【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第37話 Show Must Go On

──OREジャーナル編集部

 

 

大久保達に仮面ライダーとしての正体を知られてしまった真司、

またの名を仮面ライダー龍騎。しかし、立ち止まってはいられない。

すぐに艦これの世界に戻り、皆の無事を確かめなくては。

龍騎はオフィスに駆け込むと、自分のパソコンを立ち上げ、艦これにログインした。

すぐに体が霧状になり実体を失い、ゲームの世界へ吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

ヴォン!

 

龍騎が執務室へ降り立つと、中は窓ガラスがすべて割れていた、

というより外から枠ごと引き剥がされたように、全てなくなっていた。

ミラーモンスターの攻撃なら内側に割れていなければおかしい、

 

「何があったんだ……!?」

 

真司の心に不安がよぎるが、それは後ろから掛けられた声で消し飛んだ。

 

「真司さん!」

 

ドアを開けた三日月だった。心底安堵した龍騎は、思わず彼女を抱きしめる。

 

「あっ……真司さん」

 

「よかった、本当によかった……」

 

三日月もそっと抱き返し、龍騎に告げた。

 

「もう、大丈夫です。こっちのミラーモンスターも、深海棲艦も、

提督方や艦娘のみんなで力を合わせて撃退しました。

特に、浅倉提督が召喚した怪獣みたいなモンスターが、

ミラーモンスターを地面や外壁ごと吸い込んでくれたので、

艦娘全員が深海棲艦迎撃に当たることができました」

 

「怪獣?」

 

「はい、浅倉提督のカードで、手塚提督の契約モンスターまで合体させて、

1体のモンスターにしたんです。

急に艦娘を全員撤収させるようにおっしゃるので、

何かと思えば3体のモンスターが融合したような存在が彼のそばに。

みんなの避難が終わると、それが胸を開いて凄まじい力で

ミラーモンスターを全部吸い込んじゃったんです。

風とか竜巻とかそんなんじゃないです、次元ごと飲み込むような、

本当、近くにいるだけで恐怖を感じるほどの力でした」

 

やや興奮気味に説明する三日月。それを聞いて何か龍騎は直感めいたものを覚える。

なんだろう、うまく言葉にできないが、その事実になにかを解決するヒントが……!?

多分、それなら出来るかもしれない!

だが、龍騎は今はそのことは胸にしまい、重要なことを確認する。

 

「それで、みんなは無事なの?蓮たちは?艦娘のみんなは?」

 

「大丈夫、全員無事です。多少怪我をした艦娘はいますが、

大破したものはいませんでした。ライダーの皆さんは全員無傷。

今は皆さん食堂で休んでいただいてます」

 

「そっか。よかった、みんな頑張ってくれたんだね。三日月ちゃんも、ありがとう……」

 

三日月は少し照れて、今後のことについて指示を仰ぐ。

そして、変身しっぱなしだったことに気づいた龍騎が変身を解いた。

 

「それで真司さん、三日月たち、これからどうすればいいんでしょう。

もう三日月達にできることといえば、来る敵を迎え撃つことしかできなくて……」

 

真司は少し頭を悩ませて考える。

そして、デスクのメモとペンを手に取り、数字を書いて三日月に渡した。

 

「とにかく、この配合で装備の開発をお願い。

また空飛ぶミラーモンスターが来たら、きっと必要になる。

開発資材全部使って構わない。とにかく多くの艦娘達に行き渡らせて!」

 

「わかりました!」

 

三日月はメモを受け取ると元気よく返事をした。

そして、真司は目の前の用事の片付けに入ることにした。

まずは、めちゃくちゃになった鎮守府の復元。

 

「提督権限 “再起動実行”」

 

再起動で一枚残らず剥がされたガラスは全て新品に戻り、外の景色を見ると、

いつもの緑の芝が鮮やかな広場が広がっていた。次はみんなに会いに行かなきゃ。

 

「三日月ちゃん。俺、食堂のみんなに会ってくるよ」

 

「あ、私も行きます!」

 

 

 

──本館 食堂

 

 

真司が食堂に入ると、ライダー提督とその秘書艦達、そして加賀が思い思いの席に座り、

疲れを癒やしていた。

 

