罪を犯した。一人の人間が背負うには重すぎる大罪。
押し寄せる現実を前に、現実逃避。そんなその場しのぎの言い訳は、痛みと苦痛をもって自分を叩き付ける。
殺してほしい。死にたい。消えたい。
一人にしてくれ。構うな。俺は俺だけでいい。
でも――――――それでも、助けてほしい。
異世界で俺は何をした?
心があっても、そこには意思が存在しない。
命があっても、そこには使命が存在しない。
ならば、その身は死人に同じだ。
人であれ、化け物であれ、殺人鬼であれ、そうなるに相応しい中身というものがある。そう在るべき魂が存在する。
しかし、異世界に
伽藍堂の中身。
記憶以外何もない死体と同義の存在証明。
彼にあるのはただ。この身に巣くう、どこまでも空虚な深淵の穴だけだった。
この新たな世界に転移してしまったあの瞬間から。その胸には塞ぎようのない深い深い闇のような穴が、ポッカリと開いたままになっている。
深い深い奈落の穴。暗い暗い暗黒の穴。
故に、
自分は、死人のような生者なのか。
それとも、生者のような死体なのか。
自分の意思に反して不安な考えが浮かんでくる『強迫観念』。その考えを打ち消そうとして同じ自問自答を繰り返す『強迫行為』。
自殺する勇気もない。
自分から行動する気概もない。
穴に堕ち続ける。精神が死ぬ――――――そんな瀬戸際に彼は、光に包まれた。
それは温もり。
それは包容。
それは無償の愛。
名前も知らない誰かに『鈴木悟』は安堵し、安心してその優しさに身を委ね――――――眠りについた。
存在しない瞼を閉ざした。疲弊した精神が沈んでいく。
「——————ンガ……ん」
眠たくて眠たくて。微睡みの中、
「――――――モモ……さん」
静かにしてくれ。俺は寝たいんだ。邪魔をしないでくれ。
「――――――モモンガさん」
誰だ?誰が呼んでいる?俺は。私は。僕は――――――
「モモンガさん!!起きてください!!」
「ッッッはぁ!?……え、え~と……どちら様で?」
浮上した意識が誰がを認識する。輪郭だけは人型のそれを遠い昔の写真の思い出に浸るように見つめる。ここ最近毎日会っている筈なのに懐かしさが込み上げる。
「まだ寝惚けてます?大事な円卓会議中にまとめ役が寝落ちしたら誰がこのカオスを纏めるんですか!!?」
「今日のお前が言うなスレはここですか?」
「お前が言うな。分かってて言ってるだろ駄弟。ぷにっと萌えさんも疲れてるんだからモモンガさんそのまま寝かしとけばいいのに」
「まったく大事な会議も正義馬鹿がとやかく口を挟むから退屈すぎてギルド長が寝てしまったぞ」
「ええまったく、どっかの悪党馬鹿がしつこく絡んでくるから退屈すぎてモモンガさんも欠伸を我慢できず寝落ちしてしまうのも無理はないですよ」
「「…………………………………」」
ガタッ!!
「正義正義って現実を直視しろよ現実逃避ですか?こんな腐った世の中"白"なんか居ないんですよ。真実は黒と灰色。所詮は理想。自己満足の偽善者なんですよ貴方は」
「偽善けっこう。ええ、大いにけっこう。口先じゃいくらでも言えるんですよね。大切なのは何をするかではなく何をしたか。誰かを助けようとする行いは紛れもない真実であり"白"。だいたい悪悪五月蝿いんですよ。悪いことする俺カッケ~ってやつですか?」
「「…………………………………」」
ガシッ!!
