物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~ 作:虎上 神依
「本当にありがとうございました! あのチンピラから二度も助けて貰った上で私のユウヤまでも……。ありがとうございます!」
「良いってことよ、俺だってある目的があったからこうして手伝っているだけだし。喜んでくれるなら幸いです。」
「お兄ちゃん! ありがとう!」
子供もといユウヤと呼ばれた子は今までに無いような笑顔でリュウヤにお礼を言った。その幼く可愛らしい様子に彼もつられて笑ってしまった。
急激に体を動かしてしまったせいが先程から全身がジンジンと痛いが、そんな痛みも吹き飛んでしまったかのようだ。
「でも、ユウヤ君。人のリュックは投げないようにね。」
「う、うん。ゴメンナサイ。」
「ふふっ、まあ良いよ。それだけ嬉しかったってことだろ?」
言いながら、リュウヤはブレザーやネクタイ、ズボンについた汚れをはたき落とし、リュックサックのポケットから自分が持っている全てのアメを取り出す。
今の彼にとっては大事な食料品であるが、そんな事は関係なかった。彼の行いはもはや損得関係なしの善行その物である。
「ほら、さっきのアメの残りだ。ユウヤ君に全部あげるよ。」
「えっ、いいの?」
「おう! 美味しかったんだろう? お兄ちゃんは要らないからあげるよ。」
「わーい! ありがとう!」
そうはしゃぐと早速ユウヤはアメの包み紙を一つ破るとアメをしゃぶり始めた。余程気に入ったのだろうか、とても幸せそうな顔をしていた。
どうせならこの世界に伝わっていって欲しいものだとアメマニアのリュウヤは思う。
元の世界じゃ偶に銀座とかに行って高級アメを買うぐらいだ。相当なアメ好きであると彼は自負している。
「取り敢えず、この路地裏から出ましょう。またいつあの可燃物共が現れるか分かりませんからね。」
「は、はい! ユウヤ行くぞ。」
「うん!」
三人は光が差し込んでいる路地裏の出口へと向かって歩き出した。いや、一人子供は走っていたが……。
この路地裏を後にするのも本日二回目のことだ。そのどちらとも自ら意図して入ったわけでは無いのだけれども……、結果的には良い方向に進んでいると考えられる。
あの子の可愛い笑顔も見れたことだし、今回の件はチャラで良いかな。一人リュウヤはそう思うのであった。
「所で父親さん。なんでこんな陰気臭い路地裏なんかに入ったりしたんだ?」
「はい。本当はこんな所近づきたくもなかったんですけど余りにもうちのユウヤが見つからないものだからこの路地裏に迷い込んだのではと心配になって……。」
「なるほどねぇ、それであの可燃物共に襲われたと……。どうやらここに一人で入ることは自殺を意味するらしいから本当に気をつけたほうが良いぞ。」
「はい、肝に銘じておきます!」
――なんだ、とんだへっぽこ野郎だと思っていたが案外男らしい一面もあるじゃないか。
人は見かけによらずというのは本当の事らしい。一回、襲われてしまっているのだから学習はして欲しい所だと言いたかったがそれは恐らく子供の事で前が見えなくなってしまっただけだろう。
でも今度はもっと鍛えてから路地裏に入りましょうね。
そして子供が路地裏から飛び出したのを見て、二人が追いかけようとしたその時だった。
「あっ! お母さん!!」
「ユウヤ――! ユウヤ!!」
どうやらもう一度あの感動的なシーンを見る羽目になりそうだ。これでお母さんとも合流、事件はこれで完全に決着がついたのだ。リュウヤが協力した時間は約45分短そうで長い時間だった……。
何もかもでは無いかもしれないが彼は今までに感じたことが無いような爽快感を得ていた。
そして足のスピードを緩めゆっくりと路地裏から出た――その時だった。
「ふぇっ!?」
「おっ?」
ユウヤと金髪の母親が抱き合っていた横にその子は立っていた。
あの白髪の美少女が……。
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「今日は本当にありがとうございました! これはほんのお礼です、受け取って下さい。」
父親は言い終えるとリュウヤに何やら小さなブローチらしきものを渡してきた。小さな赤色の宝石が埋め込まれたブローチだった。
不思議な輝きを放つそのブローチに惹かれ、彼はゆっくりとそれを観察する。
「いいんですか? 結構高価そうですけど。」
「はい! お強い貴方が持っていた方がきっとブローチも喜ぶでしょうでしょうし……。」
「ブローチが喜ぶ、か……。」