「みんなごめん!結局ここ任せっきりになっちゃった!」

 

「お気になさらないで。

城戸提督は一人で現実世界のミラーモンスターと戦ってらしたんですから」

 

コーヒーを飲んでいた足柄が真司に声を掛けた。

隣では浅倉が、炊飯係の艦娘に作らせた

ムール貝とクリームソースのパスタをもりもりと食べていた。

 

「遅いよ城戸君、俺の大砲かなり重いんだよ。

ずっと上に向けっぱなしだったから腕が痛いよ、こりゃ明日は筋肉痛だ。

やっぱり貸し借りはなしね」

 

バリ、ボリ、バリ、ボリ……

 

「あー、本当ごめんなさい!外のミラーモンスターが思ったより多くて……」

 

ペッ、カラン、カラカラ……

 

さっきから何の音だと思っていたら、浅倉がムール貝を殻ごと噛み砕き、

余った殻を吐き出していた。割れた殻で口の中を切ったのか、若干皿がピンク色になる。

だが、浅倉は気にする様子もなく、たらふく食って満足した様子で

だらしなく椅子の背もたれによりかかる。艦娘たちは皆、その暴食ぶりに引いていた。

吹雪、漣はあんぐりと口を開け、飛鷹は笑っているのかいないのか微妙な表情で

言葉を失う。

 

「食べたなら自分で返却口に持っていきなさい」

 

「黙れ」

 

足柄だけが顔色一つ変えず浅倉に話しかけていた。

ともかく、真司は皆に呼びかけて今後の行動方針について話し合うことにした。

 

「ねえみんな、俺がいない間ここ守ってくれて本当ありがとう!

でも、またいつ襲撃があるかわかんない。いや、きっと近いうちにまたある!

その時の対策に付いて話し合いたいんだけど、いいかな!?」

 

コーヒーを飲みながら北岡が発言した。

 

「対策ってどうすんのよ。

いつ、どこから来るかわかんないやつなんて、どうしようもないっていうか」

 

「ハッ……!とにかく来た奴全部殺しゃいいんだよ!」

 

浅倉が返却口にトレーを投げ込みながら答えた。

 

「ほら、会議室で加賀さん言ってたじゃん。コアミラーはゲームを終わらせたくない。

だから終わらせようとしてる俺達ライダーを始末しに来た。

つまり、今、艦これにいるライダーは全部一箇所に集めた方がいいと思うんだ。

みんながそれぞれの鎮守府に戻って、一人ずつ襲撃を受けたら、

多分持ちこたえられないと思う」

 

テーブルの上で手を組みながら手塚も同意する。

 

「城戸の言うとおりだ。

今回もこのメンバーと艦娘達が全戦力を投入してようやく乗り切ることができたが、

ここで戦力を分散して各個撃破に転じられたらどうにもならないだろう。

……俺は、全てのライダーを城戸鎮守府に集結することを提案する」

 

「一理ある。コアミラーの狙いはあくまで俺達ライダーだからな。

もう、鎮守府を空けてもライダーのいないところに敵は来ないと考えていいだろう。

香川達に連絡を取ってここに来させろ。

バトルから離脱したとは言え、あいつらもまだライダーだ。

次の襲撃は必ずあると仮定すると、中途半端に別れるより

この鎮守府に籠城して迎え撃つ方が合理的だ」

 

蓮が手塚の提案を支持した。北岡が目を閉じ、テーブルを指でトントン叩きながら考える。

 

「ふん、なるほど。だったら、吾郎ちゃんを連れてこなきゃね。

……飛鷹。多分、近いうちに今日の戦いを上回る激しい戦闘が待ってる。

命の保証はできない。俺の鎮守府にいればまず安全だ。

君に巻き込まれてほしくはない、だから……」

 

ゴチッ!

 

「痛てっ!!なんでここでデコピンなのよ人がシリアスな話してる時に!」

 

「馬鹿っ!とっくに巻き込んどいて何言ってんのよ!

