【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第34話 Passing Dream

──秋山鎮守府

 

 

深夜。誰もいない執務室で蓮は壁を殴りつけた。矛盾する自己に対する苛立ち。

昼間、真司と言い争いになったことを思い出していた。

自分は恵理を助けるためにライダーになった。

欲望のために他者を蹴落とすのがライダー。……だったらなぜ東條を助けた。

放っておけば勝手に死んでいたというのに。

結局自分も迷っているのか?誰も彼も救うなど、出来もしないことを考えているのか?

ドサッとソファに倒れ込む。蓮はまぶたを強く閉じ、無理に何も考えないようにしたが、

眠ることができなかった。

 

 

 

 

 

──佐野鎮守府

 

 

「じゃ、2,3日ここ空けるけど、後よろしくね、叢雲!」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

幸いシアゴーストの襲撃を受けることなく、

そんなことがあったことすら知らない佐野は、叢雲のやる気ない見送りを受け、

野暮用を片付けるため01ゲートをくぐり現実世界に戻っていった。

 

 

 

 

 

──佐野宅

 

 

ヴォン!

 

久々に現実世界の散らかった我が家に戻った佐野。

さて、まず銀行に行って残高確かめなきゃ。

今度はいくら振り込まれてるんだろう、楽しみだなぁ!

 

「そういや、東條先輩があんなことになっちゃったけど、

俺との契約、まだ生きてんのかな?帰ったらその辺のこと確認しとかなきゃ……」

 

ブルルル……

 

その時、マナーモードになっていた携帯が振動した。

佐野は携帯を取り出し、通話ボタンを押して電話に出た。

 

「はい、佐野ですけど」

 

“ああ、やっと繋がりました!今までどちらに!?”

 

「えーと、ちょっと地下鉄の掃除のバイトが長引いたっていうかなんていうか、

ハハ……っていうか、おたく誰ですか?」

 

“お父上の会社で役員を務めている者です。いいですか、落ち着いて聞いてください。

貴方の、お父上が、亡くなられました”

 

「親父が、死んだ……?」

 

“つきましては、すぐ本社ビルにお越しいただきたく存じます。

いろいろお話しなければならないことがありますので”

 

「はい、すぐ行きます……」

 

唐突に告げられた事実。ゲームの世界にいる間に、父親が死んだ。

佐野は電話を切ると、一瞬呆然としたが、とりあえず父の会社に向かうことにした。

 

 

 

 

 

──佐野商事本社

 

 

スーツも持っていない佐野は、仕方なくそのままのラフな格好で

超高層ビルのエントランスに入った。

受付で名前を告げると、受付嬢はすぐに内線電話を取り、

何者かと二言三言を言葉を交わし、電話を切った。

 

「佐野満様ですね。この度はお気の毒様です。

役員の者が20階大会議室でお待ちしております。

左手奥の高層用エレベーターをご利用ください」

 

「あ、どうも」

 

佐野は言われるがままにエレベーターに乗り、20階で降りた。

大会議室はどこだろう。親父の会社、実際来るの初めてなんだよな。

壁に掲げられた透明プレートの案内板を見て、大会議室を探す。

幸い一番大きな部屋ですぐ見つけることができた。この階層最奥の部屋。

佐野はその両開きの大きなドアをノックした。

 

「あのう、佐野です。お電話いただいた」

 

すると向こうからドアが開かれ、そこに3人の男が立っていた。

いかにも重役らしい世慣れた雰囲気の中年男性たちが一斉に頭を下げる。

 

「この度は、誠にご愁傷さまです!」

 

「はぁ、どうも……」

 

まだ現状を飲み込みきれてない佐野は頼りない返事を返す。

そして重役たちに奥の席へ案内された。

 

 

 

「親父の、遺言?」

 

突然降って湧いた話に素っ頓狂な声を上げる佐野。

 

「ええ、知っての通り、貴方の父上は一代で、この会社を築き上げた。

そして、その後目に一人息子である貴方を指名しておられるのです」

 

