どうして、
紅魔館の中で小悪魔だけ名前がないの?
そう思って書きました。
いつもよりちょっと糖度高めです。
そして、公式設定が少ないので、捏造設定が
たくさんあります。
ごめんなさい。

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※捏造設定が多くあります。
※糖度がとても高いです。
以上のことを踏まえた状態での閲覧を
お願い致します。


名無し

私は、紅魔館の主と、契約を結んでいる。

 嬉しすぎて、その時は涙が出た。

 それは偶然、人手が足りないから、

 という理由で、召喚した悪魔が、

私だったというだけ。

 他には、何もない。

 そう、お嬢様が求めているのは、

 "私"ではない。

 ただ契約に従順な、"悪魔"なのだ。

 分かっていた。

 ずっと頭の中で、反芻してきた。

 他の悪魔にだって、言われた。

 

 紅魔館に雇われて、初めて暇をもらって魔界に帰った時。

 あの紅魔館に雇われた、と。

 私は得意になって話した。

 勿論、みんな喜んでくれた。

 だけど、聞こえたのだ。

 "下賤の者のくせに"と。

 確かに、そうだ。

 私には、名前がない。

 それは、私が低級だからだ。

 名前もない、功績もない、私。

 「どうして私があそこにいるんだろう」

 疑問符が、浮かんだ。

 

 だから、あの時。

 「小悪魔、相手をして頂戴」

 そう言われて、

 初めて居場所が出来たように感じた。

 例えそれが、こんな歪な形でも。

 

 あの夜から、

お嬢様は私にとって誰よりも大切な人になった。

 私に居場所をくれた、冷たい瞳の温かい人。

 私が独り占めできない、深い愛情を持った人。

 お嬢様の、隣に、ただ寄り添っていたい。

 そんな綺麗な私はいつの間にか消えて、

 お嬢様の全てがほしい。

 そう願う、汚い私になった。

 

 お嬢様の眼を見ては、

その瞳に映るものを妬ましく思う。

 お嬢様の指先を見ては、

触れるもの全てを壊したくなる。

 お嬢様の口が動く度に、私は名前をねだる。

 ありもしない名前を、呼ばれたい。

 そんな、汚れきって、名前さえ見えない願い。

 叶うはずはないのだ。

 お嬢様の瞳に映る美しさも、

 指先に触れる権利も、

 名前を呼ばれるためのあなたとの関係も。

 私には、ないのだから。

 

 「フラン、パチェ、咲夜、美鈴、」

 どうして、いとも簡単に呼ぶの。

 どうしてそこに私の名前がないの。

 「小悪魔。」

 違う。私の名前は、小悪魔じゃない。

 お嬢様、呼んでください。

 賤しい私の名前を。

 どこにもない、1つの名前を。

 私の耳は、

あなたの声を聞くためにあるんですよ。

 なのに、どうして?

 どうして?お嬢様。

 教えて下さいよ。

 

 「小悪魔、

お嬢様があなたのことを呼んでいたわよ。」

 聞き捨てならない言葉だった。

 お嬢様に会える。

 毎日食事の度に顔を合わせているけれど、

 それじゃあ、足りない。

 今から、

満たされることのないこの想いを抱えて、

 お嬢様に会えるのだ。

 

 「お嬢様、小悪魔でございます。」

 ドアの前で、何度も深呼吸した。

 お嬢様の顔が浮かぶ。

 今日も夜伽だろうか。

 「いいわ、入りなさい。」

 大好きな声に導かれて、

私はドアを押し開けた。

 お嬢様の香りが、鼻先をくすぐった。

 甘い、匂い。

 同じ場所に住んでいるのに、

 他の誰とも違う、匂い。

 私は、浮かれていた。

 ここにはお嬢様と私。

 二人きりなのだ。

 「契約のことなんだけど……」

 

 はっとした。

 風船が目の前で割れたような衝撃が、

私を襲った。

 そうだ。

私は、雇われているから

ここにいるだけなんだった。

 それが、

全てを手に入れようなんて、なんて浅ましい。

 

