しかも今度は戦姫じゃないのがエレン(のちになる可能性あり)
そして叛神の輝剣かぁ……そろそろヤーファ周りが知りたい。
そんなわけで久々の更新です。
本陣に戻ってきた全員は来客用の天幕――――――それでも全員を入れるのは難しいのでヤーファ式のそれでいつも以上に広々とした場所にて会合を行うことにした。
それぐらい……今回のソフィーの急使というのは重いものなのだから。
そんなこんなありつつも自己紹介から入るわけである。
「改めて挨拶させてもらうわ。公国ポリーシャが戦姫『ソフィーヤ・オベルタス』よ。そちらにいるオルガとエレンの同輩。あなたのことはサーシャからも聞いているわ。よろしくねティグルヴルムド・ヴォルン伯爵」
「相変わらずものすごい胸だ。同時にお兄さんの趣味がはっきりする」
「おい。酷い誤解と語弊を招くんじゃない」
腕を組みながら、自分の隣にて半眼でソフィーの胸を睨むオルガを嗜めておく。第一、この幕営の中には多くの男性陣もいるのだから、そういったことを言わないでほしいものである。
「まぁ確かに、リョウは年上の女性に絡まれがちだな。何かと自由にして風来坊な所が、興味湧きつつほっとけないんだろ」
ナイスなフォローありがとう。と言いたくなるティグルの言葉で一旦は鎮火するのだが。
「ヴァレンティナの胸はともかくサーシャの形良い胸にまで食指を伸ばす貴様の色欲っぷりは。ソフィーを手籠めにしたところで変わらん評価だ」
このアマなんつうことを。と言いたくなるエレオノーラの言葉で再着火しつつも、場を収めるためにフィーネが手を叩きながら口を出す。
「はいはい。色々と言いたいことはあるんだろうけれど、まだ自己紹介していない人間もいるんだ。それからだろう?」
忘れていたわけではないが、それでも強烈なまでの個性を発揮する人間の最初の自己紹介で、少しばかり場が流れていた気がする。
視線が一人の男に向けられる。
「そちらの女性の後で、何とも味気ない自己紹介だが冒険商人のダーマードだ。ムオジネルから来たが、予想以上の上客との付き合いになりそうで光栄だよ」
そう少しばかりつっけんどんに言い放つダーマードだが、言いたいことが一つある。
「いい加減、椅子に掛けたらどうだ?」
「客分でそんなことは出来ないな。節度を弁えろというのが『親方』の指南だ」
テントを張る為の支柱の一つに寄り掛かっているようで、実は体重を掛けずにいる男の『技能』に誰もが目を細くする。
しかしながら、客分だからこそそんな所にいさせたくないのだが―――。どうにもダーマードの態度はリョウやティグルの素性を知ってから少し変化したとハンスなどは伝えてくる。
「まぁムオジネルの商売慣習に関してあまり言いたくないから、お前がそれでいいならいいけど……俺としては楽にしてほしいよ」
「―――悪いなウルス。俺なりのケジメの付け方なんだ。勘弁してくれ」
手で申し訳なさそうに謝罪をするダーマードの言う『ケジメ』。
何とも『不穏当』な言葉を聞いて、リョウはダーマードに今度こそ疑念を抱く。抱くも、今のところそれは問題ではない。
最大の問題とはソフィーが見聞きして持ってきたものと現在、迫りつつあるものに対してのことだ。
「それでソフィーヤ殿。あなたは何故ここに来られたのだ? 道中、少しばかり聞き及んだが、王宮と最近接触したとか―――」
「そうね……。まずはそれからよね。ではヴォルン伯爵、エレン。一先ず私がブリューヌ王宮で頂いたご返答を伝えさせていただくわ」
そうして外交上の機密とも言えることが伝えられる。前々から様々な調整を施していたとはいえ、遠征軍―――即ち、エレオノーラのライトメリッツ軍が現在、この地にいつことに関して、ブリューヌ王宮は、以下のような返答をしてきた。
「『そちらの言い分は誠に勝手にして甚だしく、我らの土地・領民を何だと心得る』だそうよ」
「まぁあの御老体の言い分を素直に伝えれば、そんなことにもなろうな。けれど私の―――戦姫の身分と言うものがどういうものかは伝えてくれたんだろ。ソフィー?」
ジスタート王も、色々と釈明の文を書いてくれたのだろうが、それが『王』の元に届かなければ意味はないだろう。
