【クロス】艦隊これくしょん×仮面ライダー龍騎【完結済】   作:焼き鳥タレ派

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第1話 Game Start

Login No.001 城戸真司

 

 

 

──2002年 東京

 

 

 

東京にあるガラス張りのモダンなビルの一室にOREジャーナルの編集部はある。

OREジャーナルでは主に携帯等の端末にニュースを配信して購読者を獲得している。

その配信形態から速報性が高く、まずまずの評判を得ているが、

通常の事件に関するニュースも扱っている。

特に今、読者の関心が最も高いのは、最近頻発している連続失踪事件だ。

その日もOREジャーナルの面々がその失踪事件について会議を開いていたのだが、

OREジャーナルのオフィスに昼休みのアラームが響いた。

一同の間に流れていた空気が緩んだ。

 

「とりあえず一旦休憩だ。ああ、ホワイトボードは消さないで置いといてくれ」

 

「はい」

 

OREジャーナルの編集長である大久保が会議の中断を宣言。

そして、OREジャーナルきってのエリート記者、桃井令子が

ホワイトボードの事件概要をまとめている。

 

すかさず記者見習い、城戸真司はPCモニタにイヤホンを接続し、

とあるサイトにアクセスした。ボリュームは控えめにっと。

おっし!赤城の修理も完了してるし遠征も終わってる!

さぁて、今度はどう行きますかっと。次の海域を攻略しようか、それとも新規建造を……

 

「おい真司、昼飯食べに行くか。カツ丼奢ってやるぞ」

 

「!?」

 

真司の先輩でもあるYシャツ姿の大久保が、真司の後ろ側にある、

背広が掛かったハンガーラックに近づいてきた。

慌ててブラウザを閉じる真司。

 

「あー……いや、あの、もう少しで記事がまとまるんで、

もうちょっと、ね。アハハ……」

 

「妙に仕事熱心だな、傘持ってったほうがいいかぁ?ま、仕事熱心は感心感心」

 

「お、俺だってやる時はやりますよ!

あ!ほら、あそこ早く行かないと行列になるんじゃ?」

 

「そうだよ、いっけねえ!あの食堂すぐリーマン連中で一杯になるんだよ」

 

「いってらっしゃ~い」

 

慌てて背広を羽織りながら大久保はオフィスから走り去っていった。真司は周りを見る。

令子さんはパソコンに向かってる。島田さんはお弁当食べてる。

よし、今だ!城戸提督、再度着任す!

 

 

そして彼は再びブラウザを立ち上げ、さっき夢中になっていたブラウザゲーム

──艦隊これくしょん──に復帰した。

ゲームデータのロードが始まり、黒の画面の中央に小さな白い艦影が浮かぶ。

この真っ白な艦とも長い付き合いだよな~。実在艦なのかな?

この時、一瞬黒いゲーム画面にコート姿の男が映り込んだが、

ロード完了が楽しみでたまらない真司が気づくことはなかった。

 

《良いこと?暁の水平線に、勝利を刻みなさい!》

 

よぉし、やってやるよ!戦艦ばっかのステージ3でも俺は諦めない!絶対に諦めない!

 

《ててて、提督、ていと、提督てててて…が鎮守ふに鎮守府に着、ちゃく着任着ちゃく》

 

あれ、さっきいきなり切ったからおかしくなったかな?

いつもはものの数秒で終わるロードがなかなか終わらない。

そればかりか音声が乱れ始め、白い艦が放つ波紋が徐々に大きくなる。

駄目だ、本格的にバグっちゃったよ!……ってなんだこれ?

揺れているのはゲーム画面ではなく、モニタそのものなのだ。

え……!!嘘だろぉこれ!?

真司が叫び声を上げる間もなく、彼はPCのモニタに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

「大体真司には時間の観念ってもんがないんだよ!」

 

昼飯から帰り、1時を過ぎた大久保は、

“またかあの野郎”といった様子で苛立っていた。真司がいないのだ。

 

「そ・ろ・そ・ろ、彼にも社会人としての自覚を叩き込まないといけませんね」

 

令子もその秀麗な顔を歪ませることはなかったが、

真司を後輩に持つものとして怒りを隠しきれない様子だった。

 

「大体あの暇そうなヤツがどこ行くってんだよ!」

 

「……ゲーム、ですかね」

 

大久保の独り言にエンジニアの島田が答えた。

彼女はOREジャーナルのネットワーク関連の管理はもちろん、プログラミング、

ハッキングの能力にも長けているが、言動・ファッションが少々個性的過ぎる面がある。

 

「ああ、ゲームだぁ?」

 

「は~い。真司君のPCのパス、クラックしてアクセスログ探ってみたんですけど~

DMM.comの“艦隊これくしょん”ってゲームに頻繁にアクセスしてたみたいで……」

 

「あんにゃろ……!!仕事サボってゲーム三昧ってか?

