【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第12話 The First Dropout

真司達の前に現れたのは、スーツを来た青年と、

不気味な仮面と真っ黒なローブを身につけ、多様な武器を装備した怪人達。

異様な光景に浅倉を除いて息を呑む一同。

 

「な、なんなんだよお前ら、お前らもライダーなのかよ!」

 

叫ぶように怪人らに問いかける真司。だが返事はなく、

彼らはゆっくりと武器を構えて歩み寄ってくる。

 

「さっさと変身したほうが良さそうだよ。どう見ても聞く耳なさそうだし?」

 

北岡がスーツからカードデッキを抜き取りながら全員に忠告する。

 

「向こうがやる気ならやるだけだ……。変身!」

 

蓮が噴水の水面で変身したのを切欠に、各々手近なガラスや鉄板などで変身した。

 

「数が多いな。……だが、止めて見せる!」

 

海之は噴水の水面にカードデッキをかざす。水面と現実の手塚の腰にベルトが出現。

そして、右手の人差指と中指を立て、サッと腕を伸ばす。

 

「変身!!」

 

そしてバックルにデッキを装填。

3つの鏡像に身を包まれ、仮面ライダーライアへと変身した。

ワインレッドのアーマーに多数のスリットが入ったヘルムが特徴。

浅倉意外の全員が変身した所でスーツの青年、芝浦淳が

怪人達の向こうから呼びかけてきた。

 

「ほら、ゲームスタートだよ。まずは雑魚戦。派手なバトルで楽しませてよね。

もちろんラスボスは俺」

 

「ゲームってお前……!お前ライダーバトルの意味わかってんのかよ!

殺し合いなんだぞ!」

 

命のやり取りを軽んじる淳に怒る龍騎。だが淳は鼻で笑い、

 

「わかってないのはお前だろ?

ライダーが殺し合うもんなら、なんでお前はライダーなのさ」

 

「俺は止めたいんだよ、このライダー同士の潰し合いを!

悲惨な戦いを終わらせるためにライダーになったんだ!」

 

「あんた本当バカだな。手段と目的がごっちゃになってない?まあいいけどさ。

ぼさっとしてると、怪我するよ。そいつら人間だけど、筋力のリミッター外れてるから、

まともに攻撃食らうと大ダメージだよ」

 

「え、人間だって……?」

 

がああああ!!

 

「うおっと!!」

 

驚いた龍騎に怪人が獣じみた唸り声を上げて、大斧を振り下ろした。

すかさず横にジャンプし回避。

だが、斧の重量と人の限界を超えた筋力でコンクリートの地面が粉砕される。

龍騎の足を通してビリビリとその破壊力が伝わってくる。

これは……早くなんとかしないと!

 

「人間心理を解析して、ゲームに応用したんだ。

サークルの連中実験台にしてやらせてみたら、殺意が理性を超えたみたいでさ、

大成功ってわけ」

 

 

 

 

 

その頃、五月雨が淳の腕にすがりついて懇願していた。

 

「提督、こんなことはやめてください!ライダーの皆さんの事情は伺っています!

でも、どうして無関係な人たちまで?」

 

淳は彼女の手を乱暴に振り払う。

 

「キャッ!」

 

「うるさいなあ!今いいところなんだから邪魔しないでよね。

無関係、ってあいつらのこと?別にいいじゃん、

どうせあれくらいしか使い道のない連中なんだし、

奴らだってリアルなバトルがしたくてしょうがなかったんだから、お互いの利益だろ」

 

「だからって、ライダーと普通の人じゃ勝ち目なんて……。私、止めてきます!」

 

「はい、提督命令。ゲームの邪魔すんなー」

 

「うっ……!!」

 

走り出した五月雨に淳が命令を下す。

彼女の足が止まり、意思とは逆に後戻りしてしまう。

 

「秘書のくせに出しゃばりすぎ。また勝手なことしたらお前もバトルに強制参加ね」

 

「どうしてですか提督、こんな人だったなんて……」

 

