オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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錬金術師

 地平線を埋め尽くす異形の化け物たち。大地を、空を蹂躙し突き進む地獄はまさしく最終戦争。

 異形の軍勢は増え続ける。時間を与えれば与えるほど際限なく増え続ける。ファヴニル・ダインスレイフに迫る今も増え続けている。ゴキブリなども含めればその総量は十万を超え――――――増え続ける。

 無限ポップとはそういうもの、ユグドラシルではエリアごとの最大総数が決められていたが、この世界は現実。増えれば、増えるしかない。

 ナザリック地下大墳墓第1第2第3階層"墳墓"から湧き出るアンデッドは、宝物殿から持ち運ばれた転移門(ゲート)のアイテムを全稼働させ外に送り続けている。そして、格階層の無限ポップにも同様に配置された転移門(ゲート)のアイテムが、僕を只管送り続ける。

 ナザリック地下大墳墓を破壊しない限り増え続けるそれは、それだけでこの大陸をアンデッドで溢れさせることが可能だろう。

 故に、嗚呼――――――だから。

 

 

「初っ端から本気(マジ)で行くぜ!!」

 

 

 ダインスレイフが唱えた起動詠唱(ランゲージ)が響き渡る。

 

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――――――我らは煌めく流れ星」

 

 

 英雄に討たれる悪竜と、英雄を殺す魔剣の名を同時に冠する男の真髄。その凶悪極まる能力()の片鱗が解き放たれる。瞬間、爆発するかのように轟くダインスレイフの世界。

 ダインスレイフを中心に世界が干渉される。

 大地が逆立つ鋭い竜の鱗と化したみたいに、ダインスレイフが立つ世界すら呑み砕いてやるとばかりに、地形そのものを意のままに変型させた。

 大地が激しく波打ち、形を変え牙を生やした竜の咢が異形の軍勢の一部を蹂躙する。

 これこそが、ファヴニル・ダインスレイフの()の輝き――――――この世に存在する無機物は、暴竜の支配下に置かれる。

 世界(たから)が変わる、すべてが変わる。

 邪竜の体躯()に変貌していく。

 そして、邪竜も意気揚々と、双腕のジャマダハルを打ち鳴らしながら肉弾攻撃で突貫していく。呼応して大地が軋み、想像される無数の剣鱗で雑魚を一掃しつつ、邪竜の剛腕が悪魔を粉砕する。猛然と勢いを増して世界を埋め尽くさんと増え続ける異形の軍勢の奥へ奥へと進撃さえしていく。

 

 

『いつ見ても凶悪だ。物質変形……破壊以外にも建設的な力なのだがな』

 

「おいおい、そんなつまんねぇ使い道真っ平ごめんだぜ。……だがよ、分かっちゃいたがこうも数が多いと取りこぼしちまうな。いくら俺の力が数相手に有利だろうが干渉には限度がある。地平の彼方まで広がったこいつ等はどうしようが抑えようがないってわけだ!!何よりだァ!!空を飛ぶってせこくねえか!?」

 

『君のテンションがいつも以上に高いってのは理解したよ。まあ、こっちもそれは想定済みだ。アーグランドの防衛ラインを踏み越えた瞬間、飽和攻撃が開始される。こっちの攻撃に巻き込まれて死んでも知らないよ?』

 

「その程度で死ねるかよ馬鹿が!!英雄譚(サーガ)は始まったばかりだぜ!!英雄(ジークフリート)と邂逅を前に邪竜が――――――って、オリャァァアアアア!!」

 

 

 level80の悪魔が、進軍を邪魔する邪竜を障害物として認識しその暴力を開放する。

 ダインスレイフもその剛腕を振り下ろすが、絶対的なlevel差が悪魔の皮膚さえ傷つけられず何の効果もなく迎撃される。

 その攻撃は、ダインスレイフを真っ二つに裂き、大地をも亀裂を刻む最上の一撃。ならば、その悪魔の一撃に邪竜が討たれるか――――――答えは"否"。

 ダインスレイフは、ヴァルゼライドを己の手で倒すためにあらゆることに身体を染めた。本気で準備し、本気で天変地異を起こせる化け物に勝つためにこの場にいる。

 敵が強い?重々承知だ。ようはツアークラスの正真正銘の化け物が複数対いるだけだろ。それを必ず超える人物を彼は知っている。この英雄譚(サーガ)は、その程度の敵で躓く様では話にならないレベルなだけだ。ならばこそ、そう。ならばこそ――――――

 

 

