【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第33話 Home Sweet Home

──ダミー鎮守府 海岸

 

 

優衣は海岸に沿ったコンクリート道に腰掛けて過去の思い出に浸っていた。

海は凪いでいた。寄せては返す優しい波の音が、彼女の記憶を手繰り寄せるように。

 

 

……

………

 

二人は閉じ込められた一室で、今日も絵を描いていた。

しかし、来る日も来る日も同じ毎日を送っていた優衣がぐずり、

スケッチブックを床に投げ捨てた。

 

「お兄ちゃん、仮面ライダーのビデオが見たい!」

 

士郎はスケッチブックを拾い、優衣に渡した。

 

「父さん達が昔みたいに戻れば、また見られるよ。

……そうだ、今度は仮面ライダーの絵を描こう」

 

「仮面ライダーの絵?」

 

「そう。俺達を守ってくれる、俺達だけの仮面ライダーだ。

モンスターたちと一緒に戦う、とっても強いライダーなんだ。

きっと俺達を助けてくれる」

 

「うん!」

 

また、二人は絵を描き出した。今度は自分たちだけのヒーローを。

炎を吐くドラゴンを従える戦士、ロボットにたくさんのミサイルを撃たせる銃士、

そして、金の鳥に守られた最強のライダー。

兄妹はいつか幸せな日々が戻ることを夢見て、ただ絵を描き続けた。

 

………

……

 

「全部……私達が始めたことなんだね」

 

優衣は穏やかな海を眺めながらつぶやいた。

 

「そう、全ては俺達が始まりだった。ライダーはお前を守る。

かつて俺達が願ったように」

 

いつの間にか優衣のそばに立っていた神崎。彼女は静かに首を振る。

 

「違うよ。こんなこと望んでなかった……

私のためだけにライダーに命の奪い合いをさせて、色んな人を傷つけて……

もう、終わりにしよう?」

 

「……できない」

 

「どうして!?」

 

「お前を、失いたくない。お前が助かるまで、俺は何度でもやり直す」

 

言葉の意味は分からなかったが、結局話が堂々巡りしていることに変わりはなかった。

優衣は話を切り替えて、気になった問いを神崎にぶつける。

 

「ねえ、お兄ちゃん。ライダーが私を守るって言ってたけど、

お兄ちゃんのことは誰が守ってくれるの?

もし、ライダーバトルが進んで、最後の一人が決まって、私が助かったとしても、

その時お兄ちゃんはそばにいてくれるの?」

 

「……!ああ、ずっと一緒だ……」

 

急に核心をついた問いを突きつけられ、思わず口ごもる神崎。

だが、優衣はそれを見抜き、立ち上がって神崎に詰め寄る。

 

「嘘!どうして?みんなだけじゃなくて自分まで犠牲にするつもりなの!?

大切な人がみんないなくなった後、私はどうすればいいの?

蓮も、真司君も、お兄ちゃんも!お願い、もうこんなこと止めてよ!

私がひとりぼっちになっちゃうじゃない!」

 

「違うぞ優衣!確かに俺はもうミラーワールドの人間だ。

お前のそばにいられる時間は限られてる!だが少しの辛抱だ!

今の絆は諦めなきゃいけないかもしれない、

でもこれからの人生できっとお前を大切にしてくれる人が現れるはずなんだ、絶対に!」

 

優衣の肩をつかんで必死に訴える。しかし、優衣はその手を振り払う。

 

「いや!真司くんも、蓮も、お兄ちゃんも、誰もいない世界なんて要らない!

ねえ、お兄ちゃんはもうミラーワールドの人間だって言ったよね。

どうしてそうなったの……?」

 

「俺は……実験中の事故で死んだ。命が尽きる直前、

ミラーワールドの研究成果でどうにか自分をミラーワールドの存在にし、

虚ろながら自分の存在を保つことに成功した。

その時間に限りがあるのは、優衣、お前と同じだが」

 

「じゃあ、日本に帰ってきたお兄ちゃんは!?」

 

「お前と同じ、命なき存在。やがて終わりが来る。だが優衣、お前はそうはならない。

俺がさせない」

 

「みんなを踏みつけにして生きていくくらいなら、私、ずっとここにいる!」

 

「優衣!」

 

優衣は海岸沿いを走り去っていった。

神崎は追いかけようとしたが、行く手を3体のミラーモンスターが遮った。

 

ゔ……ゔゔ…ゔ

 

真っ白な身体に白い牙を持つヤゴ型ミラーモンスター・シアゴーストが

襲い掛かってきた。

 

「オーディン!」

 

オーディンはカードをドロー、左手に呼び出した錫杖に装填、カバーを押し上げる。

 

『SWORD VENT』

 

彼の両腕にゴルトセイバーが現れると同時に、

瞬間移動でシアゴースト達に斬りかかる。

その剛剣の一撃で、皆、10秒とかからず真っ二つにされた。

シアゴーストの死体が0と1の粒子になって消えていく。

 

しかし、創造主の一人である神崎に襲い掛かってきたのは明らかに異常だ。

……終わりが、近づいているということなのか?