空飛ぶ敵を相手に軽空母の私がいなくてどうすんの!それに……」

 

飛鷹はゆっくり彼の後ろに回って、そっと北岡の背中を抱き、

 

「もう、決めてるんだから。最後まで一緒だって……」

 

「……ありがとう。ありがとう。

じゃあ!吾郎ちゃん迎えに行こうか。クルーザーの操縦頼むよ」

 

「ええ。皆さん、私たちは一旦失礼します。準備が出来次第またここに戻りますので」

 

「北岡さん、飛鷹さん、ありがとう!」

 

真司は二人に手を振って見送った。

そして、吹雪と漣も、そんな北岡達を指をくわえて見つめていた。

 

「う~ん、私ももう少し背が高かったら、あんなことできるのかなぁ……」

 

「漣的にも、もっと身長が欲しいところですけど、ご主人様って、

そつなく仕事が出来る分、あんな風に励ましたりするチャンスがなかったり……」

 

嘆く女子二人を放って、蓮が真司に尋ねる。

 

「それで、香川達はどうする気だ。

香川はともかく、東條はまだまともに戦える状態じゃないだろう」

 

「今、三日月ちゃんに司令室を通して、向こうの長門さんから連絡してもらってる。

事情を話したら多分来てくれると思う。東條には須藤と医務室で入院しててもらうから」

 

その後も残ったメンバーで話し合い、

城戸鎮守府を拠点にコアミラーの攻撃を総員で迎え撃つ準備を整える。

そうこうしているうちに、北岡と飛鷹が吾郎を連れて戻ってきた。

思えばたった1日で状況は大きく一変し、

もはやライダーバトルどころではなくなっていた。

ただ生き残る。そのために、皮肉にも殺し合う運命にあったライダー達が

団結することとなった。そして、車輪の音と足音が二人分、食堂に入ってきた。

 

「失礼。皆さん、長門さんから話は伺いました。

東條君はまだ戦えませんが、私が代わりに力になりましょう」

 

香川達3人組。首に包帯を巻いている東條が乗る車椅子を押しているのは、青葉だった。

 

「ごめん。僕は戦えそうにない。看護婦さんが言ってた。

傷がまだ治りきってないし、血も足りてないって」

 

「心配ご無用!そのために青葉が付いてきたんですから!

重巡洋艦の力、見せちゃいます!」

 

彼女の明るい声に、緊張気味だった食堂の雰囲気が少し柔らかくなる。

全員集合かと思われたその時、ふと足柄があることに気づいた。

 

「ねえ、提督」

 

「片付けただろうが……!」

 

「そうじゃない。芝浦君はどうするの?

確かに契約モンスターは失ったけど、空のデッキを持ってる彼を

コアミラーが絶対に敵視しないとは限らないじゃない」

 

「知らん。放っとけ」

 

「だめよ!ああ、あんたには頼まない、また報酬ふっかけられるから。

私が連れてくる!」

 

足柄が食堂から急いでクルーザーに走っていった。その姿を見て手塚も思い出す。

 

「そういえば座敷牢に監禁してた高見沢も連れてくるべきだな。僕も行こう」

 

「あ、ご主人様待って!漣が操縦します~!」

 

手塚と漣も足柄に続いて出ていった。慌ただしく3名が各自の鎮守府に戻る。

青葉は東條を医務室に連れて行った。連は窓際の壁に寄りかかって外を見ている。

北岡はまたコーヒーを飲む。浅倉は椅子を並べて横になっていた。

そして、真司はただ祈っていた。

 

自分たちがやるべきこと。ダミー鎮守府にいる優衣を探し出し、神崎を説得させる。

そのためにはオーディンを倒さなければ。可能性は低いが、やるしかない。

そして、最後にコアミラーを破壊し、ミラーワールドを閉じる。

 

蓮と北岡。二人については、神崎に賭けるしかない。なにか方法を持っているはず。

でも……それでも、助かるのは一人。きっと奪い合いになる。

その時、自分はどうすればいいのだろう。

薄氷のような可能性に加え、答えの出ない問い。やはり真司は迷いを捨てきれなかった。

そして、真司も立ち去ろうとする。三日月が彼に声をかけた。

 

「真司さん!どこに行くんですか?」

 

「みんなが戻るまで、ちょっと先輩に会ってくるよ。俺の、頼れる先輩」

 

