ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~   作:風森斗真

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裏側で何があったのか?
それは私も知りたいです(´-ω-`)
あ、ちなみにあとがき代わりスキットは没案です。


執事姿の騎士の受難

クラスメイトの頼みで、一週間、喫茶店のバイトを代打で行うことになった菖は、四日間でなぜか数名のプリキュアたちの相手をしていた。

つぼみたち(ハートキャッチ組)なぎさたち(MH組)、そして咲と舞(S☆S組)はまだよかったのだが、四日目にやってきたのぞみたち(5GoGo組)のせいで、精神に相当なストレスがかかってしまった。

だが、菖はここで一つ、疑問を抱いた。

なぜ、プリキュアたちがこぞって喫茶店に来るのだろうか。

地元に住んでいるゆりたちはまだわかる。

だが、離れている場所に住んでいるなぎさたちまでここにやってきたのか。

その疑問を解く鍵は、ハートキャッチ組きってのお調子者であるえりかにあった。

「……それで、えりか?なにか弁明は?」

「菖さんがいる間、お店の売り上げに貢献してあげようかと思って、プリキュアのみんなに連絡回したっしゅ……」

昼休みの屋上。

ゆりは昨晩のうちに菖からつぼみたちだけでなく、なぎさたちやのぞみたちまで来たことを聞いていたため、どういうことなのか、つぼみたちを問い詰めることにした。

ゆりの尋問に、えりかはすっかりしおらしくなって返した。

予想通りといえば予想通りの返答に、ゆりはため息をつくしかなかった。

「……はぁ……まったく……」

「け、けどゆりさん。売り上げが上がるのはいいことなんじゃ……」

フォローしようと、つぼみが恐る恐るといった感じでゆりに問いかけた。

だが、ゆりは冷たい視線をつぼみに向けて、きっぱりといいはなった。

「そうね、お店に(・・・)とっては(・・・・)、それがいいのかもしれないけれど、菖の精神的負担は考えなかったのかしら?」

「え?」

「……つぼみやいつきはともかく、えりか。あなた、お店で調子に乗って変なことしてないでしょうね?」

「そ、そりは……釘刺されたのでなにもしなかったっしゅ」

ゆりからの問いかけにそう返したえりかだったが、ゆりは普段の行いからあまり信用していないらしく、視線でつぼみといつきに問いかけた。

問われた二人は、本当に何もなかった、とジェスチャーで伝えると、ゆりはうなずいた。

「そう。それならいいのだけれど、果たしてなぎさたちはどうなのかしら?」

「へ?」

出入り禁止(出禁)をもらうほど食べたり、菖が執事姿だってことをいいことに無理難題を押しつけたり……もしかしたら、学校を辞めて執事の修行をさせられるかもしれないわよ?そうなると逆に菖に迷惑がかかるとは思わなかったの?」

いずれも、可能性としてはなくはない話だ。

いや、一番最初に出てきたものは、菖が代打とはいえバイトをしていることを知れば、奢ってもらえる、という期待をする子たちもいるだろうから、起こりうる事態として、可能性は最も高い。

