オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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未来を願う物語

 最強の剣とは何か。

 究極の一振りとは何をもってしてそう判断するのか。

 役者(アクター)が握る一振りの"ツルギ"。ナザリック最強の男たっち・みーを倒すことに全てを尽くした男が最強に勝つためにこしらえた究極。

 純粋な剣の腕で勝とうと足掻き続けた敗北者。

 たっち・みーがギルドを立ち去るまで研鑽をやめなかった恋する剣客。

 その結晶こそが――――――究極の一振り"ツルギ"。

 剣で勝ちたい。剣で勝ちたい。剣で勝ちたい。そう思い続けた男が最後の最後に作り出した"ツルギ"が果たしてまともなモノなのか。

 

 "俺はアイツに勝ちたい"

 

それは腕前だった。剣で生きていた男が技量で負けたとなれば修練しかない。故に、腕を磨いた。磨いて研磨して修行して鍛えて――――――また負ける。

 何時からだ。強い武器を求めるようになったのは?

 何時からだ。強い剣を作るようになったのは?

 

 その時点から、永遠の敗北者と何故……気づけなかった。

 剣で生きた男が技量で負け、その技量より強い剣で勝つでは本末転倒。

 故に、敗北者。

 

 "敗北者でありたい"常勝の剣豪が渇望する歪んだ願いは、たっち・みーがナザリックを立ち去ったことでその願いは叶えられたのだ。

 

 武人建御雷は、たっち・みーを追うようにナザリックから、ユグドラシルから姿を消した。

 それでよかったのだ。

 難敵を相手に思考し続けるこそが喜びなれば、この"ツルギ"はその願いすら否定してしまう。

 ただ勝つことのみ追求すれば、技量など不要。振れば勝てる。そんな『究極の一振り』こそ――――――"ツルギ"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックに存在する全てのアイテムを管理、使用用途を理解しているパンドラは、世界級アイテムを除き武人建御雷が作り上げた"ツルギ"こそ最強の近接武器と評価する。

 もはや武人建御雷、たっち・みーを超えるヴァルゼライドの技量と太刀筋はlevel100に達してなお磨きがかかる。

 ヴァルゼライドとパンドラはlevel差による優位性はとっくに失われている。

 第十層まで辿り着くナザリックでの激戦。パンドラと相対しながら目前での覚醒劇五回は、足りない経験値を前借した。

 さらにレメゲトンの悪魔像を斬り捨てる切断力。否。あの貫通力は、雷鳴を轟かす二振りの刃に集束する破壊の質量と密度。セバスが装備する白銀の鎧(たっち・みー)を両断した時点でナザリックで斬れない装備はないと証明してしまった。

 

 

("英雄"とは素晴らしく恐ろしい……英雄譚における理不尽の化身。勝利の概念。まるで特殊スキルの如く発揮される『気合と根性』で己の魂を消費して怒涛の上限突破(レベルアップ)。覚醒すればするほど消耗していく。死へと近づく。肉体は崩壊する。——————はぁ……弱体化の条件満たしてませんか?何故さらに強くなるんですか?)

 

 

 パンドラの命を刈り取らんと巧みにフェイントを織り交ぜた一秒にも満たない剣劇演武三十閃を()()()で相殺し、主人公(ラスボス)を観察。考察する。

 過剰な進化をへてレベルアップした"邪竜"。その対価は寿命。その日を本気で生きている彼にとって、今日までの寿命だとしても今日中にやるべきことをやるだけだと本気で割り切っている。

 ならば"英雄"もまた対価を払っている――――――筈だったのだが、前借した経験値はとっくに返済済み。

 消費した筈の経験値をレメゲトンの悪魔像を倒すことで随時補充している。

 levelが上がれば上がるほど、ユグドラシルでは身体機能、技能、スキルなどが強力になっていく。

 その理屈を"英雄"に当て嵌めるとどうなる?

