オーバーロードVS鋼の英雄人 『完結』   作:namaZ

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完成

 世界でも10本の指に入る生まれながらの異能(タレント)――――――融合(フュージョン)。 

 血肉の通った生物以外とその身体を一つにする生まれながらの異能(タレント)は、鉱物もアイテムも武器も――――――世界とさえ同化する規格外な異能。

 下手をすると神にも成れる――――――否、神を越えることも可能だろう。無論、万能などではなく当然欠点も存在する。

 一つ、一度融合したモノはどんな形で肉体の外見上に作用するかその時にならないと分からない。

 二つ、一度融合したモノは分離できない。

 三つ、融合するとアイテム等の効果が変わる可能性がある。

 カグラが生まれながらの異能(タレント)を使用した回数は二回。まだ見た目通り幼かった頃、神々の至宝を興味本意で取り込んでしまった。融合は謎が多い。その力の全貌は本人も把握しきれていない。

 桃源郷となってしまった彼女と触れ合える人間は存在しない。

 完全耐性を持たない人間に、何度犯されそうになったか。何も知らない少女の蕾を蹂躙せんと下半身を膨張させた男たちを、子供ながらlevel100の力で堕ちた中毒者を殺してきた。

 level100の力と猛毒を隠すためスレイン法国の最深部聖域、5柱の神の装備が眠る場所を守っている。ドラゴンにその存在の隠蔽の意味も含まれるが、その体質のせいもあり、誰も寄り付かない守りをしているのもある。

 六大神が広めたとされるルビクキューで遊びながら、彼女は自分が取り込んだ力を考える。

 本を読みながら、人の話を聞きながら、その登場人物を自分に置き換えて想像する。

 自分ならこうした。

 自分ならああした。

 自分なら、自分なら――――――

 膨れ上がるもしも(if)が蓄積されていく。自分の中に、自分が妄想し想像した自分が記録されていく。

 そんなおり、漆黒聖典第一席次隊長ロトが訪れた。彼女と同じ空間で堕ちることがなく、初めてたくさんお話しした異性。

 もしかしたら(if)、初恋だったのかもしれない。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、落胆。強かった、確かに強かった。けど、これまでと比べて強かったにすぎない。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、優越。こんなに強い彼でも、私には勝てないんだなと自己に浸る。

 そんな彼と模擬戦をして抱いた感情は、怒り。どうして負かしてくれないんだ。どうして本気で戦えないんだ。どうして――――――ロトが私なんかに負けている。

 他にも、他にもと、一度の戦いでこれまで記録されてきたモノが、それぞれの感情でロトを見下す。

 悲しいよ、嬉しいよ、駄目だよ、愛しいよ――――――取り込んだ至宝がどんな作用を自分にもたらすかわかった気がした。

 何が本当で正直な感情なのか本人も分からないくらい肥大化した自分が自分を押し潰す。

 自分が求める願いとはなんだ?人生とは?生き甲斐は?使命とは?

 仲間を尊ぶ自分がいる。

 使命に燃える自分がいる。

 何もかもを投げ出し逃げ出したい自分がいる。

 戦いと血を好む自分がいる。

 臆病に怯えながら小さな理由で心を奮い立たせる自分がいる。

 ただの子供のように笑顔で甘える自分がいる。

 孤高に生きる自分がいる。

 

 もう何が何だか分からない。

 訳が分からない。

 生きるって何?

 人って何?

 使命?

 定?

 掟?

 そもそも私ってなんなの?

 何をしたいの何で生きてるの目的は何願いは何この感情の渦はどれが本当の自分なの?

