【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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*王蛇サバイブのカード及び能力は、フィギュアの画像、海外版龍騎、ゲームの動画に、
筆者の妄想を混ぜたもので成り立っています。公式なものでは無いのでご了承ください。



第22話 Scene of Carnage

そのカードが放つ輝きに、その場にいた全ての者が戦いを忘れ、目を奪われた。

 

王蛇が“STRANGE VENT”で引き当てた、4枚目の“SURVIVE”。

蠢く暗黒の雲を背景に、黄金に輝く三つ首の蛇が描かれたカードが現れる。

 

王蛇がベノバイザーを握り、前方に突き出すと、

まるで命を得て生きた蛇になったかのように、するすると王蛇の左腕に巻き付く。

そして、カッ!と眩しく光ると、ベノスネーカーの背を象った

大型ガントレット型バイザー・ベノバイザーツバイに変化した。

そして、まだ異変は終わらない。

 

ゴゴゴゴゴ……ザバァン!!

 

海中から大小様々な瓦礫が一瞬で浮き上がり、空中で静止。

直撃寸前だった魚雷、海底に沈む空薬莢、剥がれた甲板、朽ちた装甲、

不発弾、折れた鉄骨。大量の瓦礫が王蛇を取り巻いた。

 

瓦礫は一瞬で急加速して猛烈なスピードで王蛇を中心に回転。

重量物の高速移動で暴風が巻き起こる。圧倒的破壊力の嵐に包まれながら、

王蛇は“SURVIVE”をベノバイザーツバイのカードスロットに装填。

カバーを押し上げた。

 

『SURVIVE』

 

王蛇のアーマーに、再び輝くライダーの鏡像が重なる。

あまりにも不可解な現象に、さすがに“姫”達も息を呑んで様子を見守る。

王蛇が二度目の変身を遂げると、瓦礫の竜巻が制御を離れ、

遠心力で王蛇を取り囲んでいた深海棲艦達に襲いかかった。

恐ろしいスピードで飛来する悪意なき暴力に、彼女達は為す術なく蹂躙される。

 

グォン!!…………ザクッ!ブシャアアァ!!ズドォ!!

 

歪んだ装甲板が戦艦の頭をかち割る。

脳が露出し彼女の目玉がギョロギョロと動き、やがて前のめりに倒れて海に沈んでいく。

 

別方向に飛んだ鉄骨は、重巡の顔半分を引きちぎり、

もう1人の腹を貫通してようやく止まった。

腹を刺された重巡が助けを求めるように弱々しく手を伸ばすが、

まもなく、だらんと糸の切れた操り人形のように動かなくなった。

 

なまじ人の型を取っているだけにその光景は悲惨の一語でしかない。

 

“aaa!!kihsr!”

 

そして、王蛇に命中するはずだった魚雷が空中に放り出され、迫撃砲のように降り注ぐ。

空を飛ぶ魚雷はミサイルと変わらない。起動の読めない飛び方をする魚雷は、

避けそこねた駆逐艦に着弾、青黒い肉片に変え、

生き残りの艦に情け容赦なく何度でも突き刺さり、爆発し、命を奪い去る。

 

全ての瓦礫が飛び去った時、姫を含む深海棲艦達は初めてその姿を目の当たりにした。

そこに立つのは王蛇サバイブ。その姿は、大蛇が生きた鎧に変化したかの如く、

存在そのものが悪意を放つ禍々しいものだった。

ベノスネーカーの(あぎと)を模したアーマー、広げた頚部を思わせるヘルム、

頭部の両脇に何本も生える刃を象ったショルダーガードに、

強化された紫のレッグガード。

 

「ハアアア……」

 

王蛇は深く呼吸し、首をコキコキと鳴らす。

姫クラス含む全ての深海棲艦がその姿に見入る。あれが人間だというのか?

一体どれだけ宿業を重ねれば、命を喰らえば、欲望を肥大させれば、

ああまで黒くなるというのだ。奴が現れた、ただそれだけで何人もの同胞が死んだ。

 

闇だ。奴は、善も、悪も、そもそもそんな二元論さえも

全て飲み込み塗りつぶし否定する、闇なのだ。駆逐古姫妹の背筋に怖気が走る。

 

「そ、それがなんだって言うのよ!だから無駄だって言ってるじゃん!

周り見なよ!まだまだ戦艦も空母も……!」

 

「……なら攻撃命令を出せ、俺はまだ満足していない!」

 

“SURVIVE”の効果だろうか。王蛇は瀕死の状態から完全に立ち直り、

恍惚に包まれ、天に両腕を掲げた。

 

「この野郎……!みんな殺して!このバケモノを殺すのよ!」

 

「待ちなさい!下手に仕掛けるのは危険よ!」

 

駆逐古姫妹は姉の制止を聞かず、手下の深海棲艦に攻撃を命じた。

彼女らも先程の嵐で仲間をやられ、怒りに震えている。

戦艦の1隻が王蛇サバイブに主砲の照準を合わせ、三連装大口径砲を発射。

 

“kdktr@*!”

