ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
やり始めたらとてもじゃないけど終わらないですもん。
時代も適当にチョイスさせていただきました。
あと、今回のあとがきですが、私が個人的に思っていることを菖に代弁してもらいました。
不快に思われる方も中にはいらっしゃると思いますが、個人的に本当に必要なことだと思っているので、ご了承いただければと。
……通算70話目……本編を投稿する予定だったんだけどなぁ……
人間の科学技術の進歩というのは早いもので、特に最近はコミュニケーションツールで用いる分野の発展が目まぐるしい、というのが菖の感想だ。
そんな感想を抱いている菖の目の前には、菖のスマホが置かれていた。
そして、その画面ではSNSアプリが開かれており、フレンド登録しているオールスターズのメンバーの会話が繰り広げれていた。
当然、その中にゆりのアカウントもあり、オールスターズメンバーとは別にコミュニケーショングループを作っているのだが、それはまた別の話。
現在、オールスターズメンバーの間では、一つの共通の話題で持ちきりになっていた。
それは、歴史の授業がまったくわからない、というものだった。
ふと、アプリのチャット画面を見てみると、あろうことか、ゆりが驚愕の提案を投げかけてきた。
《なら、いっそのこと菖に歴史の授業をしてもらってみてはどう?》
それを見た菖は、一瞬、思考が凍結したが、すぐに反論の返信を送った。
《いや、待て!なんでそうなるんだよ??!!》
《あら?だってこのメンバーで歴史の成績が一番いいのはあなたしかいないでしょ?》
《いや、ゆりが教えればいいじゃないか!!》
《あなたの成績を見たら、わたしが教えて大丈夫かどうか不安になるわよ》
明堂学園高等部きっての才女、として有名なゆりなのだが、唯一、歴史の成績だけは菖に負けてしまっている。
それだけならまだしも、菖は時折、同級生にも歴史を教えてほしいと頼まれることがある。それだけならばまだいいのだが、その解説が教師顔負けといった次元に達してしまっているため、先生に聞くより春川に聞いたほうが面白い、という印象が同級生の間で広がっていた。
そのせいで、一部の教師から白い目で見られることがあるのだが。
閑話休題。
ゆりのお墨付きのせいで、菖に授業をしてもらえるという雰囲気が出来上がってしまい、断るに断れなくなってしまった菖は。
《……わかったから、せめて範囲を教えてくれないか?》
と、敗北宣言をするのだった。
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日曜日。
ありすの好意で貸切にしてくれることになった四葉財団が所有しているホテルに、オールスターズのメンバーは来ていた。
その中にはもちろん、菖もいるのだが、不機嫌そうな面構えをしていた。
普段、穏やかな表情しか見たことがないドキドキ組は、菖のその表情に驚愕していた。
「ちょ?!菖さん、なんかものすごく不機嫌な顔してる?!」
「い、いったい、何があったのよ……」
「あらあら♪」
「な、なにか嫌なことでもあったのかしら……」
「は、判断がつきませんわ……」
「……主な原因がお前らだということを自覚しろ……」
ドキドキ組がそんなことを言っていると、とうの本人が苛立ちをおさえることなく、文句を言ってきた。
「え、えぇと……ごめんなさい?」
「マナ、なんでそこで疑問符なのよ……まぁ、わたしたちは本当に関係ないから、仕方ないんだけど」
ドキドキ組は普段、アイドル活動をしている真琴を除き、メンバー全員が優秀な成績を修めている。そのため、歴史の授業がわからない、という枠にはまってはいないのだ。
そのため、今回はどちらかといえば、菖をサポートする立場にあり、自分たちが怒られる謂れがまったくわからないでいた。
「……そもそも、歴史の成績がいいからってなんで俺が教師役なんだよ……俺、自分で研究する分にはいいけど、教えるのへたくそなんだぞ……」
ぶつぶつと、菖は聞こえないようにそんな文句を呟いていた。本人は自分を過小評価する傾向にあるため、本当のところを知っているゆりやつぼみたちが聞いたら、そんなことはない、と強く否定するだろうが。
もっとも、人になにかを教えるということが、どれほどエネルギーを使うか、身をもって体験している勉強をちゃんとしていた
「いい加減にしなさい、ここまで来たら腹をくくるのが男でしょ」
と、近寄りがたい雰囲気になっていた菖に、ゆりは何の遠慮もなく近づき、どこからか取りだしたハリセンで頭をはたいてきた。
その一発で、菖の怒りはなりをひそめ、再び不機嫌そうな面構えに戻った。
