ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
ついでに、本編とは大分ずれますが、オリジナルの展開を入れさせていただきます
それが何かはひとまず、読んでからのお楽しみ、ということで!
ではでは、本編どうぞ
半数近くのチームのステージが終了し、少しばかり休憩時間をもらったオールスターズメンバーは、舞台裏へとやってきていた。
オドレンから休憩室に飲み物を用意している、と説明を受けると、パートナー妖精たちのほとんどが、プリキュアたちに飲み物を取ってくる、と言って、休憩室へ向かっていった。
なお、コロンもゆりに気を遣って飲み物を取りに行こうとしたが、ゆりがそれを止めたため、今はゆりの肩に載っている。
パートナー妖精を見送り、談笑しながら休憩室へと歩いていると。
「どいたどいた~っす!!」
両手に大荷物を抱えたウタエンがどたどたとメンバーの間を走り抜けていった。
その慌ただしさに、一同は目を丸くしていたが、舞台裏はそんなもの、とフレッシュ組から説明された。
ダンス大会のステージに何度となく立っている彼女たちからの言葉に納得した一同は、再び休憩室に向かって歩き出した。
「おい、うまくいったか?」
「もちのろんっす!」
ウタエンが走り去っていった方向で待機していたオドレンが首尾を聞くと、ウタエンは抱えていた荷物を開いた。その中には、さきほどすり取ったプリキュアの変身アイテムがごっそりと入っていた。
「ふっふっふ……まさかあの背の高いほうがユグドセイバーだとは知らんかったが」
「えぇ!所詮はプリキュアと同程度のはずっす!!」
「そして、プリキュアも変身できなければただの非力な小娘も同じ!!」
そう、すべてはオドレンの作戦だった。
ハルモニアを盗んだまではいいが、数時間もせずにプリキュアたちがやってくる。
それを知って逃げずにいた理由は、カーニバルにあやかり、プリキュアから変身アイテムを奪い取り、一網打尽にすることだった。
「プリキュア全員を一気にやっつけちまえば、俺たちを邪魔する連中は未来永劫いなくなる!」
「さすが兄貴っす!!」
……そうそううまくいけばいいけどねぇ。
「あん?なんか言ったか、
……いいえ、なにも。
「さぁ、あとはカーニバルを終わらせて、邪魔な三人をどっかに閉じ込めちまえば、俺たちの作戦は成功だ!」
「それまではのんきに楽しんでもらうっすよ!」
周辺に聞こえないのが不思議なくらいの高笑いをしながら、オドレンとウタエンは闇の中へと消えていった。
だが、その計画を聞いていた影が二つあることに、オドレンとウタエンは気付かなかった。
「……ど、どうしよう、湊くん?!」
「まさか、俺と兄貴の勘が当たるとはなぁ……」
二人の企みを聞いていたあゆみと湊は、それぞれそんな反応を示していた。
もっとも、ここでオールスターズメンバーに話したところで、信じてもらえないか一気に騒ぎが大きくなり、事態が収拾できなくなることもありえる、と考え。
「とりあえず、騒ぎになるとまずいから、兄貴以外には黙っておこう。いいな?グレル、エンエン」
「「オーケー/わかった!」」
ひとまず、事態を静観することにした。
だが、あゆみはパートナー妖精がいないと変身することができないため、万が一に備えて、あゆみのそばにいるように指示した。
むろん、グレルとエンエンもその意図は理解していたため、素直にうなずくのだった。
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一方、休憩室に向かったなぎさたちに少し遅れる形で歩いていた菖は、ゆりとコロンに声を掛けた。
「ゆり、ちょっといいか?」
「どうしたの?菖」
「はい、これ」
振り返ったゆりに、菖は彼女の変身アイテムであるココロポットを手渡した。
なぜ、それを菖が持っているのか。疑問に思ったゆりは、若干、訝しむように菖を見た。
その視線の意味を悟った菖は、違う、と否定した。
「俺じゃないっての……いただろ?たった一度だけ、ゆりからココロポットを盗む機会があったやつが」
「……まさか、ウタエンさんが?」