「たっちさんこの手はなんです?正義が暴力に訴えていいんですか?ああそうでしたそうでした。都合の悪い存在を黙らせるのが正義でしたね」
「ウルベルトさんこそこの手はなんです?口じゃ悪とか言いながら実は結構恥ずかしがってるんですか?そうなると可愛いところもありますね。タブラさん的に言えば『これぞギャップ萌え』ってやつですか?ハハハお可愛いことで」
「おい誰かこの二人止めて!?偵察任務を完了した華麗なる忍者の報告も、隣にいるこの馬鹿のせいで誰も聞こえちゃいないよ!!」
「え、結局成功したんですか?ザ・ニンジャ!のくせに『ヒャッハー!もう我慢できねー!』って敵に一人で突っ込んでく忍ばない弐式炎雷さんが?」
「いやいやそんなことしてないですよね!?隠密と攻撃特化しすぎて防御力がゴミカスビルドですよ!なんで成功したのに残念がるんですかエンシェント・ワンさん」
「え~だって事前情報あると俺そんな燃えないもーん。初見攻略こそ醍醐味でしょ」
「るし★ふぁーに言わせればそれ、軍師泣かしですからね?」
「るし★ふぁーさんがまともなこと言ってる……あんちゃんこれ明日失敗フラグ立ってない?」
「やまちゃん。事実でもそんなこと言わないの。言葉には力があるんだから」
「黙って聞いてればよーおいおいおいおいたっちさんよー。正義とはなにか?メイド服がジャスティスに決まってるだお!!」
「うわぁ……ホワイトブリムさんあの二人の間になんの躊躇もなく……憧れるな……あれだけ強く上司に物申せたら……」
「ヤバイよ!!ヘロヘロさん本格的に精神とか心とかにキてるよ!!製作した精神系アイテムもリアルじゃゴミだし……ベルリバーさんなにかアドバイスとかあります?」
「あまのまひとつさん……私、最近夢を見るんです。世界を牛耳る巨大複合企業の不味い情報を入手してしまって口封じのため殺害されるって夢がここ最近ずっと繰り返されてるんです。夢なのは解ってるんです。でも……もしかしたらこっちが夢なんじゃないかって最近思うようになってきて……………あ、気休めでいいんでアイテムもらっていいですか?」
「マジで誰かこの二人助けて!!」
「呼ばれて参上ブルー・プラネット!悪夢とストレスは心の病気です。自然を見て、体感して、自分もまた大いなる母なる大地の一つだと実感するのです」
「ブルー・プラネットさんそれ危ない宗教じゃないよね!?」
「自然もありですけどやっぱり男たるもの女体の神秘が一番ですよ。後で胸の無い子秘蔵のデータ送ります」
「胸の無い子……ホモですか?フラットフットさん」
「ペロロンチーノ……屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」
「男の子かぁ……ギャップ萌えの王道だけどリソースが……そっかルベドをOTOKOにすればいいのか」
「何が『そっかルベドをOTOKOにすればいいのか』だよ。至高のギャップ萌えはツンデレ。なお最初は敵対していればなお可だよタブラさん」
「死獣天朱雀さん……捻り無さすぎ」
「それじゃ音改さんのギャップ萌えとは?」
「生徒会長系ポンコツっ子」
「いや、それ俺より捻られてませんよ」
「ロリ巨乳なんだよな……」
「内面性の話だよ。ロリコンは黙ってろ」
「否、否だ。死獣教授よ……汝は間違っている。見た目は幼いが、巨乳。巨乳なのに、幼い。巨乳とは母性の象徴なれば、その本質はバブミ。すべてを包み込むお姉さん属性お母さん属性。さらには愛しく愛でたい妹属性も完備。ロリなのに巨乳という矛盾は、『ロリコン』の一言で片付けるのは間違っている!!!」
「ア,ハイ」
「ぬーぼーさん変なスイッチ入ってない?」
「てか一向に話が進まんな。ギルド長そろそろ眠気とれましたか?やっぱこの四十人のメンツまとめるのモモンガさんじゃないと無理だわ。それとぶくぶく茶釜さん。今日こそ僕とお付き合いを」
「ばりあぶる・たりすまんさんはっ倒すぞ☆(ロリボイス」
「辛辣ッ!!でもそこがいいッ!!」
「おいぶくちゃんを困らせるな」
「ぶくちゃんやめてぇ……」
当たり前の日常。当たり前の光景。いつもと変わらない悪ふざけに悪乗り。
ギルド:アインズ・ウール・ゴウン構成員全四十一人皆が揃う全盛期。
