【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第2話 ID: Invincible Dragon

「うわあああ!!」

 

真司は通い慣れたミラーワールドへと繋がる

無数の鏡面体で構成されたディメンジョンホールではなく、

グリーンの0と1の羅列で構成された真っ黒な空間に吸い込まれた。

 

手足をジタバタするが、何も触れるものがなく、

為す術がないまま、宙を舞うばかりだったが、しばらくすると

突然、カッ!と明るい光に包まれた。出口にたどり着いたのだろうか。

とにかく真司は、いきなりフローリングの床に放り出されたので

身体をしたたかに打った。

 

「痛えっ!あたた……」

 

腰をさすりながら立ち上がる真司。

 

「こりゃしばらく残るな……ってどこだ、ここ?」

 

痛みに気を取られ、気づくのが遅れたが、真司は不思議な空間に迷い込んでいた。

そこ自体は変でも何でもない。木造のデスクやフローリング。

さり気なく置かれた調度品の数々。シンプルさの中に気品を感じさせる

執務室のような部屋だった。

 

問題はなぜ見たこともない部屋に転移してしまったかということだ。

ここがミラーワールドなら、左右反転したOREジャーナル編集部のオフィスにいないと

おかしい。……のだが、真司はあることに気づく。

 

「あれ、ここ、艦これの母港画面そっくり……っていうか一緒だよ!!マジかよ!

俺、艦これの世界に来たのか?ああいやいや、あれはゲームだし……

ミラーワールドに艦これの画面が映り込んでんのかな?お~い神崎ー!

お前のミラーワールドバグってるぞ!!」

 

その時、慌てふためく真司に忍び寄る影が。ハッ!と気配に気づいた真司は

上着のポケットにしまったカードデッキに手をかけ……ようとしてやめた。

気配の正体が年端も行かない少女だったからだ。

 

 

「……あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします。」

 

 

上下黒のセーラー服を着た黄色い瞳の少女がいつの間にか後ろに立っていた。

彼女は、ぼそぼそとつぶやくように丁寧な自己紹介をしたが、

何か疑わしいものを見るような視線を真司にぶつけ、

少女には似合わない疲れきった雰囲気を背負っている。

だが、完全にパニック寸前まで驚いている真司はそんなことには気づかない。

真司は思いついた先から質問をまくし立てる。

 

「み、みみみ三日月ちゃん!?俺の秘書艦の?

じゃあ、ここ、マジで艦これの世界なの!?」

 

「そうですよ……」

 

「ねえ、ここってミラーワールドなの?

俺、いきなりここに吸い込まれてわけわかんないんだけど、詳しく教えてくれないかな。

あ、それより帰る方法!もう帰んないと編集長にどやされるし」

 

「帰る、ですか……。結局あなたもそうなんですね。わかりました。

帰り道にはご案内しますが、それには形だけでも

提督としての講習を受けていただく必要があるんです。

あなた達が“チュートリアル”と呼んでいるものです……」

 

「わかった、よろしく三日月ちゃん!俺、城戸真司ってんだ!」

 

真司は三日月に手を出し握手を求めたが、彼女は顔を背け、

 

「止めておきましょう。どうせすぐにお別れするんですから」

 

と、さっさとドアを開けて出ていってしまった。

 

「あー!ちょっと待って、置いてかないでよ!」

 

慌てて三日月を追いかける真司。こうして二人は執務室のある本館を後にした。

 

 

 

木製の大きなドアを開けると、大海原に面した鎮守府が広がっていた。

早足で歩く三日月についていくのにやっとの真司は、

さほど大きな驚きや感動といったものは感じられなかった。

何しろいつもゲーム画面で見ている景色そのものだし、

そこがあまりにも普通の港町だったこともある。

 

「待ってよ、三日月ちゃん。俺、体痛いし走ってばっかだし……」

 

「提督“経験者”のあなたならご存知でしょうが、あの赤レンガの施設が工廠です」

 

真司の文句を無視し、形式的に説明を始める三日月。

 

