ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
というわけで、久方ぶりの原作準拠の本編投稿。
内容はタイトルの通りです。
本来なら、生徒会のことが少し出てくるんですが、あくまでも主人公は菖なので、省略しているシーンがございますが、そこはご愛敬ということで。
ひとまず、本編どうぞ。
その日も、ブロッサムたちはデザトリアンとの戦闘を繰り広げていた。
ブロッサムがポストの姿をしたデザトリアンを投げ飛ばすと、マリンが追撃し、近くにあった大木の幹に叩きつけた。
その様子を少し離れた場所からサソリーナが見ていた。
「あ~んっ!もぅっ!!しっかりしなさい、デザトリアン!!」
「よそ見してる暇が」
「あると思って?!」
「なっ?!キャーーーーーーーーーッ!!」
ブロッサム、マリン、サンシャインの三人に一方的にやられているデザトリアンの姿を忌々しそうに見ながら、目くじらを立ててけなしていると、ムーンライトとセイバーの同時攻撃がサソリーナを襲った。
あまりに突然のその一撃に、サソリーナは抵抗する暇もなく吹き飛ばされ、デザトリアンの腹の上に着地した。
起き上がりながら、怒りにふるふると震え、サソリーナは奥の手であるアイテムを取りだした。
「こうなったら……ダークブレスレット!!闇に染まり、ダークな心に支配されるがいい!!」
ダークブレスレットは、激化するプリキュアとの戦いのなかで、少しでも有利に働くことができるよう、サバーク博士が開発した闇の力を増幅させるアイテムだ。
その能力は、装着者の力を飛躍的に向上させるだけでなく、装着者がデザトリアンと合体することで、その力も向上させることができるというものだ。
当然、闇の力をさらに引き出すために、デザトリアンの核となる心の花には大きな負担が伴うことになる。
そのため、コロンが守っている水晶の中に閉じ込められた人物は、苦しそうにうめき始めた。
「みんなっ!!」
コロンが叫ぶと同時に、デザトリアンにも変化が現れた。
どちらかといえば、無表情でどこか可愛さを感じる顔つきから一転、その表情は攻撃的なものとなり、先ほどの体つきよりも筋肉が太く、固くなり、より攻撃性を増していた。
《こうなったら、一気に勝負をつけてや……》
「やれるもんなら、やってみろ!!」
サソリーナのセリフの途中で、セイバーが間合いを詰め、エターニアハートを振り下ろしてきた。
普通のデザトリアンであれば、いまの一撃を回避することはできない。
が、ダークブレスレットによって強化され、そのうえ、サソリーナと合体している状態のいまは、その一撃をなんなく回避し、反撃につなげることができた。
《あまいわん!!》
「「そっちがねっ!!/甘いのはそちらですっ!!」」
「「隙ありっ/っしゅっ!!」」
《なっ??!!うあぁぁぁぁぁぁっ!!》
突然、真上から浄化の光が雨のように降り注ぎ、デザトリアンとサソリーナにダメージを与えた。
どうやら、セイバーは囮で、本命は上空へと飛び上がったブロッサムたちだったようだ。
四人からの一斉攻撃を受け、デザトリアンは膝をつき、体勢が崩れた。
ブロッサムはそれを見逃すことなく、マリンとサンシャインに合図を送った。
その合図に二人が答え、サンシャインが動いた。
「プリキュア!ゴールドフォルテ・バースト!!」
サンシャインの頭上に、太陽のように赤々と燃える心の花の光が出現すると、ブロッサムとマリンは同時にタクトに心の花の力を込めた。
「「集まれ、二つの花の力よ!プリキュア!フローラルパワー・フォルテッシモ!!」」
二人は心の花の光をまとうと、まっすぐにサンシャインが作りだした太陽へと突進した。
太陽の中で、二人は燃えることはなく、むしろ、その輝きを体にまといさらに力強い光となった。
「プリキュア!シャイニング!!」
「「フォルテッシモ!!」」
金色の光となったブロッサムとマリンがデザトリアンにむかっていくと、金色のハートマークを胸に残し、デザトリアンの背後に擦り抜けた。
「「「ハート、キャッチ!!」」」
三人が同時に叫ぶと、デザトリアンの背後に桜とコスモス、そしてひまわりの花が出現し、くるくると回りながら、優しい光を放ち、デザトリアンを包みこんでいった。
『ぽわわわ~』
《ぽわわわ~……はっ!!ま、まずい!!》
デザトリアンと合体していたサソリーナは、三人の合体技を受けて、浄化されかけたが、すぐに脱出し、難を逃れた。
