デミウルゴスが斃され早十日、エ・ランテル冒険者組合長プルトン・アインザックが殺されて早九日、ナザリックにとってデミウルゴスは、掛け替えのない仲間であった。
総括守護者アルベドが煩悩に暴走しても、同じく第一お妃を狙うシャルティアが暴れても、ストッパーとして周りを纏めていたのは彼だと言える。第5階層階層守護者コキュートス、第6階層守護者アウラ、マーレも困ったこと、分からないことがあればデミウルゴスに聞けばいいと仲間からの信頼も厚かった。
デミウルゴスと対極にあるセバス・チャン、目を合わせれば睨み合い、お互い口を開けば上げ足をとり罵り合う。だが、その忠誠心に一心の歪みも闇も疑いもない対等の関係だと認め合っていた。
このナザリックに属する全ての僕は対等だが、相手の内面を知り、真に信頼しあっていたのはこの二人だろう。
故に、リ・エスティーゼ王国では誰よりも積極的にデミウルゴスを殺害した仕立て人を探していた。
その足を運び、一人一人の顔を覚えているセバスは、身に覚えのない顔をマークし、それらすべてを調べては怪しくなければ除外する作業を繰り返していた。勿論、与えられた仕事をこなしながらの独自判断からの行動だ。一人では無理なら、配下の仲間の手が空いた時に頼み込んで協力してもらっている。
そして、極善カルマ値:300のセバスは他の僕と違い人間との交流が自分から可能な稀有な僕だ。人間に対し問題なくコミュニケーションがとれるのは人間の国で活動する時の強みになる。
セバスの足は、情報集の為一つの酒場に訪れていた。
「初めまして蒼の薔薇の皆さん、本日は私めのためにお集まり頂き誠に恐縮でございます」
女性五人で構成されている蒼の薔薇が、食事の手を止め代表してリーダーのラキュースが挨拶を交わす。
「初めましてセバスさん、お話はクライムから聞いております。あの八本指のゼロを軽くあしらったと聞いてます」
「あのクライムが自慢げに語ってきたからな~どんな男か興味があったんだよ。いやしかし……イイ男だ。わかる、わかるぞ……おまえ童貞だな?その年で童貞は寂しいだろ?私が筆下してやろうか?」
「勿体無い幼ければ」
「勿体無いロリなら」
「……貴様らいい加減にしろよ」
「す、すみません!仲間がご無礼を!」
「いえ構いません、この場を設けていただいただけで感謝が尽きません」
寛大なお心感謝しますと、ラキュースは頭を下げる。そのままセバスはラキュースとガガーランの間の席に座る。この場は無礼講とまずは乾杯、一通り酒を嗜む。
「……貴方のような実力者が今まで無名なのが信じられませんね」
「全くだ、肉付きと気配がただ者じゃねぇ。数少ない押し倒される男を感じるぜ」
「……ふん、モモン様ほどではないがな」
「うちのロリが惚気てる」
「ショタは?イケメンはどこ?」
セバスの頬がついつい緩んでしまう。やはり僕として主人を褒められると自分の様に嬉しくなる。他愛のない会話に花を咲かせ短時間で友好を深められるのもセバスの人柄があってのものだろう。
「セバス様の主人が正直羨ましい限りです。貴方のような人に好かれ……余程凄い御方なのでしょうね」
「はい、私など足元にも及ばないその力と叡智に、いつも驚かされます。見苦しいのですが、先日も護衛もつけずに一人で出かけようとした時は焦ってしまいましたよ」
「爺さんより強いならまず襲う方を心配しちまうよ!」
「……はん、モモン様には劣るがな」
「もう駄目でしょイビルアイ。すみませんセバスさん、まだまだ子供なので」
「いえ、漆黒の英雄モモン様と比べればイビルアイ様の言う通りまだまだです。かの御方の身を挺して国を守るその生き方に畏敬の念を、尊敬を感じております」
「ふふふ、そうですね。ほら、よかったわねイビルアイ」
「頭を撫でるなァ!子ども扱いするなァ!モモン様が凄くて素晴らしいのは当たり前だァ!」
「うちのロリが煩くてすいません」
「ロリロリショタショタ」
「さっきから貴様ら二人こそ何なんだ!?」
食事を済ませイビルアイとセバスを除く全員が酒を楽しんでいる時、セバスが切り込んでいく。
