ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
S☆Sに出てくる妖精も、正確には精霊らしいですし……そのうち、やるかなぁ、ミ○さまが迷いこむ話とか。
いうだけ言ってやらないのがおちですけどw
さわさわと、そよ風に揺れる木の葉の音が心地よい森の中。
その中でもひときわ大きい大樹の下にある看板の前に、菖がいた。
そこには、目の前にある"大空の樹"と呼ばれて親しまれている大樹の謂れが書かれていた。
休日のほとんどを遺跡探索に費やす菖は、この日は夕凪市に来ていた。
だが、このあたりの遺跡巡りは午前中で終わらせ、近くを通ったついでに咲と舞に顔を見せに行くことにしたのだ。
そう決めたのはいいのだが、ふと、気になる森があったため、ふらふらと足を運んでしまい、こうしてこの大樹の前に来たのだ。
――心の大樹も圧倒されたけど、大空の樹も心の大樹と負けず劣らずって感じだなぁ
そんな感想を抱きながら、どちらかといえば、大空の樹のほうが荘厳な雰囲気をまとっている気がするけど、と心のうちで付け加えると、大樹がさわさわと揺れ始めた。
「……お礼なんていいよ。思ったことを素直に言っただけだからさ」
心の大樹と会話することができるとはいえ、それは騎士としての契約を交わしたことで得られた能力であり、心の大樹に限定されるものだ。
だが、菖はもともと"視える"体質の人間であり、幼いころから人ならざるものと意思を交わすことができていた。
そのため、物言わぬ植物たちの気持ちが、なんとなくではあるがわかるのだ。
もっとも、それは菖の推測であり、正しいか間違っているかはわからないのだが、菖にとってそれはどうでもいい。
重要なのは、目の前に在るこの大樹が荘厳であり、美しいと感じる感性。
それがあるかないかなのだから。
――さてと、せっかくここまで来たんだから、咲たちの顔を見ていくかな
そう思い立ち、大空の樹に背を向けると、再び、大空の樹はさわさわと木の葉をゆらした。
まるで、また来てね、とでも言っているかのように。
その意図を察したのか、菖は振り返って微笑みを浮かべた。
「あぁ、また来るよ」
大樹に別れを伝えて、菖は再び、夕凪市にむけて、足を運んだ。
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菖が夕凪市に到着すると、黒い髪をポニーテールにした少女と、青い髪を伸ばしている少女が並んで絵を描いている姿が目に入った。
どうやら、二人の目の前で寝そべっている野良犬のスケッチをしているらしい。
ふと、野良犬が菖の気配に気づき、ぽてぽてと菖の足もとに歩み寄り、尻尾を振りながら、かまってくれ、とでもいいたそうに後ろ足で立って、菖に寄りかかってきた。
「お?随分、人懐っこいわんこだな」
寄りかかられながら、菖は野良犬の頭をわしゃわしゃとなでると、野良犬は気持ち良さそうに目を細め、もっとやってくれ、と顔をこすりつけてきた。
菖も野良犬の要望に応えて、わしゃわしゃと撫でていると、それまでスケッチしていた対象がいなくなったことに気づいた二人が、不思議そうに首を傾げた。
「あら?」
「あの犬、どこに……」
「おーい、こっちこっち」
「「え?」」
菖が野良犬をなでながら二人に声をかけると、咲と薫が振り向いた。
野良犬に懐かれながら、片手を上げている菖の姿を見た二人は、知り合いの突然の来訪に驚きながらも、笑顔を向けた。
「菖さん?!」
「どうしてここに??」
「ヒント、俺の趣味」
薫の問いかけに、菖が素早く返すと、薫は眉をひそめ、真剣に考え始めた。
だが、薫は咲や舞と違い、他のプリキュアたちと一緒に過ごしたことがあまりないため、必然的に、菖のことをあまり知らないのだ。
だが、舞はわかったらしく、苦笑していた。
薫も、わからない、と答えを考えるのを諦め、舞に正解を尋ねた。
「菖さんの趣味は、いろんな遺跡を見学することなの」