「ハハッ、何ていうかお前らって純粋だな。会って1日そこらの奴信用する?普通」

 

「そんな……」

 

淳の高笑いを聞きながら五月雨はうつむくしかなかった。

 

 

 

 

 

一方ライダー達は怪人に扮した人間と乱戦中。怪人の一人がゾルダに大鎌を振り下ろす。

ゾルダもすかさずクイックドローで柄を撃ち抜く。

鎌は使い物にならなくなったが、怪人は攻撃を止めない。

 

「ぐおおおお!」

 

人間とは思えない怪力で掴みかかり、力任せに何度もゾルダを殴る。

手が血まみれになろうと何度でも。

 

「痛くはないけど、酷い有様だな」

 

さすがのライダーも狂人の猛攻に圧倒される。やむなくゾルダも殴り返す。

ライダーのパンチを食らった怪人が後ろに倒れ、仮面が割れる。

目が真っ赤に充血し、血の混じった泡を吹いた男が

なおジタバタして起き上がろうとする。

 

「完全にタガが外れてるね。放っといたら自分の筋力で骨折しかねないよ」

 

「おーい、みんな!こいつらライダーじゃないんだ!殺さないで!なんとか止めて!」

 

GUARD VENTで大斧の一撃を受け止めながら、龍騎が周りのライダーに呼びかける。

 

「無茶言ってくれるよ!この暴れ馬どうしろっての?」

 

「ほら、あの、映画みたいに手刀で後頭部をドスンと……」

 

「よせよせ、アレ実際やったら結構な確率で死ぬよ。

脳が停止するほどのショックを与えるんだから」

 

「いい加減にしろ!そんなに戦いたくないならそこで突っ立って的になってろ!

嫌なら下がるかさっさと選べ!!」

 

ゾルダと龍騎のやり取りに業を煮やしたナイトが龍騎を怒鳴る。

そして斬りかかってきた怪人の刀をダークバイザーで受け止め、弾き返す。

ナイトは怪人のローブを掴んで引き寄せ、3回殴りつけ、腹に蹴りを浴びせた。

後ろに吹っ飛ばされる怪人。

連続攻撃を受け、仮面の割れた怪人が起き上がろうとするが、

すかさずナイトは刀を蹴飛ばし、怪人のみぞおちを踏みつけた。

 

「うぐっ……!!」

 

怪人の意識が途切れ、まずは一人無力化に成功した。

 

「やったな、蓮!」

 

「馬鹿か!偶然加減が効いただけだ!ライダーの力が何tあると思ってる!

また同じことをしたら内臓が破裂するぞ!」

 

「ああ、そっか……>でも、手加減なんかしたことなかったからなぁ……、どうすんだよ!」

 

龍騎は、なおもガシガシと斧でドラグシールドを激しく叩きつける怪人の攻撃を

押さえつつ、気絶させる程度の力で攻撃する自信がない。

 

 

「俺に任せてほしい」

 

『SWING VENT』

 

 

その時、迷う龍騎にライアの声とシステム音声が聞こえてきた。

怪人の後ろに、鞭状の武器を構えたライアがいた。

 

ライアが手首のスナップを効かせ、怪人にエビルウィップを放った。

鞭が蛇のように空中を這い、口笛のような風切り音を奏でる。

エビルウィップが蛇のように空を舞い、龍騎を襲っていた怪人に巻きついた。

不意に体を巻かれ動けなくなる怪人。

必死にもがくがライアが思い切り引っ張り、完全に縛り上げる。

 

「かなり痛いが我慢しろ」

 

そしてライアはグリップのダイヤルを調節し、スイッチを入れた。

 

「ギャワワワワ!!」

 

エビルウィップの持つ高圧電流を放つ能力で、怪人が悲鳴を上げて失神する。

 

「怪人は任せろ、電力を抑えれば気絶させられる!」

 

「すげえ!ナイスフォロー、手塚!」

 

龍騎はライアに向け親指を立てる。

 

