物理攻撃なら全て跳ね返せる件について ~仲間を守るためなら手段を選ばない~   作:虎上 神依

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第1章 10話 怒涛の追跡

 休憩から約10分後、ネックレス探索も次なる段階へと進んだ。

 スラム街、貧しい人々が多く住み犯罪が多発する地域である。そこは余りにも治安が悪いため衛兵も対処しきれていないらしい。

 ここから探索が難航の兆しを見せる――かと思いきやここでリュウヤが思わぬ力を発揮する。

 

「不思議と周囲が優しい気がするな。一体どうなっているんだ? 俺は傍からみたら超絶健康的な人にしか見えないはずだぞ、嫌われて普通だと思うが……。」

 

「その言葉はその手に持っている袋をしまってから言おうか、リュウヤ。」

 

 リュウヤが現在進行形で手に持っているものそれはアメ袋。

 数少ない食料品であるが、所詮は口の中を甘くするだけの菓子だ。食糧難にあったとしてもこれだけで耐え凌ぐことは不可能だろう。

 そのため彼はこのアメは要らないと判断し、すれ違う人々に遠慮なくそのアメをあげていたのだ。

 

「すれ違う人々に食料を分け与えるなんて何という大盤振る舞いなの……。」

 

「えっ? 別にこれ要らないし、食べるなら皆で食べたほうが良くないか?」

 

「それに身なりも原因だろうね、元は綺麗だったんだろうけど汚れているし、多少血がついていて如何にも可哀想な人って感じだもの。スラム街の人々は基本苦労してそうだから、見るに見かねてだと思うよ。」

 

「つまり、見過ごせないような可哀想な人が苦労している皆様方に食料を無償で分け与えていると……。俺、優男じゃん!!」

 

 なるほど、つまり先程アメを上げた男の人に「強く生きるんだぞ」と言われたのはそういう訳だったのか。

 いや、確かに薄汚い格好ではあるけれども制服って意外と高貴な服装だぞ? それに生活に困っていた訳でもないし、清潔感溢れる生活を送っていたと思うのだが……。何故にそこまで可哀想に見えるのだろうか。

 中にはアメのお返しに果物らしき物をくれる男の子もいた。小さくもあるが案外食欲がそそられる色だったので口にしてみた。

 

「何だこれ、美味いし力が少しみなぎってくる感じがするな。」

 

「ああ、それはきっとナスコの実ね。それは食べると体の中のマナを回復させてくれるのよ、マナが尽きた時などに食べるのが一番ね。」

 

「マナ――それって魔力みたいな物なのか?」

 

「えっ、知らないの? まあ、基本そんな感じよ。体内のマナを消費する代わりに人は魔法を唱えることが出来る。体内マナは基本、体が自然に大気のマナを微小ながらゆっくりと吸収して回復してくれるの。」

 

 なるほど、この世界の魔法の仕組みはそうなっているのか。言ってしまえばマナ=MPみたいな物なのだろう。

 それにさっきカリフが言っていた『時』のマナとか何やかんやの事を考慮すればマナにはやはり属性みたいなものが存在するのだろう。そしてそれらがうまく重なり合って魔法を形成する、とまあこんな感じだな。

 

「俺らの星では魔法は存在しなかったんだよなぁ。」

 

「えっ!? それじゃあそもそも転移魔法を唱えることすら出来ないんじゃ……。」

 

「だから困っているんだよ、一体どんな理由でこの国に転移してきたのか――運命なら大人しく従うけどな。」

 

 言い終えると静かに空を見上げた。

 別に帰りたくない訳ではない、寧ろこっちの世界の生活はとてつもなく辛そうだし今にも逃げ出したい気分だ。

 だけど、そう考える彼がいる一方でこの世界を隅々まで探検してみたいという好奇心旺盛な彼もいるのだ。

 

 ――俺は恐らく時空、いわゆる4次元で表せるようなレベルでは無いものを超えてこの世界にやってきてしまったみたいだな。

 

 リュウヤはこの世界で生活してみるのも悪くないと感じていた。今まで体験できなかったような大きな事を成し遂げられそうなそんな期待が彼の心の中を渦巻きつつあった。

 だが、それ以前にまずは金だな。それが解決してから考えるとしよう。

 

「そっか、リュウヤも大変なんだね……。」

 

「大変で済まされる気がしないけど、まあそうだ。けど、なってしまった事だから何とかするしか無いさ。」

 

「私で良ければ、協力するよ? こうしてネックレス探しを手伝ってもらっているんだし。」

 

「いや、その話はこの探索が決着してからにしよう。俺なんかの事は後回しで構わない。」

 