「……もしかして、近くの遺跡の見学が予想以上に早く終わったから、暇つぶしがてらこっちにきた、って感じですか?」
「そ、正解」
「……あの、わたしと咲や他のみんなだったらともかく、薫は菖さんとお話する機会があまりなかったから、わからないのも当然だと思うんですが……」
あっさりと正解を引き出した舞に指摘されて、菖は苦笑を浮かべながら薫に謝罪した。
「……かもしれない。ごめん、薫」
「い、いえ……けど、遺跡見学が趣味なんて、ちょっと変わってますね……」
首を傾げ、不思議そうに菖を見つめながら、そんな感想を漏らした薫に、今度は菖が首を傾げた。
「そうかなぁ?」
「少なくともわたしたちの同級生にはいませんよ?遺跡が好きな男の子って」
「う~ん……まぁ、俺がちょっと特殊なのかもしれないけど」
「そうなんですか?」
「うん。俺の両親は考古学者だからさ。絵本代わりに考古学の本とか叙事詩とか、伝承をまとめた本とかを読んでたら、いつの間にか遺跡に興味が湧いてたから」
ちなみに、小学生のころは、夏休みや冬休みになれば家族総出で実地調査へ赴くこともあったため、遺跡への好奇心はとどまることなく、今ではもう立派な考古学者の卵となっていた。
「それより、こんなところで立ち話もなんだし、どっか落ち着けるとこに行かない?」
話している間もじゃれついてきていた野良犬をなでながら、菖は二人に問いかけると、舞は何かを思い出したかのように、そういえば、と口を開いた。
「今度、新作のパンを作ったから試食してくれっていわれてたわね」
「それじゃ、菖さんにも一緒に来てもらいましょ?」
「お、いいの?それじゃ、遠慮なく」
菖は人懐っこい野良犬にお別れを言って、二人と一緒に咲の実家「PANPAKAパン」へ向かうことにした。
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歩くこと数分。
菖たちの鼻に、焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
どうやら、目的地に近づいてきたらしい。
ふと、店先を見ると、三角巾を頭に巻いた咲と満が店先を掃除していた。
「咲~、満~」
舞が手を振りながら、二人に声をかけると、二人は手を振ってそれに応えた。
三人は小走りでお店に近づくと、咲と満は笑顔で応対してくれた。
「舞、薫。いらっしゃい……あれ?菖さんも??」
「お久しぶりです!」
「うん、久しぶり」
菖は笑顔で挨拶してくる二人に、菖も笑顔で返した。
「はい!お久しぶりです!!今日はどうしたんですか?」
「このあたりの遺跡を見に来たんだけど、午前中で終わっちゃったから顔を見せに、ね」
「そうだったんですか……って、相変わらずの遺跡好きなり……」
菖の説明に苦笑を浮かべながら、咲が返すと、舞も薫も満も苦笑を浮かべた。
この場にいない仲間たちも、菖と同じように、それぞれに夢中になれるものを持っている。
だが、自分が夢中になれるものと菖の夢中になれるものがまったく違う。
いや、そもそも、
「まぁ、いいや!それより、菖さん。今度、お店に出そうと思ってるパンがあるから試食していてくれませんか?」
「お?いいの?それじゃ、遠慮なく……どうせなら、咲たちも一緒に食べない?」
「いいんですか?」
菖の提案に、舞は嬉しそうな、遠慮しているような、複雑な表情を浮かべながら返した。
だが、菖は、もちろん、とうなずいて返した。
「うん、どうせ一人で食べても味気ないしさ」
「そういうもの、なのかしら?」
「そういうもんだよ。遺跡発掘の時も、他のスタッフの人と一緒に食べた方がおいしいからね」
満が首をかしげていると、菖は人懐っこい笑みを浮かべながらそう話した。
他の誰かと一緒に食事する方がおいしく感じられることは、満と薫も最近になって実感できるようになってきたことなので、納得している様子だった。
「……それじゃ、お言葉に甘えようかしら。どうする?薫」
