ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~   作:風森斗真

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今回は、セイバー、ムーンライト、サンシャイン、マリンの試練をお送りします。
なお、ユグドセイバーの試練については以下の通り。

・先代との一対一での決闘
・自身が課した誓約(ゲッシュ)あるいは信念を貫けるかが重要となる
・決闘に負けたとしても、信念を貫いてのことであれば、試練クリアとみなされる

まぁ、「本当の自分を受け入れる」のがプリキュアの試練なら、「意思を貫く」のがセイバーの試練といったところでしょうか。
というか、菖の性質上、影があっても即クリアしちゃいそうなのでw
なお、今回もあとがきのスキットはございません(申し訳ない


過去の自分との戦い!試練はプリキュアvsプリキュア?!

心の大樹を思わせる、荘厳な大樹の目の前で、白いマントをはためかせているセイバーと、赤い皮の服をまとった鋭い眼付の先代セイバーを名乗る男が剣を交えていた。

激しい剣劇の嵐の中で、先代が持つ紫に輝く剣(エターニアハート)と、セイバーが手にしている刃のない剣(エターニアハート)が交差し、二人の動きが止まった。

「驚いたな。てっきり、なぜいきなり戦うのか問いかけてくるものだと思ったが」

「一応、それなりに場数は踏んでるから、戦う覚悟はいつだってできてるよ!けど、たしかに、いきなり戦うのはちょっとびっくりかな!!」

つばぜり合いの状態になり、先代がそう口にすると、セイバーは必死な表情でそう返しながら、手のひらを先代に向けた。

その手には、心の花の力がすでに込められ、獅子の顔を象っていた。

「……なっ?!」

「獅子戦吼!!」

轟っ、と獅子が吼えるような音が響くとともに、心の花の力が先代に向けて飛び掛かっていった。

セイバーの手から飛び出してきた獅子を象った花の力を受け、先代は吹き飛ばされてしまった。

だが、彼も心の大樹と契約を交わした"大樹の騎士(ユグドセイバー)"だ。

ただで吹き飛ばされはしなかった。

セイバーは肩に鋭い痛みを感じ、思わず、肩に手をやった。

そこには、赤い液体がついていた。

それが自分の血であることは、確かめずともわかる。

知らないうちに一撃を与えられたことに、セイバーは相手の底知れない強さを感じながら、油断なく睨みつけた。

「……容赦ないな」

「お前が甘いんだよ。戦うというのなら、倒した相手の恨みや憎しみも背負っていく覚悟を持つべきだ」

そう語りながら、先代はエターニアハートの切っ先をセイバーに向けた。

エターニアハートは、所有者(ユグドセイバー)の心を映し、いかようにもその姿を変える剣だ。

ゆえに、先代の剣は、相手を斬るための刃が存在している。

それは、憎しみや恨みを買うことを覚悟している心の強さの表れでもある。

その一方で、セイバーは、たとえ自分たちの平穏を侵す存在であっても、傷つけることを良しとしないため、その剣には刃が存在しない。

「……たとえ、俺たちの平穏を侵す存在であっても、殺すのは俺の信念に反する」

「それが甘いと言っているんだ……その甘さが、どんな結果を招いたか、忘れてはいないだろ?」

「……あぁ。忘れてないさ……忘れちゃいけないんだよ、俺は」

自分の甘さが招いた惨劇。

それは、今もセイバーの胸に突き刺さっている。

いっそ、信念を捨て、甘さを捨てることができたなら、どれだけ楽になれただろうか。あの惨劇を招かずにいられただろうか。

そう思わなかった日はない。

だが、それでもセイバー(現代)(エターニアハート)は、敵を斬ることをよしとしない。

なぜなら。

「だって、それが俺(・・・・)だから(・・・)さ」

たとえ、どんな壁にぶち当たったとしても、曲げてはいけないものがある。

それは、自分の心にある信念。

たしかに、セイバーの、いや、春川菖が抱くその信念は甘いのだろう。

そして、その甘さゆえに、一度は友人を亡くしてしまい、大切な幼馴染の心の花を枯らせてしまった。

だが、それでも、その甘さを貫きたいと、菖は思っている。

「人は斬らない、それがお前の定めた誓約(ゲッシュ)ということか」

「うん……甘いっていうのは自覚してる。けど、俺は斬らない道を、救う道を探したい」

「……ふ」

セイバーのその答えに、先代は薄い笑みを浮かべた。

その笑みは、どこか満足しているようにも感じられた。

「なら……示してみせろ!お前のその信念を!!俺も自身の信念に賭け、全力で相手をしてやる!!」

「望むところ!!」

先代とセイバーの心の花の力が、覇気となって風を巻き起こしたと同時に、エターニアハートに込められた心の花の力が光となって現出した。

二人は、どちらからとなく地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。

「くらえ!!」

「心よ、吼えろ!!」

「「エターニア・ブレイドダンス!!」」

間合いが詰まった瞬間、二人は同時に剣を振るった。

二つの光の剣がぶつかり合うと、その衝撃で大樹が大きく揺れ動いた。

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ムーンライトが目を開くと、そこには一面に紫と白の薔薇が広がっていた。

