【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第36話 The Beginning of The End

<クローズドチャットを開始します_現在 5 人が入室中>

 

>はい、現在2100です。皆さんがガチログインしました。

例の課題についてドシドシ発言キボンヌ。 漣

 

>ライダーバトルから降りたり、脱落した方の秘書艦は従来の任に戻っちゃったので、

実質私達5人で決めなきゃですね。 三日月

 

>長門さん達はご存知なの?うちは了承得てるけど。 足柄

 

>はい。常に提督方をサポートしてきた自分たちで決めろ、と…… 三日月

 

>うちもそうです。 吹雪

 

>↑に同じよ。 飛鷹

 

>三日月ちゃんは? 漣

 

>私も同じです。今夜結論が出れば、明日、真司さんに打ち明けるつもりです。 三日月

 

>じゃあ、決定ですね。漣も許可は得ています。

次は、細かい段取り詰めていきましょうか。

まず、個人的には三日月ちゃんにはちょっと待ってほしいな、と。 漣

 

>どういうことでしょう? 三日月

 

>この際、提督方にお集まり頂いて、皆さんの意見も聞いたほうがいいかと思うわけで。

情報も共有できますし。 漣

 

>そうね、真実を知った提督たちが、私達の存在をどう思うかは気になるし……

少し不安だけど。 飛鷹

 

>はぁ、みんなはいいわよね。うちの馬鹿は来るかしら。

当日来なかったらごめんなさいね。直接私の口から伝えるから。 足柄

 

>例の物でなんとかお願いできないですか? 吹雪

 

>可能性はあるけど、本当に嫌な時は絶対動かないのよ、アレは。 足柄

 

>まぁ、とにかく足柄先輩にはレアアイテムで頑張っていただくとして、

皆さんも担当の提督方に明日お集まりいただくよう、連絡の方ヨロピコです。 漣

 

>わかりました……やっぱり、伝えなきゃ駄目ですよね。

もうライダーバトルの終わりが近づいている今、

提督方には全てを知っておいていただく必要があります。 三日月

 

>そうですよね、特に 吹雪

 

>特に? 飛鷹

 

>あ、すみません!なんでもないです!出力ミスです! 吹雪

 

>そう?ならいいんだけど。とにかく、可能性は低いけど、

私達の出自がライダーバトルの犠牲者を出さずに済むきっかけになればいいわね。 飛鷹

 

>漣も、そう願っています。では、皆さん、明日の提督方のご予定うpしてください。

ご主人様は一日事務仕事です。お願いすれば時間をくれます。 漣

 

>真司さんは明日予定があるらしいんですが、なんとか頑張って引き止めます! 三日月

 

>あれ、司令官も明日用事があるって言ってました。

でも、私も足にしがみついてでも来てもらいます! 吹雪

 

>吹雪ちゃんならやりかねないわね……ああ、うちのアレ?

用事なんかあるわけないじゃない。 足柄

 

>伝えるなら早いほうがいいものね。私もなんとか時間を空けてもらう。

なるべく……行き来に負担の少ない場所をお願いね。 飛鷹

 

>じゃあ、日時は明日の1000に決めちゃいますね。

場所は漣がセッティングして改めて連絡します故。 漣

 

>それでは、今夜は解散ということでよろしいですか。 三日月

 

>ええ、肝心なことは明日話すんだし。 飛鷹

 

>それでは皆さんお疲れ様ですた。これにてチャット会議はお開きということで、

おやすみなさい。 漣

 

>また明日ね。 [足柄 さんが退室しました]

 

>それでは、失礼します! [吹雪 さんが退室しました]

 

>頑張りましょうね! [三日月 さんが退室しました]

 

>提督……どう思うかしら [飛鷹 さんが退室しました]

 

>ひとりぼっちなう。さて、店じまいしましょうかね。 [漣 さんが退室しました]

 

<チャットルーム_「例の件」を削除しました>

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

秘書艦達の秘密の交信チャットから一夜明け。

真司は出発の準備をしていた。

優衣がたった一人で取り残されているダミー鎮守府へ赴き、全ての決着を着けるため。

真司が靴紐を結び直し、リュックを背負うのを見た三日月は、彼に駆け寄る。

 

「三日月ちゃん。連れて行って欲しいところがあるんだけど」

 

「あ、待ってください真司さん!急な話で申し訳ないんですが、

その前に、来ていただきたいところがあるんです!」

 

「ごめん、後じゃ駄目かな?蓮とも待ち合わせてるんだ」

 

「秋山提督にも話は通してあります。今日は提督方全員に大切なお話が」

 

「大切な話って、なに?」

 

「それは皆さんが集まった所で詳しく。とにかくこちらへ!」

 

「うわっとと!待ってよ三日月ちゃん!自分で歩くから!」

 

真司は三日月に手を引かれ、転げそうになりながら執務室から出ていった。

 

 

 

 

 

──多目的ホール 大会議室

 

 

本館から北西にしばらく歩いたところにある多目的ホール。

その大会議室に真司は連れて来られた。

 

「失礼します!すみません遅くなって!」

 

「気にしないで、まだ定刻10分前だから。」

 

中にいた飛鷹が返事をした。

引っ張られるままについてきた真司には状況が飲み込めない。

各ライダー鎮守府の提督とその秘書艦が一堂に会している。

何があったのか、足を机に投げ出した浅倉は、なぜか既にイラつきが爆発寸前だったが、

対して隣に座る足柄はどこか得意げな表情だ。

 

「とにかく座りましょう、真司さん」

 

「う、うん」

 

とりあえず空いている席に座った真司と三日月。

全員揃ったことを確認すると、足柄は部屋の一番奥に立ち、全員を見渡して告げた。

 

「提督方のみなさん、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。

今日、貴重なお時間を頂いたのは他でもありません。

我々艦娘について重要な事を知っていただきたかったからです」

 

スーツの糸くずを手で払った北岡が、さっそく手を挙げる。

 

「君達の重要なことってなんなのかな。

俺達こうして集まってるけど、個別に連絡じゃ駄目だったの?」

 

「はい、提督方にも集まっていただきご意見をうかがうことで、

なにかしらライダーバトルの打開策を得られるのではないかと考えた次第です」

 

打開策。思わぬ単語に思わず息を呑んで黙る北岡。

飛鷹が足柄に注目したまま、そっと彼の手に自分の手を重ねる。

 

「なるほど?会議の趣旨はわかったよ。話の腰を折って悪かった。続けて」

 

「……とっとと終わらせろ、3分で!!」

 

北岡に続いて浅倉がヤジを飛ばすが、足柄は無視して続ける。

 

