ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~   作:風森斗真

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再びのコラボ回。
今回はえりかがちょっとひどい目に合います。
まぁ、前回のHugっと!で出てきた天才デザイナー(笑)のセリフにインスピレーションを受けたからってのが大きいですが。


えりかの災難

「……降りてこない、降りてこないぃぃぃぃ……」

 

とある日、えりかは神社の境内で頭を抱えていた。

どうやら、新しい衣装のデザインが浮かばないらしい。

 

「うぅ……出てきたと思えば骨に積もる雪のように隙間から逃げてく……」

 

ハロウィン定番の某クレイアニメの主人公の歌の一節を口にしたえりかだが、突如、はっ、と顔を上げた。

 

「ま、まさかこれは妖怪の仕業??!!」

「んなわけあるか」

 

えりかの突然の叫びに、呆れた、といわんばかりのツッコミが入った。

声がしたほうへ視線を向けると、そこには呆れ顔をした菖の姿があった。なお、今の菖は袴姿。どうやら、神社の仕事の手伝いをしているようだ。

 

「でも!出てきたと思った端からアイデア消えてくんですよ?!これは、妖怪アイデア食いの仕業……」

「んな妖怪、いるわけない。出てきたと思ったその瞬間に書き留めとかないから忘れちまうってだけだ」

「えぇ~……」

「そもそもな、なんでもかんでも妖怪の仕業にするなよ。妖怪が人間に何かする時ってのは、人間が妖怪の領域(テリトリー)を侵した時だけだぞ」

 

忘れがちではあるが、菖はいわゆる視える体質の人間であり、その体質ゆえに、人ならざるものと友好関係を結んでいた。

菖がたったいま言った言葉は、その友人の一人がいつか愚痴っていた言葉だった。

だが、それは菖もまた感じていたことだったようだ。

 

「最近はなんでもかんでも妖怪のせいにしやがって……大半は手前(てめえ)のせいじゃねえか」

「ぶぅ~……んじゃ、あたしはどうすればいいんですかぁっ!!」

 

正論と言えば正論であるため、言い返すことができず、えりかはやけくそになって叫び声をあげた。

だが、その叫びすらも。

 

「はいはい、ひとまずはお静かに願いますよ」

 

と、ぞんざいに扱われる始末だった。

どうやら、よほど腹に据えかねているらしい。いつもなら、頑張れとか、一言応援してくれるのだが、それすらないことがその証拠だ。

菖からアドバイスをもらえないことを理解してえりかは、そっとため息をつき、空を見上げた。

が、風に流れる雲を見つめていても、透き通る初夏の青空を見つめていても、アイデアが降りてくることはなかった。

 

----------------------------

 

夕方になって、菖から帰れと言われて、強制的に家路につかされたえりかは、とぼとぼと歩いていた。

結局、あれからずっと考えていてもいいアイデアが浮かんでこなかったのだ。

 

――今日もだめだった……ここ最近、全然、浮かんでこないよ……いつもならこんなことないのにぃ……

 

実のところ、スランプは誰にでもあることなのだが、えりかは今まで、スランプらしいスランプを抱えたことがなかった。

そのため、本人はまったく信じていないというのに、妖怪のせいにしたくなるほど追い詰められていた。

そんな中、ふと、前を見ると。

 

「……あれ?」

 

なぜか霧が立ち込んでいた。

心なしか、暗いようにも思えるが、日暮れ時にだったからこんなものだろう、と対して気にすることもなく、えりかは家路を急いだ。

しかし、徐々におかしいということに気づき始めた。

進めども進めども家につく気配がないのだ。

 

――あっれ~?おかしいな、そろそろついてもいいころなんだけど……

 

そんなことを考えていると、少し前のほうに和服を着ている老婆の姿が目に入った。

 

――ちょうどいいや、あのおばあさんに聞いてみよ!

 

そう思いたつやいなや、えりかは老婆に近づき。

 

「こんばんは、おばあちゃん!ちょっと道を聞きたいんだ、け、ど……」

 

と、老婆の前に出て問いかけたが、その顔は徐々に青ざめていった。

老婆は老婆なのだが、直感で理解できた。

目の前にいるこのおばあちゃんは、人間ではないということが。

取って食われる。

そう思ったえりかだったが、意外な言葉が老婆の方からかかってきた。

 

「なんじゃ?どこへ行きたいというんじゃ?」

「え……えっと、フェアリードロップってお店、なんだ、けど」

「フェアリードロップ?」

 

老婆はえりかの言葉に首を傾げた。

どうやら、フェアリードロップを知らないらしい。

だが、今度はそのことにえりかが首を傾げた。

希望ヶ花市に住んでいて、フェアリードロップとHANASAKIフラワーショップを知らない人はいない。

なのに、目の前の老婆はまるでフェアリードロップを知らないかのようだった。

 

