物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~ 作:虎上 神依
リュウヤは反射的に声のした方を見る。そこには少女が一人、仁王立ちしていた。
一言でまとめれば超美少女だった。
腰まで届く白色のロングヘアー、そして理性と知性両方兼ね備えたような藍色の瞳がこちらを見ていた。そのしっかりとした顔立ちは美しくもあり、何処か幼さを残している様にも思える。何よりも彼女の頭からは可愛らしい柴犬系の犬耳が生えていた、尻尾はこちらからは見えないが恐らく生えているのだろう。
身長は160センチ前後だろう、服装は一見高貴そうにも見えるが派手な装飾は施されていなかったがそれが逆に彼女の魅力を引き立てているようにも見える。水色を基調とするふんわりとしたワンピースの上に少し黄色がかったジャケットを羽織っていて可愛らしさを演出していた。
しかし、ただ可愛いだけではなかった。彼女は存在感を際立たせながらもこの場に圧倒的な威圧感を生み出していた、あのイケメンの様に……。
――強い。
その威圧感だけでリュウヤは確信した。先程のオズワルドもそうだが気迫に満ちあふれているその様は常人離れしているのだ。
「貴方達、これ以上の愚行は許さないわよ。よってかかって一人を虐めるなんて人として最低だと思わないの?」
凛とした声が再び路地裏に響き渡った、それはこの場にいる全ての人の心に響いたことだろう。
現にリュウヤもその存在感にただただ見入っていた。その存在感は彼と比べて雲泥の差である事は言うまでもない。
「あ? 女だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
ナイフを持ったチンピラが彼女を一瞥するとその刃先を彼女に向けた。
無論、彼女はその様子を静かに見ていた・
愚かだ、何処までも愚かだ。
この威圧感を感じ取れてさえもいないのかあのチンピラは……。
普通だった、逃げ出す場面だろう。なのにそれでもナイフを向けるなんて本当に怖いもの知らずなんだな。
彼女は小さくため息を付くと再び口を開いた。
「最後に忠告するわ。今すぐにそのナイフを捨ててこの場を去りなさい。大丈夫、別に命まで取ろうとしていないから――少なくとも今はね。」
少女はその場から微動だにせず、彼女の視線は変わらず俺達の事を見据えていた。
だが、確実と言ってもいいほどこの場の大気の流れは変わり始めていた。そう、言葉にすることが出来ない何かがこの場に集ってきていた。
「生意気な口利きやがって! 目にものを見せてやる!」
遂に一番前のチンピラは前に出るとナイフを大きく振りかぶり、彼女を切りつけようと襲いかかった。
だが次の瞬間、彼女の前に薄水色に光る壁が出現した。ナイフはその壁に当たった瞬間、金属音を鳴らしてはじけ飛んだ。
「なっ……!」
チンピラは今正に起きた出来事も飲み込めないでいた。だが次の瞬間、そのだらしない顔から血の気が引いていくのが分かった。
「べ、別に私一人でも出来たのに……。」
「いいや、君の事を守るのが僕の使命だからさ。一先ず安全確保といった所かな。」
後ろに一歩後退した彼女の前には何やら小動物が二足歩行状態で浮いていた。
一見は狼、にも見えるが何処と無く兎にも見えた。少なくとも後ろ足と尻尾は兎だった、それ以外は多分狼……。
毛並みは水色で目は狼ほど鋭いものではなかった、寧ろ可愛らしさを演出しているようにも思える。鼻はピンク色で色々と元の世界との動物とは大きく違って奇妙であるが可愛らしい容姿だった。
「せ、精霊……、だと!?」
「そうそう、よく分かったね! 折角だしご褒美でもあげちゃおっかな。」
精霊と呼ばれた小さな狼(?)はそう言うと静かに手(前足)を合わせた。
刹那――その狼(?)の周りには何やら小さな水の塊が4つほど生成され、グルグルと回り始めた。
リュウヤはその様子をポカーンと見ていると急にその水の塊は凝固し始めた鋭利な氷の刃と化した。
