【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第13話 ID: Bloody Swan

「おい待てコラー!指輪返せ!」

 

「しつこいわねえ!もう本当ウザい、あんただって同業でしょうが!

騙される方が悪いのよ!」

 

結婚詐欺師・霧島美穂は窮地に陥っていた。

高級住宅地に住む金持ちの令嬢になりすまし、同じ結婚詐欺を働く男に近づいて、

ダイヤの指輪を騙し取ってやったまではよかったが、

運悪く本人と鉢合わせしてしまった。

そして婚約指輪を持ち逃げしたまま現在に至る、とうわけである。

なんとか男の足から逃れ、玄関前に広場のある建物近くのオブジェに隠れたが、

まだ相手は諦める様子がない。

 

「くそ、あの女どこ行った!警察突き出してやる!」

 

お前も詐欺師だろうが!うわ、ゴミ箱の隅まで見てる。ねちっこい奴!

 

「どこに隠れてんだ、クソ女!」

 

ああ、こっち来た!マジヤバいどうしよう。

オブジェは人一人が隠れるには十分だが、横にはみ出せば

簡単に姿が見える程度の大きさしかない。男はどんどん近づいてくる。

……しょうがない、あんまりやりたくないけど。

美穂は羽毛のコートから真っ白なカードデッキを取り出し、建物のガラスにかざす。

ガラスに映った美穂と現実世界の美穂の腰に、変身ベルトが現れる。

羽ばたくように両腕を広げ、右手をすばやく左肩に当て、

 

「変身!」

 

デッキを装填。美穂の身体を回転する鏡像が包む。

そして、純白の甲冑のような装備をまとった、仮面ライダーファムへと変身した。

 

「じゃあね」

 

ファムはそのままガラスの中へ飛び込む。

一瞬人影を見た男が急いでオブジェに走り寄るが、その時にはもう誰もいなかった。

ふふ、残念でした。左右反転した建物前広場で、男が美穂を探し回っている。

さて、あいつがどっか行くまでミラーワールドで一休み……させてくれそうもないわね。

ファムの耳に金切り音が反響する。

アーマーの胸に赤いレーザーポインターの光が浮かぶ。

直観的に危機を察知した彼女は、考える前に横に転がった。

直後にバンバンバン!と連続した銃撃がファムのいた場所をえぐった。

 

ウキキキキ……

 

声の方向を見ると、真っ赤な3つ目を持つ猿型ミラーモンスター・デッドリマーが

建物3階あたりにつかまりながら、拳銃となる尻尾を持ってファムを狙っていた。

 

「面倒くさそうな奴。あいつみたい」

 

ファムはカード1枚ドロー。レイピア型のカードバイザー・ブランバイザーに装填した。

 

『SWORD VENT』

 

カードが発動すると、ファムの足元に水たまりのような異次元への扉が開き、

契約モンスター・ブランウイングが

薙刀状の武器、ウイングスラッシャーを持って現れた。

ウイングスラッシャーをキャッチすると、すかさずジャンプし、

デッドリマーに一閃を放った。しかし、デッドリマーは素早い動きで地上に下り、

猿特有の動きで跳ねまわりながら距離を取る。

そして、再び3つ目の1つから放つレーザーで狙いを付け、狙撃。

ファムも壁を蹴り、射線から逃れる。

 

「ちょろちょろと鬱陶しいわね!ちょっと早いけど……」

 

ファムが“FINAL VENT”をドロー。ブランバイザーに装填。

 

 

 

「……」

 

戦いの様子を2階のガラスから眺める神崎。黙ってガラスに手をかざす。

見えない何かが動き出した。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

クアァァーー……

 

 

どこか哀しげな鳴き声を上げ、

ファムの白鳥型契約モンスター・ブランウイングが巨大化し、

ビルの隙間を塗って飛来した。そして、デッドリマーの前に降り立つと、

1回大きく羽ばたいた。翼が強力な風を起こし、

舞い上げられたモンスターがファムに向かって飛ばされ、

ファムはウイングスラッシャーを振りかざす。

すれ違いざま、デッドリマーの首をはね、遠くに飛んでいった首がゴロゴロと転がった。

消滅したデッドリマーの死体から現れたエネルギー体をブランウィングが飲み込む。

 

「ふぅ……」

 

やっと安息の時を得たファムだったが、今度は体の粒子化が始まった。

本来、ライダーは約10分を越えてミラーワールドに留まると体が消滅する。

やば、早く出なきゃ!ファムは現実の広場へ戻ろうとした。

が、まだあの男が美穂を探していた。何なのあの男、しつこすぎるにも程があるでしょ!