帰ってきたらこのタコ型マッサージ機で……」

 

「前から思ってたんですけど、それ、どこで買ってきたんですか……?」

 

「どこって……。こんなもん、どこでも売ってるだろ」

 

「どこにも売ってませんよ!」

 

「まー、真司君の名誉の為に言っとくと、

ログを見る限りアクセスしてたのは昼休憩のときだけみたいですけど」

 

「カンケーねえ!今ここにいないことにはカンケーねえ!」

 

「そう。業務時間内に無断で職場を離れること自体、

社会人としての常識を欠いているわ」

 

真司を責める2人をよそに、島田は別のことに感心を寄せる。

 

「それよりもっと面白いことがあるんですよ~、見てください!」

 

島田が両手の指をワキワキさせて一つのウィンドウを最大化する。

大久保と令子が覗き込む。

何やら年月やIPアドレスらしきものが大量に表示されているが、

その道の専門家ではない2人には何のことかさっぱりわからない。

 

「なんだあ、こりゃあ?」

 

「島田さん、何これ?」

 

島田は、少々がっかりした様子で説明する。

 

「ああ……お二人とも、この”DATE”の項目を見て何か気づきませんか?」

 

「ああん?」

 

桃井らは再び島田のPCを覗き込む。すると”DATE 10/5/2013”の文字が。驚愕する二人。

 

「おいおいおいおい、それじゃあ何か?真司は11年後のゲームで遊んでたってことか?」

 

「ログの結果を信じる限りそうなりますねぇ、ウヒヒヒ……」

 

「っていうか島田……。お前どうやってこのデータ手に入れた?」

 

「まぁ、いわゆるハッキングってやつですねぇ。

あ、ちなみにみなさんが想像するハッキングは正しくはクラッキングと言って、

悪意を以って他者の情報を盗難、操作することを指しまして……」

 

「令子、お前はこの“艦これ”について捜査だ!

俺はここで可能な限りDMM.comの情報を当たってみる!」

 

「わかりました!今から秋葉原で聞き込みを。

チラッと登場人物の絵柄を見ましたが、いかにも“彼ら”が好きそうなものだったので」

 

「おう、頼んだ!島田、お前の、その、クラッキングでそれ以上情報は洗えないのか?」

 

「サーバーがコロンビアにあるんで、ここからの追跡はこれ以上は無理ですねぇ。

とりあえずバックドア仕込んどきましたけど」

 

「ああ……とにかくその辺のことはお前に任せる。

例の連続失踪事件とも無関係とも思えん。まずは真司の発見に全力を上げるぞ!」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

Login No.002 北岡秀一

 

 

 

「……で、午前の依頼どうだったの、吾郎ちゃん」

 

打ち合わせから帰ってきた、悪徳弁護士として名を馳せる敏腕弁護士、北岡秀一は、

革張りの高級ソファでネクタイを緩めながら秘書の由良吾郎に尋ねた。

 

「はい。石田コーポレーションのご子息から、

“DMM.comのゲームは詐欺商法だ、2万円つぎ込んでも島風が出ないのは詐欺だから

立件して欲しい”とのことでした」

 

「バカなんじゃないの。DMMつったら今ネットで問題になってるアレでしょ?

運任せで女の子引き当てて戦わせるってやつ。

そんなの小学生のときに縁日のくじ引きで学習するもんでしょ、普通」

 

「そうは思ったのですが、一応お得意様なので、

先生のお耳には入れておいたほうがいいかと」

 

「うん、ありがと吾郎ちゃん。とりあえず調べる振りだけして

着手金だけふんだくるとしますかね。さて、となると!一応実物は見ておかなきゃね。

吾郎ちゃん、紅茶お願い。ダージリンのセカンドフラッシュで」

 

「わかりました」

 

北岡はソファから立ち上がり面倒くさそうにデスクに着くと、ノートパソコンを開き、

ブラウザを立ち上げ、件のゲームサイトを検索してリンクを開いた。

艦隊これくしょんの他にもいろいろなゲームがあるが、無視だ無視。

ただでさえやりたくもないゲームをチェックしなきゃならないのに。

さっそくユーザー登録に諸々の情報入力を求められる。面倒だ、ああ面倒だ。

 

「まったくこんなの何が楽しいのかねぇ、

女の子に魚雷や大砲持たせて軍艦の名前付けただけじゃん。

オタク相手には儲かるんだろうけどさ」

 

