ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
次回と次々回を含めて、三部構成です(好きだな、こういうの……)
なお、先代ユグドセイバーが初登場します。
イメージは、ネタ集を見ていただければ一発でわかるかとw
文化祭が無事に終了した日曜日の午後。
つぼみたちいつものメンバーは、植物園に来ていた。
「それで?今日はどういった集まりなのかしら?」
「文化祭も大成功に終わったし、みんなで楽しく過ごしたいなって思いまして」
ゆりの質問に、つぼみがティーポットにお湯を注ぎながら返した。
確かに、キュアムーンライトとユグドセイバー、そしてコロンが復活してから、先輩プリキュアたちとの顔合わせと紅葉狩りはしたものの、
それを思えば。
「……なるほどね、そういうのもたまにはいいかな」
と思うゆりであった。
なお、いまゆりが手にしているティーカップの中には、菖が遺跡探索で出会った友人から送られてきたハーブで淹れたお茶が入っている。
その茶葉を持ってきた菖だが、彼はいま、二杯目のハーブティーを淹れるため、友人から譲り受けた砂時計を逆さにしていた。
傍らにいたコロンが、不思議そうにそれを見つめ。
「それは何を測っているんだい?」
と問いかけてきた。
それを聞いた菖は、砂時計を譲ってくれた友人のまねをして、人差し指を立てながら。
「ハーブティーは蒸らし時間が重要!長すぎず、かといって短いすぎずに……」
「あぁ~、もう!まどろっこしい!!」
だが、その重要性を理解できていないえりかは、ティーポットをかっさらい、ぐるぐると回し始めた。
「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ??!!」
「このほうが早くできるっしょ!!」
「風味が壊れるからそういうことしちゃだめなんだよーーーーーっ!!」
「……ハチャメチャね」
「……はい」
えりかの無体に、菖が慌てた様子で話す姿を見ながら、残りのメンバーは冷や汗を伝わせていた。
ふと、つぼみはコスモスの花壇に目を向けた。
「ゆりさん、見てください!コスモスの花が咲いてます!!」
「えぇ、とっても綺麗ね」
季節は秋。
たしかに
ふと、いつきは足もとに小さな黄色い花が咲いているのを見つけ、目を輝かせた。
「わぁ、この花とってもかわいい!!」
「それは、イエローキューピッドです」
「"
いつのまに立ちなおったのか、菖が無邪気な笑みを浮かべながらそう返すと、いつきは照れたようにうつむいてしまった。
その様子を見ながら、えりかは満足そうに腕を組み、うなずいていた。
「うんうん、内気だったつぼみも無事にチェンジしたし、いつきも好きなものに素直になれたし、
「えりか、上から目線ですぅ!」
「それにお姉さんじゃないですっ!!」
「というか、この中で一番年下に見えるのって……」
「どう考えても、えりかだわなぁ」
不満顔でシプレとコフレが突っ込むと、苦笑を浮かべながらコロンがつぶやき、さきほどの仕返しとばかりに、菖は意地悪な笑みを浮かべながらそれに続けた。
だが、えりかはそんなものは意に介していないようで、握りこぶしをつくり、とにかく!、と大声を出した。
「砂漠の使徒がどんな卑怯な手を使ってきても、あたしたちが力を合わせれば、絶対、絶ぇぇぇぇぇっ対、大丈夫だよ!!」
えりかの頼もしいその言葉に、いつきはうなずいて返し、つぼみも同意した。
だが、ゆりと菖だけは、不安が、いや、懸念があったようだ。
「……本当にそうかしら?」
「……どうだろうな?」
「「「え?」」」
つぼみたちが視線を向けたが、ゆりは手にしたティーカップの淵を指ではじき、そっと口元に運ぶだけで何も言わなかった。
だが、視線だけは菖の方へ向いていたため、菖に説明しろ、と伝えていることだけはわかった。
菖はそっとため息をつくと、空を見上げて、口を開いた。
「……たしかに、つぼみたちは強くなった。それに、ゆりもかつての力を取り戻した。けど、
「そ、それはそうだけど!」
「向こうは新しい力を身につけてくる。俺たちも、何かしらの対策を講じないといけない」
あくまで直感でしかないけど、そんな気がするんだ、と眉間にしわを寄せながら、菖はそう言った。
長い歴史を見ても、人類は何かしらの脅威に対して、常に対策を講じてきた。
砂漠の使徒にも、それだけの知性がある。
現状で満足してしまっては、必ず苦戦を強いられることになる。
だからこそ、自分たちもなんらかの力を身につける必要がある。
