物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~ 作:虎上 神依
第1章 1話 いつの間にか……
――ここはどこだ?
途方に暮れて歩く彼は周りを見渡しながら心のなかでそんな一言を呟いた。
彼の周りの人は色々な色の頭髪、金髪や青髪、緑髪、赤髪と様々である。
格好も鎧やらローブやらで彼と同じ服装の人は誰一人としていない。
「少なくとも貨幣価値が違う時点で日本じゃないよな……。」
彼は財布を制服のブレザーのポケットに仕舞いながらそう呟いた。大した金額は入っていないが元の世界・・・・ならば一日は食べ物に困らず凌ぐことが出来る。
だが、この世界じゃ一文無しと表現するしか無い。なにせ貨幣価値が違うのだから。
短めの焦茶髪に頭髪と同じ色の瞳。これと言って高くもなければ低くもない成人男性平均的な身長。体はやや筋肉質であるが着ている制服のせいで良く分からない。
凡庸と言えば凡庸な見た目だが、この世界の群衆に紛れていても彼は間違いなく目立っていた。
それも当然だ、一人だけ街中で珍奇な格好をしているのだから。それに頭髪も色が近い人はいるものの全く同じ人は誰一人としていない。黒髪でなかったのが幸いだ。
遠慮なしに刺さる痛い視線に耐えながらも彼は一人街のど真ん中で考えていた。
――落ち着け、一旦冷静になろう。この街並みといい、人といいここが元の世界ではないことは確実だ。ならば考えられることは一つ。
「ここは異世界だ!」
彼は得意げに腕を組みながらそう結論づけた。
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彼の名は天宮あまみや竜也りゅうや、日本生まれの高校2年生である。
頭はそこまで良くないがスポーツは人一倍出来る方である。幼い時から剣道や柔道を習っていた影響もあり、基本得意なスポーツは格闘技に特化している。
才能がそこそこあったお陰か、剣道においては全国まで勝ち進んだことがある。中学の頃は『二刀竜』という二つ名を付けられ他校から恐れられていた。因みにこの二つ名は二刀流と名前の竜也を合わせ、生まれた。
だが、受験を控えた今は剣道部を引退して勉強に明け暮れている。といってもゲームの時間は全くと言ってもいいほど減っていないが。
彼はゲームに関しても人一倍長けていた。今話題になっているVR格闘ゲームの公式全国大会で準優勝するほどの強者だ。
3歳頃から様々なゲームにハマること14年、彼はゲームをひたすらとやり続け剣道で鍛えた反射神経を利用しここまで成り上がった。
今じゃ、オンラインゲーム界でも名の知られるゲーマーとなっている。
だがそんな常人離れしている能力を持っているのにも関わらず彼は自分の事を平凡とした。
平凡を極めることこそ素晴らしい事であるという宗教的思考を持つようになってから彼はとことん平凡を貫いてきた。
そしてそんな平凡(?)は今――
「異世界に召喚されて街を彷徨っているとさ……。全く、一体どうなってんだ?」
ため息を付きながらリュウヤは路地裏に座り込んだ。
地面は綺麗に舗装されていたが、現代日本ほどではない。第一、中世風で日本の要素がかけらも存在しなかった。
「だけど、言葉は通じるし文字も知らなかったけど何故か読める……。文明はよくある中世レベル。機械などは存在しなくて建物は基本、石や木材で作られている。」
見た光景を一つ一つ頭の中で整理していく。
一応ラノベはいくつか読んだことがあるので何とか対処はできそうであった。
だが、問題はラノベあるあるが発生するのか、しないのかだ。
よくあるパターンでは何かチートスキル授けられて無双するとか、ステータス的何かが存在するとか……。
チートスキルにおいては授けてくれる人いないので可能性は皆無に等しい。でも、元々から備わっているなら話は別だが。
そもそも電車で寝ていて気づいたらこの世界に召喚されていたのだから誰かに召喚された訳でもないだろう。
寧ろ何の前触れなしにこっちの世界に転移したと表現した方が良い。