小太りの男が父親の遺言らしきことを伝える。

 

「親父が俺を?」

 

「驚かれるのも無理はありません。貴方は二年前に社長から勘当されたとか。

しかしそれも、貴方に早く一人前になって欲しいという親心だったんでしょう。

いつも、社長は言っておられましたよ。

社会の荒波に揉まれ、成長した貴方に、いつか会社を継いで欲しいと」

 

「で、でも無理っすよ、いきなり社長だなんて」

 

苦笑いしながら断ろうとする。フリーターからいきなり社長。

佐野でなくても尻込みするのは無理もないだろう。

 

「もちろん最初は、我々が全力でサポートします。

貴方にはできるだけ早く、経営者の知識を身につけて欲しい」

 

レンズの大きな眼鏡を掛けた男が佐野に歩み寄りながら説得する。

 

「大丈夫、できますよ貴方なら。貴方の身体には、先代の血が流れているんだから」

 

痩せ型の男も優しい口調で語りかける。

 

「俺が……社長……!」

 

初めは無理だと最初から決めつけていた佐野だが、

次第に状況を理解すると、心が喜びで満たされる。これはまたとないチャンスなのだ。

この巨大企業の社長、つまり、億万長者になる権利を手にしたということなのだから。

 

 

 

 

 

──高級中華料理店

 

 

ハハハハ……

 

先程の重役たちと談笑しながらテーブル中に広げられた中華料理に舌鼓を打ち、

ビールを一気飲みする佐野。

重役が彼の機嫌を取りながら今後の段取りについて話をする。

 

「まあとにかく、前社長の葬儀が終わり次第、緊急役員会議を招集します。

そこで、貴方の社長就任が決まるわけです」

 

「でも、本当にそんなにうまくいくの?」

 

「手は打ってあります。もちろん反対勢力はありますが、金で、カタが着くでしょう」

 

ハハハ……

 

「まぁ、上手くやってよ、任せるから!」

 

佐野は重役に全てを任せて社長の座に着くことを決めたようだ。

相変わらず笑顔の重役たち。その目の奥に、どこかあざ笑うような色が見えた。

 

 

 

 

 

──佐野商事本社

 

 

後日。佐野商事本社ビルに真っ白な高級車が止まった。車から降りる佐野。

髪を固めて上等なスーツに身を包んでいる。

整列して彼を待っていた重役たちが一斉に頭を下げる。

 

 

「おはようございます!」

 

 

佐野は社屋に入ろうとした時、頭を下げる男の一人に声を掛けた。

 

「君」

 

「はっ!」

 

「手が空いた時に、車のウィンドウ磨いておいてくれるか」

 

胸のポケットに1万円札をねじ込んだ。

そして、自動ドアが開き、中に入ると、聞き慣れた鈴の音、

ドアのガラスには神崎士郎の姿。何の用だよ一体。

佐野は人気のない廊下に場所を変えた。

 

 

 

大きな一枚ガラスから中庭が見える廊下に移動し、佐野は神崎と向かい合った。

神崎は前置きもなく用件を切り出した。

 

「お前は仮面ライダーだ。ライダーである以上、戦い続けなければならない」

 

「ああ、そのことなんだけどさ、これ、返すわ。

俺、いい暮らしがしたくてライダーになったけどさ、

もう、そんな必要なくなっちゃって。やめたいんだ、ライダーを」

 

佐野はインペラーのデッキを差し出す。だが、神崎が受け取るはずもなく。

 

「一度ライダーになった者は、最期までライダーでありつづける。それが掟だ」

 

「……なんだよ、そんなの俺の自由だろ!もういらないんだよこんなもの!」

 

パニックになった佐野はカードデッキを防音カーペットの床に投げつけた。

 

「戦わないのはお前の自由だ!