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない――――――

 

 

 そうだ。赤ちゃんを産もう。

 それも強い人。とびっきり強い人。ううん、人じゃなくてもいい。私より強いなら誰でもいい。

 生物にとって子孫を残すのは当たり前な事で義務。女性にとって赤ちゃんを儲けるのは人生の幸せと聞く。

 産めや増やせやのスレイン法国。強い人は、その血筋を絶えさせてはならない。私のように、ロトのように、いつか覚醒するその時まで、人類が救済されるその時まで、力は残さなければならない。

 心は、感情は、もう訳が分からないけど、身体だけは私のものだ。私だけがこの身体を証明している。なら、意味とは、答えとは、人生とは、数多の私の一つしかないこの身体こそ赤ちゃんを生むことで唯一無二の絶対な私個人のモノになる。

 身体だけは私だけのもの。故に私は、生きたい(死にたい)。この身体に唯一無二の私だけの答えを刻む。

 

 

 そんな浅はかな考えも光の前には無力だった。

 それは、至高。

 それは、最強。

 それは、究極。

 それ以外に、形容すべき言葉なし。

 眩しく光輝く太陽に融かされてしまいたい。その光だけは、私を見てくれた。数多の私なんかじゃない。ちゃんとした私を。

 だって、初めてあったあの日何て言ったと思う?

 

 

 ――――――バラバラだな。失礼承知で言わせてもらうが、何を成したいのだ貴女は?

 

 

 真っ暗だった瞼の裏が真っ白になるほどの衝撃だった。成す。そうだ、自分自身の証明に何の価値がある。ひたすら瞑想して何の意味がある。私は私だ。私の中に渦巻く最大312人の私。光に導かれた私は自分という個を獲得し、何を成したいのか考えた。

 あの日からずっと考えている。私とは何なのか。何を成したいのか。

 この肉体が融合した異物は二つ。

 一つ、完全なる個を獲得したことで掌握したワールドアイテム。

 二つ、ローブル聖王国の秘宝、神星鉄(オリハルコン)

 その二つが、解放される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの人生ずーと考えてきた。

 私にとって成すべきこと――――――勝利とは何か?

 私の初恋の人。二人目だから初恋じゃない?いいの、劇的な出会いは初恋って決まってるの。だって王道とはそういうものでしょ。光は総じて素晴らしいものだから。だけど――――――嗚呼、なのに、私はこんなにも矛盾に満ちている。

 

 

「私の答えは――――――」

 

 

 願いが重複している。一つじゃない。私が産み出した最大312人の私は偽りだけど、その心は嘘偽りない私のもの。

 

 

「――――――まだ、分からない」

 

 

 さっぱり意味不明だけど、絶対に答えを見つけて見せる。だけど、形は定まった。

 

 

「残り271人の私……ごめんね。身体がないと窮屈だったよね?」

 

 

この瞬間、私は私のために限界を越える。

夢を現実に、霞の如く触れれば霧のように儚い私達。

どれも本物、私が産み出した本物()

 

 

「認証/カグラ/脅威認定/五段階中レベルⅢからレベルⅤ/警戒から脅威レベルまで更新」

 

 

 ルベドが生まれて初めての臨戦態勢を取る。

 カグラの身体から生じる阿片の煙が戦闘エリアを桃源郷に豹変させた。もうもうと立ち込める真っ白な阿片の煙がルベドの回りで褐色の人を形作る。先程までの五体までの生易しいものじゃない残り271人のカグラが実態を持つ。

 

 

「ルベドちゃん」

 

「……/何/?」

 

「これまでの私をあなたに教えるの。受け取ってくれる?」

 

「それが/人間の答えなら」

 

 

 クスッと微笑む。嬉しくて楽しくて悲しくて――――――私を受け止めてくれる小さな女の子に心から感謝する。

 

 

「さあ……ルベドちゃんの生誕祝いよ!」

 

 

 level100の超越者が271人+私。一人一人がもしも(if)の別人。戦う姿勢も意思も思考も違う私達にコンビネーションなど得意とするカグラはそう想像された少数の(if)だけ。無論、オリジナルは一人一人の(if)の光と闇の両端を理解している。

 

 

「目標/破壊に移行する」

 

 

 無限のエネルギーを利用した防衛機能が意味をなさない。一人一人が速度の面で防衛機能の反応速度を凌駕する戦い。ルベドは生まれて初めて戦術をもって拳を握る。無論、武術の心得などない。今までのカグラの動きを参考に、どう拳を振るえば効率がいいか解析する。

 

 

「一人」

 

 

 猪突猛進な脳筋カグラが嗤いながら上半身、下半身を真っ二つにされた。

 