「モモンガさん聞いてます?今回はアースガルズ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニダヴェリール、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム、ムスペルヘイム。九つの世界全てを舞台に繰り広げられるイベントホールなんですからしっかり作戦を練らないと」
「分かってる情報少ないもんね。誰か噂でもなんでもいいから知らない?」
「だから!!ニンジャである俺が調べて来たって言ってんじゃん!!聞いてよ !!お願いします!!」
「えーでは私ぷにっと萌えが記録係を務めます。ギルド長、進行をお願いします。おら、さっさと報告しろ」
「ハハハすいません。それでは弐式炎雷さんお願いします」
「果たしてこれは俺が悪いのか……えーと俺が調べた限りだと、八つの世界にそれぞれダンジョン。えースワスチカなるものがが出現し、その全てを攻略すると最後の世界にワールドモンスターが出現するらしいです。今回のイベントボスは聖槍十三騎士団。首領、副首領、三騎士は特殊とのことですが詳しい情報はなし。今のところ五つのスワスチカが確認されていることから、この五つをクリアすると三騎士のスワスチカが解放されると思われます。以上です」
「はい有難うございます弐式炎雷さん。えっと次は……」
「んっ俺だな」
「ではウィッシュⅢさんお願いします」
「はい。それでは今回突如始まったイベント『Dies irae』意味は怒りの日。まあこれだけじゃさっぱり。だけど、今出現しているスワスチカのうち四つは難易度は同じなのに教会だけ糞高難易度らしいです。ここに攻略するためのヒントやらが有るんじゃないかと推察します」
「怒りの日……確か終末思想の一つで、キリスト教終末論において世界の終末、キリストが過去を含めた全ての人間を地上に復活させ、その生前の行いを審判し、神の主催する天国に住まわせ永遠の命を授ける者と地獄で永劫の責め苦を加えられる者に選別する教義思想。もしかしたらラスボスは、一つの世界丸々戦闘エリアによる大規模討伐になるかもしれませんね」
「流石博識ですねタブラさん」
「それじゃ確実準備して初見で当たるしかないってことですよね!?」
「そうですけど……テンション高くないですかエンシェント・ワンさん」
「でもエンシェント・ワンさんの言う通り行くしかないですよ。共通イベントで一つ目のスワスチカ『公園』は強制的に最初にクリアしないといけないらしいんでサクッといきますか」
「そうですね。それでは円卓会議を終了します。10分後にギルド前集合でお願いします」
『はーい』
スワスチカ『公園』をクリアするために、ガチのガチで準備を済ませたナザリック一行は、リスポーン地点にて復活していた。
「——————え?強くない?今回のボス十三体皆あのレベルなの?」
「いやーまさかの全滅ですか。負けイベですよこれ。だって銀髪グラサンとロリッ子魔女、1ダメもくらわないとかそれしか考えらんねー」
「フラグ未達成?スワスチカ内を隈なく探索する必要があるな」
「あ、『博物館』行けるようになってますよ。やっぱり負けイベだったんだ」
「マジかよ負けイベでレベルダウンとか運営糞だな」
「負けイベって意味理解してるのか?」
「でもスワスチカではプレイヤーどうしの戦闘行為禁止は有り難いですね。イベントに集中できる」
「それな。今回のイベント明らかに協力推奨してる」
「よし、level上げて『博物館』行くか」
スワスチカ『博物館』を訪れたナザリック一行は、フラグとアイテムをすべて回収し、ギロチンが鎮座するステージで第一のボス『戦乙女の残留』の撃破に成功!クリアボーナス『ギロチン』は絶対に装備しようね☆
「エイヴィヒカイトってなんだよ!必須って知らねーよ!」
「装備枠一つ潰してとか中々きついですね」
それからもイベントを順調に進めていったナザリック一行。四十一人もれなく体からギロチンを生やしていた。
装備アイテム『ギロチン』:<エイヴィヒカイト、摩訶不思議な加護を持つ敵に通常通りダメージを与える。※装備するとイベント終了まで外せないから、装備する時は何処にするかよく考えてから決めようね!イベントが進むにつれて能力が増えてくよ!>