だが、それが何を意味するか、お前もわかっているはずだろう」

 

「!?」

 

また、鈴の音。ガラス窓を見ると、大勢のミラーモンスターが自分を狙っている。

慌ててデッキを拾い上げる。

 

“戦え、そして生き残れ。そうすればお前はライダーをやめることができる”

 

神崎は既に姿を消し、警告だけを残して消えていった。

佐野の鼓動が早まり、デッキを握る手が汗ばむ。俺、どうすればいいんだよ……

他のライダーを全員倒す?無理だ!いや、やるんだ!やらなきゃいけない、絶対に!

ガラスに映った自分の姿を見る。高級スーツに身を包んだ大社長。

絶対に……絶対に自分を守ってみせる!

 

 

 

 

 

──レストラン

 

 

何とか気持ちを落ち着けて佐野は午後の予定をこなしていた。

自社との取引先社長、その令嬢との会食。

テーブルについているのは、佐野の目の前に若い女性、

両隣に社長らしい貫禄のある男性、そして部下らしきハリのあるスーツを来た男性。

 

「いや、君の父上とは古くからの付き合いでね、私もずいぶん世話になった。

あ、さあ、食べましょう」

 

次々運ばれてくる料理を楽しみながら、世間話をする社長。

 

「ははは、いやあ、君と友里恵を結婚させようなんて話したこともあった」

 

優しげな雰囲気をまとった友里恵という女性は何も言わず、恥ずかしげに少し微笑んだ。

 

「まあ、そんなことは、本人同士が決めることだが……

でもどうだ、こうやってみると、なかなかお似合いじゃないか。え?」

 

「いや、全くです」

 

部下の男も同意する。社長と部下が大きく笑うのを横目に、佐野と友里恵が見つめ合う。

やはり友里恵はどこか照れた様子だ。

 

 

 

食事を終え、社長が気を利かせたのか佐野と友里恵を二人にして帰っていった。

オープンテラスでカップコーヒーを2人分買った佐野が、

テーブルで座って待っていた友里恵に一つ手渡した。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう……ごめんなさい、父が急に変なこと言い出して」

 

「いえ、むしろ、嬉しかったです!あの……友里恵さん。

できれば、これからも時々会ってもらえませんか?」

 

佐野も友里恵もお互い悪くない印象を持ったようだ。

特に、佐野はもう友里恵に好意を抱いている様子。

そして、友里恵は黙って小さく頷いた。

 

「あ、はは!……少し、歩きましょうか」

 

承諾を得た佐野は幸せの絶頂にいた。

そして決意する。俺は勝つ。必ず俺の人生を守ってみせる!

 

「そうだ、佐野さん。せっかくお知り合いになれたんだから、メール交換しませんか?」

 

「はい、是非!」

 

二人は携帯を取り出すと、赤外線通信でお互いのメールアドレスを交換。

今度は、佐野から提案をした。

 

「あの……ついでと言ったらなんなんですけど、写メ、撮りませんか?」

 

「いいですね。じゃあ、あの川の近くが景色もいいと思います」

 

二人は川のそばにまで歩き、カメラに収まるように、少し遠慮がちに近づいて、

シャッターを押した。

 

カシャッ!

 

「……よく撮れてますよ、友里恵さん!」

 

「本当だ、私の携帯にも送ってください」

 

二人が顔を寄せ合って携帯の小さなディスプレイに収まっている。

 

「はい、すぐ!」

 

また赤外線通信で画像データを送り、夕焼け空で染まった美しい世界1枚を共有した。

 

「きれい……」

 

「あの!これ、待受け画面にしてもいいですか?」

 

「私も、そうします……」

 

「あ、ハハ、はい!そうだ。もう暗くなりますし、俺、送りますよ!」

 

「ありがとうございます」

 

そして佐野は友里恵を自宅最寄り駅まで送ると、自宅に戻った。

このボロ屋とももうすぐお別れだな。新しいマンションを契約してる。

俺はもう社長なんだから、住まいも服も一流じゃないと駄目だ。

佐野は、その日はアパートで夜を明かした。翌日は日曜だったので会社は休みだった。

また艦これの世界に戻ることになるけど、

ライダーバトルしながらでも仕事はできるでしょ。

重役の人がいろいろやってくれるみたいだし。

 

