ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
というわけで、さっそくどうぞ。
その日、菖は小泉学園の小高い丘に来ていた。
その理由は、もはや語るまでもない。
午前中から心ゆくまで遺跡を探検した後、お昼近くになってなり始めた腹の虫を静めるため、なぎさたちの行きつけの店であるタコカフェを訪れていたのだ。
少し歩くかと思いきや、菖がいた遺跡からあまり距離が離れていなかったため、すぐに見けることができた。
もっとも、菖が声をかける前に。
「あれ?もしかして、菖さん?!」
「あ!ほんとだ!!おーい!!」
なぎさとほのかに捕捉されてしまったようだ。
菖は相変わらず元気のいい二人に苦笑を浮かべながら、ひらひらと手を振って返した。
テーブル席につくと、タコカフェのエプロンを来たひかりがメニューを持って菖のところまで小走りでやってきた。
「いらっしゃいませ、菖さん。今日はどうしたんですか?」
「いや、すぐ近くの遺跡を探検してたんだ。ちょうどここの裏手」
「え?!そんな近くに遺跡が??」
「初耳です!」
「そりゃそうでしょ。俺が読んだ研究書と説話や伝説から分析と推察を重ねてたどり着いた場所だもん」
どうやら、菖が研究し、発見した遺跡のようだ。
だが、ゆりから聞いた話だと、菖は一度、遺跡に入ると少なくとも一日は出てこないことがあると聞いていたほのかは、そのことを問いかけた。
すると、菖は苦笑を浮かべた。
「といっても、規模はかなり小さいし、探検する場所も少ないから、すぐ切りあげて来たんだよ」
「あ、そうなんですか……」
「なんというか……ほんとに好奇心に忠実なんですね、菖さん」
褒めているのか、けなしているのか。
いや、そのどちらでもなく、純粋にそう思ったから出てきたつぶやきに、菖は苦笑するしかなかった。
しばらく談笑していると、キッチンカーからエプロンをつけた女性が姿を見せた。
「おや……いらっしゃい、菖くん」
「どうも、アカネさん……あ、忘れてた。たこ焼きください」
菖は苦笑しながら、店主のアカネに挨拶すると、小腹が減ったことを思い出し、アカネに注文した。
すると、アカネは満面の笑みで、あいよ、と威勢のいい返事をしたかと思うと、ひかりの方へ視線を向けた。
「ひかり!ちょっと手伝ってちょうだい!」
「は、はい!」
ひかりは返事を返し、アカネの方へと駆け寄っていった。
その背中を見送ったなぎさとほのか、菖の三人は再び談笑を始めた。
一方、キッチンカーの方へむかったひかりとアカネは、いつになく真剣な表情だった。
「さぁ、ひかり。男の人のハートを射止めるにはまずは胃袋!ひかりがいま作れるとびきりおいしいたこ焼きを作ってあげな!」
「はい!!」
気合十分、といった具合で、ひかりが返事をすると、さっそく、たこ焼きの生地を作り始めた。
いつになく真剣な表情をしているひかりに、アカネは気になったことを問いかけた。
「そういえば、ひかり。なんで菖くんに惚れたんだい?」
「ふぇっ??!!」
突然のアカネの質問に、ひかりはボウルを取り落としてしまった。
幸い、あまり高いところに持ち上げていなかったため、中身をこぼさなかったが。
「どうなんだい?」
「え、えっとですね……」
ひかりは頬を赤くしながら、自分が菖に好意を抱くようになった理由を話し始めた。
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それは、ひかりが珍しく一人で小泉学園から出て、渋谷に遊びに来たときのことだ。
理由は、なんとなくそんな気分になったから、というだけで、ひかりにしては珍しく自分本位なものだった。
だが、それがいけなかった。
ひかりは、というよりも、プリキュアに選ばれた少女たちはみな、雰囲気や印象はそれぞれ違っても『美少女』として分類される子たちばかりだ。
むろん、ひかりもその例に漏れていない。
そのため、
普段はなぎさかアカネが追い払ってくれるのだが、今回は自分一人だけ、しかも悪いことに、ナンパ男のしつこく迫ってきて、振り払うことができずにいた。
そんなときだった。
ナンパ男とひかりの間に、一枚の紙切れが飛んできたのだ。
「すみません!それ、取ってもらえますか?!」
反対の通りに、手を振りながら一人の青年がそう叫んでいた。
ひかりが飛んできた紙切れを拾い上げると、青年はお礼を言ってこちらの方へ走ってきた。
「いやぁ、ありがとう……て、ひかり?どうしてここにいるんだ?」
「え?菖さん??菖さんこそ、なんでここにいるんですか?!」
「近くで俺がお世話になった先生の講義が行われることになっててさ。それの見学」
驚愕しているひかりに、菖はにっこりと笑いながら返した。
だが、その笑顔はすぐに冷めて、ところで、とナンパ男に視線を向けた。
「俺の友達に、なにか用でも?」