「うん。いつもあそこで装備とか君達艦娘の建造してる」

 

「そしていらなくなったらゴミ箱に。便利なシステムですよね」

 

「いや、まぁ、そうなんだけど……」

 

「別に責めてません。そういう世界なんですから。

それより、本館に向かって右奥の建物が私達艦娘の宿舎。

損傷した艦娘を癒やすお風呂もあそこにあります。

……命が惜しければ良からぬことを考えないでくださいね」

 

「し、失敬だな!俺は覗きなんかしないよ!」

 

「ごめんなさい。前例があったので念のため」

 

「……前例?」

 

その時真司は気づいた。広場を行き交う艦娘達は皆、真司を見るが、

その中に好意的な視線が一つもないことに。三日月のように不審者を警戒するような目。

中には遠慮なく真司を睨みつける者もいた。うん、やっぱりなんか変だ。

はっきりさせないと。

 

「ねえ、三日月ちゃん」

 

「なんでしょう……早く終わらせた方がお互いのためだと思うんですが」

 

「君も、みんなも、なんか俺のことあんま歓迎してないっていうか、

ぶっちゃけ嫌ってる感じ……だよね?俺、なんかしたかな?

ここの常識とか知らないから、なんか変なことしてたなら謝るけど……」

 

「あなたではないです……」

 

「俺では……?」

 

不意に三日月が立ち止まる。真司の目線が三日月の両手に止まった。

彼女の拳は何かに耐えるように握り込まれ、震えている。

三日月はうつむいて絞り出すような声で語りだした

 

「……ここに、艦隊これくしょんの世界に、

“人間の”提督が送り込まれるようになったのは、ここ一ヶ月ほど前からでした」

 

「人間って……俺以外にも!?」

 

「はい。本来“提督”なんてこの世界に存在しなかったんです。

ただ天から頭脳に舞い降りる命令に従うだけ、それが私達だった」

 

「そりゃまぁ、実際ゲームに提督なんて影も形もないしね……」

 

「それが、ある日突然、執務室に生身の人間が現れたんです。

混乱している彼を落ち着かせて話を聞いて、彼がPCで提督として着任したと同時に、

この世界に来たと知ったときは嬉しかった……!

0と1で組み上げられたゲームキャラでしかなかった私達に、

命ある人間が私達の存在に彩りを添えてくれる!そう思ったから……!!」

 

「何か、あったの?」

 

「“何かあった”、ですか。ハハ、彼らは、彼らは、彩りを添えるどころか、

私達艦娘の尊厳を踏みにじったんです!!

やる気がないなら帰ればいいのに、一人目はセクハラばかりして

ろくに仕事なんかしなかった!」

 

 

 

 

 

“こ~んごうちゃ~ん、ハグしようハグ!ちゅ~”

 

“て、提督……触るのはいいけど時間と場所をわきまえてほしいネ、

あとキスは度が過ぎるヨー……”

 

“なに?金剛ちゃんは提督LOVEなんじゃないの?”

 

“それは誰かが勝手に考えた脳内設定デース!ヘルプミー!”

 

“あ、あの、司令官?そろそろ次の出撃命令を!

せっかく勢力を縮小させた南方海域の深海棲艦がまた……”

 

“ああそれ?長門に任せるよ。

僕、ああいういかにもデキる女っぽい娘苦手なんだよね~”

 

“困ります!提督になったからには提督のお仕事をしていただかないと!

それに艦娘は男性向け給仕ではないんです!過度のスキンシップは……”

 

“うるさいなあ!提督である僕の言うことが聞けないの!?

口答えするなら合成素材に……ひぃっ!”

 

“帰れ……”

 

“やめて!仕事するから、砲は向けないでぇ!”

 

“その穴から今すぐ帰れ!!”