「……ところで皆さま、最近怪しい輩やへんな噂などは知りませんか?主人がそのような話のネタが好きでして、良ければ教えていただけませんか?勿論、それ相応のお礼を致します」
「お礼だなんて、それだけで頂けませんよ!いくらでもネタになるならお話ししますよ」
「有難うございます。主人もお喜びになります」
「……つってもな、この王都もアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になってから事件らしい事件がからっきしだしなあ」
リ・エスティーゼ王国がアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になってからは本当に色々ありすぎた。
国の機能をそのままに、だが裏では大掃除が行われた。八本指は解体されその組織の方針は全く別のものとなったが、有ったものをそのままにアインズ・ウール・ゴウンの手駒として運営している。王家の一族や貴族といった者を無くさず、変わらず国王が全権を握ってはいるが、アインズ・ウール・ゴウンの命令の前ではすべてが優先される。異形種やアンデッドが街の警備に配属された日には、恐怖で国中の人々が眠れない日が続いた。
他にも他にもと、六大貴族のレエブン候を中心に貴族を纏めさせたり、黄金と評される王女ラナーをアインズ・ウール・ゴウンの所有物として献上品として渡すように仕向けたりもした。
まだまだまだ他にも他にもと――――――蒼の薔薇が知る由もない裏の出来事は瞬く間に行われた。
故に、冒険者として話題に上がる話と言えばエ・ランテルから広がり、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国まで広まったある噂。いくらナザリックの情報網が優れていても全ての口を塞ぐことは出来ない。
アンデッドの警護が街を平和にした。モンスターも全部そいつ等が国を守ってくれる。見た目はアレだが、やっていることは良い事だ。それはいい、高評価ばかり上がり続ければ人はその人物に好感を覚えてくるが、それ故に、たった一つのミスや悪い噂がその全てを帳消しする。
アインズ・ウール・ゴウンによるアインザック暗殺事件。
皆表立っては話さないが、この噂で持ち切りだ。
特に、冒険者にとっては期待が他のものたちより大きかった分その噂には激震が走った。
アインズ・ウール・ゴウンはアインザックとそれなりに親しい仲にあるのが周知の事実、お互い笑い合う姿も目撃されている。事実アインザックは礼儀を弁え、ズバズバものをいうからアインズ本人からはマジ心の友だと思われていた。何より二人が進めていた冒険者を真の冒険者にする、外の世界へ飛び立つ改革は数多くの冒険者の心を奮い立たせた。
銅、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト。すべてのチームに次のチャンスが到来した。
限界を感じ現状に甘んじていた者。
努力しても思う様に伸びず悩む者。
その全ての者に万全のバックアップの下、全く新しい世界へ旅立てる可能性を示したそのシステムは、今までになかった、アインズ・ウール・ゴウン魔導国あってのシステムだ。
その地盤が歪んでいる。ごく一部の頭が切れる者はアインズ・ウール・ゴウンはそのような回りくどい事をしないと導き出し、親しい者たちには有りえないと一蹴りするが、大衆の殆どがそうとは思わない。
――――――化け物がついに本性を現した。
最初に懐いた感情をアインズ・ウール・ゴウンの善政で蓋をし、仕方ないと割り切っていたモノが身体の奥深くから芯を凍らせ蘇る。
"恐怖"
人ではない別の種族を良い奴かもしれないと信じるのは難しい。
自分たちがどれだけ集結し団結しても敵わない異形の怪物たちを心から安心し切るのは不可能。
特に、人間としてアインズ・ウール・ゴウンと親しく接し、でかでかとアインズ・ウール・ゴウンの名で保証された存在がそのアインズ・ウール・ゴウンの手によって死んだとすれば?