 何も、聞こえない。

 何も、見えない。

 もう、お嬢様の温もりを感じることは、

二度とないのだ。

 「魔……小悪魔、ちょっと、聞いてるの?」

 「は、はい、申し訳ございません。」

 溜め息1つ。

 「もう一度言うわ。契約延長よ、小悪魔。」

 「え?」

 意識が右往左往している感覚だ。

 何が何だか分からない。

 ただ1つ思い出したのは、

 そういえば、今日が契約が切れる日だった、

 ということだ。

 「まあ、あなたが嫌と言っても、離すつもりはないけれど……

 って、あなた、また泣いてるの?」

 また、と、言ってくれた。

 覚えているのですね、あの日のことを。

 泣き虫ね。

そう言って、お嬢様は私の涙を拭った。

 指先が、私の頬を優しく撫でて、

離れていった。

 匂いが、近い。

 あの夜は、こんなことは思わなかった。

 こんなに心臓はうるさくなかった。

 

 「お嬢様。私は……

お嬢様の何として契約を結べば良いのですか」

 口から出た、汚れた問い。

 ただの従者よ、他に何があるの?

 分かっているのに。

 「あなたが望むなら、どんな形でもいいわ。

私はただ……あなたにここにいて欲しいだけ」

 お嬢様は、早口に言った。

 望んでもいいのなら、

あなたの特別になりたいけれど。

 無理だ。私には。

 ずっと思い描いていた、

お嬢様の隣にいる私が、滲んで消えた。

 もういい。

 私が居なくなったら、

次はもっと使える悪魔を雇うのでしょう。

 じゃあ、最後は。

 悪魔らしく、意地悪なことを言おう。

 

 「なら、お嬢様の隣にいます。ずっと。」

 「悪くないわね。」

 「条件があります」

 私はそう言って、顔を上げた。

 お嬢様の顔が、視界にある。

 紅い瞳を、見つめて、息を吸い込んだ。

 「私に名前を下さい。」

 お嬢様の瞳が、大きくなった。

 それから、ゆっくり細められて、

大きな笑い声が耳に響いた。

 「ふふふ、そんなことでいいの?

 条件なんて大袈裟なこと言うから、

驚いたじゃない。

 そうね……小悪魔・スカーレット、

何てどうかしら?

 ……捻りがないわね。

 ディアボロ・スカーレット。

 うん、これにしましょう。」

 「お、お嬢様?」

 うん?と、惚けた顔をしている。

 大袈裟なくらいに。

 「えぇと、その……

名字は……どういう、こと、でしょうか」

 顔に身体中の血が集まっているのを感じる。

 

 「プロポーズじゃないの?」

 「ぷ、ぷろぽおず?」

 私は、惚けた声で

聞き返すことしか出来なかった。

 「隣にいる、名前を下さい。

 って言ったのは誰だったかしら。」

 くらくらしてきた。

 そういえば、

そんなことを言ったような気がする。

 「私、ですけど……」

 「覚えてるじゃない。」

 いや、

覚えてる、覚えていない云々の話ではない。

 

 「お、お嬢様の本当に大事な人にだけ

そういうことを言うべきです!

 からかうなら、契約解除しますよ!」

 何を言っているんだ、私は。

 もう、何がなんだか分からない。

自棄だ。

そんな醜い私を見て、お嬢様は溜め息をついた。

 「但し、嫌と言っても離さない、

 ここにいて欲しいと

 言ったのは私。

 本当に鈍い悪魔ね。」

 お嬢様はそう言うと、

泣き止まない私の眼を優しく擦った。

 甘い。

 ああ、薔薇の香りだ。

 そう気づいた時には、唇を塞がれていた。

 

 「それで、解除するの?延長するの?」

 お嬢様は楽しそうに、

でも、声を震わせながら耳元で囁いた。

 「延長……します。」

 私は、そう言って、また泣き出した。

 



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