 覚醒による肉体の限界突破。その次に起こるレベルアップは、覚醒した肉体を正常のものへと変える。

 ゲームなら反則行為。そくバンされ、アカウントが凍結されても文句は言えない。

 通常であれば"邪竜"も同条件。しかし"竜王"を取り込んだ状態では、大きすぎる魂が外からの侵入を阻んでしまっていた。

 

 

(それでも、限界を超え昇華させ続ければ無理は祟る。レベルアップは回復するわけではない。魂の消費を全て補えるものでもない。自爆まで追い詰めるのは……私では無理ですね。レゲメント起動は少々その場の勢いでやらかしちゃいましたかね?ですが時間稼ぎには有効的)

 

 

 勝てる勝てない関係なく、パンドラズ・アクターは現状の全力で戦うと決めたのだ。

 その結果が――――――勝利を捨て去った悲劇であったとしても。

 

 

「神と悪魔が闘っている。そして、その戦場こそは人間の心なのだ……神々の世界での格言です。まったくもってその通りだと思いませんかクリストファー殿。あ察し……申し訳ありませんクリストファー殿。貴方には理解……は出来ても共感は無理でしたね!!おお麗しの英雄!!守るべき人間に一切の期待を抱かぬ希望の星よ!!どれだけ対等に接しようと、誰もが英雄と方を並べること敵わない!!皆が『貴方ならば』と納得する!!」

 

 

 一番簡単で、一番明白な思想こそが、一番理解し難い思想である。

 

 

「『正義の味方』――――――否、そんな清く正しい存在ではない。その本質は邪悪を滅ぼす死の光――――――『悪の敵』。女子供一切の容赦なく殺し、対等と認め、尊いと思った相手でさえ障害となるなら殺す」

 

 

 悪と定めたなら、壁となるのが善良の少女であっても殺す。一族もろとも殺し尽くす。邪魔をしないなら法の裁きのもと公平に判決を下す。

 

 

「単純明快な思想――――――悪即斬。一変の淀みなく行われる鏖殺は、万人には理解されない。人類の敵である異業種を皆殺しにするその時まで、決められた歯車は動き続ける。曲がることも、挫折することも、寄り道することも、道楽に休息することもせず、生まれてから終わりまでが英雄譚(想定内)

 

 

 殺ると言ったら殺る。一度心に誓ったのなら絶対に成し遂げる正しさの怪物。

 

 

「……何が言いたい。俺の歪みなど、とうに理解している。俺は――――――」

 

「――――――『破綻者だ』。ええ、えぇえ、ええええぇ!!誰よりも血に染まり!!誰よりも命を救う!!そんな繰り返しの生き方はまるで『我々と一緒(NPC)』ではありませんか!!」

 

 

 創造主の設定により生き方が決まる『NPC』。

 生まれながらにして進むべき未来が決まっている『英雄』。

 パンドラに言わせれば違いなど何一つない。生まれが異なるだけの民衆を満足させる舞台装置。

 

 

「たがらこそ私は……貴方が羨ましい。妬ましいのです。心の底から、そうあれたらなと……」

 

 

 『英雄』は自分の魂で今日という日まで駆け抜けてきた。自分で考え、自分がそうしたいから今日まで成し遂げてきた。

 魂の叫びまで神により型にはめられた『NPC』。

 突然好きに生きろと家を追い出された子供はどう生きればいい?

 

 

「見付けるしかない。探すしかない。決められた安寧を奪われた我々は本当の自分に向かい合うしかないのです!!」

 

 

 正直に活きよう。純粋に渇望しよう。本当の自分を知り成長するのが星辰伝奏者(スフィアリンカー)ならば――――――

 

 

「――――――最後に笑うのは()()だ」

 

 

 心の成長こそが進化ならば。心が成長することがないヴァルゼライドは覚醒するしかない。

 もっとも、その覚醒(デタラメ)こそが厄介。

 

 

「折れず曲がらず屈しない。心に強度があるなら誰も貴方には勝てませんね!!」

 

 

 個人では『英雄』には敵わない。努力も、生き方も、痛みも、怒りも、精神さえも遠く及ばない。

 しかし、繋がりを、継ぐことこそが星辰伝奏者(スフィアリンカー)の本質ならば――――――この星の祝福を受けた者に敗北は訪れない。

 