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砂漠の使徒の本拠地へと逃げ帰ったサソリーナは、砂漠にぽつんと存在している岩の上に腰かけ、月を見つめていた。
そんなサソリーナの背後には、クモジャキーとコブラージャがいた。
サソリーナもその気配に気づいていたのだろう。
月を見上げたまま、背後にいた二人に問いかけた。
「ねぇ、あたしたち、このままでほんとにいいのかしらん?」
「なにっ?!」
「何を言ってるんじゃ!サソリーナ!!」
サソリーナからの突然の一言に、コブラージャもクモジャキーも驚愕の声を上げた。
二人のその声を聞いて、サソリーナは、やるべきことはわかっている、と言って、姿を消してしまった。
サソリーナが姿を消すと、コブラージャとクモジャキーは顔を見合わせた。
「どういうことぜよ……」
「理由は察しが付く。サソリーナは、プリキュアどもの浄化の光を受け過ぎたんだ」
ダークブレスレットを受け取ってからというもの、サソリーナの出撃回数はコブラージャとクモジャキーよりも多くなり、必然的にプリキュアと戦う回数も増えた。
その結果、プリキュアとセイバーの浄化の光を自身が浴びる回数も増えてしまい、徐々にサソリーナの心の闇は浄化されていったのだ。
「これはゆゆしき事態ぜよ」
「珍しく意見が合うね……僕も同感さ」
さて、どうしたものかな。
コブラージャは空を見上げ、今後、サソリーナの処遇をどう提案するべきか、そして、今後、自分はどう立ちまわるべきか、そのことに思いをはせていた。
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数日して、明堂学園中等部校舎の屋上では、
その会話の中に出てきた突然の宣言に、えりかは驚愕の声を上げた。
「えーーーーーーっ??!!い、いつき、生徒会長辞めちゃうの??!!」
「うん。これから砂漠の使徒との戦いも激しくなっていくだろうから、そっちに集中できるように、と思ってね……それに、僕の任期もそろそろ終了だし」
「そんなぁ……」
いつきの突然の宣言。それは、生徒会長の引退宣言だった。
実際、ここ最近の砂漠の使徒の攻撃は激しさを増していた。
こちらも、キュアムーンライトとユグドセイバーという頼もしい先輩たちが戦力として加わってくれたことに加え、ハートキャッチミラージュという力も手にいれた。
だが、生徒会もプリキュアも
だから、任期を終える今を機に、思い切って生徒会から身を引くことを決意したのだ。
いつきがそう話すと、えりかも納得してくれたようで。
「……いつき、でもこれだけはわかって!いつきが生徒会長やってくれたおかげで、この学校は前よりもずっといい学校になったんだよ!それだけは忘れないで!」
と本当に残念そうに話していた。
えりかからの言葉に、いつきはにっこりと微笑みながら、ありがとう、とお礼をいうのだった。
その頃、高等部の屋上では、菖とゆりが二人で並んで座っていた。
今日はどうやらももかは仕事でいないらしく、二人がいる場所にしては珍しく、あまり騒がしい気配はなかった。
「……そういえば、そろそろ生徒会選挙だったな」
「……いつきはどうするのかしら?」
「さぁ?なにを選択するにしても、それはいつきが選んだことだ。俺たちがどうこう指図するいわれはないだろ」
「……それもそうね」
お人よしが服を着て歩いている、と称されるほど菖は人が好い。
だが、菖は人が選んだことに対してとやかく言うことはないし、その選択の結果、その人がどうなるかわかっていても、止めることはしない。
自身が選んだ道、その結末を受け入れる覚悟があると判断しているからだ。
だからこそ、ゆりがプリキュアになることを選んでも、何も言うことはなかったし、いますぐやめるよう、言うこともなかった。
今回も同じなのだが、いつきだから大丈夫、という信頼が大きいことは否定できないし、菖自身も否定するつもりはなかった。
「……さて、そろそろ」
行こうか、と言おうとした瞬間。
菖はなにかとてつもない気配を感じ取った。どうやら、その気配はデザトリアンのものだったらしく。
「ムーンライト!セイバー!!デザトリアンだ!!」
ゆりのカバンの中から、コロンが小声で二人に伝えてきた。
コロンの報告を聞いた二人は顔を見合わせ、互いにうなずき、周囲に誰もいないことを確認してから変身アイテムを取りだした。
「プリキュアの種!いくぞ!!」
「プリキュア!オープンマイハート!!」
「心力解放!ユグドセイバー、スタートアップ!」
「月光に冴える、一輪の花!キュアムーンライト!」
