咲き晴れ!   作:アウトサイド

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「むしろ、うつしてください」

――松実玄・新子憧「体型」

 

「松実旅館の朝はやることがいっぱいなのです。ということで、まずはお掃除から始めようか」フンスー

 

「玄関の掃き掃除ですか。秋の季節は落ち葉が出てきて大変そうですね」

 

「うん、玄関は家の顔っていうからね。朝早くからお掃除するんだよ。特に昨日はちょっと風が強かったせいか、いっぱい落ち葉があるので、一緒に頑張りましょう!」

 

「はい、玄さん!」

 

「お仕事は丁寧に!」

 

「しかし、迅速に!」

 

「「全ては焼き芋を作るため!」」

 

「掃き掃除じゃなかったの!?」

 

「あっ、憧ちゃんだー」

 

「どうしたんだ、こんなに朝早くから?」

 

「別に……ちょっとしたジョギングみたいなもんよ」

 

「ジョギング?」

 

「あー、確か憧ちゃん、最近お腹周りが気になってるって言ってたから……」

 

「って、玄!? なんで、そういうこと言っちゃうの! 仕方ないじゃない、食欲の秋なんだから!」

 

「俺からしてみると、お前はもう少しくらい食べても平気な気がするんだが……」

 

「男子のあんたには分かんないでしょうけど、年頃の女子は体重が五百グラム増えただけで、床に沈むような絶望感を味わうのよ……言っとくけど、これ比喩じゃなくてマジだから。少なくともあたしに関してはね!」

 

「五百グラムぐらい成長期の誤差の範囲だろう? 別に今の体重がベストって決まったわけでもないし」

 

「京太郎くんは甘いのです。そういう気のゆるみが、憧ちゃんの贅肉となっていくんだよ」

 

「……ねぇ、玄? さっきといい、あんた喧嘩売ってるんじゃないでしょうね?」

 

「そんなことはないですのだ。私は応援してるよ、目指せ体重四――――」

 

「男子の前で目標体重まで口にする奴があるかぁぁぁー! ぜぇ……ぜぇ……いや、本当にあんた怒るわよ?」

 

「別に私は京太郎くんが作ってくれたお手製プリンを食べられた恨みなんて持ってないよ?」

 

「むー」バチバチ

 

「うー」バチバチ

 

「あーはいはい、玄さんにはまた今度プリンを作ってあげますから。それよりも憧、今日、板長がおいしい安納芋が入ったってこれから焼き芋を作ってくれるらしいけど、どうする?」

 

「あんた、これから痩せようとしてるあたしの前によくもまあ、そんなおいしそうな餌をぶら下げたわね」

 

「いらないのか?」

 

「いるわよ! その代わりあんた、今度でいいからあたしのジョギング付き合いなさい! 食べた分は、倍頑張んないといけないのよ……ていうか、玄? あんたも少し肉付きよくなってきたんじゃない?」

 

「はうあっ!? ち、違うよ! こ、これは……そう! おもちが大きくなったせいだよ!」

 

「それ以上大きくしてどうすんのよ、あんた!? ていうか、なんで大きくなってんのよ!」

 

「ち、違うもん! 京太郎くんだって前見てくれたときに、私のおもちをベストオブおもちって言ってくれたもん! あっ……」

 

「前、見た、ときぃ……?」

 

「おい、待て、落ち着くんだ憧!?」

 

「なるほど、おもちが大きくなったっていうのも、京太郎に揉まれたせいなのね? あんたら、なんやかんやありながらしっぽりずっぽりやることやってるわけね? いいわ、上等だわ。体型維持も重要だけど、おもちを大きくするのも女子にとっては大事よね? ってなわけで京太郎、あたしのも揉みなさい!」

 

「いやいや、本気で冷静になれ! おもちを揉んで大きくなるっていうのはただの……女体の神秘だな」ウン

 

「京太郎くん!?」ガーン

 

「御託はいいから、あたしのもちゃんと大きくしなさい!」

 

「ダメー! 京太郎くんのおもちハンドは私のだよー!」

 

 このあと(仕事を忘れていて)めちゃくちゃ怒られた。

 なお、後日つやつやした二人の少女の姿が見られたとか。

 

 カンッ

 

 

――福路美穂子「耳かき」

 

「はい、ごろーんして」

 

「わーい」ゴローン

 

「ふふっ、そんなに慌てなくても逃げたりしないわよ」

 

「いえいえ、福路さんの膝には追いかけたくなる魔力があるんですよ」

 

「まあ、本当?」クスクス

 