「いざ目覚めろや!!お前が真の竜なら今一度、奇跡を俺に見せるがいいッ!!!」

 

 

 ダインスレイフは高らかに叫んだ刹那、共鳴する()の鼓動。

 一瞬でツアーとの同調は臨界を超え――――――ダインスレイフの魂が、暴力に響き渡った。

 圧倒的格下の人間が、竜の強大な魂と同調しlevelにそぐわない強制的な出力向上は、海流を流し込まれる風船か、あるいは隕石を茶碗で受け止めるような愚行だろう。人体さえ消し飛ばしかねない竜の暴風。破裂していないのが不思議なほどのエネルギー供給量が吹き荒ぶ。

 それを――――――

 

 

「ヒャッハーッ!!」

 

 

 当然受け止め、覚醒する。

 level80の悪魔の一撃は、覚醒した邪竜の肉を抉るが致命傷へは程遠く、速度も向上し同じく迎撃した邪竜の一撃は、格上だった悪魔の身体を切り裂いた。

 

 

「やはり本気は素晴らしい。どんな馬鹿げた不可能も可能へと変える魔法の力だ。人の身には扱えない?使えば死ぬ?それがどうした、この現実を見るがいい。俺はまた現実の無理と無謀を踏破したぞ、これを一体どう見るよ。小鳥の声を聞くには竜を殺し。心臓から滴る血を飲めばいい――――――クハッ、傑作だ!!これじゃあまるで俺が英雄(ジークフリート)のようじゃないか!!」

 

『いや……本気で驚いた。僕の始原の魔法(ワイルド・マジック)を利用し、自分の魂と同調させて強くなるって君が論じた理論。穴だらけだし、意味不明だし、そんな事をしたらまず間違いなく死ぬ。他人の魂を使うんじゃなくて、自分と繋げるって行為は下手をすれば侵され消滅する程危険なんだ。要するに異物だ。自分という純粋な魂が他人という純粋な魂と拒絶する。何より、弱い魂は押し潰される。それを同種なら兎も角、人間とドラゴンが成功するって君って本当に何者?』

 

「邪竜だ」

 

『あー……そうじゃないんだけどなぁ。まあ、使いこなせるかは君次第だ。君が何処までやれるか興味が湧いてきた。約束の時まで頑張ってくれ』

 

 

 元々ツアーは失敗を前提に約束を結んだ。

 邪神(ぷれいやー)の存在に、その脅威。全面戦争までの情報を提供してくれた。その対価として、今回の無謀な挑戦だ。失敗すればダインスレイフが死ぬだけ、その後白金の全身鎧を遠隔操作し始原の魔法(ワイルド・マジック)で教えられた邪神(ぷれいやー)のギルドごと超爆発する予定だった。だが、自分の力を発揮できる器を遠隔操作出来るのは一体まで。何よりダインスレイフと魂ごと繋がってしまった現状、彼が死ぬ時が約束の時となる。

 

 

「どうした、本気を見せろよお前達ッ!!ただ突っ込んでくるのは案山子と変わらんだろうが!!」

 

 

 先ほどまでとは比べものにならない広範囲に渡る剣鱗が異形の軍勢を串刺しにする。山脈と見間違う竜の咢が空を侵攻する悪魔に喰らいつく。

 破滅の魔剣――――――彼はただ、唯我独尊に突き進む。

 英雄の血を求め。

 

 

「ククッ……ハヒッ、クハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

 もはや邪竜は止まらない。数の暴力が、自分より遥かに強い悪魔が、一時一時の窮地を乗り越える度にその激しさは増していく。強欲竜は今まさに人間としての一つの階段へ、人ならざる存在へと近づきつつあった。

 

 

「ああァ……ツアー、おかげで俺はこの力にありつけた。いくら感謝しても足りないぜ。今なら見えるぞ、英雄(ジークフリート)と同じ景色が……自らの心に応じて、無限に力が湧いてくる。俺の意思が、本気が、世界の道理を捻じ伏せているんだァ!!しかしまだ、まだ足りないッ……もっとこの身に滾らせてくれ。魔剣()の鞘をぶち壊すためにッッ」

 

 

 同調したツアーの魂が、ダインスレイフの魂と呼応して物理限界の棄却を意思一つですべてを超越できる領域へ突き進む。全身に活力が湧いてくる。それでもなお、異形の軍勢の数は揺るがない。減らされても、増え続ける脅威。単身で量の究極を実現する露蜂房(ハイブ)と違い、条件が幾つも揃わなければ出来ない芸当だとしても、時間さえあれば全てを埋め尽くす異形の軍勢は、文字通り地獄をつくり出す量の究極と言える。