「それでは手短に。

皆さんは普段、鎮守府の防衛や、契約モンスターのエサの補給のために

深海棲艦と戦っていらっしゃいますよね。その深海棲艦の正体なのですが……」

 

足柄が少しの間、目を伏し、逡巡してから答えた。

 

「轟沈し、海へ沈んでいった我々艦娘の転生体なのです」

 

「!?……」

 

ライダー達が明らかに動揺する。

真司が三日月を見るが、彼女は下を向いて黙ったままだ。

足柄はなおも続ける。

 

「しかし、逆のパターンもありえます。

撃沈された深海棲艦がまた艦娘と生まれ変わる例も、稀にあるんです」

 

そこで真司が慌てて手を挙げて発言。

 

「そ、それじゃあ、ここにいるみんなは、元深海棲艦だったりするの?」

 

「いえ、あくまでそういう例もあるというだけです。

ほとんどの艦娘は提督方に新規建造されたり、攻略海域で出会う加入タイプの艦娘で、

完全新規の個体なのですが、

その中に深海棲艦から生まれ変わった者がいるということです」

 

「つまり、君達は戦っては沈み、かつての仲間と戦い、

また沈んでは艦娘として戦うという、悲しい輪廻に囚われているということなんだね」

 

手塚が突きつけられた事実を冷静に受け止める。そして今度は蓮が疑問を投げかける。

 

「その元深海棲艦の艦娘に、自分が深海棲艦だったという記憶はあるのか」

 

足柄は首を振る。

 

「基本的にはありません。……一部の例外を除いて」

 

「一部の例外?なんだそれは」

 

「それは……個人の秘密に関わることなので、具体的に誰とは……

それに、一度は艦娘として転生しても、遅れて深海棲艦に

肉体が変化してくるという事例もあります。

一概に決まったサイクルで輪廻が繰り返されているとは言えないんです」

 

「ハッ……!お前がバケモンの生まれ変わりだったら介錯してやるよ、鉄パイプで」

 

「黙らないとあんたの大事な焼きそば全部燃やすわよ……!」

 

歯切れの悪い返事を返す足柄に、不謹慎なヤジを飛ばす浅倉。

だが、それだけではなく、ひとつの問いをぶつける。

 

「要するに、前に殺した姫級どもが死に際に残したわけわからん言葉は、

お前らの仲間だった時の記憶ってことか?」

 

「……まぁ、その可能性が高いわね」

 

「フン……殺したり殺されたり忙しい連中だ。俺は全然構わねえが」

 

その時、会議室のドアが開いた。

 

 

「失礼します……」

 

 

皆が、訪問者の姿を見る。紺の袴に弓道着。正規空母・加賀だった。

いきなり自分の鎮守府の艦娘が現れ、少々驚く蓮と、目をそらす吹雪。

 

「どうした加賀。お前を呼んだ覚えはないが」

 

「皆さん、立ち聞きして申し訳ありません。

ですが、ライダーの提督方がお集まりになっているという話を聞いて、

恐らくこういうことになっているのではないかと思い、お邪魔させていただきました」

 

「何の話だ」

 

「……私は、元深海棲艦です」

 

吹雪を除く全員は皆、驚きで声が出なかった。

だが、すぐ落ち着きを取り戻した蓮が彼女に尋ねる。

 

「お前には、深海棲艦だった時の記憶があるということか」

 

「断片的なものだけど。

灰色の世界で、暗く、寒い海に沈んでいく自分だけは、はっきり覚えてる」

 

「どうして今「待ってください司令官!加賀さんも私も隠してたわけじゃないんです!

いや、結局そうなっちゃったんですけど……」」

 

蓮は黙って吹雪の口にハンカチを当てた。

 

「もごもごもご!」

 

「落ち着け、俺が聞きたいのは、“なんで黙ってたか”、じゃない。

“なぜ今打ち明けたか”、だ」

 

「ぷはぁ……あの、お願いです皆さん、加賀さんは、決して皆さんの敵では……」

 

ポン、今度は丸めた古新聞で軽く頭を叩かれた。

 

「あたっ!」

 

「一人で暴走するな。まず本人の話を聞け。……加賀、続けてくれ」

 

「ええ……その記憶の中で、沈み行く私に命を与えて艦娘に転生させた存在を見たの。

表面が輝く巨大な球体。私はそれが放つ光に包まれて、

気がついたら工廠の建造ドックで新規建造艦として横になっていたの」

 

場を包む静寂。終わらない戦いの宿命を背負っていたのはライダーだけではなかった。

その事実に言葉が出ない。そして、沈黙を破ったのは吹雪だった。

 

「皆さん、加賀さんは決して深海棲艦に戻ったりはしません!

だから、あの、だから……!」

 

「だから勝手に話を進めるなと言っている」

 

両方のほっぺをつまんで横に伸ばされた。

 

「ふえええ……」

 

「それより、今の話で重要な事実が浮かんだ。それについて議論するのが先だろう」

 

「加賀さんを転生させた謎の物体……」

 

手塚が腕を組んで考える。

 

「それって、例の教授と生徒が言ってたコアミラーって奴の可能性が高いんじゃない?」

 

北岡が自らの見解を述べた。

 

「うん、間違いないよ、多分!

ねえ、加賀さん!その変な物体ってどこにあったか覚えてない?」

 

「ミッドウェー海域。通称MI海域よ。私はそこで沈んだ」

 

加賀が真司の質問に答えた。すると今度は新たな問題が出る。

 

「じゃあ、蓮……今日の計画だけど、どうする?

ダミー鎮守府に行くか、MIってとこに行ってコアミラーを破壊するか」

 

「馬鹿かお前は。優衣も助けず、オーディンを倒して力も得ないまま

この世界から退場する気か」

 

「あ、そうだった、ごめん……」

 

「何その話、聞いてないんだけど。抜けがけする気だったの?」

 

真司らの計画について北岡が彼らを追求する。

 

「ああ、そうだ。お前らがモタモタしている間に

オーディンを倒して力をぶんどるつもりだった。何か文句あるか」

 

蓮は悪びれもせず認めた。一方真司は慌てて弁解する。

 

「いや、違うんだよ、それはあくまで優衣ちゃんを助けて

神崎を説得してもらうためで……」

 

「まあ、別にいいよ。せいぜい俺はここでお前らがオーディンにやられるのを待つさ」

 

「ちょっと、提督……」

 

流石に飛鷹が止めに入るが、話をややこしくする存在が割って入る。

 

「お前らだけに獲物くれてやると思うか。行くなら、俺を殺していけ……」

 