「くっ……!だったら、こっちも、なんとか、してよ!」

 

滅茶苦茶な力で組み付かれるゾルダが助けを求める。

 

「待ってろ!」

 

そしてライアは再び鞭を構える。

 

 

 

 

 

その頃。

 

浅倉はまだ変身しておらず、ニヤリと笑みを浮かべながら淳の方へ歩を進めていた。

しかし、途中モーニングスターを装備した怪人が襲い掛かってくる。

棘と鎖の付いた鉄球が飛んでくるが、浅倉は身を反らしただけでそれを避け、

素早く怪人のローブを掴み、引き寄せた。

そして仮面の上から遠慮なく右ストレートを食らわせると、

仮面が割れ、鼻血まみれの顔が現れた。

それだけに留まらず、何度も右手のパンチを浴びせ、

左手で頭を掴み、洋館の壁に叩きつけた。

そしてトドメとばかりに左膝で後頭部をキック。

遠慮なしの連撃で怪人は完全に沈黙した。

 

すると、ふと怪人のローブから何かが覗いているのが見えた。

強引に引っ張って見てみると、アドベントカードが1枚縫い付けられていた。

なるほど……。こいつらがここに来れたのはこいつのせい、と。

だが、浅倉はすぐに興味を失い血まみれの怪人を放り出す。そして再び歩き出した。

 

 

 

 

 

龍騎達の戦いを遠目に見ていた淳と五月雨の元に長門が駆けつけてきた。

 

「提督!これは一体どういうことだ!?他の提督に宣戦布告など!」

 

「長門様……。提督を説得してください!」

 

淳はため息をつくと、長門に顔を向けた。

 

「だからお前態度でかいんだよ。何しようと俺の勝手だろ?

お前も俺のこと“提督”って言ったじゃん」

 

「お前は、ライダーバトルを、一体何だと思っている!?」

 

「最っ高のゲームだよ!命を賭けた超リアルなバトル!」

 

「ふざけるな!お前も負けたら死ぬんだぞ!」

 

「どいつもこいつもうるさいなぁ!!俺が負けるとかありえないから?

カードもモンスターもレベルが違うの。もういい、提督命令。

お前邪魔だから後ろで立ってろよ……。ああ、ちょっと待った!

やっぱ何人か数揃えて砲台になっててよ。ライダーが近づいたら撃てよ。

格ゲーに弾幕シューティングの要素取り入れるのも面白そうじゃん?」

 

「……貴様という奴は!!」

 

長門の体が勝手に動き出し、淳の後方に着いた。

そして他の艦娘たちに招集の通信を出す。五月雨も悲しげな表情で長門に付いていった。

彼女が去った後、入れ替わるように男がぶらぶらと歩いてきた。

先程怪人を叩きのめしたばかりの浅倉だった。

 

 

「……よう、楽しんでるか」

 

 

他ライダーの戦いを他人事のように横目に見ながら淳に話しかけた。

浅倉の姿を見た淳は喜びはしゃぐ。

 

「うおお、マジで浅倉威だ!逃走中の人殺し!やっぱ思った通り1着だったよ」

 

そして淳はポケットから携帯を取り出し、

断りもせずカメラで浅倉の写真を撮った。続いて何やらポチポチと操作した。

 

「ほら!殺人犯の写真待受けにしてるって凄くない!?」

 

「……どうでもいい、さっさとやるぞ」

 

浅倉は王蛇のデッキを取り出した。

 

「なんだよノリ悪いなぁ。

やっぱ袋叩きにした後、俺とのツーショットにした方が自慢できるかな?