「い、いや……そ、それじゃ君、またね!」
あまりに冷ややかな菖の視線と殺気に怖気づいてしまい、ナンパ男はさっさとその場を立ち去っていった。
その背中を見送りながら、ひかりはほっとため息をついた。
どうやら、自分でどうやって振り切ったらいいのか、わからなかったらしい。
「あ、ありがとうございます、菖さん」
「ん?まぁ、お役に立てて何より」
菖のあまりに屈託ない笑顔に、ひかりはつられて笑顔になった。
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「へぇ~……つまり、ひかりにとって菖くんは
「菖さん本人は、騎士なんてかっこいいものじゃないっていいそうですけど」
アカネの素直な感想に、ひかりは苦笑しながらたこ焼きをひっくり返した。
その手つきは素人のそれではなく、プロのそれに近かった。
手早くすべてのたこ焼きをひっくり返し、次々に船に乗せ、ソースと青のり、かつお節をかけていった。
「できました!」
「おっし!いっておいで!!」
「はい!!」
アカネに背中を押され、ひかりは自分で作ったたこ焼きを菖に届けに向かった。
キッチンカーを出て、ひかりは菖たちが座っている席へ向かって、走っていった。
だが、一秒でも早く食べてほしいという気持ちが、ひかりを逸らせてしまい、足もとにあった石に気づかず、躓いてしまった。
「きゃっ!」
さらに悪いことに、ひかりの手からたこ焼きを乗せた船が離れ、たこ焼きがこぼれ落ちてしまった。
地面に倒れたひかりは、目の前にひっくり返った船がある光景を見てしまった。
一生懸命、菖に食べてほしくてつくったたこ焼きが、自分のほんのちょっとのミスで台無しになってしまったことに、ひかりは泣きそうになってしまった。
「ふぅ……ギリギリセーフ、かな?」
「しょ、菖さん……いったい何したの?」
「早すぎて見えませんでした……」
安堵したようなため息をつく菖の声と、魂消てしまっているなぎさとほのかの声だった。
顔を上げると、八本のつまようじにたこ焼きを突き刺して立っている菖の姿がすぐ近くにあった。
てっきり、地面におとしてしまったと思っていたひかりは、たこ焼きが無事であったことにほっとため息をついたのだが、ぎょっと目を見開いて、もう一度、菖を見た。
「な、何で全部、つまようじに刺さってるんですか??!!」
「え?うん、まぁ……修練の賜物?」
「なんで疑問形?」
「ていうか、ぶっちゃけありえな~い!!」
簡単に説明すれば、手にしたつまようじを剣に見立て、空中に飛びだしたたこ焼きに突き刺しただけなのだが、どう考えても八回連続でたこ焼きを突いて一つも落とさないということはありえない。
だからこそ、菖は修練の賜物と称したのだろう。
だが、それ以外にどう説明したらいいのかわからなかったため、菖は疑問形で返したようだ。
もっとも、納得のいかないほのかとなぎさから同時にツッコミを入れられたのだが。
その光景がおかしくて、ひかりは泣きそうな顔から一点、花のような笑顔を咲かせた。
「さ、冷めないうちに食べちゃおうか」
「
「こら、なぎさ!あんたにはこっち!!」
菖が提案すると、なぎさが満面の笑みを浮かべて菖からたこ焼きを受け取ろうとした。
が、なぎさの背後に突然、アカネが現れてきて、その頭にげんこつを降らせた。
もう片方の手には、たこ焼きの箱が四つほど乗っていた。
どうやら、こちらがすべてなぎさのために作られたたこ焼きのようだ。
見慣れたほのかとひかりは、特に何の反応も見せなかったが、菖は頬に冷や汗を伝わせながら、なぎさに問いかけた。
「なぁ、なぎさ。これ、全部食べるの?一人で?」
「へ?……うん、まぁ」
「……ぶっちゃけ、ありえな~い……」
なぎさから返ってきた答えに、菖は半眼になり、なぎさの口癖をまねた。
その様子がおかしかったのか、なぎさと菖以外のその場にいた全員が腹を抱えて爆笑したのだが、まねされた本人は面白くなかったのか、頬を膨らませてむくれるのだった。
あとがき代わりのそのあと話(スキット風)
菖「……はふ、はふ……(もぐもぐ)」
なぎさ、ほのか「「……」」(ごくり)
ひかり「……ど、どうですか?菖さん」
菖「うん、うまい」
ひかり「よかったぁ……ちょっと焼きすぎちゃったかもって思ったんですが」
菖「皮がカリカリしてるから、俺はこっちのほうが好きだな」
ひかり「ふふ、それじゃ今度菖さんが来た時はわたしが焼きますね!」
菖「ありがとう、ひかり」
アカネ「やれやれ……うちの看板娘から大事なもの盗んでいきやがったねぇ」
なぎさ「へ?ひかりの大事なもの??」
ほのか「ふふ……もしかして」
アカネ「そ、あの子の心」
なぎさ、ほのか「「ですよねぇ……」」
なぎさ「ていうか、菖さん。いったいどれだけの人の心を盗んだのよ……」
ほのか「まさに、ハートキャッチ、ね」(苦笑
なぎさ「ぶっちゃけ、ありえな~い……」