身も蓋もない愚痴をこぼしながらゲームスタートの準備を整える北岡。

ゲームの類に一切興味がない北岡は少々うんざりしながら画面を操作。

そしてとうとう執務室の画面にたどり着いた。

そこには何やらゴテゴテした装備に身を固めたセーラー服の女の子が。

 

《はじめまして、吹雪です。よろしくお願い致します!》

 

なるほど?こうやってカワイイ女の子があれこれ世話してくれんのが嬉しいのね、と。

ゲームの女の子より現実の女性に声かければいいのに、液晶画面の手は握れないよ。

っていきなりエラーだ。北岡がさらっとゲームを弄ろうとマウスを動かした瞬間、

画面がぐにゃぐにゃと揺れ始め操作を受け付けなくなった。

強制終了しようとCtrl-Alt-Delを入力するがこれも駄目。

勘弁してよ、どうしてゲームにここまで煩わされ……んん!?

その時、モニタから見えない力が働き、北岡の全身を引っ張り込もうとする。

デスクにしがみつきながら助けを呼ぶ。

 

「ちょ、ちょっと吾郎ちゃん助けて!なんかこれおかしいよ!」

 

「どうしましたか先生!」

 

即座に吾郎が駆けつけてきたが、その時にはもうオフィスには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

Login No.003 浅倉威

 

 

 

「バトルフィールドの、変更だ」

 

「ライダーがいるならどこでもいい。教えろ」

 

人気のない雑木林の奥、コンクリートで出来た廃墟に二人の男が居た。

一人は長身でコート姿の男。どこか人ならざる不気味な雰囲気をまとっている。

もう一人は髪を無造作に茶色く染め上げ、蛇革のジャケットにジーンズ、

金属の飾りが付いたチョーカーを身に着けた、凶暴さを絵に描いたような男。

コートの男は立ったまま、茶髪の男は床に座り込んで、なにやら話していた。

 

「こいつだ」

 

長身の男が不法投棄された壊れたパソコンモニタをつま先で蹴る。

モニタのガラスに廃墟の内部が映り込んでいる。蛇革の男が尋ねた。

 

「……そのミラーワールドにライダー共が集まってんのか」

 

「違う」

 

「だったらなんだ」

 

「答えが知りたければ、なんでもいい。

インターネットに接続されたPCで“艦隊これくしょん”というゲームにアクセスしろ。

お前に必要なものはそこにある」

 

「フッ、派手な殺し合いが辛気臭えネットゲームに変更か。……ふざけんなぁ!!」

 

蛇革の男は朽ちた木箱を思い切り蹴飛ばした。脆い箱が粉々になる。

 

「安心しろ。お前はこれからもライダーを殺すことができるし、

また殺さなければお前が死ぬ。戦う場所が変わるだけだ」

 

「……本当だろうな」

 

「わざわざ拘置所まで出向いてライダーにしたお前を騙す理由がどこにある」

 

「……行ってくる」

 

蛇革の男は廃墟を後にした。残されたコート姿の男はそのまま立ち尽くしていたが、

やがて、その姿は透明になり消えていった。

 

 

 

──東京 秋葉原

 

 

 

そのオタクはノートパソコンで“艦これ”に入れ込んでいて、

後ろの襲撃者に気づくことができなかった。

もっとも、気づいていたとしてもどうすることもできなかっただろうが。

 

「来い、来い、今度こそぜかましちゃん来いいぃ……ぐっ!?」

 

突然前髪を掴まれ、頸動脈にサバイバルナイフを押し当てられ、

恐怖と驚愕で動けなくなるオタク。

 

“おい、「艦これ」にアクセスしろ……”

「な、なんだよあんた……」

“殺すぞ”

「は、はいいい!!」

 

涙と鼻水を流しながら、言われるがままにオタクはDMM.comのサイトにアクセスした。

そしてサブメールアドレスでアカウントを作成。

 

「うう……あ、あの、あなたの名前を入力しろと出ています!」

“……浅倉威”

「はいぃ!」

 

オタクは言われるがままに浅倉の名前を入力し、チュートリアルを終えると、

髪を掴んでいた暴力的な力が消えたので、意を決して振り返った。

が、そこには誰もおらず、喉に当てられていた冷たい感触も消えたので、

思い切って助けを読んだ。

 

「助けて、人殺しいぃぃ!!」

 

だが、そこにはオタク1人以外に誰もいないベンチがあるだけ。

誰もが一瞬目を向けるだけで、皆、彼を変人のような目で見て通り過ぎるだけだった。

 

 


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