【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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*できないとか言っときながらコメントに返信した瞬間
やってみたいことが出てしまいました。あっち行ったりこっち行ったりで本当すみません。
当作品は皆様の応援に支えられています。


第25話 Destroyer of Nine Dimensions

木々、岩、誰が作ったのかもわからない大小様々なオブジェ。

全てが白の、ミラーワールドΣ(シグマ)

 

オブジェの一つに座りながら神崎は思索に耽っていた。

まもなく全てのライダーが集結する。まだ敗者は出ていないが、

全てのライダーが集まれば……!時間がないのは奴らも同じだ。

神崎は傍に控えるオーディンのデッキに視線を移す。

 

必ず、今度こそ必ず救い出してみせる。

 

その時、白の世界に銀色のオーロラが現れ、中からコート姿に眼鏡をかけ、

フェルト帽を被った中年男性が、息も絶え絶えに転がり込んできた。

 

「はぁ、はぁ……おのれ、ディケイド!!

どこだ、奴を倒せるライダーはどの世界にいる!」

 

「……鳴滝か。他人の世界に入ってくるなり何を騒いでいる」

 

神崎は前を見たまま男に話しかけた。

鳴滝と呼ばれた男は足をもつれさせながら神崎に走り寄る。

 

「神崎!お前のオーディンを貸せ!奴に対抗するにはそれしかない!

世界が、破壊される前に!」

 

「知った事か」

 

「何だと……?既に“もう一つ”のお前たちの世界も奴の手に落ちたというのに!」

 

「ひとつではない。ミラーワールドと現実世界は表裏一体。

どちらかが無限に存在する限り、一つが壊れようと、すぐに新しい世界が生みだされる。

その理が崩れることはない。破壊と再生。まさに奴の使命そのものだろう」

 

「お前は奴の肩を持つというのか!」

 

「優衣の存在しない世界に興味はない。ただそれだけだ」

 

「くそっ、どいつもこいつも当てにならない!もういい!」

 

鳴滝がミラーワールドを去ろうとした時、神崎の心にある予兆が生まれた。

 

「……待て」

 

「どうした?オーディンを貸す気になったのか!」

 

「彼はお前の手には負えない、だが、新たなライダーが誕生した。

そいつを連れてサイバーミラーワールドへ行け。

一人でも仮面ライダーを倒せたらオーディンの力を貸してやろう」

 

「本当か!?」

 

「お前を担いで何になる」

 

「そ、そいつは使い物になるんだろうな!」

 

「少なくともお前の手駒では手も足も出ないだろう」

 

「わかった。一人でいいんだな?待っていろディケイドォ!!」

 

鳴滝は銀のオーロラに包まれ、姿を消した。残された神崎にオーディンが話しかける。

 

「神崎、終わりが近づいている。私の身体も……」

 

「案ずるな。あいつの力を目にしたら、呑気に構えている連中も

まともに戦うようになるだろう。そのためにお前に“命”を預けた」

 

暑さも寒さもない世界。2つの影は何をするでもなく、ただそこに存在していた。

 

 

 

 

 

──光寫眞館

 

 

ジャラジャラジャラ……

 

アンティークの調度品が明治時代を感じさせる歴史ある写真店。

こじんまりした店構えだが、それが年季の入った建物に慎ましい上品さを与えている。

あまり客の来ない店内で、店主の老人、光栄次郎、孫の夏海、

居候の門矢士、小野寺ユウスケが死闘を繰り広げていた。

 

「よーし、俺が切るのは……これだ!」

 

「ロン、タンヤオドラ2。ほら、さっさと払え」

 

士が手牌を倒す。ユウスケが捨てた牌で士が和了った。

 

「ええっ!またかよぉ……なんで俺ばっかり狙われるんだよ」

 

渋々点棒を渡すユウスケ。

 

「チートイツ狙ってるのバレバレなんですよ。そろそろ他の役も覚えたほうがいいです」

 

夏美が初心者のユウスケにアドバイスする。

 

「無意味に鳴きまくるのもよくない癖だよ。持ち牌読まれるし点数も下がるし。

とにかく1雀頭4面子揃えることに集中しなさい」

 

栄次郎も麻雀の基本を付け加える。

 

「ややっこしくて意味わかんないんですよ!ジャントー、メンゼン、ピン、ポン、パン!