「先輩、か。まあいい。今のうちに迷いきれなくなるくらい迷っとけ。

そのほうがお前らしい」

 

「じゃあ、蓮。ここ頼むな」

 

そして真司は自分の執務室に向かう。

いつも相談に乗って力を貸してくれた、編集長や仲間達に会うために。

 

 

 

 

 

──アメリカ ホワイトハウス

 

 

米国の中枢たるここホワイトハウスのウエストウイング、

大統領執務室(オーバルオフィス)に大勢の閣僚らが集まり、張り詰めた空気の中、

大統領ロナウド・グリーヴランドの周りに集まっていた。

その時、国防長官が大きなドアを開け、入ってきた。

 

「大統領、既に36の州から救援要請が来ています!戦力配分の決定をお願いします!」

 

ミラーモンスターの脅威は、海を超えアメリカにも押し寄せていたのだ。

副大統領が彼のデスクに両手を叩きつけ、考え込む大統領に決断を迫った。

 

「ニューヨークは既に戦場と化しています!

スティンガーミサイルもパトリオットも効果なし!

今、ここで食い止めなければワシントンまで押し寄せるのは時間の問題です!

ご決断を!」

 

つまりは、核兵器の使用。大統領は額に汗を浮かべ、握った手に顔を押し付ける。

アメリカの意思決定に関わるホワイトハウスを失えば、

世界に与える影響は計り知れない。だが、人間は楽な方に流れるもの。

かと言って、一度アメリカが謎の生命体の駆除に禁断のカードを使用すれば、

口実を得たロシア、中国、その他核保有国も続いて核を使用するに違いない。

 

「……君は、ニューヨークを瓦礫とフォールアウトの荒野にしろというのか。

いや、ニューヨークにとどまらない。

我が国が核を放てば、世界の放射能汚染という悲劇的結末は避けられない」

 

「しかし!」

 

「全てのB-2に500lb爆弾を搭載。

ニューヨークに集結させ、奴らの頭上を火の海にしろ!」

 

「本当によろしいのですか!ニューヨークの部隊は既に壊滅間近!

ワシントンも既に安全ではないのですよ!?」

 

「核の使用はアメリカの敗北であると知りたまえ!

全ての国民を救援要請が出ていない州に移動。

陸軍、海兵隊、残る全戦力を集中して護衛に当たれ!」

 

「そんな無茶な!」

 

「泣き言などいらん!オールドグローリーの誇りにかけて、全てを守りぬけ!」

 

「……Yes, sir!!」

 

副大統領も閣僚も、大統領の言葉に決意を固める。

皆、持てる権限全てを使い、アメリカ、ひいては世界の秩序を守るために動き出した。

 

 

 

 

 

──渋谷小学校 避難所

 

 

大久保達OREジャーナルメンバーは、

避難所となった渋谷小学校の体育館の片隅で、ただ時を過ごしていた。

床に敷かれたマットの上で、自衛隊により輸送された市民達が

不安げに寄り集まっている。

既にミラーモンスターの脅威は去ったとはいえ、いつ2度目の攻撃があるかわからない。

令子はただマットに座り込み、大久保は携帯でニュースサイトを見ていた。

だが、どのサイトも中身は同じ。

謎の生命体が世界中で発生、壊滅的な被害を受けている、という悲惨なものだった。

 

「こりゃあ、マジで世界は駄目かもしんねえな……」

 

パタン、と携帯を閉じると、ふと窓の外を見た。

この美しい夕焼け空も、再び怪物の群れに埋め尽くされるのだろうか。

 

「縁起悪いこと言わないでください。

でも……確かに状況が良くなることもなさそうですね」

 

「うむむむ……」

 

島田が何か考え込んでいる。彼女もまたオフィスから持ってきた、

我が子同様のノートパソコンで世界の惨状を見ていたのだが、

大久保とはなにか別の事を考えているようだ。

 

「どうした、島田……」

 

「なんとか……なるかもしれませんよ?」

 

「なんとか?あのバケモンどうにかできるってのかよ!」

 

マットを這って島田に近寄る大久保。

 

「ミラーワールドが存在して、その入り口が鏡だってことはもうわかってますよね?」

 