そう考えての一言だった。
ふと、ゆりが置いたティーカップに残されたお茶が、細かな波紋を生みだした。
注意深く周囲に耳を傾けると、かたかた、と周囲が細かく揺れている音が聞こえてきた。
その音は徐々に大きくなっていった。
それに気づいたつぼみたちは、自然と窓の外へと目を向けた。
すると、慌てた様子の薫子が突然、部屋に入ってきた。
「みんな!大変よ!!」
同時に、何かが空から落ちてきた。
それが落ちたと思われる場所に、今度は黒い、巨大な二本角の怪物が出現した。
「なぁぁぁぁぁっ??!!」
「なに、あれ?!」
「まさか、砂漠の使徒の攻撃?」
「行くわよ、みんな!」
ゆりが合図するよりも少し早く、菖は左手に指抜き手袋をはめながら、植物園の外へ出た。
それに続いて、つぼみたちも外へ出た。
菖に追いついたつぼみたちが目にしたものは、怪物によって砂地にされてしまった花畑だった。
「みんな、変身よ!!」
それを見たゆりは、鋭い声で合図すると、つぼみたちはココロパフュームを取り出した。
その瞬間、制服姿だったつぼみたちはそれぞれの色に輝くワンピース姿へと変わった。
「「「「プリキュアの種!いくですぅ/ですっ/でしゅ/よ!!」」」」
「「「「プリキュア!オープンマイハート!!」」」」
妖精たちから飛び出してきた心の種をつかみ、それぞれの変身アイテムにセットすると、つぼとえりか、いつきの三人はパフュームから吹きだしてきた光の香水に包まれ、ゆりはココロポットに溜められていた心の種の光に包まれた。
光の中で、つぼみたちはワンピースからプリキュアのコスチュームへと姿が変わっていった。
「大地に咲く、一輪の花!キュアブロッサム!!」
「海風に揺れる、一輪の花!キュアマリン!!」
「陽の光浴びる、一輪の花!キュアサンシャイン!!」
「月光に冴える、一輪の花!キュアムーンライト!!」
「「「「ハートキャッチ!プリキュア!!」」」」
四人が名乗ると同時に、菖も手袋をはめた左手を胸の前にかざし、拳を握りしめた。
その瞬間、手袋に描かれた紋章が光を放ち、菖を包みこんだ。
光の中で、菖は白い生地に不思議な紋章が描かれた燕尾のマントをまとった剣士の姿へと変わった。
つぼみたちとは対照的に、菖は変身が終わっても名乗ることはなく、腰の右側に佩いた
だが、怪物は執拗に花畑に砂漠化の光線を浴びせ続けた。
「――っ!!これ以上は、やめてください!!」
「あぁ、ブロッサム!!」
耐えきれなくなったブロッサムが考えなしに突撃していったが、相手の体躯はゆうに十倍以上はある。
徒やみくもに殴りにいったところで、はじき返されるのがおちだった。
はじき飛ばされたブロッサムを、マリンが受け止めた。
「あたしの親友に何してくれてんのよ!!」
マリンが叫びながら突進し、怪物の顔面に蹴りを入れたが、それもやはりはじき返されてしまった。
その様子を見ながら、セイバーはムーンライトに耳打ちした。
「ムーンライト、全員で一斉に」
「それしかなさそうね……みんな!同時にフォルテウェーブよ!!」
ムーンライトの合図で、ブロッサムたちはタクトとタンバリンを構え、花の力を集めた。
「花よ、輝け!!プリキュア!ピンクフォルテウェーブ!!」
「花よ、煌めけ!!プリキュア!ブルーフォルテウェーブ!!」
「花よ、舞い踊れ!!プリキュア!ゴールドフォルテバースト!!」
「花よ、輝け!!プリキュア!シルバーフォルテウェーブ!!」
「ユグドフォルテウェーブ!!」
手にした武器から放たれた花の力が、それぞれの色に輝く光の花となって、同時に怪物に向かって飛んでいった。
同時に、セイバーも手のひらに花の力を集め、怪物に接近し、手のひらを叩きつけた。
五人の花の力に包まれ、怪物はようやく、姿を消した。
だが、完全に消滅はしなかった。
怪物が立っていた場所には、巨大なモニュメントのようなものが出現したのだ。
「なんでしょう、これ?」
「やっつけたんじゃないの?!」
困惑しながらも、油断なく身構えていると、謎のモニュメントから突然、声が響いてきた。
《やってくれたね、プリキュアども。そして、現代のユグドセイバー……我が名はデューン。砂漠の王だ》
どうやら、デューンと名乗ったこの人物こそ、砂漠の使徒の首領であり、このモニュメントとなった怪物を送り届けてきた張本人らしい。
彼は淡々とした口調で、たった一粒で星の緑を奪い尽くし、砂漠としてしまう、砂漠の使徒の最終兵器ともいえる「
そして、デューンはブロッサムたちに、止められるものならば止めてみろ、と挑戦状を叩きつけてきた。
