G・Iの子   作:めーび臼

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弾避けゲーム~ハンゾーの回想4~

 「これで契約は終わりです」

 

 念能力者でもなんでもないゼンジの親指からオーラが契約書に流れ込んで行き、ジバルの能力である『アンブレイカブル・コネクト』での契約が完了する。

 

 念能力者は精孔を開きそこから溢れ出すオーラを自在に操って超常現象をも引き起こす者の事だが、念が使えない一般人にも当たり前な事でオーラは存在する。

 

 そして、『アンブレイカブル・コネクト』は契約の際に押す拇印の親指から対象者のオーラを徴取する、そこに念能力者と一般人の垣根はない。

 

 とジバルが言っていたなっと目の前の光景を見て思い出す。

 

 「さてと、このアホなゲームはここでやっていいもんなのか?」

 

 俺はソファーから立ち上がると、目の前にいるゼンジに確認を取る。

 

 俺の横にいるジバルとボルタスもゼンジに目を向けてどうなのかと確認の視線を送っている。

 

 「ふん!こんな馬鹿げたゲームにわざわざ場所なんか用意するか。電話で始末屋を呼べばそれでしめぇだよ」

 

 ゼンジの頭の中はもう俺が撃たれて流した血を始末屋に掃除させる自分の姿を描いているのだろう。

 

 「おい!そっち側の物をどけろ」

 

 ゼンジの言葉に壁際に置かれたテーブルや調度品が黒服の男たちの手で片付けられて簡易的なステージが出来上がる。

 

 俺はそこに進み壁を背に腕を組んで立つ。

 

 「さて、五人だったか?」

 「ボス!俺が行きますわ」

 

 ゼンジの言葉に名乗り上げたのは、黒服の中でも若い男だった。

 

 マフィアの下っ端と言う言葉がぴったり合いそうな男は、まだ血気に逸った無鉄砲なだけの功名ガキって感じだ。

 

 それから、黒服の中から四人が選ばれて俺の五メートルくらいの所に並ぶように立つ。

 

 「使うのは単発式の拳銃にしてよ」

 

 ジバルが他人事みたいに平坦な口調でゼンジに忠告する。

 

 ゼンジの顔が憎々し気に歪むんで、「言われなくても分かってるよ!」と怒鳴るが、やはりジバルはどこ吹く風で平然と俺に笑いかけて来る。

 

 随分と信頼されたもんだ。

 

 その信頼には軽く答えてやるのが、年上としての務めだろうな。

 

 「こんなハゲに五人も必要ないですよ!俺が一発で仕留めますから!」

 

 一番最初に手を上げた若い衆が血気に盛って吠え、スーツの上着から黒塗りの拳銃を取り出して構える。

 

 まぁそのなんだ。構え方はお粗末だな。

 

 両手で拳銃を持って腰を落としたその構えは実践性なんて欠片も感じられない。

 

 動かなくても当たらんのじゃないかと思わせるが、拳銃の頭がブルブル震えているのを見ていると逆に避け難く感じる。

 

 おいおい。俺が思うのもなんだが、しっかり狙ってくれよ。

 

 「おう。小僧。最終確認してやる。本当にあのハゲを殺しちまっても構わないんだな?」

 「えぇ。出来る者ならどうぞ」

 「チッ!顔色一つ変えねぇか。こいつどんな生き方してきやがったってんだ」

 

 忌々しそうに呟くハゲ鼻眼鏡。こいつまで俺の事をハゲって言いやがった。これが終わったら、絶対に一発殴ってあのハゲ頭にでっかいモミジを付けてやる。

 

 「ドールズやっちまえ!」

 

 ゼンジの言葉を合図にドールズと呼ばれた若い奴が一つ頷、き俺を見る。その息は荒く、俺まで聞こえるくらい興奮している。

 

 「てめぇ!マフィアなめんなよ!死ねぇ!」

 

 ドールズの絶叫と共に拳銃から乾いた発砲音を鳴らして銃弾が発射された。

 

 「「「「な!?」」」」

 

 俺と念応力者の二人を除いて、驚愕の声が聞こえる。だが、その後は誰も居ないみたいにホテルの部屋にシンと静まった静寂が訪れる。

 

 上半身を捻っていた態勢から後ろの壁を確認すれば、拳銃から発射された銃弾が壁に埋まり減り込んでいる。

 

