オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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秘めた思いを言葉にした女性は世界で一番無敵になる

「俺、犬派なんだ」

 

「私もです。なつっこくて可愛いですよね」

 

「ああそうなんだよ!ユグドラシル時代は猫派と犬派でよく代理戦争してたっけ」

 

「なんだか可愛らしい戦争ですね」

 

「いや、この抗争のせいで猫に対してトラウマを抱えた奴が増えたんだよ。猫もそりゃ可愛いさ。でも大陸を埋め尽くす大量の猫は地獄だった」

 

「どうすればそのような事態に?」

 

「それが馬鹿な奴がいてな。名前までは分からないが、ワールドアイテムで猫を大量に召喚したんだよ。勿体ないと思わないか?」

 

「それほどまでに猫がお好きだったんですね。凄まじい愛です」

 

「あい……か、そうだな。あれもまた愛か」

 

「犬と言えば、私達の子供に着せる犬パジャマが0歳から10歳まで作ってあります。他にも靴下や帽子、女性用男性用双子用から六子までのレパートリーを色々作っていましたので、二万点は軽く越えてますね」

 

「……そんな事してたのかよ」

 

「あと寝室をあまり利用されないサトル様の代わりにそれはもう色々使用していました」

 

「そんな事してたのかよッ!!」

 

 

 二人は様々なことを語り合った。

 好きなもの。苦手なもの。

 自慢の特技にコンプレックス。

 小さい頃の思い出に、社畜ちゃんの日々。

 ゲーム時代の栄光――――――異世界の喪失。

 小さなことから大きなことまで、ふとした思い出を語った。短い時の中で思い付く限り語り合ったはずなのに、全然話したりないのは何故なのか。

 

 

「――――――それで、な。えっと……今日の天気はどうだったか?」

 

「今日は晴れ時々曇り……所により血の雨です」

 

「あ――――――……ワロエナイ」

 

 

 NPCとこんな軽口で話せる機会はないと思っていた。

 冗談や弱音を吐いても流してくれる。

 支配者とNPCの仮面が剥がれ、建前が消えた素の関係はムッとなることがこれから増えると思う。

 それでも、この何もわからない異世界で『鈴木悟』は初めて真剣に未来を望んだ。

 

 

「……明日の天気は、どうなると思う?」

 

「……どうなると思います?」

 

「え、質問を質問で返すの」

 

「いいではありませんか。明日はどんな天気がいいと思います?」

 

「そうだなぁ……やっぱり、晴れかな。太陽はいい。宝石のような夜空もいいが、太陽は別格だ。大きくて、眩しくて……こんな骨の肉体でも燃える熱さを教えてくれる」

 

 

 『鈴木悟』もまた太陽(たっち・みー)に焼かれた亡者の一人。

 こうしている今も、四十人との思い出が脳裏に駆け巡る。一人一人の会話と仕草まで、詳細に映像として見えていく。

 過去も尊く素晴らしい。でも、同じくらいにアルベドとの未来は輝いている。

 ユグドラシルのような未知への冒険。『鈴木悟』を愛していると言ってくれた初めての女性との未来。

 過去ばかりを見ていた男が明日を求めている。

 絶望した拒絶の現実逃避ではない。罪の意識は消えていない。犯した過去は覆らない。それでも、『鈴木悟』を愛してくれた彼女と共に、何かが出来るかもしれない。

 そんな、心に炎を灯した男に――――――女の体は濡れる。

 

 

マジヤベェー……垂れてきたんんッッ!ですが雨かもしれません。曇りかもしれません。もしかしたら雪かもしれませんよ?」

 

「雨や曇りはまだしも……雪って」

 

「……天候操作(コントロール・ウェザー)

 

「いやッせこいな!?」

 

「ふふふ……では、明日の天気は明日、一緒に確認しましょう。明後日も、明々後日も……一緒に空を見上げて確認すればいい。サトル様が大好きな太陽が世界を照らしているのか」

 

 

 その場の思い付きでも構わない。より未来を渇望する切っ掛けを、燃料を投下する。過去が『鈴木悟』を苦しめるのなら、少しでも――――――ほんの少しでも負担を軽く。未来とは突き進むものだから。