 

「"ツルギ"よ……歌え」

 

 

 ヴァルゼライドの間合いから一歩外。無造作に風を撫でた()()()が、空気を振動させ衝突し合う空間が甲高い音を奏で数百の斬撃となり躍り狂う。

 一振りが奏でる笑い声。互いを弾き合う軌道はパンドラ並の頭脳がなければ予測不可能。

 細切れを予感させる斬撃の嵐。迫る刃を大多数両断するも、幾つかの刃に逸らされ鍔迫り合う。

絶対の防御力を誇る純白の鎧を破壊した貫通力を防ぐという矛盾。たっち・みーの<ワールドブレイク/次元断切>:ワールドチャンピオンの最終レベルで取得できる超弩級最終特殊技術とは程遠く、第十位階魔法<リアリティスラッシュ/現断>と比べると匙に等しい劣化版。

されど、3本の矢のように幾重にも折り重なれば受け止めることは可能。

 

 

「まず一つ」

 

 

 一振りでヴァルゼライドの剣劇を妨害した刹那。レメゲトンの悪魔像の剛腕が脳天を捉えた。正中線を狙った悪魔の爪をわざと体勢を崩し右に回転するように回避する。

 

 

「——————ッ!!」

 

 

 左耳が鼓膜ごと抉り取られても追撃は止まらない。

 レメゲトンの悪魔像は戦いが始まって一度もヴァルゼライドに息を切らせる暇を与えることなく攻撃を繰り出し続けている。ゴーレムに体力などない。切らす集中力も、つきいる癖もない。パンドラが与えた命令を忠実に実行する殺戮兵器。

 

 

「もう一つ」

 

 

 ヴァルゼライドの死角となるレメゲトンの悪魔像の背後から一振り。互いを互いに弾き、反発し合う斬撃は金属の笑い声を響かせレメゲトンの悪魔像の隙間を縫うようにバターナイフの刃先ほどの小さな斬撃で右手の小指を切断した。

 

 

「……一撃で殺す必要はないのです。必殺技で決めるなど御法度。目に見えてピンチな、必殺からの覚醒劇などさせませんよ。激的な変化こそ注意すべし。私は削る。体力を、肉体を、精神を、魂を……限界を迎えるのは無理でも、限界まで搾り取ってあげますよ」

 

 

 それこそ全力を望めず、本気で戦うしかないパンドラの限界。

 運命がナザリックに傾いているのなら、もしかしたら勝てるかもしれない。しかしてこれは英雄譚。英雄をどうするかは魔王の役目。

 パンドラは常に役割を演じている。英雄譚ならば魔王の引き立て役を、逆襲劇ならば観衆がスッキリする死に様を。それが彼の生きざま。『ユグドラシル』から解放されてもその生き方は変わらない。

 

 

(運が良かったのでしょう……創造主が居てくださる。ただそれだけで結果は違った)

 

 

 育ての親がいてくれる。それだけで子供は勇気が湧いてくる。道を間違えずにすむ。

 

 

(そうあれと創造された私達にとって親とは絶対。私は本当に……運がいい)

 

 

 誕生した瞬間から『完成された生命』。与えられた設定と役割(ロール)を忠実に繰り返すノンプレイヤーキャラクター。産まれた瞬間から完成しているから、愛情を知らない。私達は過程を踏まない。結果で生まれ道具として認識される存在。人間が当たり前に触れる愛情や成長もないままただそこにいるNPCは、愛に餓えている。

 

 

(愛を欲するが故に、忠義を失ったNPCは穴を埋めるために欲望に忠実となる。人間が当たり前に歩む成長を知らないから暴走する)

 

 

 NPCとは悲しい存在だ。そこに現実が介入すれば与えられた設定と役割(ロール)を越えた何かになるしかない。

 だからこそパンドラは、親を愛するが故に全力で助ける。自分一人で納得するのは駄目だ。絶望したモモンガもまた成長させなければならない。

 

――――――それこそが、神に踊らされ現実を逃避していた我々の進むべき答え。

 