浅倉がカードデッキを取り出し、ヒラヒラとさせる。

 

「だから待てって!俺達の目的はあくまで優衣ちゃんで……」

 

「!?」

 

 

……タイ、……リ…イ……

 

 

その時、どこかから、何やら不気味な波動が押し寄せてきた。艦娘達が一斉に耳を塞ぐ。

 

「いや!また……」

 

足柄がしゃがみ込み、他の艦娘も机に突っ伏して“それ”が過ぎ去るのを待った。

不可解な状況に戸惑うライダー達。しばらくすると、気味の悪い気配が過ぎ去り、

艦娘達も耳から手を離した。ゆっくり立ち上がる足柄。

 

「やっぱり、“あれ”が危機を感じているのかしら……」

 

足柄がつぶやいた謎めいた言葉について手塚が尋ねた。

 

「“あれ”ってやっぱり艦娘を転生させている物体のこと?」

 

「そうです。あれが沈んだ艦娘の思念を時々拡散しているのです」

 

「思念?なにか具体的なメッセージはあるのかな」

 

「はい。いつも同じ内容です。“カエリタイ”、と」

 

「俺達には聞こえなかったけど、多分ミラーモンスターが現れた時の反響音のように、

特定の存在にしかキャッチできない性質のものなんだろう」

 

手塚が謎の波動について、わからないながらも可能性に言及した。

 

「提督方には聞こえなかったのですか?」

 

「ああ、俺達にはさっぱりだよ。嫌な寒気は感じたけど」

 

北岡は腕をさすってみせた。そして、再び加賀が口を開く。

 

「今、MI海域に行くのは無謀だと考えます。

きっと、あれの力を求めて深海棲艦になった無数の艦娘が集まっているはずです。

生半可な戦力では死に物狂いの彼女たちに対抗できないかと」

 

「ほう?面白そうじゃねえか……」

 

「駄目よ!あの海域はあんたが攻略した特別海域を上回る危険海域!

死ににいくようなものよ!」

 

「そうじゃねえ」

 

「え?」

 

浅倉の意図が読めない足柄。

 

「さっきの変な奴が来た時になんとなく感じた。……もうすぐここに獲物が来るぜ。

俺はそいつらと遊ぶ」

 

「獲物って、なんだよそれ!」

 

「城戸提督。浅倉提督の言うとおり、貴方達に自らの存在を知られたことで、

“あれ”が危機を察知し、皆さんの排除に動き始めました。

あれは、艦これ世界の中心核でもあり、ミラーワールドの柱でもある。

ゲームを終わらせられるのを、恐れているのです」

 

浅倉が動物的直感で感じ取った事実を、加賀が説明した。

 

「待って加賀さん、どうしてMIの物体がなくなると、艦これがなくなるの?」

 

「艦隊これくしょんそのものが消えてなくなるわけではありません。

でも、ミラーワールドが閉じられれば、皆さんは現実世界に強制転送され、

艦これに生きた人間が介入することはなくなってしまいます。

それは、また天から送られる司令に従うだけの

元の無機質なゲームに戻るということ。

“彼女たち”もまた、人間と、関わりたいのです」

 

「でも、俺達殺したら結局同じじゃん!なんか矛盾してるよ!」

 

「いいえ。あれは貴方達を殺した後、次の人間を待ち続ける。いつまでも、何度でも」

 

浅倉以外のライダーが思わず黙り込む。初めて知った艦娘達の意外な宿命、

(恐らくだが)コアミラーの存在。

ライダー達を抹消してでも人と関わりたい、必要とされたい。

その恐るべき執念が生み出す艦娘達の悲しい輪廻。皆、受け入れるのに時間がかかった。

しばらく一同が黙り込んでいると、その静寂を携帯の音が破った。真司の携帯だった。

 

「あ、ちょっとごめん。……はい、城戸ですけど」

 

“提督、大変だ!鎮守府に敵襲!深海棲艦の艦隊に、恐らくミラーモンスターの大群!

直ちに出撃許可を!”

 

声の主は長門だった。緊急事態発生に真司は携帯をハンズフリーモードにし、

机に置いて指示を出した。皆、二人のやり取りに聞き入る。

 

「わかった、提督権限で全艦娘に出撃許可を出すから!俺達が行くまで持ちこたえて!」

 

“了解!しかし……深海棲艦はどうにかするとして、

ミラーモンスターの方は以前手塚提督や北岡提督と戦ったものより強化されている!

飛行能力を備えているから十分に気をつけて欲しい!”

 

「うん、すぐ行くから待ってて!それじゃ!」

 

そこで通話は終了、全員立ち上がり戦闘準備に入る。

 

「やっぱりコアミラーっぽい奴は俺達に生きててほしくないらしいね。

まったく、人間が欲しいのか要らないのかはっきりしてよね」

 

軽口を叩きながら飛鷹を連れて退室する北岡。

 

 

ピィン…… パシッ!

 

手塚はメダルを指で弾いて手の甲に押し付けた。そして、手をどけ裏表を見る。

 

「険しい道のりになる。だが、乗り越えられない試練じゃない。……行こう、漣」

 

だが、出発しようと席を立った手塚の袖を漣が引っ張った。

彼女が今にも泣きそうなほど思い詰めた表情で彼を見ている。

 

「どうしたのかな」

 

「ご主人様ぁ……漣は、漣は大丈夫ですよね!?

深海棲艦になったりしないですよね……?」

 

手塚は漣の肩に両手を当てて告げる。

 

「心配しないで。初めて君と会ったときにも言ったはずだ。

占いしか取り柄がない俺は真剣に君を選んだ。俺と君は強い運命で結ばれている。

最後まで共に戦うという強い絆だ。

仮に君がどんな存在になったとしても、その絆は決して砕けない」

 

「……はい、ご主人様!」

 

そして、二人はホールの出入り口へと走っていった。

 

 

「来たぜ来たぜおい!ハハハハ!!」

 

「待ちなさいコラァ!また一人で勝手に暴れる気でしょう!」

 

王蛇は足柄を置いてけぼりにし、全速力で本館へ向かっていった。

椅子に足をぶつけながら慌てて追いかける長門。

 

「あたたた……本当にあいつはもう、待ちなさーい!」

 

凸凹コンビも慌てて出撃していった。

 

 

そして残った真司と蓮達。

 

「行こう、俺達も!」

 

「ああ。……加賀、何をしている。お前も来るんだ」

 

「えっ……?」

 

自分に声がかかると思っていなかった加賀は一瞬戸惑った。

 

