少女を怯えさせないように声を掛けた後、迫るゾンビやゾンビ犬を一通り屠ってから少女の居た方へ振り向くと、そこには――
「……逃げ足早いなあ」
要するに迫る化物たちの処理を全部押し付けられ(勝手に親切の押し売りをしただけだが)、助けようとした少女には先に
「ま、仕方がないか。のんびり行こう」
どう考えても、この街の惨状でのんびりとなどしていられない状況ではあるが、先ほどトドメを刺し損ねた化物のようなものでないかぎり、俺にとっては気持ちが萎える程度の差でしかない。しかたないので、あの謎の化物の生命でも今後の保身を考えて毟りに行くかと思ったところで――
「次から次へと……ホント、嫌になるな!」
今度はダンプに突っ込まれることになった。なんだ、幸運『E』か! そうなのか!?
――ズドォォォォォン
俺に向かって(狙っていたわけではなさそうだが)突っ込んできたトラックは街の一角に衝突して爆発炎上。爆炎と轟音を響かせて暗くなりつつある街中を煌々と照らしていた。
そして、あたりかしこから市中に響き渡る悲鳴。阿鼻叫喚の最中にあって俺は、酷く落ち着いていた。
「とりあえず、この場に留まるのはナンセンスだな」
そう呟いて俺はこの場を後にした。
――9月28日 朝
適当に押し入った家(既に無人であったことを確認)にて、ゾンビなどが侵入してこないように出来る限りの処置をしてから仮眠を取り、気づけば時計の短い針は「6」を、長い針は「10」を、秒針は「50」をそれぞれ指して止まっているのが目に入った。それを見て、どこかで「隠し扉が開いて回転のこぎりとか落ちてないかな?」などと場違いなことを一瞬考えたが、残念ながらそんなものは見つからなかった。代わりに家庭内に放置されていたハンドガン(2挺目)と幾らかの弾薬を見つける。この火事場泥棒丸出しの内容に自分自身でもドン引きするが、しかし、この有事だ。これは必要悪で仕方がないことなんだと自分で自分に言訳をして僅かに懐いた罪悪感にも似た何かは思考の隅へ追いやった。
(怪物化してしまっているとはいえ、元人間などを散々に屠っておいて今更言えたことじゃねえやな……)
そんな無体な思考のまま、まだ生きていたテレビの電源を入れると正確な時刻を確認する。時刻は既に11時を回っていた。
「なんだ、もう昼だったのか……そういえば、なんかやたらと腹が減ったな」
それが己の肉体を維持するための必要なことなんだろうと意識して、ハンドガンを見つけた時と同様に家内にあるジャンクフードやチョコレートなどを胃の中へ放り込む。冷蔵庫も生きていてくれてよかったと安堵しながら中にあったミルクを飲んで喉を潤し、腹を満たした。
「よし行くか。っと、その前にトイレ……」
当てもない旅路になりそうだったが、此処で入っておかないと後々、大変困りそうな予感がしたので用を済ませてから気を取り直して市中を探索することにした。あの謎の集団や化物にさえ遭遇しなければ、俺自身この街から脱出すること自体は訳無さそうだ。だが、昨日見かけて1人先に行かれてしまった少女の事が如何しても脳裏から消すことができず、その身を案じている自分がいたことに驚きを隠せなかった。
「……自分の事を最優先に考えるなら放っておくべきなんだが。はぁ、どうしたものやら……」
そう呟きながらも、それでもやることは決まっていると覚悟を決めて2挺になったハンドガンの弾倉を確認する。残弾はフルにチャージされていることを改めて認識して、俺は自分で設えたバリケードを破って再び地獄の中へ身を投じたのだった。
* * *
薄暗い路地を走り抜け、警察署を目指す影が1つあった。息を切らせながらナニカから逃げるようにして走っているのは、黄色い防弾ベストのようなものを着た色白の優男。すでに街を徘徊する化物たちと戦闘でもしたのか、身体のところどころから血を流している。
(クソッ! 一体何なんだ、アイツは!!)
