ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
来月中にアニメ本編のお話を出せればと思います。
その日、つぼみたちは紅葉狩りに来ていた。
本当は花見がしたかったのだが、桜の季節はすっかり過ぎてしまっているため、ならば代わりに紅葉狩りにしよう、というえりかの提案で、五人は紅葉狩りを行うことになったのだ。
とはいえ、あまり遠くに行くことはできないので、希望ヶ花市近くにある一際きれいな紅葉が見られる山に来ていた。
今は、少し開けた場所でレジャーシートを敷いて、五人と四匹でお昼ごはんを堪能していた。
「いやぁ、それにしても……」
「うん……」
「はい……」
「「「おいしいですぅ/ですっ/でしゅっ!」」」
えりかとつぼみ、そしていつきとパートナーの妖精たちは、菖が作って持って来てくれたお弁当のおいしさに感動していた。
なお、お弁当はそれぞれが作って来ることにしていたはずなのだが、持ってきたのはつぼみといつきと菖とゆりの四人だけで、えりかはお弁当の準備すらしてこなかったらしい。
そのことでゆりにお説教をもらったのだが、それはまた別の話。
菖のお弁当は、もちろん、つぼみたちだけでなく、ゆりとコロンも口にしていたのだが、その顔つきは中学生組と異なり、真剣なものだった。
「……菖、君も大概、乙女心を壊すよねぇ」
「そうね……」
「……うん?どういう意味だ、コロン??ゆり??」
「そのまんまの意味だよ?」
「……どうしてこうも美味しく作れるのかしらね?」
菖の作ってきたお弁当を食べながらゆりは、羨ましい、と言いたそうな顔で菖をにらみつけていた。
その視線に、菖は冷や汗を伝わせながら。
「知らない」
と答えるのが精いっぱいだった。
もっとも、そんな答えで納得する乙女たちではない。
「あ、あの、できれば秘訣を……」
「教えてくれないと、もも姉ぇに言いつけるぞ~?」
「やっぱり、なにかコツがあるんですか?」
「そのあたり、全部教えてくれないと……ひどいわよ?」
「……勘弁してつかぁさい……」
四人からの視線にすっかり威圧されてしまい、菖は顔面を真っ青にして、そう返すのが精いっぱいだった。
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その後、どうにかゆりたちは落ち着きを取り戻し、菖も威圧感から解放され、安堵していた。
もっとも、それを抜きにして。
「それで?どんな秘訣があるのかしら?」
料理がどうしたらうまくなるのか、その秘訣を聞くことは忘れていないゆりさんたちであった。
菖はそのしつこさにいい加減辟易し、仕方ないといった様子で教えることにした。
「特別なことは何もしてないよ」
「……そんなことないでしょ?」
「ほんと。味見をちゃんとすることと、少し薄味にすることくらいかなぁ」
「そんなことなの?」
菖の口から出てきた秘訣に、えりかは目を丸くした。
えりかが想像していたのは、特殊な調味料を使うことや食材に何か仕掛けをすること、あるいは料亭でやっているような仕込みを模倣しているというものだった。
だが、予想とまったく違う秘訣に、拍子抜けしてしまったようだ。
「薄味にしとけば、あとから自分で好きなように調整できるし、なにより、塩分や当分の過剰摂取を避けることにもつながるからな……ばぁばからの知恵だよ」
ばぁば、というのは、今は亡き菖の祖母のことだ。
菖が小学校にあがってから間もなく、川を渡ってしまったが、それまでに菖は様々な知恵を彼女から教えてもらった。それだけでなく、彼女は菖や、将来、菖のお嫁さんになる人に向けて、様々な知恵を伝えようとノートを残してくれていた。
その中に、料理のレシピも存在していたのだ。
レシピの中には必ず、味見をすることと薄味に仕立て好みで調整すること、という文言があるのだ。
「けど、それだと好みにあった味になって決しておいしいとは……」
「そこはそれ、一般的なレシピを見てそれに合わせるだけ」
「基本に忠実に、ということですね」
「そういうこと」
「えぇ~……なぁんか、それってつまらないっしゅ」
ゆりがきれいにまとめたというのに、えりかは文句をたれていた。
そんなえりかに、ゆりではなく菖がお説教を開始した。
「えりか?そんなこと言って、基本をおろそかにした料理がどれだけまずいかわかるか?下手をすれば破壊兵器になるんだぞ?」
「……へ?」
「もちろん、食材を洗剤で洗うなんて言語道断だ。だがそれだけでなく、調味料と使った食材の相性、食材の切り方、火を入れる順番。そういう一つ一つの細かいものを大切にしていかないと、料理ってのは一瞬で崩壊するもんだ」
「え、えぇっと……菖さん?」
「そもそも、調理ってのは世界共通の文化であり、人間が共有し受け入れることのできるものであって……」
くどくど、くどくど、くどくど、くどくど。
菖のあまりのマシンガントークぶりに、えりかは反論を許されず、正座の状態でしおらしくなっていた。
「……始まっちゃったわね」
「菖さん、なんだかすごいです……」
「文化のことになったりすると、菖さん、ほんとにすごいよね……」
菖がえりかを説教している姿を横目に、ゆりとつぼみ、いつきの三人は妖精たちと一緒に残った料理に舌つづみを打っていた。
「まったく……えりかも変に口答えしなかったら、今頃菖の料理を堪能できてたのに」
「「あ、あははは……」」
「でもそれがえりかですっ」
ゆりが呆れながらつぶやくと、つぼみといつきは苦笑を浮かべ、コフレは卵焼きをほおばりながら、ゆりにそうツッコミを入れていた。
あとがき代わりの後日談(スキット風)
~昼食後~
えりか「……や、やっと解放されたっしゅ……」
つぼみ「えりか、今回ばかりは自業自得です」
いつき「あははは……ところで、コロン。なんで僕の肩に?」
コロン「あんな状態のゆりの近くにいるのは無粋ってもんだと思うよ?」
シプレ「どういうことでしゅ?」
コロン「ほら」
いつき「……菖さんとゆりさんが並んで歩いてる……」
えりか「傍から見たらカップルみたいっしゅ」
つぼみ「……」Σ(゚д゚lll
いつき「あ、つぼみがしぼんだ」
えりか「つぼみだけに?」
つぼみ「……こんな状況じゃ笑えないです……」lll )