「私を、連れて行ってもいいの?深海棲艦だった私を。ずっと黙ってた私を。

また深海棲艦になるかもしれない私を……」

 

「道行く者に、身の上話をしなきゃならん決まりでもあるのか。

それに、もしお前が正気を失ったとしても、その時は俺が腹に穴を空けてやる。

あの日の約束通りな」

 

「……わかった。わかったわ、行きましょう!」

 

「司令官……!」

 

加賀は吹雪と共に、黒革のコートを翻して去っていく蓮を追いかけた。

彼女の目尻には小さく光るものがあった。

その様子を見ていた真司が、三日月と連れ立って本館へ向かおうとした。

 

「俺達も行こう、三日月ちゃん!」

 

「はい!主砲も艤装もバッチリです!」

 

「それじゃあ、俺も!」

 

真司はカードデッキを取り出し、姿が映り込む窓ガラスにかざす。

窓ガラスと真司の腰に変身ベルトが現れる。そして、右腕を大きく斜めに振り上げると、

 

「変身!」

 

バックルにデッキを装填。三方向から現れた輝くライダーの姿が身体に重なり、

仮面ライダー龍騎に変身した。

 

「お待たせ!俺達も戦うんだ!」

 

「わかりました!」

 

 

 

 

 

──鎮守府正面近海

 

 

その頃、鎮守府近海では出撃許可が下りた艦娘達が、

総出で深海棲艦の迎撃に当たっていた。普段戦っている敵とは明らかに異なっていた。

陣形もなにもあったものではなく、亡霊のように鎮守府を求めて、

砲撃を受けようが魚雷が刺さろうが、考えなしに撃ち返し、ひたすら前に進み続ける。

 

「ちくしょう、いつにも増して不気味な連中だな!喰らえ!」

 

天龍が放った14cm単装砲が敵軽巡洋艦に命中。左舷をえぐる。

だが、致命傷に近いダメージを受けてもなお、体をジタバタ動かして前進を止めない。

やがて、出血量が限界に達した巡洋艦は海に沈んでいったが、

最後まで鎮守府に体を向けたままだった。その不気味な最期に天龍もぞっとした。

 

「こいつら、一体なんなんだよ、おい!」

 

 

 

「駆逐艦のみんな下がってネー!戦艦は金剛にお任せ!バーニング、ラァァブ!!」

 

金剛は難敵の戦艦レ級に41cm連装砲を叩き込む。

砲声が轟き、比較的近距離にいたレ級に二発共直撃。

しかし、金剛の砲撃で右腕を失った彼女は、残った左腕を前に伸ばし、

パクパクと口を動かすだけだ。唇を読むとやはり、“カ・エ・リ・タ・イ”。

いつものヘラヘラした顔は鳴りを潜め、必死の形相で鎮守府に向かって突き進む。

 

「ここから先には行かせないヨ!」

 

金剛がレ級の行く手に立ちはだかると、レ級は凄まじい憎しみを込めて彼女を睨み、

全装備を一斉発射。

 

“アアアアアア!!”

 

大口径砲、魚雷、爆撃機。手当たり次第の猛烈な火力が彼女に襲いかかる。

金剛は対空機銃で爆撃機を迎撃し、魚雷の航跡を読み、砲弾の軌道を読んで回避に集中。

だが、憎しみに囚われ計算のない攻撃はかえって読みづらく、

魚雷は回避できたが、打ち損じた爆撃機の爆弾を食らい、砲弾を1発受けてしまった。

 

「うぐぅっ……!!」

 

中破レベルまでダメージを受け、美しい白の和服が焼け焦げる。反撃しなければ。

相手は正気を失っている。いや、もともとそんなものなどないのかもしれないが、

とにかく速やかに撃沈しなければ。その時、自分を呼ぶ声が複数。

 

“おねーさまー!!”

 

妹達だった。比叡、榛名、霧島が駆けつけてきた。

3人は金剛と合流すると、戦闘に加わった。

 

「オー、助かったよ、マイシスターズ。帰ったらキスしてあげるヨ……」

 

「呑気なこと言ってる場合じゃないよ、姉様!」

「この深海棲艦達、明らかに異常よ。

鎮守府じゃなくて、他の何かを求めてるような……」

「とにかく!まずはあれを撃沈するのが先決でしてよ、お姉様方!」

 

4人が喋る間もレ級は鎮守府を目指す。相手の増援のことなど目に入ってないらしい。

相変わらず瞬きもせずまっすぐに鎮守府を見据えて前進している。

 

「みんなー!今よ!目標敵戦艦、ファイヤー!」

 

“応!!”

 

そして、4人は片腕のレ級に主砲を発射。砲口から、

炎、衝撃波、硝煙、焼け残った火薬、そして真っ赤に燃える砲弾が噴き出される。

合計8門の41cm連装砲から放たれた鋼鉄の牙がレ級に食らいつき、

その戦艦を名乗るには小さな体を食いちぎっていった。そして、命中弾が爆発。

レ級は完全に粉砕された。……だが、それでもなお、

海に揺られる千切れた左手が鎮守府の方を向いていたのは

偶然なのか彼女の執念だったのかはわからない。

 

 

 

“ああ…やだ…まだ、おわりたくない……わたし、かんむす、ていとく、にんげん……”

 

両腕を前に出しながら、よろよろと歩いてくる一人の駆逐古姫。

以前浅倉に惨殺された姉妹の片割れがコアミラーに再生され、

虚ろな目とおぼつかない足取りで、鎮守府というより

そこで戦っているライダーを目指して一歩一歩進んでいた。

そんな彼女に立ちはだかる艦娘が一人。大和だった。

深海棲艦、そして艦娘にしかわからない言葉を繰り返す彼女に呼びかける。

 

「可哀想に……きっと、あなたもかつては私達の誰かだったんでしょう。

でも、今の姿ではあなたを迎えることはできないの。ごめんね。ごめんね……」

 

“うああああああ!!”