 

「神崎……」

 

「まだだ!まだ時間はある!何も問題はない!」

 

自分に言い聞かせるよう叫ぶ神崎。しかし、彼は追い詰められていた。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

真司の執務室に蓮と手塚が集まっていた。

昨日、香川から託されたミラーワールド、コアミラーに関する資料を精査するために

知恵を借りようと思ったのだ。青葉のレポートはともかく、

何しろ肝心の資料は大学教授がまとめ上げたものなので、

残念ながら真司の予備知識では噛み砕くことができなかったのだ。

テーブルの面積を目一杯使って、資料を並べる。

 

「これが、ミラーワールドの中枢、というわけか……

そして、この世界がもたらすタイム・パラドックスの危機」

 

香川の資料を読み解く手塚。

彼自身、この世界の構造に手を触れたことで、若干興奮気味だ。

 

「すげえな、やっぱわかんの?」

 

「ところどころ専門用語があってわからないところはあるが、大まかには。

……やはり、内容はミラーワールドとタイム・パラドックスに関するものだ。

“仮面ライダー”という単語が何度も出てくる」

 

「東條のところの青葉が書いたレポートも気になる。

ダミー鎮守府とかいう場所に女の幽霊が出るそうだ……優衣に違いない」

 

蓮は青葉のレポートを熟読していた。

優衣が神崎にサイバーミラーワールドへ連れられたことと、正体不明の人間の女性。

考えられる可能性はひとつだ。

 

「ねえ、三日月ちゃん!俺達もそのダミー鎮守府とか言うとこには行けるの?」

 

真司が傍に控えていた三日月に尋ねた。

 

「はい。もう外部からのアクセスはできませんが、

艦これ内部からの航路は残っています。いつも通り転送クルーザーで移動可能です」

 

「じゃあ、早く優衣ちゃん迎えに行こうよ!

だだっ広い鎮守府に一人きりじゃ可哀想だよ」

 

「やめておけ」

 

蓮が今にも出ていこうとする真司を止める。

 

「なんでだよ!」

 

「神崎の行動原理から考えて、優衣に護衛を着けているはずだ。オーディンと言ったな。

今、俺達が行っても返り討ちに会うだけだ。

それは、お前のほうがよく知っているはずだろう」

 

「そりゃ……そうだけど」

 

「確かに、神崎はライダーバトルに決着が着くまで

彼女を閉じ込めておくと考えた方がいい。それが確実に彼女を救う方法だから。

それより今はミラーワールドを閉じる方法だ。

この資料によると、このサイバーミラーワールドの何処かにコアミラーが存在し、

全てのミラーワールドを支えているらしい。

ただ、それがどこにあるのかは香川教授にもわからなかったようだ。

破壊にもとてつもない力が必要らしい。聞いたこともないような巨大な桁の数を

何万回と累乗した熱量で内部崩壊させるほかないそうだ」

 

「見つけても壊せないんじゃ、意味ないな……巨大な桁って億とか兆?」

 

「不可思議や無量大数などだ」

 

「は!?なんだそりゃ聞いたことないぞ!」

 

「研究者でもなければ必要にもならないからな。紙に書くのも一苦労だ。

それより、俺達がどうするかをそろそろ決めるべきだ。

宇宙崩壊やミラーモンスターを殲滅するため、コアミラーを捜索、破壊するか、

それともライダーバトルを続けるか」

 

手塚が目下の課題に話を戻した。だが、蓮はコアミラーについては乗り気でなかった。

 

「ふざけるな、俺はバトルを降りる気はない。

コアミラーを壊したいなら俺を倒してライダーバトルに勝ち残れ。

宇宙崩壊など放っておけ。ほぼゼロに近い確率に怯えて

何もできなくなるほうが全滅する可能性が高い」

 

あくまでライダーバトルを続けるつもりらしい。

 

「なんでわかんないんだよ!なんでまだ神崎が仕組んだインチキに付き合うんだよ!

もう優衣ちゃんのタイムリミットが近づいてるのに、俺達が戦ってどうなるんだよ!」

 

「お前こそ何がわかる!