 

 

あまりに下劣な人間の姿に唖然とする真司。

 

「きっとゲームの感覚をそのまま目の前の現実に持ち込んじゃったんだ……」

 

「フフ、こんなの序の口ですよ?二人目。

あの血も涙もない男に制裁を加えなかった自分が今でも腹立たしいです」

 

三日月は語り続ける。

 

 

“駆逐艦、大潮です~! 小さな体に……”

 

“あんだよ!また「ハズレ」か!いつになったら島風出んだよ、ああん!?“

 

その男は乱暴に艦艇建造システムのコンソールを蹴り上げた。怯える大潮。

 

“ひっ……!”

 

“しかもなんだ?また大潮じゃねえか!

おい、小人!こいつ解体しとけ、ああ、その前に装備引っぺがすのも忘れんな!”

 

“待ってください、司令官!少しでいいので、せめて、少しでいいんです!

艦娘としての生を……”

 

“いらねえよ!こいつはもう持ってるし、倉庫がもう満杯なんだよ!”

 

“大潮、生きてちゃいけないんですか……?”

 

“俺は部屋で休む!ちくしょう、また開発資材無駄にした!!”

 

“ぐすっ……大潮ちゃん、ごめんね。来て欲しいところがあるの……”

 

“司令官、すごく怒ってました。大潮のせいですか?”

 

“ううん。あなたは何も悪くない。ごめんね、ごめんね……”

 

 

バタン!

 

全てが終わると、三日月は執務室に駆け込んだ。

 

“司令官!あんなの酷すぎます……あれ、司令官は?ええと、あ!デスクにメモ……”

 

>飽きた 帰る

 

“……だったら、あの娘を置いていってくれればよかったじゃないですか!!”

 

 

身勝手な人間に対する怒りと、消えていった艦娘への悲しみが同時に湧き上がり、

つい声が大きくなる。

 

「ひでえ……あんまりだよ!」

 

「所詮彼らにとって私達は使い捨ての玩具なんですね。最後。

私が提督を殺したいと思ったのは後にも先にもこの時だけです」

 

やはり三日月はどこか遠い目をしてぶつぶつと過去を語る。

 

 

“ここか、正晴が引きこもった原因は!

やっぱり私達の育て方が間違っていたわけではない。

早く用事を済ませて妻に教えてやらなくては!”

 

“司令官、ようこそ艦隊これくしょんの世界へ。

ご案内を努めます三日月です、どうぞ……”

 

 

パシィッ!!

 

 

顎髭の男にいきなり頬を叩かれた。何が起きたのか理解するのに時間がかかった。

 

“お前達が正晴を誑かしたせいで我が家はメチャクチャになった!御託はいい!

早く艦娘とやらを管理する場所へ案内しろ!

このゲームのことは嫌というほど知っている!”

 

“は、はい……”

 

二人は工廠に移動し、溶鉱炉とコンソールが設置された区画に入った。

男はコンソールを操作すると、艦娘一覧を表示した。

 

“Lv99がこんなに沢山……ここまで育てるのにいくら使ったんだ!

まだ家族カードなど持たせるべきではなかった。

そもそもこんなゲームがあるからいけないんだ。

妻からPTAに報告して議題に上げてもらおう”

 

“あの、司令官。何をなさるおつもりで?”

 

“黙ってろ!!”

 

“も、申し訳ありません……”

 

なおも顎髭の男はキーを叩き続ける。そしてしばらくすると、唐突にその手が止まった。

 

“おい、操作実行の最終確認にログインIDの入力を求められてる。何だ”

 

“一体何をなさるんですか?”

 

“こんなもの全部削除する。いや、全部消していたら日が暮れるな。

とりあえずLv50以上の者を全てだ!”

 

“!? そんな、あまりにも残酷です。司令官の命令といえど従えませ……ぐっ!”

 

男は三日月の胸ぐらを体ごと掴み上げた。

 

“さっさと言え!お前らに私達家族を狂わせた償いをさせる!

言わないならお前から削除するぞ!”

 

“言えませ……がはっ!”

 

男の拳が三日月の腹にめり込む。

 

“喋れ!子供の姿をしていれば手加減すると思ったら大間違いだぞ!”

 

“い、いやです……ぐっ、くうう!!”