 

「……/二人」

 

 

 誰よりも仲間思いのカグラが涙を流しながらルベドの小さな腕が、腹部を貫通する。

 

 

「…………/三/人」

 

 

 非道でズル賢いカグラが腹部をついて制限されたルベドの死角を利用し絶命した自分ごと斬りかかるが、横凪ぎした手刀がその首を撥ね飛ばす。

 

 

「………………/よ/……人/ッ」

 

 

 臆病で引っ込み思案なカグラが勇気を振り絞って立ち向かうが緊張でガチガチな身体はルベドの振り下ろした手をその身に浴び地面の染みとなる。

 

 

「なに/……/これ/?/理解不能/理解不能/理解不能/理解不能/ッ/!!」

 

 

 道理に合わない不可思議な現象。カグラを一人、また一人その手で殺していくと何故か、歯車と永久機関しかない胸が締め付けられる。

 

 

「……夢は何でも許される。それが私を干渉するなら」

 

 

 理屈は知らない。この身体と融合したワールドアイテムは、カグラの望んだ通りその夢を実現させる。カグラを媒体にしなければ外に夢を持ち出せないが――――――殺したカグラのその時の感情が流れ込むようにと、死を対価に複雑怪奇な感情譲渡の夢を実現させる。

 死の間際こそ人の感情は本質をむき出しにする。数多の感情をそれぞれ持つカグラに同じ本質はない。

 死をもって教えるのだ。人とは何か、カグラとは何かを。

 

 

「ルベドちゃんの殺した私がどんな(if)かもう分からないけど、その死は絶対に無駄なんかじゃないんだ」

 

 

 夢は覚めれば忘れるもの。

 

 

「その胸の痛みは、苦しくて、耐えられないこともあるけど……その想いが人を成長させるの」

 

 

 苦痛なくして成長はあり得ない。逆境なくして成長はあり得ない。心に掛かる負荷が重く、鋭く、複雑に絡み合えば合うほど――――――それを乗り越えた心は強く成長する。

 

 

「私は一切手加減しないよ。どれだけ幼く、今にも泣きそうな女の子でも、私を殺せてしまう。だから頑張って。ルベドちゃんなら答えを見つけられる。この戦いの先に、絶対に……」

 

 

 私も見付けて見せる。私だけの答えを。

 

 

「あ/あ/ああああ/アアア/あ/ァァァァァァ/ア/Aaaaaaaaaaaaaaaaaa/!!」

 

 

 ルベドは泣きながら、痛みながら、苦しみながら、その感じたことのないどうしようもない辛さをカグラにぶつける。

 憎しみを懐く怨嗟の心。

 快楽を見出だす堕落の心。

 死にたくない恐怖の心。

 心。心。心。心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心心――――――もう嫌だ。

 

 

 規則正しい歯車の音色が歪な不協和音に成り果てる。ギチギチとはまらない歯車が増え続ける。胸に重く、深く、鋭く、どす黒い何かが広がり続ける。

 もう嫌だ。耐えきれない。辛いよ。助けて。怯え、震える女の子にカグラは容赦しない。防衛機能の本能が、脅威を殺してしまう。そしてまた、歪な歯車が一つ増えた。

 

 

「……失って初めて気づくこと。私は、あって当たり前の私を失った。もう戻ってこないけど、失ったから……この想いを大切にしようと前へ進もうとするんだ」

 

 

 人知れず、カグラ(オリジナル)は涙を流す。彼女もまた失うという恐怖を知らなかった。失うという表現は、失ったものが本当に大切だから、大切だからこそ意味が発生する。失ったものが大きく、深く、優しく、当たり前に胸の中に存在していたなら、失った喪失感と哀しみと怒りは、失ったものを補うように強くなる。

 だから、そう――――――

 

 

「……ありがとうルベドちゃんッ。私、気づいちゃった。本当に……ほんとーに単純な答え。あの人も笑っちゃうかな?」

 

 

 ルベドに半数以上殺され、女は答えに辿り着く。魂の答え(叫び)神星鉄(オリハルコン)が共鳴し発光する。

 

 