最後に得られる力で優衣に命を与えられるなら、恵理を救うこともできるはずだ!」

 

「だったら優衣ちゃんはどうなるんだよ!

来月までに何か手を打たないと、優衣ちゃんが消えちゃうだろ!」

 

「俺は恵理を救うためにライダーになった!自分の欲望のために戦うのがライダーだ!

この期に及んでまだ理解していないのか!

戦いたくないだの、全員救いたいだの、聖人君子を気取りたいなら勝手にしろ!

誰も救えないまま、自分の欲望すら見いだせず、

最後まで迷い続けても残るのは後悔だけだ!」

 

「なんだとこの野郎!」

 

「お二人ともやめてください!」

 

もう恵理の事を伏せるつもりもないようだ。

その時、手塚が何かを閃いたように小さな声で囁いた。

つかみ合い、揉み合いになっていた二人が止まった。

 

「そうだ、まだ、ある」

 

「あるって、なに?なに?」

 

真司が慌てて手塚のそばに寄る。

 

「説得するんだ、神崎を。コアミラーを破壊してミラーワールドを封印する」

 

手塚の案を蓮は鼻で笑う。

 

「今までの話を忘れたのか。神崎を説得だと?

ある意味浅倉にライダーバトルやめさせるより可能性低いぞ。

ペテン師の話術ならできるとでも言いたいのか」

 

「神崎もこのライダーバトルがほぼ停滞状態にあることは知っているはずだ。

残された時間が少ないことも。なのに妙に動きが少ない。

以前はライダーバトルを阻害する要因として

城戸にオーディンまでけしかけたというのに」

 

「……それがどうした」

 

「恐らくだが、神崎は何か切り札を持っている。

ライダーバトル全体をひっくり返すような。

もしかしたら、それが勝者の得る“力”に匹敵するものなのかもしれない」

 

「そんなものがあればとっくに優衣に使っているだろう!

寝ぼけるのもいい加減にしろ!」

 

「落ち着けよ蓮!」

 

「お前たちこそ危機感を持て!バトルもしなければろくな提案もしない!

城戸、表に出ろ!俺と戦え、ライダーバトル再開だ!」

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

「時間がないと何度言わせれば気が済む!」

 

「ああ、ですからお二人とも落ち着いてください!」

 

「……もういい、話にならん!俺は帰る!」

 

バタン!!

 

三日月が小さな体全体を使って二人を止めると、蓮は苛立ちを隠さず出ていった。

真司は頭を強くボリボリと掻く。

 

「ああもう、なんでこう噛み合わないんだよ!」

 

「すまない城戸。俺が余計なことを言ったばかりに」

 

「手塚が謝ることじゃないって。俺のせいだよ。蓮も恵理さんを助けたいんだ。

なのに俺が結局何も決められないせいで。

優衣ちゃんを助けるのか、ライダー達を助けるのか、恵理さんを助けるのか。

それに、俺の欲望……」

 

口をついて出た言葉に、重要なことに気がつく。さっき蓮が言ってたこと。

自分の欲望のために戦うのがライダー。だったら、俺の欲望ってなんなんだろう。

みんなを助けたいのが欲望だと思ってたけど、

誰かを助けるには誰かを犠牲にしなきゃいけない。

欲しい何かを得るために、何かを捨てなきゃいけないなら、欲望ですらない。

俺、一体、何のために戦ってるんだろう……

 

「悩んでいるのか」

 

「うん……俺、やっぱり何にも決められない。

流されるまま戦ってきたけど、やっぱり、ライダーになるべきじゃなかったのかな」

 

「それは違う。流されながらもお前は選択を続けてきた筈だ。

ライダーでなければ得られなかった選択肢で何を選び、何を捨ててきたのか、

思い返してみるのもいいだろう……“ポロポロン”」

 

その時、手塚の携帯が鳴った。通話ボタンを押して電話に出る。

すると、名乗る前に切迫した声が耳をジンと叩いた。

 

“ああ、ご主人様!今すぐ帰ってきてください!

ミラーモンスターの大群とエンカウント中です!今度は本物です!

大して強くはないんですけど、数が多くて倒しきれません!”