「おう!」

 

「それに入れるのも仮面ライダー、つまり真司君だった」

 

「そうだ!」

 

「彼はミラーワールド、もっと言えば艦これの世界で戦ってた。

そして、あの怪物達はミラーワールドからやってきた」

 

「ああ、復習はいいから、要点を言ってくれよ頼むから!」

 

「今まで比較的大人しくしてたミラーモンスターが急に暴れだしたのは、

やっぱり艦これが関係してるとしか思えないです。

だったら、その艦これにちょっとイタズラしちゃえば

少しはなんとかなるんじゃないかと思いまして」

 

「お前……そんなことできるのか!?」

 

「は~い。

もう艦これに通じる鏡が光ファイバーだったって言うことは判明しましたよね」

 

「そうそう、あれにはびっくりしたわ。灯台下暗しとはこのことよね」

 

この悲劇的状況に、一筋の光を見た令子も話題に加わる。

 

「ケーブルの中のガラスに光情報を反射させることで、

高速通信を可能にしている光ファイバー。

数え切れない反射ポイントの中に、艦これの世界に繋がるものが

ひとつだけあるとするなら、そこから艦これに干渉するウィルスを流し込めば

ミラーモンスターの動きをある程度抑制できるのでは思った次第で」

 

「それ!今すぐできるか?」

 

「会社のパソコンならすぐにでも。

ノートパソコンじゃ光回線に直接接続できませんから」

 

「おし!じゃあ、島田……命がけになるが、来てくれるか?」

 

「もちろんです!合法的にイタズラができるんですから、ウヘヘ!」

 

「2人だけで行かせたりしない。私も行くわ!」

 

「令子は……う~ん、もうこうなりゃ一蓮托生だ!走るぞ!」

 

「はい!」「はい~」

 

そして、OREジャーナルメンバーは体育館から飛び出し、

オフィスのビル目指して全速力で走っていく。

 

「君たち、待ちたまえ!外は危険だ!」

 

気づいた自衛官が3人に停止を呼びかけるが、皆無視して校門を開け、

誰もいなくなった街へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

──OREジャーナルオフィス

 

 

横転したり、乗り捨てられたりした自動車に邪魔されながらも、

OREジャーナルメンバーは渋谷の街を縫うように走り抜け、

自社オフィスにたどり着いた。幸いミラーモンスターの影はなかったが、

決して短くない距離を走った大久保は完全にスタミナ切れ。

令子も流石に呼吸が整うまで時間がかかりそうだ。

島田だけは嬉しそうにデスクに着くなり、デスクトップパソコンを起動。

メモ帳を立ち上げ、ニヤリと笑い、指をポキポキと鳴らす。そして、

 

タタタタタ!タタ、タタタタ……

 

StringTest1 = new TStringList;

StringTest2 = new TStringList;

StringTest1->LoadFrom...

 

マシンガンのような速さでキーを打つ、いや、撃つ。

そのスピードに大久保も令子もあっけに取られて見ているだけだ。

島田は、まばたきするのも面倒だと言わんばかりに、ただ画面を凝視し、

大久保たちには理解できないプログラミング言語を編み上げていく。

彼ら以外に誰もいないビルにキーを叩く音だけが響く。

島田は息をしているのか?そんな不安を抱かせるほど、

ただただキーを打つことだけに専念している。そして、30分後。

 

「できたぁー!!」

 

「できた?できたのか!」

 

しかし、ついに力尽きたのか、島田は椅子ごとバタンと倒れてしまった。

慌てて駆け寄る大久保。しかし、彼女はパソコンを指差し、

 

「送信……そ、送信……」

 

「送信!?あれを送るのか?」

 

「そうしん……」

 

大久保は急いでENTERキーを押した。すると、画像をコピーペーストして作った、

笑顔の島田がミラーモンスターをパクパク食べるGIFアニメーションが流れ、

続いて画面が切り替わると、今度は命令文らしき同じ文章が勢い良く流れていく。

 

SMDsMP.exe is connecting ... failed

SMDsMP.exe is connecting ... failed

SMDsMP.exe is connecting ... failed

 

「島田、送信したぞ!これでなにがどうなるんだ?」

 

「はぁ…はぁ…いつか、接続、ウィルス、侵入……」

 

今更走った疲れが出たのか、息も絶え絶えにつぶやく島田。

その時、パソコン本体からビープ音が鳴り、大久保が改めて画面を覗くと変化が訪れた。

 

SMDsMP.exe is connecting ...OK_ Deleting abnormal system. Please wait...