みんなよくこれで捨て牌読んだりしてるよな……」

 

たまたま物置で見つけた古い麻雀卓で暇を潰していた4人。次は夏美の親だ。

皆、ジャラジャラと牌をかき回す。やけっぱちになっていたユウスケが

力を入れて牌を混ぜたせいで、3つほど牌が飛んでいってしまった。

 

「何やってんだ、自分で拾え」

 

「わかってるよ!ハク、ハツ、チュン、と……“ゴツ!”痛てっ!!」

 

ガシャン、ガラガラガラ……

 

ユウスケが麻雀卓で更に狭くなったリビングで、腰をかがめて牌を拾っていると、

柱に頭をぶつけてしまい、同時に撮影用スクリーンを上下するチェーンに

引っかかってしまった。衝撃でチェーンが回転し、幕が降りてくる。

その時、不思議なことが起こった。スクリーンが輝きを放ち、一枚の絵になったのだ。

そう、このスクリーンは異世界への言わば入り口。

士達はここに描かれた異世界を旅しているのだ。9つのライダーの世界に。

さっそく全員が絵画の前に立つ。

 

「今度の世界は……なんだこりゃ?」

 

いくつもの異世界を渡り歩いてきた士もこれには驚く。

描かれていたのは海を突き進む戦艦が主砲を発射する勇ましい姿。

それだけなら別に奇妙でも何でもないが、空に見過ごせない存在が描かれていた。

 

「これは……ドラグレッダー?」

 

“龍騎の世界”で出会った、無双龍ドラグレッダーが

こちらに向かって咆哮しているのだ。戦艦、そして、かつて旅した世界の存在。

一体何を意味しているのか。

その時、栄次郎が謎の絵に近づき、眼鏡をかけ直してよく観察した。

 

「ほうほう、この大砲と菊の紋章は戦艦大和、もしくは武蔵だな」

 

「おじいちゃん知ってるんですか?」

 

「小さい頃、長崎の親戚の家に遊びに行った時にな、

水平線の向こうにそれはもう大きな、海の要塞みたいな戦艦を見たんだよ」

 

懐かしい思い出をしみじみ語る栄次郎。

しかし、まったく世代の違うユウスケの頭にはハテナマークしか浮かばない。

 

「でも、なんで龍騎の世界に戦艦大和があるんだよ。

確か大和って大昔に沈んだんでしょ?」

 

「わからん。とにかく外に出るしかないだろう。

龍騎の世界で何か異変が起きたのなら、確かめに戻らなきゃならん」

 

士はいつも通り、ピンク色のトイカメラを首に下げて上着を羽織った。

 

「ああ、待ってください」

 

「先に行くなって、俺も行くから!」

 

夏美とユウスケも士を追いかける。店の出入り口から外に出た彼らが見たものとは。

 

 

 

 

 

──城戸鎮守府

 

 

士達が外に出ると、目の前に青々とした海が広がっていた。

足元には石畳の歩道がどこまでも続いている。

周りを見回すと、隣に“甘味処 間宮”と看板が掛かった茶店があった。

光寫眞館は新しい絵画が現れると、店ごと異世界にワープするのだ。

そして、何故か士の服装もその世界に合わせて変化する。

いつの間にか士の私服は真っ白な軍服に変わっていた

 

「アハハ!士、なんだよそれ!全然似合ってねえし!」

 

遠慮なく指を指して笑うユウスケ。

 

「うるせえよ!文句ならこの世界に言え!」

 

「二人共!呑気にケンカしてる場合じゃないでしょう!

あの絵とその服。どう見ても戦争が始まったってことじゃないですか!

早く辰巳さん探さなきゃ手遅れになります!」

 

「いででで!耳を引っ張んな!」

 

「とにかく!ここで話を聞いてみましょうよ」

 

夏美の提案で間宮という店に立ち寄ることにした。店に入る三人。

しかし、その時異様な光景を目の当たりにする。店内の客は全て少女。

それ自体は菓子屋にはよくあることだが、

皆、ミニチュアの砲や戦艦の艦橋や煙突らしきものを装備しているのだ。

そして、士達を見ながらひそひそと丸聞こえな内緒話をする。

 

“なんで人間が3人もいるの?”

“提督のお友達?”