 

「わかった、すぐ帰る!」

 

「どうしたの、手塚」

 

「鎮守府がミラーモンスターに襲われてる!」

 

「え!?じゃあ、俺も行くよ!三日月ちゃん、クルーザーお願い!」

 

「わかりました!」

 

 

 

 

 

──手塚鎮守府

 

 

手塚達が鎮守府に戻ると、異様な光景が広がっていた。

 

ゔゔ…ゔ……ゔゔゔ

 

大量のシアゴーストが気味の悪い鳴き声を上げながら、

本館全体にへばりつき、広場中をうろついていたのだ。漣の連絡通り、

数だけのあまり強くないモンスターらしく、艦娘達が総動員で砲撃し、

駆除に当たっている。しかし、どこから湧いてくるのか一向に減る気配を見せない。

手塚に気づいた漣が、攻撃の手を止め駆け寄ってきた。

 

「神降臨!ご主人様、見ての通りなんです!なんとかしてください!」

 

「待ってろ!」

 

手塚は海面にデッキをかざし、腰にベルトを実体化させる。

そして、右手の人差指と中指を立て、サッと腕を伸ばす。

 

「変身!」

 

そしてカードスロットにデッキを装填。

3つの鏡像に身を包まれ、仮面ライダーライアへと変身した。

 

「俺も手伝う!」

 

同じく真司も海面にデッキをかざし、ベルトを召喚。右手を斜めに振り上げ、

 

「変身!!」

 

ベルトにデッキを装填。

回転するライダーの輪郭が身体に重なり、仮面ライダー龍騎に変身。

 

「微力ながら私も!」

 

三日月も12cm単装砲を構え、4人はシアゴーストの群れへ突撃していった。

 

まず、ライダーが基本武器を召喚。ライアは“SWING VENT”でエビルウィップ、

龍騎が“SWORD VENT”でドラグセイバーを装備した。

その間に艦娘二人がそれぞれの砲で既に攻撃に入っていた。

三日月、漣が片膝を付いて体を安定させ、敵に照準を合わせる。

目標は広場をうろつくミラーモンスター。

 

「当たって!」

 

ダァン!

 

「これが、漣の本気なのです!」

 

ダダァン!

 

両者命中。三日月の12cm単装砲が一体の胴に穴を空け、

漣の12.7cm連装砲が別の一体の下半身を消し飛ばした。

だが、敵はまだ視界を埋め尽くすほどの数を保っている。

軽巡や駆逐艦が隊列を成して砲撃を繰り返すが、倒す先からまた現れる。

彼女たちに疲れの色が見え始めた頃、

ようやく準備の整ったライダー勢が敵軍に飛び出した。

 

「遅くなって済まない!」

 

ライアはカードを1枚ドロー。エビルバイザーに装填。

 

『ADVENT』

 

海から契約モンスター・エビルダイバーが飛び出し、ライアの元に飛来した。

 

「はっ!」

 

ライアはエビルダイバーに飛び乗り、エビルウィップに勢いを付けながら、

グリップのダイヤルを最大に回す。

そして本館の壁にへばりついているシアゴーストに向けて、エビルウィップを振るった。

 

ビュッ……バリバリバリバリ!!

 

ギャアアアアア!!

 

最大出力の電流を帯びた鞭を食らい、一度に数体のシアゴーストが黒焦げになり、

落ちていった。一方龍騎は、ドラグセイバーで広場を占拠する個体と戦っていた。

 

「はあっ!であっ!」

 

目の前の一体を斬り倒し、直後、背後に迫っていた一体を蹴り飛ばし、

すかさず距離を詰め、また一撃。

これまでにないミラーモンスターの大群を相手に孤軍奮闘していた。

 

その時、転送クルーザーから木の床をぶらぶらと歩く人影が。

彼は目の前の乱戦を見て、愉快な気分になった。

 

「久しぶりにライダーバトルやりたくなって来てみたらよぉ、

面白そうな事になってるじゃねえか。俺も混ぜろ……」

 

「ライダーバトルじゃないでしょ!漣ちゃんからの救援要請!

ちゃんとやらなかったら約束のものはなしですからね!」

 

仮面ライダー王蛇(と足柄)が現れた。その姿に、戦う艦娘達に緊張が走る。

新聞の見出しにはこう書かれていた。“神か悪魔か”。

まさしく、味方でいるうちはこれほど心強い存在はないだろう。

だが、その正体が暴力と殺しの快楽に取り憑かれた戦闘狂であることは

公然の秘密である。幸い、今のところ自分たちにその刃が向けられることはないようだ。

なぜなら。

 

『SWORD VENT』

 

ベノサーベルを召喚した瞬間、

その鋭い爪で襲い掛かってきたシアゴーストを一瞬でなます切りにしたから。

 

「ハハハハハァ!!」

 

王蛇は笑いながら、できるだけ敵の密集している所へ飛び込んでいった。

いきなり背を向けていた一体を後ろから蹴り、倒れたところを上から突き刺す。

生死も確かめず、とにかく目に付いた個体の腹をベノサーベルで深く刺した。

 

キィイイイイ!