「あぁ……まったく、いい腕してるよ」
「……それをすり返すあなたも相当なものだと思うのだけれど……」
呆れながら話している菖に、ゆりは苦笑を浮かべた。
なお、菖のすり技術は、海外でも治安の悪い地域で、何度か手荷物をすり取られた経験から来ているものらしく、あまり揉めることを好まないため、すられた瞬間にすり返す、という技術を身につけたらしい。
「会場にも、明らかに妖精じゃない何かがいたし……何より、カーニバルの由来を『なんやかんや』って誤魔化す時点でかなり怪しかったからな……」
「ということは、このカーニバルは……」
「それに、この国も……」
「おそらく、な」
ゆりとコロンも菖と同じ仮説に行き着いたらしい。
だが、だからといってこのことをつぼみたちに話すという考えはなかった。
つぼみたちは、如何せん、素直すぎる。
特に、なぎさを筆頭にしたピンクチームと、一部のイエローチームはその素直さが美徳であるため、怪しんでいるということがすぐにばれてしまう可能性が高くなる。
何より。
「みんなには、ギリギリまでカーニバルを楽しんでほしいしさ……なるべく、水を差したくない」
「……うふふ♪わかったわ。それなら、わたしも黙ってる」
「僕もだ」
「すまんな、二人とも」
すまなさそうな笑みを浮かべて、菖が二人に感謝した。
だが、その心中では。
――ほんと、そういう優しいが大好きなのよね
――そういうところが大好きなんだろうね、ムーンライトもブロッサムも
とつぶやいていたのだが、それを菖が知る由もなかった。
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そしてステージは進み、S☆S組、ドキドキ組、スイート組、ハピネスチャージ組がステージを終わらせ、いよいよ、プリンセス組がステージを始めようとしていた時だった。
「みんな!その二人を捕まえて!!」
「え?!……えぇっ??!!」
オドレンとウタエンが、プリキュアたちに追いかけられていた。
何が何やら困惑するプリンセス組の三人だったが、ウタエンがずっこけてしまい、手にした荷物から、大量の変身アイテムが転げ落ちてきた。
その中には。
「あーーーーっ?!」
「ココロパフューム?!」
「あ、あたしのスマイルパクトも?!」
「オドレンさん、ウタエンさん、これはどういうこと?」
「まさか、あなたたち!」
プリキュアの変身アイテムが入っていた。
なぜ、彼らの荷物の中に変身アイテムが入っているのか。
もしや、盗んだのではないか。そう勘繰られて、オドレンとウタエンは慌てて弁解を始めた。
「ち、違うんですよ!」
「お、オイラたち、プリキュアの大ファンなんっすよ!」
「そ、そうそう!思わず、イミテーションを作ってしま……」
と、言いかけた瞬間。
荷物の中から、着信音が響いた。
オドレンとウタエンが慌てた様子で荷物の中身を漁ると、着信音が響かせているプリキュア5の変身アイテム「キュアモ」があった。
「あーっ!!あたしのキュアモ?!」
「わたしのもあるわ!!」
「やっぱりね!」
「思った通り、か……ゆりのココロポットがすられてた時から、もしやとは思ってたけど」
のぞみとかれんが驚愕する一方で、いおなと菖の冷静な声が響いた。
いおなの手には、ハピネスチャージ組がブルーからもらったプリキュア専用の携帯電話「キュアライン」が、菖の手にはスマートフォンが握られていた。
「のぞみちゃんたちのキュアモは携帯電話としても機能する。偽物だったら、着信音はしないはず!」
「けど、こうして着信音が鳴っている……それがどういうことかは、解説しなくてもわかるよな?……そろそろ、化けの皮、剥いだらどうだ?盗人さんよぉ!!」
菖といおなに看破され、オドレンとウタエンはどう突破するか、必死に考えた。
だが、いい案は浮かび上がってはこなかった。
「……くっ……こうなりゃ、仕方がねぇ!!」
「お察しの通り、オイラたちはこの国の大臣じゃないっす!!」
当然、ウタエンのその言葉にプリキュアたちは驚愕した。
だが、そんなことはお構いなし、という具合に、オドレンとウタエンはポーズを決めて名乗りを上げた。
