ハートキャッチプリキュア!~もう一人の戦士"大樹の騎士"~ 作:風森斗真
少しばかりキャラ崩壊があるかもですが、そこはご愛嬌で(俺、あいつ好きくないしなぁ……(オイ
あ、ちなみに今回前後編です(普段よりちょっと長くなったのでね、区切りますよん
中間試験が終了してから数週間。
明堂学園は体育祭の準備と練習でにぎわっていた。
なお、明堂学園の体育祭はよさこい演舞を行うことが伝統となっているのだが、中等部は男女混合で、高等部は有志を募り男女別で行うことになっている。
そして現在、菖たち五人と、ゆりたち四人は別々の場所でよさこいの練習をしていた。
もっとも、菖とゆりは最初は断るつもりでいたのだが、明堂学園が誇る美少年美少女九人全員がそろって演舞に出ないというのは華がない、という実行委員会からのゴリ押しと嘆願で折れるしかなかった。
もっとも、菖の場合、自分が担当する委員以外の一切の仕事を実行委員会からは受け付けない、という条件が提示されたということも大きいのだが。
「今年の体育祭はゆっくりできるかなぁ……」
「体育祭でゆっくりってのも変な話だけどな」
「そうは言うけどな、考えてみろよ?なぜか手が空いてるってわかると仕事押し付けてくるんだぜ?」
「……すまん、俺が悪かった」
菖の言葉に突っ込んだ明だったが、悲壮感漂うその表情と言葉に思わず謝罪した。
本来ならば菖ではなく、明に回されるはずだった仕事までもなぜか菖に回されることになってしまったことがあり、実行委員会内でも大問題に発展したことがあったのだ。
もっとも、そこは明並みの万能性を発揮することがある菖の仕事。大した問題に発展することはなかったのだが、指揮系統の乱れと、一人の生徒に対しての負担の集中がかなり問題視されれいた。
「あんときはお前、一番の働き者だったもんなぁ」
「……なんなら、今からでもその苦労を背負うか?うん??」
プチリ、というよりブツリ、と何か太いものが盛大に切れる音が聞こえてきたのは錯覚てもなんでもない。
実際、菖の顔には般若も真っ青になるほどのいい笑顔と、赤黒い陽炎が見え隠れしていた。
いまの菖は相当、怒っている。
それなりに付き合いが長い明は、本能的にそれを感じ取った。
「いや、それは勘弁してくれ。ももかと過ごす時間が減る」
「最近はお前、ももかだけじぇなくて祈里とかまりあさんとかもいい仲らしいじゃねぇか?」
「あっちから言い寄ってんだ、まだそんな仲じゃねぇ」
「ほぉ……まだ、ねぇ?」
「……いや、まじで悪かったって……機嫌直してくれよ、せん……菖」
せんせーと言いかけて、明はすぐにその呼び名を引っ込めた。
そうでなくても、体育祭の次は期末試験が待っている。
そのせいで、つい先日、中間試験を終わらせたというのに、いまだに菖に質問してくる生徒は多くいるのだ。
今までは高等部の生徒だけだったのだが、ここ最近はなぜか中等部からも大勢の後輩たちがやってくるようになっていたこともあり、せんせー、と呼ばれることにいい加減、辟易しているのだ。
ここで、せんせーと呼んで不機嫌になられたら、体育祭までの間に何をされるかわかったものではない。
特に、普段、やらないだけ菖のやってくる嫌がらせは地味に痛い。
そればかりはどうしても避けておきたいのが明の現在の心情だった。
「ははは……なんというか、不機嫌になったときの菖にかかっちゃ、さすがの明も形無しか?」
「みたいだな……正直、俺らもあいつを積極的に不機嫌にさせようって思わないし」
「あぁ……」
菖と明の様子を少し遠い所から見ていた君尋と小狼、静の三人はなぜか背中にうすら寒いものを感じながらそんな感想をもらしていた。
彼らもまた、菖が不機嫌になったときの怖さを知っている。
加えて言うなら、菖が本気で『敵』と認識した場合、どんな対応を取るかも、期間限定で経験済みだ。
自分たちがしでかした結果、ということもあって、それを甘んじて受け入れはしたが、それでもやはりかなりの居心地の悪さを感じていた。
できることなら、もう二度とごめんだ、と思うほどに。
「……できることなら、この体育祭、穏やかに終わってほしい」