 

鎮守府は目の前。行く手を邪魔する大和に殺意を爆発させる駆逐古姫。

全砲門、魚雷発射管を開き、持てる力全てを彼女に放った。

酸素魚雷が迫り、5inch連装砲弾が襲い来る。

しかし、大和は両脇に備えた最強の46cm砲を発射。

要塞と見紛うばかりの艤装から放たれた砲弾と衝撃波が魚雷を海面ごとえぐり取り、

口径で圧倒的な差がある砲弾を跳ね返した。

そのまま勢いを殺すことなく、46cm砲弾は駆逐古姫に食いつき、左腕の砲を弾き飛ばし、

右足をちぎり取った。

 

“いた、い……いかなきゃ……もどらなきゃ……”

 

片足を失っても鎮守府に帰ろうとすることやめない。

そんな彼女を大和は悲痛な面持ちで見つめる。そして、主砲弾を再装填。

 

「ごめんなさい。今はまだできないけど、いつの日か、きっとまた、逢いましょう……」

 

そして、轟音。体の下3分の2を失い、命が尽き果てようとしている駆逐古姫。

大和は膝を折ってその場に座り、彼女の頭を足に乗せた。そして、優しく頭を撫でる。

 

“かえりたい……かえりたいよ……”

 

「大丈夫、必ずまた帰ってこれるから。今は、おやすみなさい……」

 

“あー……”

 

大和が子供を寝かしつけるように、優しく語りかけると、

駆逐古姫の体は静かに海の中へ沈んでいった。

やがて、その姿が濃紺の深海に消え去っても、彼女はしばらく立ち上がらなかった。

 

 

 

 

 

──鎮守府前広場

 

 

そして、地上でも死闘が繰り広げられていた。

本館前広場はもとより、陸全体にミラーモンスターが飛び回っている。

艦娘達も対空砲火を繰り返しているが、シアゴーストと同じく、

いくらでも湧いてくる敵に弾薬も戦力も足りていない状況だった。

そこにようやく、多目的ホールから来る途中、既に変身していたライダー達が到着、

戦闘を開始。

 

不気味なトンボ型ミラーモンスター・レイドラグーンが

空を埋め尽くすほど大量に飛び回っていた。

人間型の体が、後部のトンボ型の体と頭部を共有しており、その羽根で飛行している。

龍騎とナイトは力を出し惜しみせず、すかさず“SURVIVE”をドロー、

各々変形したバイザーにカードを装填し、サバイブ体に変身した。

 

「この野郎!お前らにみんなの世界を渡してたまるかよ!」

 

龍騎サバイブはドラグバイザーツバイで空中の敵を狙い撃ち、

 

「馬鹿と何とかは高いところが好きだというが、本当らしい」

 

ナイトサバイブはカードをドロー、ダークバイザーツバイに装填した。

 

『SHOOT VENT』

 

ダークバイザーツバイの両脇が展開し、ボウガン状の武器・ダークアローに変形。

太陽光を凝縮した青白い矢をレイドラグーンに放つ。

 

ギャウウウ!!

 

サバイブ化したライダー達の銃撃を食らい、悲鳴を上げて墜落するレイドラグーン。

だが、何ぶん数が多すぎる。殲滅には相当な時間が掛かる。

龍騎は少し離れた場所で戦っていたゾルダに呼びかけた。

 

「北岡さん!北岡さんのファイナルベントでこいつら全部ぶっ飛ばせない!?」

 

「無茶言うな!艦娘達がここいら全体に散らばってるんだ!みんな巻き込んじゃうよ!」

 

「くっそお……」

 

龍騎は空と地上を見て改めて戦況を確認する。

ゾルダは強力な両手持ちの砲による対空砲火で一撃必殺に徹している。

王蛇はベノサーベルで地上に近い敵を斬り、突き刺している。

ライアはエビルダイバーで空を舞いながら、高圧電流の流れる鞭を振るい、

一度に複数体を焼き殺している。

 

「よし、俺が一気に……!?」

 

龍騎がファイナルベントを放とうとした時、ある疑問が頭をよぎる。

コアミラーが、人間を求めているとしたら、もしかしたら……!?

 

「ねえ三日月ちゃん!」

 

龍騎は、12cm単装砲で懸命に上空の敵と戦っている三日月に祈る気持ちで叫んだ。

 

「なんでしょう!」

 

「みんなは検索エンジンでいろんなこと調べられるんだよね!?」

 

「そうですが何か!?」

 

「日本のニュース検索して!2013年の今のニュース!

ひょっとしたら現実世界にもミラーモンスターが侵入してるかもしれない!」

 

「はっ、そうでした!今すぐ!」

 

三日月は目を閉じ、意識を集中してネットワークに接続、

単に「ニュース」という単語を検索。そして、残酷な結末を告げる。

 

「真司さん、大変です!ざっと見出しを見ただけでも、

“あれから10年、復興の兆し見えず”!

“日本の首都、謎の生命体の攻撃により大阪に移転”!

“東京封鎖による経済的損失は天文学的数字に上る”!

明らかに2002年の現実世界にミラーモンスターが現れたことを示しています!」

 

「ええっ!くそ、どうすりゃいいんだよ!」

 

目の前には敵の大群に苦戦する仲間達。

そして同じく現実世界になだれ込んだレイドラグーン。どちらを救出に向かえばいい!?

苦悩する龍騎。だが、そんな彼を叱咤する声。

 

「なにをボサッとしている!その未来が嫌ならさっさと現実に戻れ!」

 

「蓮!」

 

「こっちにはライダーが山ほどいる!だが向こうには霧島と佐野しかいない!

ここは俺が引き受ける!お前は向こうでミラーモンスターを殲滅しろ!」

 

「真司さん、行ってください!私達を、信じて!!」

 

「みんな……すぐ戻る!」

 

三日月の励ましも得て、決意した龍騎は本館に乗り込み、

執務室の01ゲートに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

──ダミー鎮守府

 

 

同時刻、この廃墟にもレイドラグーンが押し寄せていた。

優衣は神崎の後ろで、広い厨房の隅でうずくまっていた。

神崎にもこの状況が理解できず、ただ優衣を庇うことに必死だった。

 

「何故だ!何故ミラーモンスターを制御できない!」

 

ウォオオオン……!!

 

その時、厨房のドアを破り、レイドラグーンの群れが乗り込んできた。

 

「オーディン!!」

 

瞬間移動で現れたオーディンが、すかさず強力な拳をミラーモンスターの頭に叩き込み、

腐ったトマトのように潰し殺した。だが、なおも四方からレイドラグーンが襲い来る。

オーディンはカードをドロー、左手で異次元から錫杖を取り出し、装填。

カバーを上げた。

 

『SWORD VENT』

 

オーディンの両腕に黄金の剣が現れる。彼は瞬間移動を駆使して、

神崎兄妹に近いレイドラグーンから一撃で真っ二つにしていく。

絶大な力を持っていても体は一つ。彼は計算しながら効率よく敵軍を切り捨てていく。

 

キャオオオオ!