じゃあ、やろうよ」

 

淳もサイのエンブレムが施されたデッキをスーツから抜いた。

そして目に付いたガラス窓にデッキをかざす。すると鏡と現実の淳の腰にベルトが現れ、

右腕で大きくガッツポーズを取る。

 

「変し……ごはっ!」

「どけ」

 

浅倉に横から蹴りを入れられ変身を中断された淳。

割り込んだ浅倉がデッキを鏡にかざすと、同じく浅倉の腰にベルトが現れた。

そして蛇が獲物を捕らえるように右手を動かす。

 

「変身!」

 

浅倉が仮面ライダー王蛇に変身。

 

「浅倉提督、逃げるんだ!!」

 

その瞬間、長門の声が飛んできた。

提督権限が発動し、長門達艦娘が王蛇に向けて砲撃を始めた。しかし、王蛇は無視。

大きく跳躍して第一波を回避し、空中でカードをドロー。ベノバイザーに装填。

 

『SWORD VENT』

 

王蛇の手にベノサーベルが現れる。そして着地。

長門達は次弾装填に時間が掛かっているようだ。

 

「おい、さっさとしろ」

 

「痛ってえ、この野郎……。変身」

 

浅倉に蹴られ、転んでようやく起き上がった淳もやっと変身。

バックルにデッキを装填すると、淳の身体に輝くライダーの輪郭が重なり、

仮面ライダーガイへと変身した。

一本角の生えたヘルムに、歩く要塞と表現しても差し支えないほど重厚な、

鈍色に光る装甲が特徴。

左肩には赤い角とカードバイザー、メタルバイザーが装備されている。

 

「おたくさ、人殺しのくせに卑怯って本当に正真正銘のクズだよね?生きてて楽しい?」

 

「死のうが生きようが関係ない、殺し合いができればそれで十分だ」

 

「ま、せいぜい強がり言ってなよ。お前はこれから完封負けするから。ほら」

 

ガイはカードを1枚ドロー。器用に左肩のメタルバイザーに飛ばし、カバーを下ろす。

 

『CONFINE VENT』

 

カードが発動すると、王蛇が手にしたばかりのベノサーベルが消滅した。

敵のカードの効果を打ち消す“CONFINE VENT”の効果で、丸腰になってしまった王蛇。

 

「残念でした~。こいつがあれば他の連中のカード完封できるんだよね」

 

チッチッチ、と指を振るガイ。

 

「で、俺はこいつを装備っと」

 

ガイはカードを1枚ドロー。メタルバイザーに装填。

 

『STRIKE VENT』

 

ガイの右腕に巨大な鋼鉄の塊にドリルが付いた武器、メタルホーンが装備された。

王蛇も再びカードをドロー。ベノバイザーに装填。

 

『STEAL VENT』

 

相手の装備を盗むカードが発動すると、

ガイの重いメタルホーンが右腕から離れようとする。

すかさずガイはカードを1枚ドロー、装填。

 

『CONFINE VENT』

 

先程と同じく、カードの効果が打ち消され、メタルホーンは動きを止めた。

 

「残念でした。カードは1枚とは限らないんだよね。

人のものを盗むとか、マジ終わってるよね。お前の生き方そのものって感じでさ」

 

「生き方、か。いちいちそんな理屈は必要ねえ」

 

仮面の中の浅倉の表情は読めない。首を回してポキポキと音を立てる王蛇。

 

「ハッ!いい年して生き方も決められないとかマジ笑える。

俺はこのままエリートコースまっしぐら。

ライダーバトルも適当に楽しんだらジ・エンド。他の連中ぶっ潰して俺がウィナー。

あー!そうなったら“力”もらってエリートどころじゃないじゃん!アハハハ!」

 

「……そうだといいな。聞くが、お前、喧嘩したことはあんのか」

 

「は?」

 

「なんちゃらベントなしでも面白え戦いしてくれんのかって聞いてんだ!」

 

王蛇はファイティングポーズを取り、ガイの腹を思い切り殴った。

しかし、ガイの重装甲の前にまるで効果がない。

 

「はい、全然効きまっせ~ん」

 

ガイの笑い声と同時に砲弾の装填を終えた長門達が再び王蛇に砲撃を加えた。

だがその時、とっさに王蛇はガイの右肩の角を引っつかみ、引き寄せた。

 