夜が明け、日が昇ると、スーツに着替え、ワックスで髪を固め、

一旦出かけて予約した物を受け取って戻ってきた。

そして、受け取ったものとアタッシュケースを用意。

ノートパソコンを引っ張り出し、再び艦隊これくしょんにアクセスした。

 

 

 

 

 

──佐野鎮守府

 

 

ヴォン!とサイバーミラーワールドに帰還した佐野。

執務室では、叢雲が窓ガラスを拭いていた。

 

「あら、お帰りなさい……ってどうしたのその格好!?」

 

普通の青年から、見違えるようなビジネスマンに姿を変えた佐野に驚く。

 

「ああこれ?俺、社長になったから。それなりの身なりをしないとね!」

 

「話がちっとも見えないけど……まぁ、おめでとう?」

 

唐突な話につい自分の言葉が疑問形になる。

 

「ありがとう!ところでお昼はもう食べた?まだならこれ食べてよ。お土産」

 

佐野は大きな紙袋を差し出した。

叢雲が受けると、中には漆塗りの重箱に詰められた弁当が入っていた。

ウニ、アワビ、近江牛のローストビーフ、どれも高級食材で作られた一品。

懐石料理のフルコースのように贅沢な弁当に目を丸くする。

 

「ちょ、あんたどうしたのこれ!」

 

「買った。それより早く食べたほうがいいよ、足が早いから」

 

「買ったって……あんた本当に何があったっていうの?」

 

「さっきも言ったじゃん、社長になったって。

それよりさ……食べ終わったらクルーザーの運転お願いできるかな。

さっさと片付けなきゃいけない仕事が山ほどある。ここで無駄にしてる時間はないんだ」

 

「じゃあ、いただくわよ……」

 

佐野はソファに座り、携帯を開いてポチポチといじりだした。

叢雲が彼の前に座り、弁当に箸を付ける。

 

「んんっ!?」

 

これまで食べたことのない珍味に舌が驚く。

旨味が凝縮されたウニのまろやかな味、歯ごたえのあるアワビ、

ただでさえ鎮守府では贅沢品の牛肉、しかも特上を炙ってスライスしたローストビーフ。

美味さに箸が止まらない。

 

……が、呑気に弁当を味わってもいられなかった。

目の前で足を組み、二人がけのソファのど真ん中で体を預ける彼を見て

若干の不安を覚える。いつも金のことばかり考えているが人懐こかった佐野に、

どこか人を払う雰囲気が生まれたような気がした。自分の思い過ごしだといいのだけど。

きっと急に服が変わったせいよね。叢雲は考えながら料理を口に運んだ。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

「じゃ、ここで待っててよ」

 

「また商談?」

 

「そんなとこ」

 

叢雲に転送クルーザーで送ってもらった佐野は、

アタッシュケースを持って本館へ歩いていった。本館に着くと木製の大きなドアを開け、

ホールの階段を上る。執務室の前に立つと2人の男の声が聞こえてくる。

ちょうどいいや、味方は多いほうがいいし。佐野はドアをノックした。

 

“はい、誰~”

 

中から真司の声が聞こえてきた。

 

「俺、仮面ライダーインペラーの佐野満って言うんだけど、

今日は、城戸提督と商談したくて来たんだ。

本当にライダーバトルじゃなくて、いや、いつかはするんだけど!

それまでは両方にとって悪い話じゃないと思うんだ!」

 

“蓮、どうする?”

 

“追い返せ、いずれ倒す奴と組んでどうする”

 

“なんだか……変ですからね”

 

あれ、女の子もいたのか。でもこのままじゃ帰れないよ。

もう他に組めるライダーはいないし。

 

「いきなり来て怪しいと思うのも無理ないよね。

だから今日は“保証金”として、まぁ、ざっと1億くらい持ってきたんだけど、

これだけでも受け取って欲しいんだ」

 

“聞くだけ聞いてみろ”

 

“ちょっ、秋山提督!”