 

衝撃波で海面に巨大なくぼみが現れ、燃える鉄塊が王蛇に襲いかかる。

 

「お前じゃねえ……お前じゃねえんだよォ!!」

 

そして、着弾。そう、着弾したのだ。

しかし、彼女達は爆煙が晴れると恐ろしいものを見た。

ベノバイザーツバイで砲弾を受け止めた王蛇が無傷で立っていたのだ。

誰もが、現実を受け入れるのに時間がかかった。

 

やがて、命令を思い出したヲ級空母改が、

白い球形に大きな口を開いた得体の知れない艦載機を飛ばしてきた。

彼女の背中から巨大な雲が湧き上がるように飛び立つ

無数の戦闘機、爆撃機、攻撃機の数々。奴を、殺せ。

その命だけを与えられ、王蛇に飛びかかる艦載機の群れ。

 

それを見上げていた王蛇はただ一言吐き捨て、

カードを1枚ドロー、ベノバイザーツバイに装填した。

 

「……邪魔だ」

 

『ADVENT』

 

カードの力が発動すると、海底から不気味な存在が高速で浮上し、その姿を現した。

体長20mはあろうかというその巨体、それを支える太い胴、おぞましくぬめる紫の皮膚、

そして凶暴な吐息で威嚇する3つの首。

3体の契約モンスターの命を一時的に融合させることで誕生した、

王蛇サバイブの契約モンスター・ジェノストライカーが海を割り、

この世に姿を現してしまった。深海棲艦達を見下ろす邪悪なる三つ首の大蛇。

 

「全部、殺せ」

 

王蛇の命令とともに、それぞれの首が別方向を向き、

全方位に滝のような大量の液体を噴射した。

直後、王蛇の周りから凄まじい絶叫が響き渡る。

 

“ウアギャアアア!!”

“アアア、アア!?”

“ヒギャアアアアァァ!!”

 

体内で生成した有機王水と神経毒の混合液を大量に浴びせられた深海棲艦は、

装甲ごと肉体を溶かされ、ある者は穴の開いた頭蓋骨から脳を焼かれ、

直撃を免れた者も皮膚についた一滴が体内に侵入し、

急速に毒が体に回り全身の神経細胞が壊死、死亡。

 

聞くに堪えない断末魔と、液状化した死体が放つ悪臭。

まともな人間なら精神に異常を来すほどの惨状に、

様子を見守っていた姫級達が絶句する。邪竜とも大蛇とも付かない魔物が現れた瞬間、

瞬く間に護衛部隊が全滅してしまった。次は自分達が奴の相手をしなければならない。

その時、鼻を突く異臭を気に留める様子もなく、中枢棲姫は他の深海棲姫に命じた。

 

「……複縦陣だ」

 

駆逐古姫妹は“やる気なのか”と言いたそうに一瞬だけ彼女を見て配置に着いた。

王蛇から見て一番手前の列に駆逐古姉妹、二列目に2体の戦艦棲姫、3列目に空母棲姫、

そして空母棲姫の後ろに中枢棲姫が鎮座している。

ようやく王蛇サバイブと深海棲姫の生き残りを賭けた戦いが始まろうとしている。

 

こうなる前に奴の息の根を止めるべきだった……!

戦闘開始までに何人味方が死んだことか。

 

駆逐古姫妹は不安げに姉に目配せをする。

姉も小さく頷いた。大丈夫、まだ手は伏せてある。

奴の足をすくって総攻撃を仕掛ければ、それで終わり。

お姉ちゃんが上手くやってくれる!

 

「ハハ、待ってたぜ!カーニバルの、始まりだ……!!」

 

歓喜に湧く王蛇はカードをドロー、ベノバイザーツバイに装填。

 

『SWORD VENT』

 

カードを発動すると、王蛇サバイブの手に半円を描くように湾曲した特殊な形状の剣、

ジェノショーテルが現れた。刀身はゴツゴツとした濃紫色で、何かの液体で濡れている。

王蛇は軽く素振りしてみる。フォン、フォン、と鋭い刃が空を斬り、

透明の水滴がピシャッ、と弾ける。

 

「……気に入った」

 

ジェノショーテルの刃をぎらつかせて満足気に眺める王蛇。

その時、駆逐古姫妹が陣形を離れ、王蛇に慎重な足取りで近づいてきた。

何も言わずに剣を構える王蛇。だが、駆逐古姫妹が意外な行動に出る。

左腕の砲を取り外し、その場に置いたのだ。

 

「待って!お願いがあるの!」

 

「あ?」

 

「あなたが強いのはもうわかったわ!だからもうこんなことはやめて!」

 

ほんの少しだけ視界を右にずらす。水音を立てないよう、姉がゆっくりと動き出した。

 

「……寝ぼけてんのか」

 

「聞いて欲しいの!そもそもこの戦争が始まったのは、

人間が私達の海を奪ったからなの!本当よ!人間が静かに暮らしてた私達の海に、

産業廃棄物を大量投棄して住めなくしてしまったの!」

 

もう少し、あとちょっと。

 

「どっちが始めたかなんざ俺は知らん。とっとと大砲を拾え」

 

「でもこれ以上傷つけ合うのはもう無意味だってわかった……。

そうだ、講和条約を結びましょう?

私が中枢棲姫様に掛け合う……わけな“スパァン!”い じゃん バ ーカ!」

 

ダァン!!

 

一瞬の出来事だった。

王蛇が駆逐古姫妹の首を刎ね、最後まで喋れなかった彼女の着物を引っつかみ

死体を後ろに向け、こっそり背後に回っていた姉の砲撃を防いだ。

 

生首はくるくると宙を舞い、海中に落下。

ボチャン……とスイカを落としたような水音だけが残る。

ジェノショーテルから染み出す猛毒で、駆逐古姫妹の死体が

首からブスブスと腐っていく。

 

「あ、ああ……私の、私の妹がぁ!!」

 

妹の死と、その死体を撃ってしまったショックで悲鳴を上げる姉。

用済みになった妹の首なし死体を放り出す王蛇。その死体も、ゆっくり海に沈んでいく。

 

「よく似合ってるぜ、綺麗な死装束だ」

 

「殺してやる!!お前だけはアァ!」

 

激情にかられる駆逐古姫姉。王蛇は己にぶつけられる刺すような憎しみの感情に

心地良さすら覚える。だが、あれと戦う前にやることがある。

 

「……くだらん小細工するからろくな死に方できねえんだ、こいつらみたいに、な」

 

王蛇はジェノショーテルの切っ先を海につけた。

澄んだ海水にモワモワと何かが拡散していく。瓦礫の嵐から生き残り、

駆逐古姫姉妹の指示で、王蛇に魚雷を放とうとしていた潜水艦の群れに

水のゆらぎが降りかかる。なにが起きているのかわからない潜水艦達だが、

間もなく身をもって知ることになる。

 

“がごぼげがががああ!?!”