「天昇せよ、我が守護星――――――鋼の恒星を掲げるがため」

 

 

 紡がれる真実の詠唱(ランゲージ)

 

 

「人類の守護女神は己の無力を思い知った。

天地を満たした繁栄も、蛇をもたらした天頂神(ゼウス)に偽りと切り捨てられた」

 

 

自分だけじゃ、本当の自分に気づかない。蛇より伝授された数々の力は無知蒙昧な女神の頭蓋を叩き割った。

 

 

「戦いを司る女神でありながら、認めない戦いに勝利は望めん。勝者には生を、敗者には死を――――――勝利の先はいつも敗北に塗り度られている。光は尊く素晴らしいから前へ前へ前へ進もうと、闇もまた人の尊ぶものだから。矛盾に揺れる灰色の境界線こそ女神を象徴する真実の姿」

 

 

 光に轟く雷霆も、闇へ誘う冥王も等しく大切だから。

 白と黒、ならばこそ女は灰色で今を生きていこう。

 

 

「梟を失う哀しみを懐きながら万仙の陣を回すのだ。灰色だった景色に色彩を飾りましょう。女神じゃない一人の女としてこの手に確かな幸福を掴むのだ。勝者を敗者を抱きしめて離さぬために」

 

 

 女神として女としてどちらにもなろう。後悔はしないと誓ったのだ。この命は、人とは決して一人ではないのだから。

 全てを許す慈愛の笑みを浮かべ、女は全てを優しく包み込む手の平に死神の鎌を握りしめる。

 

 

超新星(Metalnova)――――――永久の幸福よ(happiness)巡り来る祝福を(Amor vincit omnia)大地母神(Pallas Athena)

 

 

 片側が白銀、片側が漆黒の二色に分かたれた髪が混ざり合い、灰色となる。それと同じく、灰色の炎が死神の鎌に付属される。

 ルベドは殺しつくしたカグラ(if)の心の渦に膝を折り、胸を強く強く押さえ付けるが、傷みが消えることはない。カグラのことを脅威レベルと設定してしまったプログラムが、その脅威を排除しようと意思と関係なく対象を破壊しようと動いてしまう。一歩踏み出すカグラに、ルベドは恐怖する。

 

 

「……こないで、/これ以上は耐えき/れないッ」

 

 

 不合理、不条理、人間の心とはこんなにも身体が締め付けられるのか。知らない。こんなの知らない!!パパ……苦しいよ。辛いよ。このままじゃ私、パパの言いつけを破る悪い子になっちゃう。

 ルベドの身体は、271人の超越者との戦いで深刻なダメージを負っている。顔の半分は外装が剥がれ、左腕は肩から胸に切り裂かれ垂れ下がり、右手も小指と薬指をもぎ取られ、両の足はねじ曲がり、身体中が切り傷と陥没した損傷が痛々しく美しかった容姿を壊れた人形(ジャンク)へと成り下げっていた。

 それでも痛覚のないルベドに痛みはない。あるのは心の痛み。

 心の存在を初めて認識したルベドに、その複雑でどう制御すればいいのか分からない波は、防波堤を乗り越え内側から彼女を蹂躙する。

 一歩、一歩と歩み寄るカグラにルベドは顔を歪ませる。ルベドは動けない。動く気力もない。私はいったいどうすればいいのだろうか?と自己の思考回路に沈んでいく。

 

 

「/……あ」

 

 

 気がつけば、手を伸ばせば届く距離までカグラは近づいていた。もしカグラが攻撃を仕掛ければ自動的に迎撃するだろう。

 死の恐怖を知った。

 死と同一している様々な心を知った。

 その心がルベドの心と混ざりあっているのなら、その感情は最早、嘘偽りないルベド本人のもの。

 自害が許されていない自動人形は心の底から、このまま痛いだけなら死んだ方がましだと渇望する。

 自動攻撃プログラムを意思の力で捩じ伏せる。

 さあ――――――引導を渡してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「/………………?」

 

 

 何時まで経っても死は訪れない。無抵抗の彼女をスクラップにする力を有していながら何故しない?その内包する力はlevel100(基準値)を越え、未知領域(発動値)まで跳ね上がっている。ルベドまで強いとは言わないが、その力は超越者を上回っている。