ファムの心に焦りが生まれる。だが、その時後ろから声を掛けられた。

 

「何をしている。俺はケチな結婚詐欺のためにデッキを与えたわけではない」

 

神崎だった。

 

「あ、ああ。あんたなの、久しぶりね。でも今取り込み中なの!」

 

「お前達がこんなにダラダラとライダーバトルをしているとは、思わなかった。

挙句の果てに一人はバトルを放棄する始末」

 

「だから急いでるんだって!」

 

焦りながら現実世界の男が去るのを待つファム。

 

「急いでいるならさっさとしろ。……まだこの時代の冷凍保存技術は完璧じゃない。

力を持ち帰っても、その器が冷凍焼け、ではお前の戦いは無意味だ」

 

「うるさい!すぐにこんな戦い終わらせてやる!」

 

「連れて行ってやろう、ライダー達のいる世界。

お前を焦らせている時間制限のないミラーワールドに」

 

「本当!?」

 

「お前を担いで何になる。既に浅倉もライダーとなり、バトルを開始している」

 

「浅倉……!!浅倉威がいるの!?」

 

「本来ならサイバー空間の入り口から入るべきなのだが……

お前が金儲けにばかり精を出しているせいで、一向にバトルが進まない。

今回だけは別のミラーワールドを経由して直接お前を送り込んでやる。

だが、何度も言うが今回限りだ。詳しい話は“向こう”の住民に訊け」

 

「住民って何よ!ミラーワールドにそんなのいるわけ……」

 

「……」

 

もう神崎は何も言わなかった。ただ感情のない目でこちらを見ている。

 

「ああもう、わかったわよ!行けばいいんでしょ!」

 

「こいつだ」

 

神崎は綺麗に磨かれ、景色を映し出しているオブジェを指差した。

ファムは恐る恐る近づき、前に立って体全体が映り込むことを確認した。

その時、いきなり神崎に背中を押され、彼女はオブジェの鏡面に吸い込まれてしまった。

 

「キャアア!!」

 

 

 

 

 

Login No.007 霧島美穂

 

 

 

倒れ込んでもどこにも落下することなく、ファムはただ

暗闇に0と1が浮かぶ空間を漂っていた。

不可思議な空間に驚いた彼女は出口を探して手足を動かすが、触れられる物は何もなく、

ただ時間だけが過ぎていった。すると突然、ファムは眩い光に包まれた。

 

バタン!

 

またしても世界が切り替わる。今度は床に強く叩きつけられ、変身が解けてしまった。

美穂は腰をさすりながら周りを見回す。

 

「痛った~い……何なのよここ……」

 

誰かの書斎だろうか。広めの部屋にデスクや本棚が並べられている。

立ち上がりながらそれらを眺めていると、窓の景色に驚く。目の前に広がるは大海原。

左に目をやると巨大なクレーンや倉庫がいくつも並び、

ここが港町だということがわかる。

真下の広場を眺めると、何やら奇妙な物を身に着けた少女達が談笑しながら歩いている。

 

「ミラーワールドに、港?っていうか人!?」

 

美穂が現状を把握できないでいると、廊下から足音が聞こえてきた。

足音が聞こえてきた。足音はドアの前で止まり、ノックの音が聞こえてきた。

つい反射的に返事をする美穂。

 

「あ、はい」

 

ガチャリとドアが開くと、不思議な少女が入ってきた。

和服を着て大人びた雰囲気を持っているが、左腕に空母の甲板らしきものを装着し、

弓と矢筒を持っている奇妙な少女。

 

「え、ちょ……あんた誰?」

 

「私は軽空母・鳳翔です。あなたは……人間の方みたいですけど、

この世界には“違う方法”でいらしたみたいですねぇ?」

 

鳳翔が困った顔で首をかしげる。美穂が更に質問をぶつける。

 

「この世界ってどの世界よ!?大体なんでミラーワールドに人がいるの?

あんたもライダーなわけ?……そうだ、浅倉よ!浅倉威はどこ!?」

 

「落ち着いて、落ち着いてください、ね?」

 

鳳翔はニコリと微笑んで美穂の両肩をポンポンと叩き、彼女を落ち着かせた。

そしてこの世界のシステム、滞在しているライダー、

彼らがここに来た経緯について説明した。

 

「じゃあ……ここが今ニュースになってる未来のゲーム!?」

 

「ニュースのことは存じませんが、たしかにここが“艦隊これくしょん”の世界です」

 

美穂は呆然としてボスン、とソファに座り込んだ。

そんな彼女に鳳翔が優しく声をかける。

 

「私、長門さんに今の状況を報告してきますね。

後ほど改めて説明しますが、ここはあなたの部屋です。どうぞごゆっくり」

 

そして鳳翔は退室した。しばし状況を受け入れるのに時間がかかった彼女だが、

すぐにハッとなり、頭を振った。こんなことしてる場合じゃない!

