物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

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第1章 7話 完全なるデジャヴ

「またノコノコとやって来やがって舐めてんのかお前!」

 

「オラオラァ! 今度こそ出すもん出せってんだ!」

 

「か、勘弁したください……。私はただ……。」

 

「黙れ! お前のせいで痛い目に遭ったんだよ、今回は容赦しねぇ!」

 

 見るとそこでは4人がかりで1人の緑髪の男をよってかかって攻撃しているのがわかった。

 何処からどう見ても完全なるデジャヴだった。

 襲われている男からタコ殴りにしているチンピラ共まで何もかもが一緒だった。

 

 ――とことん懲りない奴らだな……。

 

 リュウヤの怒りのボルテージが徐々に上がっていった。あの美少女と精霊に散々言われたのにも関わらずその影で更に暴行を加えるなんて人間のクズだ。しかも同じ人を……、この時点でこいつらは人間以下と言っても過言ではない。

 

「なぁ、あれは『僕』のお父さんか?」

 

「……、うん。お父さんだ! お父さんが悪い人に虐められてる!」

 

「そうか……。」

 

 子供を怖がらせないように彼は静かにそう言った。そしてゆっくりと子供に地面に下ろすと同時に「持っていて」と言って自分のリュックサックを預ける。

 

「よし、じゃあ僕はここで隠れてて。今からあの悪者たちを退治してお父さんを助けてくるからね。」

 

「……、うん。分かった。」

 

 子供は既に半泣き状態だった。やはりお父さんがボコボコにされて悔しいのだろう。

 だが、子供は非力。この子があのチンピラ共に立ち向かっても到底勝てる訳がない。そこでリュウヤの出番だった。

 

「いいかい? お兄ちゃんかお父さんが良いと言うまで出ちゃ駄目だぞ。約束できる?」

 

「うん……、分かった。」

 

「良しいい子だね……。じゃあ、行ってくる。」

 

 静かに立ち上がると彼はニコッと笑ってチンピラ達の方にゆっくりと歩いていった。

 だが、子供から見えなくなった場所でリュウヤはその作り笑顔を完全に崩す。またリュウヤの頭の中でプチッという破裂音が鳴り響いた。

 彼の怒りのボルテージはとうとう振り切り、堪忍袋ははち切れた。

 キレるのはこれで人生二度目だな。

 

 指をボキボキと鳴らすと理性を失わぬように我慢しながら今正に暴行を行っている分からず屋のチンピラ共に近づいていった。

 今起きている事全てに対して彼はどうしようもない見覚えがある。それもそのはず、これはデジャヴなのだから。

 

「複数人でよってかかって一人を甚振るのは止めろよ。」

 

 あの時言ったセリフとほぼ同じ、だが声を低くし、ドスの利いた声で彼はそう言った。

 

「ああ? 何だテメェは? って、あの時のヒョロ男じゃねぇか!」

 

「チッ、どいつもこいつも調子乗りやがって。だが丁度いい、今俺らはあの尼に脅されて頭にきてんだ、またボコボコにしてやるよ!」

 

 リュウヤは静かに舌打ちすると地を蹴った、そして先程と同じように前のチンピラ二人に回し蹴りを食らわせ、そのままがら空きの胴体に右ストレートを打ち込み、壁に叩きつけた。

 

「おい、父親さん。取り敢えず、下がっておけ。言っておくけど、後で話あるから逃げんなよ。」

 

「ひぃ! は、はい!」

 

 そう言うと緑髪の男は立ち上がり一目散にその場を離れていった。

 

「チッ、調子に乗ってんじゃ――」

 

「調子に乗ってるのはお前たちの方だろうが!! 同じこと何回もやりやがって、そんなにぶっ飛ばされたいのか!? ああ、その気ならぶっ飛ばしてやるよ!!」

 

「な、何だよいきなり。へっ、そっちがその気なら目にものを見せてやる。」

 

 そう言うと一番奥のチンピラは腰からナイフを抜いた。だが、それも数時間前経験済みである。

 よってリュウヤは近くに置いていた木の棒を足で蹴り上げ、空中に浮かせた。そして何食わぬ顔でそれを華麗にキャッチして構える。

 

「木の棒一本でやろうってか? そんなんで俺らに勝てるとでも――」

 

「黙れ、こっちは剣道5段だぞ。この棒一切れだけでもお前を死の淵に追いやることだって出来るんだよ。まあ、ただでさえあの美少女の威厳すらも分からなかった奴らがこの凄さを理解できるとは思えないけどな。安心しろ、命までは取らねぇ。だが、地獄は見せてやるよ!」

 

「ガタガタうるせぇんだよ!!」

 

 奥のチンピラが真っ赤な顔でナイフを振りかぶり、突進してきた。

 