 

海中にいた潜水艦たちは絶叫し、体中の筋肉が硬直して、

飛び出すように海面に浮上してきた。

 

青黒い吐瀉物を胃袋ごと吐き出すような勢いで撒き散らし、

目は真っ赤に充血し今にも破裂せんばかりに膨張。

息ができないのか、満足に動かせない手で必死に喉をかきむしっている。

 

そして、1分と保たずにジェノショーテルの生み出す猛毒が全身に回り、

嘔吐、痙攣、呼吸困難、多臓器不全を起こし、潜水艦達は全滅した。

その凄惨な死に様に中枢棲姫を除く姫たちが戦慄する。

 

「まともに死にたきゃ出てきて戦え」

 

惨たらしい死体を目にしても眉一つ動かさない王蛇。

恐怖を無理矢理押さえ込み、駆逐古姫姉が叫ぶ。

 

「お、お前は……人間なんかじゃない!

海を汚し、敵の死を穢し、楽しむように殺し回る!!泥から生まれたただの化け物だ!」

 

「カカカ……バケモンが人の道説くとは世も末だ。

次はお前の番だ、撃て。早く、ほら、何をしてる」

 

一人ぼっちになった駆逐古姫の叫びも嘲笑い、戦いを迫る王蛇。

彼女が妹の仇に砲を向けると、他の深海棲姫も我に返り、全砲門を向けた。

すると、離れた場所で待機していたジェノストライカーの3つ首が、

彼女達に黒煙を吐き掛けた。視界が暗闇に包まれる。

 

「これじゃ艦載機も、砲も……!」

 

主力の航空機を発艦できない空母棲姫が戸惑いの声を上げる。

 

「私達に任せろ!……チッ、狙わなくていい、とにかく前に撃ちまくれ!!」

 

戦艦棲姫が叫ぶ。

少し吸い込んでしまったが、黒煙はただの煙幕だったようで、毒性はない。

 

皆、怪物を殺すために大口径砲を連射する。

闇の中、赤く燃える砲弾が行き交い、着水する度爆発する。

深海棲姫の残る5人が撃てるだけ撃った。

 

それぞれ次弾を装填しながら、黒煙が晴れるのを待つ。

やがて、闇が薄れ、煙幕が消えてなくなった。そこに、人影はいなかった。

 

「ハハ、アハハハ!!所詮、人間では通常艦が限界か!アッハハハ……」

 

奴は集中砲火で死体も残らず消え失せた。

勝利を確信し、安堵する戦艦棲姫達が高笑いを上げる。考えてみれば馬鹿馬鹿しい。

人間一人に何をおたおたしていたのだ。

 

「ハハハハ……」

 

が、その笑い声に狂気を孕んだ男の声が混じっているのに気づいた。

彼女達の背筋が凍る。何故だ!いや、どこにいる!?

 

「ここだァ!ハハハハハ!!」

 

ライダーの脚力で大ジャンプしてジェノストライカーの首に掴まり、

黒煙の外から攻撃のチャンスを伺っていた王蛇が、ジェノショーテルを両手に持ち、

上空から飛び降りてきた。

 

シャアァァン!!

 

そして、着水のタイミングで刃を振り下ろす。鋭い金属音が響く。

王蛇の真正面に居た駆逐古姫が、2つの人体模型のように縦半分に割られ、

言葉を遺すこともなく沈んでいった。

最前列撃破。つまり深海棲姫の幼い姉妹が、

殺人鬼の理不尽とも言える暴力によってこの世を去ったのだ。

 

「古姫ちゃん……ごめんね、何もできなくて、ごめんね……」

 

空母棲姫が静かに涙を流し、うつむき加減の戦艦棲姫の片割れが口を開く。

 

「……あんたさぁ、超えちゃいけない一線超えたってことわかってる?」

 

「ハ……子午線でも引いてあんのか?ここは」

 

怒気を含む問いかけに、なんら痛痒を感じることなく軽口を返す王蛇。

 

「……ぶっ殺す!!」

 

「アイアンボトムサウンドに、沈みなさい!!」

 

「火の塊となって、沈んでしまえ!!」

 

「カカカカ……!!来たぜ、来たぜ、潰し合いだァ!!」

 

「……」

 

沈黙を保つ中枢棲姫を除き、

空母棲姫と2人の戦艦棲姫。そして王蛇サバイブがベクトルの異なる

興奮のボルテージを急上昇させる。

 

王蛇は戦艦棲姫に向かって両腕を広げ前傾姿勢で疾走する。

深海棲姫達も王蛇を迎撃せんと主砲、艦載機で猛攻を仕掛ける。

王蛇はジェノショーテルを空高く放り投げ、カードをドロー、装填。

 

『STRIKE VENT』

 

王蛇後方にジェノストライカーがその巨体を移動し、王蛇が中央の首の前まで跳躍。

縦に一回転しながら、契約モンスターから超高圧力の王水毒液を浴びる。

さらに左右の首が黒い軽量ガスを吹き付け、その勢いで襲い来る戦闘機をすり抜け、

戦艦棲姫に王水毒液を浴びせながら連続キックを浴びせる。

 

さらに毒性の増した酸と軽量ガスの支えで滞空時間が増えたファイナルベントは、

威力を増してノーマルカードとなり、

姫クラスの深海棲艦に致命傷を負わせるほど強力になった。

 

「あああ!!があああ……がはぁっ!」

“ギャオオアア!!”

