物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

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第1章 3話 チンピラ対処法

 彼、リュウヤは走っていた。

 周りの亜人達に好奇の目で見られながらもただただ走っていた。

 特に理由はない。あるとすれば、時間が無駄だからとか変な目で見られるのが嫌だからとかだろう。

 だが、彼にそんな事を考えている余裕なんて殆どなかった。頭の中はどうやって生きていこうのワードで埋め尽くされつつある。

 その為この世界の通貨を手に入れるためにも先程オズワルドに教えてもらった道を用心深く確認しながらもリュウヤは進んでいった。

 

 あの叫び声を聞くまでは……。

 

「だ、誰か! 助けてくれぇ!」

 

 かすかではあるがリュウヤの耳にはハッキリと届いていた。

 周りを見渡すがその悲鳴に反応した人はいないようだった。この瞬間、彼の頭の中からは先程まで考えていたワードは全て排除された。

 当たり前だ、自分よりも他人優先で生きてきたリュウヤだからこそ成せる技。

 助けを求める他人を無視して行くことなど到底無理な話だ。助けるのが平凡で普通な考えだろうと彼は考察した。

 

「面倒だけど行くか。」

 

 内心はそんな事思っていないのにも関わらずそう呟いて彼は路地裏の方へと入っていった。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「助けて貰いたければ出すもん出せって言ってんだろうがよぉ!」

 

「か、勘弁してください! 私は何も……」

 

「ああ? 一々うるせえんだよ、さっさと出せ!」

 

 見るとそこでは4人がかりで1人の男をよってかかって攻撃しているのがわかった。

 この世界にもチンピラっているんだな、だけど危険度は元の世界と比べたら数倍跳ね上がっているといった所か。

 

 ――さて、ならばチンピラ潰しと恐れられたこの俺の出番のようだ。

 

 彼らが持ち物を要求してくることは目に見えているので取り敢えずここらに貴重品を隠させていただきまして、いっちょやりますか。

 

「俺が強いかどうか分からないけど、取り敢えず複数人でよってかかって一人を甚振るのは止めやがれぇ!」

 

 そう言い切るとリュウヤは地面を思いっきり蹴って一番近くにいたチンピラにハイキック、そしてその勢いで横に蹲っている男を庇うかのように他のチンピラに正拳突きを食らわす。

 拳はグーではなく卵やライターを握っている様な感じで殴るのが一番効果があることぐらいとっくに知っている。

 

「今だ、アンタはさっさと逃げやがれ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 そう言うと男は一目散に駆けていった。助けを呼んでくれると言う可能性もあるけどコレは考慮しないでおくとしようか。

 リュウヤは一旦チンピラどもから離れ、体勢を立て直す。

 

「何だお前、やる気か?」

 

「俺らの仲間に攻撃とはいい度胸しているじゃねぇか。」

 

「度胸も糞もあるか! そんなもん、助けるのが普通だろうが。やるんだったら俺とやろうぜ!」

 

 殺気丸出しの男達を一瞥するとリュウヤは構え、戦闘モードに入った。

 見た感じ相手は物取り。全員20代半ばで薄汚い身なり、見た感じ悪人そのものだ。

 取り敢えず、元の世界で通じた作戦が今回も通じるか試すことにしよう。

 ただし、気を抜くことは許されない。これは自分の身を対価にして確実に勝ちに行く作戦だから自分が殺されると判断した時点でこの作戦は断念することだ。

 

「異世界転移何だから少しぐらいは強い設定が欲しいところだね。現時点で俺TUEEEだったらまた話は別だけど、多少はスキル追加してくれたっていじゃねぇかよ! 取り敢えず、今ちょっとイライラ中だからぶっ飛ばす。」

 

「あいつ、調子に乗ってるな。」

 

「はっ、あんなヘロヘロしたやつさっさとボッコボコにしてやるぜ。」

 

 ――ああ、お望みどおりにしてやるよ!

 

 奥のチンピラに渾身の右ストレートを食らわせられる。何だ正直大したことないな、痛いけど……。

 問題ない、敢えて男達に先に攻撃をさせたまで。

 つまり作戦はこうだ。

 

 1.まず男達に俺をボコボコにしてもらい勝ちを確証してもらう。

 

 2.油断した所をカウンターで反撃。

 

 3.後は全力でボコる。

 

 どうだ、この完璧(?)な作戦! 自分を囮にして戦いを制す、何と自暴自棄な作戦!

 だが、ちゃんと理由はある。

 第一に予め相手の強さをリサーチすることが出来る事、第二に相手が凶器を持っていた場合の対処がし易いことだ。

 ただし、序盤から凶器を使ってくる馬鹿は正々堂々ボコすけどな!