“違うと思う。秋山提督でも手塚提督でもない”

 

何かがおかしいのは確かだ。士は奥に向かって声を上げる。

 

「おい、誰かいないのかー!」

 

“はーい”

 

すると、大きなリボンで結んだロングヘアと、

真っ白な割烹着が目を引く女性がすぐに出てきた。

 

「いらっしゃいませ、あの、3名様で、よろしいでしょうか……?」

 

彼女もやはり背中に大きな艦橋を背負っているが、

まるでおかしいのはそっちだと言わんばかりの困惑した表情を浮かべる。

 

「悪い、客じゃない。辰巳シンジって奴を探してるんだが、心当たりないか。

ついでにここがどこかも教えて欲しいんだが」

 

「真司?えーと、城戸真司提督の間違いではありませんか?

ここは城戸鎮守府の敷地です」

 

「城戸じゃない。辰巳だ」

 

どうも会話が噛み合わない。その時、夏美が前に出て質問を続けた。

 

「あの!ここでは戦争が起こってるんですか?

私達、きっと前にもこの世界に来たことがあるんです!

わけのわからないことを言っているのはわかってます。

でも、辰巳さん達の無事を確認しないと……」

 

必死に問う夏美の肩にポン、と手が置かれた。

振り返ると、鋼鉄のアンテナのようなカチューシャを着けた背の高い女性が立っていた。

 

「失礼。駆逐艦から不審者を見たと通報があったのでな。

少し作戦司令室までご同行願いたい」

 

「不審者!?いや、俺達ただ辰巳達の行方が知りたいだけで……

大体、“駆逐艦からの通報”って何すか!なんで船が110番するんですか!」

 

カシャッ

 

ユウスケが弁解する中、士がマイペースにトイカメラで女性を撮影した。

 

「今度は、ちゃんと撮れてればいいんだが」

 

「ちょっと!何してるんですか……」

 

女性の目が厳しくなる。

 

「……連れて行け」

 

「え、何すか!ちょっと、ちょっとー!!」

 

長身の女性が部下に指示を出す。

皆、女性だったが、信じられないほどの怪力で士達は連行されてしまった。

 

 

 

──作戦司令室

 

 

「提督が来るまで少し窮屈な思いをしてもらうことになる。

頼むからこれを使わせるようなことはしないで欲しい」

 

先程の背の高い女性は、背負った武装らしきものを操作し、小さな機銃を士達に向けた。

3人共、椅子に座らされ、後ろ手に縛られている。

 

「そうだな、先に自己紹介をしておこう。私は戦艦・長門。司令代理を務めている。

こちらは戦艦・陸奥。私の補佐をしている」

 

ブラウンのショートカットの女性が、やはりアンテナのようなカチューシャを着け、

手だけで“やほー”と挨拶を送っている。

 

「見えないだろうが、君達の後ろで情報処理を担当しているのが、軽巡洋艦・大淀だ」

 

長門の説明の間も、やる気なく足を投げ出していた士が口を開いた。

 

「聞いてるだけでめまいがしそうだ。なんで戦艦が二本足で立ってる。

なんで俺達が縛られなきゃならん。なんでどいつもこいつも大砲背負ってる」

 

「本当に何も知らないのか、白を切っているのかはわからんが、一応説明しておこう。

我々は艦娘という、軍艦の魂を受け継いだ転生体だ。

君達を拘束させてもらったのは、イレギュラーの可能性を考慮した防護策。

そして、皆が装備している武装は全て本物。深海棲艦と戦う武器だ」

 

「何一つわからん説明に感謝する」

 

呆れ果てて天井を見つめ、ポカーンと口を開ける士。

その時、外から青年と少女の声が聞こえてきた。

 

“人間が3人も?ライダーじゃなくて?”

“はい、長門さんによるとログインした形跡が全く無いのに、家ごとこの世界に来たとか”

 

そして、声の主が作戦司令室に入ってきた。

小さな砲を抱えた少女と、ブルーのジャケットを着た普通の青年。

 

「長門さん、司令官をお連れしました」

 

「どうしたの、長門。不審者発見って通報が来たんだけど」

 

「多忙なところ済まない、見ての通り、突然間宮の隣に

家ごと転移してきた者たちがいる。

イレギュラーの可能性が捨てきれないので拘束しているが、提督のご判断を乞いたい」

 

「おじいちゃん……」

 

夏美は店に残してきた栄次郎の安否が気になる。

もっとも本人は、偵察に来た艦娘の突入と同時に危機を察知して

床下倉庫に潜り込んで隠れていたが。

 

「う~ん、見た目は普通だけど、人数はともかく、

店ごと艦これの世界に来たってのは信じらんないな……

ねぇ、君達も仮面ライダーなの?」

 

当たり前のように投げかけられたその質問に3人が驚愕する。

 

「待て、やっぱりお前は辰巳シンジなのか?仮面ライダー龍騎の!」

 

「いや……違う。俺は、城戸真司。……でも確かに龍騎だよ!