 

力の象徴たる三連装砲は最初の蹴りと共に浴びた有機王水で溶解。

背負ったペットも皮膚を焼かれ悲鳴を上げている。……こんな野郎に!人間なんかに!!

 

彼女は両腕で顔をかばうが、王蛇の無慈悲なキックの嵐はまだ終わらない。

軽量ガスが王蛇を持ち上げ、戦艦棲姫の全身に

ライダーの蹴りを機関銃のように叩きつける。

 

しかし、彼女は覚悟を決め、背中のペットに命じて巨大な腕を振り上げさせる。

せめて一発!お願い耐えて!

痛みをこらえ、皮膚がただれて筋肉が露出した腕を持ち上げる怪物。

そして渾身の力を込めて紫の悪魔を殴りつける。

 

気づいた王蛇も標的を変更。最後の全力蹴りを迫り来る拳に向ける。

 

「行けええええ!!」

「おおおおお!!」

 

二つの殺意がぶつかりあったその時、放出されたエネルギーがその場で爆発。

王蛇は胸にまともに巨大な拳を受け、戦艦棲姫はペットの右腕を引きちぎられた。

 

「ぐっ、げふあぁっ!!」

“ギゲエエエエェェ!!”

 

何度も転げ回りながら後ろに吹き飛ばされる王蛇。主力の片腕を失った戦艦棲姫。

王蛇は体勢を立て直したタイミングで、落下してきたジェノショーテルをキャッチ。

息を整えながらゆっくり立ち上がった。

 

殺しきれなかった……。既に“STRIKE VENT”で大ダメージを負っていた戦艦棲姫は、

ぼやけゆく視界に近づいてくる王蛇の姿を見た。仮面の奥から奴の笑みが見えるようだ。

戦闘機が銃撃したり、相棒達が砲撃してくれてるけど、

奴に機銃弾は大して効いてないみたいだし、砲弾を手甲で受け止めたりして

どんどん近づいてくる。あたしは、ここまでみたい。

 

「こほっ……頭の髄まで痺れたぜ。ありがとよ」

 

咳き込む王蛇。一矢報いることはできた。

あとは相棒と空母、それとリーダーに任せるか。

 

「……さっさとしなよ。言っとくが、生きて帰れるとは思わないことだね。

あたし程度にダメージ受けてるようじゃ、リーダーに殺される」

 

「どのみち生きたがりは長生きできねえ。あばよ」

 

ヒュパッ……!!

 

王蛇は戦艦棲姫の胴を薙いだ。

死神の鎌のごとく、王蛇のジェノショーテルがまた一つの命を刈り取った。

真っ二つになった彼女の死体が、海の底に還っていく。醜い骸を晒すことなく。

 

「戦艦……また、守れなかった!」

 

「蛇野郎!よくも私の、私の……許さない!

お前だけじゃない、お前を生み出した人類が死に絶えるまで私は殺し続ける!」

 

空母棲姫の悲しみ、戦艦棲姫の怒り。強烈な感情をぶつけられても、

既に自分で心を汚染しきっている王蛇に届くことはなかった。

 

「ふざけんな、俺の分がなくなるだろうが」

 

「……いい加減にしろ気違い野郎!!」

 

「お前の鎮守府を灰にしてやる!あの世で後悔するがいい!!」

 

空母棲姫、戦艦棲姫が各々の感情を爆発させて、もはや人の形をした何かを殺すべく、

持てる全ての手段で攻撃を開始した。

 

「全砲門開け、目標前方人型兵器、撃ちー方はじめー!!」

 

「全機爆装、沈めえぇ!!」

 

当然王蛇もじっとしている訳がない。

ジェノショーテル片手に笑い声を上げながら戦艦棲姫に突撃する。

両腕をクロスしてベノバイザーツバイを盾にし、砲弾から身を守る。

空から降ってくる爆弾が弾け、時々爆風に足を取られそうになるが、

足を止めることなくとうとう戦艦棲姫に接近。彼女に斬りかかる。

 

一瞬ハッとなるが、背負っているペットがその腕で彼女を守った。

だが、右腕の人差し指と中指が斬り飛ばされ、

傷口からどんどん皮膚や浮き出た血管が紫色に変色していく。

 

“ギャオオオ……”

「馬鹿!なんて事したのよ……!」

 

「ああ、外した」

 

あっけらかんとした王蛇の態度に、とっくに切れたはずの理性がはち切れた。

 

「……空母!私に構わず爆撃を!こいつの鎧を叩き潰せ!!」

 

「え!?でも!」

 

「いいから!死んでもこいつを勝たせるな!奴に殺された皆の顔を思い出せ!!」

 

「……わかった!爆撃機、再発艦!落ちろぉ!!」

 

空母棲姫が飛行甲板から残る爆撃機を発艦させた。

そして肉薄された戦艦棲姫はライダーと同等以上の力で格闘戦を挑む。

ペットの無事な左腕で王蛇に掌打を放つが、王蛇がすかさず

ジェノショーテルを両手で構えたため、勢い余って手のひらに毒の刃が刺さる。

猛毒が今度は左腕を侵食し、ペットが悲鳴を上げる。

 

「ごめん、もういい!お前は動くな、毒が回る!」

 

その時、王蛇の背後で空母棲姫が放った爆撃機が一直線に爆弾を投下し、

過ぎ去っていった。背中に爆発の衝撃を受ける王蛇。

皮肉にも戦艦棲姫を背中で爆風から守るような形で吹き飛ばされる。

 

「がぁっ!!……ああ、こいつは効くな」

 

「痛いか。お前が虐殺した仲間はもっと苦しい思いをした!お前も同じ目に遭え!!」

 

戦艦棲姫の人間体が拳を繰り出す。王蛇は左頬で受け止める。

 

「まるで連中が可哀想な奴みたいだな。同じ条件で殺し合った仲だろうが」

 

「“同じ条件”だ?何もわかってない愚か者!駆逐古姫は嘘などついていなかった!

