ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
唐突に恋心を自覚させる描写入れるのってやっぱり少しむずいっすわぁ(白目
あ、あとがきはありませんのでご了承ください
ファントムとの戦闘で負傷したつぼみたちを温室へと運んだ菖といおなは、四人を手当てしていた。
いおなはふと、菖の横顔を見た瞬間、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
顔にこそ出ていないが、菖からは殺気にも似た鋭い気迫を感じ取ることができ、相当怒っている、ということを理解できた。
「……あ、あの……菖、さん」
「大丈夫だ……当たり散らすようなことはしないさ」
どうやら、菖も自分の状態を把握しているらしく、必死に怒りを抑えているようだ。
それだけ四人が、ゆりが傷つけられたことに苛立っている。
――やっぱり、菖さんはゆりさんのことが……
その姿を見て、いおなはどこか寂しそうな表情を浮かべていた。
いおなにとって菖は、流派は違えど稽古に付き合ってくれる人であり、ゆり同様、自分たちを見守ってくれる存在だ。
だが、稽古に付き合ってくれている時間もそうだが、休憩中や世間話をしている間も、いおなの心はぽかぽかとしたものに包まれているような感覚がしていた。
――もしかして、わたし……菖さんのこと……
そう思って、それ以上考えるのをやめた。
これ以上、このことを考えても仕方がないことだし、何より、自分はゆりには敵わないということは自覚している。
まりあほどではないとはいえ、ゆりが素敵な女性であることは、短い付き合いだがいおなも知っている。
そして、そんな女性と菖が幼馴染であり、互いに想いあっていることも。
だからわかっている。
――勝てるわけ、ないわよ……復讐にとらわれて周りを見ることすらできなかったわたしが
菖とゆりの間に、自分が割って入ることが出来る隙間がないことも。
復讐心で変身した自分に、菖を愛する資格がないことも。
けれども。
――だからって諦めたくない
確かに
だが、あきらめるつもりはないし、ここで身を引くのはカッコ悪い。
まりあだったら、たとえ玉砕するとわかっている勝負でも、万に一つの勝ち目がなくても、身を引くことはないはずだ。
それこそ、響ではないが、ここで身を引いたら女が廃るというものだ。
――負けない!ファントムにも、恋にも!!
密かに決意しながら、いおなはえりかといつきの手当を再開するのだった。
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一方、菖はつぼみとゆりの手当をしながら、心の奥底でくすぶっている、憎しみと怒りのどす黒い感情の炎を鎮めていた。
憎しみではなく、愛で戦う戦士にとって、その感情は抱くべきではないのだろうが、今回ばかりは無理からぬことだ。
大切な幼馴染と後輩たちを傷つけられて、それらの感情を抱かずにいられるわけがない。
むしろ、感情に任せて当たり散らしたりしないことを評価してもらいたいほどだ。
だが、菖とて一人の人間だ。大切な人たちを傷つけられて、怒りや憎しみを抱くことがないということはなかった。
――本当なら、こんなこと思っちゃいけないんだろうけど……あいつをフルボッコにしないと気が済まない……
本来なら、こんなことを考えることはない。
菖の本来の性質は平和主義で温厚なものだ。
自分から波風立てるようなことはしないし、よほどのことがない限り戦いに身を投じることも、争いを興そうとも思わない。
そもそも、大樹の騎士として戦うことにしたのは、ゆりが心配だったから、という理由が大きいのだ。
仮にゆりがキュアムーンライトにならなければ、菖も大樹の騎士として戦うことはなかっただろう。
それだけ、菖にとって月影ゆりという少女が大切ということだ。
その大切な人を傷つけられて、ただのほほんとしていられるほど、菖も大人ではないし、聖人君子でもない。
――"プリキュアハンター"ファントム……次に会ったら容赦しない
静かな、しかし確かな怒りを込めて、菖はこの場にはいない襲撃者に宣言した。
だが、この時の菖はまだ知らなかった。
ファントムと再び戦う日が間近に迫っていることも、苦戦を強いられるということも。
そして、その予兆の片鱗すら知ることもなく、ファントムとの再戦の時は、すぐそこまでせまっていた。
そんなことを考えていると。
「……ん……」
「……こ、こは……?」
「目が覚めたか?二人とも」
ゆりとつぼみの声が聞こえ、声をかけてみた。
菖の声に、ゆりとつぼみは横になったまま菖のほうへ顔を向け、まるで菖を安心させるかのように笑みを浮かべた。
「……どうしたの?菖??」
「なんだか、菖さんの顔、少し怖いです……」
どうやら、感情を抑えることはできていたが、表情には出ていたらしい。
二人の問いかけに、なんでもない、と返した菖は、立ち上がり、タオルを濡らしてくる、と言って、その場を去っていった。