「とりあえず言っておいたわよ。『戦姫の好みはそれぞれ。白銀の戦姫、未蕾の戦姫、共に紅髪の色子のために戦うなり』とね」
言葉に対して、飲んでいた林檎水を吹き出しそうになるエレオノーラ。
その通り。とばかりに無い胸を張りだすオルガ。
両者の対応を受けて―――ティグルとしては、何なんだこの状況は?と言いたくなるが、数名(リム、ティッタ)を除いて誰もがにやつきながらティグルを見てくる。
咳払いをして、ソフィーヤに続きを要求する。ティグルが聞きたいのは王宮が自分をどう見ているかということだったからだ。
「それに対しては返事を頂けなかったけれど、あなたの王宮に対する応対を伝えるわ―――」
「話をする前に、ちょっと待ってくれ。俺がここに居ていいのか? 一応、商売でこちらに赴いたとはいえ、そんな大事を聞かされていいのかよ?」
明らかに外国人が聞いてしまっては、暗殺者あたりでも差し向けられそうな言葉の羅列に流石にダーマードも黙っていられなかった。
緊張感が足りないわけではない。
外で見た兵達も練度もあり、教育もしっかりしていた。そんな戦士たちでなければテナルディエ公爵軍、ガヌロン公爵軍と立て続けに打ち破れまい。
如何に、一騎当千の自由騎士がいたとしても最後に戦の趨勢を決めるのは『雑兵の練度と士気』なのだから。
多分にムオジネルの考えが入っていたとしても大勢においては何処でも通じる理屈を思い出し言いつつ、『ウルス』にこれ以上不義理を犯したくない心情を吐露した想いだ。
しかし、ウルス=ティグルは変わらなかった。
「俺はお前に信用ある相手であるかを明かさずに、商売をしようとしたんだ。その不義理の代償だと思ってくれ」
「けれどよ」
「第一、これで深刻なことを言われたならばお前もこれ以上、取引したいと思わなくなるかもしれない」
居佇まいを正しながら、ソフィーヤの言葉を待つ姿勢を取るティグル。
それを見たソフィーヤとダーマードはいずれは一大の『巨人』『巨竜』にもなれるのではないかと思うほどに、威を感じた。
(リョウが惚れこむ理由も分かるわね。同時に彼の成長を促しているのもリョウなのだわ)
サーシャから聞いた人物像と少し合致しないものを感じていたが、それはここに来るまでのティグルの成長を自分が知らなかったからだろう。
ならば、今からいう事を聞いたとしても、絶望しないのではないかと思い、ソフィーも威を正してティグルに告げた―――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「予想外に落ち込んだわね……見込み違いだったかしら?」
「それはしょうがないだろ。あそこまで滅多くそに王宮から返事を頂いたならばさ」
既に夜になってしまった竜星軍の幕舎の一つにてソフィーと会話をしながら、リョウはソフィーの手元にあるお猪口に酒を注ぐ。
透明な水のような酒を十分に注いでから、再会の挨拶としてお猪口どうしを打ち鳴らす。
「あいつとて、まさかテナルディエ公爵の暴虐を何もかも見逃して、そんな沙汰を降すなんて思っていなかったんだろ」
「私も予想外だったわ。王都ニースでの噂とてテナルディエ公爵にこそ咎があるとしていたのに……商人ムオネンツォの故事にしても、やり過ぎよ」
ソフィーが面会を果たすことが出来たというボードワン宰相の対応はリョウとしても予想外であった。
自分がいる所こそが、「求めた宿星」の場所だとしておいたというのに……。
やはりレギンを探し出せということなのだろうか……不確かなままでは何も言えまい。
だが『反逆者』という立場であっても、どこまでやるのか、だ。
「恐らくだけど、巷間の印象を下げてでも、今のところ王宮は両公爵との間に不和をもたらしたくないのよ。『二国』とやりあうにはどうしても両公爵の協力が必要だから」
「ザクスタンも動くか―――厄介だな」
リョウの予測を外す形となったのは、まさかそちら側もやってくるとは思っていなかったからだ。
ザクスタンの狙いならば、エリオットとやりあっているだろうアスヴァ―ルを狙うと思っていたのだが……。