私は、私は浅倉と北岡を殺して、ライダーバトルに勝って、

お姉ちゃんを生き返らせるんだ……!!その時、再びノックが聞こえた。

美穂が返事をしないでいると、“入るぞ”の声と共に長門と鳳翔がドアを開けた。

そして座ったままの美穂に向き合う。

 

「私が当鎮守府の司令代理、戦艦長門だ。貴方の着任を心から歓迎する。

方法は分からないが、貴方は少々特殊な方法でこの世界に来られたようだ。

だが、不正なアクセスも検出されなかったので、貴女を提督として受け入れようと思う」

 

「……いい」

 

「え?」

 

「提督とかそんなのどうだっていい!今すぐ浅倉威か北岡秀一のところへ連れてって!」

 

「浅倉提督と北岡提督?二人とは知り合いなのか」

 

美穂は頭を振る。

 

「よかったら……お二人とどういう関係なのか、聞かせていただけますか?」

 

鳳翔が柔らかい声で問いかける。

 

「お姉ちゃんは……お姉ちゃんは、浅倉威に殺されたんだ!!」

 

「!」「!?」

 

衝撃の事実に言葉を失う二人。感情が昂ぶった美穂は更に続ける。

 

「だから私はお姉ちゃんを生き返らせるためにライダーになった!

私は、勝たなくちゃいけないんだよ!

どんなに汚い手を使ったって、勝たなくちゃいけないんだ!!

“力”を手に入れて、お姉ちゃんに新しい命を持って帰るんだ!」

 

「そんな、浅倉提督が、そこまで凶暴だったとは……!」

 

「だからお願い、浅倉威のところへ連れてって!」

 

「待ってくれ、落ち着いてくれ提督!

奴は既にこの世界でイレギュラーを一人殺している!無為無策で挑むのは無謀だ!」

 

「なんですって……まだあいつは人殺しを繰り返してるの!?

殺してやる……あいつは絶対にあたしが殺す!」

 

一瞬戸惑った鳳翔だったが、彼女は激昂する美穂の背中を優しく撫でて改めて問うた。

 

「提督と浅倉提督とのご関係はわかりました。しかし、なぜ北岡提督まで?

ああ、失礼しました。お名前をお聞かせ願えませんか?

長門さんから特例としてあなたの秘書艦を務めさせてさせていただくことになりました」

 

「ああ、提督は着任の仕方が特別だったのでな。

いつもの駆逐艦達は都合が付かなかったんだ。

この世界で困ったことがあったら、彼女に相談するといい」

 

少し間を置いて落ち着いた美穂が答える。

 

「……あたし、霧島美穂。ちなみにこの世界には神崎が連れてきたんだけど……

北岡は浅倉の弁護士だったの。

まともな審理さえされてれば、あいつは死刑になるはずだったのに!

北岡が金に物を言わせて、関係者を買収したり、裏工作で脅迫したり、

散々汚い手を使ったせいで……たったの10年!

奴の懲役がたったの10年になったのよ!?」

 

ライダー達の思わぬ過去に何も言えなくなる鳳翔と長門。

 

「だから、だから今すぐ浅倉か北岡のところへ案内して!」

 

「ま、待ってくれ、とにかく少しでいい。時間をくれ。

重要な案件は他鎮守と情報共有する決まりになってるんだ、頼む!」

 

「……急いでよ」

 

「あ、そうです。その間にチュートリアルを済ませてしまいましょう。

言ってみれば、この世界の案内です。どの鎮守府も作りは同じになっていますから、

戦うにしろ何にせよ、ここの地形や仕組みは知っておいて損はないと思います」

 

「わかった……じゃあ、案内お願い」

 

「はい。まずは工廠を見学しましょうか」

 

鳳翔の提案を受け入れた美穂は、ソファから立ち上がり、

戦いに備えて鎮守府の把握に努めることにした。

 

 

 

 

 

──北岡鎮守府

 

「いやあ、本当助かったよ!