人々は恐怖とともに安堵する。
――――――所詮化け物は化け物であったと。
アダマンタイト級冒険者蒼の薔薇はその煽りをもろに受けている。皆が疑心暗鬼なんだ。本当に大丈夫なのか、命は、人権は保障されているのか。そもそも誰がアインザックの跡を継ぐのか。
冒険者を改革する代表であり、その権限を所有していたアインザックの後釜になればアインズ・ウール・ゴウンの名の下に、絶対の地位を確立出来る。だが、誰もアインザックの二の舞になりたくはない。
蒼の薔薇は自分たちを人類の守護者を担っていると自負している。漆黒の英雄モモンと敵対関係にあるアインズ・ウール・ゴウンには悪い感情の方がデカい。その分、今回の事件は真実はどうあれアイツならやりかねないと、いつもの冒険者の任務をこなしつつアインズ・ウール・ゴウンが定義する新しい冒険者づくりから足を引いている形をとっている。何より親友のラナーがクライムと共に怪物たちに囚われているのが悪感情を抱く要因となっている。
だが決して口には出さない。冒険者代表として怪物たちに建前を与えてはならない。
それらの印象が強すぎて言いよどむラキュースとガガーラン、セバスを巻き込んではならない優しい性格からきているから憎めない。ティアとティナが沈黙を破った。
「帝都の冒険者がこっちに流れるようになった」
「イケメンも多いし眼福眼福」
「新たな冒険者ギルドの本元に来るのは別に変ではないだろ。……変な奴ならいるがな」
「あー……アイツかあ、アレは変だ」
「あの人の事?まあ確かに……」
蒼の薔薇が変変と繰り返す人物に興味をひかれたセバスは、どのような人物か尋ねてみる。
「それはどのような御方なのですかイビルアイ様?」
「そうだな……一言で云えば――――――」
偶然にも話題に上がった人物が店に登場した――――――突き付けられた指先と共に。
「しとどに濡れる青く可憐な一輪の薔薇――――――おお、それは貴方のこと。瑞々しい未熟な果実よ、その白桃が如き美の極限で今日も私を狂わせるのか。幼き魔性の艶つやを前にこの身はもはや愛の奴隷。ゆえにどうかそのおみ足で、憐れな奴隷に甘美な罰をお与えください……ふみふみ、と」
異次元へぶっ飛んだ愛の言葉が添えられた。
性癖を暴露し終え、舞い降りる圧倒的静寂。イビルアイと彼は互いに硬直して見つめ合う事しばし。
「こいつが……ただの変態だってことだァ!!」
嚇怒の声が彼――――――ルシード・グランセニックに向け放たれる。
「そう怒らないくれ僕の
「いらんわボケェ!!」
身を悶えさせる、ドМ
セバスは思い起こす。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、他の国にも手を広げている名門グランセニック商会。そのグランセニックの姓を持つグランセニック商会王国支部の若き才人、ルシード・グランセニックは、セバスから見ても見事に残念だった。
「初めまして、私はセバス・チャンと申します。申し訳ありませんが貴方様は?」
「これはこれはご丁寧にどうも、僕はルシード・グランセニック、気軽にルシードと呼んでくれ」
「ルシード様でございますね。初対面で失礼なのですが、イビルアイ様とはどのようなご関係なのでしょうか?」
「膝の上にちょこんと乗せつつ、キャンディーぺろぺろちゅぱってる幼い女神を、んふ、ふ、ふふふふふぅぅ――――――そんな関係さ」
「おーおチビにそんなお相手が」
「相手は選んだ方がいい」
「濡れ衣だァ!!」
「お馬さんごっこがしたいだって!?」
「貴様の耳は飾りかァ!!ああそうだな腐ってるんだな豚以下の畜生の存在だもんなァ!!」
ルシードは自分の肩を力の限り抱きしめ、身体を震わせる。何よりキモイほど息が荒い。
「ぶ、ぶひぃっ」
『うわー』
卑しく鼻をひくつかせて、人の尊厳を捨てて鳴いた男の嗚咽とも慙愧とも取れる嘆きを漏らす姿に、今や戦慄の感情さえ湧き上がってきた。
蒼の薔薇は家畜を無視し折れた話を修正する。
「セバスさんのご期待に添えるか分かりませんが、どうもスレイン法国の動向が騒がしい、怪しいと報告が上がっているんです」