 そう、過去にとらわれず未来へと歩んで欲しいとアルベドは願っている。

 それが例えどんなに辛く苦しめる選択だとしても――――――過去には戻れないのだから。

 

 

「そうだな……明日のことは明日確認すればいいんだ。未来が……刹那になるまで」

 

「はい。刹那が未来に追い付くまで」

 

 

 最強の支配者――――――魔導王アインズ・ウール・ゴウンここに改心する。

 魔法、スキルなどの検証実験はもうできない。

 ゲームのキャラクターのように誰かを殺すことももうできない。

 自分一人の我が儘で誰かを不幸にすることももうできない。

 今、この瞬間、この刹那から――――――『鈴木悟』の異世界(リアル)が始まった。

 ゼロから始まるのは無理でも、未来に向け始まることはできる。

 『未知』への渇望に並列する様に存在する『同じ時間を共有する仲間が欲しい』という当たり前な願い。

 当たり前だからこそ、誰もが望みながら決して手に入れることが叶わない矛盾をはらんでいる。

 人類一人だけの願いを叶えようとしても一つでは足りない。心から渇望する願い。些細な願い。無意識化に存在する願い。願いながらも忘れてしまった願い。そんな願いの塊が人間。死なない限り解脱は不可能。人間は誰しもブッタにはなれない。

 

 それでも、そんな存在こそ素晴らしいと『鈴木悟』は思っている。現実に向き合い、神の加護さえ否定して現実を生きる人間をどうして否定できようか。

 それでも一般人に過ぎない『鈴木悟』はそんな存在を心から素晴らしいと涙を流しても、真逆のことを願うのだ。

 

 ――――――"未来は不透明で未知に満ちている。だからこそ、特別な何かが欲しい"

 

 前の世界は無理でも、異世界だから出来る。

 ユグドラシルのアバターモモンガの肉体を持つ『鈴木悟』は現実(リアル)を生きると誓った。

 何もできなかった前の世界。特別な力を持った異世界なら変われるかもしれないと願う――――――未来が刹那に変わるのを夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王は一人勝手に納得した。女もまた誘導した。

 女の計画は八割方完了したといえる。絶望から立ち直った魔王は、最後に二人でナザリック()を捨て世界を冒険する――――――そんなハッピーエンド。

 英雄から尻尾を巻いて逃げ、かつての仲間を思い出とし、新たな現実(リアル)を謳歌する。

 

 女は何も間違っちゃいない。

 このまま戦うことなく逃げれば『鈴木悟』の絶対なる愛が手に入る。

 愛を知らずに完成されたNPCは愛情を求める。

 それはアルベドもまた変わらない。

 故に、アルベドは最後の最後まで誤解していた。

 パンドラもまた私と一緒なのだと、愛する者を逃がすために奮起しているのだとそう思っていた。

 

 忘れてはならない――――――この物語は何処までいっても、ご都合主義が闊歩する『英雄譚』。

 

 そう、故に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————まだだッッッ!!

 

 

 強烈な稲光が王座の間を隔てていた扉を融解させ、未来へ羽ばたく筈だった二人の男女を熱く照らす。

 直に直撃しなければ害の無い光は、二人の目を引き寄せるには十分過ぎた。

 ピシッと着こなしていた軍服は裂け血に染まり、ボロボロとなった外套は血飛沫と共に舞い散る。

 衝撃を物語る様に王座の下まで吹き飛ばされたソレは力無く右手に握られた"究極の一振り"ツルギをヴァルゼライドへ向け伸ばした。

 

 

「——————ゴハッ」

 

 

 耐久性を超えた破壊で刃を断たれた"究極の一振り"ツルギが塵となり消滅する。

 零れる命の水がレッドカーペットを赤黒く染め上げ拡がる。

 流血の勢いが速い。魂が弱っていく。

 先の一撃は"究極の一振り"ツルギを破壊し、扉を融解させ――――――肉体の上半身だけを『鈴木悟』の下へ吹き飛ばした。

 

 

「……も……モモンガ、さッまァッッ」

 

 