「大樹の騎士!ユグドセイバー!!」
二人が同時に変身すると、コロンはムーンライトの肩に捕まり、マントに変身した。
「セイバー!」
「すまん!!」
ムーンライトはセイバーに手を差しだすと、セイバーはその手をしっかりと握り、ムーンライトと一緒に空へと飛び上がり、デザトリアンの気配を感じた中等部校舎の方へと向かっていった。
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中等部の校舎に到着した二人は目の前に広がっている光景に驚愕した。
「な、なんだこれ……」
「これはさすがにびっくりね……」
そこにいたのは、まるごとデザトリアンになってしまった校舎だった。
周囲を見回すと、ブロッサムたちの姿が見えなかった。
「……ブロッサムたちは?」
「わからないわ!……まさか、まだ校舎の中に?!」
ムーンライトが慌てた表情でデザトリアンの方へ視線を向けたが、どうやら、危惧しいたことは杞憂だったようだ。
「「「プリキュア!オープンマイハート!!」」」
デザトリアンから少し離れた場所で、三種類の光が輝くと同時に、つぼみたちの声が聞こえてきた。
どうやら校舎内にいた生徒たちを避難させてから、脱出したらしい。
ムーンライトとセイバーは安堵のため息をついた。二人はブロッサムたちと合流すると、屋上の方から、サソリーナの声が聞こえてきた。
「プリキュア!ユグドセイバー!!今日こそ決着をつけてやるわん!!」
「なんか、いやに自信たっぷりだな……」
「何があるかわからないわ。みんな、気をつけて!!」
セイバーが普段と違うサソリーナの様子に気づき、ムーンライトが警告を飛ばした。
だが、それに答える間もなく、デザトリアンが攻撃を仕掛けてきた。
とはいえ、その身体は校舎であるため、いつものように体を動かすことはできない。そのため、いつもよりも巨大な腕を振り下ろし、ブロッサムたちを叩きつぶそうとしてきた。
「ぐっ……ぬぅっ!!」
「お、重いぃ……!!」
「さすが、校舎のデザトリアンだけあるね!!」
「そ、それだけじゃなさそうです!!」
「ブロッサムの言うとおりよ……いつもより、闇の力が濃いわ!」
振り下ろされた腕を受け止めながら、ムーンライトはサソリーナの方へ視線を向けた。
そこには、三つの宝玉が装飾されたダークブレスレットがあった。
どうやら、コブラージャとクモジャキーから借り受けたらしい。
もっとも、サソリーナへの負担も大きいらしく。
――くっ……三倍のパワーがあるとはいえ、そろそろ厳しい!!
その顔は苦悶の表情を浮かべていた。
「さ、さっさと諦めて、降参しなさい!!」
「……そんなわけには!」
「いかないっしゅ!!」
サソリーナは苦痛に耐えていることを悟られないよう、早期決着のため、降参をすすめてきた。
だが、ブロッサムとマリンは必死に体を支えながら、それを拒否した。
同時に、二人の声に応えるように、セイバーとムーンライトの声が響いた。
「プリキュア!シルバーインパクト!!」
「セイバーインパクト!!」
二人の技が同時に炸裂し、わずかではあるが、デザトリアンの腕が宙へと浮いた。
その隙に、ブロッサムたちはデザトリアンの手の下から抜け出した。
「わたしたちは諦めません!たとえどれほど強大な敵が立ちはだかっても!!」
「仲間と一緒に、乗り越えてみせるっしゅ!!」
「それが、わたしたちの答え!!」
ブロッサムとマリン、サンシャインの三人に言いたいことを全部言われてしまったムーンライトとセイバーは、三人のその頼もしさに微笑みを浮かべ、再びサソリーナのほうへ視線を向けた。
「みなさん!一気にいきましょう!!」
ブロッサムがそう叫ぶと、手のひらにパワーアップの種が浮かんできた。
どうやら、一気に決めるつもりのようだ。
「「「「「ハートキャッチミラージュ!!」」」」」
「「「「鏡よ、鏡!プリキュアに力を!!」」」」
「鏡よ、大樹の騎士に力を!!」
パワーアップの種をハートキャッチミラージュにセットし、祈りをささげると、鏡面から五色の光があふれ、五人を包みこんだ。
「「「「世界に広がる、一面の花!ハートキャッチプリキュア!スーパーシルエット!!」」」」
「世界を救いへ導く光!ユグドセイバー!レイディアントシルエット!!」
光の中で、ブロッサムたちはウェディングドレスを思わせる純白のコスチュームに、セイバーはウェディングスーツを思わせるコスチュームへと姿を変えた。
そして、セイバーの手には、本来の姿となったエターニアハートが握られていた。