 

 "ツルギ"の一振りはヴァルゼライドの肉体を切り刻んでいく。着々と確実に追い詰められていく『英雄』。ナザリックNPC全下僕の敗北の経験を星辰伝奏者(スフィアリンカー)として知っているパンドラ。

 仕掛けてくると第六感が警戒を鳴らす。

 その警告を打ち消すために振るわれた一振りに合わせて、血に濡れた『英雄』は斬撃が幾百と発生する間合いに踏み込んだ。

 

 

「――――――そこだッ!!」

 

「なんですと!?」

 

 

 斬撃がそれぞれ弾き合う前にまとめて軌道をそらす力業。

 一人分の隙間を抉じ開け、股から顎まで斬り上げた。

 軍帽子の鍔が裂かれ衝撃で吹き飛ばされる。敗北者(セバス)の経験がとっさにバックステップをしなければ真っ二つにされていた。

 

 

「……死にたいのですか?」

 

 

 緻密に計算された斬撃を台無しにする一手。しかしてそれは自殺と何ら変わらない。荒れ狂う斬撃を制御している発射口を歪ませるその行為は、斬撃が何処にどこに飛ぶか分からない破滅性を含んでいる。

 事実。パンドラは運よく無傷だが、ヴァルゼライドは大小様々な切り傷が血を滲ませている。

 次は自分かもしれない。はたまた両方かもしれない。そんな破滅的なギャンブルをしなければ打開策はないと認めたのだ。

 何より問題は。

 

 

「その武器の対処法を思い付きはしたが、シミュレーションでは限界がある。ならば、この剣で実証するしかない――――――次は上手くやる。貴様ほどではないが斬撃の軌道を読み切ってやるとも」

 

 

 斬撃が音を発するこの武器は、避ける際は音で判断するしかない。片耳が潰されたヴァルゼライドは戦いながら正常な耳を慣らしていた。

 

 

(五振り……いえ二振りで完全に対処される。守りに徹すれば時間は稼げるが削れない)

 

 

 ナザリック一手札が多いパンドラ。その一つ一つが攻略されていくことに楽しさを覚えてしまう。

 時間稼ぎとしか考えていなかった。創造主を救うのにレメゲトンの悪魔像と"究極の一振り"ツルギがあれば事足りる。だが、しかし――――――

 

 

「なるほど……百の知識より一つの実体験。ナザリックの誰にでもなり、その情報を引き出す『千変万化』は経験の再現はされても感情までは再現されない。貴方と戦った者たちは、神のルール関係なく自分をさらけ出した。強い弱いなどなく太陽を前に焼かれないために自らを輝かせた」

 

 

 一般メイドを突き動かした経緯は知っている。それを促した感情は推察できる。ただの人間ツアレの存在も大きかった。NPCにとって主に死ねといわれれば死ぬのが当たり前。しかし、あの日あの瞬間、彼女たちは矜持に命を懸けた。それを神のルール(お人形)などと言わせない。

 

 

「全身全霊全力をもって……お相手は無理ですが、本気の全力で戦うことといたしましょう」

 

 

 課金アイテムを使用し、完全装備タブラ・スマラグディナへ変態。その両手には第十位階魔法の巻物(スクロール)8本を指の間に挟み同時に使用する。

 

 

「至高の御方四十一人と守護者全員がお相手致しましょう!!」

 

 

 一人一人を攻略しようと無意味。瞬間で変態する戦術は一撃毎別の誰かに変態する変則的な攻撃が可能。

 

 

「上手く扱えないなどと変な期待は命取り。経験と戦術は本人に聞いて知ってますから」

 

 

 ドッペルゲンガーと星辰伝奏者(スフィアリンカー)の相性は抜群。

 ルベドを除けば今後星辰伝奏者(スフィアリンカー)をここまで使いこなす者は現れない。

 パンドラの癖を読みきろうとすればするほどどつぼにはまっていく。

 変態した対象を真似ているのではない。全員再現(トレース)した個人なのだ。

 

 