 

「こんにちはー!」

 

すると真司の回答も聞かずに佐野が入ってきた。

ソファに腰掛けていた真司と蓮が思わず立ち上がる。

上等なスーツを来て身なりを整えてはいるが、

どこか怪しい雰囲気の青年が飛び込んできたので驚く二人。

後ろで下げた湯呑みをお盆に乗せていた三日月は苦笑いだ。

 

「はじめまして、先輩たち!」

 

「いや、先輩って……」

 

そして例の名刺を二人に渡す。

 

<仮面ライダーインペラー 佐野満>

 

印刷が間に合わなかったので、余白にボールペンで

“佐野商事 代表取締役社長”と書かれている。

やっぱり不審人物を見るような目になる真司と蓮。

しかし、佐野はそんなことは気にせず話を始める。

 

「秘書艦から貰った資料を見たんだけど、二人共凄い活躍ぶりみたいだよね。

単刀直入に言うと、俺と、契約してくれないかな。

つまり、ボディーガードとして雇いたいんだけど」

 

「なんだって?俺達を雇いたい?」

 

「何を考えてるんだ、お前」

 

金に釣られて招き入れてしまったものの、

蓮は同じライダーを抱き込もうとする佐野に警戒心を抱く。

 

「別に。もちろんタダとは言わない。とりあえず契約金として……」

 

佐野は持ってきたアタッシュケースを開けた。中には札束がぎっしりと詰まっている。

蓮は思わず凝視する。

 

「どう?悪い話じゃないと思うけど。

ライダーとして勝ち残っていくためには、仲間がいたほうがいいわけだし」

 

金に気を取られている蓮の代わりに真司が要求を突っぱねる。

 

「ふざけんな、金で仲間が買えると思ったら大間違いなんだよ!なあ、蓮!蓮?」

 

真司に呼びかけられた蓮が我に返ると、アタッシュケースを閉じた。

 

「……思い出した。お前、東條が自殺を図った時、関係者なのに逃げ出しただろう。

一度逃げた奴は次も逃げる。こんな奴と組めるか」

 

「え?あん時いたのかよお前!」

 

「まあ、そういうことならしょうがないか。……馬鹿だね、あんたら」

 

それじゃ、と佐野は用が済んだらアタッシュケースをぶら下げて、

さっさと執務室から出ていった。

 

「ったく、なんて奴だ」

 

「相手にするな。この段階に来てライダーバトルに金が通用すると思ってるような奴だ。

放っておいてもどこかで脱落する」

 

「それ、最初に金に釣られたお前が言う?」

 

蓮は黙ってソファに座り、三日月が入れ直してくれたお茶をすすった。

 

 

 

1時間後。

昨日は言い争いになり、まともな話し合いができなかった点について再度話し合った

真司と蓮だが、やはり話は平行線だった。

蓮は不機嫌そうな顔で吹雪を連れて転送クルーザーへ向かった。

すると、佐野の秘書艦・叢雲と出会った。

 

「あ、秋山提督、こんにちは」

 

「叢雲ちゃんこんにちは!」

 

吹雪が前に出て蓮より先に返事を返した。蓮は吹雪の頭に両手を当て、横にずらすと、

 

「あわわわ!」

 

「……秘書はまともなやつらしいな。悪いがクルーザーを使いたい。いいか?」

 

「どうぞ、まだ提督を待っているところなので」

 

「じゃあな。……吹雪、早くしてくれ」

 

蓮がクルーザーに乗り込み、吹雪に催促する。

 

「ああ、ちょっと待ってください……それじゃ、叢雲ちゃん、またね!」

 

吹雪もクルーザーに乗り、操舵席で舵を握り、音声コマンドを宣言。

クルーザーは一瞬光り、蓮も吹雪も転移して行った。

手持ち無沙汰の叢雲は足元を小さく蹴る。提督、何してるんだろう。

また変なこと考えてなきゃいいけど……

 

 

 

 

 

その頃、真司も腹立たしい気持ちを発散するために広場をズンズンと歩いていた。

 

「本当に蓮のやつ優衣ちゃんのこと見捨てる気かよ!なんでまだ可能性があるのに……」

 

シャアアア!!