 造作もないな。相手のタイミングを申告しているし、銃口の角度、引き金を引くタイミングもバッチリ確認できている。

 

 当たる要素がない。

 

 当たる要素がないが、ジバルの特訓の所為で一瞬念で受け止めようか迷ってしまった。

 

 いかんな。念で当たってもケガしないと分かってしまうと、避けると言う行動の優先順位が下がってしまう。

 

 ジバルもそうだが、これは念能力者の悪い癖かもな。まず、オーラで受ければ大丈夫と言った慢心に繋がりかねないな。

 

 「本当に躱したのか?」

 「てめぇドールズ何外してやがんだ!マリオてめぇも撃て!」

 

 黒服の誰かの言葉を敢えて無視するように、ゼンジの怒声が銃を構える五人に飛ぶ。

 

 その怒声から逃げるように発射されたドールズとマリオの二人の拳銃がパン、パンと銃声を鳴らすが結果は同じく壁に当たっただけだ。

 

 その後は雪崩れ込むように参入して来た他の黒服三人と合わせて、合計五人の拳銃が俺に向けて銃弾を吐き出す。

 

 俺は障害物もなく見通しも良好な為に、五人の拳銃の動きをオーラで強化された五感で感じて発射される銃弾を鼻歌交じりに避けて行く。

 

 あと、何発かな?単発の拳銃だから五発くらいだろうか?

 

 余計な事を考えた所為か、落とした腰から更に沈み込もうとした時にスーツのズボンがピリピリと裂けそうになる違和感を感じて一瞬動きを止めてしまった。

 

 「な!!」

 「そこだ!馬鹿が!」

 

 いつもの忍装束だったらこんなアホなミスは起こらんかったんだがな、しょうがない。

 

 「取ったか!」

 

 ゼンジの喜々とした叫び声が上がるがまぁ念能力者をなめ過ぎだ。

 

 「ウソだろ……銃弾を掴むなんて……」

 

 ドールズが拳銃を構えたまんま腰が砕けたように尻もちをついて青ざめ震えている。

 

 その顔はもう泣き出しそうなくらいに悲痛な表情をしている。

 

 右手にオーラを纏わせて銃弾を掴む。言ってしまえば簡単な事だ。今のオーラ移動の流(りゅう)は、なかなかだっただろ?

 

 そう問いかけるようにジバルを見れば、なにやらワザとらしく俺に向かって親指を掲げてグッドサインを出して笑っている。

 

 ジバルの吹き出しそうになって笑う視線は俺の破れかけたズボンの股下に向いていた。

 

 あいつもこれが終わったら殴ろう。

 

 ドンっと部屋中に響く殴打音が響き、クリスタル製の灰皿から吸い殻が零れる。

 

 部屋中の視線が音の発生源であるゼンジ、一か所に集まる。

 

 そこにはスキンヘッドの頭まで真っ赤染めたゼンジが机に拳を振り落として、体を小刻みに震わせていた。

 

 「なんなんだおめぇらぁ!!なんだ手品か!全員が俺を嵌めて笑ってやがるのか!えぇ!!」

 

 銃弾を掴むと言った光景を見てもまだゼンジは現実を受け止められないらしい。いや、あまりにもゼンジの常識からは考えられない光景に理解が追いつかなくて、自分の考えの枠の中に無理やり押し込めたってのが正しいか。

 

 ジバルはソファーに座ったまんま呆れた目でゼンジを見ているし、仲間であるボルタスまで右手の掌を上に向けて「あぁあ」と言った心情を表している。

 

 「もう契約とかどうでもいい。これはメンツの問題だ!おいてめぇら全員であのハゲを血祭りに上げろ!」

 「しかしボス!」

 「いいからやれ!」

 「契約破棄ですね」

 

 立って喚き散らすゼンジに戸惑いの声を上げる黒服の騒音の中でまだ変声期が終わってない子供の声が平坦に響く。

 

 その瞬間に

 

 バキっと言う聞いたものに怖気を感じさせる破裂音が響き、ゼンジの身体が不自然に揺れて倒れる。

 

 倒れたゼンジの体がガラスの机の上の灰皿やシガーボックスを薙ぎ払って金属音が混じる衝突音を鳴らした。

 