周囲には自分以外、誰もいない。

パートナーのコロンでさえ、ここにはいないようだ。

「……ここが、試練を行う場所……一人になったことにも、何か意味があるということ?」

そうつぶやくと、気配を感じ取り、ムーンライトは背後を振り向いた。

そこには、今自分が着ているコスチュームとは逆の、黒を基調にした服を着た自分と瓜二つの人物が立っていた。

いや、瓜二つではない。

なぜだかわかる。

目の前にいるのは、自分だということが。

「最後の試練とは、自分と戦うということ?!」

「ただの自分ではない。影の自分だ」

「影のわたし?!」

ムーンライトは、目の前にいるもう一人の自分が返事をしたことに驚愕したが、もっと驚愕したのは、自分に影があるということだ。

だが、影のムーンライト(キュアムーンライト・ミラージュ)は薄く笑みを浮かべながら返してきた。

「月に影があるように、心にも暗い影がある。それがわたしだ!」

ムーンライト・ミラージュは、地面を蹴り、一気にムーンライトに殴りかかってきた。

ムーンライトはその一撃を受け止めて、どうにか耐えたが、ムーンライト・ミラージュの攻撃はなおも続いた。

だが、その攻撃の一撃一撃は、まるで何かの感情をぶつけてくるかのように力任せだった。

その理由は、すぐにわかった。

「わたしはパートナー(コロン)を守り切れなかった!自分ひとりで戦わなければならない、セイバーに頼ってはいけないと思い込んでしまったせいで!!」

それは、自分がかつて抱いていた後悔の念。

パートナーの妖精を守り切れなかった過去と、自身の不甲斐なさで、自分を責め続けていたころの想い。

それが、目の前にいるムーンライト・ミラージュの正体であることに、ムーンライトは気づいた。

「……そう、わたしは自分勝手な思い込みのせいで、コロンを失ってしまった!そして、大切なことを見失いかけた!!」

自分を気遣い、微笑みかけてくれいたつぼみ(ブロッサム)たち、そして、こんな自分でも変わらずに接してくれていた(セイバー)の心。

それを、見失いかけてしまっていた。

だからこそ。

「……わたしは、強くなる!!みんなの心を守るために!」

ムーンライトはミラージュの腕をつかみ、投げ飛ばす要領で地面に叩きつけた。

背中から思い切り叩きつけられたムーンライト・ミラージュだったが、それでも戦意を喪失してはいなかった。

そんなムーンライト・ミラージュに、ムーンライトはまるで諭すような瞳を向けながら。

「悲しみの連鎖は……誰かが歯を食いしばって止めなければいけないのよ」

その言葉を聞いたムーンライト・ミラージュは、何かをあきらめたかのようにそっとため息をついた。

今の彼女に戦意はない。そう感じたムーンライトは、追撃することはなかった。

その背中に、ムーンライトは宣言するように語りかけた。

「わたしはもう、一人で戦おうなんて思わない。これからはみんなで困難を乗り越えていく」

「できるのか?半分に欠けたままの心で」

「難しいかもしれない。けれど、わたしは決めたのよ。みんなの心を守るため、戦い続けると」