 

「おい島田、なんか変な文章が出た!これでどうなるんだ?」

 

「はぁ……艦これ内の正規プログラム以外の存在、

つまりミラーモンスターを構成するデータや、それを生成しているプログラムを

削除するウィルスを侵入させました。

どっちかっていうとミラーモンスターのほうがウィルスなので、

ワクチンと呼ぶべきですけど、ふぅ」

 

ようやく立ち直った島田が解説する。

だが、立ち上がり、画面を見た島田が眉をひそめる。

 

「むむっ!?」

 

「まだなんかあんのか?」

 

「ミラーモンスター自体の削除は始まってますが、

それを生み出す“核”に当たるプログラムが激しく抵抗しています。

私のシマダ’sマスターピースver1.0に抗うとは、やりますねぇ。

早速ver2.0の作成を……」

 

その時、真司のデスクから、何やら奇妙な大気のゆらぎらしきものが流れてきた。

音のない音に驚いた皆が、彼のデスクに目を向ける。そして……

 

「よっと!」

 

パソコン画面から真司が現れた。

 

 

 

…………

 

 

 

日没の近いオフィス。

空いたデスクの上には香川の研究資料、艦隊新聞、そしてカードデッキが置かれている。

真司はうつむきながら自分の席に座り、黙り込んでいる。

何か言うべきなのだが、言葉が見つからない。

しかし、令子も島田も、急かすことなく、じっと彼の言葉を待っていた。

 

「ミラーワールドにモンスター、そして神崎士郎に艦これ世界。まぁ、大枠は掴んでる。

だがどうしても仮面ライダーってのが何かわからなかった。

お前がそうなんだな、真司」

 

静かに語りかける大久保。黙って頷く真司。

 

「……そっか。お前そんなことずっとやってたのか」

 

「俺、全然答え出せませんでした。今だって。

優衣ちゃんがいなくなったのに、結局どっちを助けるかわかんなくて……」

 

「フッ、上等だよこの野郎!いいんだよ答えなんか出せなくたって」

 

そんな彼の悩みを明るく笑い飛ばすように、大久保が答えた。

ぶらぶらと自分のデスクに歩み寄り、孫の手を手に取る。

 

「え……?」

 

「考えてきたんだろ、今まで。お前のそのできの悪い頭で必死によ。

それだけで十分なんじゃねえか。俺はそう思うぜ」

 

そして、ポン、と孫の手で軽く真司の頭を叩いた。

 

「編集長……」

 

「ただしだ、何が正しいのか選べないのはいいが、

その選択肢の中に自分のこともちゃんと入れとけよ」

 

「え?」

 

「お前が信じるものだよ。お前だってここんとこにしっかり芯がねえと、

話し合いにもなんねえし、誰もお前の言うことなんか聞いてくんねえだろ。なっ?」

 

大久保は手のひらで腹を示し、真司の肩を叩いた。

 

「俺の、信じるもの……」

 

真司は頭の霧が晴れていくような気がした。

誰かを守るとか、どちらかを選ぶとかじゃなくて、自分が信じるもの。

それは、ライダーとしての、願い。

 

「城戸君、ゆっくり考えてみたら。自分が戦ってきた理由。

きっと今ならわかるんじゃない?」

 

「令子さん……」

 

「う~ん、私の願いは頓挫しちゃいましたからね。後は真司君に任せる……」

 

真司を励ます令子と、タイムマシンの夢破れた島田。なんてことはない。

ただ無限のミラーワールドの中にある2013年の鏡の中に移動していただけなのだから。

で、デスクに突っ伏した島田はやるべきことを思い出した。

 

「はっ、すっかり忘れてた!シマダ’sマスターピースver2.0を作らなきゃ!