なんで、あんた、俺のこと知ってんの?」

 

「異世界のお前に会った。そこでお前はATASHIジャーナルでカメラマンをやっていた」

 

「違う違う、俺が勤めてるのはOREジャーナル!

カメラマンじゃなくてジャーナリストだし」

 

「あの、お話中すみません。あくまで私の推論なのですが、

この方達は、パラレルワールドからいらしたのではないでしょうか。

……失礼しました、私は司令官の秘書艦・三日月です」

 

三日月が話の内容から可能性の高い説を唱える。

 

「ふむ。似て非なる世界、見た目は鏡写しのように同一だが、

人間関係や社会システムが微妙に異なる存在。確かにそう考えれば納得が行く」

 

長門が三日月の説を支持する。

 

「俺もそう思う。そもそもミラーワールドなんかがあるんだし、

パラレルワールドがあったって不思議じゃない。

……それじゃあ、もう縄解いてあげてよ。

俺、どう見てもこの人達がイレギュラーだと思えない」

 

「ああ。……済まなかったな。

この世界では何度も悲劇が起きて、こうせざるを得なかったんだ。許してくれ」

 

解放された士達が縛られていた手をさする。

 

「許してくれなら、わかりやすくこの世界について教えてくれ。

長門とかいう奴の説明はさっぱりだったからな。城戸って奴のほうが話が通じそうだ」

 

「うん、ここはね……」

 

真司は士達に説明を始めた。ここが艦隊これくしょんというゲームの世界であること。

皆は艦娘という軍艦の化身であり、深海棲艦という怪物に奪われた

制海権を取り戻すために戦っていること。

 

イレギュラーと呼ばれる悪質プレイヤーによって何度もこの世界が傷つけられたこと、

そのために来訪者に警戒せざるを得なかったこと。

 

艦これの世界は2013年にあること。

 

そして、この世界には基本的に仮面ライダーしか来られないこと、

仮面ライダーはミラーモンスターと契約し、最後の一人になるまで戦う宿命にあること。

 

全てを十分に時間をかけて説明した。士達にとっては驚くべき事実ばかりだったが、

特にライダーの宿命について最も衝撃を受けたようだ。つまりは、殺し合い。

 

「そんな……酷すぎます」

 

夏美はショックのあまり声を詰まらす。

 

「君達が見た世界のライダーバトルってどんな感じだったの?」

 

当の真司はいつも通りといった感じで尋ねる。

 

「……俺達が旅した“龍騎の世界”では、裁判の判決はライダーバトルで決まる。

国民から選出された裁判員が、国から貸し出されたデッキで戦い、

勝ち残った一人が有罪無罪を決める。負けても死ぬことはない。

デッキを返却して帰宅するだけだ」

 

「そんなのメチャクチャじゃん!何のために法律があるんだよ!」

 

真司がもっともな疑問をぶつけるが、

 

「メチャクチャなのはそっちだろう!あんたは何のために殺し合いなんか始めたんだ!」

 

思わずユウスケが大声を上げる。

 

「このライダーバトルを止めるために決まってる!

でも、どうやっていいのかわかんないし、止めたら今度は、別の犠牲者が……」

 

「ここのライダーの敵は人間、ってことか。

ある意味、今までのどの世界よりも悲惨だな」

 

 

キャアアーーー!!

 

 

その時、突然外から悲鳴が聞こえてきた。

 

「一体何だ!」

 

長門を始め全員が外に出る。

すると、本館前広場に巨大な蜘蛛の化け物が、噴水の水面から

ようやくその巨体を引きずり出したところだった。

艦娘たちは突然現れた大蜘蛛にパニックを起こし、逃げ惑う。

 

「あれは……ミラーモンスターだ!あの蜘蛛野郎、いっぺん倒したのに!」

 

「ミラーモンスターって、さっきお前が言ってたあれか」

 

「ああ!現実世界では、契約されてない野良のミラーモンスターが暴れてて、

もう大勢の人が犠牲になった!

