ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
なお、菖は料理を一通りできます(たぶん、書いてなかったけど)。
スイーツも含まれてはいますが、ショートケーキとかマカロンとか手の込んだものは作れません。
せいぜい、クッキーとかホットケーキとか、ある程度簡単に作れるものがせいぜいです(まぁ、それを応用したものが作れないわけでもないですが)。
ムーンライトとセイバーが復活してから一か月が経った。
あの日を境に、つぼみたちの周囲、具体的にはゆりの様子が少しだけ、変わったようだった。
普段から、物静かで優しい雰囲気をまとっていたゆりだったが、コロンが復活してから、その優しさに慈愛というのだろうか、包みこむような優しさを感じるようになっていた。
なお、菖に関しては、普段から自然体でいるため、あまりそう言った変化を感じられないようだったが、薫子に曰く、肩の荷が下りて菖らしさが戻ってきた、らしい。
色々なものが変わり始めてきたが、それを実感する間もなく、つぼみたち中等部は目まぐるしく動いていた。
その理由は、文化祭にむけた準備だった。
なんと今年は、ファッション部初のファッションショーが催されることになっているのだ。
ファッション部初の晴れ舞台ということもあり、衣装の作成にも気合いが入っていたのだが、あれでもないこれでもないと悩んでしまい、作成にかなりの時間を必要としてしまったのだ。
それが災いして。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!あと三日しかないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
文化祭の本番まで、あと三日というところまで迫っていながら、余裕ある行動がとれていなかった。
もっとも、他の部員たちのフォローのおかげで、間に合わない、という不名誉な事態にはならずにすみそうなのだが。
現に。
「衣装、全部そろったよ!!」
「衣装オッケー、衣装オッケー」
どうにかななみが衣装を完成させたらしく、えりかはチェックリストにチェックをつけていった。
だが、そのチェックはすぐに消すことになった。
「まだです!!ゆりさんと菖さんの衣装がまだです~~~~~~っ!!」
背後でつぼみがゆりと菖の衣装を作りながら、叫んでいた。
実は、ゆりと菖がキュアムーンライトとユグドセイバーとして復活を果たした前日に、少しでも二人の心が元気になるようにと、二人の新しいファッションを考案していたのだ。
だが、二人の衣装がいまだ完成しておらず、考案者であるつぼみとえりかは焦りに焦っていた。
そんな時、ファッション部のドアを叩く音が聞こえてきた。
「あぁぁぁぁっ!もう!!こんなときに誰よ!!」
「えりか。人を呼びだしておいて、それはないんじゃないの?」
えりかがパニックを起こして叫ぶと、ドアの向こうからえりかの姉、ももかが顔をのぞかせた。
実は、今回のファッションショーには、えりかが身内の特権として現役女子高生モデルである来海ももかに参加を要請したのだ。
なお、ももかは快くそのオファーを受けたのだが、そのあおりが菖に向かったことは言うまでもない。
もっとも、えりかはそんなことはまったく知らなかったし、ももかもえりかに知らせることはなかったのだが。
「あ、ごめん、もも姉ぇ」
「まったく……それで?どの衣装を着ればいいの??」
テヘペロッ、といわんばかりに舌を出しながら謝罪する妹に、ももかはそれ以上の追及者せず、自分が呼ばれた用事をさっさと片付けようとした。
ふと、作業の手を止めたつぼみがももかの方を見て、首を傾げた。
「あの、ももかさん。ゆりさんと菖さんは??」
「あら?来てなかったの??二人とも、てっきり先に来てると思ったんだけど」
ももかも首を傾げて、逆に問い返してきた。
ここ数日、衣装合わせをするために一度、ファッション部に来てほしいと連絡しようとして、どうにか二人を探したのだが、なぜか捕まることがなかった。
