物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

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第1章 5話 美少女と罪悪感

 あれからどれ位の時間が経っただろうか。

 30分以上か、いやもしかしたら5分も経っていないのかもしれない。

 リュウヤは意識が覚醒させ、治療が終わったことを確信した所でゆっくりと目を開けた。10分仮眠は電車の中でよくやることだから特に不満も何も無かった。

 

「あっ、目を覚ましたよ。」

 

 目の前にはあの精霊が嬉しいそうな表情でリュウヤを指差していた、どうやらずっと看病していてくれたようだ。

 壁に寄りかかっていたせいか、若干首が痛かったがそれ以外は痛みどころか傷その物が消えていた。

 

「良かった、急に倒れたからビックリしたんだよ?」

 

「どうせなら膝枕が良かった……。」

 

「えっ?」

 

「い、いや何でもない! ただの戯れ言だ。」

 

 ファンタジーとかで良くある事だが、いやそもそも元の世界でも成り立つ原理だが、展開的に膝枕してくれたって良いんじゃないかと思ったがそれは平凡な彼にとっては夢のまた夢の事である。

 

 煩悩を捨てきれていませんな、これは最近修行をサボっていたせいなのか?

 リュウヤが極めた宗教、名付けて『平凡教へいぼんきょう』。平凡を極めることこそ真の至福なり!

 修行内容、変なこと考えない、自分を平凡とし続けるなど……。

 いや、これもド平凡の戯れ言だけどね。

 

「ふう、一先ずは大丈夫そうだ。傷が多かったにも関わらず治るの速かったし、後遺症も無いだろうね。」

 

「あったらあったで怖いな……。それにしても、また助けられちゃったな。本当にありがとうな。」

 

「良いよ、良いよ! 兎も角、元気になったみたいだし良かった……。」

 

 白髪の美少女もとい獣人は可愛らしく笑って見せてくれた。

 彼女には本当に世話になった。急いでいたはずなのに、大して傷ついてもいないこんな平凡な奴を看病するなんて本当に優しい性格の持ち主なのだろう。そう言えばこんな性格の奴さっきもどっかで見たような……。

 

「それにしても、君の派手にやられたね。あんなクズ野郎はこの世から消えるべきだ。」

 

「お、お前シレッと怖いこと言うなよ! だけど、何か憎めないな……。」

 

「ふっふっふ。この僕の可愛らしさはどんな人でもひれ伏せる力があるのだー! どうだ、凄いだろー!」

 

「その代わり裏ではとんでもなくどす黒い事を考えていると……、なるほどなるほど。」

 

「いやいや別にいつもそんな事を考えている訳じゃないよ? 今のは軽いジョークさ。」

 

 そこは完全否定するべきだろと突っ込みたくなる。

 でも実際、こんなユーモア溢れる精霊が近くにいると退屈はしなさそうだった。

 ――精霊か。この世界にはどうやら物理法則無視の生命体が存在する様だ。この様子じゃ元の世界の物理法則はもはや当てはめるべきではないだろうな。

 

 リュウヤはゆっくりと立ち上がり周りを見渡した、場所が変わっている気配はないのでその場で治療してくれたのだろう。

 

「なんか申し訳ないな……、結局は目が覚めるまで居てもらってさ。別に俺を置いて行っても良かったんだぜ?」

 

「か、勘違いしないでよね! 今の私達には貴方が必要と判断したの、それだけの話しよ。だって私達が追っている少女の特徴を知っているのは貴方とあのチンピラだけだろうし……。」

 

 ――な、何故にここでツンデレ化するの!?

 

 美少女はリュウヤから目線を逸しながら念を押すかのようにそう言った。顔が若干赤くなっている所を見るとやっぱり照れているのだろう、遂に耐えられなくなったと言うところだろうか。

 だけど、そんな照れている顔も美少女だけあって可愛かった。

 

「治癒魔法か……、凄いな。」

 

「まあね! この僕にかかればこんな魔法チョチョイのチョイさ。」

 

「カリフは存在その物が魔法みたいな存在だかね。」

 

「へへ、やめろよ、照れちゃうでしょ!」

 

 宙に浮きながらその精霊は照れる仕草で頭を掻いていた。

 だけど、今の照れるところなのか? それともただ単にジョークを挟んでいるだけなのか? そこが疑問として残る。

 

「それで、その赤髪の少女の特徴覚えてたりする?」

 

「勿論だ、あいつには借りがあるからな。ちょっくら説教でもしないと気が済まん!」

 

「どうしたの? 何かあの少女に恨みでもあるのか?」

 

「当たり前だ、堂々と俺の顔踏んで走っていったからな! 下見て歩けってんだ!」

 