「そうね……わたしもご一緒させてもらおうかしら」
「なら、決まり!お父さんに話してくるから、ちょっと待っててほしいなり!!」
いうが早いか、咲はぱたぱたとPANPAKAパンへ入っていった。
ふと、舞の意見を聞いていないことを思い出した菖は、舞に視線を向けた。
「ごめん。舞の意見、聞かないでいたけど……」
「だ、大丈夫です!わたしも、ご一緒したいですから!」
「そっか。よかった」
舞からの返事に、菖は人懐っこい笑みを浮かべて、そう返した。
なお、このときの舞の頬が若干、赤くなっていたことに気づいたのは、一緒に行動することの多い薫だけだった。
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咲が試食してほしいという試作パンと一緒に戻ってきてから、どこで食べようか、という話になったが、咲と舞の提案で、大空の樹の下へ向かうことになった。
大空の樹は、菖たちがやってくると、風もないのにさわさわと木の葉を揺らした。
まるで、菖たちが来たことを歓迎しているかのようだった。
大樹の根に腰かけ、菖は咲から手渡されたパンを手に取った。
「これは……カレーパン?こっちは、デザートパンってところかな??」
「そ!マーボーカレーパンと、プリンパン!」
「マーボーカレーかぁ……って、知ってたの?」
いつぞや、横浜の中華街でマーボーカレーまんを食べたことを思い出しながら、菖は咲がマーボーカレーを知っていたことに驚愕した。
だが、咲は、違うよ、と首を横に振った。
「あたしは知らなかったんだけど、舞が教えてくれたの!おいしいカレーがあるから、パンにしてみたらどうだって」
「へぇ~……けっこうマイナーな料理だと思ったけど、舞ってけっこうもの知りなんだな」
優しい笑みを浮かべながら、舞の方へ視線を向けると、舞は恥ずかしそうにうつむいていた。
その心中では。
――い、いえない……いつきから菖さんの大好物って聞いて、食べてみたらパンにもあうかもって思ったから紹介してみたなんて、いえない……
と、マーボーカレーの存在を知ることになった経緯を隠すことに必死にだった。
薫と満は、舞のその様子があまりにも愛らしいと感じ、思わず、くすくすと笑みを浮かべてしまっていた。
「か、薫?満??い、一体、何がおかしいの??!!」
「「別に?なんでもないわよ??」」
「ごまかさないで!!」
顔を真っ赤にしながら反論する舞だったが、薫は意地悪な笑みを浮かべたまま、ほんとになんでもない、と返し、満は鼻歌のようなものを歌ってごまかしていた。
あからさまにごまかされていることに、舞は顔を余計に真っ赤にして、叫んでいた。
なお、こうなるきっかけを作った菖は、パンをもきゅもきゅと食べながら、隣に腰かけてい咲と一緒にその様子を眺めていた。。
「なんというか……」
「舞、いつもとちがうなり……」
「舞だけに舞い上がってる、って?」
「あ、それうまいなり!」
ふいに出てきたダジャレに、咲は笑いこそしなかったが、菖のダジャレを称賛していた。
あとがき代わりのその後の話(スキット風)
咲「それで、菖さん。感想は?」
菖「マーボーカレーパンはこれでいいと思う。ただ、もうちょっと辛さがあったほうが好きって人も出てくるだろうから、中辛とか甘口とか種類をそろえられるなら、そろえてみてもいいかもしれないね」
咲「ふむふむ!」
満「あ、ちなみにそれ焼いたの、わたしです」
菖「へぇ?!咲と一緒に働いてるっていうのは知ってたけど……」
満「まだまだ修行中です。パンを焼くにしても、まだまだブレが大きくて……ブレッドだけに」
菖「お、うまい!!」
咲「うん??なにがうまいのかまったくわからないなり……」
舞「パンは英語で
菖「うん?大丈夫だよ」
舞「ありがとうございます!」
~希望ヶ花市では~
つぼみ&ゆり「「うん?!」」
えりか「うぉ?!どうしたの二人とも」
つぼみ「なんだか……」
ゆり「えぇ。抜け駆けされたような気がするわ」
えりか「……???」