そんな必須だけど邪魔なアイテムに愛着が湧く輩が増えていた。何故って?イベント進めると女の子の変身するからだよ。あぁ男って単純。
「装着箇所に抱き付く形になるとか運営神」
「何故俺は下半身に装備しなかったんだ!?」
「胴体に装備しとけば後ろから抱き締める形態になったそうですね」
「腕でもいいじゃん。俺足だよ?夫の足にしがみつく離婚寸前の夫婦みたいな構図だよ?」
「いや、邪魔でしょ。巨乳に価値はない」
「はぁ?」
「あぁ?」
「えぇ?」
「モモンガさん……ボスケテッ」
「フラットフットさん。とりあえず謝っときましょ」
「そういえばモモンガさん頭部に装備してましたね。最初はモヒカンみたいで馬鹿ウケでしたが……たわわが頭にのっている構図はなんなんだ!?」
「私が聞きたいですよ!?出歩くだけで恥ずかしいんですからね!!」
「お姉ちゃん……どうしよ……俺、なんか目覚めそう」
「死ねば」
「ぶくちゃん素がもろ出てるよ」
「ぶくちゃんやめてよぉ……」
「いやでもまさか敵対ギルドと協力してスワスチカ五つを攻略するとは」
「今後ない経験ですな」
「味方になればこれほど頼もしいものはないよね」
「そんなことよりあの際どい巫女服着た貧乳ちゃんを作った運営(*^ー゚)b グッジョブ!!」
「ここにまた運営崇拝者が生まれたか……」
そして、いざ挑んだ大隊長戦――――――
「三騎士つえーーーー!!!!」
「他のギルドと連携とらないと勝てない。各個撃破しないと合流するとかクソゲー」
「ねえどうしよ。黒は一撃だし、白は攻撃当たんないし、赤は近づく前に蒸発だし………………どうクリアすればええんだ」
「私に策があります」
この時点でモモンガは確信した。ぷにっと萌えの策略がまとものはずがないと――――――
「かっちゃったよ」
「勝てましたね」
「まさか囮からの超位階魔法の三段撃ちはマジ痺れましたよ」
「3000人のプレイヤーが三騎士相手に突貫を仕掛ける様は爽快でしたね」
「その代わり7つのギルド計2514人死んだけどな」
「いやーまさかこんな結果になるとは(確信犯」
なんやかんやしつつ、イベントは最終局面へ!!
<私は総てを愛している>
ビースト降臨:黄金の毛並み殿
,∧,,∧\
彡+ω・ミ 》/^l
,-‐=〆´/ノヘヾ\
ヽ、フ川ソ・ ω ・ヾゞ
彡ミレリ==[==]=l=リミ
州圭トヽ)\〆ヘノつ..\,ハ_,ハ,
ソ圭圭━┿┷━圭 州・ω・ミ
圭圭/
∪"゙'''"゙∪´. '-u'-uゝ
《shake:1》
《くふふふふふ………ははははははははは。あぁ我が女神よ。愛しのマルグリットよ。そんな増えたら……ぁあ、いぃ、我慢がこんなにも苦しいとは……こんなにもたくさんの花に囲まれるとは夢のようではないか。ああ……あぁぁあ……ああッッッ幸せ者だ》
■■■■降臨:水銀のメガモリウス
「……………………………(考えるのをやめた)」
「……………………………(どないしろというんや)」
「……………………………(やだ、抱かれたい)」
「……………………………(運営紙かよ。あ、神様でした)」
想像して欲しい。ぷるぷる震える黄金に輝く可愛らしい獣(けもの)の周りを縦横無尽に駆け回る変態(複数)を――――――
「ギロチンってこのためだったんですね。イベント中、倒した敵の数に応じてレベルの数値が上昇。ボスキャラを倒したプレイヤーはアホみたいに跳ね上がってるらしいです」
「あぁ道理で、ログインしたら1000超えててバグったと焦りましたよ」
「たっちさん三騎士の一人倒してますもんね」
「平均的にlevel150。高くて200……武人建御雷さんボス倒してないのにlevel500超えってなんなの。今回強い敵多かったけどそんな数いなかったよね?」
「……いつの間にか」
言えない。言えるわけがない。たっち・みーに対抗するために一人頑張ってたなんて言えるはずがない。ツンデレ乙。
そして始まった一匹と変態のワールドモンスター攻略戦。
ユグドラシルプレイヤーの八割強が参加したこの討伐イベントは波乱を極めた。
<みょうなるしらべ!!>
グシャッ!!ドゴンッ!!