 こう思うのも女性に対しては失礼だが後もう少し彼女の体重が重ければ俺の顔面の骨はバキバキに割れていた、もしくは当たりどころが悪ければ失明していた可能性は否定できない。そうしたら元の世界では警察沙汰だっただろう。

 

「いやいや、歩いてはいなかったでしょ?」

 

「あっ、そうだった。ハハハハッ!」

 

「ちょっと、二人で勝手に話そらさないでよ! それで、どうだったの?」

 

 ちょこっと怒った顔で彼女はリュウヤに顔を近づけてきた。突然の彼女の行動にリュウヤはドギマギして顔を赤くしながら顔を背けた。

 流石に美少女に直線距離10センチ程まで顔を近づけられたら誰であろうとも慌ててしまうだろう。

 あっ、それはイケメンでも同じか。違う意味で。

 

「ちょっと? 何かやましい事でもあるの?」

 

「いや、その、顔近いって!」

 

「あっ、ゴメンゴメン。ついね……。」

 

 ついついやってしまうじゃ済まされないからなその行為、普通の男だった一発で落ちちゃう所だからな!

 心のなかで大きく叫びながらリュウヤはあの無礼極まりない赤髪少女の特徴を思い出す。

 

「赤髪のセミロングで、意地強そうな感じ。後、髪は結んでいなくてピンはしていたみたいだった。服は汚らしい感じだったけど見た目は案外綺麗な方。っとこんな感じかな。」

 

「なるほど……、ありがとうね! それでもう一つ、十字形で真ん中に綺麗な青色の宝石が埋め込まれた金色のネックレスは見なかった?」

 

 リュウヤは美少女の期待に応えるため、小一時間の記憶を全て洗いざらい思い出し、条件を満たす様なネックレスを隈無く探した。だが、そもそもネックレス事態を見ている覚えがなく残念ながら情報は皆無だった。

 よって残念ながら彼は美少女の求める答えを得ることが出来なかった。

 

「すまない、そのようなネックレスは見た覚えがない。因みにそれがあの赤髪の少女が奪った物なのか?」

 

「うん、こんな所をわざわざ通って逃げるぐらいだから多分ね。そっかー、知らなかったか。まあ、仕方ないわね。」

 

 残念そうな表情を浮かべながら彼女はため息をついた。

 落胆させてしまったか、リュウヤは罪悪感で押し潰されそうな気持ちになっていた。

 

「それじゃ、私達はもう行くわね。色々とありがとう、後こんな人気のない様な路地裏には一人では入らないこと! いつも助けてくれる人が近くにいるとは限らないんだからね、それに一人で入るなんて死にたいって言っているのと全く同じだから……。絶対入っちゃ駄目だからね!」

 

 何度も念を押すかのように彼女に言われて、リュウヤは何も言う事が出来ず押し黙ってしまった。

 兎も角、今回の件を通じてあの自暴自棄作戦はこの世界じゃ通用しない(他人に迷惑を掛ける)事がよく分かった。これからは慎むことにしよう。

 だが、彼は納得していなかった。こんなに迷惑を掛けたのにも関わらず自分は何もしなくて良いのか?

 今、自分に出来ることはなんだ?

 

「それじゃ、カリフ。行くよ。」

 

「おう! ――ゴメンよ、本当なら家まで送ってあげたい所だけど……。それじゃ、気をつけろよ!」

 

 長い白髪を綺麗に揺らしながら彼女は身を翻して路地裏の出口へと向かった。そしてその颯爽とした彼女の背中を追うかのように精霊も飛んでいった。

 

 スリ、もとい物取りにあいネックレスを奪われた彼女はその犯人を追っていた。

 その途中で無様にチンピラ共に襲われているリュウヤを助け、更には大した傷でもないのに治療をしてくれた。

 もしかしたらリュウヤが事を起こしていなければ彼女はあの赤髪の少女に追いついていたかもしれない。だがその少女は既に何処か遠くに行ってしまっているだろう。

 優しいにも程がある。普通ならそんな面倒な事するはずがない。俺なら今急いでいるからと言って犯人を追っていたに違いない。

 

 そんな助けられてばかりでいいのか? 他人の時間を奪っておいて俺はのうのうと鑑定屋にでも行くのか?

 出来るわけがない! ならばやることは一つだ。

 

「チッ、面倒くせぇ!!」

 

 そんな事、ちっとも思っていないのにも関わらずリュウヤそう呟くとブレザーの汚れは再び払うと隠しておいたリュックサックを拾い上げて背中に背負う。

 人助けで定評のある俺をも凌駕する優しさ、しかと見届けたぞ!

 体を軽く動かし、治癒魔法の素晴らしさを実感するとともにリュウヤは地を蹴った。




我ながらよく分からん展開ですなぁ……。そもそもチンピラにわざとボコられるような変な人っているんですかね?

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