今までは美浦ちゃんが駆除してくれてたからここまでは来なかったんだけど、

やっぱり一人じゃ抑えきれなくなったみたい!」

 

「なるほど……あれがこの世界のモンスター、か。全員、下がってろ」

 

「よせ、一般人が何をする気だ!そもそもお前は何者だ!」

 

長門が士を止めようと肩に手をかける。

 

「俺か……俺は、通りすがりの仮面ライダーだ!」

 

そう答えるやいなや、士はディケイドライバーを取り出し、腰に装着。

自動的に射出されたベルトが頑丈に巻かれる。

そしてドライバー両サイドのハンドルを引き、バックルを縦に回転。

続いて多数のライダーカードを収めたライドブッカーから1枚ドロー。

ライダーの情報とバーコードが記録されたカードを掲げ、指先でターンする。そして、

 

 

──変身!

 

 

カードをバックルの挿入口に装填。両手でハンドルを戻すと

ディケイドライバーがカード情報を読み取り、その力を開放する。

 

[KAMENRIDE...DECADE!]

 

システム音声と共に、銀色に輝く9人のライダーの姿が士に重なる。

次の瞬間、士は、パッションピンクを基調とし、左肩から斜めに伸びる大きなクロス、

緑に輝く瞳、多数の直方体が並ぶヘルムが特徴の、仮面ライダーディケイドに変身した。

 

「あいつも、仮面ライダー……?」

 

驚きのあまり士の姿に見入ってしまう真司。ディケイドは構わず戦闘を開始する。

巨大な蜘蛛の下半身に人間型の上半身をもつミラーモンスター、

ディスパイダーリ・ボーン(再生体)に叫ぶ。

 

「おい、こっちだ!」

 

クケケケケ……

 

ディケイドに気づいたディスパイダーが、胸から太く長い針を機関銃のように連射する。

すかさずディケイドはカードをドロー。ディケイドライバーを開き装填。

両手をクロスするようにハンドルを戻した。

 

[ATTACKRIDE...BLAST!]

 

ガンモードに変形したライドブッカーの周りに立体ホログラフの分身が現れ、

無数の弾丸を乱れ撃つ。アタックライド・ブラストで

ディスパイダーの針が撃ち落とされる。

 

「面倒だ、一瞬でカタを付ける!」

 

再度カードをドローするディケイド。ライダーの姿が写されたカードを装填した。

 

[KAMENRIDE...KABUTO!]

 

ディケイドが見たこともない姿に変化する。

高級車を思わせる洗練されたフォルムのシンプルなアーマー。

仮面ライダーカブトの力を得たディケイドは、もう一枚カードをドロー、装填。

 

[ATTACKRIDE...CLOCK UP!]

 

カードの発動と、ディスパイダーの再攻撃。タイミングは同時。

しかし、クロックアップの能力で超高速行動が可能になったディケイドの体感時間は

非常に遅く、ディスパイダーの針は止まっているようにしか見えない。

針の間を駆け抜けながら、ジャンプして上半身の目の前に迫るディケイド。

今度はライドブッカーをソードモードに変形し、

針の発射口になっている胸部を何度も斬りつけ、厄介な飛び道具を潰す。

そこでクロックオーバー。時間の流れが元に戻る。

 

キャオオオオォ!!

 

突然深手を負ったディスパイダーにも、遠巻きに見ている真司達にも、

何が起こったのかわからない。

バックルからカブトのカードが飛び出し、ディケイドは通常体に戻る。

パニックを起こしたディスパイダーが粘着性の高い糸を撒き散らす。

 

「触ったら面倒くさそうだ。これで、終わりだ!」

 

十分に距離を取ったディケイドは最後のカードをドロー。ディケイドライバーに装填。

 

[FINAL ATTACKRIDE...DI-DI-DI-DICADE!]

 

ディケイドとディスパイダーの間に、幾重もの金色に輝くカード型ホログラフが現れる。

 

「はあっ!!」

 

ディケイドが跳躍すると、標的をロックオンしたホログラフも追随して位置を変える。

そして、ディケイドが飛び蹴りの姿勢を取ると、ホログラフをくぐり抜け、

エネルギーを浴びながら突撃。ファイナルアタックライド・ディメンションキックを

そのままディスパイダーに直撃させた。

高エネルギーのライダーキックを食らったディスパイダーは断末魔を上げて爆発。

爆音と硝煙を風が運び去ると、鎮守府に静寂が戻った。

 

 

 