そのデューンのメッセージが終了すると、モニュメントは塵へと変わり、跡形もなく消えてしまった。
「砂漠の種、デザートデビル……」
「あんなものが、これから地球に?」
デューンからの突然の挑戦状に、ブロッサムもマリンも驚愕していた。
すでに戦う覚悟はできている。
だが、この戦いに負けてしまえば、自分たちだけではない、この星にいるすべてのものが危険にさらされてしまう。
だからこそ、負けるわけにはいかない。
「残された道はただ一つ、だな」
「えぇ……デザートデビルが到達するまでの時間で、わたしたちがパワーアップするしかない」
「けれど、どうやって……」
ムーンライトとセイバーの言葉に、ブロッサムが疑問を投げかけてきた。
その疑問に答えるように、背後から薫子が声をかけてきた。
「……もし、さらなる力を求めるのなら、プリキュアパレスへ行きなさい」
「プリキュアパレスへ?」
プリキュアパレスとは、プリキュアがさらなる力を求めるときに訪れる聖域のことで、ムーンライトも話だけならば薫子から聞いていた。
だが、ムーンライトもセイバーもその領域に達する前に、変身不能の状態になってしまったため、実際にプリキュアパレスに足を踏み入れたことはなかった。
「そこで待ち受ける試練を乗り越え、ハートキャッチミラージュを手に入れる。それしか方法はないわ!」
「ハートキャッチミラージュ……?」
「かつて、キュアフラワーが砂漠の王を倒すために使ったという、伝説のアイテムよ」
ブロッサムのつぶやきに、ムーンライトがそう解説した。
その解説に、薫子は残念そうに顔を伏せた。
「本当は、もう少し、あなたたち自身の成長を見守りたかった……けれど、もう悠長なことは言っていられない。みんな、ついてきなさい」
そう言って、薫子は植物園へと向かっていった。
ブロッサムたちも、変身を解除することなく、そのまま薫子の後ろへ続き、植物園へと入っていった。
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植物園の一角にある、かなりの樹齢を感じさせる大樹の前に来ると、薫子はポプリにポシェットに隠し持っている種を出すように指示した。
ポプリは言われるままに種を取りだし、大樹の洞にあるくぼみに取りつけると、洞が突然、光を放ち、その場にいた全員を包みこんだ。
光が収まり、セイバーが目を開けると、目の前には心の大樹に負けないほど立派な大樹がそびえたっていた。
だが、周囲には自分以外の人影が見当たらない。
「……ここは……」
どこだ、とつぶやきかけて、セイバーはエターニアハートを引き抜いた。
その瞬間、エターニアハートと交差するように、紫に輝く巨大な刀身が視界に入ってきた。
向かってきた剣の使い手は、セイバーにさらなる追撃を開始した。
その斬撃すべてを受けとめ、あるいは捌きながら、セイバーは突如現れた敵対者である剣士にエターニアハートを振るった。
だが、敵対者はエターニアハートの間合いの外へと逃げ、その一撃を回避した。
「……強い」
「そりゃ強いさ……なにしろ、俺はお前の先輩みたいなもんなんだからな」
セイバーのつぶやきに、剣士はそう返してきた。
わけがわからない、と思いながら、エターニアハートを構えた。
剣士はその表情に何か思うところがあったのか、そうだな、とつぶやいた。
「……名乗っておこうか。俺は、ユグドセイバー。かつて、キュアアンジェとともに戦った、心の大樹の契約者。正確には、その魂といったところだな」
鳶色の癖っ毛に、赤い革製の服を着た剣士は、感情を押し殺した声でそう名乗った。
同時に、セイバーは悟った。
目の前にいる先代のセイバーと戦うことが、自分に課せられた使命であることを。
あとがきの代わりの一場面(スキット風)
シプレ「おばあちゃん、ハートキャッチミラージュの試練ってどんなものなんですぅ?」
薫子「ハートキャッチミラージュの試練、それはかつての自分と向き合うことよ」
コロン「それは……厳しい試練になりそうだね」
薫子「えぇ……けれど、それはプリキュアに限っての話よ。ユグドセイバーにどんな試練が課せられるのか、それはわたしでもわからないわ」
コフレ「それじゃぁ……」
ポプリ「セイバーにはもっと厳しい試練が待っているかもってことでしゅか?」
薫子「えぇ……けれど、信じましょう。みんなが無事に戻ってくることを」
コロン「そうだね……それも、僕たちにしかできないことだ」
薫子(どうか、みんな無事に戻ってきて……)