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その後、ホテルの会議室に入った一同だったが、その中に、菖の姿はなかった。
いや、菖だけではなく、ほのかとかれん、こまち、ゆり、れいか、亜久里とレジーナ以外のドキドキ組の姿もなかった。
そのことに疑問を感じた、今回の勉強会の発起人たちだったが、その理由はすぐにわかった。
授業用のものなのだろう、様々な資料を手にした菖が姿を見せると同時に、この部屋にいなかった面子も姿を見せた。
「さてと、それじゃさっさと授業を始めようか。学校や塾じゃないから、あいさつは不要。さっさとやるぞ」
そう言って、壇上に立った菖はサポート役を買って出てくれた優等生組に資料の配布を頼んだ。
数分もしないうちに、全員に資料が行きわたり、いよいよ、菖の授業が開始された。
「さてと、それじゃ今日やるのは江戸時代の初期から中期。いわゆる、三大革命前の時代までだな。たしか、今やってるのはそこらへんだったよな?」
なお、地域によってばらつきはあるものの、現在、ここにいるメンバーが学校の授業で扱っている範囲がそのあたりに集中しているということは、四葉財団の調査でわかっている。
それを聞いたとき、さすがの菖も何も言えず、ただただ乾いた笑みを浮かべていた。
「さて、まずはそもそも江戸幕府ができるまでのことをやらないと始まらないな。なわけで、ひとまず、江戸幕府ができる直前のことから話をしていこうと思う」
そう宣言してから、菖は本日の生徒たちの方へ視線を向けた。
「さて、まずは基本的な質問だ。江戸時代の前の時代を何時代と言ったか、覚えているかな?えりか」
「うぇ??!!は、はい!!」
「次の中から選んで答えてくれ。一、安土桃山時代。二、戦国時代。三、ファッション現代」
なお、最後のファッション現代はえりかがよく買っているファッション雑誌の一つであり、菖なりにこの授業に込めた笑いの要素でもある。
だが、これは基本的すぎる問題なので、さすがにえりかも自信たっぷりに返してきた。
「安土桃山時代っしゅ!!」
「その通り。で、その戦国時代の終わりに、「天下分け目の合戦」って呼ばれた戦争が勃発したんだが、それは」
「あ、それ知ってる!関ケ原の合戦でしょ!!」
「……響、その通りだ。んじゃ、その戦いが終わったのは?」
「……」
菖の言葉に先駆けて、響が発言したので、その流れで質問をしたのだったが、どうやら、年号までは覚えていないらしい。
いまどき、小学生でも覚えているような年号なうえに、切りもいい数字なので覚えやすいのだが。
「1600年な。これは一般常識だから、覚えておくように」
「……はい……」
「さて、さっきも言った通り、関ケ原の合戦は
『はい!』
さすがに「おバカ」で定評のあるのぞみも、ここまでは理解できているらしい。
だが、菖にとっても、ここまではあくまでも復習であり前哨戦だ。
問題は、この先に控えている内容になっていた。
「さて、それじゃここからいよいよ本題に入っていこう。まず最初に……」
こうして、菖による江戸時代の授業が始まった。
基本となる幕府の政治制度に始まり、幕府の敷いた政策、将軍ごとの特色やその時々の気風からくる文化の変化、事件などを具体的な例や時代劇の一幕を交えて説明していった。
その内容の面白さもさることながら、「どんな突拍子もないものでもいい、とにかく自分が考えた答えを言ってみてほしい」という、菖独自の質問スタイルも手伝って、授業開始から一時間経過しても誰も居眠りをしている様子はなかった。
「……さて、ひとまずこれくらいで今度のテストの範囲は大丈夫だろう。みんな、お疲れ様!」
その言葉が、授業終了の合図となった。
授業終了後、菖は教卓として使わせてもらっていたテーブルに突っ伏し、大きくため息をついた。
「……疲れた……」
「お疲れ様。相変わらず、すごいわね」
菖のその一言に、ゆりはそう言いながらペットボトルのお茶を渡してきた。
ありがとう、と一言礼を言ってから、菖はペットボトルの中に入っているお茶を口に含み、再びため息をついた。
「けど、この資料があればゆりでもこのレベルの授業、できただろ?」
「そうね……やれといわれてできないこともない、かしら?」
「資料作るのは俺がやって、授業はゆりってわけにいかなかったのか?」
いまさらながらの質問に、ゆりは意地悪な微笑みを浮かべて。
「あら?だって、みんなが希望したのは菖、あなたの授業なのよ?だったら、その要望に応えたほうがいいんじゃないかしら?」
「……もっともなことで」
正論を返され、菖はため息とともに反論を諦めた。
菖のそのふてくされているとも取れる様子に、ゆりは優しそうな微笑みを浮かべるのだった。