この争いが始まったのは人間のせいだ!海の仲間を絶滅寸前まで食い荒らし、

どうにもならないゴミの処分場にし、挙句の果てに人間同士の殺し合いの場に変えた!

私達は母なる海を元の姿に戻すため、人間が搾取したものを取り返しているだけだ!!」

 

「ごちゃごちゃうるせえ!邪魔なら結局殺せば済む話だろうが!

なあ、人間が憎いなら目の前にいるぜ。殺せ、早く!」

 

「死ね!」

 

手の骨が折れても構わない。今度は右ストレートを顔面の中央に叩き込む。

凄まじい硬さだが、手応え有り。奴は仮面の中で鼻血を出しているだろう。

やっぱり指が折れたけど。

 

「ずっ……なんだ、やりゃあ、でぎるじゃねえか……」

 

爆撃機の第二波がやってきた。私達を目標に絨毯爆撃を敢行する。

空から降ってきた黒い点はやがてはっきりとした爆弾の姿を現し、

衝撃と炎で悪魔の蛇を火あぶりにする。

 

「ぐああああっ!!」

「あがああああ!」

 

間違いなくダメージが通ってる!私はいい、リーダーがこいつを殺してくれる。

絶対に、奴の存在を認めちゃいけない!奴はどこ……?いた!

手を付きながらゆっくり立とうとしてる。今しかない!

戦艦棲姫は毒で苦しむペットを下ろし、王蛇の背後に全力で走り、羽交い締めにした。

 

「何の真似だ……」

 

「リーダー、空母!私に構わず砲撃を!こいつを放って“サクッ”おけ、ば……」

 

彼女の背中に僅かに刺さった切っ先。

王蛇はジェノショーテルの形状を利用し、手首で柄を動かし、

真後ろの戦艦棲姫に先端を刺したのだ。

 

全身に痺れが走る。肺が動かない。息ができない。痛い、いたい、イタ…イ……

 

戦艦棲姫がその場に崩れ落ちる。その目が真っ赤に染まり、血の涙が流れる。

手を伸ばそうとしたが、体が言うことを聞かない。王蛇が剣を振り上げる。

これで、終わりか。……え?そうじゃない気がする。どうして?

 

「しずまないわ……わたしは、もう、にどと!」

 

シャン!!疑問の答えが出る前に、王蛇が彼女の首を切り落とした。

命が尽きると同時に亡骸は浮力を失い海に沈んでいく。

 

それを見届けると、王蛇は残る空母棲姫と、彼女が守る中枢棲姫へと歩を進める。

空母棲姫の前に立つと、しばらく何もせず、ぶらぶらとうろついて

足元を蹴って水を跳ねさせてみた。特に理由はない。

なんとなく時間を潰してみたかっただけだ。彼女は憎しみを込めそんな王蛇を睨む。

 

「戦艦棲姫の話なんか聞いてなかっただろうが、お前は

“どうせゲームの話”だと思いこんでいるだろう……違う。

私達を含むこの世界は史実を参考に創造された。

つまりお前が本来いるべき世界と同じなのだ。

お前の生きる世界もやがて生き物は死に絶え、海底に捨てたゴミが漏れ出し、

再び過ちを繰り返す。お前は、世界に、殺されるのだ……!」

 

「社会のお勉強なら、死んだガキ共にしてやりゃよかったのに」

 

「……貴様アァ!!」

 

王蛇のあくまで死者を愚弄する態度に空母棲姫が怒り心頭に発する。

彼女は搭乗している艤装を展開し、単装砲2門を王蛇に向けた。

単装砲だからこそこれまでより大きな口径を可能にしており、この距離で被弾すれば、

ベノバイザーツバイでも間違いなく粉砕される。

 

「殺してやる……!空母が航空機しか使えないと思っていたか!!」

 

「どいつもこいつも、なんでいちいち断りを入れるんだろうな。

黙って撃てばいいのによ」

 

「黙れ!中身は鎧がなければ何もできない小者の癖に!!

……そこで止まれ、剣を捨てろ!」

 

空母棲姫はジェノショーテルが届かない距離で停止を命じた。さてどうするか。

ジェノストライカーは“ADVENT”の効果が切れてもういない。

周りは、足場程度の小島しかない。残りのカードは、あと2枚、と。

 

頑張ればカードなしで行けるか?曲げた両腕を上げて一歩近づいてみる。

すぐさまマニピュレータのような単装砲2門が角度修正して正確に王蛇に狙いを定める。

王蛇は遠い目で辺りを眺めてみる。

 

「すっかり寂しくなっちまったなぁ、1時間前まで大混雑だったってのに」

 

「誰のせいだと思っている!さっさと武器を、捨てろぉ!!」

 

完全に怒りに囚われる空母棲姫。頭に血が上っている今しかない。

王蛇は柄を握る手に力を込める。刀身から流れ出す無色透明の毒液が勢いを増す。

 

「わかった、わかった。今捨てる……ほらよ!」

 

そして、その強肩でジェノショーテル真上に思い切り放り投げた。

フォン、フォン、フォン!と回転しながら空母棲姫の上を飛ぶ。

予想外の行動に、彼女は思わず見上げてしまう。

その時、回転する刀身が撒き散らす毒液の飛沫が目に入ってしまった。

目を焼くような激痛に悲鳴を上げる。

 

「きゃあああ!熱い!目がああ!熱い、熱いぃ!!」

 

彼女の目を潰した瞬間、王蛇は両足に力を込めて空母棲姫に飛びかかった。

そして彼女に取り付くと、拳に全力を込め何度も彼女の顔をぶん殴り、

とどめに膝で顎を蹴り上げた。一瞬隙を見せたがために連撃を食らってしまい、

気を失いそうになる。

 

姫クラスの深海棲艦は皆、美しい。だから“姫”の名が付いたのだろう。

しかし、もはや空母棲姫の秀麗な顔は醜く腫れ上がり、

痣と鼻血で見る影もなくなってしまった。

王蛇は彼女の首をつかみ、ちょうど落下してきたジェノショーテルの柄をつかみ取った。

 

「どうした……撃て、俺はここだ!」

 

「ぐうっ!し、ね……」

 

グサッ!!