「『来い神話の英雄。王道過ぎて糞つまらん物語を面白おかしくしてやる』」

 

 

 そう、この男にとってギャップ萌えこそ至高なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王座にて愛しの男を優しく抱き締める女。

 女もまた現状を深く理解していない。

 誰が生き残り、死んでいるのか。

 誰が殺し、逃げたのか。

 最下層最深部で絶望した男の傍へ寄り添い続けている女は、ナザリックが終わるのだと静かに予感する。

 女に頭を預け骨しかない胸を上下させ眠りについた男。

 楽しい夢を見ているのか、寝息に僅かばかしの笑い声が漏れる。

 喜び怒り哀しみ楽しみの感情を含んだ声音は、夢の中で最高にはっちゃけていると推察される。

 慈愛に満ちた目を女は男に向ける一方。四十人以上の激しい戦闘を思わせる破壊音が防音にたけた分厚い扉を意に介さず轟響く事態に、覚悟を決める。

 誰かが戦っている。扉を隔てた先で侵入者と拒む者が衝突している。

 ナザリック地下大墳墓が主アインズ・ウール・ゴウンの首級を取りにここまで血を流した侵入者はどれほどの同胞を斬り捨てたのか。

 男はもう戦う気力も覚悟も目標も失っている。魔王は消えたのだ。異形の怪物たちの主は死んだのだ。

 そんな男の首級を挙げんがためにここまで来た。

 

 それを拒む者は何をしている?

 自分を含め、NPCは忠誠心を無くしているはずなのに何のために戦っている?

 分からない。

 異変後、王座から一歩も動いていない女には外の情報は何も入ってこない。

 それでも、何となく理解はできるのだ。

 

 

「貴方もまた……愛しているのね」

 

 

 その愛は自分とは少し異なる愛だけど。

 同じ男を想う愛は本物だから。

 

 

「…………アル、ベド?」

 

「はい。アルベドはここにいます」

 

 

 まだ意識がハッキリとせず寝ぼけているのか、アルベドの存在を確かめるかのように指先を伸ばす。

 その手を甘える子猫のように頬に添え安心させるために指を絡める。

 

 

「……暖かいな」

 

「はい」

 

「……夢を、見たんだ」

 

「はい」

 

「たいせつな……とても大切な人たちの夢を」

 

「……はい」

 

「俺って馬鹿だよなぁ……やること全部空回り。世界征服とか現実(リアル)じゃ無理っだって……」

 

 

 ゲームならやれた。大虐殺だろうと世界征服だろうと永久平和だろうとやれた。

 でもそれはゲームだから。痛みが伴う現実(リアル)で、小卒のゲームオタクが思い付きでやれるほど現実(リアル)は優しくない。

 責任や重圧はいらない。欲しくない。

 ゲームの嫉妬は受け流せても、現実(リアル)の憎悪や怒り――――――死は受け入れられない。

 ゲームじゃどれだけ偉そうで意地っ張りで勇敢に戦おうと、現実(リアル)じゃ無愛想で愛想笑いを浮かべる陰気な奴。

 

 それがアインズ・ウール・ゴウン。

 ただのアバターモモンガ。

 人間『鈴木悟』。

 

 だからこそ。

 

 

「俺は――――――ッ」

 

 

 男はこの異世界で初めてNPCの前で本音を叫んだ。

 

 

「――――――屑だッ……負け犬だッ!!俺にはユグドラシルしかなかった。ゲームに命かけてるんだよォ!!悪いか!?俺は全然これぽっちも立派で賢くない!!お前らいちいち重たいんだよ!!もっとフレンドリーに接しろよ!!配下なんて要らねーんだよ!!俺がァッッッ本当に欲しかったのは、ッッ仲間だよ!!対等で、ふざけあって、喧嘩してもジョーダンで流せるそんな友達が欲しかっただけなんだよッッッ!!」

 

「……」

 

 

 女は男の魂の叫びを黙って耳を傾ける。

 

 

「……失望しただろ。これがお前たちが慕っていた至高の御方の嘘偽りない本音。お前たちが見下す薄汚い人間でしかないんだよ俺は」

 