その刃は何処と無く先程のナイフよりも光り輝いているような気がした。
「く、クソッ! 覚えてやがれ! 今度あったら絶対にぶち殺す。」
そう言うとチンピラどもは一目散に裏路地の奥へと逃げていった。
「この子に手出したらこっちもただじゃ置かないからね、多分氷漬けだけじゃ済まされないかな。」
「コラッ、変なこと言わないの!」
「痛っ、ちょっと何するのさ~。ただの脅し文句だって……。」
二人はそんなコントみたいな事をしてクスクスと笑いあっていた。
その割にはあの精霊、結構本気で言ってそうだったから逆に怖い。
それに先程の氷の刃はいつの間にかどこかに消えていた。一体どんな原理なのだろうか……。
だが正直自分の獲物を取られたような気がしてならない、あれぐらいは多分リュウヤ位が丁度だっただろう。
兎も角、お礼は言わなければ……。
彼は体の周りのホコリや汚れを払うと少女に向き直った。
「スマン、助けてくれてありがとな。」
「どういたしまして。それにしても、こんな所に一人で入っちゃ危ないよ? この国、最近治安が悪いからああいう連中が一杯いるからね。」
「ああ、今度からは気をつけるよ。」
実際は男の人を助けに来たんだけどね。
だが、ここでそれを言ってしまうと更にかっこ悪くなるから内緒にしておこう。
それはそうとして、今正にこちらを見ている彼女の藍色の瞳はとても美しかった。
慣れていないっちゃ慣れていないがここで顔を背けると逆に恥ずかしいため敢えて我慢する。
「ふふっ、今回は僕のお手柄だったね。」
「カリフが勝手にやっただけでしょ! それにあそこまでしなくたっていいのに、マナの無駄使いじゃない!」
「まあまあ、良いじゃない。こんな国で僕の魔力を全て使うような大事なんて起きたりしないよ。」
――その言葉、完全にフラグだよな。今さらっとフラグ建築したよな。
そして不意に彼女の眼差しが真剣なものとなるのが分かった。リュウヤは気持ち的に軽く身構える。
「所で、さっきこの場所を物凄い速さで走っていった人知らない?」
「物凄い速さでか……、ああ! あのさっき俺の顔を踏んだ赤髪の少女の事か?」
「ビンゴだ、少年! して、その少女は何処に?」
やはり、美少女二連続だけあって無関係ではないらしい。
だが実際俺は顔を踏みつけられたせいで彼女が向かった方向を全くと言ってもいいほど覚えていない。
何だか申し訳ない感じだ……。
「いや、この路地を置くに行ったのは確かだがそれ以降は……ッ!」
その時、突然目の前の視界がぼやけた。そしてそのままリュウヤは地面に倒れ込んでしまった。
地面に衝突して、鈍い痛みが体中を走っていくのがわかった。
受け身取ってなかったか……、それにあれだ。ここで目眩か、不幸にも程があるって奴だ……。
「だ、大丈夫!?」
「あっ、うん。今視界が物凄くぼやけているけど大丈夫。取り敢えず君は行きなよ。追ってるんだろ? あの少女を……。」
「視界がぼやけてるって重症じゃない、そんな人を置いて行ける訳ないでしょ! 早く何とかしないと……!」
「それに見たところ傷も中々多いじゃないか。フローラ、君がその気なら僕も手伝うよ。」
「ありがとう! 兎も角、楽な体勢にさせないと……。」
――この状態……、俺確実に駄目なことしちゃった感じだよね!? この子が急いでる所を引き止めちゃったよね!?
そんな事を考えながらリュウヤはゆっくりと目を閉じた。
立ちくらみは変に動くと余計気持ち悪くなるからここはお言葉に甘えて楽にさせてもらうか。
「マナまだ切らして無いでしょうね?」
「精霊カリフ様も舐めてもらっては困るね! これぐらいの傷なら朝飯前だぜ。」
「うん! なら二人がかりで治すわよ!」
二人の落ち着いた声が聞こえてくる。
流石は異世界だな……、こんな可愛い子が存在するとはね。
そんなくだらない事を考えながらリュウヤは意識を手放した。
第一ヒロインの登場ですね。一応、シナリオ的に途中まで完全にハーレム仕様になってしまうのが今の悩みどころ。
どうしてこうなった!?