 

断末魔を上げて力尽きたシアゴースト。だが、まだ王蛇は手を止める気はない。

ベノサーベルでまた一体をなぎ払い、命中した頭部を潰す。

大勢のシアゴーストが王蛇を押しつぶそうと一斉に襲いかかってくるが、

斜めに斬り上げ、渾身の力でベノサーベルを振り回し、敵の集団攻撃を弾き返した。

斬る、刺す、殴る、殺す。思いつく限りの殺し方でシアゴーストを次々と倒していくが、

次第にイライラが募る。このモンスター、数は多いが手応えがない。

つまり、飽きが来てしまったのだ。

王蛇はカードを1枚ドローした。そしてライアに呼びかける。

 

「おい、占い師!お前のモンスターを貸せ!」

 

「なんだって!?」

 

エビルダイバーに乗っていたライアは王蛇からの思わぬ要請に驚く。

 

「さっさとしろ!もうこの虫どもの相手はうんざりなんだよ!」

 

それはつまり、この状況を打開する方法があるということ、なのか?

ライアは躊躇いながら提督権限を発動。

 

「……提督権限、“一時的に契約モンスターを浅倉と共有する”!!」

 

そして、エビルダイバーからジャンプし、王蛇の近くに着地。

エビルダイバーはライアの指示もなく、王蛇のそばに飛来し、滞空した。

 

「何をする気だ、浅倉!」

 

「……黙って見てろ」

 

王蛇は先程ドローしたカードをベノバイザーに装填。

 

『UNITE VENT』

 

カードの力が発動すると、エビルダイバーの他、ベノスネーカー、メタルゲラス、

3体の契約モンスターが合体し、融合モンスター・獣帝ジェノサイダーが

禍々しい姿を表した。ベノスネーカーの頭部が

メタルゲラスのメタルホーンに守られるように合体。

胴体となるメタルゲラスにエビルダイバーの翼が装着され、

尾はベノスネーカーとエビルダイバーのものが絡まっている。

 

この世に降臨したジェノサイダーが咆哮。

その鎮守府中に響き渡る大音声に敵も味方も動きを止める。

王蛇は構わずもう一枚のカードをドロー。そして、全員に呼びかけた。

 

「おい、一度しか言わねえ。死にたい奴は俺の前に出ろ」

 

“退却―!”

“工廠の中へ!”

“全員避難したらシャッターを閉めて!”

 

艦娘達は素早く避難した。ライアや三日月と漣も王蛇後方に退避する。

一人広場に取り残された龍騎は慌てて海に向かって逃げ出す。

 

「え、なんで浅倉!?っていうか待って!俺を見捨てんなー!」

 

「フン……知るか」

 

そして、王蛇はジェノサイダー召喚と同時に現れたカードを装填した。

 

『FINAL VENT』

 

ブラックホールほど、有名でありながらその詳しい性質が知られていない

天文学用語は少ない。この単語を聞いて暗黒の渦を想像する方が多いだろうが、

これは超重力によって光すら飲み込まれ、周囲の時空が歪んだ結果であり、

直接ブラックホールを観測することはできないのだ。

また、あくまで理論上の話だが、ブラックホール中心の重力は

無限大であるとされており、全ての物質は次元の存在しない点になると言われている。

 

ごちゃごちゃといきなりなんだ、と思われるだろうが、

要するに何が言いたいかというと、全てカタが付いたということだ。

 

3体の契約モンスターが融合状態になることで発動可能な

ファイナルベント「ドゥームズデイ」で、融合モンスターは

ブラックホールを内包する胸部を開くと、その力を開放し、生命体が抗えない力で

周囲の物体を吸い込み始めた。

シアゴーストの群れが根こそぎ重力の闇へ消えていく。

 

「いいカードだ。うぜえミイラが、きれいサッパリ片付いた」

 

ジェノサイダーの胸が閉じると、そこに残されたのはただ静寂だけだった。

シアゴーストはもちろん、小さめの庭石、根の浅い木、引力に引きちぎられた窓ガラス。

何もかもを飲み込み、死神の手は地球上から消滅した。

そして、危うくドゥームズデイの重力圏に取り残されるところだった龍騎が、

ふらふらになりながら皆のところに戻ってきた。

 

「浅倉~何してくれてんだよ、死ぬとこだったぞ」

 

「知らん、死ね」

 

「お前なあ……」

 

