G・Iの子   作:めーび臼

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マフィアとの契約~ハンゾーの回想3~

 「で、てめえらの目的はなんだ?」

 

 さっきまでビビりまくってた鼻眼鏡の小男ゼンジは威勢を取り戻して、ホテルの部屋のソファーにどっかりと座っている。

 

 ゼンジが座るソファーの後ろには黒服の男たちがボスであるゼンジの心情を表すかのようにイライラとしながら、向かいの席に堂々と座る少年を見ている。

 

 そして、もう1人ホテルに入る前には居なかった男がゼンジの後ろでニヤニヤと笑っている。

 

 その男は俺より少し年上の二十歳を超えたくらいの男で、センスの悪い多数の銃がプリントされた柄の付いたシャツを第二ボタンまで開けて着こなしている。

 

 髪は染色された赤い髪を逆立たせている。絶対に近いうちにあいつは禿げる。俺は剃ってるだけだが、あいつは禿げる。

 

 なぜなら、逆立たせた髪の下の額が後退して来ている兆候が見えるだからだ。俺の目は誤魔化せんぞ!

 

 内心で俺がニヤニヤと赤髪の男の額を見ていると、その前でマフィアの視線に晒されても微動だにせず余裕の笑みを浮かべているのが、まだ十代に入ったばかりのジバルだ。

 

 ちなみに俺はもうピエロの恰好から、ジバルが恥ずかしいから普通の服にしろと買い与えられたスーツに着替えさせられている。なぜ、忍装束ではダメなのか。

 

 ジバルは目の前で怒りの表情を浮かべているゼンジではなく、チンピラ風の赤髪の男をチラリと見る。

 

 まぁそうだよな。ゼンジはただの小物っぽいがチンピラは俺たちと同じ念能力者だ。

 

 俺たちの目には、あいつのオーラが垂れ流されずに体の周囲に留まり巡回しているのがはっきりと見えている。

 

 それは、チンピラ男の方も同じだろう。

 

 ジバルがゼンジをバカにした似顔絵をオーラで描いているのを見て、チンピラ男が時折吹き出しそうになっている。

 

 ジバルはあいつが念能力者なのか確認のつもりなんだろうが、もうちっとマシな方法はなかったのかよ。

 

 自分が似顔絵でバカにされている事をゼンジは理解出来て居ないみたいだが、念能力者の男が来てから威勢を取り戻した様子から見て、このマフィアの中でも事戦闘でチンピラ男はかなり信頼されているのだろう。

 

 「目的ですか……ちょっとビジネスの話をしにきました」

 「ビジネスだとぉ!?」

 

 事も無げに呟くジバルの言葉にゼンジのスキンヘッドに青筋が浮かぶ。

 

 「そう。ビジネスですよ。ゼンジさんにも有益な話だと思いますがね」

 「てめえみたいなガキが大人のマネごとか……マフィアをなめんなよ!!」

 「ク、ク、クそんな凄むなよぉ。こいつらは俺と同類だ。あんた程度の恫喝が効くような玉じゃないぜぇ」

 「ボルタスてめぇまで、割り込んでくるんじゃねぇ!!」

 

 ボルタスはゼンジの言葉なんて聞いてないかのように左手の小指で耳の穴をほじって、息で飛ばす。

 

 「あんなぁ。俺はお前の部下じゃなくて梟(ふくろう)さんの部下な訳、分かる?てめぇがビビって泣きついてくっから来てやってんだろ。あぁ」

 

 ボルタスとゼンジに呼ばれた男はゼンジの部下じゃなく、梟って奴の部下なのか?