加えて、ありえない、と思いたいのだが、大企業の令嬢がいる以上、執事の人員補給という意味で、菖をスカウトするかもしれない。

「そ、それは考えてなかったっしゅ……」

ゆりからの指摘に、えりかは少しばかり顔を青くした。

もしかしたら、自分がしたことで、菖の未来を変えてしまうかもしれない。

そのことに思い至ったのだ。

だが、時すでに遅し。

「こうなってしまった以上、あとは菖の運に任せるしかないわ」

それが、直接、関わることのできない自分たちにできる、唯一のことだった。

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ゆりがつぼみたちに尋問をした日の放課後。

アルバイト代打の五日目である。

この日、菖の目の前にはラブたち(フレッシュ組)みゆきたち(スマイル組)がいた。

何でいるのさ、と問いかけたくなる衝動を抑えて、菖は穏やかな笑みを浮かべながら。

「お帰りなさいませ、お嬢様方。奥の席が空いております。まずはそちらでごゆるりと」

と、なぎさたちも座った席へと案内した。

その道中、みゆきがあまりにも落ち着きなく、周囲を見まわすものだから、案の定。

「ふべっ??!!」

盛大に、顔から床にダイブした。

それを見た、というよりも見てしまった菖は、みゆきの前で片膝をついて、そっと手を差し伸べた。

「大丈夫ですか?みゆきお嬢様。さぁ、お手を」

「……は、はい……」

穏やかな微笑みを浮かべながら差し伸べられた菖の手を取り、みゆきは顔を赤く染めた。

当然、年頃の乙女である周りもそれにつられて顔を紅くして、黄色い悲鳴をあげたのだが。

「……お嬢様方、お屋敷の中ではお静かに。淑女(レディ)たるもの、場をわきまえてくださいませ」

と、菖がそう忠告する羽目になってしまった。

忠告された少女たちは、言葉を詰まらせ、すみません、と謝罪するのだった。

その謝罪を聞き入れた菖は、微笑みを浮かべてメニューを取り出し、ラブたちが座ったテーブルに置いた。

メニューを開いたラブたちは、どれを注文しようか、和気あいあいと話し合っていたのだが、菖はなおとラブの二人に近寄り。

「なおお嬢様、ラブお嬢様。節度をわきまえたご注文をお願いいたします……度を越した注文をされては、わたくしも対応に困ってしまいますので」

と、耳元でやんわりと忠告されたため、ラブとなおはあまり注文することができなくなってしまったらしい。

なお、二人の顔は赤くなっていたのだが、それが自分たちの大喰いのことを指摘されたからか、それとも、普段と違う低い声に驚いたからなのかは、定かではなかった。

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それからして、今度は、響たち(スイート組)マナたち(ドキドキ組)の九人が菖の前に現れた。

だが、響たちはともかく、なぜかマナたちは来るような気がしていた菖は、あまり動揺することなく、ゆりとももかが来店して以来の穏やかな気持ちで席へ案内することができた。

なお、ありすの傍らにはセバスチャンがいたのだが、喫茶店に入った以上、彼も客人であるため、菖はセバスチャンにも席を勧めた。

だが、案の定、断ってきた。

「いえ、わたくしは……」

「セバスチャン殿。貴方様もまた、当屋敷のお客人でございます。なれば、たとえ仕える主が同席している場であっても、その方と同等に扱うことが礼儀と心得ます」

そう言われてしまっては、セバスチャンも座らざるを得なくなってしまい、ありすたちとは少し離れたテーブルに座ることとなった。

その様子を見ていたマナたちは、目を輝かせながら感嘆のため息をついていた。

「すごいね、菖さん……セバスチャンさんを丸めこんじゃった……」

「さすが、菖兄さん……このまま考古学者の道を歩かせるのは惜しいかも」

響の感想に、アコは口をへの字に曲げてつぶやいていた。

実のところ、アコは以前、菖とゆりを専属の近衛騎士として雇おうかどうしようかと真剣に悩んでいた時期があった。

だが、二人から。

『焦って決めることじゃないし、本当に自分たちに近衛騎士としての資質があるかどうか、アコがもう少し大きくなってから考えてみてほしい』

と言われたため、無理に勧誘することは控えることにしていた。

「けど、執事として雇ってくれそうなところって……」

「あははは……ないない」

「似たようなところだと、マネージャーだろうけど……わたしのところは無理よ?ダビィがやってくれてるし」

「ありす、いっそのこと、菖兄様をセバスチャンさんの後継者として雇い入れたらいかがでしょう?」

マナの一言に、六花は苦笑しながら返し、真琴は少しばかりずれた観点からそう返した。

すると、亜久里がありすに視線を投げ、そう問いかけてきた。

問われたありすはというと。

「あらあら……それもいいかもしれませんわね♪」

と、微笑みながら返していた。

だが、本気でそう言っているのかは、付き合いの長いマナたちでさえ、わからなかった。

それを聞いたレジーナは。

「ね、いっそあたしとパパと亜久里の専属執事として雇わない?!」

と亜久里に投げかけたが、亜久里はそっけなく。

「そんな余裕はございません。何より、お父様もできる限り、自分のことは自身で行いたいとおっしゃっていました」

と、きっぱりと言い放ち、却下した。

ちなみに、亜久里とレジーナ、それにアコは注文したケーキに加えてもう一品、お勧めのアップルパイが添えられていたことに、菖へ疑問を投げたら。

「わたくしめのサービスにございます」

と優しい笑みで返され、遠慮なく、おいしくいただいたそうな。

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菖の執事姿を見て、将来的に執事として雇うかどうか、という話題は、なぜか翌日にも出てきた。