思わぬ所で吾郎ちゃんを連れてくる方法が見つかるなんてさ!」

 

その日の北岡は上機嫌だった。

現実世界で頼りにしている秘書兼、コック兼、顔そり係兼……

とにかくなんでもこなす多彩な男、由良吾郎を

サイバーミラーワールドに連れてくることに成功したのだ。

 

「……ふ~ん」

 

「あのドラ息子が宣戦布告をふっかけてきた時に、

浅倉がなにやら怪人の懐探ってたからさぁ、

小人が気を失った怪人をゲートに運ぶ時に聞いてみたんだよね。

そしたらコートにカードが縫い付けてあったんだ。それでピンと来たわけ。

ライダーであることを認識する何かがあれば、

一般人でもここに来られるんじゃないかって。

俺は射撃メインで戦うから、吾郎ちゃんに使わない“STRIKE VENT”を渡して

艦これにアカウント作ったらビンゴ!だったわけ」

 

「あっそう、よかったわねぇ」

 

饒舌に語る北岡とは逆に、飛鷹はなんだか無愛想だ。

 

「よろしくお願いします、飛鷹さん」

 

真っ赤なシャツを着た大柄な男が彼女に話しかける。

 

「どうぞよろしく、と言ってもすぐお別れなんですけど!」

 

と、言って彼女は腕を組んで背を向けてしまった。

 

「あれ、もしかして、すねてる?俺が飛鷹をお払い箱にするんじゃないかって?

そんなわけないじゃん、こっち向きなよ」

 

「だ、誰がすねてるってのよ!別に秘書艦なんかクビになったってどうってことないし?

私と烈風を頼りにしてる娘なんていくらでもいるんだから!」

 

「大丈夫ですよ。俺、ここでの戦いはよくわかりませんから。

俺の仕事は先生の身の回りのお世話です」

 

「そーいうこと。これから吾郎ちゃんには

大和と交代で贅沢なフルコースを作ってもらったり、

美容師顔負けの剃刀さばきでリラックスするだけだから、君の仕事を取ったりしないよ。

わかったらもう機嫌直してよ」

 

「だから別にすねてないから!ふん……」

 

ようやく北岡の方に向き直る飛鷹。

やっぱり若干すねていたようで、頬が朱に染まっていた。

 

「ここではわからないことだらけなんで、よろしくお願いします。先輩」

 

改めて吾郎が挨拶をする。先輩?先輩!顔には出さなかったが、

呼ばれたことのない言葉で呼ばれたことに飛鷹は顔がほころびそうになる。

そんなこんなで新たなメンバーが加わったものの、

いつもどおりの北岡の執務室に電話の音が鳴り響いた。

デスクに着いていた北岡が受話器を取る。

……そして、無表情かつ重い雰囲気を出しながら電話を切った。

 

「どうしたんですか、先生」

 

「何なのよ?深刻そうな顔して」

 

二人の問いかけに、北岡が答える。

 

「霧島美穂がこの世界に来たそうだ。もちろんライダーだよ」

 

「またライダーね。浅倉みたいな戦闘狂じゃなきゃいいけど」

 

だが、事情を知る吾郎が心配そうに問いかける。

 

「先生、やっぱり、あの人なんでしょうか……?」

 

「多分間違いない。彼女が俺や浅倉に復讐に、そして姉を生き返らせるために

ライダーバトルに参加したとしても不思議じゃない」

 

「ちょ、ちょっと何の話よ、説明して!」

 

「……飛鷹。俺が現実世界では弁護士だったってことは話したよね」

 

吾郎が目をつむり、顔をそらす。

 

「いつか、浅倉の弁護を担当したのが、俺だったんだよね」

 

「!?」

 

「で、霧島美穂はその被害者の妹だったってワケ」

 

「でも、その霧島って人が提督となんの関係が!?」

 

「はっきり言ってたよ、彼女」

 

 

 

“主文、被告人浅倉威を懲役10年に処する”

 

“ふざけるな!どうしてお姉ちゃんを殺したやつが死刑じゃないんだ!”

 

“静粛に、原告は不規則発言を慎むように”

 

“お姉ちゃんの命の重さはたった10年なのかよ!どうして浅倉がここに来ない!”

 

“静粛に!静粛に!”

 

“この国の司法は狂ってるよ!

浅倉だけじゃない、弁護士、こんな奴をかばったお前も同罪だ!”

 

“原告に退廷を命じます。係官!”

 

“離せ!司法が裁かないなら私が浅倉を殺してやる!

弁護士、その次はお前だ!何年かかっても必ずだ!”

