ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~   作:風森斗真

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長くなりそうなので前後編で
タイトルの通り、ここが一つの山場です
なお、浄化は原作通り、ハピネスチャージ組が行うので、今回は撃退するだけです
時期的には、夏休み中、ハピネスチャージ組の強化合宿が終わったあたりと思っていただければ

てなわけで本編どうぞ


対決!「プリキュアハンター」ファントム!!(前)

夏休みが中盤を迎えた頃。

菖は泉地流の稽古場となっている自宅の敷地で、一人の空手着の少女と組み手をしていた。

その少女の名は氷川いおな。最近になって希望ヶ花市を初め、世界各国で暗躍している組織『幻影帝国』の侵攻が最も激しい、ぴかりが丘に住む中学生だ。

そして、彼女はその幻影帝国と戦う、ぴかりが丘のプリキュア、キュアフォーチュンでもある。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!」

「はっ!!」

「……くっ……てぇぇぇぇいっ!!」

「甘い!!」

 

稽古場に、二人の鋭い声が響き渡った。

いおなの表情からは彼女が必死であることが伝わってきた。

彼女がここまで必死になる理由。

それは、いおながプリキュアになったきっかけにあった。

 

いおなには、まりあという姉がいた。

いおな曰く、容姿、運動神経、成績、心意気、性格。どれを取っても完璧であり、まさに理想の女性らしい。

そんなまりあには、一つの秘密があった。

それは、まりあがぴかりが丘で活躍していたプリキュア、キュアテンダーである、ということだった。

 

ぴかりが丘で現在活動しているプリキュアは、ラブリー、プリンセス、ハニー、フォーチュンの四人だが、以前はキュアテンダー一人で活動していたそうだ。

たった一人ではあったが、テンダーの実力は高く、一人でも十分戦うことが出来た。

だが、その彼女でも敗北した敵がいた。

 

その敵は、プリキュアハンターを名乗る赤毛の青年、ファントム。

まりあの秘密を探るため、こっそり後をつけていたいおなを攻撃からかばったせいで、彼に敗北したテンダーは、ファントムに連れ去られ、行方知れずとなってしまった。

その後も、何度かファントムと接触、交戦したがまったく歯が立たない状況が続いていた。

 

だからこそ、力をつけてファントムを倒し、テンダーの行方を追い、救いたい。

そう決意したいおなは、めぐみたちに紹介され、先輩プリキュアの仲間であり、より実践に近い武術を習得している菖に稽古をつけてもらいに来ていた。

なお、稽古は日数を重ねるごとに厳しくなっていき、徐々に手加減されなくなっていったことは言うまでもない。

 

「がぁっ!!」

「……ふぅ~……どうした?この程度か?」

「……くっ……あぅ……」

「その顔はなんだ!その目はなんだ!その涙はなんだ!!お前の涙でファントムを倒せるのか!姉を救えるのか!!」

「ま、まだ……まだやれ、ま……」

 

 咤され、立ち上がろうとしたいおなだったが、力尽き、倒れこんでしまった。

そんないおなを、無理やり起こすことはなく、菖は抱き上げ、縁側に寝かせた。

気を失い、目を閉じているいおなに、タオルをかけてやり、縁側に腰掛けて天井を仰ぎながらため息をついた。

 

――ちょっとやりすぎたかな……

 

眠っているいおなを見やりながら、菖は少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。

だが、これいくらいしなければおそらくファントムには勝てない。

聞いた限りの話ではあるが、いおなたちハピネスチャージ組は一度、ファントムと交戦している。

その時は、ファントムをあと一歩のところまで追い詰めることができたのだが、幻影帝国の首魁、クィーンミラージュが出現し、その圧倒的威圧感に戦うことすらできなかった。

 

いおなたちにプリキュアになる力を与えた「地球の神」を名乗る青年、ブルーの力でどうにか脱出はできたらしいが、それはあくまで幸運が招き寄せた結果に過ぎない。

二度目も、そうなるとは限らない。

だからこそ、力を身につけるべきということはわかっている。そして、そのために多少の無茶も必要になるということも。

 

――まぁ、ここまでできるようにこれからちょっと手加減すればいいかな

 

と、今後の稽古の方針を考えていたその時だった。

ざわり、と菖の背に冷たいものが走った。

 

――なん……だ?まるでダークプリキュアと出会った時のような、この嫌な気配は……

 