 ――遅い、それでこの俺を倒そうってか? 剣道5段も舐められたものだな。

 

 チンピラがナイフを振り下ろそうとした刹那――リュウヤは手に持っている棒切れをゆっくりと振り下ろした。

 

「小手。」

 

 抑揚のこもっていない声で低くそう呟く。

 次の瞬間、チンピラの右手首辺りにに超スピードで振り上げられた棒切れがぶつかり、チンピラの持つナイフは金属音を立てて弾き飛ばされた。それはほんの数秒の出来事であり、残り3人のチンピラは何が起きたのか全く分からない様子でいた。

 

「イデデデデ……!!」

 

 チンピラは右手首を抑えて痛がり、その場で暴れだした。その光景を見たもの全て凍りつかせるような冷たい目でリュウヤは見ていた。

 

「残念だけど、俺はあの美少女や精霊と違ってそこまで優しくはない。だから……、覚悟しろよ?」

 

 言い終えると同時に棒切れをチンピラ共に向かって投げ、そのまま目の前で騒いでいるチンピラの顎を渾身の掌底で跳ね飛ばし、露わになった喉仏に狙いを定め、強烈なハイキックをお見舞いする。チンピラはそのまま何もすることが出来ずただ虚空をだらし無く彷徨った挙句地面に激突させられる、そしてそのまま意識を失った。

 

「て、てめぇ……、よくも……!」

 

「それはこっちのセリフだ可燃物共が。」

 

 チンピラ共を目を細めて一瞥した直後、手前二人のチンピの足を払いその勢いに任せて奥の三人目のチンピラに腹パン、そしてそのまま顎を綺麗に蹴り上げ、喉仏を渾身の掌底で打撃しトドメを刺す。

 

「あ、ああ……。」

 

 転んだ二人のチンピラは恐怖の余り顔を真っ青にして互いにガタガタと震えていた。リュウヤはゆっくりと身を翻してその冷たい目線でチンピラ共を無言で見下ろす。

 リュウヤにとって、街をただほっつき歩いているような不良や大して戦闘知識のない殺人鬼はただのウォーミングアップ相手にしか過ぎない。この手の相手は基本スキだらけで軽く喉仏を殴っただけでも気絶してしまう様な雑魚だ、恐るるに足りない。

 

「知ってるか? 人間って喉仏に向かって正拳突きすると普通に気絶するんだよ、何なら君達にも試してあげようか?」

 

 平凡を遥かに通り越した狂気に満ちた顔でリュウヤはドスの利いた声を発すると、チンピラ共の顔に明らかな動揺が走るのが分かった。

 ここまで脅せば戦闘不能はほぼ確実だろう。

 

「く、クソッ! に、に、逃げるぞ!」

 

「お、おう!!」

 

 チンピラ二人は気絶している奴らを担ぎ上げるとこちらには目もくれず丸で何やら悍ましいものから逃げるようにその場を離れていった。

 

「人間の可燃物は地獄で燃やされて灰にでもなっちまえ。」

 

 ため息をフーっとつきながらリュウヤは自分の気持ちを落ち着かせた、そして軽く辺りを見回すとともに先程助け出したあの子供の父親の元へと歩いていった。

 

「あ、あ、あ、ありがとうございます! た、た、助けて下さって!」

 

「心外だな、そんなに怖がらなくったっていいじゃないか……。ほら、あれだよ! ちょっと偶々苛ついてたからキレてみたってやつ。」

 

「そ、そうですか……。それで話というのは……?」

 

 緑髪の男は地べたに手をついて座りながらもまだ若干怯えていた。余程怖がらせてしまったようだ、申し訳ない。

 

 ――それにしても、俺そこまで恐ろしい形相していたのかな? まあ、実際見ていないから分からないけど。

 

「おーい、僕! もう出てきていいぞー!」

 

 リュウヤは子供の隠れている方に向かって声高らかに叫んだ。すると、子供は満面の笑みで彼のリュックサックを持ったままででくるとそれを投げ捨てて父親の方へと走っていった。

 

「パパ、パパー!!」

 

「ユウヤ、ユウヤじゃないか! 良かった……。」

 

 そして二人共抱き合ってワンワンと泣き始める。

 一体この主人はどこまで気弱な性格なのだろうか。これで本当に一家の大黒柱が務まるというのか? ちょっと鍛え直したほうが良いんじゃないの?

 心のなかではそう突っ込んでおきながらリュウヤはその微笑ましい光景を温かく見守る。

 

 ――一先ず一件落着と。

 

 一層清々しい気分になり空を静かに見上げる。日はまだ一番高い所から少し傾いた所でギラギラと輝いていた。




ちょっとここらで彼に本領発揮してもらいました。一応補正かかってますけどね……。

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