 

空母棲姫の腹にジェノショーテルが深々と刺さる。

さらに、そのフックのような形状を利用し、王蛇は縦に腹を裂く。

彼女の叫び声が赤黒い空にこだまする。

 

「ギャアアーーーッ!!」

 

更に体内に入り込んだ毒が既に彼女を蝕んでいる。息が、できない!体が、痛い……!

みんな、やられた、こいつに、こんな奴に!!

彼女はどうにかまだ動かせる首をひねり、奥にいる中枢棲姫の姿を見る。

怒りも、悲しみもない表情でこちらを見ている。

 

「中枢棲姫、さま……あなた、だけでも」

 

「!?」

 

王蛇が殺気に気づく。空母棲姫は脳を侵される一瞬前に、

艤装を操作し、その砲を王蛇に向けたのだ。

そして、北太平洋戦域に雷鳴のような砲撃音、続いて爆発音が轟いた。

彼女が自爆覚悟で放った1トンを超える砲弾が爆発。王蛇を粉砕した。

……かと思われた。

 

『GUARD VENT』

 

再度海から突き出るように現れたジェノストライカー。

その背に守られた王蛇が姿を表した。

用が済んだジェノストライカーは再び海に潜っていく。

 

「そん、な……」

 

下半身が消し飛び、上半身も深い亀裂だらけになった空母棲姫は、

僅かに視力の残る左目で王蛇の健在な姿を見ると、驚愕と絶望の中、事切れた。

 

彼女を乗せた大型の艤装が、ずぶずぶと沈没を始めた。王蛇はそれを黙って見守る。

何を思っているのかはわからない。何も考えてないのかもしれないし、

強敵の最期に思いを馳せているのかもしれない。

 

とにかく、護衛の深海棲姫を殺し尽くした王蛇は、

最後の敵、中枢棲姫の元へたどり着いた。

赤い瞳に三連装砲が飛び出す巨大な口を2つ持つ化け物に腰掛ける彼女は、

遠い目をしたまま語りだした。

 

「なぜだ……どうやって、来た。……どう、やって……?」

 

「全部殺した。……さぁ、やろうぜ」

 

意味の分からない言葉を無視して開戦を急かす王蛇サバイブ。

 

「……」

 

ズゴオオオオォ!!

 

彼女は無言で大口径砲を放った。瞬時に反応した王蛇も横に転がり回避するが、

これまでの姫クラスとは比較にならない威力の砲の衝撃波に、

左半身を殴られ、骨がきしむ。

 

「く……はがっ!!うお、ごほっ、ごほっ!!」

 

だが今までにない強敵に王蛇の期待は膨らむばかりだ。

ジェノショーテルを手に全速力で走りより、素早く、横、斜め、横に斬りつけた。

しかし、手応えが軽い。手足を切断するつもりが、皮膚を裂くだけに終わった。

耐久力も他の姫級より飛びぬけて高い。

しかも、切り傷周辺が毒で一瞬紫に変色したが、徐々に元の白い肌に戻っていく。

代謝能力も高い。攻守において全てが想像を絶する強敵だった。

 

「どうした。終いか」

 

だから……殺したい!!

王蛇は怖気づくどころか、興奮と歓喜で脳内麻薬が多量に分泌され、

痛みが完全に消し飛ぶ。そして再度の攻撃を敢行。

再び全速力で中枢棲姫に向かって走り出す。

 

「ヘハハハハァ!!」

 

「いいだろう、全てを、沈めてやろう……何度でも、だ!」

 

彼女は化け物がくわえる三連装砲二基を一斉発射。それを見た王蛇も両足で空高く跳躍、

直後に大気を切り裂いて徹甲弾の群れが通り過ぎた。

王蛇は落下の勢いを利用し、邪魔な三連装砲の一基に上空から飛び蹴りを浴びせた。

ミシッ……と砲身が曲がり、それを咥えていた化け物の片目を潰した。

 

“ウオオオオン!!”

 

痛みに苦悶の声を漏らす中枢棲姫の艤装らしき生物。

もはや効果のないジェノショーテルは投げ捨てた。

 

その時、中枢棲姫が王蛇の足を引っ張り、目の前に引き寄せた。

初めて正面から顔を突き合わせる、特別海域の長と殺戮兵器。

浅倉は仮面の中で口が裂けるほどの笑顔を浮かべた。

 

中枢棲姫は凄まじい握力で王蛇の首を締め出す。

しかし王蛇も相打ちになろうが知った事かと言わんばかりに、全力で何度も彼女を殴り、

膝で腹を蹴り、目を突き、耳を平手ではたき、鼓膜を叩く。

もはや両者完全になりふり構わぬ殺し合いを繰り広げる。

 

中枢棲姫も首から手を離し、格闘戦に切り替える。

仮にも艦艇の化身の戦いぶりとは思えないが、深海棲姫の腕力、脚力で

とにかく殴り、蹴り、また殴るをとにかく続けた。

 