場所を変えて真司の執務室。騒動が収まり、

落ち着いたところで話をしようと場所を変えたのだが、いきなり真司達が騒ぎだす。

 

「あれ!?ない!三日月ちゃんないよ!」

 

「あ、本当です!ここを出る時には確かにあったのに……」

 

「これでは提督がログアウトできないではないか!」

 

真司は部屋の隅でキョロキョロしたり、

何も見えるわけがないのにピョンピョン跳ねたりして、何かを探しているようだ。

三日月という少女と、戦艦を名乗る長門も不安げにその様子を見ている。

 

「落ち着きが無いのは向こうのシンジと一緒か……おい、何を探してる」

 

「01ゲート!現実世界に戻るために必要なんだけど、消えちゃったんだよ!」

 

「それって、やっぱり私達が来たことと関係あるんでしょうか……」

 

「間違いない。夏ミカンはトラブルの種だからな」

 

「それは士くんでしょうが!」ブスッ!

 

夏美は士の首のツボを押した。途端に無理矢理笑い出す士。

 

「アハハハハ!やめろ、笑いのツボは!ハハハ、話がややこしくなるだろうが!」

 

「ねえ城戸、ログアウトってやつができないとどうなるの?」

 

夫婦漫才を無視してユウスケが尋ねる。

 

「現実世界に帰れない!俺が暮らしてる2002年に!」

 

その言葉に士達がハッとなる。

 

「ハハハ!ハァ……治まった。おい、今2002年って言ったな。

俺達が来たのは2009年だぞ」

 

「2009年?じゃあ、お前ら、次元だけじゃなくて、時間まで超えてきたってのかよ」

 

「そういうことになるな」

 

士はライドブッカーから4枚のライダーカードを取り出す。

“龍騎の世界”で力を取り戻した龍騎のカード。

しかし、このカードに記録されているのは全く別の人物だ。

 

「……それ、俺のカード?っていうか、さっきお前、蜘蛛と戦った時、

もう一回変身してたよな。あれ、お前の“SURVIVE”なの?」

 

「俺は旅した世界のライダーに変身できる。

カードとしての“SURVIVE”はないが、携帯端末の……」

 

ジリリリ……

 

デスクの電話が鳴る。三日月が受話器を取った。

 

「はい、こちら執務室です……え!?すみません、もう一度。状況がよく……。

はい。はい、わかりました!すぐ司令官に来ていただきますので、

それまで十分な警戒を!はい、よろしくお願いします!」

 

切迫した様子で受話器を下ろす三日月。ただならぬ様子に真司が連絡の内容を尋ねる。

 

「どうしたの、三日月ちゃん?」

 

「真司さん、今すぐ外へ!大変なことになってるんです!」

 

「落ち着いて。何があったの?」

 

「鎮守府の主要道路が奇妙なオーラに遮断されて、通行不能になっています!

転送クルーザーが止めてある桟橋にも入れません!

他鎮守府と通信もできないそうです!」

 

「奇妙なオーラって……。いや、わかった、すぐ行く」

 

真司は皆を置いて外へ飛び出していった。後に続く長門と三日月。

残された士達をユウスケが急かす。

 

「何やってんだよ!俺達も行かなきゃ!」

 

「嫌な予感がする。いつものな……行くぞ!」

 

「ああ、待てよ!」

 

執務室を出た士を追いかけてユウスケと夏美も外へ出た。

 

 

 

本館の外に出ると、皆、驚くべきものを見た。

銀色のオーロラが、艦娘宿舎へ続く北、転送クルーザーを停泊している南、

光寫眞館への戻り道の西を塞いでいたのだ。

とりあえず真司達は蓮や手塚に応援を要請すべく、桟橋に向かってみた。

おそるおそるオーロラに触れるが、やはり不可解な力に押し戻される。

 

「くそっ、何がどうなってんだよ!」

 

「真司さん。私達、閉じ込められちゃったんでしょうか……」

 

「なるほど、大体わかった。こんなことが出来るのは、あいつしかいない」

 

後から追ってきた士が真司達に言った。

 

「あいつって誰だよ」

 

「ひっきりなしに旅の邪魔をしてくるおっさんがいる。ちょうどこんな光の壁で……」

 

 

「見つけたぞディケイド!お前の旅はここで終わる!」

 

 

その時、耳慣れない叫びが響いた。いつからそこにいたのか。

工廠の角にコートを着た中年の男が立っていた。

どこか切羽詰まった様子で士を指差している。

 