 一応こう見えても柔道5段ですから……、平凡な人にも多少は意地だってあるんだぜ。

 

 そんな訳で取り敢えず俺は先程の男みたいにボコボコにされてみた。

 勿論こう見えても急所は基本隠しているんだぜ、凄いだろ。

 

「オラオラ! さっきまでの威勢はどうしたんだよぉ!」

 

 ――いや、手を抜いてるだけです。ホントスミマセン。

 

「へっ、大したことないくせに調子乗りやがって!」

 

 ――貴方のほうが、大したことないですー。ちょっと痛いけど……。

 

「全くさっきはふざけた真似してくれたな! だったらお前が出すもん出せや!」

 

「こ、こう見えても、い、いち、一文無しなんで、ね。」(演技)

 

「チッ、それにしても何処と無く珍しい格好してんな。どうせならその服を貰おうかな。」

 

 ――では、後で貴方の服を貰いますね。……ゴメン、やっぱいらない。

 

「おっ、それ良いねぇ! 安心しろ、パンツまでは取らねぇから。」

 

「あ?」

 

「何だ文句あるのかぁ!?」

 

 ――アリアリだ、バーカ! そこまでして金が稼ぎたいのかお前ら!

 

 チンピラどもはリュウヤの事を容赦なく蹴りつけているつもりなのだろう。

 だが、彼には全くのダメージが入っていないのも事実。何故ならそれなりに鍛えていたからだ。

 どちらかと言うと問題はナイフなどの凶器で脅されないかだ、元の世界では一度ナイフで切られた事があるがあれは中々の痛さだった。

 誰に切られたかって? 大丈夫、ちょっとした通り魔事件と出くわしただけだから、ちゃんと解決しましたけどね。

 しかし、襲われているのがリュウヤで無かったことを想像するとこれまた恐ろしい。あの時の様子は鮮明に頭に焼き付けられている。

 

 だからこそナイフが出てくるのであれば早々に対処しなければ、アレぐらい痛いのは勘弁!

 

「さてと、じゃあ早速剥ぎ取らせてもらいますかね!」

 

 そう言ってチンピラがナイフを取り出したのが見えた。

 時は来た、作戦通りカウンターを食らわそうとした――その時だ。

 

「ちょっと邪魔! どきなさいよ!」

 

 とてつもない速さで誰かが走ってくるのがわかった。

 驚いて顔を上げるチンピラ達を横目でその姿を確認しようとする。

 

 見た感じ、頭髪は赤色でセミロング、その下の真っすぐで頑固そうな瞳も赤色、そしてまあまあ小柄で少女、服はちょっと汚らしいけど多分結構な美少女だと思う。

 

 そんな少女に見とれていた次の瞬間、その少女は倒れているリュウヤを見ること無くそのまま踏みつけてきたのだ。

 

「ぐふぉ!!」

 

「あっ、わりぃ、でも今アタシ急いでるからゴメンな!」

 

「ゴメンなで済むかぁ!! 後で覚えてやがれぇ!!」

 

 反射的にリュウヤはその場から素早く起き上がり、彼女を追って文句の一つも言ってやろうとした。

 が、既に時遅しで踏みつけた後も彼女はスピードを緩めること無くこの細い路地裏の奥へと走っていった。

 そもそも彼女のスピードに追いつけるように気がしなかったのも事実。ここは諦めるしか無い。

 そして同時にもう一つの問題も発生した。

 

「あ、あいつまだピンピンしてやがる……。」

 

「あっ、演技するの忘れてた。」

 

 チンピラどもは唖然とした表情でリュウヤのことを見つめていた。

 まさに音速と同じレベルで通過していった少女もそうだが、チンピラはそれ以上に彼のことを注視していた。

 

 ――そんなに不思議か? 俺がピンピンしているのが。まあ、確かに俺としては最高の演技だったけどさあ。

 

 だが、この状況はナイフ持ちの奴と対等に戦わなければならないという事実を突きつけられたのと全くの同意義である。

 

「チッ。あの少女、本当に覚えておけよ。」

 

「テメェ、また調子に乗りやがって。血だらけになってでもやるか?」

 

「えっ? あっ、確かに血出てるけど、これで血だらけって言わないでしょ。」

 

「なに訳の分からない事言ってんだ、取り敢えずぶち殺す!」

 

 そう言ってチンピラどもは再びリュウヤに襲い掛かってきた。

 これ以上は仕方ないと覚悟を決め、いつもの柔道の構えで迎え撃とうとする。

 本気を出したくは無かったけどこんな状況に陥れられてしまったからには出す以外の選択肢はない。

 

 平凡は何にだってなれるって事を今ここで証明してやるぜ!

 

 彼のモットーを掲げ、地を蹴ろうとしたその瞬間だった。

 

「――そこまでよ。」

 

 凛とした声が細い路地裏に響き渡り、その場にいた全ての人が凍りついた。




本日2回目の投稿です。
本当にこのページを開いていただけただけでも凄くうれしいです。

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