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それから一週間。
SNSアプリのチャット画面には、菖の授業のおかげで歴史のテストで満点を採れた、という報告と菖へのお礼が次々に流れてきていた。
《本当に、ありがとうございました!》
《あぁ、なんで菖さんがわたしたちの先輩じゃないんだろ!!》
《というか、学校の授業がつまらなすぎるのがいけないのよ!》
《……お前らな、先生たちだって工夫してるんだからな?そこんとこわかってんのか??》
徐々に学校の先生を叩き始めた彼女たちに、菖は一言釘をさした。
生徒の側であるとわからないことなのだが、たとえ十分間だけの授業であっても、かなりの準備が必要となる。
その中から、最低限、教養として必要となる情報をピックアップし、わかりやすく伝えるにはどうすればいいのか。そして、より印象付けるために、どのような雑談や小噺、豆知識を披露すればいいのか、という点にも教師は心血を注いでいる。
その努力を、菖は両親の背中を見て知っているから、学校の授業で文句を言うことはない。
そして、だからこそ、「面白いから」という安易な理由で自分に授業をしてほしいと言ってほしくないのだ。
もっとも、その想いを理解してくれているのは、ゆりだけなのだが。
その後、SNS上では、勉強苦手組に対して、菖がお説教をすることになってしまった。
なお、その内容はオールスターズ全員が見ていたため、ゆり以外の全員が、『耳が痛い』という感想を抱いたのだった。
あとがき代わりの後日談(スキット風)
~授業終了後~
菖「さて、これでおしまいだけど、みんなに聞いてほしいことがある」
ゆり以外のオールスターズ『……?』
菖「みんな、歴史に興味がないみたいだけど、もしかしなくても「昔の人の話だから」って理由じゃないだろうな?」
勉強苦手組『ぎくっ!!』
菖「……やっぱりか。けどな、お前らだって好きなことくらいあるだろ?そこにだってちゃんと歴史は存在するんだぞ?まして、ファッションや歌、料理、小説なんかは当時の国の意思やお財布事情なんかの影響をもろに受ける分野で、そのたびに消滅しないように工夫を凝らし、進化しているんだ。それに興味を持たないでどうするよ」
えりか「えぇ?……けどさぁ、突き詰めても結局「昔……」
菖「だからってそこで思考停止して学ぶことを放棄するのは愚者の行いだ。そもそも、歴史を学ぶことの意義は、自分たちが生きている国が歩んできた道筋を知り、その時代その時代に生きてきた人々が築いた文化を受け継いで、さらに進化させていくことにある」
マナ「う~ん……けど、それが「いま」とどう関係が……」
菖「……ある教授の話だ。第二次大戦のときに激しい空襲を受け、大学は崩壊、街は壊滅寸前というところまで行っていた」
なぎさ「うへぇ……」
菖「だが、その教授は授業を続けた」
なぎさ「え?」
こまち「黒板も机も、ないのに、ですか?」
菖「あぁ。その教授は当時、こう語ったそうだ『敵の狙いは我々英国民の向上心を砕くこと。ここで我々が学ぶことを放棄すれば、それこそ、ヒットラーの思うツボ。今こそ学び、憎しみ合い、殺し合う人間の性を乗り越え、新たな文明を築くべきです』ってな」
ゆり「第二次大戦中に、そんな立派な精神をもつ方がいたのね……」
菖「あぁ。けど、残念なことに過去の文明を学び、新たな文明を築こうとする気概のある若人はこの場にはいないらしい」
オールスターズ『うっ……』
菖「何より、歴史を学ぶことの意義は、自分の国が築いてきた文明や文化を知り、新しい文明や文化を築くだけじゃない。ほかの国が持つ文明を知ることで、その国の価値観を知り、理解し、共存共栄の道を模索することにある」
のぞみ「……ねぇ、りんちゃん、共存共栄って」
りん「……あんたね、ちょっと黙って聞いてなさい」
菖「国際化が進む中で、俺たちはどうしても閉鎖的ではいられない。いやでも海外の情報は入ってくるし、異国との関わりなしに生きていくことなんて不可能だ」
オールスターズ『……』
菖「そして、国が違うということは、俺たちとは違う価値観を持っているということで、その衝突は避けることはできない。なら、血を流さず、共に生きていく道を模索するためにも、相手の価値観や文化を理解しなければならない。そのために、まず俺たちは自分の国の歴史を学び、自身の価値観を身につけなければならない。だから、「昔の人の話だから関係ない」じゃなくて、「昔の人の話だからこそ、聞いておこう」くらいの気持ちは持っていてくれ……これが、俺がみんなに願うことであり、忘れないでほしいことだ」
ゆり以外『はいっ!』
ゆり(ふふふっ、かっこいいわよ、菖……)