「空に輝く太陽も!」
「水面に映る月すら盗む!!」
「「七つの海をまたにかけ!」」
「世界のすべてを手に入れる、無駄にイケメンなニクイ男!神出鬼没の大盗賊、オドレン!」
「その相棒、ウタエンっす!!」
「俺たちに心まで盗まれても、知らないぜ?」
二人は心中で、決まった、とつぶやいていた。
だが、周囲の妖精たちだけでなく、プリキュアたちからも反論があったらしく。
『無駄にイケメンって、全然イケメンじゃないじゃん!!』
「「「え~?藤P先輩/和也さん/明兄ぃのほうがイケメンなんだけど/なり~!!」」」
「「「菖さんのほうがイケメンですっ!!」」」
「湊くんのほうがイケメンだもん!!」
「「いや、お前ら、何言ってんの??!!」」
言われた菖と湊は若干、頬を赤くしてつっこみを入れた。
ちなみに、ゆりもまた顔を赤らめながら。
「……とっくの昔に菖に盗まれてるわよ、そんなの……」
とつぶやいていたのだが、誰も聞いているものはいなかった。
とはいえ、冷静さに定評があるゆりは、すぐに平静を取り戻すと、オドレンたちに問いかけた。
「盗賊……ということは、わたしたちをだましていたのね?」
「そういうことだぜ、
「すでにこの国は兄貴のものっす!!国のお偉い人たちだって、牢屋の中っすよ!!」
ウタエンのその言葉に、当然、妖精たちはブーイングを飛ばした。
だが、オドレンがそれを一喝し、何かのコントローラーのようなものを取り出した。
「なに、あれ?」
「ゲーム機のコントローラー??」
「いくぜ、大回転!!」
オドレンがコントローラーを操作すると、突如、ステージが回転を始めた。
回転する中でステージがまるでメッキが剝がれていくかのように崩れていき、姿を変えてしまった。
「……なに、これ……」
「随分、悪趣味ね」
「センスゼロですな!」
「……まぁ、そこのへっぽこ盗賊二人組の心情が出てるんだろ」
変化したステージに、プリキュアたちと菖がそんな感想を漏らしていた。
当然、その感想に、特に菖がへっぽこ盗賊と呼んでいたことに、オドレンは怒り出した。
「だまらっしゃい!!というか、誰がへっぽこだ、誰が!……こほんっ!!いまやこのステージはお前たちを閉じ込める檻だ!」
「ここからは一歩も出さないっすよ!!」
「なによ、それ!!」
「そんなことさせないわ!はるか、きらら!変身よ!!」
当然、二人の思い通りにさせるつもりは毛頭なく、まだ変身アイテムを奪われていないプリンセス組が変身アイテムを取り出し、変身しようとしたが。
「させるかよ!ドロボーン!」
「あぁっ?!」
「くっ!」
「ちょっ?!」
変身を邪魔するために、オドレンがドロボーンを呼び出した。
いきなり現れたドロボーンに驚き、三人は思わず後ずさってしまった。
そして、そこに隙が生まれ。
「隙あり!!」
オドレンのステッキが突然伸びて、プリンセス・パフュームを奪い取ってしまった。
「ふ……ふっふふふ……あーっははははは!!これで、全てのプリキュアの変身アイテムは俺様のもの……プリキュアに変身できないお前らなんぞ、非力な小娘も同ぜ……」
「それはどうかな?」
「それはどうかしら?」
オドレンが高笑いする中、菖とゆりが不敵な笑みを浮かべてプリキュアたちの前に躍り出た。
「お前ら、誰か忘れちゃないか?」
「あん?プリキュアは全員……」
「……あ、兄貴!まずいっす、そういやもう一人いたっす!!変身できる奴が!!」
「……あぁっ!!ユグドセイバーか?!」
プリキュアさえ変身できなくさせてしまえば、ということばかりに思考が寄っていたらしく、オドレンの頭の中にセイバーと幻のプリキュア、その守護騎士の存在が抜けていたようだ。
だが、それだけではない。
ゆりの手に、盗んだはずのココロポットがあることに気付き、二人はさらに驚愕した。
「な、なんでそれがお前の手に?!」
「お、おいらがほかの変身アイテムと一緒に盗んだはずっす!!」
「お生憎様!こっちにはあなたたちと同じくらい、手癖の悪い人がいるのよ!!」
「ちょっ?!それ、ひどくないか?!……まぁ、いいけど……それと、へっぽこ盗賊ども!俺に、いや!