「うわ!なんだよ!!」

 

十数発の砲弾が襲いかかり、王蛇が盾にしたガイの背中に命中。

さすがに長門の41cm砲を中心とした集中砲火を食らい、

決して小さくないダメージを受けたガイ。

 

「ぐっ……!お前、俺を……」

 

「近くにいたお前が悪い。……続きだ」

 

王蛇はふらつくガイに情けをかけることもなく、

今度は猛烈な勢いで顔面に右フックと左フックを交互に叩き込む。

やはり目立った効果は無かったが、

鐘に頭を突っ込んだところを鳴らされるような衝撃が走り、

これにはガイも堪らず後ろへ下がる。それを追って王蛇も前進。

 

「うあああ!!」

 

迫り来る王蛇に思い切りメタルホーンを振り下ろすガイ。

しかし王蛇は軽く後ろにステップを取り、ドリルから身をかわした。

 

「やっぱりカードしか取り柄のないガキか」

 

「くそっ!」

 

もう一度メタルホーンで王蛇を薙ぎ払おうとしたが、

高い強度と攻撃力を可能にしているその重量が仇となる。

王蛇は速度の遅い攻撃の軌道から外れるようにジャンプし、再度メタルホーンを回避。

そして、今度は王蛇が勢いをつけて地面を蹴り、砂を巻き上げる。

 

「うわっ!目に付いた……」

 

ヘルムに開く横スリット状の眼の部分に多量の砂が付着し、

ガイが慌てて払っている隙に、王蛇はカードをドロー、装填した。

 

『ADVENT』

 

フシャアア!!

威嚇するような力強い吐息と共に、ベノスネーカーが猛スピードで這いながら現れた。

 

「あ。しまっ……」

 

ガイは再び“CONFINE VENT”をドローしようとしたが、間に合わず、

ベノスネーカーが吐き出した強力な酸性の毒液を浴びてしまった。

金属製の装甲が音を立てて急速に劣化していく。

 

「ああ……!どうしよう、どうすればいいんだよ!?」

 

「なにを慌ててる」

 

ぶらぶらとガイに近づいてくる王蛇。

 

「喧嘩、殺し合いは、腕がついてりゃ十分だ。来いよ……」

 

「う、うわあああ!!」

 

想定外の事態にパニックを起こし、力任せにメタルホーンを振り下ろすガイ。

しかし、そんな攻撃が当たるはずもなく、王蛇は軽く横に跳んで避ける。

放った重い一撃を避けられ、一瞬硬直状態になったガイに、

そのまま王蛇がまっすぐ右の拳を叩き込んだ。

劣化したヘルムは、今度はダメージをほとんど吸収してくれず、

バリッ!という嫌な音とともに拳の威力をほぼ全て通過させた。

 

「あがっ!!」

 

王蛇はよろめくガイを逃さず追撃する。

今度は腹部に下から突き上げるように拳をめり込ませた。

やはり真っ黒に腐食したアーマーはほとんど役に立たず、

腹部への強打に息ができなくなる。

 

「く……っふっ!」

 

そのまま後ろに倒れこむガイ。すかさず王蛇はガイに馬乗りになる。

そして、顔面を何度も殴りだした。

 

「がふっ!ごほっ!痛っ!やめ…!ぐあっ!」

 

王蛇の情け容赦ないパンチの連打に、

ガイのヘルムはもはやひび割れだらけで視界がほとんどなくなった。

何度の王蛇の拳を浴び、ヘルムの中の顔面が腫れ上がり鼻血が止まらないガイが、

とうとう降伏を宣言した。

 

「わかった!ごめんなさい!なんでもいうこと聞きます!みんなにちゃんと謝ります!