 その一言は、輝ける未来へ羽ばたこうとした『鈴木悟(モモンガ)』を過去へ引きずり堕とすのに十分過ぎた。

 

 

「パンドラああああああああああああああああああああああああッツ!!!」

 

 

 急いで傍に駆け寄りアイテムストレージからポーションを取り出し傷口へ浴びせる。一本で十分な効果を発揮する最高級ポーションを何本も全身へ浴びせる。

 

 

「なんでだ……傷は確かに癒えている。欠損部も修復されるはずだろ?デミウルゴスの報告書通りなら最上級ポーション(これ)を使えばどんな傷も治るって話じゃなかったのかよ!?」

 

 

 『鈴木悟』は耐えられない。見知った誰かが目の前で死ぬことが。失う怖さを知っているから。

 悲惨に泣き叫ぶ『鈴木悟(モモンガ)』は気付かない。この状況こそがパンドラが故意に作り出した絶望だと。

 愛しの男が絶望する姿。それに抱かれるパンドラを俯瞰して見渡せる王座の傍を一歩も動かなかったアルベドは全てを悟る。

 

 

「それが貴方の狙いだったのね…………えぇ、いいわ。乗って上げる。貴方の策にはまった時点で、もうそれしかない。成功させるしかない」

 

 

 自分の意思でポーションの治療を拒絶するパンドラに漆黒の殺意をピンポイントでぶつける。一瞬で外された瞳は、穏やかな視線をアルベドに向けていた。でも何故かパンドラの思いが理解できてしまった。

 流れ込んできた好奇心、使命感、渇き――――――愛情。

 パンドラはアルベドが知らない情報をもとに行動している。それでも、それは『鈴木悟(モモンガ)』の為になると確信している。

 親子ゆえの、愛ゆえに。

 ならば、どんな理不尽だろうと――――――アルベドはその愛を信じる。

 

 

(ええ分かっているわパンドラ。どんなに幸せな結末を迎えようと、過程がそぐわなければ納得しない。過去は、サトル様の中で決着しなければならない)

 

 

 未来への目標があればいいだろう。されど、ふと振り返った過去は、何時までも本人を苦しめる。

 だから――――――

 

 

「サトル様……」

 

 

 そっと頬に手を添え誘導し、愛する男に視線を合わせる。

 

 

「私は……醜い女です。弱った所につけいり、結果として依存させようとしている。そんな、男を堕落させる毒婦(サキュバス)が私なのです」

 

「アル、ベド……なにを……」

 

 

 NPCは純粋な存在。白は白。黒は黒と創造された彼らは驚くほど純白だ。NPCは初めて手に入れた自由に困惑し、迷い、決めかねている。だけど、一度心に誓ったのなら、彼らは驚くほど簡単に覚悟を完了させる。

 純粋ゆえに、純白ゆえに、生まれて10年も経っていない子供は、そうと決めれば頑固なのだ。

 故に、女は愛する男の真実を突き付ける。

 

 

「愛とは都合のいい逃避。忠義も束縛にしかならない。力もまた重みとなる。そう、サトル様にとって異世界転移とは――――――捨てる筈だった宝箱の世界」

 

 

 かつての仲間に渡された思い出の品を、後生大事に保管し管理する。ナザリック地下大墳墓そのものが『鈴木悟』が夢想するかつての仲間の名残を受け継いだNPCと新たに始めた全盛期の続編。でもそれもまた。

 

 

「サトル様にとって、ナザリックは心の隙間を埋める一人ぼっちの人形劇でしかなかった」

 

 

 誰もその本質を理解しようとしなかった。設定されたNPCと、心が抑制されたプレイヤーは、現実を現実と理解できても認識出来ない。

 

 

「でもそれは過去の出来事です。今、この瞬間、この刹那を生きる私達は確かに生きている。現実(リアル)は、そんな私達にも苦難を強制する。でもそれが、生きるということ」

 

「いきる……」

 

「個において一番強いルベドでさえ、一番心が弱かった。それでも、妹は『答え』を見つけることが出来たと、私は()()()()()

 

 