 

 まぁ確かにあの男の態度は自分の上司に対する態度ではなかったが……。

 

 ボルタスに怒鳴られたゼンジが可哀想になるくらいに怯えているじゃないか。

 

 それは、あのボルタスに対してなのか、それとも梟って呼ばれた男への怯えなのか判断が付かないけどな。

 

 「おう。坊主。話しを続けな、お前ら二人も使えるみたいだしな」

 

 ボルタスの視線が俺とジバルを見て、その眼がニイっと細くなる。

 

 こいつもどこかぶっ飛んでるな。念能力者って奴はどっか一本か二本頭のネジがぶっ飛んでる気がする。

 

 「ありがとうございます。それでは、これを」

 

 ジバルも俺と同じようにスーツ姿で、その上着の内ポケットから一枚の名刺を取り出す。

 

 「契約屋ぁ?」

 

 一応ジバルも交渉役はチンピラのボルタスじゃなくて、ゼンジの方だと理解しているらしい。ゼンジの前に懐から出した名刺を置いた。

 

 俺はこいつだったら、ボルタスの方に名刺をオーラ纏わせて投げるくらい仕出かすかとと思ったが、案外まともに渡したな。

 

 「はい。私は契約の仲介を行っております」

 「お前みたいなガキに仲介されてなんだってんだぁ?いいか。仲介なんてするのは、それ相応の力を持ってる奴がすることで間違っても手前みたいな何の力もないガキがするもんじゃぁねぇ」

 「その力がこいつにゃあ、あるって事だろよぉ」

 

 ゼンジのもっともな意見にボルタスが口を挟む。

 

 十中八九、ジバルの念が契約屋と言う商売に絡んでるってボルタスは分かっている態度だ。

 

 しかし、オーラが見えないゼンジにはジバルが適当な事を言っているとしか思えないのだろう。

 

 「おいおい隠獣の部下だってあんまり茶化すんじゃねぇぞ!」

 「だったらやらしてみりゃあいい。力が証明された時はてめぇどう落とし前をとる?」

 

 嫌らしく笑うボルタスの笑みに自分には分からない何かがあるとゼンジも感じる事も出来たのだろう。

 

 ボルタスがここまで言う根拠を探っているって感じだ。まぁ念なんて見えない物を探ってもしょうがない気もするが、それさえも分からないんだろうな。

 

 「大丈夫ですよ。ちゃんと証明出来るようにお見せしましょう」

 

 そう言うと、ジバルは左手から念で作り出したバインダーを取り出す。

 

 その光景にゼンジは前のめりだった体を竦ませ下がる。

 

 後ろの黒服もザワザワとしているが、ただ一人ボルタスはゼンジとは逆に体を前のめりに倒して、ソファーに手を着いて体を乗り出す。

 

 「それがてめぇの能力か?」

 「えぇ『アンブレイカブル・コネクト(絶対尊守の契約)』と俺は呼んでます」

 

 ジバルの能力名を聞いて、ボルタスの笑みが更に深まる。それは知らない念への好奇心だろうか?

 

 「能力を教えてくれるんだろうな?」

 「勿論、端的に言ってしまえば、能力で契約して、その契約を全うさせる能力です」

 「ククク。そりゃ随分俺たち向きな能力じゃぁねぇか」

 「どういう事だ?」

 

 こいつらは表ざたに出来ない契約を破られた場合に取れる手段は暴力だけだ。

 

 だが、ジバルの能力があれば暴力よりも遥かに確実な契約をこいつらは結べる事になるだろう。その恩恵はもしかしたら、図りしれないかもしれない。

 

 ただ、俺はあまりにも簡単にジバルが自分の能力をマフィアなんて裏の連中に売り込むとは思っても見なかった。

 

 それにしても……あぁあ。

 

 念能力を持ったこっち側だけ理解して、ゼンジやその他の奴らは話に着いていけず、ジバルとボルタスの会話を理解する事が出来て居ないでイラついている。

 

 「見りゃわかるなぁ」

 「えぇ見れば分かります」

 

 いや、ゼンジの奴が可哀想じゃないかよ。ちゃんと説明してやれよ。俺からは特に言わねぇけどよぉ。

 

 「おい!ゼンジお前が契約してみろよぉ!」

 「お、おい!何を勝手に」

 「そうですね。では、こちらも後ろのハンゾーを出しましょうか」

 

 本当に勝手にって!