アルバイト代打、六日目。

ありすたちの次に訪れたのは、はるかたち(プリンセス組)めぐみたち(ハピネスチャージ組)だった。

最初、はるかが菖の執事姿に興奮して。

「菖さん、すごい!!素敵すぎるよ~~~~~~っ!!!」

と大はしゃぎしてしまった。

菖は、その反応を見てはるかに。

「……はるか様、姫君(プリンセス)たるもの、いついかなるときも淑やかになさるものです。どうかお心をお静めください」

と注意されてしまった。

その対応の速さと言葉遣い、そして態度に、ひめとみなみ、そしてトワ(ご令嬢と本物の王女殿下)はすっかり感心してしまった。

「菖さんって、実はものすごく高スペック?」

「もうどこに執事として雇っても問題ないレベルかもしれないわね……」

「……いっそ、ホープキングダムの王家専属の近衛兼執事として雇ってみましょうか……」

「お?トワっち、もしかしなくても菖さんを雇っちゃうの?」

トワの発言にきららが反応し、にやにや、といたずら小僧のような笑みを浮かべて問いかけた。

だが、トワは恥ずかし気に頬を赤く染めて。

「べ、別に本気ではございませんわ!あくまでも、一考の余地あり、というだけであって……」

「ふ~ん?……なら、わたし専属の執事として雇っても問題ないかしら?もちろん、永久就職って方向で」

トワに返してきたのは、きららではなく、同席していたまりあだった。

まりあに永久就職、というのが何を意味しているのかを理解できてしまった少女たちは、一斉に驚愕の声を上げた。

むろん、まりあは冗談で言っているのだが、さすがに冗談がすぎるため、菖から。

「まりあお嬢様、お戯れがすぎます。御冗談はその程度にしてくださいませ」

と冷静に返されてしまった。

だが、菖が近くにいることをいいことに、今度はきららから。

「だったら、うちのサブマネージャーとしてなら問題ない?もちろん、永久就職も視野に入れて、だけど」

「御冗談を。わたくしめにはとてもきららお嬢様の輝きにはついていけません」

と、ちゃっかりスカウトしようとしてきてのだが、菖はそっけなく返したことは言うまでもない。

なお、みなみが菖を海藤グループの専属秘書として雇うべきかどうすべきか、悶々と考えていたことは誰も知らない。

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アルバイトの最終日。

菖にとって、この日さえ乗り越えれば、あとは普段通りの生活が待っているという希望を持てる日であった。

この日に訪れたのは、みらいたち(魔法使い組)いちかたち(ア・ラ・モード組)だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様方。どうぞ、奥のお席へ」