「おうさ、兄貴っ!!」
「えぇっ!コロン、お願い!!」
「わかった!!」
「心力解放!ユグドセイバー、スタートアップ!!」
「来い、白銀の鎧よ!!」
「プリキュアの種、いくぞ!」
「プリキュア!オープンマイハート!」
菖と湊が同時に叫ぶと、まぶしい光が二人を包み込んだ。
光が収まると、そこには白い外套をまとった騎士と、白銀の鎧をまとった騎士が、そして、オールスターズ最年長の白銀のプリキュアが立っていた。
「大樹の騎士、ユグドセイバー!」
「守護騎士、アステア!!」
「月光に冴える、一輪の花!キュアムーンライト!!」
プリキュアを守護する二人の騎士とおそらくはプリキュアオールスターズの中でも最強といえる実力を持つキュアムーンライトの登場に、周囲の妖精たちは歓声を上げた。
予想していなかった守護騎士の登場に、オドレンは動揺を隠せていなかったが、すぐにドロボーンたちを呼び出した。
呼び出されたドロボーンたちは、変身できないなぎさたちにむかって襲いかかってきたが、その動きを、三人が止めた。
その結果として三人はドロボーンたちに取り囲まれることになった。
だが。
「さすがに多いなぁ……百は越えてるんじゃないか?」
「兄貴、いけるか?」
「あら?二人とも、まさかこの程度で弱音を吐くの?」
セイバーと湊に背を預けながら、ムーンライトは余裕綽々といった様子で返した。
むろん、それに反論しないセイバーではない。
「まさか!……というか、二人こそ、大丈夫か?この数」
「あら?この程度の数、あなたたちとなら余裕もいいところだわ」
「さぁ?俺は、あと一体増えたらきついかも?」
セイバーの問いかけに、アステアはわざとらしく返した。
その返答に、セイバーは薄い笑みを浮かべて。
「なら、湊が打ち漏らした一体は俺かムーンライトがもらうってことでどうだ?」
「ふふっ……それもいいわね」
「うわぁ、ひでぇな、二人とも……」
「「「……ふっ」」」
三人は余裕そうにそんなやりとりをしていたかと思うと、同時に不敵な笑みを浮かべて、取り囲んでいたドロボーンを迎え撃った。
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一方、オドレンとウタエンは変身アイテムを奪われてなお、戦おうとするプリキュアたちと対峙していた。
「ちっ……まさか変身アイテムを取り返していたとは予想外だったが……お前さんたちは変身アイテムがないってのに、まだ抵抗するつもりか?」
「当たり前でしょ!」
「世界をあなたたちのものになんて、絶対にさせない!」
たしかに、変身アイテムは奪われてしまった。
唯一、あゆみだけはグレルとエンエンが一緒にいるため変身はできるが、彼女が変身するキュアエコーは、浄化に特化したプリキュアであり、ルミナスと同じく、戦闘力はほとんどない。
けれども。
「たとえ変身できなくたって!」
「わたしたちがやることは、ただひとつ!!」
「あなたたちを!」
『止めてみせる!!』
絶対的不利な状況に陥ったとしても、決して絶望せずに立ち向かう。
それが、プリキュアオールスターズの合言葉だった。
だが。
「あっれ~?兄貴、あいつら、戦う気みたいっすよ?」
「はっ!変身もできない小娘に何ができるってんだ!!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらコントローラーを操作した。
その瞬間、はるかたちプリンセス組以外のオールスターズメンバーが立っていた場所が、突然沈み始めた。
『え?!』
『な、なに??!!』
「みんな!!」
突然、ステージが沈み始めたことに困惑するなぎさたちを助けようと、はるかたちは駆けだした。
同時に、ドロボーンの群れの中から、銀色の光が飛び出し、ステージの方へと向かってきた。
「あゆみ、みんな!!」
それがキュアエコーと共に誕生した
あゆみはグレルとエンエンを抱えたまま、アステアに手を伸ばした。
アステアはその手をつかみ、飛び出そうとしたのだが、時すでに遅く。無情にもステージは奈落の底へと沈んでいき、扉が固く閉ざされてしまった。