 自分は一体何者で、なにがしたいのか。人は、その生涯を費やしても『答え』を出せない者ばかり。

 姉であり、考える時間が多かったアルベドは、生まれて数時間の妹に全てを追い抜かれた。

 生まれたばかりで、産声の上げかたすら知らなかったルベドが、ママを知り、人を知り、亜人を知り、異形を知り――――――人間となった。

 知り得ない事を知っている。同じ創造主の三姉妹として深い繋がりを持つアルベドとルベド。ルベドは星辰伝奏者(スフィアリンカー)として、継ぐべき意思を確かに次へ繋いでいた。

 死してなお、意思と思想、知識は生き続ける。

 

 繋がりを、継ぐことこそが星辰伝奏者(スフィアリンカー)の本質ならば――――――この星の祝福を受けた者に敗北は訪れない。

 

 

(ありがとう……可愛い妹。私が今一番知りたいことを教えてくれて)

 

 

 特異点として世界へ記録された極晃星(スフィア)は、未来永劫『』(そこ)に存在する。ルベドの記録は存在し続ける。姉であるアルベドの魂は、この土壇場でルベドの一部記録を閲覧できるまでに深度を高めた。

 

 

「未来は綺麗ごとだけでは語れません」

 

 

 アルベドは知る。妹が何を思い、何を大切にして『答え』に至ったのか。

 

 

「辿り着いた『答え』の先でも否定は訪れる」

 

 

 アルベドは知る。『鈴木悟』が至るべき到達点を。

 

 

「綺麗なだけの人はいません。光だけでは人は見極められない。でも、進む未来は嫌でも選択を迫ってくる」

 

 

 アルベドは知る。十全に推察し考察し理解してしまったパンドラの選択。

 

 

「サトル様は……嫌らしく歪んでいるもう一人の私を拒絶しないと言い切れますか?」

 

 

 だからこそ、偽ってはならない。自分も相手にも嘘をついてはならない。

 

 

「今はまだ主従の名残りを捨てきれておりません。でも、サトル様が望む対等な関係は、これからなればいい。未来は確定された物語では断じてありえません。幻想し想像した未来は絶対ではないないとサトル様は誰よりも理解されている。理想が拒絶された未来は闇一色。しかし……それが全てではないのです」

 

 

 生きるとは時間。時間とは不偏。時間は嫌でも過ぎていく。

 

 

「10年が遠い過去の思い出になるように、次の出会いは必ず存在し、想像を超える出来事が世界にはあるのです」

 

 

 そう、運命の出会いはアルベドだけではない。今はそうかもしれない。でも世界は広く存外変わりは存在するから。

 

 "そう――――――私じゃなくていい。サトル様を幸せにするのは私じゃなくてもいい"

 

 

 表情に乏しい白骨体でも、どうすべきか。何を言うべきか。迷い混乱していると凄く分かりやすい。

 急いでは駄目。慌ててもいけない。そんな状態で出した言葉など碌なものじゃない。

 時間はないけど、その限られた刹那まで考えてください。

 だから、私は――――――

 

 

「ぁ―――――――……」

 

 

 隙だらけの唇を奪った。サキュバスらしくサトル様は私のモノだと分からせるような激しいキスを。

 だから、だから――――――今はこれで満足。

 

 

「——————愛しています……大好きです」

 

 

 想いはちゃんと伝えた。もう後は振り返らない。アルベドはパンドラが予め用意していた素朴な木の棒を受け取り圧し折った。

 純白のドレスが漆黒のフルプレートアーマーへ瞬時に換装。

 漆黒のカイトシールドを装備。

 世界級(ワールド)アイテム『真なる無|(ギンヌンガガプ)』をバルディッシュへ形状変化させ使い慣れた獲物を血だらけの侵入者へ向けた。

 パンドラ相手に幾度も覚醒させられた肉体は限界を超え満身創痍。level100の超越者だろうと身動き不可能な傷を負いながらそれでもなおクリストファー・ヴァルゼライドは止まらない。