「今日は帰る。デカい技ぶっ放して気分がスカッとした」

 

龍騎を無視して帰ろうとする王蛇。変身を解いた手塚が王蛇に話しかける。

 

「待て、浅倉」

 

「あ?」

 

「さっきのカード、契約モンスターを合体させたカードだ。見せてくれないか」

 

「ハ……」

 

話にならない、とクルーザーに向かう王蛇。しかし、足柄が彼を止める。

 

「ねえ、いいじゃない。

手塚提督はただの面白半分で何かする方じゃないわ、あんたと違って。

何かお考えがあるのよ。1増やすから見せてあげてよ」

 

「……2だ」

 

「う~ん、わかった。2増やすからお見せして」

 

浅倉は黙って“UNITE VENT”をドローすると、器用に指で弾いて手塚に飛ばした。

手塚はキャッチすると、そのカードをじっと見る。

瞬間、何か大きな運命の動きのようなものが、彼の精神を通り過ぎていった。

その大いなる意思のようなものに心を奪われ、思わずその場で立ち尽くす。

 

「……様、ご主人様!」

 

「え、ああ、ごめん……」

 

「急にご主人様がフリーズしたからびっくりしちゃいましたよ」

 

「ごめん、なんでもない。浅倉、カードを返す」

 

カードを受け取ると、王蛇は今度こそクルーザーへ向かっていった。

足柄とだべりながら。

 

“女、約束忘れてねえだろうな”

“足柄!忘れてないけど、あんなもんばっかり食べてたら体壊すわよ”

“うるせえ”

 

そんな彼らを見送った手塚に、今度は変身を解いた真司が話しかける。

 

「どうしたんだよ、手塚。あのカードなんかあったの?確かに強力だったけど」

 

「自分でもわからない。でも、何か大きな運命の力を感じた。

俺達ライダー全員の行く末に関わるほどの」

 

「それって!もしかして、ライダーバトルを終わらせる鍵になるかもってこと?」

 

「すまない、なにも、わからない……」

 

「ああいいよ。よりによって浅倉がライダーバトル終わらせよう、なんて

言うはずないし」

 

「いや、運命は数奇なものだ。絶対にないとは言い切れない。

俺達がライダーになったことがそもそもありえないことだった」

 

「まぁ……そりゃそうだ。

でも、今そんなこと考えてもしょうがないし、帰ろっか三日月ちゃん。

手塚、それじゃあ俺達帰るから」

 

「はい、真司さん。漣ちゃん、またね」

 

「二人共、気をつけて」

 

「三日月ちゃんと城戸提督がログアウトしました」

 

そして、真司と三日月も転送クルーザーで城戸鎮守府に帰っていった。

彼らを見送った漣は、まだ妙な顔をしている手塚に声をかける。

 

「ご主人様、本当に大丈夫ですか?」

 

「……ああ。心配かけて済まない。とりあえず鎮守府を直そう。

“提督権限 再起動実行”」

 

手塚が提督権限を発動すると、敵ごと巨大な手で掴み取られたような惨状の鎮守府が

完全に元通りになった。

 

「おお!困ったときには再起動、コレ最強伝説」

 

「じゃあ、中に入ろうか」

 

「はい~!」

 

執務室に戻る二人。だが、手塚もこの異常な事態に警戒していた。

謎のミラーモンスター大量発生。

そして、浅倉のカードを手に取った瞬間に感じた不可解な予感めいたもの。

今は何の根拠もないが、手塚は考える。これは、終わりの始まりであると。

 

 

 

 

 

──北岡鎮守府

 

 

少々時を遡って、北岡鎮守府。

ここ北岡鎮守府もまた、シアゴーストの襲撃を受けていた。

ゾルダはすでに“SHOOT VENT”で両肩にビーム砲を装備し、

マグナバイザーのトリガーを引きっぱなしにし、エネルギー弾の連射でなぎ払って

敵の群れと戦っていたが、なにぶん数が多すぎる。

戦艦・重巡の主砲はこちらまでふっ飛ばしかねない。

彼女たちには機銃での援護に回ってもらった。

軽巡・駆逐艦の援護射撃を受けながらいつ終わるか知れない戦いを続けていると、

また咳き込む。

 

「ゲホッ、ゴホッ……なんか訳の分からない連中が来ちゃったんだけど?」

 

その時、バタン!と本館のドアが開き、飛鷹と吾郎が飛び出してきた。

 

「提督、待たせたわね!戦闘機・爆撃機、全機発艦!」

 