出ていくから許して!!」

 

「……」

 

浅倉は黙って立ち上がると、用は済んだとばかりに、何も言わずに桟橋の方へ向かった。

そして去り際に言い残す。

 

「……二度とツラ見せるな」

 

「はい……」

 

その姿を見ながらガイはカードを1枚ドロー、左肩のバイザーに装填。

 

「……殺してやる!!」

 

『FINAL VENT』

 

「……生き残れたらの話だが」

 

王蛇もいつの間にかドローしていたカードをベノバイザーに装填。

 

『FINAL VENT』

 

ガイがファイナルベントを発動すると、

どこからか巨大なサイ型モンスター・メタルゲラスが現れ、ガイの後ろに立った。

ガイはジャンプし、岩塊のようなモンスターの肩に飛び乗り、

地面に水平に倒れながら王蛇に向かって猛スピードで突撃した。

ガイのファイナルベント「ヘビープレッシャー」で

巨体に似合わぬスピードと共にヘルムの角が輝く。

 

一方王蛇は、踵を返してコブラのように両腕を広げ前傾姿勢でダッシュし、

召喚したベノスネーカーの顔の前まで1回転しながら空高く跳躍。

ベノスネーカーが王蛇後方から高圧力の毒液を噴射し、その勢いでガイに突撃。

地上目標への直線的攻撃に対し、空中からの急襲。

斜め上から襲い来る王蛇に驚愕するガイ。

 

「うわあ!!」

 

ガイは王蛇の強力な連続キックと毒液の直撃を受け、

連続キックの最後にとどめの全力蹴りを食らった。

王蛇のファイナルベント「ベノクラッシュ」でガイは後方にふっ飛ばされる。

そして、致命的損傷を受けたライダーシステムが暴走。

アーマーのあちこちから火花が散る。ガイに最期の時が迫った。だが、

 

王蛇が何を思ったか、何も言わずガイの元へ全力で走った。

そしてガイのベルトからデッキを強引に引き抜く。

爆発寸前だったガイの変身が解け、顔中あざ・たんこぶ・鼻血だらけの淳の姿が現れた。

 

「う、うう……助けたのかよ。お前も、ライダー殺せない、根性な……ごふっ!!」

 

変身を解いた浅倉が淳の鼻を蹴り上げた。

そしてガイのデッキを開き、カードの束を取り出す。

トランプ1セット分はあろうかという分厚さ。

浅倉はそれらを手繰り、目的のカードを探し出初めた。

 

「ええと。どうたらベント、こうたらベント……」

 

「な、に……すんだ、返せ……痛てっ!」

 

今度は地を這いながら差し伸べた指を踏まれた。なおも浅倉はカードを探し続けるが、

 

「なんちゃらベント、なんちゃらベント、なんちゃらベント……ああああああ!!」

 

とうとう苛つきが頂点に達し、束を地面に叩きつけた。

無残に散らばる大量の“CONFINE VENT”。

だが、偶然その中から目的のカードが顔を覗かせた。すかさず拾う浅倉。

それは淳の契約モンスター・メタルゲラスのアドベントカードだった。

 

「……あるじゃねえか。なんちゃらベントも2,3枚もらってくか」

 

「ふっ、バカじゃないの?カードは持ち主しか使えないんだよ。

そんなことも知らずにバトルしてたわけ?コレだから低学歴は……」

 

「ハ……バカはお前だ。自分が作ったルールも忘れてる分際が」

 

「ルール……?」

 

「お前は俺達に宣戦布告した時に言ったよな。

“敗北した場合、鎮守府の全権限を明け渡す”

つまり、この縄張りは、俺のもんだ」

 

「まさか……」

 

「そうだ。提督権限、“ぶんどったもんは、俺のもんだ”……」

 

そう、芝浦鎮守府が第二浅倉鎮守府になった瞬間、

ここは浅倉威の言葉がルールとなった。

浅倉の宣言通り、取り上げたアドベントカードと王蛇のデッキがリンクし、

メタルゲラスは浅倉の契約モンスターになり、

数枚の“CONFINE VENT”も浅倉に所有権が移った。

 

「そんな!返せよ!頼むよ、返してくれよ!」

 