 

 純白の指を眺め、そもそもの前提が間違っていると語る。

 

 

「俺は……人間だ。ゲームのアバターなんだ強くて当たり前だろ……理想の自分なんだからな!!弱くてちっぽけで未来もない、そんな現実(リアル)が嫌でユグドラシルを始めたんだ!!――――――現実(リアル)は真っ暗だ。生きるために働いて働いて働いて……上司には逆らえない。同僚も俺なんかより優秀ですごい奴ばかり。……妄想くらいするだろ……ゲームならって……現実逃避?するだろそれぐらい。なんでゲームにまでストイック待ちこもうとするかな。…………なぁアルベド」

 

「……はい」

 

「お前はアバターモモンガを愛しているだけで、『鈴木悟』はどうでもいいんだろ?所詮上っ面の仮面(ペルソナ)――――――お前の愛は『鈴木悟(オレ)』には関係ないッ」

 

「あります!!()()()様は勘違いをしてます!!」

 

「——————え」

 

 

 予想外の返しに、間抜けな反応をする『鈴木悟』にアルベドはさらにまくし立てる。

 

 

「いいですか()()()様。愛とは万能ではありません。愛は愛でも色々な形があります。それこそ十人十色の愛が世界に溢れております。愛とは浅く、そして深いもの。ええ確かに私もほかの有象無象の生娘と同じく最初はモモンガ様の見た目、功績、立場——————見てくれのいいプロフィールを愛していました。ですが……それの何がいけないのですか?なぜそんなにもご自分を否定するのですか?それもまた()()()様の一面であるのに」

 

「——————いや……でもそれは設定でぇ……」

 

「自分を設定しないで生きている者がこの世界にいますか?ユグドラシルでも、それこそ現実(リアル)でも、知らないうちに自分を自分で設定していませんか?」

 

 

 生きていくということは、何かの型にはまるということ。

 本当の自分ではないモモンガ(アクター)を愛していたアルベド。されど愛とは浅く、そして深い。

 初めから深い愛ではない。表面を知り、内側を知って、裏側も知って愛は深くなる。

 

 

「最初は何も知らない。大衆向けの仮面(ペルソナ)から好きになっても、語り合った時間が愛を確かなものにするのです」

 

 

 表面のモモンガを知った。内側の『鈴木悟』も知った。なら裏側を知るには自分も知ってもらう確かな信頼が必要である。

 

 

「モモンガ様はサトル様。サトル様はモモンガ様。私はより深く貴方を知ることが出来ました。否定なさらないでください。どんなにかっこ悪くても、本音を曝け出すのは確かな成長の過程です。そのうえで、私はサトル様にわたくしのことも知ってほしいのです」

 

「アルベドを……知る?」

 

 

 そんなのタブラさんの次には知っている。設定を飛ばし飛ばしだが読んだんだ。

 家庭的な、男子が考えた理想な嫁。だけどビッチである。

 ナザリック全NPCの頂点であり、七人いる階層守護者の守護者総括。

 つい出来心でモモンガ愛していると書いてしまったタブラさんの三姉妹の次女。

 姉は見た目と演出が怖く、妹はいい子で強い。

 異世界に来てからは本当に色々助けられた女性で――――――あれ?

 

 

「…………なんだ……俺こそ表面しか見てこなかったのか」

 

 

 知ったつもりでいた。それが過ちと気づけたから。

 

 

「教えてほしいアルベド。本当のお前を」

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来に進まなければ愛は深まらない。

 互いに歩み、語り合った時間が確かな形となる。

 女は語る――――――明日にこそ光があると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





sekiro発売日買って未だに一週目もクリアしていない下手糞です。
最初に倒したボスがババアなのが密かに自慢です。自慢できるよね?
サルの首なし第二形態でつんでます。勝てない。否、勝つ(アドバイスとあります?)


アニメで戦う司書は名作だと思っている。

そんなことよりパンテオンのグリーンウッド解散のご報告が俺の心を抉った。
今の俺に必要なモノ↓

 (゚∀。)y─┛~~

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