「あいつだ……。城戸、変身した方がいい。じきに敵が来る」

 

「敵って?」

 

「話は後だ、急げ!」

 

「わかった!」

 

真司は海の水面にデッキをかざす。水面と真司の腰に変身ベルトが現れる。

そして真司は、右腕を斜めに大きく振り上げ、叫ぶ。

 

「変身!」

 

カードデッキを大型のバックルに装填。

真司の身体にライダーの鏡像が反射しながら重なり、

“もう一人の”仮面ライダー龍騎に変身した。

士はその姿を見て思う。やっぱり、姿形は同じか……

 

「俺も行くか」

 

士もディケイドライバーを取り出し、自動装着式ベルトでしっかりと腰に固定。

ドライバー両サイドのハンドルを引き、バックルを縦に回転し、

カード挿入口を露出させる。そしてライドブッカーから1枚ドロー。

カードを引き抜く瞬間、エンジンの駆動音のような音がした。

ディケイドのライダーカードを掲げ、指先でターン。そして、

 

「変身!」

 

カードをバックルに装填。ドライバーの前で両手をクロスするようにハンドルを戻し、

ディケイドライバーを作動。カード情報を読み取らせた。

 

[KAMENRIDE...DECADE!]

 

士に9人のライダーの姿が重なり、彼は仮面ライダーディケイドに変身した。

 

「とうとう姿を現したなディケイド!だが、こちらには最強の切り札がある!」

 

余裕があるのかないのか、謎の男は叫び続ける。

 

「その切り札とやらはいつも逃げるかやられるかしてるようだが?」

 

「減らず口を叩いていられるのも今のうちだ!

さぁ、来るがいい……リュウガアァァ!!」

 

男は新たなオーロラを発生させた。奥から何者かが歩いてくる。

そして銀の幕を通り抜けた人物の姿に皆、目を疑うことになる。

 

 

 

 

 

Login No.011 リュウガ

 

 

 

オーロラから現れたのは、なんと城戸真司と全く同じ姿をした男だった。

彼は何も言わず龍騎に歩み寄る。提督が二人?皆、驚きのあまり言葉が出ない。

 

「お、お前、誰だよ!」

 

ようやく謎の自分に問いかける龍騎。

もう一人の真司は、冷たい笑みを浮かべると、言葉を紡いだ。

 

「俺はミラーワールドからのライダー、リュウガ……」

 

「ミラーワールドの、ライダー……?」

 

「俺はもう一人のお前さ。俺を受け入れろ。

俺達が一つになれば、最強のライダーになる。

そうすれば、神崎優衣を救うことができる!

……さぁ、心を解き放て。俺と一つになり、力を手に入れろ」

 

「ふざけんな!確かに優衣ちゃんは助けたいよ。

でも、俺が望みを叶えたら他の大勢を見殺しにすることになるんだぞ!

……俺はお前なんか要らない!絶対優衣ちゃんもライダーも、

みんなが助かる方法を探してみせる!」

 

「……フン」

 

リュウガは軽く鼻で笑うと、目を閉じ集中し、ただ前方にカードデッキをかざす。

そこに鏡などないはずなのに腰に変身ベルトが現れる。

そして龍のエンブレムもケースも真っ黒なデッキを装填。

 

「変身……」

 

すると3つのライダーの影が重なり、リュウガが仮面ライダーリュウガに変身を遂げた。

その姿は暗黒の龍騎と形容していい。アーマーも、ヘルムも、形は龍騎と同じ。

ただ、全身が漆黒に染まり、赤い複眼が浮かび上がり、不気味さを際立たせている。

静かで、張り詰めた空気が場を包む。

士はそのライダーを見据えたまま夏美とユウスケに呼びかけた。

 

「おい、夏ミカンとユウスケは周りの連中を避難させろ。ここは戦場になる」

 

「わかりました!」

 

「終わったら俺も来るから、待ってろ!」

 

リュウガはカードを1枚ドロー。ブラックドラグバイザーに装填した。

 

【SWORD VENT】

 

リュウガの手にドラグセイバーが現れる。

これも形は龍騎のものと同じだが、刀身が黒で染め上げられている。

そして無言で龍騎に近づき、一太刀浴びせる。

凄まじい力と切れ味が生み出す衝撃に吹っ飛ばされる龍騎。

 

「がああっ!……くっそお!」

 

龍騎も起き上がりながらカードをドロー。ドラグバイザーに装填。

 