 

「!?」

 

その時、ギガゼールが木陰から真司に飛びかかってきた。

瞬時に身をかわし難を逃れたが、このモンスター、どこかで見たことある。

……そうだ、艦隊新聞!でっち上げの襲撃事件が報道された時、写真に写ってた。

東條と香川は既にライダーバトルから離脱。残る関係者となると……

 

「あいつか!」

 

真司はカードデッキを取り出し、小川の水面にかざし、変身。

そして、水面からミラーワールドに飛び込んだ。

 

 

 

そこではインペラーが大勢のガゼル型モンスターを従えて待ち受けていた。

 

グルルル…… グォオオオ!

 

「わかってるよ。腹が減ってるんだろ。今すぐ満腹にしてやるから」

 

インペラーがモンスターをなだめていると、左右反転した広場に龍騎が現れた。

インペラーとミラーモンスターの軍勢を見て叫ぶ。

 

「お前、何考えてんだよ!」

 

「ごめん、俺、絶対生きなきゃいけないんだ!」

 

インペラーは右足を上げて左手でカードをドロー、脛のガゼルバイザーに装填した。

 

『SPIN VENT』

 

「おおお!!」

 

一双のドリル・ガゼルスタッブを装備し、その脚力で龍騎に駆け寄り、突き出した。

右胸に命中。アーマーが派手な火花を上げ、龍騎がよろける。

 

「がああっ!くそ!」

 

先手を取られた龍騎もカードをドロー、ドラグバイザーに装填。

 

『SWORD VENT』

 

ドラグセイバーを手にした龍騎が反撃に出る。

インペラーに真上から斬りつけ、胴を薙ぐ。

だがインペラーもガゼルスタッブを巧みに操り、攻撃を受け流す。そして叫んだ。

 

「全員、かかれ!」

 

すると“ADVENT”で召喚していたガゼル型モンスター達が龍騎を取り囲み、

一斉に襲いかかる。戸惑う龍騎に、

ミラーモンスターの軍勢が一撃加えては離脱する、ヒットアンドアウェイを繰り返す。

一体を相手にしていると後方から連続して攻撃を受ける。

一対多の状況に手も足も出ない龍騎。

そして、またインペラーがガゼルスタッブで龍騎の左肩を突く。

 

「ううっ!このやろ……汚ねえぞ」

 

「悪いな、負けるわけにいかないんだよ!」

 

「それはな……こっちも同じなんだよ!」

 

龍騎は起死回生のカードをドローする。

すると周囲が激しい炎に包まれ、ミラーモンスター達がもがき苦しむ。

その隙に、ドラグバイザーツバイに変化したバイザーの口にカードをセット。

下から顎を閉じ、カードを装填した。

 

『SURVIVE』

 

龍騎の体を業火が包み、龍騎サバイブに変身。

二度目の変身を経てパワーアップしたその姿を初めて見たインペラーは、

予想外の事態にパニックになる。

 

「なんだよそれ、そんなのありかよ!!……うああああ!」

 

それでも勇気を振り絞り、ガゼルスタッブを持って両足の脚力を活かしたジャンプで

空に舞う。そして高所から龍騎を突き刺そうとする。

 

「はっ!」

 

だが、すかさず龍騎がドラグバイザーツバイで狙撃。

空中でレーザーを食らい、バランスを崩して着地に失敗。

インペラーは受け身も取れず地面に叩きつけられる。

 

「ぐああっ!」

 

龍騎は続いてカードを1枚ドロー、装填。

 

『ADVENT』

 

大空から次元の壁を突き破り、ドラグランザーが飛来。

主の危機を察知すると、インペラーの契約モンスターの群れに、

その身に蓄える炎を吹き付けた。激しく燃え盛る炎を浴び、

大半のミラーモンスターが燃え尽きる。有利な状況が一気にひっくり返った。

全てのモンスターを失ったらライダーバトル脱落、俺の人生も終わり!