 

一体のミラーモンスターが優衣達に襲いかかるが、

オーディンが移動した後に舞い散った黄金の羽根に触れる。

無数の羽根は触れた瞬間小爆発を起こし、レイドラグーンの体を粉砕した。

神崎はただ優衣を抱きしめ、優衣もまた神崎を抱き返す。

 

「お兄ちゃん……」

 

「心配はいらない、必ずお前を助ける、絶対こんなところで終わりにはしない!!」

 

オーディンは二人を守るために、ただ戦い続ける。だが、流石に手数が足りないのか、

屋内に侵入する数を減らす作戦に出た。再びカードをドロー、錫杖を呼び出し、装填。

 

『ADVENT』

 

すると、彼らからは見えなかったが、本館上空に、

金色に燃え上がる不死鳥・ゴルトフェニックスが飛来した。

華麗で勇壮なその姿に、レイドラグーンの群れは思わず恐れおののく。

ゴルトフェニックスが大きくひとつ羽ばたくと、上空が凄まじい炎に包まれ、

ミラーモンスター達が完全に炭化し、砕け散った。

本館を覆っていた大群が一気に数を減らす。

 

そして、逃走を始めた生き残りに向け、輝く炎を吹き付けた。

不死鳥の炎を浴びたレイドラグーンは、やはり完全に炭人形になり、

パラパラと地上に堕ちていった。

 

屋内では、ゴルトフェニックスの援護もあって、ようやく敵の増援が止まり、

残った敵の始末をするだけとなった。

 

「ふん!!」

 

やはり数だけを頼みにしていたレイドラグーンは、

オーディンの瞬間移動について行けず、ただただ一方的に斬り殺されるだけだった。

そして、最期の一体の胴を貫き、とどめを刺すと、ようやく喧騒が収まった。

神崎が調理台に手を付きながら立ち上がる。

 

「はぁ…はぁ…奴らが現れたということは、

世界の終わりが近づいているということなのか……?」

 

「そうとしか考えられない。奴らは、現実世界へ飛び立とうとしていた」

 

「それで……邪魔になった俺達を始末しようと!」

 

「お兄ちゃん……」

 

その時、優衣が床に座りながら息を切らせる神崎に呼びかけた。

 

「もうやめよう?たくさんの人傷つけて、お兄ちゃんもそんなに苦しんで。

私、そんな風にお兄ちゃんに助けてもらっても嬉しくないよ……」

 

「だめだ優衣、まだ諦めるな!お前の誕生日までは半月以上ある!

オーディンもいる!絶対にお前を守ってくれる最強のライダーだ!

オーディンがいる限り、お前は必ず幸せになれる!」

 

優衣は涙を流しながらただ首を振る。神崎はひざまづいて優衣の両腕に手を当てる。

 

「泣くな優衣。俺はお前の人生を守ってみせる。そのための新しい命。

それが、俺からのクリスマスプレゼントだ」

 

そして、優衣を優しく抱きしめた。絶望と希望を抱きながら、たった二人きりの家族は、

廃墟の片隅で寄り添い合っていた。

 

 

 

 

 

──TEA 花鶏

 

 

ヴォン!

 

パソコン画面から出た龍騎は、急いで階段を駆け下りる。

沙奈子が突然現れた妙な格好の人影に悲鳴を上げた。

 

「キャア!誰なのあんた!」

 

龍騎も変身したままだということに気づいた。

 

「ああ、おばさん、俺だよ俺!真司!ちょっとわけあってこんな格好してるけど」

 

「真ちゃんなの……?ああびっくりした。脅かさないでよ、ただでさえ大変な時に!」

 

声でどうにか判別できた沙奈子。しかし、龍騎は安心してもいられない。

 

「大変な時って、変な化け物が出てたりすること?」

 

「そうなのよ~。自衛隊も出動してすごい騒ぎになってるのよ、

真ちゃん私どうしたらいいの?」

 

「とにかく、テーブルの下に隠れて。絶対外に出ちゃだめだ。

俺、ちょっと行く所あるから!本当出ちゃだめだからね!」

 

「行くってこんな時にどこ行くのよ!……ああ、行っちゃった」

 

龍騎は道路に出ると、カードを1枚ドロー、ドラグバイザーツバイに装填した。

 

『ADVENT』

 

ガオオオオオ!!

 

ドラグランザーが次元の壁を破って大空に舞う。

時間が惜しい龍騎は、両足に力を込めて直接飛び乗った。

空から周囲を見回すと、ビル群の辺りに黒い点が集まっている。

ライダーの視力で拡大して見ると、やはりレイドラグーン。

自衛隊が87式自走高射機関砲や10式戦車で応戦しているが、

ミラーモンスターの装甲に歯が立たないようだ。

 

「あそこだ、行け、ドラグランザー!」

 

龍騎サバイブはドラグランザーに命じて、敵軍へ一直線に飛んでいった。

 

 

 

 

 

──渋谷上空

 

 

時速900kmのドラグランザーの飛行速度で、

あっという間に目的地にたどり着くことができた。だが、現場は既にパニック状態だ。

あちこちで悲鳴が聞こえ、自衛隊の装備と思われる発砲音が轟く。

 

“現在渋谷方面で正体不明の攻撃者と自衛隊が交戦中です、

付近住民の皆さんは警察の指示に従い……”

 

“こちら渋谷警察です。自衛隊の特殊車両が通行します。直ちに車を脇に停止し……”

 

何台ものパトカーが避難と車両の整理を呼びかけながらゆっくりと走っている。

龍騎はドラグランザーに敵軍の中心に突っ込ませた。

 

「ドラグランザー、とにかく敵を減らすんだ!」

 

そして自分は渋谷の中央に飛び降りる。

無数の乗り捨てられた自動車に加え、既に自衛隊の車両が何台も止まっているが、

効果がなく放棄されたのか、隊員の姿は見えなかった。

重機関銃を搭載した装甲車はズタズタに切り裂かれ、

高射砲は砲身を捻じ曲げられていた。

すると、レイドラグーンが群がっている1両の戦車が目に入った。

ミラーモンスターの鳴き声に混じって、人の声が聞こえる!

 

“こちら1616!至急応援乞う!繰り返す、現在敵に包囲されている!救援願う!”

 

中にまだ隊員がいる!