 奥歯に仕込まれた最後の神の血(ポーション)を消費してこのていたらく。

 二十三度の覚醒が肉体を追い詰める。

 このいつ死んでもおかしくない死体人間。常識を捨てろ。この英雄は常に全盛期だと頭がおかしいことをパンドラが伝言(メッセージ)で教えてくる。

 一撃必殺のガンマレイ。

 コキュートスやセバスのような純粋な戦士でもなければ避けることすらかなわない魔法もスキルにも頼らない技量。

 防御に意味はなく、鎧も楯も等しく断罪する死の光。

 

 パンドラから提示された情報に思わず笑ってしまう。

 守護者強さ序列同率三位防御最強。メイン盾。タンクであるアルベドと相性最悪。

 受けるな。防ぐな。守るな。全部避けろって誰かを護ることに特化したステータス構成と戦い方に矛盾している。

 即興の戦い方ではボロが出る。機動性を重視すれば足元をすくわれる。

 ならば、やることは最初っから決まっている。

 自分の性能は創造主の次に知っている。

 

 

「護って見せるわ。それが……守護者統括最後の使命だもの」

 

 

 これが栄光なるナザリックに所属する最後のNPCの生き様。

 アインズ・ウール・ゴウンなどくだらないと断言した女が、結果的にアインズ・ウール・ゴウン(ナザリック地下大墳墓)を護るという皮肉。

 それでも、キスをした唇を噛みしめながら――――――女は笑う。

 

 

「怖い顔ね。怒ってばかりで炎のような人間。ねぇ……貴方って誰かを好きになったことあるかしら?……なさそうね。私は絶賛愛してる人がいるわ。好きで好きで愛しい人。好きな人に告白して、キスもして……こういうの何て言うのかしら……ええ負ける気がしないわ。無敵ってやつね」

 

「……見事だ。本当に素晴らしい称賛すべき行為だ。勝利よりもメイドの矜持を貫き通したホムンクルス。勝利よりも愛する女を優先した竜。勝利よりも大切な誰かを励まし続けたドッペルゲンガー。そして――――――愛のために、勝利よりも愛を選択したサキュバス」

 

 

 悪そのものである悪魔を焼きはらったあの瞬間、ヴァルゼライドは決意した。悲劇を撒き散らす元凶を殺すと。

 種族として相容れぬ異業種。人間をどうとも思わぬ破綻者に人間の国を統治する資格はない。

 だが、それでも。

 

 

「人には人の営みがあるように、異業種もまたそれぞれの営みが存在する。盲点だった。そこには知性と感情が当たり前にあるのだからな。主人に与えられた命令を忠実に実行する悪魔を一目見て、お前たちと対峙して、アインズ・ウール・ゴウンこそが悪であると確信していたが……なるほど、所詮は小悪党か。罪の意識(真面な感性)が自己を苦しめている。なんだそれは?ますます理解できない。何故、気高い志を持つお前たちはアインズ・ウール・ゴウン(そんな小物)に忠誠を誓っている?何故、そいつはこれまでのような行いができた?何故、そんな愚か者を組織のリーダーとして資質も覚悟もない男に仕えている?」

 

 

 組織を外から見た第三者として真っ当な正論。アインズ・ウール・ゴウンは悪の魔王だった。ゲームのように人を殺すし、貴重な新しいアイテムもコレクターとして収集するのが趣味だった。"原初"ユグドラシルの法則に元、世界がプレイヤーにとって優しい世界となっていた時のアインズ・ウール・ゴウン(魔王)クリストファー・ヴァルゼライド(英雄)は知らない。

 

 

「くだらないわ。心底くだらない。今、この瞬間、この刹那においてそれは関係のないことよ。でもね、勝利より矜持?勝利より女?勝利より励まし?勝利より愛?自分が勝つこと前提なんて、傲慢な人間らしいわ。勝利が勝ち負けなんて誰が決めたのよ?いいことニンゲン。ナザリックで貴方ごときが勝利するのは不可能なのよ。だって、皆最後に満足してるもの」

 

 

 ――――――これを勝利と言わずなんという。

 

 