 一人では、どうしようもない。規模も桁違い。ならば、この状況を打開する最適解とは――――――

 

 

「しゃらくせええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 

 更なる覚醒を、物質支配の効果範囲を拡大し、串刺しされた死骸の数を爆発的に増やしていく。

 

 

「おいおい、お前ら何してんだよ所詮数だけかよ。アンデッドだろうが悪魔だろうが関係ねえ……どうして覚醒しないんだ?挨拶代わりにで死ぬなよなァ!!英雄みたいに輝けよ!!今から皆で限界を超えようぜ、本気でやってみようじゃねえかッ!!」

 

 

 切り裂き、噛み砕き、あらゆるものを踏みつぶしながら進む獰猛な竜。覚醒を繰り返し、雑兵と化した異形の軍勢の蹂躙にも飽きてきた。この程度じゃあ足りない。もっとだ。もっともっと――――――財宝をよこせ。

 

 

「……俺の勘じゃそろそろの筈なんだが」

 

『何かを待ってるのかい?』

 

「向こうからしても面白くはねえだろこの状況は。送り出している兵隊が、敵の本体と衝突する前にたった一人に数を減らされ多少なりとも足止めされてるんだ。これにキレない奴はいない。俺を殺すために、確実に強い奴をぶつけてくる。何より、俺の存在は絶対に無視はできない。なら、この囲まれた状況だからこそ確実に袋叩きする刺客を送り出してくる」

 

『戦略的に間違ってはないけど、そう都合よく現れて……』

 

「前にも言っただろ。俺の勘は良く当たる」

 

 

 強欲竜の鋭く光る両眼は真っ直ぐに一人の敵を射抜いている。

 

 

「しゅ、守護者一人でも確実に倒せるlevelの敵。せ、千載一遇のチャンスってお姉ちゃんも言ってたし……」

 

 

 金髪ショートボブの美少年。青と緑のオッドアイをしており、緑色の小さなマントのようなものを羽織って、短めのスカートを履いている。両手に握り締めている木の枝のようなスタッフは、強欲竜の嗅覚を刺激する。デスナイトを百体に、level80以上の怪物を引き連れ、『頼りない大自然の使者』と、なんとも残念な二つ名を持つ実力は守護者第二位――――――マーレ・ベロ・フィオーレが膝を震わせながら登場した。

 

 

「えっと、ナザリックに逆らうような人は……やっちゃいます」

 

 

 その雰囲気、口調、見た目からは裏腹に、瞳の奥にはドロドロ濁った闇を覗かせる。

 

 

「お前が魔剣()の超えるべき壁ってわけか。……ならばこそ、光の礎となりやがれやッ!!!」

 

 

 全体重をかけて、全存在をかけて、全身全霊をかけて。

 本気の意思一つで、何処にもいる小悪党だった男は、本気で挑戦し続ける。

 強欲竜として、宝をよこせ。財宝をよこせ。たからをよこせ。全てを喰らい、力に変え、必ず英雄(ジークフリート)を――――――

 

 

「カヒッ、ヒハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 光の亡者は、本気で挑み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルシード・グランセニックは争いを好まない。

 誰かのための戦いで自分が傷つくなんて真っ平御免だし、そもそも弱気な性格は戦うことに向いていない。

 産まれた環境も良く、殺し合いなど殺伐とした戦場とは真逆の場所で育ってきた。両親から施された英才教育は社会に於ける立ち回りの機微と、最低限の礼節も学んだ。気楽に、置かれた環境からお金の流れを見抜く目は自然に養われ、それさえ身に着けてしまえばさほどの苦労をしてこない人生であった。

 それが、父が犯した罪で後の政権を握る英雄閣下に粛清され、まだ潔白であったルシードを第三諜報部隊・深謀双児(ジェミニ)と第七特務部隊・裁剣天秤(ライブラ)隊長のチトセ・朧・アマツが、他国に対する情報収集の為に利用した。他にもいろいろとややこしい事情はあったが――――――そんな、取るに足らない、ごくつまらない男。

 そんな彼にも、初恋の相手や、親友もでき、金に関係ない。温かなものを掴むことができた。

 なのに、異形の怪物たちはこの日常を破壊する。

 大切な、大切な人を殺そうとしている。

 元々潜入だけで、戦闘命令を下されていないルシードは、露蜂房(ハイブ)の助けなど無視して安全な所まで何時もの様に逃げても良かった。それでも―――――― 

 

 