飛鷹が飛行甲板の描かれた巻物を広げ、手に宿した霊力で式神を変化させ、

航空機部隊を発艦した。戦闘機の機銃攻撃で敵の群れを牽制し、爆撃機が爆弾を降らせ、

シアゴーストを粉砕する。

 

「先生、俺も戦います!」

 

吾郎が両方の腰に、鉈、包丁、ナイフ、アイスピック、持てるだけの刃物を下げて、

砲撃の妨げにならないよう、本館外壁付近で戦闘を始めた。

 

「何やってんの!飛鷹はともかく、吾郎ちゃんは……」

 

「先生こそ一人で無茶はやめてください!もう、見てられないんですよ……」

 

「ヤバくなったらすぐ逃げること、絶対約束だから!」

 

ゾルダがビーム砲で2体同時に撃ち抜いてから答える。

 

「はい!」

 

そして吾郎も再びシアゴーストと向き合う。

弾丸のような速さで包丁を投げ、正確に頭部に命中させる。

動きが止まった敵に走り寄り、すかさず頭に刺さった包丁を抜き、

今度は心臓に突き刺す。

今度こそ致命傷を与えたようで、死体が0と1の粒子に分解されていく。

 

続いて、背後から近寄ってきた気配を勘だけで避ける。

シアゴーストが口から放った白い糸を、身をよじって回避。

鉈を手に取り、敵に接近。横になぎ払い、前から頭に叩きつけ、半分ほど顔を割り、

鉈を抜いて次は後頭部目がけて振り抜いた。

前後からの攻撃でシアゴーストの頭がちぎれる。

その後も吾郎は刃物と得意の体術で1体ずつ確実に敵を仕留めていく。

 

「はぁ…はぁ…ライダーが一般人に助けられてちゃ、立つ瀬がないね……ねぇ君!」

 

北岡は近くで迎撃に当たっていた艦娘に声をかけた。

 

「何でしょう、提督!」

 

「本館にいるみんなに工廠に避難するよう伝えてくれないかな。

これもう広場と屋敷、まるごと吹っ飛ばすしかないよ」

 

「わかりました!」

 

艦娘は本館に走っていった。あとは彼女が帰ってくるのを待つだけ。

ゾルダと艦娘達は通常攻撃による殲滅を諦め、工廠のある東側を背に一列に並び、

時間稼ぎの足止めに集中した。

 

「吾郎ちゃん、飛鷹、聞こえた!?」

 

「はい!」

 

「わかったわ!」

 

吾郎はいちいちとどめを刺す事を止め、足を斬りつけ、目を潰し、膝にナイフを投げ、

できるだけ多く敵の動きを封じる戦法に変更した。

飛鷹は残りの航空機を全機発艦させ、味方の列に近寄る群れを優先的に銃撃、爆撃し、

彼我の距離を保つことに専念した。その時、先程の艦娘がゾルダに駆け寄ってきた。

 

「提督、館内の者は全て避難完了しています!」

 

「サンキュー!それじゃあ行きますか!

みんな、一気に片付けるからもう少しだけ我慢してよ!飛鷹、吾郎ちゃん、退避して!」

 

「はい!」

 

「了解!全機着艦!」

 

ゾルダは広場と本館が射線上に入るように位置を変え、

カードを1枚ドロー、マグナバイザーにリロード。

 

『FINAL VENT』

 

目の前に異次元に繋がる水たまりのような波紋が現れる。

そこから巨大なロボット型契約モンスター・マグナギガがゆっくりとせり上がってくる。

ゾルダはマグナギガ背部の挿入口にマグナバイザーを挿入。

すると、前装甲が展開されつつ、全身にエネルギーが集まる。

 

そしてゾルダがトリガーを引くと、一斉に全ての兵器が全門発射された。

レーザー砲、誘導ミサイル、ガトリングガン、両腕の大口径砲。

強力無比の重火器がシアゴーストの群れに襲いかかる。

圧倒的破壊力は広場や本館ごと人間サイズの敵を消し飛ばす。

燃え尽き、砕け、穴だらけになり、最終的に凝縮されたエネルギーが暴発し、

大爆発を起こした。鎮守府に轟音が響き、キノコ雲が現れる。

艦娘達はその場に伏せ、爆風から身を守る。

 

サアアアァ……

 

しばらくすると、凄まじい熱で巻き上げられた大気が雨を降らせた。

エンドオブワールドでシアゴーストは全滅。

ようやく立ち上がった艦娘たちもほっとした様子だ。

 

「みんなありがとね、今建物直すから待っててよ。“提督権限 再起動実行”」

 

再起動が終わると、焼け野原になった本館や広場が元の美しい姿を取り戻した。

……さすがにちょっと疲れたかな。

ゾルダは変身を解くと、若干頼りない足取りで執務室に戻るべく本館のドアを空けた。

 

「あ、先生!」

 

「そんなに急ぐことないでしょ」

 

 

 

バタン!