よろよろと立ち上がり、浅倉に懇願するが、満身創痍の淳は軽く押されただけで、

また後ろに倒れてしまった。淳は散らばった残るカードをかき集め、デッキに詰め込み、

再びガラス窓にかざした。

 

「ちくしょう……変身!」

 

その結果、なんとか変身は出来たものの、契約モンスターを失い、

ブランク状態となったデッキは無力だった。

重厚な鎧はブリキのような薄い鉄板でできたハリボテでしかなく、

軽く殴っただけでへこみそうな、みすぼらしい有様に成り果てた。

どう見てもライダーバトルどころか

ミラーモンスターとすらまともに戦える状態ではなかった。

 

「じゃあな、勝手に死ね。お前と戦ってもつまらん」

 

立ち去ろうとする浅倉に追いすがる淳。

 

「お願いします、返してください!ミラーモンスターに殺されちゃうよ!」

 

「知らん。艦娘連中にお願いしてみろ」

 

そして淳は後ろを見る。そこには淳を軽蔑、怒り、悲しみの目で見つめる艦娘たちが。

今度は彼女達にひざまづく。

 

「頼む……。謝るよ!ごめん、俺が悪かったよ!お願いだからここに居させてよ!」

 

だが、長門の判断は冷淡だった。

 

「イレギュラーのライダーなど害悪だ。さっさとゲートから出て行け」

 

「お願いします……。外にはミラーモンスターが。

……なあ、五月雨ちゃん、君は俺を見殺しにするのかい?」

 

「えっ……?あの、その……」

 

戸惑う五月雨に泣きながら助けを乞う淳。しかし、僅かな望みも断ち切られる。

 

“提督命令だ。全員そいつを見殺しにしろ、後は勝手にやれ”

 

浅倉の言葉だった。

 

「ああ。喜んで従おう、新提督。五月雨、お前も気にせず“何もするな”」

 

「……はい」

 

艦娘達は白い目で淳を見ながら、それぞれの持ち場に戻っていった。

彼にはもう絶望しか残されていない。

色を失ったデッキを持ち、呆然としながら座り込む淳。

龍騎はそんな姿を見て浅倉に話しかけた。

 

「な、なあ浅倉。あいつ、なんとかしてやってくれよ、な、頼む?」

 

ライダー姿のまま必死に拝みこむ龍騎。表情の読めない目で彼を見つめる浅倉。

 

「お前は馬鹿か!ようやく1人減ったライダーを助ける?お人好しもいい加減にしろ!」

 

「いや、ライダーを助けるとは限らない」

 

その時、怪人を全員無力化したライアが声を上げた。

 

「……どういうことだ」

 

「彼のデッキは既にブランク状態。

つまり、俺達がライダーになる前そうだったときと同じになった。

今の彼はもうライダーじゃない。契約のカードも存在しない。要するに、脱落だ」

 

「なるほど?こういう形の結末もありえるわけね」

 

今まで考えもしなかった結果に納得したゾルダ。

 

「そうか!そうだよ!それなら殺し合いなんかせずにライダーバトル止められるよ!

手塚、冴えてるよお前!」

 

「馬鹿か!!逆に戦いが激しくなるだけに決まってるだろう!」

 

「え……?なんでだよ」

 

ナイトの意外な一喝に困惑する龍騎。

 

「浅倉の行動を見てなかったのか!?

これからはライダー同士の戦いに、鎮守府・カードの奪い合いも加わるということだ!

そして、一番狙われるのは“SURVIVE”という切り札を持っている城戸、お前だ!!」

 

「あっ……」

 

一瞬見えた希望が絶たれる。立ち尽くす龍騎。だが、ライアが言葉を続ける。

 

「その心配なら、これで少しは和らぐかも知れない」

 

ライアはカードを1枚ドローし、ナイトに差し出した。

それは、吹き荒れる嵐を背景に、右の翼が描かれたカード。

カード名は、やはり、“SURVIVE”。

 

「なんだこれは!何故お前がこんなものを!?」

 