さらに強い浄化の光をまとったブロッサムたちとセイバーのうち、最初に動いたのはセイバーだった。
セイバーは心の花の力をエターニアハートに注ぎこみながら、サソリーナへと向かっていった。
サソリーナに激突する寸前、セイバーは右手を心の花の光とともに突き出し、彼女の背後へとすり抜けた。
同時に、ブロッサムたちも心を一つに合わせ、自分たちの武器に心の花の力を注ぎこんだ。
すると、彼女たちの背後に桜色の長い髪をした、純白のローブをまとった女神が出現した。
「「「「花よ、咲き誇れ!!プリキュア!ハートキャッチ・オーケストラ!!」」」」
女神は、ブロッサムたちの心の花の力を受け取り、その拳に集め、デザトリアンに叩きつけた。
それと同時に、セイバーはエターニアハートを振りかざし、サソリーナを切り伏せると同時に、込めた心の花の力を解放した。
「俺のすべてで、悪しきを断つ!ハートライト・レイクエム!!」
ほぼ同時に五人分の浄化の光を受けたサソリーナは、自身の負けを認め、その光に包まれていった。
光が収まり、デザトリアンが浄化されて校舎に戻ると、倒れ伏したサソリーナを抱きかかえてながらサソリーナに呼びかけるクモジャキーと、立ったまま無感情な瞳を向けるコブラージャの姿があった。
「……なによ、来てた、のね……」
「もう何もしゃべるな。
普段は互いに罵り合っているというのに、クモジャキーはサソリーナにねぎらいの言葉を送っていた。
サソリーナはそれを茶化すことなく、借り受けていたダークブレスレットを二人に差しだした。
「……あとは、よろしく、ねん……」
「……あぁ。確かに、受け取ったぜよ」
「任せておけ」
「ふふっ……ありが、とう……」
ダークブレスレットを受け取ったクモジャキーとコブラージャは、サソリーナを見つめたままそう告げると、サソリーナは満足そうな微笑みを浮かべ、消えていった。
サソリーナと入れ替わるように、クモジャキーの前にカタクリが閉じ込められた水晶が宙に浮かんだ。
「カタクリ……花言葉は『嫉妬』『寂しさに耐える』……」
「砂漠の使徒にも、心の花があったなんて……」
サソリーナの正体が心の花であることに驚愕していたブロッサムとマリンがそんなことをつぶやいていると、カタクリはまるで自分の体を求めるかのように、姿を消した。
それを見届けたクモジャキーとコブラージャは、ブロッサムたちにいつも以上に敵意がこもった視線を送りつけ。
「この仇、必ず」
「せいぜい、油断しないことだね」
そう言い残して、その場から去っていった。
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それから少しして、飛んでいったカタクリの心の花は、とある森の中の療養所のベッドの上でたたずんでいた。
そこには、サソリーナに似ている女性が静かに眠っていた。
カタクリの花が、すっと、その女性の体に入りこんでいくと、女性は何年かぶりに目を開けた。
「あれ……わたし……」
何をしていたんだっけ、と窓の外へ視線を向けると、遊びに来ていた小鳥が窓から入りこんできて、女性に擦り寄ってきた。
その愛らしい様子に、かすかに微笑みを浮かべると、小鳥は窓の外へと飛んでいった。
「……なんだか、長い夢を見ていた気がする……」
どんな夢だったのか、それは思い出せないけれど。
女性は、窓の外に広がる大空を見上げながら、そうつぶやいた。
あとがき代わりの後日談(スキット風)
~数日後、植物園ぬいぐるみ館にて~
いつき「無事に、一二三くんが生徒会長として当選したよ」
えりか「そりゃ、あの騒動のあとに真面目に片付けしてるところ見せられたらねぇ」-3-)
つぼみ「浮ついた気持ちじゃなくて、ちゃんと学校と生徒みんなのためにできることをやろうとしている気持ちがみなさんに通じたんですね!」
菖「ま、いつきのほうはひとまず、肩の荷が下りたってところかな?」
いつき「はい……でも、いざやめてみると、感慨深いものがありますね」
ゆり「これからは見守っていく側になるけれど、間違っていると感じたところは、ちゃんと言っていかないとだめよ?」
いつき「はい!」(^^
菖「……けど、やっぱいつきの人気はそのままなんだよなぁ……」
つぼみ「はい……」(・ω・;
えりか「うん……」(--;
(プレゼントの山。すべていつき宛て)
いつき「う~ん……どうして僕なんかに……」(^^;
菖「……まぁ、悪意はないんだろうから、受け取っておけばいいんじゃないかな?その人達の好意の表れなんだし」
いつき「は、はい……」