「俺だって伊達にラノベ読んでいたわけじゃないからな! コミュニケーションは取れるが金は通用しない。まだマシな方だな。」
リュウヤは先程、青果屋と思われる露店の店主から分けてもらった果物をかじりながらそう考察した。
転移に気づいてまず訪れたのが商店街、そこで青果屋との交渉の末何とか手にした果物だった。
青果屋が優しい人で助かったよ。「他所の国から来たのなら折角だからこれをやるよ。」だってさ、優しすぎて涙出そうだった。
見た限りではこの世界(国)の通貨は異世界あるあるだ、安い順から銅貨、銀貨、ミスリル貨、金貨らしい。
結構、文明が発達しているようで何よりだ。
「そしてこの世界は割合的に獣人が多いと……。ざっと見た感じ8割が頭に耳やら、尻尾やら生やしてるもんな。確かに憧れではあるが……。」
憧れではあるがここまでいると流石に飽きてくる。
犬耳及び狼耳、猫耳、狐耳、うさぎ耳、トカゲ(?)耳、いやリザードマンだなあれは――
それにエルフらしき人もチラッと混ざっていた気がする。
こう考えると人間って特殊!? それはそれで何か慣れない。
リュウヤは再び長いため息を吐く。息が白くならない所、気温もそこまで寒くはないだろう。
もしくは南極のように空気がやたらと綺麗……、流石にそれはないか。
そしてさらなる問題。それはこの世界の力、FORCEだ。
所謂『物理攻撃』、『魔法攻撃』、どちらにも入らない攻撃方法だ。もし何の力も付与されていないのなら魔法攻撃は無理だろう。
展開的に何かの力に目覚めてと言う可能性もあるが確率は低いので取り敢えずおいておく。そう考えると本物の剣の扱いには慣れておいた方が良さそうだ。一応剣道習っていたから多少は使えるだろうが、竹刀と本物は違う。
本物の切れ味ときたらナイフの域を超えている。それに銃刀法違反のせいで刀は指定された場所でしか握れなかった。
居合斬りの教室を見学したことがあるからまだしも、本当に初めてとなると恐らく体が震えて使いこなすことも出来ないだろう。
「魔法……、使えるのか?」
自分の手のひらをマジマジと見るが何も変わる気配はない。そもそも一瞬で使えるようになるわけが無いと思うし、今は諦めよう。
それに電車に寝ていて転移までは良いが、転移された目的がさっぱり分からない。
これはいっその事転移しちゃった、アハハハという風に考えておいたほうが良いかもしれない。
「転移しちゃった、アハハハ……。気持ち悪ッ。」
自己嫌悪で潰れそうになりながらも所持品を確認する。
着ているもの、学校指定のブレザー&ワイシャツ&ズボン、靴下、スニーカー(新品)、マフラーと手袋(今は外している)、下着、これぐらいかな。
持ち物、スマホ、スマホの充電器(電気無いだろうから意味ない)、財布、リュックサック、教科書は皆無、その代わりにジャージ、ノートPC(高スペック)、PCの充電器(電気無い)、生徒手帳(絶対要らない)、筆箱、その他お菓子が少し、多分これぐらい。
「教科書が武器になると思ったのだが……、そう言えば今日体育祭だっな。」
体育祭のことは置いておくとして一文無しでコレだけと言うのはかなりの危機的状況。
――まてよ、誰かにこのノートPCを鑑定してもらえば金になるかも……。いやいや売るならノートPCよりもスマホの方がマシだな。
「まだ絶望ってわけじゃ無さそうだな。それにしても何で俺が召喚されたんだ? こんな平凡な俺がだ。」
希望を捨てずにいたが、頭の中は家に帰りたいのワードで埋まっていった。
異世界転移は中々面白いと思ったが実際なってみれば絶望その物だ。幸い、学校帰りだから良かったもののコンビニに立ち寄った時だったら更に絶望的状況に陥っただろう。
「そもそも、何も出来ない俺にこの世界を生きていけるのか?」
頭を抱え込んで自分の行く末を考えるリュウヤ。
ふと、その表情が変わった。
「大丈夫かい?」
頭を上げて見れば目の前に青髪の男が立っていた。
ちょっと何処かの小説と設定が似ている気がしてパニック中。
これは自分が文才が無いという証なのか!?
大丈夫、きっとかぶらない。きっと……。