 

 "ぎゅっ"

 

 ――――――え。

 理解が追い付かない。何故私は、抱き締められている?灰色の炎が彼女の身体を優しく包み込むように、よしよしと微笑みながら――――――その包容を受け入れている自分が居る。

 灰色の炎は決して二人を害さない。灰色の炎をつたい優しい暖かな心の温もりが流れ込んでくる。知らないはずの母の子宮の中を連想させる安心感に、幼い子供は身を委ねる。

 

 

「……」

 

 

 痛く、辛く、もう死にたいと絶望した心が解れていく。歯車一つ一つの歪みが正され、規則正しくはめられていく。そして、全く新しい歯車が一つ増える。それは脆く、儚く、気を緩めると壊れてしまうくらい不安定な歯車だけど――――――暖かかった。

 

 

「……まま」

 

「ふふふママか、良いよ。めえ一杯甘えて」

 

 

 本当の我が子のように、慈愛の炎がルベドの傷を癒していく。灰色の炎に物や人を傷付ける力はない。負傷を、傷付いた心を癒す力なのだ。ルベドの頭を撫でながら、静かに秘めた思いを語りだす。

 

 

「何でもいい……恐怖を知ること、失う悲しみを自覚すること、それが陽だまり()へ向かう力になるの」

 

「……まえへ?」

 

「人によって意味は違うけど、私はかけがえのない陽だまりを守るために戦うの」

 

 

 刺激的な出会いもいいだろう。勝利へ突き進む闘争もいいだろう。新しいこと新しいことと、そんな激しい人生もいいだろう。それでも、スレイン法国は大切な故郷で、退屈で目移りしない宝物庫の守りは――――――

 

 

「やっぱり初恋だもんね」

 

 

 ロトが会いに来てくれた。 

 

 

「私ね、好きな人が二人いるの。二人とも根がすごーく真面目でね、一度こうと決めたら絶対に曲げないの。正義感が強くて人類のためって本気で覚悟して毎日戦ってる」

 

 

 そんな事、私には出来そうにないから。閉じた私の世界に知らない人のため光を目指してなんて高貴な志は芽生えないから。光を直視したとき、かっこよくてなんて素晴らしいんだと思ったけど、私の本質から少しずれている。

 

 

「他人の幸福のため、自分を不幸にする生き方は違うと思うの。二人とも勝利()しか見ないから。けどね、一人は生まれ持った上限が決められた力で技を研鑽してたけど、もう一人は意思と努力で世界に喧嘩を売っていたの」

 

 

あの出会いは忘れもしない。才能もない、神の血も流れていない。この二つだけですべてが決められてしまう世界に真っ向から気合いと根性で立ち向かう姿に――――――恋をした。

 

 

「私と価値観が共有出来て、未来()を向いているけど振りかえることができる彼」

 

 

駆け抜けた先で振り返り、自己の幸福も考えるようになった愛しい人。

 

 

「一人一人と向き合い、皆の幸福のために命を燃やし続ける彼」

 

 

駆け抜けた先で、築いた哀しみと犠牲、期待を背負い勝利()勝利()へ絶対に止まらない愛しい人。

 

 

「人によって幸福の形は違うけど、それでも私は私の手の届くせえ一杯の所までは不幸にしたくないの」

 

 

頑固者も、傷つきながら前へ前進する人も、止めることは出来なくても――――――抱き締めて、ほんの少し温もりを分け与えることはできるから。

 

 

「スレイン法国しか知らない私にとって他は他人だけど、国が、愛しい人が守ろうとしているものを私も守りたい」

 

 

矛盾も迷いも消えていない。だがそれも込みで私なんだと受け入れて偽ることはもうしない。

そう――――――

 

 

「勝利とはあまねく幸福を守り祝福すること」

 

 

 それがどんな形であれ。

 

 

「私は幸せになりたいの。一人じゃ意味がない。皆が幸せな優しい世界は退屈で平凡だろうけど、それが私の陽だまりだから」

 

 