もしこの場にココやナッツ、シロップやシプレたち妖精がいたら、何か出た、と言っているのではないだろうか。

そんなのんきなことを考えながら、菖は周囲に気を配った。

見鬼、見えざるものを見る目を持つからこそ、気配には少し敏感だ。

もちろん、そこまで精度が高いわけではないから、だいたいの方角しかわからないが、これだけ強い気配を感じさせる存在だ。

少なくとも、コロンは何かしらの反応を示すはず。

そうなれば必然的に、ゆりが戦闘を行うことになる。

 

つまり、轟音が響いている場所が、この気配の主がいる場所ということになる。

そして、菖のその予想は的中した。

突如、ドーンっ、という空気を揺さぶる爆音が響き渡った。

 

「な、なんですか??!!」

「わからない、けど……行くぞ、いおな!!」

「は、はい!!」

 

爆音で目を覚ましたのか、いおなが菖に問いかけたが、菖はとにかく現場に向かうことを告げた。

いおなも変身アイテムを手に持ち、それに続いた。

 

------------

 

時計を少し巻き戻し、場所は希望ヶ花市の植物園の温室。

今日も今日とて、ゆりとつぼみは二人でお茶会をしていた。

えりかはなにやらインスピレーションが湧いてきたらしく、自室で服のデザインを描きまとめており、いつきはいつも通り、明堂院流の稽古でこの場にはいなかった。

そのため、ここにいるのはゆりとつぼみ、そして二人のパートナー妖精たちだけだった。

 

「そういえば、今日、いおなが来てるんですよね?」

「えぇ。まっすぐ菖のところへ向かったみたいだけれど」

 

いおなが菖のもとへ向かう理由は知っているし、理解できるため、ゆりは特に何も思うことはない。

思うことはないのだが、それでもやはり嫉妬めいたものは感じていた。

それはつぼみも同じこと。

なにしろ、いおなは週に一度、必ず菖のもとで修行している。

本来、泉地流の当主である仁頼が監督するべきなのだが、泉地流は他流試合を好まないし、滅多に外から弟子を取ることはない。

 

そのため、流派に関係なく、友人同士の技術交流という名目であれば、自分が感知するところではない、と仁頼が話していたため、菖が監督することになったのだ。

監督といっても、本当に模擬戦しかやっていないらしく、時々、ゆりやつぼみも呼ばれて一緒に稽古をしている。

が、二人きりになる機会がめっきり減ってしまい、ゆりにしてもつぼみにしても、もう少し菖に甲斐性があればいいのに、と思うことがないわけではない。

もっとも、そこがいいのだけれど、と思ってしまうあたり、惚れた弱み、というやつなのだろうか。

そんなことを考えながら、薫子特製のダージリンを堪能していると、突然、コロンとシプレの耳がひくり、と動き、背後にいたコッペも歯をむき出しにして何かを威嚇していた。

 

「コロン?」

「シプレ?」

「ゆり、幻影帝国の気配だ」

「それも、いままで戦ってきた誰よりも強力な力を感じるですぅ!」

 

シプレのその言葉に、ゆりとつぼみは迷うことなくココロパフュームとココロポットを手に取り、温室の外へ出た。

外へ出ると、一人の口元が隠れるほど長い襟がある白コートを着た赤毛の青年が立っていた。

だが、彼がただ者ではないことは一目見れば見ればわかった。

それは素人に毛が生えた程度のつぼみでもわかるほどだった。

そして、それほどの実力を持つ敵は、一人しか心当たりがなかった。

 

「ゆ、ゆりさん」

「えぇ、おそらく彼がいおなの言っていた……」

 

ゆりとつぼみはいおなの話を思い出し、身構えた。

一方の青年は、二人が手にしている変身アイテムを見た瞬間、目元をさらに険しくし、一言だけ呟いた。

 

「……プリキュア……」

「つぼみ、変身よ!コロン、お願い!!」

「はい!!シプレ、お願いします!!」

「わかった!」

「はいですぅ!」

 

ゆりの呼びかけに応じ、つぼみはココロパフュームを構え、パートナー妖精に呼びかけた。

その瞬間、二人の服は薄紫と桃色のワンピースへと変わった。

 

「「プリキュアの種!いくですぅ/いくぞ!!」」

「「プリキュア!オープンマハート!!」」

「大地に咲く、一輪の花!キュアブロッサム!!」

「月光に冴える、一輪の花!キュアムーンライト!!」

 

変身を終えたブロッサムとムーンライトは、パートナー妖精を下がらせ、身構えた。

同時に、赤毛の青年は腰に差していたダガーを引き抜き、二人に襲いかかってきた。




後半へ~続く!(某ナレーター風

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