 

再び男が三日月の腹を殴った。

鈍い痛みが腹部に広がり、胃の中のものが上がりそうになる。

 

 

“私達のことはいい、喋るんだ”

 

 

その時、長門を中心として戦艦・空母の主力艦娘達が工廠に入ってきた。

 

“私達のために、よく頑張ってくれたな。ありがとう、三日月”

 

“長門、様……”

 

“IDがわかるまでこいつは殴られ続けるぞ、どうするんだ!”

 

“わかっているさ。今教える”

 

“どうして……どうしてですか!”

 

“私達がプログラムで構成されたゲームキャラである以上、

上位存在の命令には従わなければならない。

その理に逆らえばこの世界そのものが崩壊してしまうんだよ”

 

“だからって、こんなの駄目です、長門様!!”

 

“おいさっさとしろ、人間じゃないから殺しても問題ないんだぞ!”

 

“そう急くな。IDはilovengt0917だ”

 

“よし”

 

 

男がコンソールにIDを入力して「解体する」をクリックした。

 

次の瞬間、長門達から自我がなくなり、表情が失われ、

まるでロボットのように溶鉱炉に向かって歩きだした。

 

 

“だめ……行かないで……”

 

 

三日月の呼びかけも虚しく、一人また一人と艦娘達が溶鉱炉に入っていく。

そして溶鉱炉に直結したベルトコンベアに鉄のインゴットや弾薬類が流れてくる。

さっきまで艦娘だった資材。

例え戦艦や空母であろうと解体で得られる資材は僅かなもの。

三日月はそれらを抱きしめた。

 

“うう…うわあああん!!長門様ぁ!赤城様ぁ!!”

 

“やっと終わったか。操作の面倒なシステムだ、おい、俺は帰る。出口を教えろ”

 

“くっ……殺してやる!!”

 

三日月は顎髭の男に砲を向けた。だが男は鼻で笑い、

 

“ふん、射幸心を煽り過剰な入金を迫るシステム、性的刺激の大きい描写、

そして今度は暴力表現と来たか。ますます規制の対象となるべきゲームだ。まぁいい。

私は執務室に戻っている。頭を冷やしたら戻れ。余り時間を取らせるなよ”

 

“待て!……戻れ!!”

 

男は背を向けている。今なら確実に命中する。

三日月は照準を男に合わせ、引き金を引くことが……できなかった。

彼女はその場に崩れ落ちる。両手を付いたコンクリートの床にポタポタと雫が落ちる。

 

どうして、どうして長門様達を殺したあいつを殺せなかったんだろう。

 

どうせ、艦娘なんて人に作られたプログラムの塊でしかないからだろうか。

創造主には逆らえないからなのか。しかし、もうそんなことはどうでもよかった。

長門様達は帰ってこない。

 

あるいは、もう一度新規建造で

姿形が同じ艦娘が現れることがあるかもしれない。

しかし、それは三日月の知っている長門ではない。

優しく頭をなでてくれた頼りがいのある長門様ではない。よく似た誰かでしかないのだ。

三日月は弾薬箱を抱えて静かに涙を流していた。

 

 

自らの落ち度を棚に上げ、大勢の艦娘を解体した傲慢な人間に

真司の怒りが爆発する。

 

「ふざけんな、ふざけんなよ……!!モニタ越しのゲームの出来事ならともかく、

なんで目の前にいる人間平気で殺せるんだよ!

……それじゃあ、俺の部隊にいる赤城って」

 

「そう。“2代目”の赤城様。

……ふぅん、あなたは私達を“人”だと思ってくれるんですか。それはそれは光栄です。

でも、結局何もしてくれないどころか、どこかで私達を使い捨てるんでしょう!?」

 

いつの間にか涙を流していた三日月が自嘲気味に真司に問う。

 

「そんなことしない!俺、絶対そんな奴らとは違う!」

 

「どうだか。ネット空間につながっている私達は掲示板やSNSで

少しは人間について知っているつもりでした。

当然自分勝手な人やネットワークを悪用したりする人もいるけど、

忙しい中、限られた時間で私達を一生懸命育ててくれたり、

情報共有しあって艦これを楽しくプレイする事に力を注いでいる人達がいることも

わかっていました。だから嬉しかったんです。最初に人間が来てくれた時は……!!」

 

「でも、人間がその期待を……」

 

「そう、確かに一方的な期待を寄せたのは私達の勝手でした。

でも、この世界に来て住人となった時点で、みんなを傷つけたり

長門様達を殺す権利なんか奴らにはなかったはず!