 

 

 

「……!」

 

言葉を失う飛鷹。

 

「失望したかい?所詮、弁護士なんて正義の味方じゃない。報酬をくれたやつが全て。

例え誰からどう見てもクロだろうが、無罪・減刑に向けて走り回らなきゃならない」

 

「そんな、現実世界は、それほど歪んでるというの……?」

 

「歪んでる。これでも君達が生きた第二次大戦中よりマシになったほうさ」

 

「提督は……その霧島さんが来たらどうするつもり?」

 

「飛鷹先輩、先生は……!」

 

「いいから吾郎ちゃん!」

 

何か言いかけた吾郎を北岡が止めた。

 

「とにかく、俺はライダーバトルに参加した以上、戦いから降りるつもりはないよ。

相手が誰だろうとね」

 

室内を重苦しい雰囲気が包む。誰も、何も言わなかった。

 

 

 

 

 

──第一浅倉鎮守府

 

「はぁ、はぁ、浅倉さん。言われた通り、大穴10個、掘って来ました……」

 

元仮面ライダーガイ・芝浦淳は、疲労困憊といった様子で

独房のような執務室に倒れ込んできた。浅倉は興味なさそうに窓の外を眺めながら、

 

「……次は、それ全部埋めてこい」

 

「ええっ!?じゃあ、何のために掘ったんですか?」

 

「意味なんかねえ、さっさと行け」

 

「はい……」

 

そばに立っていた足柄も、自業自得とは言え気の毒に、といった表情だった。

デッキを無力化され、外に帰るわけにも行かなくなった淳は、

こうして浅倉に無意味な労働を課せられる毎日を送っていた。ジリリリ……。

その時、部屋の隅にコード一本でつながれただけの無機質な電話が鳴った。

 

「女、取れ」

 

「足柄です。……はい。ええ、わかりました。提督に伝えておきます」

 

伝達事項を受け取った足柄は電話を切った。

 

「……なんだ」

 

「また、新たなライダー提督がお越しになったようです」

 

嘘をついても無駄だと悟った足柄はありのままの事実を伝える。浅倉に笑顔が浮かぶ。

 

「どいつだ……」

 

「霧島美穂、という方で、つい先程提督としての講習を終えられたとか」

 

「知らん……だが、女のライダーは聞いたことがねえ。顔を拝みに行くか」

 

「待ってください!危険なライダーバトルは鎮守府全体で……」

 

両手を広げてドアの前に立ちふさがる足柄だが、彼女の言葉を切るように、

外から言い争う声が聞こえてきた。

 

“まだこの世界に慣れていないのに、他の提督方と戦うなんて無茶です!”

 

“うるさい!あたしは浅倉を殺すんだ!”

 

窓から外の様子を見ると、女が二人本館に近づいてくる。一人は多分艦娘。

もう一人、派手なコートを着た女が例の新ライダーだろう。

俺を知っているようだが、俺はあんな奴知らん。

知らんのか覚えてないのか……どっちでも構わん。

イライラが吹っ飛ぶような戦いができればそれでいい。

 

「ハッ……残念だったな、俺がやめても向こうはその気みたいだぞ」

 

「そんな!事情を話してお帰り願います!」

 

返事も待たずに足柄は飛び出していった。俺も行くか。

どうせ誰が止めた所であの女は止まらない。目ぇ見りゃ誰でもわかること。

浅倉もぶらぶらと1階出口に向かっていった。

 

 

 

「出せ!ここに浅倉がいるんだろう!」

 

「ですから!急においでになられてもこちらにも都合がありまして!」

 

足柄が必死に美穂をなだめようとしているが、彼女は聞く耳を持たない。

やがて、本館のドアが開き、足柄の背後から浅倉が姿を表した。

のんびりとした歩調で二人に近づく。

 

「……誰だてめえ。ライダーバトルなら喜んで受けてやる」

 

「浅倉アァァ!!」

 

「お待ち下さい!お願いですから!」

 

今にも浅倉に飛びかかろうとする美穂を必死に止める足柄。

だが、浅倉が彼女に後退を命じる。

 

「どけ……お前、ライダーか」

 

「ああ、そうだ!お前と北岡を殺すためにライダーになったんだ!」

 

美穂は真っ白な本体に白鳥のエンブレムが施されたカードデッキを突き出した。

浅倉はニヤリと笑って王蛇のデッキを取り出す。そして、一瞬周囲に視線を走らす。

 

「いいぜ。俺を殺したいなら好きにしろ。俺もお前を殺すからな……

ただし、北岡は俺の獲物だ」

 

「……っ!お姉ちゃんの時にもそう言ったのか!」

 

「生憎終わった戦いの事なんか覚えちゃいねえ」

 