「情けないと、素直に思った。それだけさ」

 

 

 愛する人へ、友へ、家族へ、同僚へ、あまねくすべてに今この時彼は負け犬の矜持を示す。

 一人で抱えてひたすらだんまりで、性能だけなら五本の指に入る実力がありながら、何処までも負け犬な彼だからこそ――――――この"今"に捧げる熱量と思いは、英雄(だれ)にも負けない。

 

 

「正直言って、僕は君たち怪物が羨ましいと、心の底から思ったよ」

 

 

 情けない弱者の吐露に対し、帰ってきたのは一瞬の静寂。

 

 

「だってそうだろ?神や悪魔に選ばれて、すぐさま活躍できるだって?馬鹿を言え、それが出来るのは怪物と英雄だけだ。小心者はどこまで行っても塵屑で生まれ変わるのは無理なんだ。それこそ、余程の事がない限り……」

 

 

 誰か自分より大切な者でも出来ない限り、弱虫は自分の為に立ち上がる事が出来ない。

 銃やナイフを手にした途端、一朝一夕で勇敢になれるなら訓練さえ必要ない。

 強力な兵器さえ握らせれば誰もが勇者になれてしまう――――――そんなものは現実じゃありえない。

 負け犬は負け犬。

 

 

「結局自分のような負け犬が出来るのはどこまで行っても弱いものイジメなんだ……」

 

「はぁ?」

 

 

 つい聞き入ってしまったシャルティアは、守護者最強の強者である自分が弱いと、パッとでの男に評価され、怒りと同時に、強さも計れない下等生物の強気な発言に笑ってしまう。

 栄光なるナザリック守護者最強を自負するシャルティアは、ペロロンチーノ様から頂いたフル装備を身に纏い。慢心、油断、侮蔑、後さき考えない馬鹿な頭を前に。

 

 

「だから――――――今から僕は弱者()を下す」

 

「言うでありんすね。なら――――――やってみろやッ!!」

 

 

此処からの戦いは英雄譚とはかけ離れた幼稚な啖呵を切り合った負け犬同士の泥の掛け合い。

 

 

「天昇せよ、我が守護星――――――鋼の恒星を掲げるがため」

 

 

 彼が口にした()を起動する詠唱(ランゲージ)

 

「有翼の帽子と靴を身に纏い、双蛇の巻かれた杖を手に、主神の言葉を伝令すべく地表を流離う旅人よ。

盗賊が、羊飼いが、詐欺師と医者と商人が。汝の授ける多様な叡智を、今かと望み待ち焦がれている。

幽世かくりよさえも旅する人、どうか話を聞かせておくれ。

石を金へと変えるが如く、豊かな智慧と神秘の欠片で賢者の宇宙を見せてほしい」

 

 

 商人、親友、初恋、負け犬、そして内包する能力。いずれもこの男の一面に過ぎず、されどすべてが彼自身を構成する紛うことなき真実の顔。多面性を有するその特性は、確たる魂により遂行される。英雄の様に、光の亡者の様に、たった一つの顔、理由だけでは立ち向かえないから。

 

 

「願うならば導こう――吟遊詩人よ、この手を掴め。愛を迎えに墜ちるのだ。

太陽へかつて譲った竪琴の音を聞きながら、黄泉を降りていざ往かん。それこそおまえの真実である」

 

 

 ルシード・グランセニックが求めて止まない希望(ヒカリ)、その裏返しがまさにいま顕在化した。

 

 

超新星(Metalnova)――――――雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ(M i s e r a b l e A l c h e m i s t)!!!」

 

 

 瞬間、周囲の時空が歪み全方向に暴力の津波が襲い掛かった。

 血肉が通うモンスター、この世界では極上の装備を身に纏ったアンデッド達が、見えない力で押し潰される。

 シャルティアを守るため、多種多様な怪物が襲い掛かるが――――――しかし、彼の纏った衣服にすら触れることも叶わない。

 ゼファーを殺そうと拳を振り下ろした眼鏡メイドを吹き飛ばし、有りっ丈のポーションを浴びせ安全を確保する。

 最早誰も近づけはしない。この力から逃れられる生物は存在しない。

 

 

「アンデッドとの相性は最悪だけど、そうも着飾ったら何の意味もない」

 

 

 不可視の力が激しく膨れ上がり、次の瞬間、同士討ちをし出すアンデッド共。精神支配を受け付けないアンデッドを精神操作、それも複数はあり得ない。シャルティアがやられたように、ワールドアイテムでもなければ不可能。

 

 