私は人間が好きでした。プログラムに縛られず、艦隊に変な名前を付けたり、

潜水艦しかいない部隊を作ったり、非合理的でおちゃめなところが!でも、でも!」

 

泣き叫び力の限り真司に訴える三日月。

 

「もう人間なんか大っ嫌い!!」

 

そして、後で真司に渡すはずだったパンフレットの入った封筒を彼に叩きつけた。

 

「……」

 

真司は黙って膝を付き、三日月に目線を合わせて彼女の両肩に手を当てた。

 

「三日月ちゃん、泣かないで。

君が撃たなかったのは、身体がプログラムで出来てるせいなんかじゃない。

君の優しさが思いとどまらせたんだ」

 

「調子のいいこと言って!どうせ深海棲艦が来たら尻尾巻いて逃げるくせに!」

 

「逃げない!!」

 

「!!」

 

突然の真司の大声に驚く三日月。

 

「ねぇ。信じてもらえるかどうかわからないんだけど、

今、現実世界にはミラーモンスターっていう怪物がいるんだ。

もう大勢の人が奴らに殺された。奴らは鏡や何かが映り込む物から現れる。

ここにはそういうやつ来てない?

俺、ミラーモンスターからみんなを守るために、仮面ライダーになったんだ。

だから戦う。敵がなんだろうと、人間とか艦娘とか関係なくて」

 

「嘘つき……」

 

「え?」

 

「今、検索エンジンで参照しました。

“仮面ライダー”、1971年テレビ放送開始の架空のヒーロー。やっぱり人間なんか……」

 

その時、鎮守府全体に響く大きなサイレンと警戒警報が二人の会話を遮った。

 

『警戒警報!警戒警報!現在深海棲艦の部隊が当鎮守府に接近中!

総員第一種戦闘配備に付け!

これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない!』

 

真司は仕方なく一旦話を切り上げ、必要最低限のことだけを問う。

 

「その偶然には俺も驚いてんだけどさ、それじゃあ、約束してくれないかな」

 

「ハッ、嘘ついといて、約束ですか?」

 

「この深海棲艦、俺が倒して見せる」

 

「艤装も付けられない人間がですか?

で、倒せたら自分を信用して司令官として迎え入れろと?」

 

「違うよ」

 

「え?」

 

「もし俺が勝ったら、涙を拭いて、また笑顔になってよ。

あんな目にあったのに、人間を信じろなんて言わない。

人間同士だって信じ合うのは難しいんだ。

でも、だからって君が笑顔を捨てることなんてないんだ!」

 

「なに馬鹿なことを……」

 

真司は三日月の問いに答えず、広場から桟橋に走り、海面に全身が移るように立った。

そしてポケットから龍のエンブレムが施されたカードデッキを取り出し、

海面にかざした。すると、海面の中と現実世界の真司に

大きなバックルの着いたベルトが現れた。

真司は、右腕を斜めに大きく振り上げ、叫んだ。

 

──変身!

 

そして慣れた動作でカードデッキをバックルに装填。

すると真司の身体にライダーの姿をした輝く鏡像が重なり、

真っ赤なバトルスーツとメタルアーマーを装備した、仮面ライダー龍騎に変身した。

 

「っしゃあ!」

 

変身が済むと、彼はいつもの調子で気合いを入れる。呆気にとられる三日月。

 

「うそ……」

 

“え、何あれ!”

“艦娘じゃないわよね!?”