撤退するしかない!インペラーは水面に飛び込み、艦これ世界に逃げ出した。

 

「あ、待てこの野郎!」

 

龍騎もインペラーを追ってミラーワールドから脱出する。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

駄目だ、こんなんじゃ無理だ!やっぱりもう一度北岡と交渉して……

 

“待てー!お前も牢屋に入れてやる!”

 

「ちくしょう、隠れるところは……」

 

こんなところで足止めされてるわけにはいかないんだ!

佐野は噴水の水面に飛び込み再びミラーワールドへ一時身を隠す。

 

“くそぉ、どこいきやがった!”

 

龍騎が変身したまま、なおも追ってくる。こんなことしてられないんだよ……!

来週には俺の社長就任発表!水曜には重役会議!金曜にはホテルヨークラで晩餐会!

それで……!龍騎が目を離した隙にまたミラーワールドから這い出て一気に駆け出す。

次は、あそこだ!倉庫の向こうの林の中!

 

 

 

「頭ったま来た!絶対見つけてやるかんな!」

 

変身を解いた龍騎は道行く艦娘に声を掛け始めた。

 

「ねえ、この辺でライダー見なかった?」

「今日はライダー、行方不明の日!」

「……あ、うん、ありがと。ねえ君!角はやしたライダー見なかった?」

「いえ……初雪なんかが、知るわけないじゃないですか」

 

埒が明かない。真司は三日月に協力を頼むことにした。

携帯を取り出し、三日月の携帯型電波通信機にダイヤルする。

 

 

 

その時、インペラーはどうにか龍騎の目を盗んで倉庫の影までたどり着くことができた。

後は林の中へ逃げ込めば見つからないだろう。

だが、草むらの中へ足を踏み入れようとした時、見えない力が働いて、

インペラーはそれ以上奥に行くことが出来なかった。

 

「ええっ、なんだよこれ!進めない!」

 

目で見ると確かに奥まで雑木林が続いているのに、入ることが出来ない。

不思議な力の表面を必死に手で探って入り口を探すが、やはり全体が壁になっている。

どうする!?いくら奥まって目立たない場所でも、

いつまでも留まっていてはいずれ見つかる。

かと言って目立つ広場に戻ることもできない。

 

「ちくしょう……なんでだよ……俺は、生きなきゃいけないのに」

 

日曜には、友里恵さんとまた会う約束なのに……!!

 

『FINAL VENT』

 

そのシステム音声に振り返ると、紫の影が連続キックを放ちながら

こちらに突進してきた。突然のことで回避も出来なかった。

どこでライダーバトル発生を嗅ぎつけたのか、

インペラーは王蛇のベノクラッシュで強引に雑木林に放り出された。

 

「うう、がはっ!」

 

「フン……」

 

ファイナルベントを受けながらも、当たりどころがよかったのか、

変身解除され体はあちこち痛むものの、即死は免れた佐野。

王蛇もとどめを刺すべくこちらに向かってくるが、

やはり見えない力でこちらには来られないようだ。やった、やっぱり俺はツイてる!

その時、真司が三日月を連れてやってきた。

もう大丈夫、なんだか知らないけど、俺はコイツに守られてる!

 

「やっと見つけたぞ、佐野!大人しく降参しろ」

 

「そんなことできるか!やっと掴んだ幸せなのに!こんなところで捨ててたまるか!」

 

だが、三日月が真司の袖を引っ張った。暗い表情で。

 

「真司さん……」

 

「どうしたの、三日月ちゃん?」

 

「とても、言いづらいことなんですが……」

 

 

──彼はもう、助かりません。

 

 

一瞬、自分の耳を疑った。なんで俺が助からないんだ?無敵の壁に守られてるのに。

意味がわからないのは真司も同じのようで、三日月に説明を求める。

 