ver1.0じゃ恐らく48時間で逆にこっちが削除される!おのれやらせてなるものか!」

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府 食堂

 

 

 

《キャアアアアア!!》

 

 

 

その時、また会議室を襲った不気味な波動が押し寄せてきた。

これまでにないほど強烈な。艦娘たちが耳を抑えてその場にしゃがみ込む。

 

「何なの、これ……」

 

足柄が頭を抱え込んでテーブルに崩れ落ちる。

 

「司令官、たす、けて……」

 

蓮が慌てて吹雪を抱きかかえ、床にコートを敷いてゆっくりとその場に寝かせた。

 

「しっかりしろ!……おい、そっちは大丈夫か、加賀!」

 

「私は、気にしないで。吹雪を……お願い」

 

加賀も椅子に座り、腕を枕にしてテーブルに体を倒した。艦娘全員が不調を訴えている。

 

「ああ……!痛い、頭が……」

 

「無理をするな、飛鷹。楽な姿勢でゆっくり深呼吸して」

 

「ありがとう、少し、楽になったわ……」

 

ライダー達も、コアミラーが放つ波動に寒気を感じていたが、艦娘達の介抱に当たる。

 

「君、しっかりしなさい。ほら、ここに横になって」

 

香川も白衣を床に敷いて、漣の肩を抱いてゆっくり体を倒す。

 

「ありがとうございます……ああ、回復アイテム、キボンヌ……」

 

かつてないほどの強力な波動に苦しむ艦娘達。何が起きているというのか。

 

「返事ができる余裕があるやつで構わん。

コアミラーがなんと言っているのか教えてくれ」

 

足柄が呼吸を整えながらなんとか答える。

 

「特に、メッセージは、ありません……ただ、凄まじい悲鳴を上げています」

 

「悲鳴?」

 

「身を削られるような、苦痛を、受けているようです……」

 

どういうことだ。まだ誰もコアミラーには指一本触れていない、

というより触れられないはず。誰かが干渉したのは間違いないが、

それが誰なのか、誰にも見当が付かなかった。

 

 

 

 

 

──アメリカ ニューヨーク タイムズスクエア上空

 

 

大統領令で最新鋭のB-2ステルス爆撃機がニューヨークに集結し、

レイドラグーンの遥か上空から500lb爆弾を降らせ、

ニューヨークの街ごと粉砕しようとしたが、

ミラーモンスターの装甲に傷を付けることができなかった。

全く減らない敵性生物にパイロットたちも危機感を募らせる。

 

[おい!B-2でダメなら何出せばいいんだ!?]

 

[落ち着けハウンドドッグ、旋回してもう一度絨毯爆撃を敢行する!]

 

[俺達はニューヨークを壊してるだけだ!こんな作戦馬鹿げてる!]

 

[無駄だとわかっていようが作戦命令は絶対だ……待て、奴らの様子がおかしい]

 

その時、ニューヨークの廃墟を飛び回るレイドラグーンが苦しみだし、

ただ空で滞空するのがやっと、というように翼の動きが弱々しくなった。

 

[こちらブルータイフーン、各機、陣形を整え再突入の準備!もう一度爆撃するぞ!]

 

[ラジャー!]

 

そして、B-2の編隊は引き返し、再びミラーモンスターに500lb爆弾を降らせる。

今度は効き目があった。200kgを超える爆弾が炸裂すると、

その衝撃波を食らったシアゴースト達が粉砕される。

もともと高性能機のB-2部隊は速やかに、そして正確に

ニューヨークの侵入者達に情け容赦なく爆撃を続け、

ものの10数分でミラーモンスターを駆逐した。

 

[やった、やったぜおい!俺達は勝ったんだ!

アメリカからバケモンを叩き出したんだ!]

 

[ああ。だが、なぜ急に弱くなった?]

 

[知るかよ、他の部隊の連中にも知らせてやろうぜ!]

 

彼らが知らせるまでもなく、他の州のみならず、世界中に現れたシアゴーストは、

島田が作ったウィルスによって弱体化し、通常兵器で撃退可能となった。

そして瞬く間に全滅寸前までに数を減らし、

核兵器使用という最悪の事態は回避できたのだった。

 

 


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