だが、どうやらそれは友人のももかも同じだったようだ。
「まぁ、菖くんはともかく、ゆりの体型はわたしとほぼ同じだから、わたしが着れれば問題ないわよ」
困り果てている妹とその親友のために一肌脱ぐことにしたももかが、そう告げると、緊急手段ということで、つぼみが作っていたゆり用の衣装をももかに着てもらうことにした。
だが、ここに来てまたもトラブルが。
「あら?……これ、頭が入らないかも」
「えぇぇっ??!!」
「任せて!」
試着室のカーテンから顔をのぞかせて、ももかが困り顔でそう言うと、つぼみはパニックを起こして涙目になった。
だが、えりかが素早くフォローしたおかげで、無事、着ることの出来る服になった。
その手際の良さに、ももかがえりかをほめると、えりかは頬を赤く染めながら、別に大したことない、と返していた。
その様子に、つぼみとももかは微笑みを浮かべていたことは言うまでもない。
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翌日。
生徒会の仕事を兼任しているいつきとクラスの出し物の手伝いへ戻ったももかを除いた、ファッション部のメンバーはステージ練習のために講堂へむかい、ウォーキングの練習をしていた。
だが、もともと人見知りで内気な性格だったつぼみは、右手と右足が一緒に動いてしまい、まるでロボットダンスでもしているかのようなぎこちなさだった。
「つぼみー、リラックスリラックス!」
「そ、そんなこと、言われましても……」
見かねたえりかが大声で叫ぶが、ガチガチに固まってしまっているつぼみは、無理なものは無理です、と視線で訴えていた。
その様子に、さすがのえりかもため息をついた。
「もぉ……もうちょっと度胸あればできるんだけろうけどなぁ……」
「遅れてすまない!!」
えりかがぼやいていると、突然、背後からいつきの声が響いてきた。
振り向くと、いつきが道着姿で走ってきている姿が目に入った。
いつきはステージの手前まで来ると、地面を蹴って跳び上がり、そのままステージに乗り、武道の型を披露した。
あまりに突然の、そしてあまりにもシュールな光景に、えりかたちは呆然としてしまったのは、言うまでもない。
もっとも、つぼみはいつきのその凛々しさに目を輝かせていたのだが。
一通り、ステージでの練習を終わらせ、いつきは生徒会の仕事へ戻り、残りのメンバーも残りの衣装の仕上げに入ろうと、ファッション部の部室に戻ると、そこには自分たちが作った衣装を着たゆりの姿があった。
「「ゆりさん!!」」
「あら、あなたたち……どこへ行っていたの?」
「それはこっちのセリフです!」
「こっちは散々探したんですよ?!」
いくら探してもいなかったというのに、ケロッとした顔でそう言われたつぼみとえりかは、半泣きになりながらゆりに詰め寄ってきた。
その勢いに若干引き気味になりながらも、ゆりは自分に足もとに視線を落とした。
つぼみとえりかもそれにつられて、ゆりの足もとに視線を向けた。
そこには、いま、ゆりが着ている衣装に合わせた靴がはかれていた。
「この衣装に合う靴を探していたのよ。あなたたちがせっかく、頑張って作ってくれたんだもの、靴にもこだわらないと、ね?」
つまり、今までゆりが捕まらなかったのは、衣装にあうデザインの靴を探していたためだったようだ。
だが、ここで疑問が一つ。
「……あの、菖さんは一緒じゃないんですか?」
「あら?まるで普段から二人一緒に行動しているような言い方ね?」
つぼみの問いかけに、ゆりは意地悪な笑みを浮かべてそう返した。
実際、ゆりと菖は一緒に行動していることが多いため、周囲からそう思われている節がある。
だが、実際には二人一緒に行動していることはあまり多くない。
学校では菖が友人に誘われて離れることもあるし、クラスは同じなのだが菖が周囲の視線を気にして、ももかがいないときはなるべく離れている。
もっとも、離れていると言っても、大抵は互いの視界の中にいるのだが。
「あ……す、すみません……」
「謝らなくて大丈夫よ、意地悪な言い方してごめんなさいね?」