「これは、俺がまだライダーになる決心が付かなかった時、

神崎が踏ん切りをつけさせるために俺に渡したんだ」

 

「……それを何故俺に寄越す」

 

「俺はライダーを倒すつもりはない。

このカードは戦いの宿命を打ち破ってくれる誰かに託そうと思ったから、占いで選んだ。

そうしたら秋山、お前が出た」

 

「つくづく馬鹿な奴だな。俺はこの戦いを降りる気はないぞ。

必ず他のライダーを押しのけて“力”を手に入れる。お前の行動は矛盾してる」

 

「矛盾しているつもりはない。さっきの戦いを見て感じた。

お前は怪人を切り捨てることもできた。でもしなかった」

 

「……ただの人間を倒しても、“足し”にならないからだ」

 

「ならさっさと倒して、他のライダーに先制攻撃すればよかった」

 

ナイトは黙って耳を傾ける。

 

「とにかく、そのSURVIVEはお前の手に渡る運命だ」

 

「言っておく。後悔することになるぞ」

 

「そうはならない。俺はそう信じている」

 

ナイトは、今度は何も答えず、手にした“SURVIVE”を見つめていた。

 

「あー……ちょっといいかな、あいつのことなんだけど!」

 

変身を解いた真司がまだ泣いている淳を指差す。

 

「なぁ、浅倉!お前が倒したんだろ?

お前んとこでなんとか使ってやれよ、掃除でもなんでもさせればいいじゃん!」

 

浅倉が面倒くさそうに淳のそばに戻る。

 

「……おい。死ぬか?」

 

ジーンズの腰に差していたオートマチック拳銃を抜く。

 

「ひっ!や、やめろよ……。やめてくださいよぉ!!」

 

「働くか」

 

「は、はたらく……!!」

 

「休日なしで朝から晩まで働け。仕事は自分で探せ。

これの的になりたくなかったらサボるな。艦娘共が見てる」

 

「あい!!」

 

そして淳はフラフラになりながら、浅倉に付いていった。

それを見届けると、全員が変身を解いた。

 

「まぁ、今回も誰も死ななくてよかったじゃん」

 

「何が“よかった”だ!」

 

真司の言葉に蓮が叫ぶ。

 

「え、いやだって……」

 

「このままダラダラと時間を引き伸ばせばライダーバトルが終わるとでも思ってるのか!」

 

「なんとかしなきゃとは思ってるけど……」

 

「もういい、話にならん!」

 

「ちょっと待てって、何怒ってんだよ。今日、変だぞ蓮!」

 

蓮は何も答えず、転送クルーザーへと向かっていった。

 

「ま、あいつの言うとおり、俺達ちょっとこの世界でダラケてたかもね。

こうしようよ、今後ライダーバトルは担当鎮守府の全権を賭けて行う。

当然さっき浅倉がしたようにカードの奪い合いもアリ。

勝ったやつは新たなカードを得てより強くなりバトルが加速する。

浅倉にしてはいいこと考えたんじゃない?」

 

「北岡さんまで!」

 

「じゃあ俺は行くよ、早く結果報告しないと飛鷹がうるさい。

……あと、俺のファイナルベントが欲しいなら、死ぬ気で来なよ」

 

北岡も後ろに手を振って去っていった。

 

「北岡さん……」

 

取り残された真司に手塚が声をかける。

 

「城戸、絶望したか」

 

「……しない!確かにバトルが加速する要素が増えちゃったけど、

あいつみたいに、生きてライダーバトルから降りられた奴も出た!

俺、絶対にライダーも艦娘のみんなも守ってみせる!」

 

「……それでいい。メダルの両面のように、絶望は希望の裏返しだ」

 

真司はデッキから“SURVIVE”のカードを取り出し、見つめる。

二人に渡ったSURVIVEは希望か、それとも絶望の導き手なのか。

今はまだ何もわからなかった。

 

 

 

>仮面ライダーガイ 芝浦淳 脱落

 

 




*遅くなってすみません。スランプ気味です。

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