「もういい、ここでお前を殺してお姉ちゃんの仇を取る!」

 

「フッ……」

 

浅倉と美穂は窓ガラスにカードデッキをかざす。

浅倉は既に慣れた様子で右腕をコブラに見立て、美穂は両腕で羽ばたく白鳥を描いた。

 

「……変身」「変身!!」

 

「ああ、どうしましょう足柄さん!」

 

戸惑う鳳翔に、見守るしかない足柄。

 

「どうしようもありません……提督が発令した数少ない提督権限、

“ライダーバトルの邪魔はするな”。ここで戦いが始まってしまった以上、

私達にはどうすることも……」

 

『SWORD VENT』『SWORD VENT』

 

両者“SWORD VENT”で王蛇は黄金の突撃剣・ベノサーベルを、

ファムは薙刀状の武器・ウイングスラッシャーを呼び出した。

二人はにらみ合いながら広場中央へ移動する。

足柄は急いで作戦司令室に通信し、ライダーバトルが発生したことを知らせた。

直ちに鎮守府全体のスピーカーから警告が発せられる。

 

『警告、本館前にてライダーバトル発生!全艦娘は屋内に避難せよ!繰り返す……』

 

鳴り響く警報を無視し、なおも両者は睨み合う。まず仕掛けたのはファムだった。

 

「うおお!!」

 

ファムがウイングスラッシャーで王蛇を横に薙ぎ払う。

しかし、王蛇はベノサーベルを縦にしてその一撃を受け止めた。

王蛇もすかさず斬り返したが、ファムはリーチの長い薙刀状武器の特徴を活かし、

瞬時に距離を取ってかわした。

 

「くらえ!」

 

今度はファムの素早い突きが放たれる。

王蛇は横に体を倒したが避けきれず、右肩にダメージを受けた。

ほう、なかなかやるじゃねえか。王蛇は“STEAL VENT”をドロー。そして──

 

「やめだ」

 

投げ捨てた。まだ戦いは始まったばかり。

丸腰の相手を叩きのめしても面白くもなんともない。

だが、あの武器の長さは少々厄介だ。……いや、多少の傷がなんだというのだ。

ただ斬り合い殴り合いができればそれでいい。

 

「行くぜ女、ハハハハ!!」

 

王蛇は笑い声を上げながら、防御を捨てファムに突撃。

 

「死ね!」

 

またしてもファムの左胸への突きが命中したが、当たる瞬間、

王蛇は瞬時に体を斜めにひねり、真正面からの刺突を避けてダメージを軽減した。

そして、一気にファムに迫った王蛇はウイングスラッシャーを左手で掴み、

ベノサーベルの柄でファムの顔や肩を何度も殴りつけた。

 

「ぐっ!……ああっ!がっ!」

 

そして顔をファムの目の前に近づける。

 

「どうした、お前も殴れ。それがライダーバトルの面白みだろうが……!」

 

「面白いからお姉ちゃんを殺したっていうの!?」

 

「ハ……誰だそいつ。お前がもっと強かったら思い出すかもな」

 

王蛇はファムの腹を蹴って突き飛ばした。

後ろに転がされたファムは慌てて武器を拾い、立ち上がる。

 

「もういい、地獄に落ちてお姉ちゃんに詫びろ!!」

 

ファムはカードをドロー。ブランバイザーに装填。

 

『GUARD VENT』

 

左手に白鳥の翼を象った盾・ウイングシールドが現れると同時に、

周囲に大量の白い羽根が舞う。そして再び王蛇に向け駆け出す。

羽根とファムの白いアーマーが同化し、

視覚的には瞬間移動をしているように錯覚させる。

何度も擬似的瞬間移動を繰り返し、王蛇を撹乱しようとするファム。

そして、ついに王蛇の背後を取ったファムはウィングランサーを振り下ろした。

が、同時に王蛇がベノサーベルを背後に回し、斬撃を受け止めた。

 

「足音が……丸見えだ」

 

「!?」

 

そしてベノサーベルを振り抜きウィングランサーを弾き飛ばすと、

体制を崩したファムを斜めに二度斬りつけた。

 

「がああっ!うああ!」

 

二度の強烈な攻撃に後ろに倒れ込むファム。

体に受けた衝撃と痛みでなかなか立ち上がれない。

動けない相手を追撃しすぎても楽しくない。王蛇はファムが立ち上がるのを待つ。

首をコキコキと回すと、辺りは大量の白い羽で覆われていた。なんだこれは。

鬱陶しいことこの上ない。……使ってみるか。

 