「だが、予想外というわけではないな。騎士団の動向からも、本意ではない旨は感じる」
「あなたらしいわね。ティグルヴルムド卿に伝えてあげればいいじゃない。そういった諸々全てを」
「最近、あいつは甘い場面ばかりだったからな。そしてどっかで「自由騎士」を頼りにしている節もあった……だからまぁ久々の『選定の試練』だな」
そんな返答に苦笑と共に清酒を煽るソフィー。上から目線で何を言っているんだという想いと、そこまで言うからには彼はやはりブリューヌの次期リーダーとなる器なのだろう。
それを知りながらも答えを渡さないのは、ある程度の苦難も状況によっては必要ということだ。
「ただ、俺だって郷里で『朝廷』から『朝敵』として認定されたらば落ち込むどころじゃなくなるからな……気持ちは分かるんだ」
和紗に対する調略が通じず自分に対して敵対をした『凛』の恐るべき策略の前に、自分もティグルと同じ立場にされた時があった。
咲耶とて苦渋の決断だったのだろうが、それでも出さなければ、あの時の凛は咲耶をも殺しかねない勢いを持っていた。
結局の所、最終的に『朝倉家』は滅亡。凛は―――『真柄』を討取った自分の国に来ることを許さず自害をした。
嫌な記憶を思い出す。誰もが狂っていた時代。それを終わらせるには流れる血として必要だったとしても……。嫌な記憶だ。
「けれども、そういう時にこそ―――『己』だけで抱え込むべきじゃないんだよな。己の周りを見るべきなんだ」
「―――そうね―――」
言葉を皮切りに幕営の外に出て、光の勾玉とソフィーの竜具による『光の屈折』を利用してティグルの居場所を遠隔で見ていると、オルガを皮切りに、あの幕営内で絶望的なまでに「反逆者」として扱われたティグルを励ましている様子。
声こそ聞こえないが、それでも―――多くの人間から何かを言われるティグルが段々と持ち直していくのが分かる。
(俺もあんな感じだったんだろうなぁ)
和紗を―――魔王の気を持つものこそが、この『狂』の時代を終わらせる旗手となると感じていた。
正しいことをしていたとしても、それでも誰もが自分に味方してくれるわけではない。
そんな中でも信じて、信頼した人間たちが居れば―――。男は再び立ち上がれる。
『他の誰が何と言おうと、いまさら迷うものか。私はお前を信じる―――ティグルヴルムド・ヴォルンという戦士であり男を信じて戦う!』
こういう時に無駄な『スカウト的』技能が役に立ち、エレオノーラがティグルに放った言葉を唇の動きで理解してしまった。
それを伝えると、ソフィーも笑みを浮かべて、見込み違いとするには尚早であったと考えを改めた。
「となれば、やることは一つね。リョウ、ジェラール卿と考えていたことを伝えに行くわよ」
「うん。それは分かったが……何で首に手を回す?」
最後の『出時』を見極めたかのように向こうへと行くことを決意したのだが、何故かソフィーは自分の首に手を回してきた。
「あら? サーシャやヴァレンティナにやったみたいに姫抱きして『御稜威』で、あちらに飛んでいくんじゃないの?」
「いや別に、それをやらなくてもいいんじゃないかな。むしろそんな気取った登場したくないんだけど」
魅惑の肢体を押し付けて蠱惑的な笑みを浮かべるソフィーに正直、男として立つものよりも、げんなりした想いが強いのは、あまりにもわざとらし過ぎるからだ。
誰かに似ているな……と思った時に出てきたのは、アスヴァ―ルの女のことである。
要するにソフィーは、ギネヴィアに似ているから俺は苦手なのだろう。
ただギネヴィアと違うのは、そういった男女の関係的なものに進めようという気持ちを感じない。
だから、まだ付き合ってられる。
そういうことだ。
「むぅ。わたくしのような美女にここまでされて、ため息一つとは、手強すぎないからしら」
「狙いをティグルに変えたらどうだ? あいつの『守備範囲』は、下はオルガから上はエレオノーラまでだし」
「残念ながら一度狙った標的は、獲るまで逃がさないのがわたくしの流儀よ」
ソフィーの目が光ったかのように見えて、心中で「こわっ」とだけ言いながら、やむなく御稜威を唱えて姫抱きした光華の耀姫と共にティグルの下へと飛び込む。