「ええ、俺が知る限り最高のお膝です」キリッ

 

「ありがとう。でも、耳かきをするときは暴れたりしないでね?」

 

「もちろんです!」

 

「では……あらあら、思ったよりも綺麗だわ」

 

「あー、音楽をイヤホンとか聞いたりすることもあるので、たまの頻度で掃除してますから」

 

「むー、ちょっと残念」カリカリ

 

「あー、やっぱり耳かきって癒されますねー」

 

「そうね、私も子供のころはよくやってもらってたわ」

 

「あっ、じゃあ今度は俺が耳かきをしましょうか?」

 

「そっ、それはダメ!」

 

「えー、どうしてですか?」

 

「だ、だって、須賀くんに耳の中を見せるなんて……恥ずかしいんだもの」カァーッ

 

「な、なるほど」

 

「その代わり、私が須賀くんの耳かきをいつでもやってあげるからね」ニコッ

 

 このあと(もう片方の耳も)めちゃくちゃ綺麗にしてもらった。

 

 カンッ

 

 

――愛宕絹恵「風邪」

 

「うぅ~、頭痛い」

 

「なら大人しく早退するべきだったんですよ。まったく、無理して部活にも行こうとして……大人しく寝ててください」

 

「そ、そないゆーても……あーダメや。なんかグワングワンする」

 

「結構、重症っぽいですね……とりあえず、冷えピタ貼りますよー」ピタッ

 

「ひぅっ、うーん貼るときのこの感覚には慣れんわー」

 

「まー、身体が熱持ってるときにキンキンに冷えたもの貼りますからね」

 

「そういや、お姉ちゃんは?」

 

「洋榎先輩なら、絹恵なら京太郎がついときゃヘーキヘーキとのことで、今頃部室で麻雀楽しんでんじゃないんですか?」

 

「なんや薄情な話やなー」

 

「ああ見えて心配はしてると思いますよ? ただそれを大っぴらに表現するのが恥ずかしいだけで。ほら、洋榎先輩ってあれで照れ屋なとこありますから」

 

「ほーん、さすがにお姉ちゃんのことはよー理解しとるみたいやな」

 

「洋榎先輩だからってわけじゃないんですけどねー」

 

「私は……」

 

「ん?」

 

「私はお姉ちゃんには麻雀じゃ勝てんし、なんや変に負けた気分やわ」

 

「……」

 

「別に姉妹で劣っとるとかそんなことで僻んだりはせんけど、それでも悔しさはある。そんで、その悔しさが自分にとって大事なもんてのも分かっとる。あれでも私には最高の姉や。でもな、でもな――」ウルウル

 

「絹恵先輩……」

 

「あー、やめややめ。変な話してもーた。所詮、気弱になった病人の戯言や。忘れ」

 

「俺は絹恵先輩のこと、好きですよ」

 

「ハァッ!? いきなりなにゆーてんの! す、すすす好きとか……アホちゃうか!? 京太郎まで熱にやられたんか!」

 

「あーいえ、別に変な意味じゃないですよ? ちゃんと異性として好きってことです」

 

「余計アカンやろ! あー、アカン。頭いとーてよー回らん。なんや? これ、夢なん?」

 

「夢じゃないですよ。気弱になったときに零れた言葉は一種の本音でしょう? さっきも言った通り、別に洋榎先輩だから理解してるとかそういうんじゃないですよ。あなたたち二人が魅力的なだけです」

 

「ハッ、なんや二股かいな?」

 

「そういわれても仕方ありませんね」

 

「ここでそれ認めるんかいな。ここはホンマは私だけが好きとかそうゆーとこやろ?」

 

「すみません、ここで嘘はつけません」

 

「まあ、あんたはそういう奴やけどな……でも、私は本気にしてええんやな?」

 

「はい、本気で受け止めてもらって構いません」

 

「手ぇ……にぎっとって。風邪のせいか、ちょっと弱っとんねん。今日は一緒におってや」

 

「分かりました」

 

「ええんか? お姉ちゃんに怒られるかもしれへんで?」

 

「大丈夫です」

 

「風邪うつすかもしれへんで?」

 

「むしろ、うつしてください」

 

「風邪のうつし方知っとる?」

 

「はい、好きですよ絹恵先輩」チュッ

 

「あーもう、余計熱上がりそうやわ……風邪治ったら覚悟しぃや。これでも愛宕洋榎の妹や。本気になったら止まらんで」

 

「ええ、望むところです!」

 

 このあとめちゃくちゃ看病した。

 

 カンッ


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