ムーンライト・ミラージュからの手厳しい問いかけに、ムーンライトは微笑みながら返した。

その答えに、ムーンライト・ミラージュは静かに立ち上がり、ムーンライトに背を向けた。

「……なら、もうわたしはいらないな。お前の決意を鈍らせる、"悲しみ"というわたしは」

そう言って、ムーンライト・ミラージュは立ち去ろうとした。

だが、その背をムーンライトはそっと抱きしめた。

「いいえ。わたしは悲しみを背負って生きていく。そしていつか、その悲しみを愛で包みこんでみせるわ」

その答えに満足したかのように、笑みを浮かべると、その体は光に包まれ、消えていった。

同時に、ムーンライトも同じ光に包まれた。

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気づくと、サンシャインは一面、向日葵に覆われた向日葵畑にいた。

その場にいるのは、自分一人だけだった。

「……どうして、わたしたちはばらばらに?」

そんな疑問を口にすると、目の前に自分と瓜二つの人影が姿を現した。

だが、コスチュームは自分とは逆の黒であり、髪もツインテイルではなく、ストレートに降ろしていた。

まるで自分の現身のような人物に驚愕していると、彼女はいきなり拳を振るってきた。

サンシャインは自分も拳を握り、応戦した。

だが、ふと違和感を覚えた。

目の前にいるもう一人の自分(キュアサンシャイン・ミラージュ)は、武道の心得があるようで、ある程度、完成された型の通りに拳が振るわれている。

にも関わらず、彼女の拳は、どこか怒りをぶちまけるような印象を受けた。

「わたしは、お兄様を守るため、明堂院家を守るため、武道に励まなければならない!大好きなぬいぐるみも、可愛い服も我慢しなければならない!!」

突然、キュアサンシャイン・ミラージュの口から飛び出してきた言葉で、違和感の正体に気づくことが出来た。

それは、自分がかつて抱いていたものと同じ想いだった。

修行に集中するため、本当は大好きなぬいぐるみや可愛い服を我慢してきたことで生まれた、抑圧された心。

サンシャイン・ミラージュは、その抑圧された心のままに、拳を振るっているようだ。

サンシャインはその拳を受け止めて、まっすぐに自分の影を見つめながら反論した。

「けれど、いまは武道が好きだから続けている!!大好きなぬいぐるみも、可愛い服も、素直に好きと言えるようになった!!」

「じゃあ、頑張ってきたわたしは、もういらないの?!」

「……えっ??!!」

サンシャイン・ミラージュからのその一言は、サンシャインを驚愕させた。

確かに、今は(・・)武道もかわいいものも大好きだ。けれども、武道に関しては、大好きという以前に、義務としてやってきた部分が大きい。

だからなのか、武道をやるべきこと(義務)ではなく、好きなこと(趣味)の範囲にしてしまったことに、サンシャインは少なからず罪悪感を抱いてしまい、その想いが(ミラージュ)となって現れたのだろう。