<みょうなるしらべ!!>
ドグシャッ!!バシャッ!!
「やべーよ!!なにがやばいってマジやばいんだよ!?」
「可愛い見た目のくせに声だけはかっこいいんだよ!!」
「モフモフのくせにパワーと耐久性に全振りかよ!!」
「しかもランダムで今まで倒したボスの能力を使用してくるという鬼畜使用!!」
「規模もパワーアップしてるしな!!」
「もふもふしたい」
「それよかみょうみょうって、確かたえ――――――グホッ!!?」
黄金のけものフレンズちゃんは『筋力EX』。その他諸々のステータスも規格外。
さらにその愛らしい肉球を包まれた『けもの殿』の爪からは、『
あと悪口には敏感(強い)
《あぁ^~心が潤う満たされる。女神の花園こそが我楽園。この至福のひと時こそが我未知。ククククク……フハハハハハハハ……ハァーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!さぁさぁさぁさぁさぁさぁ私をハグハグっとしてくれ!!!!》
「……………………………(白目)」
「……………………………(絶句)」
「……………………………(∴)」
「……………………………(うざい)」
「……ねえ今おかしな奴いなかった?」
「ん?いやとくにいないぞ。あ、しいて言えば邪神ぽいのかな」
「なんだ。ならいいや」
「「………………………ん?」」
そうして、超位階魔法クラスをバカすか撃つ変態の群れと毛並みが最高のイケボを討伐したナザリック一行。ユグドラシルユーザー八割強参加でどうクリアしたか正直曖昧という適正レベル間違えてるだろうと運営に抗議のメールを送るもの多数。
だけどなんやかんや楽しかったとその後は三日間お祭り騒ぎが続いた。
ナザリックもまたテンション馬鹿高のままイベントクリア記念——————オフ会を開いた。
「イエーーーーーーイ!!お疲れ様です!!かんぱぁあああああい!!」
「るし★ふぁーさんステイステイ。最初はギルド長のあいさつでしょ」
「えーそれでは改めまして私モモンガが乾杯をさせていただきます。皆さんグラスは行き届いてますね?それでは、ディエスイレを無事クリアしたナザリックに乾杯!!」
『かんぱーい!!』
そこからは皆好き勝手に食べて飲んで盛り上がって――――――馬鹿やって。
楽しかった。心のそこから楽しんでいた。
こんな現実でも俺達は自由を求めて、夢を見て、幼い頃から変わらない無垢なまま『ユグドラシル』を全力で遊んでいた。
「どうしたんですかモモンガさん?」
「……たっちさん」
彼こそが『鈴木悟』の原点。
憧れであり、希望。
「たっちさん……自分はこんなにも幸せでいいんでしょうか」
罪を背負った。人の身では耐えられない大罪に身を染めた。絶対に抗えない絶望こそが自分に相応しい。そうあるべきなのに――――――
「――――――」
「えっと、たっちさん?」
おかしな質問をしたことを後悔し始める。こんな祝いの席で言うことじゃないだろ。
「あーすいません。やっぱりなんでも……」
「ブフッ!!」
ん?