そう悪態を吐きながら、それでも走ることを止めない彼の名前は、ブラッド・ヴィッカーズ(35)と言った。彼は、その巧みなヘリの操縦技術などが買われて、この街のシティポリス内に設けられた特殊作戦部隊
「だった」というのは、その特殊作戦部隊は既に解散しており、市中も地獄の様な様相では既に機能していないと言って過言ではないからだ。そんな彼は今から1時間ほど前に必然とも言える出会いを果たしてしまった化物から逃げ惑っていた。
「クソッ、一体、何なんだアイツは! 何故、俺を此処まで執拗に追いかけてくる!?
何が目的なんだよ、ちくしょう!! こんなことになるなら、S.T.A.R.S.なんかに入るんじゃなかったぜ!!」
どうして自分が、こんな目に? それについて思い当る節があるとすれば2ヵ月前に起きたあの洋館での出来事だろう。
そう己の中で言い訳をしながら、それでも罪悪感に駆られて一昼夜、燃料の切れるギリギリまで上空にヘリを退避させ仲間たちの生還を待った。そして、最後の最後でも訳の分からない化物を相手に奮闘する仲間に向かって(何故か積んであった)
「ジル!!」
「ブラッド!?」
勤め先だったラクーン市警の正面玄関を目前にして、俺は遂に
――ドンッ
「S.T.A.R.S.………」
「う、うわあああ!!」
初めて、そいつを見た時に比べて幾分どころか、かなりボロカスにされた形跡があったが、それでも化物が俺を殺すには十分な力を持っていることには変わりない。俺は、その異形を前にして思わず叫んだ仲間の方へ駆け寄るという選択を取ることが出来ず、たたらを踏んで後ずさりし、逃げ場のない壁を背にしてしまったことに気付いた。
「く、来るな! こっちへ寄るな化物!!」
――パンッ! パンッ!!
と手に持った同僚だったバリーという男の伝手を経て、ラクーンシティにある鉄砲店の店主に特注の改造を施してもらった
――ガシッ!!
化物の腕に俺は顔を捕まれ、万力のような握力で頭ごと押し潰されそうになる。手に持っていた虎の子のサムライエッジも手放し両腕で化物の腕を必死に引き離そうとするが、それも無駄だった。
「うわぁぁぁぁ!! ジ、ジル!! 助けてくれ!! 助け――!!」
――グシャッ
そんな音を脳裏に聞きながら、俺の視界は真っ暗になった。
* * *
街のあちこちで銃撃の音が、市民の叫び声が絶えない。まだ抵抗を試みて自身が助かる未来を必死に描こうとするものたちがいるらしい。既に手遅れになった者たちを次から次へと屠りながら、俺は昨日見かけた少女を探して街の中を彷徨い、ついでに訳の分からない唐突に敵対行動を取ってきた傭兵然とした男を見かけたので家屋へ連れ込み拷問しながら情報を引き出していた。
「なるほど。製薬企業アンブレラ……
男から蒐集した情報を元に「へえ。そうか、そうか。そういう情報も、もしかしたら
「あ……まあ、仕方ないか」
そこに何の感慨も覚えず、マトモ(と言っていいのかは不明だが)、1人の人間を殺めた罪悪感は無かった。でも、それでも「慣れたくは、ないな」とだけ呟き、傭兵の持っていた装備を剥いで、必要なものを身に付け、あるいは
そして俺は新たに手に入れたデザート・イーグル一挺を腰に、アサルトライフル一挺を付属品のベルトを通じて肩から掛ける、いずれも弾薬数に限りがあるので使い切った後は、新たに弾薬の入手が覚束ないなら鈍器としての価値くらいしかないものだが、弾倉に残弾が確保されている内は心強い味方になるだろう。さて、次は家屋内のメモなどを元に警察署にでも向かってみるかと、傭兵を連れ込んで拷問していた家屋を後にした。
もちろん、このままシェリー・ルートなんてことはなかった。だって、クレア相手にさえ初対面で逃げるような子だよ?
窮地を助けられたからと言って、いきなりオリ主に懐くようなことはない!