深海棲艦の力で放たれる拳やキックに王蛇サバイブも

十分過ぎるほどのダメージを受ける。

しかし、既に痛みを感じない王蛇も攻撃を止める気配がない。

右フック、ローキック、頭突き、肘鉄、アッパー。

思いつく限りの方法で肉体を叩きつける。

 

やがて、王蛇の連撃に耐えかねた中枢棲姫が彼を突き飛ばし、残った砲一基を向ける。

 

「はぁ、はぁ……やらせる、ものかぁ!……落ちろ!!」

 

「ハアア……ハァッ!!」

 

海上に倒れた王蛇は、素早く立ち上がり、再び飛びかかる。

戦いは既に幕引きを迎えようとしている。中枢棲姫が砲塔に弾薬を装填。突撃する王蛇。

発砲が先か、王蛇の攻撃が先か。答えは……同時だった。

 

砲塔内部で砲弾が点火された瞬間、王蛇の蹴りが三連装砲を薙いだ。

不揃いなキノコのようにバラバラの方向を向く砲身。

そして、出口のない砲弾が発射される。当然結果は、暴発。

約1tの砲弾が3つ炸裂し、王蛇も、そして中枢棲姫も粉砕するほどの大爆発が起きた。

 

どれくらいの時間が経っただろう。爆煙が少しずつ薄れていき、

状況がだんだんと見えてくる。中枢棲姫の玉座ともなっていた艤装は完全に粉々になり、

なくなっていた。

 

王蛇は、アーマーがひびだらけになり、浅倉も重症。

しかし中枢棲姫も同じく重症を負い、無残な姿に変わっていた。

左肩、腹、左脚部の肉がえぐり取られ、顔も左半分が破壊され、

光る眼がむき出しになっていた。

 

「ああ……げほ、ごほ、がはああっ!!」

 

浅倉が立ち上がろうと体を横にすると、激しい咳がこみ上げ、大量吐血した。

それでも、両手を付き、右足、左足と順番にバランスを取りながら体を持ち上げ、

再び立ち上がった。

 

体中を破壊された中枢棲姫-壊も、かろうじて助かった右半身を頼りに

堂々と大海原にその身を立たせる。見つめ合う両者。

もう、王蛇も、彼女も、何も語らない。王蛇は最後のカードをドロー。

ベノバイザーツバイに装填、カバーを押し上げた。

 

『FINAL VENT』

 

バイザーの中でカードが輝く。カードの力が開放されると、

ジェノストライカーが海底からその巨体を現した。

 

三つ首が一斉に暗黒の霧を吐きかける。二人を包むのは完全なる闇。

光の一筋さえも差し込まない静寂。

それは共に死闘を演じた彼らに与えられた最後の安息だったのかも知れない。

 

やがて徐々に霧が薄まり、完全に闇が消えると、

そこは見渡す限り星々が輝く宇宙だった。しかし、中枢棲姫-壊は驚くこともなく、

反撃に出ることもなく、ただその時を待っていた。いよいよ決着の時が迫る。

 

「うああああ!!」

 

王蛇サバイブが雄叫びを上げると、彼が赤いオーラに包まれる。

そして頭上に無数の赤い瞳を召喚。強力なエネルギー弾の瞳が中枢棲姫-壊に

次々と叩きつけられる。

 

「う……くっ、ああ……」

 

「おおおお!!」

 

最後に、ひときわ強烈なオーラをまとった槍を彼女に投げつけ、

彼女をはるか後方に追いやった。

終着地点にあるのは、地球を照らし続け、

あまねく生物に等しく生と死を与える恒星、太陽。

 

表面温度6000度で燃え盛る星に落下した中枢棲姫-壊は、

核融合を起こし続ける太陽に一瞬で焼き尽くされる。死が間近に迫る彼女。

 

しかし、次の瞬間には王蛇も自分も元の地球の海域に戻っていた。

カードの力で宇宙空間に滞在できるのは、ほんの10秒程度。

だが、太陽に炙られたダメージは計り知れない。

 

王蛇サバイブの「名も無きファイナルベント」で中枢棲姫-壊は全身が焼け焦げ、

両腕は肘から先が炭化し、崩れていった。

王蛇は体中が軋む痛みを無視して、彼女に歩み寄った。瞳の光が消えゆこうとしている。

彼女は王蛇の姿を認めると、かすかな声でささやいた。

 

「からだが、とけていく……。

あの、あかつきのひかりに、わたしも、せかいも、かえっていくのか。

そうか、そうね……」

 

「……」

 

「ありがとう……」

 

静かに、彼女の体が海へと消えていく。

すうっ、と澄み渡る蒼に彼女が還っていっても、王蛇はしばらく

ただそこを見つめていた。空の赤黒い霧が晴れ、青々とした空が広がる。

悲惨な戦いが嘘だったように、かもめの鳴き声が聞こえ、穏やかな波の音が辺りを包む。

やがて、全ての戦闘を終えた王蛇の体が透明になり、彼の帰る場所へと消え去った。

 

 

 

 

 

──第一浅倉鎮守府

 

 

医務室。

深海棲姫討伐に成功したものの、自身も重症を負った浅倉は

入院生活を余儀なくされていた。

 

リクライニングを起こして退屈そうにデッキの中のカードを眺めている。その中の1枚。

浅倉に奇跡の勝利をもたらした“STRANGE VENT”。手に取りじっと見る。

 

なんか別のカードに変わる妙なカード。

こいつのお陰で俺は勝てたわけだが、もう二度と“あのカード”は出ない気がする。

なんでかは知らん。そんな気がするだけだ。

 

思索にふける浅倉に歩み寄る足音が。足柄だった。

 