 「あ、あ、あ、あぁぁぁ!いてぇ!足が俺の足がぁ!」

 

 悲痛に嘆き、折れた足を抑えながら絨毯の上を転げまわるゼンジにジバルは冷たい視線で短い脚を組んで見下ろす。

 

 「ボルタスさん。これで俺の能力が本物って事を証明されたって事でいいですか?」

 「あぁ十分だ。まったくえげつねぇ能力者だよ。おめぇはよぉ」

 「フフ。ほめ言葉として受け取っておきますね」

 「全く食えねぇお子様だ」

 

 俺は体重を倒して背中を銃弾で穴だらけになった壁にもたれかからせる。ゼンジのルール違反と言う形でゲームが終わった為にふ~っと一息ついて、今の混沌とした状況を見つめる。

 

 ジバルの能力で折れた足の痛みにまだ叫び声を上げるゼンジとそれに群がる黒服。

 

 その中であたかもカフェの中でお茶をしているみたいに話す念応力者二人。

 

 俺はどっち側かね……。まぁ後者だろうな。

 

 「約束は守ってもらいますよ」

 「あぁ。欲しい物があるんだよな」

 「えぇノストラードにいる占い師へのお土産です」

 「てめぇ、どっからその情報を持って来た。あの占い師には十老頭の中にもファンがいる。気軽に触れると火傷じゃすまねぇぞ」

  

 ノストラードの占い師?また知らない情報か……。

 

 占い師なんぞになぜジバルが会いたがる?それに今回この街に来る前の蜘蛛の噂。

 

 また厄介ごとの匂いがするな。

 

 「ふ~ん。俺はさぁ。念能力者ってのは人間じゃねぇって思ってんだよ」

 

 じっとりとジバルを観察するように見るボルタスは唐突にそう切り出して、前倒しになっていた身体を後ろに倒しソファーに預ける。

 

 「なんの話で?」

 「まぁなんだ俺は頭悪りいからよぉ。上手く言えねぇがよぉ。銃の弾掴んだり、素手ででっけぇ岩を壊したりよぉ、そんな事が出来ちまってそれでも人間って呼べるのかと思うのよ」

 

 突然語り出したボルタスにジバルは「はぁ」と珍しく意味が分からないと言った表情をしている。

 

 俺もボルタスの話の結論が見えない。

 

 「でよぉ。念能力者ってのは念能力者って一つの生き物だわなぁ。だから、俺は同じ念応力者にシンパシーを感じるんだわ。敵じゃねぇならちょっと助けてやりてぇって思う位になぁ」

 「それで、俺たちを助けてくれると?」

 「まぁ最後まで聞けって、ただなシンパシー感じるのと別にだわ。別に、こいつの念と俺の念どっちが強ぇぇか試してみてえって強烈な対抗意識ってか飢餓感が襲うわけだわなぁ。分かるか?」

 

 その瞬間にボルタスの身体から濃密なオーラが立ち上る。

 

 そのオーラに中(あ)てられて、さっきまで騒いでたゼンジたちが静まり震え出す。

 

 念能力者のオーラの前じゃ、ゼンジたちは真冬に裸で外を歩くみたいなもんだな。

 

 俺も身体が震え出すが、それは武者震い笑いそうになる口角を抑えるの必死だ。

 

 ジバルは何言ってんだって感じに肩をすくませているが、俺は分からなくもない。

 

 確かにオーラには麻薬みたいな全能感があるのかもな。

 

 「だから、馬鹿な俺からのお願いだぁな。約束は俺を倒してからにしてくれやぁ!」

 

 ボルタスはその赤い髪が逆立ち燃え上っていると錯覚してしまいそうな濃密な殺気混じりのオーラを纏いながら、俺を恋人とセックスする前のような陶酔した眼差しで見た。

 

 「どうすんのハンゾー?正直、俺はドン引きなんだけど」

 「クカカ!念能力者同士で俺も本気でやってみたいと思ってたんだ」

 「え~。ハンゾーも実はそっちの人だったの~?」

 

 ジバルは自分のプランにない展開に、ここに来て軽口を叩きながらも始めて脂汗を額に掻き始める。

 

 俺はジバルの口元を引きつらせているの見て、やっとここ数日の溜飲が少し下がったと内心でほくそ笑んだ。

 

 





 誤字報告してくれた、お二人方ありがとうございます。

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