 

北岡は執務室に戻ると、寄りかかるようにデスクに手をつき、

引き出しから錠剤シートを取り出して1錠押し出し、水なしで飲んだ。

これで、もう終わり。空になったシートを捨てると、ちょうど吾郎と飛鷹が入ってきた。

 

「先生、大丈夫でしたか」

 

「……ちょっと疲れただけさ。しばらく横になるよ」

 

「そんな慌てて帰ることもないじゃない……あら、風邪でも引いたの?」

 

飛鷹が目ざとくゴミ箱の錠剤シートに気がついた。

 

「ちょっと熱っぽくてさ……ゴホ、ゴホ、……ゴハァッ!」

 

その時、北岡が咳とともに吐血。

すぐさま吾郎が駆け寄り、ハンカチで口を拭き、北岡をソファに寝かせた。

彼のシャツと床にこぼれた大量の血。

 

……何、これ?

 

鮮血を目にして青ざめる飛鷹。

何か尋ねようと北岡を介抱する吾郎に手を伸ばすが、言葉が出ない。

何も言えないでいると、吾郎が飛鷹に協力を求めてきた。

 

「先輩、俺、先生を医務室に運びます。ドアを開けて先導してください」

 

「う、うん……」

 

吾郎が北岡を抱きかかえる。

彼女は言われるがままドアを開け、医務室にいた救護班に急病人がいることを伝えた。

 

 

 

「吾郎ちゃんは大げさなんだよ、こんなの大したことないって」

 

容態が落ち着き、医務室のベッドで横になりながら軽口を叩く北岡。

 

「そんなわけないじゃないですか……!最後に病院に行ったのはいつですか」

 

苦々しい表情でようやく意思を言葉にする吾郎。

 

「あんなとこ行ったって無駄だって。ヤブ医者しかいないしさ」

 

「でも、これ以上は……」

 

「ちょっと待って!」

 

二人だけで話を進める北岡と吾郎に、やっと飛鷹が割って入った。

 

「これってどういうことなの?」

 

「先生は……」

 

「吾郎ちゃん」

 

「先生の病気はもう治らないんです……!」

 

あーあ、と言いたげに天井を見る北岡。

 

「病気……?私、そんなこと聞いてない!何、何の病気なの?」

 

「治療法のない、放っておけば助からない病です。俺のせいで先生が……」

 

「そんな……」

 

「だから違うって吾郎ちゃん!」

 

「俺が、つまらない傷害事件に巻き込まれたせいで、

弁護してくれた先生の病気の発見が遅れて、手遅れに……

だから先生は、病気を治して永遠の命を得るためにライダーになったんです」

 

「そんな、提督が、死ぬ……?」

 

突然突きつけられた現実に声がかすれる。遠からず北岡は死ぬ。

それが北岡がライダーになった理由。

 

「縁起悪いこと言わないでくれるかな、飛鷹。

まだライダーバトルが終わったわけじゃないし、死ぬつもりもないから。

さっき見たでしょ、俺、強いからさ」

 

「そんなこと言ったって!!」

 

いつもどおりの明るい口調で話す北岡の姿を見かねて、飛鷹は医務室を飛び出した。

執務室に戻ると、壁に背を預けて床に座り込んだ。いつの間にか涙がこぼれてくる。

誰もいない執務室。体調が戻れば北岡はまたデスクに着き、吾郎がお茶を入れ、

自分が書類仕事を持ってくるのだろう。

だが、遠くない将来、その光景は完全に消え失せる。3人の日常は完全に失われるのだ。

 

「ううっ……くすっ、うう……」

 

彼女は膝を抱えて、ただ一人、泣いた。

 

 

 

 

 

──???

 

 

どの海域なのかもわからない。大海原にぽっかりと巨大な穴が開いている。

底があるのかもわからないほど暗く深い穴に、海水が流れ込み、

円形の大瀑布を形成している。真昼だというのに、陽の光が差すことはなく、薄暗い。

しかし、穴の上部に浮かぶ大きな球体が光を放ち、辺りを照らしている

 

 

“カエリタイ……”

 

 

どこからともなく声が聞こえる。

 

 

“カエリタイ、カエリタイ……”

 

 

だが、その嘆きのような声は誰が聞くこともなく、

ただ闇と光に飲み込まれるだけだった。

 

 


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