不快に思ったと勘違いして謝罪するつぼみに、ゆりはなおも笑みを浮かべながらそう返した。
どうやら、本当に気にしていないらしい。
そのことを察したつぼみは、再度、同じ質問を投げてきた。
「い、いえ……それで、菖さんは??」
「菖だったら、友達の何人かと出店をやることになったって、そっちの手伝いに行ってるんじゃないかしら?けど、たぶんそろそろ……」
来るんじゃないかしら、と言いかけて、コンコン、とドアを叩く音が聞こえてきた。
「は~い、開けても大丈夫ですよ~」
えりかが間の抜けた声を出すと、ドアが開き、ワイシャツの上に青いエプロンを着た菖が姿を見せた。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「あら、噂をすれば、ね」
苦笑しながら謝罪する菖に、ゆりは微笑みを浮かべながらそうつぶやいた。
「お?菖さんがエプロンだ」
「出店をやると聞きましたが、何を出すんですか?」
「その説明も兼ねて、みんなに差しいれ」
そう言って、右手をつきだすと、そこには何かが入っているらしい、発泡スチロール製の箱があった。
えりかが中を覗き込むと、そこにはきれいに並べられたクレープがしまわれていた。
トッピングのクリームが崩れないようにしまって、人数分用意しているあたり、菖の気遣いがうかがえる。
「あら?クレープ屋をやることになったの?」
「うん、スイーツ好きの男子と女子が集まってさ」
「……菖さん、スイーツ作れるの?」
ゆりの問いかけに菖が返すと、えりかが怪訝な目を向けて問いかけてきた。
その問いかけに、菖は少し考え込むような素振りを見せた。
「う~ん……あんまり作らないんだけどね、普段は」
「てことは、作るんだ?」
「そうだね。ゆりとか、じぃじの誕生日のときとか」
「……そういえば、ケーキとかパイとか作って持ってきてくれたこと、あったわね」
いま思い出したかのように、ゆりがつぶやくと、えりかは目を輝かせて、ゆりに問いかけてきた。
「ちなみに、お味のほどは??」
「そうね。なかなかおいしかったと思うわよ?まぁ、お店に出しても大丈夫かと聞かれても困るけれども」
「そりゃ、素人が作るんだから、そんなもんだろ?」
苦笑しながら菖が反論すると、それもそうね、と平然とした態度で返してきた。
そのやりとりのどこが面白かったのか、ゆりと菖は互いにくすくすと微笑みを浮かべていた。
なお、このあとすぐに菖の衣装合わせが終わり、準備のほとんどが終了したことは言うまでもない。
学園祭開始まで、あとわずか。
ファッション部はそのわずかな時間も惜しむことなく、全力で準備をするのだった。
あとがき代わりのその後の話(スキット風)
菖「で、俺が着る衣装って?」
えりか「ずばりこれっしゅ!!」
菖「……黒ずくめだな。胸元もけっこう開いてるし……」
ゆり「普段着ないからこそのギャップが見れそうで、おもしろそうね?」
えりか「ちなみにゆりさんにこんなのも用意してみたっしゅ!」
ゆり「これは……けっこう、大胆ね?肌の露出がかなり多いみたいだけれど」
えりか「もも姉ぇに対抗するには、これくらいの大胆さが必要かと!」
ゆり「チェンジでお願いしたいわね」
菖「ちなみに、他のは?」
つぼみ「あ、はい。こんなのも作ってみました!」
菖「ふむふむ……なんか、制服っぽいな。
つぼみ「はい!菖さん、普段はシャツですけど、こういうジャケットも合うんじゃないかなぁ、と思いまして」
ゆり「あら、なかなか似合いそうじゃない?髪形を変えればもっと映えるだろうし」
菖「……ゆりさん?なんだか視線が怖いんだけど??」
ゆり「あら?別に何もしないわよ??ちょっと菖を着せ替え人形にして遊ぼうとか、そんなことは全然」
菖「考えてたんだな?試着はするから、安心しろって」
えりか「……なんか、ゆりさんのイメージが少し崩れたっしゅ……」
つぼみ「菖さんとは幼馴染みたいですから、遠慮しないでいい人ってことなのでしょうか?」
えりか「ま、いずれにしても明後日の学園祭、絶対成功させるっしゅ!!」
つぼみ「はい!」
ゆり「微力ながら、協力するわ」
菖「ゆりに同じく」