「きぃさまああああああああああああああああああッこのわたしにぃ……何をしたあ!!」

 

「うるさいよ。か弱いレディの姿に反して怪力過ぎない?本気で抑え込んでるのに動けるって」

 

 

 一番近くにいたシャルティアは真っ先に不可視の力に絡め獲られ、地面に沈んでいく身体に抗いながら一歩一歩確実に近づいていく。

 

 

「『眷属招来』!!」

 

 

 古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)吸血蝙蝠の群れ(ヴァンパイア・バット・スウォーム)吸血鬼の狼(ヴァンパイアウルフ)他にはネズミーなどを召喚するスキル。

 四方を埋め尽くす僕に比べ、たいして強くないモンスター。 だが、血肉は通わずなにも装備をしていないからこそ、錬金術師(アルケミスト)の不可視の力から逃れることが出来る。無自覚だとしても、シャルティアは最善な手を打っていた。

 

 

「ああそれで?」

 

 

ルシードが更なる力を行使すべく地面に手をかざした。同時、地面から黒い塊が渦を巻き、鋭い槍先の形状へと凝固すると鞭のようにしならせシャルティアが召喚した眷属を切り裂いた。

 数にはおよそ限度はなく、形状を変化させ飛来する最中に軌道を急激に変えてシャルティアに殺到する。

 

 

「くっ……『飛行(フライ)』」

 

 

 身体を拘束する力に抗い、翼を広げ槍先から逃れるべく空を舞う。level100の守護者最強としてロールプレイに寄らないガチのレベル配分がされたペロロンチーノに創造された趣味と浪漫の集大成。

 ルシードの力を持ってしても、広範囲に能力を展開しながら、level100のシャルティアを完全に押さえつけるのは出力の問題上不可能。光の亡者ではない、闇に属する彼は、土壇場の覚醒も進化も当たり前に出来やしない。頭がおかしい光の亡者(破綻者)とは違うのだ。

 故に――――――

 

 

「舐めるなぁ!!『清浄投擲槍』ッ」

 

 

 清浄投擲槍、1日に3回だけ使えるスキル。神聖属性を持つ3mもの長大な戦神槍を生み出す。MPを消費することで必中効果も付与できる。他の守護者、アインズさえ命中する正に必中スキル。

 よって、何の無力化アイテムも、スキルも効果もないルシードに防ぐ手段はなく、その光槍は必ずその心臓を貫き――――――

 

 

「……死想恋歌(レディ)、君の加護を使わせてもらうよ」

 

 

 懐から取り出した装置を起動させた。

 

 

「あ、ありえないッ」

 

 

 光槍は、装置から溢れた焔の如き漆黒の反粒子によってその効果を殺された。世界を殺す、否定(アンチ)否定(アンチ)否定(アンチ)――――――ゼファーとルシードを覆う様に展開されたソレは、結界として機能している。

 世界を否定し、光を反転させる滅奏。二人の少女の能力から開発された聖王国独自の技術で作り上げたマジックアイテム。

 死想恋歌(エウリュディケ)の反粒子を遠隔瞬間移動(アポーツ)を用いて遠くからでも、誰でも、道具として扱えるように作り上げた至高の一品。装置の大きさから二三人しか覆う事が出来ないが、それでもあらゆる効果を遮断し、干渉する異能を打ち消す奈落の底へ誘う漆黒の闇。

 

 

「ジン・ヘイゼル。この結界は五分しか持たない。この大きさじゃそれが限界だ。その間に、何処までやれる?」

 

 

 ルシードに連れてこられた頑固ジジイ。ジン・ヘイゼルはゼファーを治療しながら、ポーションで治癒不可能の欠損部、失った左腕を前に、正確に答えを述べる。

 

 

「ふん、小童が、ワシを誰と心得ておる。……四分でやってみせよう」

 

「……ありがとう」

 

 

 さあ、ここには光の亡者はいない。光を崇拝する破綻者もいない。

 

 

「さあ、目覚めろよ恋敵(しんゆう)。君の本領は底からだろ?」

 

 

 冥府の底から――――――逆襲劇(ヴェンデッタ)を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 








七月からの東京勤務が六月からに変更になり、準備やその他いろいろで超忙しかったです(白目
今回は前回と同じで、光と闇の考え方の違いが表現できていれば幸いです。色々独自設定などぶち込んでいますが、基本書きたいことを書く主義なので、それで楽しんでいただければ作者、幸せです!!
 六月中は東京で忙しくなりそうなので、もしかしたら次回は七月からになるかもしれませんがよろしくお願いします。

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