レイドラグーンはその鋭い鉤爪で戦車の装甲をガリガリと引き裂いている。

急がなければ隊員が危ない。龍騎は考えるより先に、

ドラグバイザーツバイでレイドラグーン達を狙い撃った。

突然後ろから強力なレーザーを食らい、戦車から放り出されるミラーモンスター。

 

上空ではドラグランザーが、高層ビルの周りを飛ぶレイドラグーンに

炎で攻撃を繰り返している。

そちらを放っておくわけにもいかない、ビルの中にも逃げ遅れた人がいるかもしれない。

龍騎はカードをドロー、装填した。

 

『SWORD VENT』

 

ドラグバイザーツバイに内蔵された刃が展開し、一振りの剣・ドラグブレードになった。

 

「うおおおお!」

 

龍騎は戦車の周りにいるレイドラグーンに斬りかかった。

まず、後ろ向きに倒れた個体に刃を振り下ろし、胴を両断。

小さな呻き声を上げて動かなくなる。一体撃破。

続いて後ろから迫る2体の片方の腹を蹴って距離を取り、もう片方に刃を叩きつける。

頭をかち割られ、声も上げずに絶命。

間髪を入れず、今よろけさせた1体に何度も斬撃を浴びせる。

反撃しようとした右腕を切り飛ばし、左肩から袈裟懸け斬りを入れ、

胴を横に薙ぎ、最後に突きで急所を貫いた。

 

ゴボッゴボゴボッ……

 

体液を吐きながら3体目がジタバタしながら動きを止めた。

だが、次の瞬間、上空から急降下したレイドラグーンに鉤爪の攻撃を食らってしまった。

 

「ぐあっ!」

 

とっさに腕で防御したので、大きなダメージには至らなかったが、

ドラグブレードを振り回しても、高所を飛び回るレイドラグーンに上手く当たらない。

周りを見ると、多数の敵に取り囲まれている。のんびりしてはいられない。

早くしなければ戦車を破壊される。しかし、“FINAL VENT”を放とうにも、

戦闘中のドラグランザーを呼び戻すわけには行かない。その時。

 

『SPIN VENT』

 

「はぁっ!」

 

ギュルルル!!

 

システム音声と共に、茶色の影が龍騎の上を舞っていたレイドラグーンに飛びかかり、

右腕のドリルを突き刺した。

一対の細身のドリルで頭をくり抜かれたレイドラグーンは即死。地上に落下した。

茶色の影はスタッと着地。それは、二本角が特徴のライダーだった。

 

「お前、佐野か!?」

 

「お久しぶり、先輩!」

 

影の正体は仮面ライダーインペラーだった。

 

「なんで、ここに……」

 

「約束したでしょー、外のモンスターはなるべく倒すって。

俺、もう金儲けする必要なくなったんだけど、いざ金持ちになると

なんか退屈なんですよね。

今度はちょっとくらい人のためになんかしてみようかなーなんて」

 

「お前……見直したよ!」

 

「褒めても一万円くらいしか出ませんよ。それより、まだ安心はできないみたいですよ」

 

確かに、まだ周囲は敵だらけ。増援が来たのは心強いがまだ不利な状況に変わりはない。

 

「じゃあ、とりあえず数を減らしますか」

 

インペラーは右足を上げ、左手でカードをドロー、右脛のガゼルバイザーに装填した。

 

『FINAL VENT』

 

「さあ、来い!」

 

インペラーが全力のファイナルベントを放つと、

無数のガゼル型モンスターの軍勢が現れる。

 

「行け!」

 

インペラーの号令でモンスター達が突撃する。渋谷のスクランブル交差点で

レイドラグーンの群れとインペラーの契約モンスター達が激突。

飛び跳ねながら槍やブレード状の角でレイドラグーンに攻撃を仕掛け、

次々に撃破していく。

インペラー側のモンスターもレイドラグーンの反撃で数を減らしていくが、

物量の多さでは引けを取らず、全滅には程遠い。

 

広く長い渋谷の道路を目一杯使い、並み居る敵を刺し殺し、蹴り殺し、斬り殺す。

契約モンスター達の攻撃が終わると、

インペラーが突然の襲撃に戸惑っていた一体に狙いを定め、

飛びついて強力な飛び膝蹴りを食らわせた。

脳を潰されたレイドラグーンは、力なく地に堕ち、爆発した。

 

「すっげえ!頼りんなるな、お前のモンスター!」

 

「いやあ、それほどでも、やっぱりあるかな~……

なんて冗談言ってる場合じゃないっすかね?」

 

「ああ。まだ、終わりじゃない……」

 

地上の敵はインペラーのドライブディバイダーで粗方片付いた。

しかし、空の敵は殆ど減っていない。ドラグランザーも奮闘してくれているが、

やはりこの数に苦戦しているようだ。

このままでは、戦車の乗員を出すわけにはいかない。

 

 

「なにを突っ立っているの!敵はまだいるのよ!」

 

 

その時、空から女性の声が聞こえた。目をやると、驚くべきものが。

巨大な白鳥がこちらに向かって飛んでくる。

そして、白鳥から白い甲冑のようなアーマーに身を包んだ姿が降り立った。

彼女は着地すると、龍騎達の元へ駆け寄った。

 

「久しぶりね。あなたは……見ない顔だけど」

 

「え、おたくも仮面ライダー?俺、こういう……あ。今、名刺出せないや」

 

「ほら、前に言ったじゃん。一人でミラーモンスターと戦ってる女の子がいるって」

 

「なるほど!それじゃあ、おたくも先輩ですね!」

 

「呑気におしゃべりしてる場合じゃないわ、何をまごまごしているの?」

 

「俺達のカードじゃ、空飛んでる奴攻撃できなくて困ってるんだ!」

 

「さすがに俺の足でも、あのビルの上まではジャンプできないよ」

 

「そういうこと。任せて」

 

ファムはカードをドロー、ブランバイザーに装填した。

 

『FINAL VENT』

 

クアァァーーーッ!!

 

ファムの契約モンスター・ブランウィングが勇ましく美しい雄叫びを上げると、

一気に高高度に飛び立ち、ビルの上でひとつ羽ばたいた。

ブランウィングの翼が猛烈な突風を起こし、

空を飛んでいたレイドラグーンを地上へ吹き飛ばした。

そして、ファムが装備していた長い薙刀状の武器・ウイングスラッシャーを

軽々と振り回し、飛んできたレイドラグーンを次々と真っ二つにしていく。

 

「はぁっ!とうっ!ふんっ!やぁっ!」

 

刃から逃れたレイドラグーンたちも思い切り地面に叩きつけられる。

ファムのファイナルベント「ミスティースラッシュ」で龍騎に好機が生まれた。

 

「今よ!」

 

「サンキュー、美浦ちゃん!ドラグランザー、行こうぜ!」

 

空の敵が墜落した今がチャンス。

龍騎は必殺のカードをドロー、ドラグバイザーツバイに装填。

 

『FINAL VENT』

 