 

 「おい!ジバルなに勝手な事してんだてめぇ!!」

 

 俺の言葉にチラリと顔を向けたジバルは、ニヤリと笑うだけだけで俺を無視する。

 

 その間にボルタスがソファーの背もたれの上で一回転してソファーに座ると、楽しそうにジバルと二人でどういう契約にするか話し始める。

 

 俺とゼンジがなにを言っても、こいつらはまるっと無視して話を続ける。

 

 こいつらマジか!

 

 「おっし!これでいいなぁ」

 「えぇ。これは面白い物が見れそうですね」

 

 クソ!こいつどんな話をこのチンピラと契約しようとしやがった!

 

 俺は、話しながらジバルが書いていた契約書を取り上げると、契約の内容を読む。

 

 「はぁ!!」

 「おい!ちょっと見せろ!」

 

 俺が身を乗り出して読んでいた契約書をゼンジが取り上げると熱心に読み始めて笑う。

 

 「クククはハハはハハハハハハハハ!!!!こんなバカな契約見た事あるかぁ!馬鹿にするのも体外にしろ!銃をそこのハゲに撃って避けられるかどうか?だと!?この契約で決めたルールを破ったら、破った者の足が折れる?ありえねぇ!何もかもありえないだろ!」

 

 あぁありえないな。

 

 なんで、このガキは他人に銃弾を撃ち込ませる契約をしようとしているんだ。頭が本当に痛くなってきた気がする。

 

 到底、こいつらの頭が沸いてるとしか思えない!

 

 「おい!ゼンジやれよ!」

 「ボルタス!こんなアホな事が出来ると思ってるのか!?」

 「さぁなぁ?でも、本当だったらこいつはすげぇぜ!なんならお前が見つけたって梟さんを通して十老頭に進言したっていいぜ!」

 「十老頭だと……本当か?」

 「あぁ。もしこいつの力が使えたらお前が大っ嫌いなノストラードにだって負けない発言力を持てるだろうよ」

 

 ノストラード、ゼンジの顔色がその単語を聞いただけでさっと変わった。

 

 「本当だろうな」

 「あぁ」

 「やってやる。だが間違いだった時には俺はこのガキをぶっ殺してやる。その時はボルタス、お前にも文句は言わせねぇ」

 「クク。いいさ。そんときゃ勝手にしな、なんなら手伝ってやるよ」

 「言ったな。その言葉お前、覚えてやがれよ!」

 「なんならこの小僧の能力で誓ってやってもいいぜぇ!」

 

 おいおいおい。勝手に盛り上がんなよ。もう一人の当事者である俺をまるっきり無視してんじゃねぇよ。

 

 ジバルを見れば、まだ俺を見て笑ってやがる。

 

 「どういうつもりだ、ジバル?」

 

 俺が額に青筋浮かべながら言っても、ただ子憎たらしい笑みを浮かべて言う。

 

 「出来ないのハンゾー?」

 

 こいつの子供っぽい高い声が今は無性にイラッとさせる。

 

 「そろそろハンゾーも試したかったでしょ?それにハンゾーなら念使わなくても出来るでしょ?」

 

 確かに、天空闘技場からここまでの間で、ジバルから念でのオーラの操り方を学んで来て今の実力をジバル以外で試すいい機会ではある。

 

 「何人だ?」

 「五人」

 「いいだろう。だが、成功したら、あのハゲ鼻眼鏡に俺が欲しい情報探させろよ」

 「オッケ!」

 「誰がハゲ鼻眼鏡だ!」

 

 ゼンジは俺の発言にキレるが、そんなもんは関係ない。マフィアの伝手もあればもしかしたら、隠者の書のありかも分かるかもしれねぇ。

 

 俺も口角を上げて笑っていた。


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