「アハハ……あーすいません。本当にすいません。モモンガさんがあまりにも当然な悩みを行きなり言うから。馬鹿にしたわけじゃないですからね?」
「……いえ、怒ってないです」
「でもちょっとムスってしてますよね」
自分の嘘をいつも簡単に見破るこの人には本当に敵わないと、笑みがこぼれる。
「はい。実はちょー不機嫌です。ぷんぷんです」
「おっと珍しい返しを貰いました。えっとそれで、自分はこんなにも幸せでいいのかでしたよね?」
「………」
「何故そんなことで悩んでるかは聞きません。ですが、そうですね……モモンガさん」
「はい」
「楽しんでますか?」
「……はい?」
「いえ、ですから楽しんでますか?すごく大事ですよこれ」
「えっと……はい。楽しんでます」
「ならそれでいいんです」
「つまり……どういうことです?」
「幸せになっていいのか……いいんですよモモンガさん。今も、ユグドラシルのときも、楽しんでるってことは幸せだってことです。
「前に」
「そうです。前にです」
「……できますかね」
「簡単ですよ!!楽しめばいいんですから!!そうですね……楽しみかたが分からなくなったら過去を振り返ったらいいんです。過去は決して嘘をつかない。つけない。自分が何に喜怒哀楽していたのか……それで思い出せばいいんです」
「ぁ――――――」
『鈴木悟』の胸に正義の味方の言葉がストンと落ちた。
「ちょッモモンガさん涙出てますよ涙!!」
「あれ――――――本当だ。なんでッだろ」
「あーたっちさんがモモンガさん泣かしてるぅ!!いーけないんだいけないんだー」
「そんなはず……ほんとうだァー!!皆ァ!!たっちさんがモモンガさん泣かしたぞ!!」
『な、なんだって~~~~~~ッ!!』
「えっと……警察官が一般人を泣かしたと……動画も拡散希望」
「う、ウルベルト~~~~~ッ!!」
「事実だろばぁーか!!」
「とか言いながら、ギルド内呟きなんで僕たち以外誰も見ませんよ」
「ネタバレはやい!?」
「獣王メコン川……貴様ァッ!!」
「なんやかんやウルベルトさんも優しいんすよね~」
「クッ!そんなに言うなら本当に世界へ拡散してやる!!辞職しろたっち・みー!!」
「マジでやめてくださいウルベルトさん!!洒落にならないですから!?」
「うるさい!!俺はお前に優しくしたと勘違いされるのだけは我慢ならんのだァ!!」
「はい没取~動画消しとこうね」
「あ~~~ッ餡ころもっちもち人の端末を勝手に操作するな!!」
「今のはウルベルトさんが悪いです。制裁です」
「そんなことよりメイド服について語ろうぜ!!」
「ロリと貧乳はジャンルとしては別だと俺は思うわけで」
「あのゲーム面白いですよね。自分が夢の世界の魔王になって、勇者に試練を与えるっていう」
「糞上司があああああああああああああああ死にさらせええええええええええええええッ!!」
「ヘロヘロが壊れた!?」
「飲ませすぎなんだよ……うぷッ」
「救護班!!メーデー、メーデー!!」
「はいはい袋もらってきたよ」
\ワイワイガヤガヤ/
耳を澄ませば、何のためにもならない馬鹿騒ぎも聞こえてくる。なんの接点もなかった四十一人が『ユグドラシル』で出会い。こうして罵り合う声さえも笑いの種に変えてしまう。
「はは……」
ああ、俺は――――――
「あははははははははッ」
この時、こんなにも――――――
「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
笑っていたのか――――――
――――――世界は戻る。仮初めの幸福は過去の幸福。ならば、
次回のテーマ
「愛してる」
キンハ3のゼアノートとの和解やら色々許さねぇからなぁ……
感想お待ちしています。