ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
次で180話目にしたいから、ちょっと急ごう、頑張ろう(汗
「やめろっ!!」
引き抜いた神剣で、暴徒の凶刃を受け止めたシャルルは、そうとは気づかず、暴徒に剣の腹を叩き付けました。
よほどの衝撃があったのか、暴徒はそのまま気を失い、その場に倒れてしまいました。
「姫様!殿下!ご無事ですか?!」
「あ……あぁ、俺もルーナも無事だ。礼を言うぞ、導師よ」
「導師?……いや、俺……私は一介の流浪の騎士。導師なんて、大それたものじゃ……」
「いいえ、あなたはたしかに導師様です。あなたの右手にある神剣が、何よりの証拠です」
ルーナ姫からそう言われて、シャルルは右手に目を向けました。
そこにはたしかに、石畳に突き刺さっていた神剣がありました。
「……え……えぇぇぇっ??!!」
「いや、驚いてんのはこっちなんだが?」
シャルルの反応に、ユリウス王子は思わずそう返しましたが、すぐに周囲にいる衛兵たちに暴徒を逮捕するよう、命令を下しました。
衛兵たちはその命令を忠実に実行し、誰一人、その命を奪うことなく、暴徒全員を逮捕、連行しました。
騒動が収まり、ユリウス王子とルーナ姫は再びシャルルとアストの前に姿を見せました。
「改めて、妹を守ってくれたこと、感謝する。新たな導師」
「わたくしからもお礼を。導師様」
「いえ、傷つけられるかもしれない人を守るのは、騎士として当然のこと。どうぞ、お気になさらず」
「だが、それでは俺たちも納得ができないな……そうだ!今宵の舞踏会、君と君の従者も参加してはどうだろう?」
「い、いや、しかし!!」
ユリウス王子の突然の提案に、シャルルは困惑していました。
小さな村や町を盗賊から守ったことはあっても、お城に呼ばれるほど、大きな功績を立てたわけでもないため、そういった機会がなかった、ということもあるのですが、何より、いきなり伝説の導師として見られていることが困惑の種になっていました。
「……それとも、不敬罪としてしょっ引かれたいかな?先日、我が妹に対して、尊大な態度をとったそうじゃないか」
「……わかりました、舞踏会の招待、お受けします」
脅しとも取れるその誘いに、シャルルは舞踏会への招待を受けることにしたのでした。
もっとも、本人は行きたくなかったわけではなく、行くきっかけをつかむことができなかっただけだったので、あまり困ったような様子は見受けられませんでした。
なお、誘い方が誘い方だっただけに、ルーナ姫はユリウス王子に対して、呆れたような表情を浮かべていましたが、シャルルが舞踏会に参加することができるようになったことをうれしく感じているのか、柔らかな笑みを浮かべていました。
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その夜。
ルーナ姫の厚意で借り受けた正装をまとったシャルルとアストは、舞踏会の会場である大ホールにいました。
普段はあまり口にすることのできない、豪華な料理と酒、そして、貴族のお歴々との会話を楽しんでいると。
ユリウス王子とルーナ姫のが会場へやってきたことを告げる声が、高らかに響きました。
ホールの出入り口へ視線を向けると、そこには煌びやかな衣装をまとったユリウス王子とルーナ姫が優雅に歩いていました。
ルーナ姫のその美しさに、シャルルは見惚れていました。
その様子を見ていたアストは、くすくすと声を潜めて笑っていましたが、シャルルはそのことに気づくことはありませんでした。
一方、ルーナ姫はというと。
――シャルル様は……あ、あそこに
歩きながら、シャルルの姿を探していました。
やっとその姿を見つけたとき、ルーナ姫もまた、シャルルの凛々しさに見惚れてしまいました。
その様子を横目に見ていたユリウス王子は、年頃の娘らしい妹のその反応に微笑みを浮かべていました。
二人が上座に到着すると、今度は隣国の来賓であるプラナ姫の到着を告げる声が高らかに響きました。
再び、視線を出入り口の方へ戻すと、そこにはルーナ姫に勝るとも劣らない姫がいました。
彼女こそ、隣国の美姫、プラナ姫です。
プラナ姫はホールに入るや否や、他の貴族たちからのあいさつを無視して、まっすぐにユリウス王子の元へと向かっていきました。
「ユリウス王子!!」
プラナ姫はユリウス王子の名前を呼びながら、突然、ユリウス王子に抱き着きました。
一国の姫として、そのようなことは許されるものではありませんが、プラナ姫がユリウス王子にぞっこんであることは、周囲でも有名な話であったためでしょうか、それとも、咎めてやめるようなら、もうやめているからでしょうか。
従者たちはプラナ姫を咎める様子がまったくありませんでした。
もっとも、抱き着かれている当の本人と、その妹は別のようで。
「だから、いちいち抱きついてくなって」
「プラナ、そろそろ乙女の恥じらいを考えなさい?いくら兄上への愛が溢れすぎていても、時と場所を考えないと、いやらしい女に見られるわよ?」
「あ~ん!ルーナの意地悪~!!」
「本当のことを言っているだけでしょ?チェリムの苦労もしらないで」
親友であり、将来、義妹になるかもしれないルーナ姫にそう言われ、さすがのプラナ姫も黙ってしまうのでした。
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来賓がすべて揃ったところで、改めて乾杯の音頭がなされ、招待客は各々の相手と会話をしていました。
なお、シャルルの近くにいたアストは、プラナ姫が入場するや否や、彼女の近くに控えていた侍女のチェリムのほうへと向かっていき、二人きりの会話を楽しんでいました。
その結果、シャルルは一人、この賑やかな空気の中を過ごしていたのですが、そんなシャルルに声をかけてくる女性がいました。
「ここにいらしたのね、導師様」
「いや……ですから、私は導師なんて器では……って、今日だけで何度言わせるんですか、姫様」
「うふふ、ごめんなさい。ついからかいたくなってしまったの」
声をかけてきた女性は、言わずもがな、ルーナ姫でした。
ルーナ姫は困惑しているシャルルの顔を見て、くすくすと愛らしい微笑みを浮かべていました。
「けれど、驚いたわ。まさか、導師の剣を引き抜いてしまうなんて」
「それは抜いた本人が一番びっくりしてます」
「そうでしょうね……けれど、私は少しほっとしていますの……だって、あなたのような民草を思いやる方が導師様なら、きっと、この世界を争いのない、平和な世界へと変えてくれるでしょう?」
ルーナ姫の問いかけに、シャルルははっきりと答えることはできませんでした。
それは、導師が背負う宿命と責任を知っているがゆえのことであり、はたして、自分にそれを背負うことができるかどうか、不安があったからです。
けれど、シャルルは。
「はい。きっと、そうなるように努力すると思います」
と、ルーナ姫の期待に応えられるよう、その答えを返しました。
その言葉を口にしたシャルルの顔を見た瞬間、ルーナ姫の顔は真っ赤になりました。
それと同時に、ホール脇に控えていた楽団が、ワルツを奏で始めました。
美しい旋律を耳にしながら、周囲の貴族は思い思いの相手にダンスの申し出をし始めました。
むろん、プラナ姫とユリウス王子もダンスに参加するようです。
それを見たルーナ姫は、勇気を出してシャルルに問いかけました。
「……シャルル様。どうか私と一曲、踊ってくださいませんか?」
「え……はい、拙い身ではありますが、よろこんで」
差し出されたルーナ姫の手に、自分の手を添え、シャルルはルーナ姫と共にホールの中央へと進んでいきました。