ぽつり、と君尋がそんなことをつぶやいていたが、なかなか願い通りにならないのが現実というもの。
よりにもよって体育祭のその日に『幻影帝国』の新たな幹部からの襲撃があるとは、この場にいた全員、この時は予想すらしていなかった。
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数日して、明堂学園は体育祭本番の日を迎えた。
自分の係以外の仕事を押し付けられることがなかった菖は、こう言っては妙だが、ゆっくりと過ごすことが出来ていた。
そうでなくても、昨年までは様々な手伝いを押し付けられ、出場予定の競技の集合時間に間に合わなくなるという事態に陥りそうになったことがあったのだ。
その時と比べれば、かなり時間に余裕があるため、ゆっくりと過ごしている、というのは何も間違った表現ではない。
それはともかくとして。
現在、菖はゆりと、遊びに来ていたつぼみとともにクラスごとに割り当てられたテントの下で、出場競技の集合時間になるまで待機していた。
ちなみに、少し離れたところでは、ももかとさくらとひまわりが明と小狼と静の応援をしていた。
君尋はどうやら、別の場所の手伝いに向かっているらしく、この場にはいなかった。
現在、グラウンドで行われているのは、200メートル走で、明と小狼、静の三人がスタートラインに立っていた。
スタートのピストルが鳴ると、全員、一斉に走り出した。
が、一秒も絶たないうちに、明がトップに躍り出て、そのまま一位をもぎ取った。
続いて、静、小狼と続き、第一陣は終了した。
「てか、よくやるなぁ、明のやつ」
「ほんとにね……正直、明堂学園最強を名乗っても疑問にすら思わないわ」
「むしろ、なんで今まで名乗らなかったのか、気になるところですね」
当然といえば当然というか、予想できていた結果に、菖もゆりもつぼみも、どこか呆れたようなため息をついた。
特に菖は、なんとなしに自分の感覚で明がゴールするまでのタイムを計っていたのだが、その記録、実に9秒台。
某陸上選手の世界記録に迫る勢いの速さだ。
当然、その勇姿に黄色い悲鳴を上げずにはいられないのが。
「明くーーーーーんっ!!かっこいーーーーーーーっ!!」
恋人であるももかであった。
わかってはいたが、まさか予想通りの反応をすることになるとは思わなかった菖とゆり、そしてつぼみは苦笑を浮かべながら、目をハートマークにしながら叫ぶももかを見守っていた。
が、ふと三人は奇妙な気配を感じ取った。
「……何か出た?」
「菖さん、それ、小々田さんか夏さんのセリフ……」
「シローも言うことがあるけれど……来るわね」
ゆりが呟いた瞬間、グラウンドが一瞬で荒野のような荒れ果てた空間に姿を変えた。
それと同時に、上空から突如、野太い声が聞こえてきた。
「この俺様を差し置いて!一番になろうなどと!!不届き千番!!」
ずとん、という落下音とともに、砂煙が巻き起こった。
その中から、声の主なのであろう、軍服に身を包んだ男が歩み出てきた。
男はまっすぐに明のほうへ向かっていき、びしりっ、と指を突き出した。
「一番はこの俺、オレスキー様のものと相場が決まって……」
「ねぇから、つか誰だ、お前?最近大活躍中の幻影帝国の人間か?」
「そうだ!幻影帝国が幹部のナンバーワン、オレスキー様だ!!」
自分で自分をナンバーワンと呼ぶ当たり、そしてなにより、その名前から、かなりのナルシストであることがうかがえたのか、明はげんなりした表情を浮かべた。
なお、興味の対象外になっていたのだろう、小狼と静は明がオレスキーの注意を引いている間に避難誘導を行っていたため、この場にはいなかった。
「で?何の用だよ、ゴミスキーさま?」
「オレスキー、だ!!俺様以外の一番を獲得しようとする奴を成敗しに来た!!」
「……それって、もしかしなくても俺のことか?」
獲得しようとしていた一番、というのがさきほどの競技のことをいうのであれば、それは確かに自分以外、ありえない。
そのことに気づいたからこそ、明は嫌な予感を覚え、いつでも逃げられるよう、身構えた。
後半へ~続く!(某アニメナレーター風