「助からないって、どういうこと?浅倉なら俺が全力で……」

 

「そういうことじゃないんです!」

 

「!?」

 

三日月が悲しげな声で叫んだ。

 

「彼は、ゲームの外に飛び出してしまったんです」

 

「飛び出すと、どうなるの……?」

 

段々真司も不安な気持ちになる。三日月は静かに語り始めた。

 

「艦これの世界は広いようで狭いんです。ゲームの世界は無限ではありません。

広大なオープンワールドのゲームでもマップの端から先には進めないように、

艦これの世界にも制限があるんです。

 

ゲーム業界で通称“見えない壁”と呼ばれている、

プレイヤーが一定範囲から出ないよう設定された領域です。

当然ですよね、無限にフィールドが続いているなら、

サーバーが何万台あっても足りません。

 

とにかく、何かのはずみで本来開発者が意図しない領域に入り込むと、

戻れなくなったり、ゲームそのものがバグを起こしてしまいます。

今、起きている状況がまさにそれ。彼が壁の向こうにめり込んでしまったので、

壁に阻まれてこちらに戻れないんです。

そして、艦これの場合、壁の向こうに入り込むと……」

 

「どうなるの?」

 

「システムが予期せぬエラーと判断して、

存在しないはずのプレイヤーの削除を始めます」

 

削除……?どういうこと、だよ。言い知れぬ不安にかられた佐野は“壁”に手を付く。

すると、手が少しずつグリーンの0と1の粒子になり、消滅していく様が目に映った。

思わず自分の体を見る。少しずつではあるが、肉体の消滅が始まり、

その速度も徐々に早まっていく。

 

「なんだよ、なんだよこれ!!」

 

助けを求めて見えない壁を思い切り何度も叩く佐野。三日月は思わず目を背ける。

 

「出してくれ、出してくれよ!」

 

「佐野、待ってろ!」

 

必死の形相で叫ぶ佐野。真司も壁を思い切り殴るが、

衝撃そのものがなかったかのように反作用の痛みすら返ってこない。

それでも何度も殴る。向こうも殴り返してくるが、お互いの力を感じることもできない。

三日月がそんな真司の腰に手を回して引っ張る。

 

「もう、だめなんです……真司さんまで向こうに行ってしまったら、

取り返しの付かないことになります」

 

「諦められるかよ!こんな奴でも見殺しにしたら、

俺がライダーになった意味がないんだよ!」

 

そんなやり取りの間にも、佐野の体はどんどん粒子化し、その速度も増していく。

半狂乱に陥る佐野。大切な人を呼び続ける。

 

「友里恵さん、友里恵さん!出してくれ、出してくれ、出してくれ!!」

 

そのあまりに悲痛な叫びに三日月は耳を塞ぐ。粒子化が進み佐野の全身が半透明になる。

ポタ、ポタ。いつの間にか空が雨雲に変わり、大粒の雨が皆を叩き始めた。

 

「友里恵さん、友里恵さん!出してくれ!」

 

ずぶ濡れになりながら佐野はポケットから携帯を取り出し、開く。

そこには夕日に照らされ微笑む友里恵の顔が。

 

「友里恵さん、友里恵さん、友里恵さん!

出してくれ、出してくれよ、俺は帰らなくちゃいけないんだ俺の世界に!」

 

友里恵との記念撮影を映す携帯を持つ手が、なくなろうとしている。

 

「いやだ、いやだ!出してくれ!出してー!!」

 

泣き叫び、絶叫する。

 

「なんでこうなるんだよ……

俺は、俺は、幸せになりたかっただけなのに……うああ!!」

 

そして、彼の体は完全に分解され、サーバーの中に消えていった。後に残されたのは、

幸せそうに微笑む二人が映る携帯電話。呆然と立ち尽くす真司達。

救えなかった。打ちのめされる真司。

人間も、艦娘も、ライダーも、みんなを救うという誓いもまた、

サラサラと、崩れていった。

 

 

 

>仮面ライダーインペラー 佐野満 消滅

 

 


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