「……ついに動き出したと?」
「向こうもアインズ・ウール・ゴウン魔導国に対抗するため活発化してる可能性が一番高いのでは?スレイン法国は元々人間主義、今の現状は教示に反しているはずです。ですが……」
「どうなさいました?」
「いえ、スレイン法国は情報がそう簡単に漏れるような甘い国ではありません。もしかしたら……もう動いている?」
やはりと言うべきか、警戒対象であるスレイン法国が仕立て人の可能性が一番高い。あの国には確実にプレイヤーがいると考えるべきだ。これは、一度アインズ様の意見を仰ぐべきだ。
「黄金に輝く穢れをしらない純金、その髪一本一本が上質な高級絹糸。ああ……端的に言って、超勃起します!!」
ラキュースとガガーランに感謝をし、盛り上がるイビルアイ、ルシード、ティア&ティナにもそろそろ失礼する有無を伝え、セバスは酒屋を後にするのであった。
「あなた様ほどの方が……何故」
男の身体は破壊され、手足は再起不能なほど折れ曲がっている。視線のみを自分をここまで破壊した怪物に向ける。その視線には困惑に怒り、それ以上に血が滲む喉からただ――――――何故と。
「……」
少女は何も答えない。その思いは、耳は、目は、此処にはいない誰かをただひたすらに追い求めている。
「番外席次、答えろ。自分がどれ程重要な存在か理解しているはずだ」
「……」
少女は耳を貸さない。どこか遠くに思いを馳せる。
「人類最強のあなたが奴らに見つかれば、スレイン法国はドラゴンどもに滅ぼされ、人は終わってしまう!ぷれいやーは彼らに任せましょう。ですからお願いです、私と一緒に戻りましょうッ」
ピクリと、どの言葉で反応したかは定かではないが、番外席次は、漆黒聖典第一席次隊長――――――ロトを静謐に見つめる。長めの髪は片側が白銀、片側が漆黒の二色に分かれており、汗で湿った肌に貼り付いているせいか十代前半の容姿にしては妖艶に見える。穢れを知らない艶やかな小さな唇が今日初めて開かれる。
「ねぇロト、私の名前は番外席次でも絶死絶命でもなくて、ちゃんとカグラって名前があるんだよ?」
こてんと、首をかしげる可愛らしい仕草は、場違いにもほどがあると隊長ロトの眉間に力がこもる。
「……カグラ、答えてくれ。君の答え一つで法国は動く、動かざる得なくなる。何をするつもりなんだ?」
この戦いを見ている最高執行機関と巫女姫は、人類最強の切り札"絶死絶命"カグラの答えを見極めるしかない。この数ヶ月で戦力の半数近くを失ったスレイン法国に漆黒聖典第一席次隊長ロトと人類最強の切り札"絶死絶命"カグラ以上の戦力は存在しない。ロトが負けた時点で、もうどうしようもないのだ。
本国からその戦いを見届けた法国の最高責任者最高神官長は固唾を呑む。彼女が動けば言い訳は不可能、その先には戦争しかない。
そんなスレイン法国の命運、人類を背負っている少女は、そんな重責など感じさせない。
「ローブル聖王国」
「……どこでそれを」
その一言でロトは全てを察した。この人類最強たる少女が何を成すのか。
「闘ってるんでしょ?ぷれいやーと。どうせおじいちゃんたちはこっちの影を悟らせず、善なる
カグラは此方を監視している眼に視線を合わせる。
「ぐだぐだしているなら、私が示してあげる。事態はもうどうしようもないほど動いている。なりふり構わず、人類は立ち向かわなきゃならないの。異形種を滅ぼし、人が人の力で成長する世界にする分岐点。今こそ、世界の方向性を光で導くの」
それはスレイン法国に所属する誰もが思い描く理想郷。それ故に、頭に過ぎる――――――本当に可能なのか?
「計算も策略も打算も忘れるの。感情のまま、その心を、熱量をぶつけるの。例えその先に、
少女もまた光の人間。
良いも悪いもない、何処までも純粋に穢れを知らない少女は光に向け駆け抜ける。
「"勝つ"のは私よ」
どうしてこうなった(後悔はしていない
所で邪竜ですけどどうしましょうか?色々悩んでいます。
敵対?
味方?
はたまた第三勢力(そっこー死にます
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