菖はこの一週間で身につけたポーカーフェイスと言葉遣いで案内を始めた。

席に到着すると、みらいたちといちかたちはそれぞれ、椅子を引いて自分から腰をかけたが、ゆかりだけは、立ったままだった。

「……ゆかり?」

「ゆかりさん?早く座りません?」

座る気配がないゆかりに、あきらといちかが首をかしげながら問いかけると、ゆかりはいたずら小僧のような笑みを浮かべたまま、菖に問いかけた。

「うふふ……わかっているでしょ?菖」

「……はい、ゆかりお嬢様」

ゆかりの問いかけに、菖は返事しながら、椅子を引き、ゆかりに席を促した。

それに満足したゆかりは、ありがとう、と小さく呟き、椅子に腰かけた。

「こちらが、本日、わたくしどもがご用意いたしました軽食の一覧にございます」

菖はそういいながら、メニューを配った。

だが、ゆかりだけはメニューを開かず、菖に直接。

「今日、用意したなかで一番自信があるものは?」

「はい。蜂蜜とレモン汁で煮込んだアップルジャムをふんだんに使ったアップルパイと、アップルティーでございます」

「それじゃ、それをお願い」

「かしこまりました。みなさまは、いかがなさいましょう?」

いつもの菖とは思えないゆかりとのやり取りに、みらいたちは呆然としてしまった。

だが、立神コンツェルンの娘であるあおいは、慣れているのかあまり動揺している様子はなかった。

なお、全員が注文したものは、ゆかりが注文したものと同じ、アップルティーとアップルパイのセットで、かなり好評だった。

好評だったのはいいのだが。

「ねぇ、あなた。せっかくだから、このまま琴爪家の執事にならない?」

「いやいや、立神コンツェルンの新人執事として……」

などと、菖を執事としてスカウトしようとする二人が口々にそんなことを言い始めていた。

もっとも、菖は誰につくつもりがないということはわかっているため、本気ではないようだが。

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みらいたちといちかたちが帰っていって、一時間が経過したころ。

ゆりとつぼみが再び執事喫茶に訪れた。

もちろん、出迎えたのは、菖だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様方。奥の席へどうぞ」

平静を装い、菖は二人を以前、案内した席へと案内した。

二人は席につくと、開口一番、同じ注文をした。

「「アップルパイとアップルティーのセットを」」

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします……ところで」

と、菖はつぼみとゆりに近づき、彼女たちの耳元でそっとささやいた。

「なぜ、今日、お二人がここに?」

基本的に、ゆりもつぼみも喫茶店を利用することはない。

金銭的な側面もあるが、下手な紅茶よりも薫子が出してくれる紅茶の方が断然美味しいから、下手な喫茶店に行くよりも、そちらのほうが落ち着くためだ。

そんな二人がこうして喫茶店に来たのだ。

何かある、と感じないほど、菖は鈍感ではない。

「あぁ……うふふ」

「はい!今日を最後に、菖さんが暇をいただくとお伺いしたので……」

とつぼみは一拍置いて、カバンから小さな花束を取りだした。

「お疲れ様とお世話になったお礼を兼ねて、持って来ました!」

「わたしたち、二人からよ。受け取ってくれるとうれしいわ」

「これは……ありがとうございます」

菖は穏やかに笑いながら、つぼみの花束を受け取った。

花束を受け取ってもらえたつぼみとゆりもまた、同じように笑みを浮かべるのだった。

 

それから一週間。

菖は代打を依頼してきたクラスメイトに呼びだされた。

また依頼か何かだろうか、そう考えていた菖だったが、クラスメイトの様子がどこかおかしかった。

「春川……お前、なにやったんだよ?」

「へ?」

「店長、俺の代わりに春川に働いてもらいたいって言うんだよぉ……」

どうやら、代打を頼んだはずだったのに、その代打の方が優秀だったために入れ替えを願われたらしい。

「なぁ、春川!まじで何やったの?!お前が代わってくれた一週間の売り上げが今月でダントツだったんだよ!!先輩たちも同期も後輩も、『最強の執事長』なんてあだ名つけてるしよぉ!!」

「知らんて……つか、なんだよ、そのあだ名……」

菖はげんなりとしながら、そう返し、クラスメイトから逃げていった。

なお、菖が『最強の執事長』と呼ばれた理由は、売り上げ貢献だけでなく、プリキュア以外のメンバーの客人に対する態度やその整った顔立ちから、リピーターが増えたためでもあるのだが。

菖はそんなことは知ったことではなかった。




あとがき代わりのもしもの話(スキット風)

~退職祝いが花束でなかったら~
菖「なぜ、今日、お二人がここに?」
ゆり「あぁ……うふふ」
つぼみ「はい!今日を最後に、菖さんが暇をいただくとお伺いしたので、お疲れ様とお世話になったお礼を兼ねて……」
ゆり「わたしたち二人からよ。受け取ってくれるとうれしいわ」
つぼみ、ゆり「「……チュ……」」
菖「……お、お嬢様??!!」Σ(///□///
ゆり「……言っておくけれど、これがわたしの"初めて"だから」(///_///
つぼみ「わ、わたしも同じくです……」(///_///
ゆり、つぼみ「「せ、責任、取りなさいよ/取ってくださいね?」」
菖「……えぇ~……」(-□-;;

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