『SWORD VENT』

 

ドラグセイバーを手にした真司はリュウガに斬りかかる。

だが、リュウガは巧みな身のこなしで斬撃を回避し、切り払う。

攻撃を避けられた時に、一瞬隙を見せた龍騎は、左回し蹴り、右フック、胴への膝蹴りと

次々に連撃を浴びる。猛烈な攻めに耐えかねて龍騎はカードをドロー、装填。

 

『GUARD VENT』

 

呼び出したドラグシールドで剣撃や体術を受け止めるが、

盾の向こうからもリュウガの攻撃がぶつけてくる衝撃が伝わってくる。

 

「待ってろ城戸!」

 

ディケイドもライドブッカーからカードをドロー。ディケイドライバーに装填。

 

[ATTACKRIDE...SLASH!]

 

ライドブッカーをソードモードに変形させ、ディケイドもリュウガに斬りかかる。

 

「はぁっ!」

 

だが、振り下ろした一閃をリュウガはブラックドラグバイザーで受け止めた。

今度は標的をディケイドに変更、黒い刃でなぎ払い、突き、袈裟懸け、

様々な剣技に加え、僅かな隙も見せずに体術を織り交ぜてディケイドに反撃を許さない。

ソードモードでなんとか受け止めてはいるが、カードをドローする暇もない。

 

「何なんだこいつのパワーは……あいつの手下とは思えん!」

 

 

 

工廠のそばで鳴滝も固唾を呑んで戦いを見守っていた。

 

「いいぞ……いいぞリュウガ!そのまま世界を滅ぼす悪魔を倒せ!」

 

 

 

龍騎もじっとしてはいなかった。リュウガから受けたダメージから立ち直った龍騎は、

ディケイドと鍔迫り合いを繰り広げるリュウガに後ろから接近、羽交い締めにした。

 

「士!今だ、やれ!」

 

「悪りぃ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」

 

ディケイドはライドブッカーからカードをドロー、ディケイドライバーに装填。

 

[FINAL ATTACKRIDE...DI-DI-DI-DICADE!]

 

シャリン、と刃を構えると、ディケイドとリュウガの間に

何枚ものライダーカードのホログラフが現れる。

そしてディケイドはホログラフの中を疾走しながら、全身にエネルギーを浴びる。

最後のホログラフを通過すると、刀身が赤く輝き巨大化した。

その瞬間、龍騎はリュウガを突き飛ばし、同時にディケイドが

巨大なソードでリュウガに二太刀浴びせた。

 

「うごおおっ!!」

 

ファイナルアタックライド・ディメンションスラッシュの直撃を食らったリュウガは、

たまらず膝を付く。視線の先では龍騎が親指を立てていた。

なんとか行けそうだな、と思ったディケイドだが、この後事態が急速に悪化する。

 

 

 

「なぜだ!なぜこの世界の龍騎は奴に味方する……!?仕方がない、出て来い!」

 

鳴滝が新たな銀のオーロラを発生させると、奥からコツコツと足音が響いてくる。

そして。

 

【9・1・3・ENTER STANDING BY…】

 

──変身

 

【COMPLETE】

 

中から現れたのは、全体に黄色いストライプをあしらったアーマー、

そして顔全体を覆うほど広い紫の複眼が特徴のライダーだった。

彼はディケイド達の様子を眺める。

 

「2対1、か……良くないなぁ?こういうの」

 

そのライダーは親指で首を捻って、Xの文字をモチーフにした銃器を取り出した。

そして、狙いを定めて引き金を引く。

 

 

 

ダァン!ダァン!ダァン!

 

「うわああっ!!」

 

予期しない方向から突然銃撃を受けた龍騎は、その場に倒れる。

咳き込みながら立ち上がろうとすると、謎のライダーらしき人物が歩み寄ってきた。

 

「ふっふっ……カッコ悪いなぁ」

 

「お前、誰だよ……」

 

そのライダーは質問に答えず、龍騎の頭を掴んで強引に顔を近づけた。

 

「君の力はこの程度、ということでいいのかな」

 

それを見たディケイドも助けに入ろうとするが、

幾分ダメージが回復したリュウガが立ちはだかる。

 

「お前を殺し、もう一人の俺を手に入れる」

 

数では互角だが、戦力では圧倒的な差を付けられた龍騎とディケイド。

今、もう一つのライダーバトルが幕を開けた。

 

 


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