

 

 

 

全員の契約モンスターが現れた時、

鎮守府の各所に設置されたスピーカーから大淀の声で警告が発せられた。

 

 

《総員、厳重警戒!鎮守府正面海域に深海棲艦の大群が接近中!正確な数は測定不能!

仮面ライダーは直ちにこれを迎撃されたし!》

 

 

「……浅倉、頼む」

 

龍騎が告げると、王蛇はカードを1枚ドロー。

 

「派手に暴れろよ……」

 

そしてベノバイザーに装填、スロットを押し下げ、装填した。システム音声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

『UNITE VENT』

 

 

 


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