すると、ドラグランザーの体から鏡の破片がはじけ飛び、バイクモードに変形を開始。

顔面を覆うガード。胴と尾からタイヤが出現。尾を折りたたみ巨大なバイクになった。

龍騎は両足に力を込め、全力でジャンプ。変形したドラグランザーに飛び乗る。

そして、ウィリー走行してドラグランザーの首を前方に向けた。

 

ドラグランザーは巨大な火球を連発し、地面で立ち上がろうとしていた

レイドラグーンを火だるまにし、とどめにそのスピードと重量で体当たり。

ドラゴンファイヤーストームで全ての敵を粉砕した。

敵の全滅を確認した3人は交差点中央に集まった。

 

「2人とも、ありがとう!俺だけじゃ、どうにもなんなかった!」

 

「別にいいですよ先輩。俺、お金の次は名声?ってもんが欲しくなっちゃって。

人助けもそのうちっすよ」

 

「お前なぁ……東條みたいに英雄になりたいとか勘弁な」

 

「“そっち”はどう?鳳翔さん元気?」

 

「うん、美穂ちゃんが新しい人生見つけたって喜んでたよ」

 

「そっか……また会いに行こうかな」

 

「鳳翔さんも喜ぶよ……っていっけねえ!」

 

龍騎は戦車に近づき、車体をゴンゴンと叩いて中の乗員に呼びかけた。

 

「すいませーん!もう化け物いなくなったんで、出てきても大丈夫ですよ!」

 

すると、ハッチが開き、自衛官が周囲を確認しながらぞろぞろと出てきた。

皆、龍騎達の姿に驚いているようだ。

 

「あの化け物は……君たちが倒したのか?」

 

「ええ、まあ」

 

「ともかく、救援には感謝するが、一体君たちはどこの部隊だ?」

 

「え、どこって言われても。う~ん、俺の場合はOREジャーナル……ってそうだ!

編集長達どうしてんだ!?こうしちゃいられない、じゃあ俺達はこれで!」

 

「あ、待ちたまえ君!」

 

龍騎は編集部のある方へ走り去っていった。

自衛官はあっけに取られて見ていたが、今度はファムとインペラーに目を移した。

何か話しかけられそうだったので、二人共早々に退散する。

 

「面倒なことになりそう、それじゃ、用は済んだし私は帰るわ」

 

「カッコよく名乗ってヒーローになるのも良さそうだけど、

ミラーワールドのこととか説明面倒くさそうだし、俺もかーえろっと」

 

ファムもインペラーも、ライダーの脚力で建物から建物へジャンプを繰り返し、

あっという間にその場から去っていった。残された自衛官達は首を傾げるしかなかった。

 

「陸自にあんな装備あったか?」

 

そして、彼らの上を一つの影が通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

──OREジャーナル編集部ビル前

 

 

「押さないでくださーい!落ち着いて順番に乗車してください!」

 

龍騎が編集部のオフィスが入っているビルにたどり着くと、

ビルの前に陸上自衛隊のトラックが停まっていた。

恐らく民間人を避難所に移動させるのだろう。龍騎は思わず声を上げる。

 

「編集長―!令子さーん!待ってー!」

 

だが、声を上げてから気づいた。変身したままだ。

 

”真司?無事だったのか!”

 

声に気づいた大久保達が自衛官の制止をふりきり、トラックから出てきた。

 

「携帯繋がらねえし、心配かけやが……だだだ、誰だお前!?」

 

声の主が一般人にとってはあまりに珍妙な格好をした男だったので驚く大久保。

しかし、次の瞬間、令子が声を上げる。

 

「危ない、後ろよ!」

 

「えっ?」

 

ガオォン!!

 

シアゴーストの生き残りが、龍騎に後ろから思い切り鉤爪で斬りつけた。

 

「がああっ!」

 

不意打ちのダメージで、変身が解けてしまった。

現れたのはブルーのジャケットを着た見慣れた青年。打ちのめされる大久保と令子。

真司も事の重大さに気づくが、今はそれどころではない。

 

「編集長、令子さん、逃げて!」

 

真司はシアゴーストに裏拳と蹴りを食らわせ、

なんとかビルの壁面の素材になっているガラスにデッキをかざす。

そして、右腕を思い切り斜めに振り上げ、

 

「変身!」

 

そして、腰に現れたベルトのバックルにデッキを装填。

身体に3つの鏡像が重なり、龍騎に変身……大久保達の目の前で。

皆、逃げるべきなのだが、驚きのあまり身動きが取れない。

 

「なにやってんすか、早く逃げて!」

 

龍騎はシアゴーストの足を掴み、ガラスの壁に強引に引っ張り込んだ。

鏡の中の世界、ミラーワールドへ。全ての疑問の答えを得た大久保達。

なおもその場に立ち尽くしていると、自衛官にトラックに乗るよう指示された。

彼も不可解な現象を見て驚いているのだろうが、任務を優先した。

 

「さあ、ここも危険です!早くトラックに乗って!」

 

「え、ああ、はい……」

 

「定員乗車確認!発車!」

 

「了解、発車する!」

 

運転席の自衛官がエンジンを掛けると、トラックは避難所へ向かって走り出した。

 

 

 

「うあっ!」

 

ミラーワールドに飛び込んだ仮面ライダー龍騎こと城戸真司は、

最後のシアゴーストと戦闘に入った。しばらく“SURVIVE”は使えない。

だが1対1なら通常フォームでも問題ない。

シアゴーストが両腕の鉤爪を構えて走り寄って来る。今度こそ決着を着ける!

龍騎はカードをドロー、ドラグバイザーに装填。

 

『FINAL VENT』

 

龍騎は両腕を前方に突き出し、左から右に振りかぶる。

そして、腰を落としながら構えを取り、両足で空高くジャンプ。

体をひねりながら縦に一回転。

そしてドラグレッダーが後方から激しい炎を吹き付けると、

蹴りの姿勢を取っていた龍騎は、そのままシアゴーストに向かって突進。

燃え盛る火の矢と化した龍騎は一直線に蹴りを浴びせた。

ファイナルベント・ドラゴンライダーキックが命中し、シアゴーストは爆散。

今度こそ敵は全滅した。

 

「ふぅ……」

 

龍騎がミラーワールドから戻ると、トラックは既に走り去った後だった。

とりあえず現実世界の危機は去った。しかし。

 

「編集長達になんて言えばいいんだろう。

“実はわたくし、仮面ライダー龍騎という者です”。ありえねー。

“いや~実は俺、仮面ライダーだったんすよ~”。無理だよな、

こんな大事になってんのに……」

 

真司は自らの生きる世界を守ることはできたが、日常を守ることはできるのか。

言い知れぬ不安を抱えることになってしまった。

 

 


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