 相性最悪。防御無視。無敵など口にしてもその真実は変わりはしない。

 だが、何度でも言おう――――――勝利条件がそもそも異なるのだ。

 勝ち負けに拘った勝負など女のアルベドには関係ない。

 アルベドはバルディッシュを大きく振りかぶり――――――叩き落した。

 その眼が捉えるのは光輝く稲光の『付け根部』。

 広範囲に及ぶ不可視の対物体破壊と、左手迎撃の一振りが――――――甲高い悲鳴が響いた。

 この結果に英雄の眼が驚きに見開いた。

 武器破壊により粉々に砕け散る一本の刀。

 それと同時に一息でアルベドの間合いに入り込み、右手に握られた刀を振りぬいた。

 

 

「——————なッ!?」

  

「私が貴方に勝てる道理はない。戦闘スタイルも相性最悪。100回戦えば100回負けるんじゃないかしら」

 

 

 防御無視の死の光を――――――『ダメージを鎧に流す防御スキル』:1日3回使える。被ダメージを鎧に流すスキルでアルベドの切り札。『パリー』:攻撃を弾くスキル。——————二つのスキルを同時に発動させるゲームではありえない事象で、ヴァルゼライドの攻撃を完全に流した。

 

 

「そうね普段は負ける。だけど今、この瞬間、この刹那は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 叩き落したバルディッシュを叩き上げ――――――二回目の破壊音が轟いた。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来は綺麗ごとだけでは語れません」

 

「辿り着いた『答え』の先でも否定は訪れる」

 

「綺麗なだけの人はいません。光だけでは人は見極められない。でも、進む未来は嫌でも選択を迫ってくる」

 

「サトル様は……嫌らしく歪んでいるもう一人の私を拒絶しないと言い切れますか?」

 

「今はまだ主従の名残りを捨てきれておりません。でも、サトル様が望む対等な関係は、これからなればいい。未来は確定された物語では断じてありえません。幻想し想像した未来は絶対ではないないとサトル様は誰よりも理解されている。理想が拒絶された未来は闇一色。しかし……それが全てではないのです」

 

「10年が遠い過去の思い出になるように、次の出会いは必ず存在し、想像を超える出来事が世界にはあるのです」

 

 

 そう、運命の出会いはアルベドだけではない。今はそうかもしれない。でも世界は広く存外変わりは存在するから。

 

 "そう――――――私じゃなくていい。サトル様を幸せにするのは私じゃなくてもいい"

 

 

『鈴木悟』の言葉が喉に詰まる。何かを言わなければいけないのに、何を言えばいいのか分からない。ここで何か言わなければきっと後悔する。ヘロヘロさんを引き止める「最後までどうですか?」そんな一言すら言えなかった自分はもう後悔したくない。

 だから――――――だからッ!!

 

 

「ぁ―――――――……」

 

 

 今にも寂しく泣きそうで、決意秘めた笑みを前に――――――『鈴木悟』は目を奪われた。

 苦しいのに、泣きそうなのに、覚悟を決めた彼女は美しくて——————俺もそうなれたらと。

 その間隙を狙われた魔導士(マジックキャスター)に回避の選択などなく、サキュバスらしく大胆で、思い切って、だけど初々しい唇の先端がそっと歯に触れた。

 

 

「——————愛しています……大好きです」

 

 

 無意識に伸びた手は空を切る。結局、『鈴木悟』の五指には何も残らなかった。

 

 

「ある……べど……」

 

 

 放心状態の『鈴木悟』はキスの意味を理解しきれない。受け取った言葉の羅列を理解するには少し時間がかかる。もはや何もできない『鈴木悟』に――――― 

 

 

()()()()()

 

 

 ――――――全てを知る男(アクター)に運命は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




長くなりそうなので、一旦分割します。
亀最新ですが最後までよろしくお願いします!


今のところ被害度外視上位強さランキング

水星ルベド>冥王星ゼファー>>>超えられない壁>>>本気おじさん(ツアー覚醒)>マーレ(泥覚醒)>パンドラ(伝奏覚醒)>ヴァルゼライド閣下>セバス(覚醒)=番外席次(覚醒)>>コキュートス(幾億の刃覚醒)>レベル100(アルベドここ)>>・・・・・・

相性云々で下克上発生します※ガバガバランキング許して


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