「……おばあちゃん、もしかして、違う町の人?」

「うん?……まぁ、違う町といえば違う町じゃな」

「へぇ~……そういえば、おばあちゃんはどこに行こうとしてるの?」

 

ふと興味を覚えたえりかがそう問いかけると、老婆はえりかが来た方向へ指を向けた。

 

「この先にある神社に、ちと用があったの」

 

指差した方向にある神社と言われて、えりかが思い至るものは菖と仁頼が管理を任されている神社しかない。

 

「あの、その神社、あたし知ってますよ?」

「ほぉ?ということは、菖の坊やのことも知っとるのか?」

「ぼ、坊や?」

 

えりかは突然、自分の頼りにしている先輩が坊や呼ばわりされたことに驚きを隠せなかった。

その様子に、老婆は面白そうに笑みを浮かべた。

 

「なるほど。おぬし、人間じゃな?」

「へ?」

「人間が迷い込むのも珍しい。なに、心配いらん。わしが坊やのところまで送り届けてやろう」

 

何を聞いているのかわけがわからないえりかだったが、老婆はそんなことは知ったことではないといった様子で、えりかの手を引っ張った。

老婆とは思えないその力の強さに、えりかは驚きはしたが、突っ込む余裕もなく、神社まで引っ張られていった。

 

----------------------------

 

神社に到着すると、えりかは目を丸くした。

そこにいたのは、どう見ても人間ではない。かといって、動物ともコフレたちプリキュアのパートナー妖精ともつかない姿のものたちがたむろしていた。

 

「……ま、まさか……」

「お~、来たか!砂かけの!!」

「こっちば~い、はよきんしゃ~い」

「おぉ、子泣き、一反木綿!すまんかったの、遅くなって」

 

呆然とするえりかをよそに、砂かけの、と呼ばれた老婆は蓑をまとった老人と白く長い布がいる場所へとむかっていってしまった。

 

「い、一反木綿って……ま、まさか、ここにいるのって、全部……」

「そう、妖怪だよ……それで?人間の君は何の用事でここにいるのかな?」

 

突然、えりかの背後から少年の声が聞こえてきた。

ぎぎぎ、と音が聞こえそうなほどゆっくりとした動きで、えりかは振り向いた。するとそこには、学生服の上に、虎模様のちゃんちゃんこを着た少年の姿があった。

だが、えりかは直感で理解した。

この少年もまた、人間ではないということを。

 

「え、えっと……み、道に迷って?」

「……なんで疑問形なのかは突っ込まないでおくけど……今の時間は君がいていい時間じゃない。早く帰ってくれないか?」

 

少年が冷たくそう言い放つと、境内中から冷たい視線を感じた。

どうしたものか、考えあぐねていたえりかだったが、そんな彼女に救いの手が差し伸べられた。

 

「なぁにやってんだよ、お前は……」

「……へ?……しょ、菖、さん??」

「はいはい、菖さんですよっと……」

 

半眼になりながら見下ろしてくる、見覚えのある顔にえりかは安堵して。

 

「……しょ(じょ)(じょう)()~~~~~んっ!!」

「おいおい、世界を救った美少女がする顔かよ?」

「だっ()、だっ()~~~~~っ!!」

 

緊張の糸が切れてしまったためか、涙と鼻水ですごい顔になりながら泣きわめくえりかに、菖はため息をつきつつ、ちり紙を差しだし、えりかが落ち付くまでしばらく待つのだった。




あとがき代わりの後日談

~見えないけれど……~
えりか「……で、菖さん。これはいったいどういうことなの?」
菖「夜の神社、妖怪たちにとっては数少ない憩いの場なんだよ」
えりか「へぇ……?はっ!てことは、まさかこの中に妖怪アイデア食いが……」
鬼太郎「いるわけないだろ、そんなの……まったく、菖以外は招いた覚えはないのに……」
菖「すまんな、鬼太郎。だが、今回ばかりは許してやっちゃくれねぇか?」
鬼太郎「まぁ、ほかならぬ君の頼みだからな」
えりか「……ほ、ほんとに妖怪っていたんだ……」
鬼太郎「……失礼だな。見えないけど存在するものだってあるんだ」
菖「シプレやコフレたちがいい例だな。えりかだって、つぼみに会う前はあいつらのことを信じなかったろ?」
えりか「そ、そりは……否定できないっしゅ……」
鬼太郎「だったら、言いがかりはやめてくれ。やってもいないのに妖怪(僕ら)のせいにされちゃたまったもんじゃない」
えりか「うっ……ごめんなさい……」
鬼太郎「わかればよろしい」
菖「……はぁ……普段からこれくらいしおらしかったら、もう少し楽できるんだけどなぁ……」

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