王蛇はカードを1枚ドロー。ベノバイザーに装填した。

 

『CONFINE VENT』

 

ガイから奪ったカード効果消去の能力を持つカードで、

ファムの盾が消滅し、同時に辺りを待っていた純白の羽根も消えた。

 

「嘘でしょ!?」

 

「どうした、最初に戻っただけだろう。何がそんなに不満だ」

 

つかつかと歩み寄る王蛇、追い詰められるファム。

しょうがない、もうあれを使うしか!ファムはカードをドロー。ブランバイザーに装填。

 

『FINAL VENT』

 

クアァァーー……

 

 

鎮守府に響き渡る鳴き声を上げ、ブランウイングが巨大化し、飛来した。

そして王蛇の前方に舞い降りる。

 

「!?」

 

本能的に危機を察知した王蛇。

ブランウィングが羽ばたき、木々を根こそぎ吹き飛ばすほどの風圧を飛ばしてきた。

が、同時に王蛇は広場の隅に安置されていた重さ十数トンはある庭石に身を隠した。

王蛇のすぐそばを凄まじい暴風が過ぎ去っていく。

荒々しい風が止んだことを確かめた王蛇は、庭石から姿を表した。

王蛇の健在な姿を見たファムは打ちのめされる。

 

「そんな……どうして……」

 

必殺のファイナルベントを不発に終わらせてしまったファム。

もう残されたカードは1枚しかない。ファムは最後のカードをドロー、装填。

 

『ADVENT』

 

上空を舞っていた巨大な白鳥がファムのもとに降り立ち、彼女を口ばしで優しく掴み、

飛び去っていった。そして、本館の執務室がある辺りに体当りし、壁に大穴を開けた。

不可解な行動にさすがの王蛇も首をひねる。

 

「……何をしている、さっさと来い」

 

待てど暮らせどファムは来ない。しびれを切らした王蛇は本館に入り、

執務室に向かった。そして部屋に入ると01ゲートのそばに白い羽毛が散らばっていた。

 

「ハッ……ハハハ、逃げやがったのか?あの女。

ハ、ハハハ、ハハハハ……ふざけてんじゃねえ!舐めてんのか戦いをォ!

あああああ!!」

 

怒りが頂点に達した王蛇は、ベノサーベルをメチャクチャにぶん回し、

壁や床に次々穴を開けた。

 

「あああっ!くそっ!」

 

ダンボールをなぎ倒し、壁を斬りつけたりして暴れていると、

王蛇の手がはたと止まった。

 

「……思い出した。あの時殺した女の妹だ」

 

 

 

 

 

──北岡鎮守府

 

 

 

これって問題ないのかしら……?秘書艦が提督と食事なんて。

北岡の執務室で飛鷹と北岡はテーブルに向き合い、

吾郎がディナーの準備をしているのをただ見ていた。

北岡は楽しみな様子で、飛鷹は若干緊張した様子で。

 

「お待たせしました。今日はオーソドックスな中華でまとめてみました」

 

吾郎がドームカバーを取ると、モワッとした湯気と共に食欲をそそる薫りが立ち上る。

 

「今夜のメニューは、手打ち麺の中華そば、角切りチャーシュー入りのチャーハン、

“ある男”直伝のニンニク抜き餃子です。どうぞ、お召し上がりください」

 

「まー食べてごらん。吾郎ちゃんの料理は絶品だから、乾杯」

 

北岡はウィンクして紹興酒の入ったグラスを持ち上げて見せた。

 

「乾杯……」

 

言いながら飛鷹は思わず目を剥いた。

一見ただの中華定食!しかし、この香り、一体何なの!?

さっそくレンゲにスープと麺を少し乗せ、口に運ぶ。脳髄に痺れが走った。

魚介スープと手打ち麺が絶妙に絡み合って、

あっさり系のスープに強烈な印象を残すことに成功している!

このコシのある麺は打つために一体どれだけ手間を掛けたというの?

食堂の仕入れ麺じゃこうは行かない!

 

チャーハンは?……これも文句のつけどころがない!

ご飯は当然パラパラに火が通っており、具材のチャーシューも固くなりすぎず、

しっかりタレの染み込んだ肉の食感もきちんと楽しめる!

 

この餃子はどうなの?一見何の変哲もない餃子だけど……!?

これは餃子なの?小籠包なの?一口噛むごとに肉汁が溢れ出て、

カリカリの皮、フワフワの肉と三位一体を成して餃子の域を超越している!