“男の人がさっき光って……”

 

驚く三日月と周りの艦娘達をよそに、真司は即座にカードを1枚ドロー。

左腕の召喚機、ドラグバイザーに装填した。

 

『ADVENT』

 

カードの力が開放されると、異次元から強引にサイバー空間の隔たりをこじ開けた、

無双龍ドラグレッダーがその姿を表した。地上の艦娘達が悲鳴を上げる。

ドラグレッダーはその長く巨大な身体で渦を巻くように龍騎の元へ舞い降りた。

 

「はっ!」

 

龍騎はドラグレッダーに飛び乗り、ライダーの聴覚で

海上を移動する怪しい物体の音を聴き分けると、ドラグレッダーをけしかけ、

海の向こうへ猛スピードで飛び去っていった。

 

「本当に……本当に助けてくれるの……?」

 

地面に座り込み、その姿を見つめていた三日月は無意識に呟いた。

 

 

 

 

 

──作戦司令室

 

 

司令代理の長門、代理補佐の陸奥、そして通信士の大淀は

突然の敵襲への対応に忙殺されていた。

 

「偵察機からの情報入りました!戦艦1、重巡1、駆逐2の4隻です!」

 

大淀が偵察機からの信号を報告する。それを受け、長門が艦娘に出撃命令を下す。

 

「よし、こちらも総力で迎え撃て!金剛、日向、加賀……」

 

しかし、出撃要員を読み上げる長門を陸奥が遮る。

 

「戦艦・空母は、前提督が大破状態のまま入渠させずに消息を絶ったから

出撃は危険よ!」

 

「あのブタ提督め、“立つ鳥跡を濁さず”を知らんのか!!」

 

長門が思わず柱を殴る。自分で入ればいいじゃないかと思われるだろうが、

彼女達は人とプログラムの間に位置する存在。危険であることは認識できても、

自分でその状況に対処することは許されないのだ。

RPGで体力が減ったからと言って、勝手に薬草を使われては困るのと同じ理屈だ。

 

「あ、待ってください!電探に妙な反応が!」

 

「なんだ!」

 

「何か細長い物体が、敵艦隊の方角へ向かっていきます!」

 

「電探に引っかかるほど巨大で細長いもの?それではまるで龍ではないか!」

 

「通信を試みていますが、応答ありません!」

 

「謎の物体……敵でなければいいが」

 

皆、不可解な現象に胸騒ぎを覚えた。

 

 

 

 

 

「うおおおお!!」

 

その頃、ドラグレッダーに乗った龍騎は、不気味な気配の方角へと

ひたすら海上を進んでいた。時速500kmのドラグレッダーのスピードで、

“奴ら”にはすぐ追いつくことができた。

深海棲艦は先頭に戦艦、後ろに重巡、更に後ろに駆逐2が並んで鎮守府を目指していた。

 

「実物なんて初めてみたけど、あいつらが深海棲艦か!!」

 

彼女達は戦闘能力が高いほど人に近い姿をしている。

前方の戦艦、重巡は人間のように手足や顔がはっきり識別できるが、

後ろの駆逐艦は足の生えた巨大な黒い芋虫にしか見えない。

 

「“敵艦隊、見ゆ”だな!ドラグレッダー!あの駆逐艦から倒そう!数を減らすんだ!」

 

返事をするようにドラグレッダーが咆哮。更にスピードを上げ、敵艦隊に突撃。

その声に気づいた彼女達が龍騎達に気づき、対空射撃を行うが、

空を駆けるドラグレッダーは巧みに回避。

その隙に龍騎はカードをドロー、ドラグバイザーに装填。

 

『SWORD VENT』

 

空に次元の穴が開き、そこから一振りの剣、ドラグセイバーが現れ、

龍騎の手に収まった。

 

「おっしゃ!しっかし間近で見るとでけえな!やれ、ドラグレッダー!!」

 

ドラグレッダーは体内に溜め込んだ燃え盛る炎で、一直線に海を薙ぎ払った。

業火に包まれる駆逐艦2隻。龍騎は激しい熱にのたうち回る駆逐艦の間を

縫うように飛び、すれ違いざまに何度も斬撃を浴びせる。

致命傷を負った駆逐艦達は、体中から青黒い体液を吹き出しながら、

ドシャアン!とその巨体を海に沈めていった。

 