幻想的で奇妙な光を放つそれは彼の体の中にある言葉にし難い何かと共鳴しあっているような気がした。だが、持っていて悪い気がしない。
リュウヤは早速そのブローチをワイシャツの胸ポケットの所に付ける。
ブローチは彼の左胸の所で日の光を反射してキラキラと輝いていた。
「ありがとうございます、大切にします。」
「貴方がたの御恩は絶対に忘れません! それでは私たちはこれで――。」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん! またねー!」
ユウヤはリュウヤと彼女に大きく手を振ると大通りを駆けていった、そしてそれを追いかけるかのように父親も走っていった。
母親はユウヤの元気一杯の行動を見て苦笑いしながらもこちらに「ありがとうございます。」と丁寧にお辞儀をするとゆっくりと二人の方へ歩いていった。
――それにしてもあいつ全く懲りてないな。まあ、子供は元気一杯なのが一番か……。
「それにしても、まさかこんな所で会うなんて奇遇ね。」
「ああ、俺も運命や何やらが導いた結果に非常に驚いていた所だ。」
善行をすると必ず自分に返ってくるって本当なんだなと彼はつくづく思った。
こんな幸運な事が他にあるだろうか、今正に人生全ての運を使ってしまったような気分だ。
それともこれは運命なのだろうか、いやそれはモテない男の可哀想な思い込みだな。
「しっかしボクも驚いたよ、まさか君があの路地裏のチンピラに勝つとは……。」
「おいおい、完全に俺を見くびってるだろ精霊さん! こう見えても剣ど――剣は使える方なんだぜ!」
危うく剣道と言いそうになったリュウヤはすかさず言い直す。剣道がこの世界では通じない事はあの可燃物共で実証済みだ。
少女の横に浮いている精霊はクスクスと笑っていた、もしかしたら出くわした時から彼はリュウヤの力を見破っていたのかもしれない……。
そんな能力がこの世界に存在するかは分からないが精霊ならいとも容易くやってのけられそうだ。
「そう言えばあのお父さん、二回助けられたって言ってたけどもしかして……。あれ!? じゃあ、あれは時間の無駄だった!?」
「いやいやそんな事ないです! 助けれて本当に助かりました!」
少女は少し慌てる様な素振りを見せた、でもそんな彼女もまたとても可愛かった。本当に何やらせても絵になるんだな、美少女って――
だがそれと同時にリュウヤはひしひしと押し寄せる罪悪感らしき物に耐えられなくなっていた。
そろそろ切り出すか――
「あれからあのネックレス探しはどうなったんだ?」
「うん……、残念ながらまだ見つかってないわ。ちょっとユウヤ君を探すのに手間取っちゃって――。」
――間接的ではあるが全て俺のせいに思えるのは気のせいだろうか……。実際はユウヤ君を連れ回していたのは俺なのだから。
色々と後悔するリュウヤだが、こうなった今それは後の祭りである。
それに面と向かって美少女と話すのに慣れていない彼はちょっとばかし冷や汗をかいていた、このままではまた貧血になってぶっ倒れそうだったので何とか話を済ませたい。
「そのだな……。今更感半端ないんだけどそのネックレス探し、俺にも協力させてくれないか?」
「えっ? そんな、私のミスなのになんか悪いよ……。それにお礼だって出来そうにないし。」
「いや、そんな事はない。君は貴重な時間を使ってまでも俺を助けれくれたのだからこれぐらいやって当然だ! それに犯人を一度見ている俺ならあの赤髪の少女を見つけることは容易いぜ、この国の土地勘ゼロだけど。」
冷や汗やら脇汗やらで汗だくになっているが何とか伝えたい事は言いきった。これで断られたら仕方ないが、気分は上々だ。
そんな達成感溢れているリュウヤの顔を見て少女は難しい顔をして考え始めた、しかしそんな少女の様子を見て空中にフワフワ浮いている狼(?)が柔らかそうな肉球で少女の頭を優しくつつく。
「最後のが確実に致命的な気がするけど――受け入れてもいいんじゃないか? 彼に邪念は感じない。それに手がかりほぼゼロの状況でこの広い王都を探すのも逆に無謀だしね。」
「うーん、でも何か――」
「ボクは1+1が1未満になるとは思えないなぁ。それに彼は迷惑だなんて思ってないはずだよ、あの様子からしてさ。」
精霊は全身が力を抜いてリラックスしているリュウヤのことは指差す。その様子を見た彼女は数秒、考えた挙句頷きリュウヤに向き直った。
「分かったわ、お礼は出来ないかもしれないけどお願いします!」
「――ああ、勿論だ!」
こうして二人+一匹の壮絶なネックレス探しが始まった。
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