それがわかってしまえば、サンシャインが取る行動は一つだった。

サンシャイン・ミラージュは、サンシャインにむかってつきだした拳を寸止めして、サンシャインをにらみつけた。

「なぜ、守りを消すんだ?」

「あなたは、わたしの敵ではないから」

「……っ!?」

サンシャインの言葉に、サンシャイン・ミラージュは目を見開いた。

だが、サンシャインは彼女のそんな様子を無視して、言葉を続けた。

「お兄様は、これまでつらいことや悲しいことがあっても、すべてを受け入れてわたしに笑いかけてくれた」

そう話すサンシャインの脳裏には、最愛の兄、さつきの笑顔だった。

さつきは、その病弱さゆえにいつきには想像できないようなつらい経験も、悲しい経験もしてきたに違いない。

にも関わらず、さつきはいつも、いつきに笑いかけてくれていた。

そして、いつきも、自分もそんな兄のようにありたいと願うようになっていた。

だから。

「だからわたしも、すべてを受け入れたい」

「すべてを?!」

驚愕するサンシャイン・ミラージュが突き出してきた拳を、サンシャインは両手でそっと包みこんだ。

その顔はひどく穏やかで、敵意や戦意はまるで感じられない。

「かつての頑なだったわたしも、好きなものに素直なわたしも、両方とも大切なわたし……だから、すべてを受け入れて、お兄様のように優しく笑いかけたい」

それが、サンシャインの答えだった。

その答えに満足したのか、サンシャイン・ミラージュは微笑みを浮かべ、光となって消えていった。

サンシャインもまた、光に体を包まれ、向日葵畑から消えていった。

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マリンは一人、海原に建っている柱の上に腰かけていた。

一人でいることに不安を覚えていないわけではない。

だからこそ、早く試練が始まってほしいと感じているし、仲間と合流したいと感じている。

「……試練とかいうのは、まだ始まらないのかな……」

マリンが水面に映る自分の姿を見つめながらそうつぶやくと、虚像がにやり、と笑みを浮かべ、こちらに向かってきた。

「……っ?!」

「あたしはキュアマリン・ミラージュ。あんたの影よ」

「あ、あたしの影?!」

驚愕するマリンにかまうことなく、キュアマリン・ミラージュはマリンに拳を振るってきた。

その拳を、マリンは捌きながら反撃の糸口を見いだそうとしていると、キュアマリン・ミラージュが突如、口を開いた。

「あたしだって、もも姉ぇみたいに売れっ子のモデルになりたい!美人になりたい!モテモテになりたい!!」

「……っ??!!」

その言葉は、かつて自分が抱いていた願いだった。

カリスマ現役女子高生モデル、という肩書を持つももか()に対するコンプレックスから、自分もそうなりたい、と抱いていた、かつての願望(過去の願い)

――つまり、影の自分って、昔のあたしってわけね?!

その事実に驚愕していると、キュアマリン・ミラージュは一気に間合いを詰めてきた。

「いまだって、そう思ってるでしょ??!!」

マリンを蹴り飛ばしながらそう叫び、追撃とばかりに、心の花の力を両手に集め、弾丸のようにして飛ばした。

吹き飛ばされながらも、マリンは飛んできた弾丸を回避し、再びキュアマリン・ミラージュと対峙した。

だが、蹴り飛ばされたときのダメージが大きかったのか、その息は荒く、顔も下を向いていた。

「……あたしはね、ブロッサムたちのおかげで、自分にもいいところがあるって気づけたの」

それは、一人では決して気づくことのできなかったもの。

仲間が、親友がいてくれたから気づけたことだ。

だから。

「だから今は、もも姉ぇみたい()なりたいんじゃない、もも姉ぇみたい()素敵な人になりたい!!」

「じゃあ、なぜ……影のあたしがいる?!」

問いかけながら、キュアマリン・ミラージュがなぐりかかってきた。

その拳を、マリンは受けとめ、まっすぐにキュアマリン・ミラージュを見た。

「しょうがないじゃん!マイナスのことをいうあたしも、あたしなんだもん!!」

その返答に、キュアマリン・ミラージュは驚愕した。

マリンは、そんなミラージュを引き寄せ、抱きしめた。

「でもさ、あたし、あんたのこと、嫌いじゃないよ……あたしって、自分のこと、全部大好きだから」

「……っ」

その一言で、キュアマリン・ミラージュは満足したように微笑み、光となって姿を消した。

同時に、マリンの体も光に包まれ、その空間から姿を消した。


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