仲間をやられ、怒る重巡。戦艦はヘラヘラと笑うが、両者とも艤装を操作し、

龍騎達に砲口を向け、発砲。

なんとかドラグレッダーの反射神経と空で戦える地の利で回避できたが、

1発でも食らったらまずい!砲撃の凄まじい熱風や衝撃波からもその威力が窺える。

なんとかドラグレッダーに掴まり吹っ飛ばされずに耐えたが、

短期決戦に持ち込まないとこれ以上保たない!

龍騎は再びカードをドロー、素早く装填。

 

『STRIKE VENT』

 

龍騎の右腕に龍の頭部を象った装備が現れる。こういうときは弱いやつから順々に……!

龍騎はドラグレッダーの尾の部分に移動し、光る眼でこちらを睨む重巡に狙いを定め、

右腕をまっすぐに突き出した。

 

直後、ドラグレッダーが体内で圧縮した火球を重巡に発射。

数千度に及ぶ火球は正確に重巡を捉え、彼女が驚きの表情を浮かべると同時に直撃。

火球とともに重巡は四散大破した。残るは戦艦1隻のみだが……

仲間がやられても奴は相変わらず笑いながら、

お構いなしに三連装砲で龍騎達に無数の砲弾を浴びせてくる。

ギリギリでかわした至近弾が海中で爆発。巨大な水柱を上げ、龍騎をずぶ濡れにした。

 

「こいつは……当たったらドラグレッダーも無事じゃ済まない!一気にとどめだ!」

 

そして龍騎は最後のカードをドロー。ドラグバイザーに装填。

すると、カードから莫大なエネルギーが放出される。

 

『FINAL VENT』

 

「はああああ……」

 

龍騎は両足に力を込め、全力で跳躍。ドラグレッダーも追随して飛翔。

頂点に達したところで龍騎は身体を縦に回転し、戦艦に向け蹴りの姿勢を取る。

その時、ドラグレッダーが背後から龍騎に猛烈な炎を吹き浴びせた。

 

「はあっ!!」

 

炎の熱と勢いを浴びた龍騎はまっすぐ戦艦に突撃。

突然上空からの急降下攻撃が迫り、反応が遅れた戦艦は逃げようとしたが、

間に合わず、ミサイルのような凄まじい威力の蹴りを浴び、

木っ端微塵となり燃え尽きた。

龍騎のファイナルベント「ドラゴンライダーキック」で敵艦隊の最後の1隻が轟沈。

龍騎は艦これ世界での初陣を勝利で飾った。

 

 

 

 

 

「おーい、三日月ちゃーん!」

 

手を振りながら呼びかける龍騎。龍騎はドラグレッダーに乗って鎮守府へと戻っていた。

母港には多数の艦娘達と三日月が待っている。そして桟橋に着地。

変身を解くとドラグレッダーは異次元へ戻っていった。

さっそく三日月に駆け寄ろうとする真司。

 

「三日月ちゃん、見ててくれた?俺、約束守ったよ!三日月ちゃんも諦めないで……」

 

「来ちゃだめ真司さん!!」

 

「え……?」

 

三日月に気を取られて気づかなかったが、目つきの鋭い艦娘が真司に砲を向けている。

 

「三日月は下がっていろ。城戸真司、というそうだな。

私は当鎮守府の司令代理、長門だ。悪いが君を拘束させてもらう」

 

「え、ちょっと待って、拘束って……離せ、離せよ!」

 

部下の艦娘達が頑丈に真司を縛り上げる。

 

「長門さん、お願いです!こんなことは強引過ぎます!」

 

「皆の安全のためには仕方ない。何かあってからでは遅すぎるのだ。

それは、君の方がよく知っているだろう」

 

「だからって……」

 

「やーめーろーよ!俺が何したってんだよ!」

 

夕日に照らされる鎮守府に真司の叫び声が響いた。

 

 


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