 自分よりも他人を優先する精神、それはここでも遠慮なく発動されていた。

 物言いたげな顔のフローラを促しながらも、スラム街探索は続いた。やることは基本今まで通りだ、住人を見つけてはあの赤髪の少女の特徴を話して心当たりが無いか聞いて回るだけだ。

 リュウヤとフローラで手分けして聞き、効率化を図りつつ探索を進めていった。

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「赤髪の少女……、もしかしておまんらエリナのやつに物取られたんか?」

 

 スラム街に入って約20分経った所で遂にその最有力情報にぶつかった。それはリュウヤが何気なく声をかけてアメを上げた相手だった。

 その相手、老爺はアメを美味しそうに舐めながらも同情するような雰囲気でそう語った。

 

「エリナなら恐らくスラム街の北の端の隠れ家じゃろうな、それにまだ黄昏時ではないから盗品もまだ売りさばかれていないじゃろう。」

 

「それで、その隠れ家に行くには?」

 

「ああ、それならこの道をまっすぐに行くといい。じゃが、問題はその隠れ家を見つけることが出来るかじゃな。因みにそのエリナの隠れ家を知る者はほんの一握りの盗賊や悪党だって話だ、せいぜい頑張るのじゃよ。」

 

 盗まれた方が悪いのじゃからなと当たり前の事の様に老爺は笑った、どうやらそれがスラム街での絶対的ルールらしい。

 だが、これでネックレスに在り処にぐっと近づいたのは確かである。リュウヤは老爺にお礼を言うと他の所で聞き込みしているフローラと合流する。

 

「そこにネックレスがあるのね、なら早く行きましょう。」

 

「だけどどうやってその隠れ家を探すんだ? 話しによれば相当分かりづらい所にあるらし――」

 

 言い終える前にそいつは現れた。あの赤髪の少女が――

 

「どいたどいたーッ!!」

 

 そう叫びながらその少女、エリナはリュウヤ一行に突っ込んできた。

 あの時と全く同じようなシチュエーションに驚きつつも彼はそのエリナの姿にしばし見とれていた。

 

 ――やっぱり、可愛いちゃ、可愛いんだよな。やっていることが悪そのものだけど。

 

 リュウヤはそんな彼女を通すまいと無言でその場に佇んみ、静かに彼女の事を見つめた。

 だが、エリナはリュウヤを前にしてスピードを緩めるどころかその勢いで突き飛ばした。

 

「げはっ!!」

 

「おっと、ゴメンな! 悪いけど急いでいるんだ!」

 

「ふざけんな!! 二度目だぞゴルァ!!!」

 

「ちょっと、リュウヤ!? 待ってよ!」

 

 うまく受身を取って体を華麗に回転させるとリュウヤはすぐ立ち上がりエリナを追いかけ始めた。

 そのスピードはエリナとほぼ同速で彼はエリナに追いつくことは出来なかったが、彼女を見逃すこともなかった。

 

「えっ!? ちょっ、私のスピードについてくるなんて何者!?」

 

「朝方お前に顔を思いっきり踏まれた者だバーカ! 後もう少し当たりどころが悪ければ顔面骨折してたんだぞチキショウめ!! しかも今回に限っては派手にぶっ飛ばしやがって絶対許さねえ! 仏の顔も三度までって言うが、俺の場合は二度までだ! 覚悟しろよ小娘! というかフローラのネックレス返しやがれ!」

 

「はっ? えっ? 言っていること良くわかんない! けど追いつかれる訳にはいかないからね!」

 

 そう言い終えるとエリナ更に加速して何処かへと行ってしまった。完全に見失った、まさかあそこまでの速さだとは思わなかったぞ。

 あれなら多分、ボ○ト軽く越せるんじゃないか?

 取り敢えず逃したものは仕方あるまいとスピードをゆっくりと緩め、その場に立ち止まった。

 後ろを見ると、遠くからバテ気味のフローラがこちらに走ってくるのが見えた。

 

「ちょっと~、いきなり走って行かないでよ~。」

 

「ゴメンゴメン、ついカッとなっちゃって……、それに見失ったしな。」

 

「いや、ネックレスを奪った当人と遭遇することが出来たんだ、それだけでかなりの収穫だよ。それに多分これでチェックメイトさ。」

 

 いつの間にかにフローラの横にフワフワと浮いている精霊、カリフは意味ありげな笑い方をした。

 それは丸で狼が獲物を仕留めた時の笑い、そんな雰囲気を醸し出していた。




そろそろ泥棒猫を追い詰めるぞー! って言いたい所だけど次回結構な急展開。
お見逃しなく……。

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