「提督、本当におめでとうございます……。

貴方の活躍で、深海棲艦の侵攻作戦は失敗し、深海棲姫全滅の知らせを聞いた、

周辺の敵艦隊の進軍も大幅に規模が縮小されました。ほら」

 

医務室なので声を落としているが、足柄は感激している様子で海図を広げた。

今度は世界の海を透明な六角形のエリアで区切ったもの。

安全な透明、要注意の黄色、危険海域の赤。

今回の勝利で多くのエリアで警戒レベルが下がったという。

興奮気味に説明する足柄だが、上の空で聞く浅倉に気づく。

 

「ちょっと提督、聞いてるんですか?」

 

「なあ、女。聞きたいことがある」

 

「なんですか?足柄ですが」

 

「姫連中を殺した時、どいつもみんな最期に妙な事を口走ってやがった。

まるで前にも俺に会ったようだったり、

いっぺん死んで生まれ変わったとでも言いたそうなセリフだった。なんか知らねえか」

 

「それは……」

 

殺した相手など気にかけない浅倉が、珍しく倒した深海棲姫の性質について尋ねる。

足柄は言葉に詰まった。まだ、提督には打ち明けていない。

心の準備ができてなかったので黙り込んでしまった。

 

「……まぁ、別にどうでもいい」

 

足柄の心中を汲み取ったのか、

本当にどうでもよくなったのかは本人にしかわからなかった。

 

「すみません、少しだけ、お時間を頂けませんか……」

 

「どうでもいいつったろ」

 

そういうと浅倉はまたカードを一枚一枚手繰りだした。

そうだ!足柄は大事な用件があるのを忘れていた。

 

「提督!この鎮守府に新しい仲間が加わったんです。

あの海域のハリケーンに巻き込まれてずっと動けなくなっていたらしいんですが、

提督が作戦に成功して天候が回復したおかげで、解放されたんです。

一言お礼を言いたいそうなので、連れてきますね!」

 

「やめろ」

 

“アイオワさ~ん、今なら提督のお体も大丈夫ですよ”

 

足柄は浅倉を無視して廊下で待っている新しい艦娘を呼ぶ。舌打ちする浅倉。

すると、長いブロンドの活発そうな艦娘が入ってきた。

 

「Nice to meet you, Admiral!! Iowa級戦艦、Iowaよ!助けてくれてSo, thank you!

これから自慢の16inch砲でバリバリ敵をBeat downするから、期待してネ!」

 

「……あぁ、うるせえ。大女は一人で十分だ」

 

「もう、提督。なんてこと言うんですか。

……ごめんなさいね、この人、性格的にアレだから」

 

「No problem! ねえAdmiral? 次の特別作戦にはmeも一緒に連れてってね!」

 

「知らん。獲物は全部俺のもんだ」

 

「本当、愛想ってものがないんだから。そうそう、提督にお土産です。

……改めまして、作戦成功、おめでとうございます。司令部からの、贈り物です」

 

そして足柄はいくつもの勲章を差し出した。浅倉は目だけを動かして少し見て、

 

「いらん」

 

「……予想はしてましたが返品不可です。

というか、他の提督方は喉から手が出るほど欲しがってるんですよ?」

 

「なら、そいつらにくれてやれ」

 

「はい、またまた予想通りの返答ありがとうございます。

艦これにそんなシステムはありませんし、

そもそも少しくらい素直に喜んでくれたっていいじゃないですか!」

 

「……長えよ、少しは怪我人労れ」

 

「はぁ……今度は怪我に逃げられるとは予想外でした。

それでは、今日の用件は以上ですので、ゆっくり静養なさってください。

では、アイオワさん。行きましょうか」

 

「Good bye, Admiral!」

 

去っていく足柄達。やっとうるさい連中がいなくなった。

戦いが終わって暇な毎日を送っているが、なぜか最近イラつきがあまり起きない。

代わりに時々奇妙な感覚に見舞われる。

 

俺が殺した連中、奴らの死に際がなぜか心のどこかに引っかかる。

死体を思い出して感傷に浸る。本当に俺は戦いで脳が焼けてるのかもしれん。

もういい、寝る。浅倉はリクライニングを倒して眠りについた。

 

 

 

 

 

アイオワを宿舎に送り届けてから、足柄は執務室で散らかった部屋を掃除していた。

もう、またカップ焼きそばのカラ散らかして!

ゴミ袋片手に掃除をしていると、01ゲートが視界に入る。

その時、ある疑問が頭をよぎった。あれ?どうして、提督は……

 

 

 

“だったら聞くが、こいつら放っといたらどうなる”

 

“……深海棲艦が更に支配海域を広げ、

いずれは人類から水の一滴すらも奪い尽くすことになるでしょう”

 

 

“……どういうことですか?”

 

“水がなくなるまでの猶予だ!”

 

“この作戦の成功者が現れなければ、河川を登った深海棲艦が水源を乗っ取り、

我々は完全に水を失うでしょうね。特に艦娘の建造には大量の水が必要ですから……”

 

 

 

どうして、自殺に等しい作戦を決行したのだろう。

水なんて現実世界に帰って飲めばいいじゃない。

たとえこの世界が焼け野原になったところで、ライダーバトル自体はできるじゃない。

それじゃあ、何のために?

足柄はその可能性について一瞬頭を巡らせたが、すぐ頭を振って否定した。

ないないそれはない。あの提督に限ってそれはない。

だけど……。すぐ暴れる、私の名前は覚えない、ゴミは片付けない、

喋りたいこと以外生返事しかしない。

 

……やっぱり、私は、浅倉が、キライだ。

 

 




*調べてみると王蛇サバイブの武器は鞭だったそうなんですが、
鞭はもうライアが持ってますし、変わった装備を持たせたかったので
ショーテルにしました。画像でもショーテルにしか見えないきれいな半円だったので。

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