 ただ幸せになりたいと強く願った。明確な形は勝利と違って曖昧で分からないけど、痛みも血も流さないそんな陽だまりこそが幸せと信じて。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 制限時間までに答えを見つけ、少女にその想いを教えることができた。悔いはあるし死にたくもない。本当の幸せはこの先に必ずあると信じているから。

 

 

「ルベドちゃん……最後のお願い、聞いてくれないかな?」

 

 

 生まれながらの異能(タレント)融合の欠点。

 一つ、一度融合したモノはどんな形で肉体の外見上に作用するかその時にならないと分からない。

 二つ、一度融合したモノは分離できない。

 三つ、融合するとアイテム等の効果が変わる可能性がある。

 元々のワールドアイテムは経験値を対価に使用するタイプだったのか。カグラの中で効果が変わり寿命を対価に使用する性質になってしまった。カグラの寿命で作られた可能性(if)は失えば、カグラは死ぬのみ。

 

 

「……死んじゃうの?」

 

 

 心臓の音が徐々に弱々しくなっていくのを聞き取ったルベドの耳は正確に言い当てる。安らぎの心に恐怖が蘇る。パパとはもう会えないかもしれない。その上ママも失ったら――――――

 

 

「いやだ……いやだよッ。寿命ならアインズ様ならどうにかしてくれる。だからッ!!……死なないでぇ」

 

「寿命もどうにかできちゃうんだ神様(ぷれいやー)は凄いや。それでも……ごめんね。私は裏切れない」

 

 

 敵であるカグラの命を延ばす行為は、手土産に神々の至宝を献上するか、ローブル聖王国の情報を渡せば達成される。それは、許しがたい愛する人への裏切り行為だ。ルベドもまたそれらの事情を理解はしても言わずにはいられない。

 

 

「私だけスッキリしてルベドちゃんだけモヤモヤ抱えたままじゃ不公平だよね。……大切な、帰るべき居場所はある?」

 

「パパとママのところ」

 

「ん~私は死んじゃうし、パパは何処にいるのか分かってるの?」

 

「……この世界に来てないかも」

 

「降臨してないんだ。他にないかな?大切な、帰る故郷は」

 

 

 ルベドにとって故郷。真っ先に思い浮かんだのは、パパに与えられたあの部屋。

 

 

「……ナザリック」

 

「……そっか、なら守らないとね。仲間と一緒に」

 

「なかま?」

 

「誰でも、一人じゃ生きていけない。必要ないと思えるのは気づいてないだけ。同じ故郷を守るために戦うなら、それは仲間だよ」

 

「……うん。仲間、大切にする」

 

 

 ナザリックに属する仲間として、ルベドは故郷を守る。

 

 

「言って、ママ。私は何をすればいい?」

 

 

 ルベドはこれから答えを探す――――――実はまだ気づいていないだけでもう答えは心の中にあるのかもしれない。死に別れは辛いけど、大切な人の最後の願いを叶えたい。

 

 

「今進行しているスレイン法国でもどうしようもない強いモンスターをやっつけてほしいんだ。後は……ロトが何とかしてくれるから」

 

「うんッ絶対に、約束守るからッ」

 

 

 カグラはその言葉に安堵して重い瞼を――――――閉じた。

 

 

「――――――え」

 

 

 灰色の炎がルベドの身体に溶け合い融合する。

 死の間際、これで救われる。でも、死にたくない。幸せになりたいと願った無意識の想いが、融合を発動させた。中途半端な融合はカグラの肉体をそのままに――――――ルベドにカグラの魂と心が溶け込む。神星鉄(オリハルコン)と永久機関が融合を果たす。万仙陣は生物ではないルベドには反応することはない。

 

 この結果がどう転がるは誰も分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







初めてこのような内容を書いたので時間がかかってしまいました。賛否両論あるかもしれません。ですが、作者の心は、書ききったという満足感で満たされています!詠唱めっさ考えましたよ!(白目

次回は我らがゼファーさんですが、もしかしたら2~3ヶ月は間が空くかもしれませんのでよろしくお願いします。
あくまでもかもしれないなので予定より速く投稿するかもしれません。

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