そして、女性が気にしがちなニンニクを言われずとも抜いている心配り……

この男、ただ者じゃない!

 

飛鷹がにわか食通レポーターになりながらも、

北岡はいつもどおり、と言った風に吾郎の料理に舌鼓を打っていた。

 

「大和の腕もなかなかだけど、やっぱり吾郎ちゃんの料理には

“懐かしさ”がプラスされてるよ。んーうまい」

 

「ありがとうございます。飛鷹先輩、お口に会いましたか?」

 

「ん!?むぐぐ!」

 

食べるのに夢中だった所でいきなり話を向けられたので、

むせそうになり、思わず口に手をかざす。

 

「そ、そうね。悪くなかったわ。

食事に関しては貴方に任せて問題ないんじゃないかしら?」

 

「ありがとうございます」

 

反射的に強がりを言ってしまったが、

女としてこれでいいのかしら……?という疑問に付きまとわれる飛鷹だった。

それからも彼女達は吾郎の手料理を楽しみ、食べ終わる頃には幸福感で満たされていた。

 

「ふー。美味しかったよ、吾郎ちゃん。次の当番の時はフレンチがいいな。

また飛鷹にも食べさせてあげたいし」

 

「ごちそうさま。貴方、料理店で修行でも?ご実家がレストランとか?」

 

「いいえ、一人暮らしが長かったもので。父は漁師です」

 

「そんだけ?」

 

「ええ」

 

「……」

 

飛鷹が軽く絶句していると、バァン!と乱暴にドアが開かれた。浅倉だった。

後から足柄も追いかけてきた。吾郎が独特の拳法の構えを取り、浅倉を睨む。

 

「申し訳ありません、北岡提督!すぐ提督を連れて帰りますので!」

 

「ああ、吾郎ちゃん、いいよ。しかし、足柄さんも大変だね。

こんな狂犬の世話係押し付けられて。

別に構いませんよ、最近こいつの話もあながち無視できなくなってきましたから。

吾郎ちゃん、足柄さんにだけお茶を」

 

「……わかりました」

 

吾郎は給湯室に下がっていった。

 

「で、今日は何の用事?」

 

「……女はどこだ」

 

「後ろにいるじゃん」

 

「そいつじゃねえ!新しく来たライダーの女だ!」

 

「……なるほど、先にお前んとこに来てたわけね」

 

「お前が俺を弁護した事件の原告って言えばわかるか?」

 

北岡と飛鷹に緊張した空気が走る。

 

「へぇ……お前がそこまで物覚えがよかったとは、意外だな」

 

「さっさと答えろ!」

 

「来てたらこんな所でのんびり食事してると思う?お前とぶつかったんでしょ?

一体どうしたのよ」

 

「逃げやがったんだよ!殺し合いほっぽり出して、

あの女、次に見たら変身前だろうとぶっ殺す!戦っても弱すぎて話しにならねえ!」

 

そして浅倉は思い切り壁を殴った。

 

「どうぞ」

 

「あ、すみません……」

 

吾郎は足柄にお茶を出しながら浅倉を睨む。

 

「そりゃ獲物を取り逃がしたお前が悪い。ライダーバトルってそういうもんでしょ」

 

「ほう……ならお前ならあいつとぶち当たったら殺せるのか」

 

「何が言いたいのかな?」

 

「同情してんじゃねえのか?

てめえが弁護したせいで姉殺しの犯人が懲役10年になった女に」

 

「……」

 

「フッ、甘いな。死ぬぜ……」

 

浅倉は不敵な笑いを残すと、執務室から出ていった。

足柄も慌てて“ごちそうさま”と湯呑みを置いて去っていった。

 

「先生……」

 

「提督……」

 

「あの人が戦いを挑んできたら、先生はどうなさるおつもりですか?」

 

「んー……わかんない!とりあえず今は様子見しかないよ」

 

努めて明るく答える北岡。

しかし、浅倉の言うとおり、迷いがないといえば嘘になるのも事実だった。

 

 

 

 

 

──噴水公園

 

ヴォン、ドサッ!

 

美穂は最初にミラーワールドに入った広場に放り出された。

命からがら01ゲートに飛び込み王蛇から逃げ延びる事に成功したが、

彼女の心は絶望で満たされていた。仇敵を目の前にしながら無様な戦いしか出来ず、

挙句、逃げ出す始末。ポタ、ポタ……いつの間にか空は曇天。間もなく雨が降り出した。

 

「ちくしょう、ちくしょおおおぉ!!」

 

 




すみません、もう開始当初のような2日に1回更新とかは無理っぽいです……

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